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ぴかろんの日常
リレー企画 139
僕の純愛 れいんさん
バスを降り彼女が指定したカフェテラスへ向かう
近づくにつれ心なしか足取りが重くなる
カフェテリアの前で足を止め彼女の姿を捜す
僕が見つけるより早く、彼女が立ち上がり手を上げた
僕は軽く会釈した
シャープなラインの黒いパンツスーツはスレンダーな彼女によく似合う
髪を無造作に束ねたその人は華やかな大人の女性といった感じだ
彼女はにこやかな笑みをたたえ僕に近づいてきた
「来てくれたのね。ありがとう」
彼女に促され向かい合う形で席につく
何か気まずい感じがして来た事を後悔しはじめた
何か話さなくてはとあれこれ思い巡らせる
口をついて出たのはありきたりな言葉
「はじめまして。カン・スハです」
「私はエジュ。よろしくね」
値踏みされてる様な気がするのは考えすぎだろうか
ウエイターがオーダーを聞きに来たので手っ取り早く彼女と同じものを頼む
ウエイターが去ったのを見計らって彼女が口を開いた
「スハ君って…呼んでもいいかしら?」
「…はい」
「テジンは…知ってるの?今日の事」
「いえ」
「どうして言わなかったの?」
「…言わない方がいい様な気がして」
くすっと笑って彼女がシガレットケースから煙草を取り出す
「吸っても構わない?」
「ええ、どうぞ」
「スハ君は?」
「僕は結構です」
「そう…なら、私もやめておくわ」
彼女は口紅のついた煙草を灰皿に置いた
「突然呼び出したりしてごめんなさいね。驚いたでしょ?あなたとお話がしてみたくて。…私って堪え性がないのよ」
「どうして僕と…?」
「…なぜかな…テジンが大切に思ってる人だから…」
「…」
「どんな人なのか知りたくて」
「…」
彼女は僕を見てきっとがっかりしただろうな…
僕は彼女から視線をはずし目を伏せた
「私…回りくどいのは苦手なの。率直にお話してもいいかしら」
「…はい」
「知っているとは思うけど、私テジンの事が好き。もうずっと前から。彼は私の事…何か言ってた?」
「…あの…古くからの友人だと…」
「ふふっそう。相変わらず冷たい男ね」
「すみません」
彼女が大きな瞳をくるっと動かし、僕を見て吹き出した
「なぜあなたが謝るの?」
「あ…すみません」
「ふふっスハ君って可愛いわ」
「え…」
「私ね、不思議だったの。なぜテジンがあんなにも変わってしまったのか」
「…」
「テジンは事故の後、自分はホジンだと言い続けた。…それは知ってる?」
「はい」
「そう。あなたには何でも打ち明けているのね」
「…」
「その事で私もウンスさんも凄く苦しんだわ。でもテジンを見てると本当にホジンさんの魂が宿ったのだと思ったわ。
その言動や行動はホジンさんそのものだったもの。
それ程にテジンはウンスさんを愛していたのだと、随分たってからわかったわ。狂った愛よね」
狂った愛
僕の胸がズキンと痛んだ
「私は留学する直前に彼の真実に気づいた。でも何も言わずにテジンの前から姿を消した。
それからは彼を忘れようとあれこれ努力してみたけど・・全然ダメ
だからもう一度テジンに会って自分の気持ちにケリをつけようと思ったの。
彼の口から真実を聞けば諦めもつくかと。でも驚くほどに状況は一変していた」
そこまで話したところでウエイターが僕のオーダーを運んで来た
カップが触れ合う音で重い空気が中断された
ウエイターが一礼して去った後、彼女は再び話し始めた
「当然ウンスさんと幸せに暮らしているものと思っていたわ。なのにウンスさんとは一緒に暮らしてもいない
生まれたばかりの子供がいるのにいったいどうしたの?って…
ウンスさんもウンスさんで穏やかに暮らしてる様子だったし…私が苦しんだ日々はいったい何だったの?…そう思ったわ
だから居所を聞いて昨夜お店を訪ねたの」
「そうだったんですか…」
「ホ○トをしている事にも驚いた上に恋人がいるって言うんだもの…。それも…男性のあなた…」
「すみません…」
どうして僕はこんな気の利かない言葉しか言えないんだろう
「ねえスハ君、もう『すみません』は、なし。…私の方こそストレートすぎるかしら?」
「いえ、おっしゃってる事はよくわかります」
「私ね、妬けちゃったの。テジンがあんなに穏やかな顔をして…あなたを見る時のテジンの顔ったら…大切なものを愛でる様な…」
「そんな…」
「正直に言うとね…なぜあなたなのか…解らなかった。…ごめんなさいね。気を悪くした?」
「いいえ」
僕だってそう思うのだから無理もない…
「だけど…こうやって話しているうちに…解る様な気がしてきたの。テジンの気持ち」
「え?」
今までの僕の冴えない会話で何がわかったのだろう…
「ねえ、聞いてもいい?…彼のどこに惹かれたの?」
「…初めは…何か…重いものを一人で背負っている様な…苦しそうな…切なそうなテジンさんを見ていて…
僕もそれを一緒に背負ってあげたくて…
彼の笑顔を見たくて…彼の笑顔を見ると嬉しくて…そのうちに…気づいたら…いつの間にか…愛していました」
ちゃんとした答えになっていない様な気がしたが、うまく説明できなかった
でも彼女はそんな僕の言葉を真剣な眼差しで聞いていた
「テジンはあなたのどこに惹かれたと思う?」
「それは…僕にもわかりません」
「テジンは今まで積み重ねて来たもの全て捨ててあなたを選んだ…」
「テジンさんの奥さんには本当に申し訳ない事をしました…僕の妻にも…」
「えっ?スハ君…あなた…結婚していたの?」
「…はい…すみません…」
この言葉を口にするのは何度目だろう…
でもこれは言わずにすます事はできない
「…お子さんもいらしゃるの…?」
「…はい」
「じゃ…あなたも何もかも捨ててテジンと…?」
「…はい。そして色んな人を悲しませてしまいました」
「…あなた達二人…どうかしてるわ」
「…はい」
彼女の言う通りだ
返す言葉もない
「意外だったわ…あなたまでそんな…それ程に…愛しているのね」
「はい…とても愛しています」
僕が彼女を真っすぐに見て言えた初めての言葉だった
「僕は…苦悩し続けていた彼を癒して、彼に笑顔を取り戻してあげたいと思っていました
僕が彼を幸せにしてあげるつもりでいました
でも、幸せにしてもらったのは僕の方…。彼が一喜一憂する度に僕も泣いたり笑ったり
彼の為になら僕の命さえも惜しくない…そんな人に初めて巡り会いました
彼と出会って、僕は初めて本当の愛を知ったのだと思います
もっと早くに出会っていれば、誰の事も傷つけずに済んだのに…」
ぎゅっと握り締めた僕の手に彼女の手が重なる
彼女の手は暖かかった
「ねえ、スハ君。私とあなた…恋敵でお友達…今日からそうなれるかしら?」
「エジュさん…」
「私、テジンの事は今でも好き…簡単には諦められない。でも…スハ君の事も好きよ。私達…いいお友達になれない?」
「…僕でよければ喜んで」
それから僕と彼女はいろんな話をして、出勤までの少しの時間を一緒に過ごした
傍から見たら恋人同士にでも見えただろうか
まさか僕と彼女が同じ人に恋をしてるなんて…誰も思わないだろうな…
僕の先輩_9 妄想省家政婦mayoさん
窓のガラスにぱたぱたと翼がぶつかる音で目が覚めた..
