深海魚の空

深海魚の空

シルバー→ワタル






あと数年、早く生まれていれば・・・・、

この人は俺のモノになったのだろうか―――?





「やぁ、シルバー」

穏やかな笑みで手を振るワタルに、小さく手を上げるコトで返事をする。
歩み寄ってくる彼を眩しげに見つめながら、シルバーは口元に小さな笑みを刻んだ。


「元気そうで何よりだよ」
「・・・・あなたも」
「ははっ・・・これでも、結構忙しいんだけど・・・」

草葉に座り、楽しげに笑いながら、ワタルはシルバーのポケモンを撫でてやる。

「君も大分強くなったようだね」
「そうですか?」
「彼がとても喜んでいる。・・・・主人が昔より随分優しくなったって」

見ると、彼の膝の上でニューラが嬉しげに喉を鳴らしている。
照れくささと僅かな嫉妬心で、シルバーは恨めしげにニューラを睨んだ。
そんな彼の本心も知らず、ワタルはクスクスと笑みを溢した。

「でも・・・前より顔つきが優しくなったのは本当だね。男らしくもなってきたし・・・」
「・・・・っっ」

予想以上にワタルの顔が近付いてきて、シルバーの鼓動が跳ね上がる。
しかし、同時に覗いた紅い印のついた彼の首元に、胸が酷く痛んだ。

「・・・・ワタルさん」
「ん?」
「今・・・・幸せですか・・・?」

突然の質問に、ワタルは不思議そうな顔をした。

「幸せって・・・?」
「いいから、答えてください」

ワタルは暫くのあいだ、考えるような素振りを見せ、それから穏やかに微笑んだ。

「幸せ・・・なのかな?昔のように神経をすり減らすようなコトもなくなったし、大分周りに恵まれているからね・・・・」
「・・・・ダイゴさんとか?」
「っっ!なんでそこでアイツの話になるんだいっっ!!?」

怒ったようにも、照れたようにも見える様子で、ワタルが声を荒げる。

「アイツは傍若無人で自意識過剰でカッコつけな傍迷惑な奴で、いつだって俺の手を煩わせて・・・・」

普段の不満をブチまけるかのように、ワタルが拳を握り締める。
けれど、彼が心底嫌だと思っているワケではないコトを、シルバーはよく理解していた。
そして、そのコトは彼にとって痛い事実でもあった。

「本当に・・・どうしようもない男なんだ・・・・」

そう呟く彼の表情には愛しさが滲み出ていて、そんな表情をさせることが出来るダイゴをシルバーは心底憎く感じた。

「君もそう思わないかい?」


・・・・そして、


「・・・・シルバー?」


それが、


「・・・・っ・・どうしたんだいっ?」


同時に酷く羨ましかった―――。


「・・・・・っっ」
「なにか・・・・嫌なコトでも有ったのかい・・・?」

大丈夫、なんでもないから――、
そう言おうとしたが、次々と溢れてくる涙に邪魔されて、上手く言葉を発するコトが出来なかった。




―――好きなんです、
この気持ちを苦しいと感じるくらいに、アナタを愛しているんです・・・。



「シルバー・・・・」
「・・・・・・」

不意に抱き締められた身体が僅かに強張る。
慰めるように頭を撫でる手の温もりは、シルバーの涙腺を余計に刺激した。

「なにが有ったのかは判らないけど・・・辛いんだったら泣いてていいからな?・・・隠していてあげるから・・・・」

この人がポケモンだけでなく、人間の心も分かればいいのに・・・、とシルバーは思った。




そうすれば、彼にも自分の想いが伝わるだろう。
こんなにも、アナタを愛しているのだから・・・・。



抱き締められている胸の中で、いまだけは・・・と、シルバーはワタルに抱きついた―――。







昔から、盗むのは得意だった筈なのに・・・・・、



一番欲しいアナタの心だけ、どうしても手に入れるコトが出来ない・・・。





                   END


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: