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ぴかろんの日常
リレー企画 ホ○ト祭 109
RRH コンサートホール 2 ぴかろん
僕は席を探した
ボックス席だ…
指定の番号の席の前に立ち、ふと隣を見た
イナ…
イナが…いる…
随分…おしゃれしている…
イナ…
懐かしい…イナ…
俺は動けなかった
懐かしい香りが漂う
テジュンの香りが…俺のすぐ側にある
テジュンが…
帰ってきた…
俺は…動けなかった
イナは俯いたまま微動だにしない
僕は…逃げ出したくなった
でも逃げちゃいけない
何のためにここに戻ってきたのか…
僕はイナの隣に腰を降ろした
体がギシギシと音を立てているような気がした
テジュンが俺の隣に座った
肩にテジュンの体温を感じる
体を傾ければ、テジュンに触れそうだった
テジュンの香りが俺の鼻腔に広がる…
その香りが俺の涙腺を刺激する
泣いちゃいけない…泣いちゃいけない!
俺は必死で自分に言い聞かせた
震えている
イナが震えているのが解る
僕もまた震えていた
僕は
イナに会うために
ここまで来たんだ…
イナと向き合うために…
僕の全てを見せるために…
僕は震えながらイナの方に手を伸ばした
そしてイナの左手を掴んだ
瞬間イナはビクリとした
テジュンの手のぬくもりを感じる
ずっと待っていた手だ
ずっと待っていた男だ
帰ってきた…
ここに帰ってきた…
怖い…怖い…何を言われるのか怖い…
涙を堪えていると、演奏が始まった
テジュンが小さな声で「ごめん、イナ」と言うのが聞こえた
音楽など耳に入らなかった
俺の目からは滝のように涙が溢れ、口を押さえても、俺の嗚咽はひどく漏れていただろう…
幸いボックス席には俺達だけだったから俺の嗚咽はさほど迷惑にはなってなかったようだ…
テジュンは、震えて泣き続ける俺の頭を引き寄せ、自分の肩に乗せさせた
いやだった…テジュンの肩で泣きたくなかった
笑顔で迎えたかったのに…
気持ちをなんとか立て直したのに
できねぇよ、スヒョン…
俺、弱すぎるよ…
お前があんなに…あんなに俺のこと気にかけてくれたのに…
俺もやっとテジュンの何に惚れてたかってわかったのに…
スヒョン…
このザマだよ…
…テジュンの香りが俺を包み込む
懐かしくて温かくて優しくて
俺の大好きな香りが…
テジュンに肩を抱かれて頭を撫でてもらっているうちに
俺は少しだけ気持ちが落ち着いてきた
帰ってきてくれたんだ
戻ってきてくれたんだ
やがて俺の耳は音楽を捉え、その美しい旋律に酔いしれた
これは夢なのかもしれない
愛する人と寄り添いながら音楽を聴くなんて
俺の現実には無縁のことなんだから…
テジュンは何も言わなかった
ただ俺の頭を撫でて、俺の手を握り締めていた…
ボックス席で俯いていると突然全身がざわめいた
あいつが近くにいる
あいつの香りがする…
俺は顔を上げられなかった
すぐ側にいる…
横に立っている
「ラブ…」
ああ
あいつの声だ…
聞きたくて仕方なかったあいつの…
俺の目から涙が溢れる
あいつは震える腕で俺を抱きしめた
そして俺の顔を上げて瞳を覗き込んだ
あいつの目にも涙が溢れていた
その顔を見た瞬間、俺はしゃくり上げて泣いた
会いたかった…会いたくて仕方なかった…
俺達は何も言わずに抱き合って泣いた
演奏が始まっていた…
ミンチョルさんが僕にロビーで渡したチケット
僕だけ彼らと別の席?
…まさか…
もしかして…そこに…
僕の心臓は大きく音を立てて鳴り響く
きっとラブがそこに来る…
どうしよう…
どうしたらいいんだろう…
僕は、天からの贈り物のスーツと時計に手をやって
この品物にふさわしい男になりたいと
改めて思った
でも…
どうしよう…
どうしたらいいんだろう…
会場を一歩一歩進みながら、僕の頭の中はがらんどうになっていった
指定席に目をやると
僕の待っていた宝物が頭を垂れてそこにいた
僕の足は言う事を聞かない
スーツと時計で昂揚させたはずの気分も
どこかへ散ってしまっている
僕は
震えながらその宝物に近づく
一歩一歩近づく
宝物の横に立ち、その大切な名前を口にした
宝物は肩を震わせている
辛い思いをさせた
辛い思いをしてきたのだろう…
ごめんね…ごめん…
「ラブ…」
愛しい名前を囁いて僕は、ガラス細工のようなその顔を上げ、覗き込んだ
ラブの顔が霞んでしまう
僕の涙のせいで…
ラブの瞳から大粒の涙が零れ出て
子供のようにしゃくりあげた
僕は思わず彼を抱きしめた
何も言わず抱きしめた
コンサート会場へ れいんさん
僕はスハとコンサート会場に向かう準備をしていた
スハはなんだか浮かない顔をしている
「どうしたんだ、浮かない顔して」
「テジンさん…」
「ねえ…ひょっとしてまだ髪型の事気にしてるの?」
「だって…なんだか僕らしくないでしょ」
「そんな事ないと思うけど…」
「僕…きちんと定規を当てた様な真っすぐな前髪じゃないと落ち着かないんです」
「どんなスハも僕は好きだけど…今のも凄く似合っているよ
いつもと違うスハを見たら、今夜の僕…どうなっちゃうか自信ないな」
「やだな、テジンさん」
恥ずかしそうに前髪を指で弄びながら俯くスハが可愛くて、僕はスハにふわりとキスをした
「テジンさん、仕事中はダメだって…」
「本日の営業はもう終わり…だから…」
僕は体を捩って僕の手から逃れようとするスハを抱き寄せて、その唇を素早く捉えた
そして、観念した様に僕に身を任せたスハに
「これが済んだら会場に行くから…」
そう囁いて僕はさっきよりも深い口づけをした
僕とスヒョクはコンサート会場に着いた
「なあ、スヒョク…今夜は泊まりに来るか?」
「ん…どうしようかな…」
「来いよ、な?今夜こそ僕のマグナムちゃんがおまえとマグワりたいって泣いてるぞ。…なんちって」
「ソクさん…」
「ん?何?」
「サムイし、ちょっと苦しいです」
「あ…そう…」
そんな事を話していると向こうの方からヨンナムさんがニコニコと近づいて来た
「ソクさん、今日は僕の代わりに会合に出席して頂いてありがとうございました」
「あ、いえ、こちらこそコンサートに出席して頂いて助かります」
「で、会合は何事もなく無事に終わったんでしょうか?」
「えっと…ええ、まあ…喜んで頂けた様です」
「僕じゃないって事、気づかれませんでしたか?」
「えっ?あの…その…先の長い方々には気づかれなかったと思います」
多分僕の目は落ち着きなく泳いでいたのだろう
隣にいたスヒョクにぎゅっと手を握られた
「そうですか、よかったです。…で、どの様なテーマの会合を?」
「テ、テーマ?それはですね…その…簡単に言うと、つまり…人類愛…といったところでしょうか」
「ほお!素晴らしいテーマです。さすがはソクさんですね」
「いえ、それ程でも…コホン。な?スヒョク」
「え?ええ、まあ…」
「それを聞いて安心しました。じゃ、また、コンサートの後に…
スヒョク君、よかったらまた泊まりに来て下さい。
僕の家なら淫らな行為はできないから、スヒョク君も安心でしょう?」
「「いっ!」」
「あ、それからソクさん、老人会のご長老がまた次回の会合も、僕のそっくりさんにお願いしたいとおっしゃってましたよ」
「「ええっ!」」
聞いてるんじゃん!