たまに窓の外に訪れる白い鳩だ...
僕の部屋は南側にバルコニーが無い..
南側は途中薄い柱を挟んだ腰高窓が続き..窓の下は壁から続く収納スペースになっている..
収納スペースの上はデスク代わりになり..PCは左端にある..
テファさんが書いた僕の絵はシンプルな額に入れ柱の部分に立てかけてある..
頭を振り..前髪をかき上げ..大きいため息の後..ソファから降りた..
一番右端のブラインドのグリップを回し..上向きになっているフラット(はね)を一文字にした..
フラットの開いた部分から一気に眩しい朝陽が僕の目を刺し..部屋が明るくなる..
おっと..ミンギは...まだ寝てるか..
またグリップを回し..ーになっているフラットを少し下に../..向けた..
ミンギはダブルのベットの真ん中にほぼ横に寝ている..
伸びた片足と..>の字の片足の間に薄掛けを挟み込み..
薄掛けの端を掴んで顔は上向き...もちろん頭に枕はない..
今日は寝相が悪いじゃない..ミンギ..
って..いつもあまり寝相は良い方じゃないけど..
ちょっと屈んで..頭が上を向いるミンギの顔を覗いてやった..
口は下唇がほんのちょっと前に出て..三分開き..ってとこかな..
『ぁぁん..ナヨンちゃぁ~~~~~ん...ムニャムニャ...ウヒヒ...ンガッ..』
ぷっ##....何の夢見てるんだか..
ウヒヒはまだ??..って..キスはしたのかな..
ナヨンとはミンギの彼女のことだ..
付き合って間もないの頃の2人に出くわしたことがある..
(ペアルックでもなく..アイスクリームも食べてなかったけど..)
「ぁ..先輩..」
ミンギが仲良く繋いでいた手を離した..
「ぷっ..手..解くことないんじゃない??....ねぇ??」
僕が顔を向けると隣のナヨンはくすっ#っと笑ってえくぼを見せた..
2人と分かれ..少し歩いて後ろを振り返ると2人はまた手を繋いで仲良く歩いていた..
寝言を言ったミンギの口が今度は口角の下がった..三分開きになった..
僕はミンギの頭を枕に乗せ..ベットの側を離れた..
僕が起きると先輩はPCの前にいた..
ジーンズに薄いセーターを着てコーヒーを飲んでいた..
「へへ..先輩..めずらしー..コーヒー淹れるなんて..」
「そのくらいはするの.. 」
「^^;;..」
「ミンギも飲む?」
「僕...カフェラテがいいなぁ...」
「@_@??...」
「ぁ..ぁ..面倒っスね...いいス..普通で...」
先輩の立つキッチンからグガッ..グガガ..と軽くミルクにスチームを当てる音が聞こえてきた..
口元でちょっと笑った先輩がカップを手にキッチンから戻ってきた
僕は先輩がテーブルに置いたカップを覗いた..
カップには
ミルクで作った葉の模様
が広がっていた...
「わぁ..上手いっスね..」
「そ??」
「ぅん...へぇー...すごいや..」
「ロゼット状の葉模様は..ラテアートの中でも難しいの...」
「先輩..」
「何..」
「自慢してる?」
「駄目??」
「...ぃぇ...^^;;..」
「今日は上手く出来た..」
「今日は...っスね..」
「そっ..近頃上手くできなかったから..」
「そっスか..何か..僕見ちまって..申し訳ないっス..」
「そうね..」
「先輩~~>o<...」
「ぷっ...」
先輩は軽く握った拳を口に当てていつもより笑った...
公園は平和である ぴかろん
「公園行こうよ、天気いいし」
眩しいラブがキラキラする声で言う
でも僕はどよーん…
それはね、早起きできなかったから…
僕はどんなに夜が遅くても、たとえ明け方まで起きていても、遅くとも7時には目を覚ます
普段なら6時だとか5時だとかに起きる…
なのに今日は昼過ぎだ…
どよーん…
原因はそれだけではない…
マリリン…
恥ずかしい…
さっきラブが気になる事を言った
「ミンチョルさんとギョンビンもそんな気分になったんだよ、アンタの土産で…」
…
あんなに…あんなに喜んでくれてたのに…
ミンチョルさんなんて僕に好意を示してくれてたのに…
ラブったらやきもちやき…
「どうしたのさ…俺とデートするの、イヤ?」
「…だってこの格好…恥ずかしいよ…」
「髪の毛セットしてあげたじゃん…もう…しょうがないなぁ、じゃこれ」
ラブは僕にサングラスをかけさせた
四角い黒い…ちょっと60年代風の…
「カッコイイ」
本気で言ってるか?!
