深海魚の空

深海魚の空

ミクリ×ダイゴ




駆け落ちごっこをしよう。


今夜一晩だけ、僕等はコイビト同士。





「逃走完了っ♪」


彼が微笑う度に、吐息が白く、暗い雪の空に溶けていく。

それを見つめる自分の頭の中は、冷たい身体とは違って熱っぽくて。


「さぁ、これから何処へ行こう?」

「何処って・・・・・」

「列車に乗って名前も分からないような小さな駅まで?それとも、ヒッチハイクして着いた場所任せっっ?」

「そんな深く考えることではないでしょう?」

「何言ってるんだ、分かってるかい、ミクリ?これは駆け落ちなんだよ?」

「・・・・・・一晩限りのね」


無邪気に彼は微笑う。

手には一晩分の荷物、そして電源の切られた携帯電話。

一晩だけの恋人気分に、一晩限りの逃避行。

当たり前の筈なのに、こんなに胸が疼くのは―――、




「馬鹿だねぇ、ミクリ」

「・・・・は?」

「僕が遊びで「駆け落ちしよう」なんて言い出したと、本気で思っているのかい?」


そう言うと、彼はコートのポケットの中から何かを取り出し、こちらに投げてきた。

それは半端でない金額の書き込まれた通帳と、キラキラ輝く指輪。


「・・・・・これ」

「あははははっっ」

「ダイゴ・・・・どういう・・・・!!?」


楽しげに笑いながら、そのまま雪の積もった地面に仰向けに倒れこむ。

慌てて駆け寄ると、彼は子供のように手足をバタつかせ、嬉しげに叫んだ。


「今から僕の全てはミクリのモノだっ、さぁ、好きにしたまえっっ」


呆れて座り込んだ私の頬に、彼の手が触れる。

それは冷たくて、言い様のない頼りなさげな存在だった。


「・・・・・本気だよ?」

「・・・・ダイゴ」

「ね、キスしてよ、ミクリ」


触れた唇は温かかった。

そのまま抱き締めれば、彼も自分の背中に腕を回してくる。


「・・・・・・逃げよ?」

「・・・・・・」

「逃げようよぉ・・・・ミクリ・・・・」


私は何も答えなかった。

彼の泣きそうな震えた声だけが、雪の中に吸い込まれていった。


「好きだよぉ・・・・愛してるよぉ・・・・ミクリぃ・・・・」


彼の言葉を塞ぐ為に、私はもう一度だけキスをした―――。




一晩限りの逃避行。

結ばれても幸せになれないのなら、

本当に逃げ出して、開放されるなら―――・・・・、






                   End




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