ホドウキョウ

あっちゃんは4歳の女の子です。
ある日、お母さんと、2つ違いのお兄ちゃんと街へ出かけました。
国道と交差する広い道の歩道を歩いていました。
お母さんとお兄ちゃんは手をつないで、何か楽しそうにお話しています。
二人の背中を見ながらあっちゃんは一人ぼっちで歩いています。

  お母さんはあっちゃんのこと忘れちゃったのかな・・・
  やっぱりお母さんはあっちゃんのことが嫌いなんだ・・・
  いいもん、あっちゃんは一人だって、
  お母さんに手をつないでもらわなくたって
  ちゃんとあの道路も渡れるもん。

あっちゃんは一人でも国道が渡れるんだってところを
お母さんとお兄ちゃんに見せてやろうと
少し早足になって、お母さんとお兄ちゃんを追い越そうとしました。
二人に近づくとお兄ちゃんの話が聞こえました。
「お母さん、あれ”ホドウキョウ”っていうんだよね」
お兄ちゃんの指差す方を見ると、道路に橋がかかっています。

  ふーん、あれホドウキョウっていうんだ。

でもそんなことはどうでもいいんです。
あっちゃんは二人より先に国道を渡ることで頭が一杯です。
一人で渡りきったら、きっとお母さんは「あっちゃん凄いね」って誉めてくれる。
なんだかドキドキしてきます。
あっちゃんがお母さんたちを追い越す瞬間、
お母さんとお兄ちゃんはあっちゃんに気づかずにホドウキョウの方に曲がりました。
一人で国道を渡る作戦に夢中になっているあっちゃんは
二人がホドウキョウを渡る為、右へ曲がったことなんて夢にも思っていません

 右を見て、左を見て、もう一度右を見て・・・
  よし!今だ!

あっちゃんは広い国道の向こう岸へ全速力で走りました。

やった!大成功!お母さんとお兄ちゃんは・・・・

得意になって振り返るとそこに二人の姿はありません。

  ・・・・・・?

「あっちゃーーーん!あっちゃーーーん!」
どこかでお母さんが叫んでいます。
声のする方を見上げると、
お母さんとお兄ちゃんはホドウキョウの上、
慌てた様子でこちらに向かって走っています。
咄嗟に、あっちゃんは

  しまった!間違えちゃった。
  ホドウキョウっていうのがある道はそれを渡るんだ!

そして急いで引き返そうとしたあっちゃんの小さな肩を
知らない誰かが押さえつけました。
「離して!離して!」
そう叫びながらあっちゃんはとても悲しくて、悲しくて
大声で泣きじゃくっていました

悲しかったのは”国道単独横断作戦”が実は失敗だったと言う事・・・違う
褒められたくて頑張った事が惨めな結果になってしまった
お母さんから完全に自分の存在を忘れられていたと言う事
”愛されていない”という事実が証明された思い

・・・・・・・ヒトリボッチ・・・・・・・

それからあっちゃんは、同じ夢を何度も見るようになりました。

  駅前のバス停。
  お母さんとお兄ちゃんに続いてあっちゃんもバスに乗り込もうとすると
  あっちゃんだけを残して、扉が閉まってしまいます。
  「開けて!開けてよ!」
  扉を力いっぱい叩きます。
  でも扉は開かず、バスはゆっくり動き出します。
  見上げると扉についてる窓から
  お母さんとお兄ちゃんがとても冷たい目をして
  あっちゃんを黙って見下ろしているのです。

  ・・・・・ヒトリボッチニシナイデ オカアサン・・・・・




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