ラブをみつめると…まんざら嘘でもなさそうだ…
だって…瞳にハートが…
ちゅ
あ…また…
「公園でさ、チヂミ食べようよぉ…」
「チ・チヂミ?」
「トッポッキも…」
「なんで公園で?屋台で食べるのが美味しいんじゃないの?」
「だって…二人で食べたいもん」
あはん…可愛い事を言う…
いかん…デレデレしちゃう…
そういう訳で僕達は今、公園のベンチでお茶を片手にトッポッキのプラスチック椀とチヂミの包みを持って座っている
「あっ!箸がない!」
「いいじゃん…手で食べればぁ」
そそそんな…過激な事をラブ…はああん…
「いいいいのか?」
「何が?」
「今夜またサンバに参加できなくてもいいのかっ!」
「…できないのぉ?」
はああんもうっ…
「大丈夫でしょ?エロミンなんだから…いっただっきまぁぁすはい、あーん」
ラブはチヂミの包みを開けて一切れ摘むと、僕の口元に垂らした
それに食いつく…
「どうよ」
「旨い!」
「でしょ?あそこの屋台、旨いんだ」
僕が齧ったそのチヂミの残りをラブが食べる
「あーん」
僕はその残りを催促する
するとまた僕の口元にチヂミがやってくる
「はい、自分で持ってて、俺はトッポッキ食べる」
そう言って、手でトッポッキを摘んで口に持っていくラブ
その細長い餅を…咥え咥え咥えたまんまっきいっこっちを向き
「あい…たうぇて…」(はい…食べて…)
などと色っぽい目できいっ言う…
僕はぱくりとそれに噛み付き、噛み千切る
もぐもぐもぐ
「あれ?薄味なトッポッキィ…濃厚バージョン期待してたのにな…」
やってられるか!
「ん?むっつりしてる…なんで?なんでなんで?」
「…こんなとこでいくらなんでも真昼間っからそんな事…」
「ふぅぅん…昨日の夜、道端に車止めてここでヤるとか言ってた人がそんな事言うんだぁ、ふぅん」
「…ラブぅ…」
「あははは。苛めちゃった」
軽快に笑って次々とトッポッキを平らげていくラブ
「僕にも頂戴よ」
「おえかぁくいちいえば?」
は?
俺から食い千切ればだって?!
この野郎!解ったよ、僕は痩せても枯れてもエロミンだ!馬鹿にすんなよ!エンジン全開ゴーだぞ!後悔するな!
はむっもぐもぐもぐ
「ああん全部取った!」
「ふんっ」
「ムカつくぅぅ!」
僕達はじゃれあいながらすぐに全部の食べ物を平らげた
「ねぇギョンジン、あの噴水の前のベンチで俺達に背を向けて座ってる人さ」
「…ん…」
「あのシルエット…どっかで見たことない?」
「んー…」
解んなかった
結構距離があるもの…
じいっと観察してるとその人の側に駆け寄ってきた人がいる
手にソフトクリームを持って…
「「ウシクさんだ!ってことは…イヌ先生?」」
「先生、ソフトクリーム買って来たよ。先生、先生ってば!」
「…うん…」
「もぉ、溶けちゃうよ、先生!」
「…」
先生は僕をゆっくり見上げた
「ウシク、もう少しで読み終わるから静かにしてて」
「…だって溶けちゃう」
先生はまた読みかけの本に集中する
「先生が食べたいって言ったんじゃないか!」
「…」
「どろどろになっちゃうよ、舐めちゃうよ?僕…いいの?」
「…」
「ああっ溶けてきたっもうっ2つも舐められないよぉせんせいっ」
「…。ウシク…」
「はいっ先生の分」
「ちょっとの間黙ってて、もう三ページで終わる。君が喋り続けると何度も同じ文を読み直さなきゃいけない。時間がかかる」
「…」
「…」
ばか!
僕は二人分のソフトクリームを、溶け出してきた部分だけ舐めていた
でも、どんどんと溶けてくるそのクリームに僕の舌は追いつかない
バカみたい
先生の分を舐めるのはやめにした
だってもう少しなんだろ?
ドロドロドロドロああベトベトして気持ち悪い!
クラっと大きな塊が落ちそうになった
「ああっ!」
「…」
非難するような目付きで先生が僕を見た
なんだよ!
先生が食べたがったから買ってきたのに
その隙に本に夢中になる先生がいけないんじゃないか!
僕は先生を睨み返した
先生は黙って右手を出した
僕は溶けかかったソフトクリームを渡した
それを受け取ると舐めもせずに先生はまた本に没頭した
ばかっ!
僕は自分のソフトクリームを舐めた
しょっぱい
なんか目がぼやける!
ばか!
先生のソフトクリームを見ると、ボタボタと溶け落ちている
ばかっ!
僕は先生が持っているソフトクリームを奪い取った
ちらりと僕に視線を投げかけ、また本の文字を追う
僕はスタスタとゴミ箱の方へ歩き、ゴミ箱に先生のドロドロのソフトクリームを投げ捨てようとした
でもできない
食べ物を粗末にできない…
トロトロと僕は噴水の淵に座った
先生のソフトクリームは妖怪のように溶けていた
僕は僕のクリームを泣きながら食べた
はぁ…読めた
ずっと気になっていた結末がやっと読めた…
僕はふっとため息をついて青い空を見上げる
「外で本なんか読むと目が潰れるよ!」
いつもウシクはそう言って僕から本を取り上げる
でも今日はソフトクリームを買いに行っている隙に読んじゃった
読み始めたら止まらなかった
ウシクが何度か邪魔をしたけど僕は本に夢中だった…
右手がベトベトする
はて?