ヨンナムさんは悪戯っぽく言った後、またいつもの爽やかな笑顔に戻り会場へと消えていった
ぼくとそにょんさんは、こんさーとほーるのまえでまちあわせをしていました
ほんとは、かぞくをつれてきてはいけなかったのかもしれません
でもぼくは、いままでそういうところにそにょんさんをつれていってあげたことがなかったので、
どうしてもこんさーとにつれていきたかったのです
けっこんするまえのぼくさーじだいは、とてもびんぼうだったので
しょっぴんぐやえいがなど、ふつうのこいびとどうしがするでーとみたいなことは
ほとんどしたことがありません
けっこんごはこどもたちがいつもいっしょで…ぼくたちふたりきりのでーとってあまりありませんでした
「ジュンホさん、待った?」
「あ、そにょんさん、いまきたところです」
「今日はアボジに子供達を預けて来たから二人きりのデートを楽しめるわ」
「そうですか。それはよかったです。こどもたちにはなにかおみやげをかってかえりましょう」
「そうね、ジュンホさんって本当に優しいわ…チュッ」
「あ、そにょんさん、こんなところで…」
「あ、ごめんなさい、ジュンホさん。昨日の余韻がまだ残っていて、つい…」
「そにょんさん、またこんなところで、そんなことを…
でも、きいてもいいですか?その…きのうのそにょんさんのはんていはどうでしたか?」
「やだ、ジュンホさん。…いつも3ラウンド以上のKO勝ちって決まっているでしょ」
「えへへ、そうですか。それをきいてあんしんしました
…あ、でも、ちょっときになることがありました
そにょんさん、いいですか?くれぐれもBHCのみんごきょうだいとは、めをあわせてはいけませんよ
かれらとなにかふかいかんけいにあったじょせいに、そにょんさんがそっくりだとうわさしていましたから」
「そうなの?何の事かしら。なんだか不安だわ」
「だいじょうぶです。ぼくがまもりますから。ぼくのそばにずっといるんですよ」
「ええ、そうするわ。私アナスターシャなんて人、知らないもの」
「え?そにょんさん、どうしてそのなまえを?」
「はっ…!なんでもないわ。…ジュンホさん、さあ行きましょう」
なんだかそにょんさんがいっしゅんそわそわしたようにもみえましたが
たぶんぼくのきのせいでしょう
そしてぼくは、さんぐらすとぼうしをつけたそにょんさんと、なかよくかいじょうにはいりました
言葉 オリーさん
お兄さんにチケットを渡した
彼はそのチケットをしばらく見つめていたが
きりっと顔を上げると、会場の中へ消えて行った
「大丈夫かな」
「大丈夫さ」
それでもミンは兄さんの様子を見てくると会場に入って行った
「室長…」
いきなり背後から声がした
「ヨンス…」
「私もコンサートに来たの。お友達に誘われて」
「お友達?」
「ほら、あそこでジュンホさんと奥さんと睨みあってる人。とてもいい人なの」
「いい人がなんでジュンホ達と睨みあってる?」
「さあ、何か事情がおありなんだわ」
「そう…か。ちょうどよかった。連絡しようと思っていたんだ」
「まあ、偶然ね。私もなの」
「勝手言ってすまないが、これからの事をはっきりしておきたいんだ」
「そうね」
「お互いにとって大事な事だからね」
「新しい生活をするためには大事よね」
「そう!そうなんだ、ヨンス」
「私、引っ越したの」
「引っ越した?」
「ええ、マンションを買ったのよ」
「よく資金があったね」
「今まであなたが入れてくれてた生活費と、あとは…ふふ」
「?」
「とにかく新しいマンションだから快適よ」
「まさか、ここじゃないだろうね」
「ここを申し込んだら落とされたの。ソンジェさんも落とされたけど」
「ふーっ」
「ふーって?」
「あ、いや」
「とにかく新しい生活にはぴったりなの」
「よかった。君が新しい暮らしを始めてくれるなら、僕は何も言う事はないよ」
「そう言ってくれると思ったわ」
「当然だろう。できる限りの事はするから」
「だったら早く帰ってきてね」
「え…」
「あなたの書斎もちゃんと用意してあるから」
「え…」
「私達だけの新しい暮らしでしょ」
「新しい生活って…そういう意味?」
「あら、他にあるの?」
「ヨンス…」
「そろそろ、時間だけど」
「ミン…」
「何してるの?彼女と」
「ちょっと、話を」
「話?」
「ふふん、そうよ。室長と新しい生活についてお話してるの」
「…」
「いや、ミン、彼女ちょっと誤解してて」
「やだわ、室長。遠慮しなくていいのよ」
「ヨンス、とにかくきちんと話そう。明日君のところへ行くよ」
「あら、早速帰ってくるのね」
「違うっ!話に行くだけだから。いいね」
「何でもいいわ。とにかく待ってる。私のマンションはここなの」
