ラインの黄金仮面 Weekly

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ズルガ:『真珠とり』ビゼー作曲



 『真珠とり』は結構マイナーな作品。あの『カルメン』のビゼーの手による初期の作品です。オペラの舞台としては珍しいセイロン島の漁師の村が舞台のエキゾチックな面持ちがあります。私には『カルメン』の非常にポピュラーなメロディックな印象からすると、この作品はカルメンほどインパクトの強い作品にはなっていない気がしますが、この作品の中の1曲が“真珠とりのタンゴ”という、ポピュラー音楽になったりしているので、随所に耳に心地良い曲がちりばめられております。

 私がこの時歌い演じたのはズルガという役。村の長に選ばれた、皆から人望の厚い人物。この村へ以前友人だったが、恋の争いで仲たがいしたナディールが村へ戻ってきます。心の広いズルガは彼と仲直り。そこへ、漁の無事を祈るために巫女がやってきます。これが問題に!

 巫女は実はズルガとナディールが争った女性、レイラだったのです。巫女は決して男と情けを交わしてはならないきまりだったのですが、巫女がレイラだと知ったナディールは彼女と密会し結ばれます。それを村人達に見つかります。村の長ズルガは彼らを許しますが、巫女がレイラと知った瞬間、激怒し二人に死刑を命じます。

 友情か愛か悩むズルガ。しかし、ズルガが盗人(!)として追われていたとき、匿ってくれた少女がレイラであった事を知り、処刑の日に村に火をつけ人々が散り散りのうちに二人を逃がしてしまいます。その事を知られたズルガは、村人によって殺されてしまいます・・。

 そんな感じの、とっ~ってもいいオトコで優しい男がズルガ。まるで私のためにあるような役柄ではありませんか!えっ、バカも休みや休み言え?そうですね・・。

 で・は・  休み・・  や ・ すみ・・・

 スベりましたねっ(すみません)。

 私はどちらかというと悪役が好きですし、オペラのサークルでは自他共に認める“パートは悪役系”バリトンなだけに、この非常に美しい二重唱や切ないアリアを要するこの役柄を私が歌い演じきることができるかどうか、私も関係者も不安でした。

 しかし、今回ばかりは、“不安”などと言っていられない切羽詰まった事情があったのです。

 実はこの役、私の歌う役ではありませんでした。私はもともと、この舞台には諸事情あり、のる予定ではありませんでした。うちのかみさんがレイラを歌う事になっていたので、客席で見られればいいか、そう、思っていたのです。この役は団外からプロの方に依頼して歌ってもらうことになっていたのです。もちろんプロの方ですから、私なんかよりぜんぜん素敵な歌を歌うのだそうです(あたりまえですが・・)。団の指導者からも“黄金仮面(私の仮名ってことでおねげぇしますだ・・)にも是非聞かせてやりたい”とよく言われたものです。でも、この方、なかなか練習にお見えにならない・・。で、何回かの合宿にすら顔も出さない。まぁ、でもプロだから、と思っているうちに公演も3ヶ月前を切って更に関係者を不安にさせたころ、

 「今回の舞台は降りたい」と、キャンセルの申し出があったそうです。

 私は妻と四国へ旅行中でした。屋島の山を登りながら『真珠とり』の曲を歌いながらかみさんをからかっていました。(『真珠とり』はうちに10枚近くCDがあり、聞いていたので、多少耳には残っていましたから・・)で、山登りでへたへたになって寝ていた夜、団の主宰Yagiさんから連絡が・・。

 「お前にどうしてもお願いしたいことがある。断ってもいいけど、助けると思って・・。」

 んっ!?なんじゃらほい?合唱にでも追加で出ろとでもっ・それとも荷物運び?と思っていただけに「ズルガやれ!」といわれて仰天しました。翌日「やります」と返事。それから、約1ヶ月ですべて仕上げました・・。

 ひゃぁ、もう、大変でした。もともとこう、フランスものって見るのも聞くのも、もちろん歌うのも得意ではありません。歌詞は卓越した訳詩なので、問題ありませんが、なんかフニャッとしたフランス音楽独特の音形が苦手で、なかなかしっくり曲が体に入ってこない・・。おまけに、期限が迫っているからあせりも出る・・。歌に芝居にやることはたくさん・・。

 でも、気持ちの上で逆にある意味吹っ切れたところもありました。“もともと僕の予定でないんだし、失敗したときは失敗したとき、楽しまなくてどうする”と、気負うのを止めてみました。
 また、CDをかみさんが聞いているときに一緒に聞いていたこと、かみさんが楽譜を見やすいように作ってくれたこと、演技は稽古のときにプロの方のアンダーで立っていたKinoppiさんの演じていたビデオがあったので、それを見て何とか助かった感じです。

 あと、この役は私にとって、歌的には転機になった作品でもあります。ある練習のときの声の出し方について、それまで悩んでいたことが、かなり自分の中でしっくり感じることができたのです。う~ん、言葉にするのは下手なので、あえてしませんが、ほんと、ちょっとしたキッカケで・・。だから、皆からもかみさんからもこの作品以降「黄金仮面の歌、なんかすっごく変わったよ」と、褒められるようになりました。

 たださすがに芝居は硬かったのか、私のファンと言っていただいているkomiちゃんのお母様いわく「今回は芝居が固かったわねぇ」とのこと・・。う~ん、いろいろな点でまだまだなんですね。

 あと、この団ではかみさんとガチンコ勝負で歌ったはじめての舞台だったので、それも記念に残るものでした。うちのかみさんは、ちょっと問題ありの扱いをされたのもあり、この公演は思い出すのも嫌みたいですが・・。

★  ビゼー:歌劇「真珠採り」全曲
(安定したクリュイタンス指揮の『真珠とり』の定番)


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