どうしたんだろう…
それにウシクはどこへ行ったんだろう…
辺りを見回すと噴水の向こうの淵に座っているウシクが見えた
僕は立ち上がってそちらの方に向かった
左手にドロドロのソフトクリームらしきものを捧げ持ち、ウシクは俯いて肩を震わせている
あちゃぁ…やっちゃった…
泣かせてしまった…
とりあえずこの、僕の分らしいソフトクリームらしい物体を取り上げ、食べる事にした
だって…捨てたら怒るもの…ウシク…
生ぬるくてドロドロのその物体は、ただ甘ったるいだけで、ちっとも美味しくなかった
でも全部食べた
ウシクはこっちを向いてくれない
だってウシクったら、いつも本を読ませてくれないから…
食べ終わってから僕はウシクの足元に跪いて顔を見上げた
涙をぽとぽと零してしゃくり上げている
「ウシク…何でそんなに泣くの?」
「せっ…せんせがっひっく…かってってひっく言ったからっひっくひっく…買いに行ったのにっひっく…」
「…そうだったね…」
「ほんっほんっ本に夢中でっひくっひっく…溶けちゃうって言ったのにひっく怖い顔してっ」
「…ん…だって本が読みたかったんだもん…」
「溶けちゃうのにっひっくひっく…」
「…だって…もう少しで読み終わるトコだったもん…」
「たべっ食べた後でもっいいじゃんっひっく」
「…だって読みたかったんだもん…」
「せっ先生っ我儘だっううっ」
僕はウシクのベトベトした手を取って、その甘い手や指を舐めた
ウシクがピクリと反応する
「ウシク…。思い出さない?薔薇投げの練習してた時、お前いくら言っても棘を取らずに投げるから…指から血が出てて…。お前、僕に『舐めて』って言ったの…。あれから僕達は…始まったんだよね」
「…」
「…頑固なのはお互い様だろ?…あーあ…べとべとになっちゃったね…」
僕はウシクから離れて水のみ場の蛇口をひねり、ハンカチを水に浸して軽く絞った
それでウシクのべとべとする指を拭いた
ウシクはまだひっくひっくやっている
僕はウシクの膝に頭を乗せた
それからウシクの足を抱きしめた
「先生なんか嫌いだっうっうっ…」
「僕は好きだもん…」
「先生なんか…我儘で頑固でひっくっ意地悪で自分勝手でっ…」
「ソフトクリーム…まずくなってた」
「ばっばっ…バチが当たったんだいっ…」
「…。だって本が読みたかったんだもん」
「えっえっ…」
「…誰が悪い?」
「…」
「誰が悪いの?」
「…せっ…先生がっ悪いっ!」
「そうだね…僕が悪いね…」
「…うっううっ…」
僕はゆっくりと頭を上げてウシクを見つめる
ウシクは顔をくちゃくちゃにして震えている
僕は体を伸ばして彼の唇を掬い取る
ウシクは弾かれたように横を向きうーうー唸っている
かわいい…
肩を掴んでそっぽを向いたその鼻を僕の鼻先でちょっとこっちに向けて、そのままキスをする
また逆の方に逃げる唇をもう一度捕まえる
逃がさない
涙が溢れている
唇を離してもう一度聞いて見る
「誰が悪い?」
「イヌせんせいっ」
「そうだね…僕だね…」
「ばかっ!」
「そう。ばかなんだ…」
「ちがうっ」
「ん?」
「ばかじゃない…」
「…ばかだよ、こんな可愛いお前を泣かせるなんて…」
「…」
「僕が悪い時は、ちゃんとそう言ってね。お前いつも自分のせいにしてしまう…」
「…」
「僕は…我儘なんだよ。知ってるだろ?優しくもない…自分の事を先に考える…それも知ってるだろ?」
「…ちっ違うもん…先生は…優しいもん…僕の事、考えてくれてるもん…」
「でも我儘だよ」
「…ちがう…」
「違わない。本も読みたいしお前に側にいてほしいし、ソフトクリームも食べたい…。同時に全てこなしたい。どうすればいいだろう…」
「…」
ウシクが赤い目を丸くして僕を見た
「こうしよう…本を読んでから、ソフトクリームの味がするお前を食べるの…どう?」
「…」
ウシクが泣き止んだ
そして僕をじっとみつめた…
「せんせい…」
「なんだい?」
「せんせいは…人を口説かないほうがいい…」
「…」
「それに…」
「…」
「今の口説き文句、できそこないのギョンジンみたいでかっこわるい…」
「…」
ふぁぁっくしょん…
誰かがくしゃみをした…
それにしても…できそこないの…ギョンジン?!
こいつ!
「でも…せんせいが好き…」
…こいつ…
「僕もウシクが好き…」
やっと…ちゃんとキスできた…
やっぱりソフトクリームの味がするもの…ウシクったら…
美味しい…
「あーん…いいなぁ…俺もいっぺんでいいからイヌ先生にひざ掛けになってもらいたいなぁ…」
「むうっ!…ふぁぁっくしょんっ」
「どしたの?丸裸で寝てたから風邪ひいた?」
「違うよ、誰かが僕の噂をしたんだ!」
「…ふーん…悪口だね…」
「むうっ!」
「あーっいいなぁ…あーんなロマンチックなキス…したぁぁい…」
「してるじゃないかっいつも!」
「ああん…かっこいい…イヌ先生ぇぇん…」
「むうううっ!」
公園にラブラブなカップルが二組…ケンカしたり仲直りしたりで…平和である
僕の純愛2 れいんさん
気がついたらこんな時間
エジュさんと話しているうちに瞬く間に時間が過ぎてた
そのままでは間違いなく遅刻だった僕を、彼女は店まで車で送ってくれた
お礼を言って車を降り、少し開いていた窓に顔を近づけ彼女に聞いた
「テジンさんには会って行かないんですか?」
「今日はよすわ。あんな冷たい奴・・もう知らない」
彼女は笑って「楽しかったわ」と言い残し車を発進させた
知らないなんて笑い飛ばしていた彼女の瞳は少し寂しげだった
去っていく車が見えなくなるまで僕はその場に立っていた
想いが届かない切なさを抱えたまま彼女は僕に優しく接してくれた
率直すぎるかもしれない彼女の言動は僕は決して嫌いじゃない
「もうしばらくこっちにいるから・・また会えるかしら」
と彼女は言った
本当に会いたい人は僕ではないのだろうけど・・
「遅刻だぞ」
ドアを開けてすぐの通路でいきなり頭をコツンとされた
「あ・・テジンさん、すみません」
彼は通路の壁に寄りかかり腕を組んでいた
ここから死角になる場所で車を降りたのは正解だったみたい
「どこに行ってたんだ」
テジンさん・・
なんだか詰問口調で・・ちょっと不機嫌?