「う…プルーデンシャルタワーってここができるまで一番だったところじゃないか」
「新しい暮らしにぴったりでしょ」
「その新しい暮らしについて明日ちゃんと話にいくから、いいね」
「待ってるわ」
「じゃ」
「明日ね」
「…」
「ミン?」
「…」
「怒ってるの?」
「…」
「何とか言ってくれ」
「彼女は…」
「彼女は?」
「使っている言語が違う」
「そう思う?」
「まだ言葉の通じない外国人の方がマシだね」
「弟さんとも話ししてるけど、話できてないでしょ」
「う…とにかく、明日話してくるから」
「何だか話せば話すほど、ドツボにはまるような気がする」
「そ、そんなことないさ。きっとわかってくれるよ」
「何だか放っておいた方がいいような気がする」
「でも、早く離婚しろって言ったじゃないか」
「そうだけど…何だかちょっと…」
「とにかく、何とかするから」
「何とかされないように気をつけてね」
「…はい…」
僕は言葉の難しさについて思考しながら、ミンとホールへ向かったのだった
いっそ明日は英語で話そうか
コンサート会場へ2 れいんさん
「店の片付けも終わったから、僕達もそろそろコンサートに行くぞ」
「お?…おお…」
あれからホンピョと僕の間はなんだかぎくしゃくしている
まあ、無理もないか
はずみとはいえ、僕があんな濃厚なキスしたり
ついムキになってボタンはずしショーまがいの事までやっちゃったもんな
僕は控え室で身支度を整え、ロッカーの扉の隙間から、チラチラとホンピョの様子を盗み見た
あいつ…着たきり雀みたいにあのスーツばっかり着てるのな…
「おい、ホンピョ…給料出たらさ服でも買いに行くか?」
「お?…あんでだよ」
「だってさ…おまえ、そればっか着てるじゃん。僕が見立ててやるからさ」
「…ふん、おめえの見立てなんかいらねえよ」
ちっ!可愛くない奴…
「…それからさ、シャツ少しシワになってるぞ。洗濯してアイロンかけといてやるよ」
「…」
「んで、おまえ、コンサートに行くのにノーネクタイはまずくないか?
余分にあるから僕のネクタイ貸してやるよ」
「…おめえのその、ぶっといネクタイなんかいらねえよ」
ちっ!ほんと可愛くない奴!
人がせっかく親切で言ってるのに、憎たらしい事ばっかり言って…
もうこんな奴知らない!
…だけど…
「おい、ホンピョ、俺は先に行くけどさ、おまえ、ちゃんと財布やハンカチ持ったか?」
「お?…ああ…」
「水筒とかは?」
「あんで水筒がいんだよ」
「…そだな…。んじゃ、帽子は?熱中症になったらヤバイぞ」
「あんで、スーツに帽子被るんだよ。それに室内であるんだぞ」
「…そりゃそうだな…」
僕、何言ってんだろ
こいつ見てるとなんかついつい世話焼きたくなるんだよな
「んじゃもう行くぞ。お前、遅れない様にしろよ」
「…ドンヒ」
「なんだよ」
「…なんで俺を置いて行くんだよ…」
え?どうしたんだよ
…ちょっと…胸きゅん…
「なんでって…お前さっきから…その…機嫌悪いしさ。…僕と一緒に行くの嫌なんだろ」
「…誰がンな事言ったんだよ」
「だってさお前…」
「…しゃびしいっ!」
「は?」
「んだからよ、しゃびしいって言ってんだよ」
「…んじゃ、一緒に行くのか?」
「…おお…一緒に行ってやるよ」
…まったく!素直じゃないんだから
でも…またちょっと…きゅん…
そうして僕はホンピョと一緒に…というか
ホンピョが僕の2・3歩後をトボトボついて来る形で会場へと向かった
僕が振り返ると立ち止まり、僕が歩き出すとまたホンピョも歩き出す
そんな風に2・3歩の距離を置く『だるまさんが転んだ』状態で僕達は会場に着いた
僕は手元のチケットの番号を見た
B列の15番目…
「ホンピョ、お前の座席の番号は?…ちょっと見せてみろよ」
僕はホンピョに近づいて、手に持っているチケットを覗き込んだ
「ひいっ!」
ホンピョの「ひいっ!」にもだんだん慣れてきて気にならなくなってきた
「あ、僕の隣の座席だな」
また「ひいっ!」って言うのかと思ったら、ホンピョの奴…
ちょっとホッとした様にニコっとしたんだ…
え…!
…ちょっとキュートかも…
「お前、今ニコっとした?」
「…けっ、んなわけねえだろ。…ぐちゃぐちゃ言ってねえで早く座ろうぜ」
ホンピョは口をへの字にしてずんずんとホールに入った
今…確かにニコっとした様に見えたんだけどな…
でも、座席に座ったホンピョは、相変わらず、肘掛に置いた僕の肘が触れる度にビクっと体を強張らせていた
あ~あ…
コンサート ぴかろん
僕ドンヒです
コンサートが始まる前にヨンナムさんを見つけたので、今日の夜、泊まらせていただけませんか?と丁寧に聞いたのです
するとヨンナムさんは
「ああ、聞いてるよ。是非どうぞ」
とにこやかに答えたのです
聞いてる…とは?
