メキシカン・アメリカンな暮らし

メキシカン・アメリカンな暮らし

鼻競争




朝ご飯を済ませ、午前の手伝いも終えた後、夫と私とお姑ごんの3人で、ティーを飲みながら団欒した。
夫はお姑ごんとスペイン語で会話をし、私とは英語で、、、といつものように口を忙しく動かして喋っている。

そんな夫を眺めては、『私もスペイン語習わなきゃいけないな。』と心の中で呟いていたのだが、偶然か否か、どうやらお姑ごんも同じことを思っていたらしく、『あなたはスペイン語を習得する気はあるの?』とのお姑ごんからの伝言が夫から私にまわってきたのである。


私:『はい、たった今それを考えていたところなんですよ。』

お姑ごん:『あら、そうなの、、。スペイン語は世界でも沢山の人が喋っている言語だから、習得した方がいいわね。』

私:『はい、興味がありますので、是非教えてください!』

お姑ごん:『あら、もちろんよ。』


などと、昨日よりも会話が順調に進み、そのせいか、ティーも一段と美味しく感じたほどである。(会話と言ってもやはり夫を通してなのだが、、、)


すると間もなくすると、また質問がまわってきた。


お姑ごん:『子どもは欲しいの?』

私:『ええ、欲しいです。』

お姑ごん:『早く孫の顔が見たいわねー。』

その時、お姑ごんの顔がぱっと明るくなった。
孫の誕生を楽しみにしている様子のお姑ごんを見て、私も出来れば早く孫の顔を見せたいとその時は素直に思った。

私が子どもが誕生する時のことをいろいろ想像している間にも、夫とお姑ごんの間では何やら会話が進み、ほがらかに笑っていた。
が、お姑ごんは、自分自身の高い鼻を人差し指で強く押し、滑稽な顔を作っているではないか。
『何だろう? 何話しているんだろう?』
スペイン語が分からない私は、とりあえず二人の笑いに合わせて笑っていた。
今振り返ってみると、『側で外国語で話されている時は、その場を取り持つ為や自分が馬鹿と思われないように内容が分からないくせに笑っちゃいけない。』という言葉で自分を批判してやりたいほどの、呆れる行為である。

笑った私に気がついた夫は、私に『何の話してるか分かる?』とにやけた顔で訊いてきた。

私:『勿論、分かる訳ないでしょう。二人に合わせて笑っているだけよ。』

夫:『生まれてくる子どもがどんな顔になるのか話しているんだよ。』

私:『それで、どんな顔になると思ってるの?』

夫:『お母さんが、僕らの子どもはみんな君みたいに鼻ぺチャになるよってさ。』

私:『あ、、、だからお義母さんは鼻を押してたのね、、、。』

まさか私の鼻を笑っていたとは、、、。(ーー;)
しかも、一緒に笑いたいと思って笑った話の内容が私の鼻のことかよ、、、。
私もほんとにお馬鹿である。

「まあ自慢の鼻じゃないけど、ちゃんと目的は果たしているんだからいいじゃないか。」
そう思いつつ、半分いじけた気持ちになりながら、聞かなかったことにしようと思っていたのだが、またお姑ごんが鼻をさっきよりもさらに強く押して、
インスタントぺちゃんこ鼻を披露した時にはさすがにムッとしたのである。

わざわざ指で鼻を押して、視覚で訴えてくるよりも、『鼻が低い』とずばり言われる方がまだマシのように思えるのは私だけだろうか、、、。
しかも、お姑ごんにあだ名までつけられてしまったのである。
その名も、“ラ・チャタ”という、スペイン語で「鼻ぺチャな女」という意味の言葉である。
意味が分からなければ聞こえは可愛いのだが、意味が分かるとなっては、
“ラ・チャタ”という言葉そのものが憎たらしくなってくるほど、、、。


お姑ごんにどう呼ばれるだろうとは思ったことがあるものの、まさか「鼻ぺチャ」と呼ばれることになろうとは思いもしなかったのだが、それからというもの、お姑ごんに嫁として受け入れられるまで、恐らく約3年間ほど、私はずっとその名で呼ばれることになったのである…。




© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: