痴漢

私がまだうら若き20才台の頃、日本の女友達がイタリアに旅行したいと言うので、私は仕事の合間を抜って彼女と観光旅行をした。
何処へ行く為だったのか記憶が残っていないのだが、ローマから電車に乗り、途中乗り換えて目的地へ・・・という手筈であった。
ローマからの電車が例の如く遅延し、乗換駅に到着した時には次の電車の発車時刻が迫っていた。
しかし、発車時刻が着ても次の電車は現れず、駅内放送で遅延を知らせるアナウンス。
私はこの待ち時間一刻も早くトイレに駆け込みたい状態だったのだが、次の電車の事が気になり駅のトイレにも行けず。
何故なら、此処イタリアでは日本のように発車アナウンスも発車ベルも無く、電車は音も無く勝手に(?)ホームを後にするからである。
呑気にトイレに行って、しゃがんで用を足している間に「さようなら~~~!」となる可能性が大だからだ。

昨年の出来事、ローマからフィレンツェへ行く電車がある駅で停車したはいいが、そのまま約1時間半動かなかったことがある。
「電気系統の故障で復旧時間はわかりません」とアナウンスは一応あった。
余りの長時間停止に、イタリア鉄道事情をよく知らない外国人の若者2人、電車に荷物を残したまま駅の売店へ食べ物を買いに行かれた。
私はその様子を車内から見ながら
≪無事戻って来れればいいけど・・・≫と思っていた。
が、その心配は的中し、1時間半停車していたその電車は音も無く発車し始めたのである。
それに気が付いた若者2人は、パニーノを口にくわえコーラを片手に大急ぎで線路をまたいで走ってきた。
しかし、彼らの必死の形相むなしく、一度発車してしまった電車は停止する事無く、彼らの荷物のみ載せてフィレンツェへ直行。

話を元に戻すが
こんな事、日常茶飯事なのを知っている私としては、あそこでトイレへ駆け込む勇気は無かったのだ。
寒空に数十分ホームに居た為、私の膀胱は破裂寸前。
そこに電車が到着。
やった~~~!
私は友人と電車に乗り込み席に着くや否や、即行にトイレへと向かった。
ア~救われた~!と尿道口が少々緩みかけ、トイレのドアに鍵をかけようと手をやったのだが、
ナ~ンと!鍵が壊れているではないか!

イタリアの電車内トイレというのは、便器からドアまでが結構離れている。
しかし、もう1分たりとも待てる状態ではない!
片手でパンティを下ろしつつ、もう一方の手でドアを押さえ・・・
と、そこに一人の男の子(20歳位)が入ってきたのである。
普通なら先客がいる事を知り、「アッ、すいません」とか言って出て行くはず。
が、そいつは無理矢理侵入。

そう!こいつこそイタリア初体験の痴漢であったのだ。
か弱い(?)私は恐怖に怯え・・・

と、そんな訳無いだろ!

私はもう1秒たりとも待てない極限状態に来ているのだ。
痴漢なんぞにひれ伏している場合か!
私はそいつの衿首掴み、トイレの壁にそいつのド頭をぶち付け
「こりゃぁ~!われぇ~!何しとんじゃぁ~~~!」と
今一度そいつのド頭を揺さぶった。
美しく(?)、か弱そうな日本女性を狙ってきた彼としては、この私の猛反撃に恐れをなし
「すいません!すいません!」と何度も呟きながら逃げて行った。

私は半下ろしのパンティを上げ、友人の元へと戻り、興奮のまま痴漢事件を語り、車掌へ報告に行った。
車掌は「痴漢がわざと鍵を壊し用を足している隙に侵入するんです」だと。
この痴漢君は次の駅で下車したが、車掌に「アイツよ~!」と叫んだ時には、またまた電車は音も無く発車し、時既に遅しであった。

友人に「ところで、あなた用は足したの?」と言われるまで、
私はすっかり極限状態の膀胱の事を忘れていたのであった。

※この事件は、あくまで極限状態に起きた出来事で、わたくしの人格を表現するものではありません。 まさしく 火事場の馬鹿力 ということです、念の為!



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