映像四郎の百人斬り

映像四郎の百人斬り

「女装」





 初めて、「女装」したときの、

 あの「快感」はなんだったのだろう。

 「初めて」は、結局、「初めて」なままで、

 一回切りで、終わってしまったのだが。

 AV会社に、勤務していたころ、

 事務方の女性陣が、一斉に、退社するときがあって、

 初めて「ゲイバー」にいった。

 「ママ」は、去勢していても、

 すぐ男だとわかる、わかりやすい「ゲイ」。

 しかし、従業員に、きれいな「女」がいる。

 モデルみたいに、かわいいのだ。

 肌もなめらかそうで、スタイルもいい。

 飲みながら、目は、その人に、釘付けだった。

 「あたしも、男よ」

 え!?

 女性ホルモン。

 声変わりの前から、ホルモン注射を打つと、

 ほとんど、「女」と変わらない「女」ができあがる。

 声も、女だ。

 笑い方も、女だ。

 しぐさも、女だ。

 目の前に、当たり前じゃない人が、当たり前に、

 存在する。

 アルコ-ルも、手伝ってか、

 頭の中の、座標軸が、ぐにゃぐにゃ、歪んでいく。

 「文化=教育」によって、規定されていた「常識」が、

 音もたてずに、破壊されてゆく。

 快感。

 気づくと、私は、

 先輩「緑ちゃん」に、メイクしてもらってる。

 ルージュが、唇をすべる。

 快感。

 徐々に、顔がつくられてゆく。

 アイシャドウ、眉、

 皮膚という皮膚が、色めきたちはじめる。

 長髪のカツラ。

 裸になって、

 「緑ちゃん」に、ワンピースを着せてもらうと、

 気分は、もう女だ。

 きっと、「女装」にではなく、

 「緑ちゃん」に女装させてもらったことが、

 快感だったのだろうが、

 気分は、すでに、

 「あたしは、うつくしい」

 頭のタガが、外れはじめてる。

 そこで、私は、お店の「パシリ」と化した。

 他のお客さんの買い物で、外にでてゆく。

 あとを追い、コンパクトカメラで、

 ドキュメントしてゆく「緑ちゃん」。

 店先で、ゴム製「巨大肉棒」とパシャリ。

 店内で、ゲイグッズに、囲まれてパシャリ。

 店長さんと、パシャリ。

 「2丁目」の「大人のおもちゃ」は、グロい。

 AVには慣れてても、

 「ゲイグッズ」や「ゲイビデオ」は、きつい。

 ちょっと、吐き気が。

 「ゲイタウン」をスカートひるがえして、走り抜ける。

 いつ犯されるか、わかったもんじゃないのだ。

 ここは、ゲイタウン。

 生まれて、初めて、レイプの恐怖に、おののく。

 しかも、寒い。

 外は、真冬だ。

 「緑ちゃん」は、ひいひい笑いながら、

 後ろから、追ってくる。

 冷静に、考えれば、ただの「ゲテモノ」でも、

 原則上、私も、標的になりうるのだ。

 スカートって、きもちいい。

 (注)別に、ゲイに、犯されたいわけではない。

 気づくと、お店の人と間違われ、

 のちに、私を「地下鉄」に引きずりこもうとすることになる

 「地下鉄A子ちゃん」をホストしていた。

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