視線を感じて後ろを振り向くと…奴がいたのだ…
野良犬が…
「俺様がよう、兄貴みつけたからよう、頼んどいたんだ。おめぇと二人で泊まらせてって」
「…ほんとにお前も来るの?じゃ、僕は寮に帰ろうかな…」
「あんでだよぉ遠慮すんなよぉ。でな、兄貴に言っといた。俺様が真ん中で寝てな、両側から背中トントンしてくれって」
「…と言う事はお前、うつ伏せで寝るってことだな?」
「ん?いや、兄貴の方向いたりお前の方向いたりしてやっから、大丈夫だよ」
何が大丈夫なんだよっ!もうっ
結局僕はヨンナムさんちでもこの野良犬の世話をしなくちゃいけないらしい…
僕はチケットを持って会場に入っていった
僕の隣は…
「なぁ、俺様、こういうの初めてなんだ。どうすればいい?」
ホンピョだ…
多分そうだろうとは思っていたけどやっぱりそうだった…
スヒョンさんとかヨンナムさんのとなりがよかったのに…
「ガムは噛むな。唾吐くな。演奏中は静かにしてろ。寝るな。喋るな。泣いてもいいけど喚くな」
「泣く?喚く?なんで?」
「音楽に感動して泣く場合がある」
「ふーんへーんほーん。そういうのが紳士か?」
「いや、そういうわけではないけれども…」
ああめんどくさい…
「それと演奏中に席を立たないこと。おしっこ先に行ってこい。あ、おしっこしたら手を洗うんだぞ。スーツで拭くな。ちゃんとハンカチか…」
「わぁってるよ!風がぶぉぉぉって出てくるヤツで乾かしゃいいんだろ?」
「…ん…ああ…」
「じゃ、一緒に行こう」
「なんで一緒に!」
「しゃ」
「わかった!行こう」
あーもうっ!
僕達は開演前にトイレに行っておいた
僕チョンマンです
渡米前なので何かと注目されているような気がします
僕の席はポツンと一人です
隣の人は…知っている人です…
もしかしたら将来のお義父さんかもしれません…
そうなりたいです…でも今は怖いです…
そう
僕の隣はスンドン会長です
コンサートが始まりました…
僕はとっても緊張していました
僕は最初に
「チニさんとお付き合いさせていただいておりますチョンマンです…」
と挨拶しました
スンドン会長は
「う~ん」
と鼻から大量の空気を吐きました
後で気づきましたが、ただの鼻息でした怖いよう…
僕とスンドン会長は色々なことを喋りましたが、僕はほとんどスンドン会長のおっしゃることが理解できませんでした
まるで「ジャバザハット」と喋っているような気がしました…
スンドン会長は「ジャバザハット語」で話しかけ、「ジャバザハット語」で笑い、笑ってらっしゃるので僕も笑う…といった具合で、僕は頭が割れそうになりました
でも演奏が始まると「通じる言葉」でお話になり、よかったです…
「チニは映画好きだが、古い映画は知らんのだよ。君はどうかね?この『避暑地の出来事』など知ってるかね」
「申し訳ありません。存じません…」
「う~んそうか…」
やっぱり緊張します
三曲目のチアパネカスの指ならし、手拍子では、会長が指をピシピシ鳴らすたびに何か液体が飛んできて、よく見るとそれは会長の汗だったようです…
健康管理してさしあげたい…
メキシカンメドレーのパフォーマンスに笑い、また古い映画音楽に涙し、表情豊かなジャバザハット…あ、いえ、スンドン会長に、僕は親しみを感じました
二部が始まる前、僕はトイレに行き、外のコーヒーショップを通りかかりました
するとジャバザハット…いえ、スンドン会長が僕を手招きして一緒にパフェを食べようと言うではありませんか…
ぱふぇ?!
こんな短時間で?
お断りすると後々タイヘンかもと思い、喜んで(^^;;)いただきました
出てきたパフェは会長の前に置くとままごとセットのように見え、僕の前に置くと巨大なパフェに見えました
僕は必死で3分の1ほど食べましたが、残りはムリでした
会長は自分の分を一分ほどでたいらげ、僕の分をじいいっと見つめておられました
僕は会長を見て
「すみません、これ以上食べられなくて」
の「食べら」まで言葉を発しました
すると会長は僕の残りのパフェを自分の方に引き寄せ、ものの三十秒でクリアされました
僕は思わず拍手してしまいました…
そして会場に戻り、後半のコンサートを楽しみました
「わしはキミが気に入ったぞ」
と小声で言われ、僕は嬉しくなりました
「じゃがチニが本当にキミを気に入っているのかどうか…う~ん」
と、とても気になる発言と鼻息を吐かれ、僕はちょっとうろたえました
え?チニさん…
僕の事…好きだよねぇドキドキドキ…
そんなこんなで緊張するコンサートは終わり、僕は急いで寮に帰って荷物をまとめなければなりません
チニさん…
僕…大丈夫だよねぇどきどきどき…
再会 ぴかろん
映画音楽中心のコンサートは進む
なんだかどこかで聞いたことのある曲が多かった
指揮者のおっさんは、腹のせり出たおっさんだったけど、かなりの役者で、観客をも引き込んで指揮を続けた
チアパネカスというメキシコの音楽の時、観客に指を鳴らすように指揮をした
俺とテジュンもそれに従い、指をうちならした
その後、手を打つように指揮をし、俺達はまた従った
ラスト一回、と指を立てるおっさんに従って、俺とテジュンは手を打つ準備をした
そして手を打った
一回でよかったのに、俺たちはつい、二回続けて手を打った
「「あ」」
二人で声を上げた
そして顔を見合わせた
見合わせた途端…また涙が溢れた
テジュンも困った顔をした…
困った顔…
その顔がまた俺に涙を流させる…
後の曲はまた耳に入らなくなった
俺は俯き、顔を覆って泣き続けた
どうしていいのか解らない
テジュンの話を聞かなくちゃいけないけど
どうやって聞いていいのかてんで解らない…
テジュンは俺の体を無理矢理起こして、また俺の頭を抱きしめた
「ラブ…帰ってきてくれてありがとう…ありがとう…」
あいつはずっとそう囁いていた
俺は何も言えなかった
ただあいつに抱きしめられていただけだった
俺の犯した罪を知ったら、アンタ、なんて言うだろう…
俺を殴る?
どうする?