「だから・・あの・・図書館に・・」
「ここに来る途中に図書館に寄ってみた。おまえはいなかった」
「あ・・」
もともと嘘が下手な僕は、十分なシュミレーションをしてからでないと、咄嗟に上手い嘘が出てこない
「それは・・えっと・・調べ物が思ったより早く片付いたので・・あちこち歩き回ってました」
「ふぅん・・」
まずい雰囲気・・
まさか彼が図書館に寄るなんて考えてもみなかった
ちょっと苦しい言い訳だったかな・・
でも彼に内緒でエジュさんと会ってたなんて言いづらいし・・
僕は下手な言い訳で墓穴を掘らない方が得策だろうと
腕組みしている彼の前を、目を伏せてそそくさと通り抜けた
営業終了後、いつもの様に彼の車の助手席に乗り込む
シートにもたれかかりふうっと溜息をつく
今日もお店は忙しかった
ギョンビンさんやドンジュンさんが不在だったから、余計忙しく感じたのかな
それにしても皆の様子もどこかいつもと違っていた
ミンチョルさんの全身から発するオーラは、いつもより控えめでどこか精彩さに欠けていた
お客様の腕掴みのタイミングも微妙にズレていた
店に来た時もネクタイが少し曲がっていたっけ
普段はとてもスマートな身のこなしのスヒョンさんが、押して開けるドアを何度も引いていた
氷を取りに行ったはずなのに、手ぶらで戻って来た時も僕は見て見ぬふりをした
見せつけハグも眼ぢからが少し弱かったかな
イナさんはかなり腫らした目で出勤してきた
そんな時に限って、なぜかやたらと
「電話BOXで泣く」「有り得ない無理な態勢で倒れる」
なんてオーダーが多くて、見ていて痛々しかった
明日もっと目が腫れてなきゃいいけど
そんな事をあれこれ考えていたら彼がふいに聞いてきた
「今日は店まで誰に送ってもらった?」
「ああ、今日はエ・・あ」
いけない
彼の誘導尋問でうっかり口を滑らせるところだった
「えっと・・街をフラフラ歩いていたら、知り合いに偶然会って・・そこまで乗せてもらいました」
ふぅ~あぶない、あぶない
「ふぅん・・スハってこの辺りに知り合いいたんだっけ?」
「あ・・あの・・教員時代の先輩と偶然・・」
テジンさん
今日の僕の行動が気になってるのかな
もしかして・・何か疑ってる?
「そっか」
まだ何か聞きたそうなテジンさんに少しだけ意地悪をしたくなった
「何かやましい事でもあると思ってます?」
「いや、別に」
「もしかして・・テジンさん、妬いてるんですか?」
「えっ?なっ・・コホ・・そんな事ない」
「えへへ」
「なんだよ、スハ」
「いえ、なんでも・・」
拗ねた様な照れた様な彼がなんだか可愛く思えて
僕は体を寄せて彼の肩に頭を乗せ掛けた
「どうした?急に・・」
「・・こうしててもいいでしょう?」
ふふっと笑って僕の髪に頬擦りする彼
ハンドルを握る彼の横顔を眺めるのは、僕が好きな事の一つ
彼の憂いを帯びた瞳と
滑らかなラインを描く鼻筋と
少しツンと尖ってる薄い唇はなんともいえず素敵だから
「テジンさん・・」
「ん・・?」
「・・好きです・・」
僕は身を乗り出し彼の唇に口づけた
「・・ばか・・運転中だろ」
そう言って彼は僕の太腿にすっと手を置いた
彼のしなやかな美しい指先が僕を撫でる
その指先が優しく情熱的に不規則なリズムを奏でる度に、僕の心は昂ぶりを覚える
彼もきっと同じ気持ち・・
濡れた瞳がそう言っている
「ね?スハ・・この後・・いい?」
そんな事・・聞かないで
僕も・・あなたと・・
僕は彼の肩にもたれたままコクンと小さく頷いた
La mia casa_22 妄想省家政婦mayoさん
「ちぇみ..テス..昨日ちゃんと寝た?」
「ぃゃ...ぐすんぐすんで..くるりと俺に背中向けるし..」
「ぅん..」
「頭撫でりゃ..手のひらペチン★..背中にち◎うで..唇&鼻バチン★..」
「たはは..^^;;..で?..」
「ん..はるみがテスの懐に入って..やっと寝た..」
「そっか..可哀想なことをしちゃったね..」
「俺か?..」
「ぷっ..2人ともだよ...」
「まぁな...」
目を覚ますとはるみちゃんは僕の懐にいた..
はるみちゃんが..みゃおん?っと僕の頭を撫でた..
「大丈夫じゃないよ##..」
「..>o<..」==てしゅしゃん..めじゅらしくこわいでしゅ..
「ねぇ..はるみちゃん..何で僕に内緒なんだろ..」
みゃぉ~~ん..っとはるみちゃんはまた僕の頭を撫でた
ベットサイドの時計を見た..9:30過ぎてる..
♪ぐぐぅ~~ぎゅるぎゅるぅぅ~~
僕のお腹が鳴った..
「お腹空いちゃったよぉ..」
「ンッケッケッケ..(>▽<)..」
「でもさ?..起きるのちょっと癪..」
ちぇみは僕を起こしに来る気配がない..ふんっ#..
はるみちゃんが僕の腕を両前足で挟んでクイクイ引っぱった..
僕はのろのろとベットから降りて..リビングに行った..
いつもと違う空気に僕の足が止まる..
mayoシはベランダの縁から下の道路を覗いていた...
ベランダに続く開いた窓に寄りかかるテソンさんは駆け寄ったはるみちゃんを抱き上げる..
ちぇみの左手はリビングのテーブルを軽く叩いている..
いつもなら♪が流れるリビングにはコン..コン..とテーブル叩く音だけが響いている..
『な..何さ..この変な緊張感...』
僕はのろのろとちぇみの背中に近づいた..
僕の気配に気づいたちぇみは腰に当てていた右手を伸ばし僕の頭を引き寄せた..
「...来たっ##」
mayoシの声に伏せ目がちのテソンさんとちぇみがピクンと顔を上げた..
mayoシがベランダから走って来た..
はるみちゃんを抱いたテソンさんがmayoシと廊下へ抜ける..
ちぇみは僕の頭を撫でつけて僕の腕を引っぱった..
「ぼ..僕..パジャマだよ?」
「いいからっ#..^_^ 」
「...??..」
僕たち4人は..ドタドタ..バッタン#ダダダ...トットコトットコ(僕..)..1Fの店に降りた..
ベーカリー物語_5 妄想省家政婦mayoさん
店の前にはいつもの工事の車の他に大きなトラックが横付けされていた..
僕等は店の正面の道路に並んだ..
現場監督のおやっさんはmayoシと左右がっつりHUGった..
テソンさんはいつもの”ご挨拶光景”に『ぁ~ぁ..まただ..』の顔をする..
ちぇみは近づいたおやっさんに頭を下げた..
「申し訳ない..おやっさん..」
「ったく..朝イチで取りに行けとは..」
「^^;;..」
「あんたもまよっぺみたいな無理言いおって..」
「...こいつに..早く見せてやりたくて..」
ちぇみは懐にいる僕の髪をくしゃくしゃした..
「だはは..じゃぁ..しゃーないわな..可愛いもんなぁ..タレ目君..」
おやっさんも僕の髪をくしゃくしゃした..
