おんさま日記 onsama

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デフレータ (転載、20041127)



2004年11月25日

先日、前期比+0.3%と発表された実質GDP成長率が、たった1週間で前期比マイナスと修正へ。日本景気って、じつはそんなに悪かったの?マイナス修正の実態っていったいどういうことなの?




11月19日の朝。新聞各紙をパラパラと眺めていたら、ほぼ全紙が一面で

2004年7-9月期の実質GDP成長率がマイナスへ!!
という見出し。仕事柄、経済に関するマスコミ記事を真剣に読むことはないが、それでも今回の見出しにはややあきれた。普通の方なら、こんな見出しを読んだら「ああ日本景気はじつは悪かったのだね」と思ってしまうだろう。しかし実のところ、それは間違った認識である。

GDP統計は、とりあえず入手可能な経済指標のみで推計する1次速報値のほか、その後に発表される経済指標も加味して再推計する2次速報値、そして年に1度しか発表されない経済指標も加味して再々推計する確報値、と何度も更新される。11月12日に発表された2004年7-9月期のGDPは1次速報値なので、19日の新聞見出しだけで判断すると、見出しの内容は、あたかも2次速報値でGDPが下方修正されたかのように思えてしまう。しかし2次速報値の発表予定日は12月8日。そうなると19日の見出しは一体なんなのか?当然だが1.5次速報値ができたわけではない。

今回のGDP成長率の修正は、通常実施される統計の見直しによるものではなく、GDP統計に示されている「デフレータ」の推計方法が変更されたために生じたものだ。デフレータとは、前回コラム「経済成長率ってほんとにさがってる?」でご紹介した名目値と実質値を橋渡しするもの。大まかに言えば物価を表す指標であり、名目値、実質値、デフレータの間には下式のような関係がある。

実質値=名目値÷デフレータ
これまでデフレータは、ある年を基準に算出する「固定基準方式」で算出されていた。例えば、日本の場合、1995年を基準年とし、各商品・サービスの価格ウエイトを基準年で固定したままデフレータを算出していた。よって1995年に価格が高かったもの(例:高性能のパソコン)は、1995年に価格が低かったもの(例:輸入コーラ)に比べて、デフレータに与える影響度が高くなる。

しかし、1995年に価格が高かったパソコンやインターネット接続料は、その後、ものすごいスピードで価格が低下した。上述したように、1995年に価格が高かったものは、デフレータに対する影響度が高いため、パソコン価格が急低下すればするほど、デフレータも下落幅が大きくなる。これをデフレータの下方バイアスと称する。

デフレータの下落幅が大きいということは、

実質値(↑)=名目値÷デフレータ(↓)

という関係から考えても分かるとおり、名目値が変化しなくても、実質値の上昇幅が大きくなることを意味する。

このため以前から、実質GDP成長率は実態よりも高めに出ているという批判が出ていた。例えば1991年度以降の実質GDP成長率を見ると、2003年度の成長率は、ITバブルと称された2000年度を上回り、消費税率引き上げ前の1996年度に次ぐ成長率となっている。常識的に考えれば、2003年度の成長率がITバブル時より高いとは考えにくいし、ましてや消費税率が引き上げられる頃に次ぐ好景気だったとも考えにくい。つまり2003年度の実質GDP成長率は「高め」に算出されていたと思えてしまう。

そこで内閣府は、こうした批判に対応する意味も含め、デフレータの算出方式を「固定基準方式」から「連鎖方式」に変更することを決定した。連鎖方式とは、デフレータの基準年を固定することなく毎年更新する方式のこと。こうすれば、たとえパソコン価格が急低下しても、翌年にはパソコンの影響度が低くなるので、デフレータの下方バイアスはさほど大きく現れないことになる。

新方式採用によってデフレータの下落幅が小さくなると、旧方式の時とは逆に、実質値の上昇幅も小さくなる。今回の変更で実質GDP成長率が低下したのは、GDPを時価で評価した名目値が変化したためではなく、物価を表すデフレータが上方修正されたため、ということになる。

ただ、我々投資家が注目する企業業績、家計の購買行動、貿易収支・経常収支、といった経済活動のほとんどは、名目値(時価)であって、物価変動の効果を差し引いた実質値ではない。今回の変更では、デフレータが変更されただけで、名目値はまったく変更されていないから、今回の変更を持って「日本の景気はじつは悪かった」というような解釈は、じつは正しくない。

そもそもマスコミ各社は、実質GDP成長率が(デフレータのために)高めに出ていた時、「実質GDPが実態経済に比べ上方に乖離している」と非難めいた形で指摘していた。もし彼らが本気でそう思っているなら、今回の変更措置で実質GDP成長率が低下したことを、彼らは歓迎すべきである。

しかし19日の新聞見出しを読めば分かるとおり、彼らは今回のデフレータ変更による成長率の低下を由々しき事態かのように報道している。いつもいつも本コラムで書いていることだが、我々投資家は、ポリシーもなくその場その場の状況で口調を変えるマスコミ報道に躍らされることなく、淡々と投資活動に専念するのがよさそうだ。


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