オーケストラの演奏は、楽しいのやムーディなのや、いろんな曲をやっていた
不思議なことに、俺はその音楽全部を、とても冷静に聞いていた
休憩時間になったので俺は席を立った
そのままアイツと一緒にいるのは耐えられなかった
立ち上がるとアイツは不安そうに俺を見て言った
「どこ行くの?」
「トイレに行ってくる…」
「ここに!ここに必ず戻ってきてね!」
俺はアイツの瞳を見て、コクンと頷いた
だって…俺はアンタと向き合うために帰ってきたんだからさ…
トイレに行った
用を足して洗面所に行くと…最も会いたくない人がいた…
イナさんだった…
手を洗って鏡を覗き込んだ
俺の顔の後ろに同じ顔が写っている
その顔を見て、俺は凍りついた
ラブだった…
抱かれたんだろうか本当に…
本当に俺が感じた事があったんだろうか…
いいじゃないかそれでも…
それだけの魅力がラブにあったって事だ
今朝、俺はそう思ったんじゃないか…
俺は息を呑んで、思いきってラブに話しかけようとした
鏡の中のラブの顔が歪む
次の瞬間、鏡の中からラブの姿が消えた
ああ…
姿を消したラブは俺に「抱かれたよ」と告げていた
ああ…
何も言えなかった
怖かった
イナさんと出くわすことを考えてなかった…・・
ぼんやりと席に戻るとアイツが微笑んで迎えてくれた
俺は無表情のまま席についた
「どうしたの?ラブ、気分悪い?」
「…イナ…さんに…会った…」
「…イナに…」
「…俺…あの人に…」
そこまで言った時、俺の腹の底から熱い塊が吹き出した
『お前、笑ってろよ』
『笑うと可愛いじゃん…』
イナさんが俺に言ってくれた言葉を思い出す
『いいから続けろ!』
『ごめんな、出しゃばって…』
助けてもらったことを思い出す…
あんないい人を俺は…
傷つけてしまうんだ…
ああ、テジュンに…テジュンに『言わないで』って…
そう言わなきゃ
あの人を傷つけちゃいけない…あの人を…
「イナ、大丈夫だった?」
「…え…」
「何も言ってなかった?」
「…話、しなかったから…」
喉の奥が焼け付くようだった
あいつは俺の頬の涙を拭ってくれた
第二部が始まり、また暫く聞き覚えのある音楽が演奏された
ラブの顔が歪んでから、俺はどうやって席まで辿り着いたのか解らなかった
気がつくとテジュンの香りが漂っていた
がくんと席に座ると、テジュンが俺の方を見た
「…どうしたの?…」
「…ラブ…ラブに…会ったよ…」
「…そう…」
「…そう…。言う事はそれだけ?」
俺の言葉に棘がある
自分でもよく解る
違う、こんな風にじゃない!
こうじゃなくて俺は…・・もっと…
俺はお前自身が好きなんだって…
その事を伝えなきゃ…
こんな…みっともない嫉妬じゃなくて…
もっと心の底にある俺の気持を…
でも言葉がでてこない
スヒョン…
出てこないよ…
俺はまた頭を抱えた
「イナ…コンサートが終わったら話がしたい…。お前とちゃんと話がしたい…」
俺は頭を縦に振っていいよという合図をした
とても声に出して返事なんかできなかった
コンサートの二部が始まると、テジュンはまた俺を抱き起こして頭を抱いた
俺は大きなため息をついた
二部が始まって何曲か終わった後、指揮者が客席を振り向いて次の曲名をつげた
「What are you doing the rest of your life」
『これからの人生』
残りの人生、あんた一体なにするの?
誰と生きていくの?
まるで俺を問い詰めているような曲名だ
白髪のトランペッターが前に出て、その曲の旋律を奏でる
トランペットの音は哀愁を帯びていて、聴いていると自然に涙が零れ落ちた
おじさんと初めて出会った時を…初めてのキスを思い出す
おじさんを好きだと思った瞬間を、この人が欲しいと思ったあの時を
俺は忘れていない…
心を揺さぶるその音色が終わると、小太りのサキソフォン奏者が立ち上がる
サックスの音色は、トランペットよりももっと深く俺に染み込む
テジュンに抱かれた時間が甦る
テジュンと過ごした楽しい時を思い出す
そしておじさんと初めて結ばれたあの夜を…
絶望のどん底に突き落とされたあの瞬間を思い出した
俺はあの時、本当に絶望したんだろうか…
俺はあの時、悦びを感じていたじゃないか…
今俺の心に残っているあの時の感情は…憎しみや絶望ではなくて
好きな人と一つになれた悦び…
それが解った瞬間、声を殺して泣いた
あいつが俺の肩を抱き、やがて俺を抱きしめて、そして一緒に泣いていた
ああ
俺は
なんてことをしてしまったんだろう…
テジュン
テジュン
ごめんテジュン
貴方を巻き込んだこと
ごめんなさい
すべきではなかったんだ…
哀愁の金管楽器にかき乱された俺の心を、あいつは優しく抱きしめてくれた
「コンサートが終わったら、お前と話がしたいんだ…。何もかも全部…」
俺はあいつの顔を見上げて頷いた
許さなくていいよ
こんな俺
こんな身勝手な俺なんか
許したりしなくていいよ
ごめんテジュン
ごめんイナさん
ごめん…おじさん…
concierto…_1 妄想省家政婦mayoさん
concierto.(こんちえると..スペイン語)=concert
コンサートの会場に5人で向かった…
なんだかんだ言って最近5人で連んでる?…^^;;
「テソン君…」
「…監督…何か…」
「今度さ…君たちのLa mia casaでさ…」
「はぁ…」
「餃子パーティーしよう!」
「ぁ…せ…あはは…僕はいいですよ…」
「まよ君は?」
「ぷっ…いいですけど…他の2人にも聞かないと…」
「大丈夫…テス君人なつこいしさ…それにテス君の言うこと聞くでしょ…あの人…」
「「たはは…」」→僕と闇夜
「監督…ちぇみさん?」
「ぅん…そうミンギ…ちぇみさん…」
「ぷっ…大丈夫だと思います」
「ん~じゃ決まり#…」
「テソンさん作ってよ#.監督にまかせっと…何入れっかわかんないスから…」
「「「そうそう##」」」→ソヌ・僕・闇夜
「わかってるよぉ…>o<…」→ジホ
僕の隣に闇夜が座り…僕等の後ろにジホ_ミンギ_ソヌが座っている
闇夜はコンサートのパンフレットを丁寧に読んでいる…
「ラテン系多いかな?…」