テソンさんとmayoシは僕等を見てにこっと笑った..
「ちぇみ..何なの??..」
「ん..今解る..」
ベーカリー正面入口は真ん中のドアを挟んで左右はガラスウィンドゥになっている..
トラックから降ろされた2つの大きな物は店の中に運び込まれた..
おやっさんはウィンドゥ前に降ろされたロールカーテンを上げた..
左右のウィンドゥ前の床にL字のストッパーが何枚か打たれた後..
W90cm..H160cm位..D8cm程のそれはストッパーの前に立てられた..
職人さん達が何重にも重なったエアキャップのカバーを外した..
「ちぇみ..@o@..」
「ぷっ..びっくりしたか..」
「ぅ..ぅん..」
立てかけられた厚みのあるパネルは
黒のアイアンで作られたレリーフの枠が乳白色のガラスに嵌められていて..
レリーフの枠とガラスの間には隙間があって..陰影を作ってる..
そして
左のウィンドゥ
と
右ウィンドゥ
とが対称になっていた..
「テス?..」
「何..テソンさん..」
「あの鳥籠持ってるのはテスだよ..」
「えっ#...@@」
僕はちぇみとテソンさんを交互に見た..でも2人がだんだんぼやけて見えてきた..
ちぇみが僕の目に溜まっていくものを親指で拭う..
「こんなにいい物ナイショにしなくたっていいじゃん..ちぇみの馬鹿..」
「^^;;...すまんすまん...」
「みんなでグルになってさ..テソンさんの馬鹿..」
「^^;;...ごめんごめん...」
「この下にいるのははるみだよ?」
「んみゃ#んみゃ# **^o^**」
はるみちゃんを抱いてウィンドゥのすぐ前にいた.mayoシが僕の側に戻ってきた..
「mayoシのいぢわる...」
「^^;;..ごめん..テスシ..」
おやっさんが外に出て来てちぇみの隣で表からウィンドゥを見た..
「天井から目立たんようにワイヤー補強せんといかんな...倒れたら大変だ..」
「お願いします..」
「ん...ぉーぉー..タレ目君..泣いちゃったかぁ??..がはは..」
おやっさんは今度は僕のほっぺたを突っついた..
「おやっさん..お披露目終わったんで..」
「ぉ..了解了解..」
ちぇみの言葉に頷いたおやっさんは職人さんに合図をした..
レリーフのパネルはまたエアキャップで覆われ..
ウィンドゥのロールカーテンがするすると降ろされた..
僕たちは作業を始めた職人さん達を残して2階のリビングに戻った..
お誘い 足バンさん
今日はマイッタ
イナのやつ「もらい泣きしていいぞ」ときた
僕としたことが不覚にも涙してしまった
今の僕はそういう言葉にすごく弱くなっているっていうのにあいつ
イナらしくないというか、らしいというか、優しい口調につられ
あの時なぜか僕はドンジュンのお父さんの言葉を思い出していた
あなたという人間を認めないということではない…
正直言って自分のことや直線野郎のことでちょっと不安定だった今の気分が
おかげで楽になった、ほんの少し。
知られるとつけあがるからイナには内緒だけど
閉店後の事務室はいたって静かだった
今日のミンチョルはリクエストは間違えなかったが
何やら少し神妙な顔をしている
「おまえ今日は無口じゃない?」
「そんなことはない」
「夕べはギョンジンもいなかったんだろう?寂しくなかった?」
「たまにはひとりもいいものだ」
「オックスフォードからメール来てる?」
「ああ…うるさいくらいだ…ケホ」
「あっそ」
「ドンジュンはどうなんだ?元気だって?」
「うん…まぁまぁかな…コホ」
「…」
「…」
「ミンチョル…ちょっと飲んで帰らない?」
「え?」
「どうせ帰ったって風呂入ってあの広い家でぽちんと寝るだけだろう?」
「まさか、仕事もあるしそれなりにやることもある」
「そうか、じゃいいや」
「…」
「…」
「どうしてもって言うならつき合ってもいい」
「うふふ…どうしても」
「ケホ…」
「素直じゃないやつ」
「あ、でも…」
「スヒョクの監視かっ」
「どうする?」
「あいつも連れて行けばいいんじゃないか?」
「「 名案! 」」
というわけで僕たちは「高いコジャレたバーなんかは嫌ですよ」というスヒョクを連れて
彼の馴染みの店に行くことになった
その居酒屋はBHCからかなり離れていて
ポップな色と電飾と熱帯魚、ジャンル無差別攻撃の音楽が大音量でかかっている若者向きの店
いつもとかなり違うノリだがこんなのも悪くなかった
でも一番楽しそうに騒いでいるのは…
大喜びでくっついて来たソクさんだった
「ねっチーフ!ミンチョルさん!いいでしょ!若返るでしょっ」
「ソクさんいつもこんな店で?」
「スヒョクが好きなんだよね、ね?」
「ソクさん!あまり飲まないで下さいよ!」
「まぁいいじゃないか」
「こんなメンバーで飲むことも珍しいしな」
「でもこの人酔うと女の人に抱きつくんですよ」
「「え、そうなの?」」
「あーんスヒョク!それは秘密だって言っただろぉ~」
「あーほら!こぼして!もうしょうがないんだから!」
「「…」」
文句を言いながらもソクさんの世話をするスヒョクを見て
僕もミンチョルも一瞬寂しさ倍増というムードになってしまったが
適当に注文しているビールや焼酎をあおっているうちに
そんなことも気にならなくなってきた
ミンチョルもミューズのことなど話しながら、珍しくハイペースで飲んでいた
「う…こぼした…」
「シミになるぞ」
「すぐにクリーニングに出せばいいんだろう」
「ちょっと洗った方がいい」
「まったく…早く戻ってもらわないとブツブツ…」
「何だって?」
「え?あ、その…コホッ企画が進まない」
「何が企画だ…正直に毎日困ってるって言え」
「何で僕が困るんだ」
「ふたりとも喧嘩はだめですよ」
「おお!やれやれ~!カッコつけてないでやれ~!」
「ソクさん酔っぱらい!煽らないで!」
「昨日も今日もぎりぎり出勤だったけど」
「遅刻はしていない」
「ギョンビンがいないと仕度にお時間がかかるとか」
「最近いろいろ忙しいんだ」
「で、昨日は思わずクールビズだったわけだ」
「…」
「ああ、ミンチョルさんそんなカパカパ飲んじゃ…」
「うははは、飲め飲め~」
「ソクさんってば!」
「だって男マエ同士の喧嘩って楽しそうだもーん」
