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映像四郎の百人斬り
「地下鉄A子」編
地下鉄A子(仮称)は、私の二年越しの親友です。
彼女は、とある事情で、心を病んでしまっています。
半年前、彼女は、地下鉄に飛び込もうとしました。
私は、必死に、押さえましたが、彼女は、何の迷いもなく、
力強く飛び込もうとします。
なんとか、事なきを得て、タクシーに乗せて、無理やり帰しましたが、
今回、飲むにあたり、私は、緊張のあまり、
お腹が、少し、いたくなってしまいました。
彼女は、客観的にいって、別に、かわいいわけではありません。
しかし、奇妙なエロオーラを、身にまとわせることができます。
その昔、私は、自分自身が、若干、病んだ時に、
心理学や心理療法の本を読み漁った時期がありました。
待ち合わせまで、あと10分、私は、頭の中をぐるぐる回しながら、
修羅場に陥ることなく、
笑顔で「飲み」を終了するための、方法を模索しました。
キーワードは「転移」。
彼女が、女王として君臨する精神的エロ・ワールドに、
取り込まれてはいけない。「転移」してはいけない。
あくまでも、「ダチはダチである」。
そして、飲みが開始され、ガンガン飲み、話し、
新宿ゴールデン街に移り、それでも、ガンガン飲み、
遂に、臨界点に達したらしき、兆候が、見え始めました。
電池が、切れたように、すっと、力が抜けて、
彼女が、椅子から、床に落ち始めたのです。
そして、マスターに対しては明るく、話しを続けつつも、
話の切れ間、マスターが、酒を作りに席を外した途端に、
私に向かって「死にたい」とつぶやき始めました。
なんとか、終電に間に合おうと、
新宿駅に、向かって二人で、歩き始めましたが、
どうやら、レベル6、緊急事態、スクランブル発生状況です。
彼女は、幼いころ、ある出来事により、トラウマを負い、
多重人格症に、陥りました。
催眠療法によって、人格の一元化を図りましたが、
ふだん飲む薬と、お酒の相乗効果によって、
ある種の、トランス状態に、陥っていきます。
昔、多種の人格たったろうと、思われる、
少し独立した人格様相を呈し始めます。
私の知っているパターンとしては、3つ。
私の顔を知らない死にたがる5歳児の女の子、
男なしでは生きていけないエロの女王様、
そして、全てを破壊し尽す「八百屋お七」
(その昔、江戸を焼き払った情念の女)。
何らかの破壊衝動に、駆られ始めているのは、
声を掛けてくるホストたちに対し、歩き去ったあとで、
「あたし、刺してくる」とつぶやくことで、わかります。
なんとか、終電に、乗せねば、
もしくは、旦那さんに、車で、迎えにきてもらわねば、との想いで、
よちよち歩く彼女を支えながら歩きましたが、
そういうときに限って、彼女は、私を追い払おうとします。
「帰ってよ」
なんて、困ったちゃんなんだ!きみは!と思いつつも、
帰ろうと説得を、試みても、無駄なことは、今までの経験で、わかります。
ここで、話しがこじれると、地下鉄事件のような、
修羅場をむかえてしまいます。
そして、私まで、キレてしまう。
私と彼女は、酒を飲んで、修羅場をむかえることによって、
ストレスを発散させる修羅場トモダチだったのです。
とにかく、ありとあらゆる、言葉や行為によって、
お互いに、傷つけあう。新しいトラウマを作ることで、
過去のトラウマを中和させる、精神的SMプレーフレンドだったのです。
私の、トモダチには、現代のシャーマンのような人が、
ひと握り存在します。私自身、世間の標準的心理規格から、
ズレタ位置に存在する人間ですが、
そのような、トモダチと、話し、話が食い違ってゆくにつれ、
言葉でわかりあうことの不可能性を感じ続けてきました。
異文化コミュニケーション。
同じ日本語という言語を話していても、文化がちがう人はいるのです。
その人の状況を含んだ価値基準や心理状態、
それは、文化といっても、差し支えない。
しかも、どんなに、相手の文化の文法にそって、話してみても、
自分が自分という、相手からの異文化に属しているかぎり、
100%の、理解はありえない。
言葉をつくせばつくすほど、火に油を注いでしまう。
共感ということさえ、言葉では、相手に指し示せない。
しかも、手軽に、烙印されるプチトラウマは、
自分の日常生活に対しても、何らかの、ループを作り出してしまう。
そこで、私は、思い出す「転移するな」。
かといって、彼女をすてて行くわけにもいかない。
結局、異文化コミュニケーションって、なんなんだよ!
自分に対して、問い詰めはじめます。
言葉によって、お互いの立場を、違いとして、認めあえること。
んー、無理だ。
しかし、ここで、俺が、キレては、深層意識下の彼女の思う壷だ。
彼女のワールドに、何らかの形で、心理的に、従属することになってしまう。
そうだ、彼女と同じ心理的地平に立ってはいけない。
共感を示しつつも、「わかる」とういう言葉が、
嘘にしかならないとき、結局は、「場の共有」しかありえないのではないか。
「帰れ、帰れ」という、彼女、地下鉄A子に、対し、
3メートル離れて、他人になりました。
一応、視界に入れつつも、タバコを吸って、通行人として、
彼女の歩調に合わせました。
それでも、彼女は、どうやら、よちよち、歩いてるようです。
ようやく、歌舞伎町前の、新宿駅に向かう横断報道の前に出ました。
地下鉄A子ちゃんは、それでも、フラフラ今にも、倒れそうに、
なんとか、立っています。
前に、立ってるカップルに、なだれ込みそうになりながらも、
ふらふら、立っています。
そして、私にもぶつかってきました。
「あ、すいません」
ちゃんと、通りすがりの第三者であることを、
彼女は、認識しているようです。
そこで、支えると、別に、帰れとも、なんとも、言わなくなり、
ベンチに座り込むと、電車に乗ったと勘違いして、眠りはじめました。
もう寒いです。
ようやく終電が、終わったころ、
地下鉄A子ちゃんは、目を覚まし、
しかも、「私は誰、ここはどこ」状態で、
終電の終わった新宿駅にようやく、降り立つと、
東京駅だと勘違いしてました。
そして、ようやく、丑三つ時に、迎えにきた、旦那さんに、
間接的に受け渡し、彼女は、帰っていきました。
そのころは、酔いも、ようやく抜け、
スタンダード人格である「癒し系」の地下鉄A子ちゃんに戻り、
2年越しで、初の、笑顔での「バイバイ」を迎えました。
自分の中でも、どこかで、コンガラがっていた、あやとりが、
うまく、ほどけたようで、なぜだか、晴れがましい気分になりました。
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