「テソン…一部の4曲目…PalomaはあのPaloma…だよね…」
「ぅん…イラディエールのPalomaだろうな…」
「そっか…^_^」
第1部4曲目のPaloma(The Dove)はスペインの声楽教師 セバスチャン・イラディエール(1809-1865) が
当時スペインの植民地であったキューバの民謡=ハバネラに影響を受けて作曲した有名な曲…
現在でも ラテン音楽の代表として様々にアレンジされている…
*ハバネラ (キューバの ハバナが起源と言われる 2拍子 or 4拍子の緩やかな舞曲
スペインではポピュラーな曲で…あのフリオ・イグレシアスも唄っている…
8. La Paloma
Paloma は "鳩" の意のスペイン語…Doveは英で野ハト…飼いハトはpigeon…
ルビーの中でも最高と言われるピジョン・ブラッドは…..鳩の血…という意になる…
因みに僕が闇夜の誕生日に贈ったブレスのルビーはピジョン・ブラッドね…石はすんごく小さいけど…^^;;
Paloma は恋する相手がハバナの港をあとにする時に島の娘が想いを鳩に託して
ほんのり甘く…切なく…お見送りをして歌ってる曲ってとこかな…
歌詞は↓こんな感じね…
ハバナを去るとき 誰も私に気づかなかったけど…
ひとりのむすめが歩み寄って そして言った…
あなたの窓辺に 鳩がきたら かわいがって(やさしくして)くださいね…
それは 私の身代わり(化身)だから…
あなたの愛を語ってください。花の冠をかぶせてやって…
僕は第2部の曲目を観て闇夜に話しかけた…
「mayo… Moulin Rougeがあるせ…第2部の最初だよ…」
「ぅん…」
「君たち観たの?この映画…」
ジホが僕たちの椅子の背に肘をついて話しかけてきた…
僕たちは互いに顔を見合わせて頷いた…
「監督~テソンさんは…ほら…『絵みりゅのしゅき…』じゃないスか…」→ミンギ
「「ぷはは…そうそう##そうれしゅ…」」→ソヌ・ジホ
「ぁ…ぁ…^^;;…もぉ~…」
Song from Moulin Rouge は1952年にアカデミー作品賞にノミネートされた「赤い風車」の曲だ…
画家のロートレックは侯爵家の生まれで…幼い頃の2度の骨折により足の成長が止まってしまった…
そのため身長が普通の大人よりも小さく…コンプレックスを抱えて絵筆と酒にその情熱を託した…
相手になるのは娼婦の女達だけで“赤い風車”を看板に掲げたパリ名物のキャバレーに毎晩現れ
踊り子や酔客の狂態を鮮やかにスケッチした…
惚れ込んだ街娼のマリーが他の男と結婚し…思いを綴った手紙を読んでは毎夜泥酔し…
ついに下宿の階段から落ちて昏睡状態になり実家に引き取られる...
生前にルーブルに絵を飾られたのはロートレックが始めてと言う父の報を聞き…
かつてのムーランの模様を幻想し,,37歳で息を引き取る…
ちょっと暗めでドロドロだけど当時のパリの裏町の様子を描いている
世紀末の幻想に彩られたムーランを再現した美術と装飾に目を見張る…
作品賞を逃したけどアカデミーの美術監督賞をもらっている…そんな映画だ…
「そういえばさ…ロートレックって…」
「はい?…」
「”大きかった”…って…知ってた?」
「「か…監督ぅ…^^;;…^^;;…」」→僕・闇夜
「えっ#どこどこ?何が大きいの?」
「ん?ミンギ君…あのね…」
スパコ~~ン##
ソヌがパンフレットを丸め…ミンギを超してジホの頭を叩いた…
「痛いなぁ…ソヌ君…」
「だから#…すけべオヤジって言われるんですよ#」
「だって…ホントのことだもん…」
ジホは椅子に座り直して小さくなった…しゅん>o<…
それでも尚…ジホは隣のミンギにこそこそ#っと教えていた…
ヨンナム氏 足バンさん
開演前に仕事の電話連絡のためにロビーに立った
休憩所の向こうの窓際で煙草を吸っているひとは…テジュンさん?
いや、ヨンナムさんだ
今回オーナーに特別に参加するよう言われたとか
僕はその遠い目をして煙を吐いている彼に近寄り声をかけた
「まだちゃんとご挨拶をしてませんでしたね」
「あ…スヒョンさん…ですね…今日はお世話になります」
「ずっとここに?もう始まりますよ」
「ははっこういう洒落たところは少々苦手でして」
「あの…テジュンはBHCでお世話になるんですか?」
「まだオーナーから正式には聞いてないんですが」
「そうですか…」
「気になることでも?」
「いや…あいつがホテルを辞めるなんて余程のことなのかなと」
「そうかもしれませんね」
「うん…」
「何か?」
「いえ…ただ…あいつ何だかまた悩んでるみたいだから…」
「ああ……え?…また?」
「あ、いやいや余計なことでした…すみません…1本いかがですか?」
「いただきます」
僕はヨンナムさんから煙草をもらい火を借りた
紫煙にけむるその横顔はテジュンさんにそっくりだ
テジュンさんとはまた違う明るい空気をかもしている
でも…どこかに何か決然としたものを感じるのはなんだろう…
「そういえば大変魅力的なお宅だそうですね。スヒョクが喜んで話してました」
「ただのボロ屋ですよ」
「ずっとおひとりで?」
「ええ…父の遺産の面倒をみてるだけです…っていうと格好がいいかな」
「意思の強そうな方ですね」
「え?誰?僕が?」
「ふふ…”元気で健康的なお寺”だって噂ですよ」
「はっはっ確かにそうです」
ヨンナムさんは楽しそうに笑った
そして煙を吐きながら遠い目をしてガラスに映る夕暮れの街を見て言った
「大事なものをどこかに置いてきたバカな男ですよ…」
僕はそれ以上何も聞かずに煙草を吸った
彼のその明るい表情の下にもしまい込まれた歴史があるのだろう
「あっスヒョン!こんなとこにいたっ!」
「ああ…今一服してたとこ」
「ヨンナムさんこんにちは!」
「ドンジュンさん…いつも元気ですね」
「僕のことご存知?」
「そりゃ配達先の情報はすべて頭に入ってますよ」
「ふぅん…すごいね」
「仕事ですから」
「ね、ヨンナムさんちって壊れそうな寺みたいなアレコレ厳禁下宿なんでしょ?」
「はっはっ有名ですね」
「そこで修行すると人間変わるってホント?」
「そんな人もいましたね」
「ふぅん…」