などと
上機嫌で煽っていたソクさんは予想通り一番先につぶれた
「ううう…スヒョク…きぼぢわるい…」
「ソクさん!だから調子に乗らないでって…もぉっ!」
「ううう…がえりだい…」
「スヒョク、タクシーで送ってやれ」
「でも…」
「ううう…ズヒョグゥ…」
「もおおっっ!」
スヒョクは「飲んだらちゃんと帰って下さいよ!いいですね!」と100回くらい念をおして
ヨロヨロのソクさんを支えて帰って行った
僕とミンチョルは、そのどこか微笑ましくおかしなカップルを
ある同じ感傷とともにぼんやりと見送った
騒がしいソクさんがいなくなると周りの音量が急に大きなものに感じる
僕たちはチビチビと飲んでいたが
ロック調”ペッパー警部”が大音量でかかるとミンチョルの目がいきなり潤んだ
「何だよ…これってそういう曲か?」
「…らって…」
「場所変える?」
「いや…スヒョクにわかったら叱られる」
「それもそうだな」
「こんなところもたまにはいい」
「僕たち何でこんな禁欲に甘んじてるんだろう」
「きっ禁欲ってゆうなっ」
僕とミンチョルは何だかおかしくなって笑った
久しぶりにふたりで笑ったような気がした
そしてあまり飲んだことのない銘柄の酒を頼んで品評などをして楽しんだ
ずいぶん遅くまで飲んでいたが
若いふたり連れの女の子が寄って来てまとわりつき始めたのをきっかけに店を出た
タクシーを拾い先に僕の家に回ってもらい降りる
「ミンチョル、じゃまた明日」
「う…」
「どうしたの?」
「お客さーん、お連れの方気分悪いんだったら勘弁して下さいよぉ」
結局タクシーが去った後の我が家の前には
ちょっと困った顔の僕とフラついたミンチョルが立っていた
僕の酔った頭の中にはスヒョクの引きつった顔がチラつき
10倍にふくれたドンジュンと異様につり上がったギョンビンの目が渦巻いた
「しっかりしろ、気持ち悪いの?」
「うぅ…らいしょぅぶ」
「じゃないでしょうが、ほら後で送ってやるから1度家に入れ」
「うぅ…しゅまらい…」
「歩けるか?」
そう言う自分もかなり足にキテたんだけど。
妖怪の徘徊 ぴかろん
スヒョンがそんな目で出るのかと何度も言った
氷で冷やしたから大丈夫だと言ってやった
それにまだ開店まで時間がある
ぎりぎりまで冷やす…
目に氷入りタオルを当てて控え室で寝そべっていたら皆がやってきた
「あれっイナさんじゃん…何してんの?」
るんるん声が弾んでるラブだ…
ふん…
おまえはどうせじゅうじつしたよるをすごしたんらろ?ふん…
「どしたのさ…目、痛いの?」
「…こんな顔だから冷やしてんだよ!」
がっとタオルを取って腫れた目を見せてやった
ラブは目をまん丸にして引きつっている
横から変なサングラス男が俺を覗き込む
「どれどれ?」
と瞼に触ろうとするから腕を掴んでやった
「痛いなぁ何するんだよ、イナ」
「…お前誰よ」
「ギョンジンだよぉかつてお前と燃えるようなキスを楽しんだあのかっこいい…」
は?
このサイケデリックなマリリンモンローが?!
サングラスを外してやると確かにギョンジンの顔が出てきた
でも髪型がミニラブってかんじだ…
「イケてるじゃん…」
「えっ…そぉお?」
「…でも…似合わねぇ…」
「…お前どうしたの?その目は…」
「お前こそ、昨日の夜が凄かったからっていきなりそんな変身すんなよ」
「…」
ギョンジンはしゅんとした
「ん?」
「…昨日の夜の事は…触れないで…」
「んん?」
「…カーニバルにならなかった…」
「ええっ?不発かよ!お前が?!」
「…不発じゃないよ…一発だ…それも…10分ぐらいの…」
「…10分なら十分じゃん」
「…イナ…」
「俺なんか最長5分だぜ…」
「…それでそんな目になったのか?」
「…え…」
「5分では天国に行けないとか言った事が原因で、疲れて帰ってきた僕に何を言う…とかテジュンさんが言って、それでケンカして泣きはらしてその目か?」
「…」
その名前を聞いただけで条件反射のように涙が流れる…
「どどうしたのさっ!」
「イナさん…テジュンとなんかあったの?」
「ない…何にもない…ていうか…いない…」
「「へっ?」」
「…仕事…延びちゃったから帰ってこれなかったんだ…」
「「…」」
俺がそういうとラブは涙目になって俺の頭をナデナデしてくれた
「しゃびしかったね…」
「…ん…ちっと…」
「僕もナデナデしてあげうぐっ」がきっ☆
「アンタはいいの!」
「あんでだよ…」
「…きょうもひとりでねるら…」
「じゃ、今夜うちにおいでよ」
「そそそんなっラブぅぅ!今夜こそサンバナイトでカーニバルな夜をうぐっ」ばきっ☆
「ねっイナさん…」
「いいよ」
「だってイナさんしゃびしがりやのくせに一人で寝たらまた…」
「大丈夫らよ…そんな事に慣れないとテジュンの相手はできましぇん…」
「…イナさん…」
「イナ…ムリするなよ、そうだな、僕達はラブのうちのゲストルームとバスルームでおもにサンバカーニバルを繰り広げるから、お前はリビングとラブのベッドルームでくつろいでゆっくりうげっ」ぼこっ☆
「ばかじゃないの?!なんで別々の部屋に寝るのさ!一緒に寝ようよイナさん」
「…いいよ…そんなぎんぎらのエロの塊のいる部屋に行きたくねぇもん俺」
「じゃ、こいつ追い出すから」
「えええんラブぅぅ」
「ハウスさせるからさ!」
「いいよラブ…可哀想だよギョンジンがさ…」
「だって」
「お前だって…物足りなさそうな顔してるしさ…」
「いっ…」
「大丈夫。さんきゅ」
ラブの気遣いが嬉しかった
でもな…邪魔したくない…
俺はまたタオルで目を覆った
「なにこのタオル怪人」
うっ…一番見たくない顔の持ち主の声だ…
「え?イナ?なにしてんの?え?テジュンのバカが帰ってこなくて泣いた?」
「しいっ!ソクさん!そんな事大声で言ったらダメだよ!」
「だってスヒョク…事実じゃん…。なぁイナ~」
ソクは俺のタオルをもぎ取った
俺はヤツの顔を見たくなかったので目を瞑ってた
「ははーん、お前僕がテジュンそっくりだからそんな事して自分を誤魔化してぇ弱虫ぃ」
「む…」
「ばーか。へへへん」
「ソクさんっ!大人気ないです」
「なんでお前はそう寂しい寂しいって泣くのかねぇ…」
「…うるしゃいっ!ばかっ」
ソクなんか大嫌いだ!意地悪!