ドンジュンはにやりと僕を見た。やな感じ
「このスヒョンも修行に行かせてくれない?」
「スヒョンさんを?なんでまた」
「ちょっとその意地悪な性格直してもらった方がいいよ」
「意地悪なんですか?」
「うん、すっごい悪いやつだから」
「悪いやつなんですか?」
「ね?」
「そうなんですか?」
「ふふ…そうね…こういうことするからかな」
僕は煙草をくわえたまま内ポケットからそれを取り出して
ドンジュンに放り投げた
真新しい銀色の小さなキーホルダーが付いている鍵だ
「何よこれ」
「うちの鍵」
「へ?」
「作っておいた」
「ぁぅ…」
「先に行ってるよ…じゃヨンナムさんまた」
「はいまた後ほど」
僕は真っ赤になっているドンジュンを残して会場に向かった
うしろでふたりの会話が聞こえる
「うぅぅ…もぉぉ…いっつもあの調子なんだからっ!」
「なかなか素敵な意地悪じゃないですか」
「やっぱ修行だっ修行!」
「ご一緒にいかがです?」
沼の淵 ぴかろん
泣いている俺の頭を抱きしめるテジュン
「ふたりっきりで話、できるかな…」
どこでだっていい、何だっていい、聞きたい
でも…聞きたくない…
怖い…怖い怖い怖い…
どんな風にラブを抱いたの?
なんでラブを抱いたの?
俺のこと少しも思い出さなかったの?
これからお前…
どうするつもりなの?
スヒョン…
頭で考えてたことを、ちゃんと実行するのって、どうしたらいいんだよ…
目の前にラブやテジュンが現れると途端にこうだよ…
ぐちゃぐちゃの頭でぐちゃぐちゃのことを考えていた時、指揮者が次の曲の名前を告げた
「What are you doing the rest of your life」
ぼんやりと曲を聴いた
トランペットの音が俺の心を鷲掴みにして大きく揺さぶる
俺は息が止まりそうなくらい、その音色の中に深く沈みこんだ
テジュンとのこれまでの時間が頭の中をぐるぐる回る
俺は我慢できずに声をあげて泣いた
手放したくない…
あの時間を…
サックスの音色が響く
俺は寂しさの渦に巻き込まれ、溺れそうになる
必死でもがいて手を伸ばす
溺れている俺に気づかない
ラブと
テジュンと
ギョンジン…
「テジュン!」
声に出してしまった…
隣にいたテジュンはすぐに俺を抱きしめた
「ここにいる!僕はここにいる!」
そう言って背中を撫でてくれた
ここにいるのに…遠くに感じるよテジュン…
コンサートは中々素晴らしかった
僕と彼は十分に楽しめた
会場に明かりがつき、僕と彼は顔を見合わせ、にっこり微笑み合った
さて…
みんなに乗り込まれないうちに帰ろうかな
彼は携帯電話の電源をオンにして立ち上がった
その途端彼の電話が鳴り、少し遅れて僕の電話が震えた
僕達は同時に電話に出た
兄さんからだった
部屋にラブ君を連れてきてもいいかと言う内容だった
「いいさ、勿論…。僕達が同じフロアーにいてもいいのならね…」
『お前が側にいてくれると思うだけで勇気が湧くんだ…悪いがミンチョルさんにそう伝えてくれる?』
「わかった…ちゃんと…話できそうかい?」
『ああ』
「じゃあ、適当に行ってて」
『悪いな…』
イナから電話だった
泣きじゃくっていてよく聞き取れないのだが、どうやら部屋を貸してほしいと言っている
「ギョンジン君もいるけど構わないのか?」
『部屋でテジュンと話がしたい』
「だから、ギョンジン君もいるけど…」
『部屋を貸してくれ』
話が通じない
通じないぐらい弱ってるのか…
「わかった…。一人でいけるか?」
『一緒に行って…』
「…わかった。出口で会おう」
イナ…
お前がこんなに弱ってるのって初めてだ
昨日あんなにスヒョンが元気付けたのにな…
営業中だってお前、パリっとしてて、これなら絶対大丈夫だと思ったのに…
僕はミンの顔を見つめた
「なあに?」
「あの…一部屋貸してほしいんだけど…」
「…え?」
「イナがこの後、テジュンさんと話をするって…。それで、ゲストルーム一部屋貸してほしいって…」
「…兄さんも…」
「え?」
「ラブ君を連れてくるって…」
「…」
僕達は顔を見合わせた
部屋は別々だが、同じフロアにぐちゃぐちゃの四人…
「まずいかな…」
「…確認しましょうか…」
「兄さん、僕だけど」
「イナ、僕だけど」
「別の部屋にイナさんとテジュンさんがいるけどいいかな?あちらも話し合いするそうなんだ」
「ギョンジン君の部屋にラブ君が来るそうだ。いいか?」
「うん…わかった…」
「そうか…わかった」
二組とも『構わない』という返事だった
構わないと言ったって…
僕はミンと相談して、せめてエレベーターでバッティングしないよう、時間差で部屋に入るようにそれぞれが案内することにした
なのに…
僕達はエントランスでバッティングしてしまった
時間も打ち合わせたのに…
そして僕達6人は、エレベーターに乗った
みな無言で40階まで行った
ラブ君とイナはお互いを意識しているように思えたし、テジュンさんとお兄さんは、何かを悟ったような顔をしていた
40階に着いて、お兄さんはラブ君を連れて部屋に入った
イナは俯いて動こうとしない
仕方ないので僕がイナの腕を引き、お兄さんの部屋から一番遠い部屋にテジュンさんとイナを案内した
「飲み物、何か持ってこようか?」
「…」
「イナ?」
「…ん?何?」
「…適当に飲み物持ってくるよ」
「…」
「イナ」
「ん?何?」
「いや…」
心配だ
僕とミンは、それぞれの部屋に、ブランデーと氷と水のセットを持っていった
そしてリビングに戻った
「あんなイナは初めてだ…」
「兄さんは普通に見えるでしょ?」
「うん。落ち着いてるように思える」
「でも…震えてるんだよ…」
僕達はソファに座って頭を寄せ合った
「…うまくいくと…いいね…」
「…ああ…」
やるせない夜が更けていく…
底なしの沼へ ぴかろん
ミンチョルが飲み物を持ってきてくれた
ありがとうと俺の口は勝手に動いた
そのワゴンを貰って部屋の奥へ押していく
テーブルの横にワゴンを置き、そこに座っているテジュンに飲むか?と俺の口が勝手に動いた
テジュンはコクンと頷く
俺の手が勝手に動いてグラスに氷とブランデーを注ぐ
水は?
また勝手に口が動く
少しとテジュンが小さな声で言った
俺の手は水を注ぎ、水差しをワゴンに置き、仕事を終えた
「お前は飲まないの?」
テジュンが聞く
俺の手は、もう、仕事を終えたので動かなくなっていた
「作ろうか?」
「・・ああ・・」
俺の口は最後の仕事をして、動かなくなった
テジュンは俺のためにブランデーの水割りを作った
そして自分のグラスを俺のグラスにカチンと当てた
「・・ただいま・・」
「・・お・・」
お帰りと反射的に言おうとした
本当に帰ってきたの?
テジュンは水割りを一口飲んだ
「飲まないの?」
そう促されて俺の手は再び自動的に動き出した
ゴクリゴクリ
俺は、酒を一気に流し込んだ
テジュンは何も言わなかった
もう一口水割りを口に含み、そしてテジュンは話し始めた
「遅くなってごめん・・。イナ・・。ただいま」
「・・おかえ・・り・・」
「僕は、この四日間、ずっと・・ラブと一緒だった・・」
「・・。なあ」
「ん?」
「すげぇところだとか、部屋がいくつあるんだとか、ホテルみたいだとか思わねえの?」
「・・あ・・ああ・・すごいマンションだね・・」
「だろ?おとといはここで新人歓迎会があったんだ。お前、いなくて残念だったな・・。mayoさんとテソンがすっげぇ料理作ってさ、キレイで美味しくて、ホテリアホテルのシェフだって真っ青になるぐらいのだったんだぜ。それに、これ見てよ。お前なんとも思わない?俺、かっこいいだろう?全部スヒョンがコーディネートしてくれたんだ。ほら、靴だって」
「イナ!」
「・・」
「・・聞いて・・」
テジュンは深いため息をついて、また話し出そうとした
でも俺は・・
俺は怖くて・・
ふたりっきりでいることが怖くて耐えられなくなって・・
ドアを開けて走り出し、ミンチョルの名前を呼んだ
リビングの方からミンチョルが来た
その後ろにギョンビンがいる
「どうした?ん?どうしたんだイナ」
「スヒョン・・スヒョンを呼んでよ!スヒョン呼んでくれよ!」
「イナ・・」
開け放されたゲストルームのドアから、笑顔の消えたテジュンさんが様子を窺っている
僕はイナを抱きかかえたまま『大丈夫だから』と頷いた
テジュンさんは軽く会釈をして部屋の中に消えた
「イナ?お前、話がしたいんだろ?テジュンさんとちゃんと話がしたいんだろ?」
「したい!だからスヒョンを呼んで!スヒョンがいなきゃ聞けない!怖い!」
「イナ・・」
わあわあと泣きじゃくるイナを抱えて、僕はスヒョンに電話を入れた
「ミンチョルだ。・・ああ。聞こえるか?・・イナが・・うん・・。かわるよ・・」
「スヒョン!スヒョン!そばにいてよスヒョン!俺、俺怖いよ、どうしたらいいんだよ!」
『イナ、大勝負の前はいつも怖かったんじゃなかったのか?』
「そうだけど・・」
『それでもお前、いつも冷静に勝負の行方を読んできたんだろ?』
「でも勝負とは違う!」
『同じだ。しっかりしろ』
「スヒョン!お願いだから側にいてよスヒョン!」
『今朝のお前の言葉、どこ行ったの? もう1回はじめからテジュンさんに向き合う、逃げないし媚びないってお前、そう僕にはっきり言ったろ?』
「・・ああ・・ああでもテジュンの顔みたら俺、俺・・ 」
『イナ、僕が側にいてもいなくても、お前は一人きりなんだ』
「スヒョン!」
『一人で話を聞いて、一人で考えて、一人で決めろ。いつもそうしてきただろ?』
「・・」
『お前に何かあったら、僕もミンチョルもほっとかない。でも、決めるときはお前一人だ。いいな?』
「・・」
『勝てそうか?』
「・・わかんない・・」
『イナ。大丈夫だ。・・勝てなくても・・負けはしない・・絶対に・・』
「・・どういうこと?」
『帰ってきたんじゃないか、テジュンさんは・・。な?』
「でも!」
『頑張れ・・な?お前が好きなのは、テジュンさん自身、そうだろ?』
「・・」
イナはスヒョンと話をし終わって、電話を僕に返すと、虚ろなまま部屋に戻っていった
こんなイナを見たくない・・
お前はいつも仲間の間でニコニコ笑って嬉しそうにしてたじゃないか・・
元気のない奴がいたらさりげなく気をまわして、僕が落ち込んでいたらワザと怒らせるような冗談言って引っ張りあげてくれてたじゃないか・・
僕に何ができる?
ただこうやって部屋を貸したり電話を貸したりすることしかできないのか?
僕じゃなくてスヒョンを頼るんだな・・
そりゃそうだ
僕に頼られたって僕はかけてやる言葉もないもの・・
でも・・イナ・・
もしお前がこれ以上傷つくようなことになったら・・
僕はテジュンさんを許さない
イナ・・踏ん張ってくれ・・イナ・・
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