ふん!自分がなかなかスヒョクとひひんできないからって!意地悪ぶぁかっ!
「逃げるのかぁ」
「ソクさん…やめなよ」
「スヒョク、あいつは甘えすぎだよ!」
「ソクさん!」
「誰だって寂しいのを我慢してるんだぞ!」
「だけどイナさんは」
「強くなんなきゃテジュンの相手なんかできな」
「うるしゃいっ解ってる!しょうがねぇだろ!泣きたくないのに涙が出てくんだもん!お前なんかだいっきらいだっ」
「はーそれはよかった。テジュンのかわりに『キスして』なんて言われたらどうしようかと思ってたからね~」
「ソクさん…ホントに…やめなよ…可哀想だよ…」
ソクのぶぁか!
でも…
ほんとはちょっとだけ期待してた…
スヒョクがいない時に縋りついたら…ソクが抱きしめてキスしてくれるかなってさ…
そんな失礼な事…考えてた…
見抜かれたな…
控え室からトイレに行くと、鏡の前でネクタイと格闘しているキツネがいた
ネクタイ曲がってるし、それに…後ろの襟からネクタイがはみ出てる…
だまっとこ…
「失礼ですが、ここは関係者以外立入禁止ですよ」
ぶぁかかこのキツネ
「親友の顔も見忘れたのかよ」
「え?」
「俺だよっ!」
「…え…イナ?」
「そうだよっ!」
そんなに形相が違うのか?
俺は今日初めて鏡を見た…
おお…しゅごい目だ…
「しゅっごいな…俺…」
「特殊メイクに見えるぞ」
「…へへん…ところでお前何やってんの?」
「どうも上手く締められないんだ…なんだか首周りが苦しくて…ミンのシャツと間違えたかなぁ…」
「サイズ違うの?」
「…げほっ…基本的には同じだ!」
「じゃ…気のせいでしょ?」
ふん…見栄っ張り…ばか…
顔を洗ってからミンチョルにも言ってみた
「お前も寂しいの?」
「…は…」
「俺は…寂しいよ…」
「…どうしたんだ?そういえばその目、泣いたのか?」
ぼけてんな、相当…
「なんだ?テジュ…」
「その人が帰ってこなくて寂しくて一晩中泣いた」
「…そか…」
「しかもあと五日帰ってこない…」
「…ふうん…」
「寂しいだろ」
「…そう…だな…」
「寂しくてたまんないだろ…」
「だろうな…」
「ぶぁか!」
「なんだよ…」
「だから…寂しいだろ…」
「…」
「寂しくないか?そういう場合」
「…」
「なぁってミンチョル、寂しいよな?」
「だから…そうだなって言ってる」
「何が『そう』なの?」
「だから…そういう場合は…そうだなと」
「は?」
「は?」
「はじゃないよ、何が『そう』なんだよっちってんの!」
「…」
このキツネ…天然なのかわざとなのか…言えよぶぁか!てめぇも寂しいはじゅら!スヒョンらって泣いたんらからにゃ!
「そういう場合は…寂しい…のか?」
「お前だったらどうなんだよっ!」
このっ世話のやけるキツネだっ!
「…僕の場合は相手の立場を理解して、喜んで仕事に送り出し…」
「喜んで送り出したよ!ちゃんとテジュンの立場を考えて、あいつの気持ちを尊重して、送り出したよっ!」
「じゃあいいじゃないか…納得できたんだろ?」
「できてるよ、そういう面に関しては!けどテジュンの事を思ってテジュンのしたいようにって気持ちよく送り出すことと、俺が感じる寂しさって、別のモンだろ?」
「…。うん…そう…だよな…」
「だからそういう場合、お前はどうなんだよ、寂しいか?」
「…僕は…」
「俺は…寂しいんだよ…寂しくてさ…どうしょうもなくてグスッ…泣いちゃうんだよ…ええんええん…」
「…イナ…」
「ぶぁかぎつねっええんええん…」
「何で僕がぶぁか呼ばわりされなきゃいけない…」
「ひとりじゃなんにもできないくせに!威張るなぶぁかっ!」
「!何だと?お前、僕にケンカを売ってるのか?」
「…」
俺はキツネをじっと見つめた
涙が止まらない目でじっと見つめた
キツネの親指が伸びてくる
そして俺の涙を拭おう…としてその親指がっ目にっ目にっ
「いってぇぇぇぇっいてぇよっ何すんだよっぶぁかぎつね!」
「あ…すまない…どうも感覚が鈍ってて…大丈夫か?」
「…お前絶対お客様に親指ハンカチするんじゃねぇぞ!」
「…大丈夫だ…今はお前がおかしなことばかり言うから…手元が狂っただけだ…」
「…何で感覚が鈍ってるんだよ…」
「…何でかなぁ…」
こいつってば本当に…本当に
「鈍感!」
「むっ何だと?!」
「鈍感だから鈍感っちったまでよ!」
「…」
「自分の気持ちにすっげぇ鈍感!」
「…」
「俺は敏感すぎるらしい!」
「…」
「足して2で割れればいいのに!」
「…イナ…」
「親友だから…半分こできりゃいいのに…」
「…でも…寂しさは…変わらない…」
ミンチョルは俺の耳元でそう言って、俺の背中を撫でた…
やっぱりお前も…寂しいんだよな…
「ミンチョル…」
「…」
「どうしたら泣かずに済む?」
「…いいじゃないか…泣けば…。素直に自分の感情を出せばいい…。それがお前のいいところだから…」
お前も泣けばいいのに…
ぶぁかな奴
アイツの胸でしか泣けない?
アイツか天使の胸でしか…泣きたくない?
「おれじゃやくにたたないか…」
「…ぶぁ~か…」
ミンチョルは顔を背けたまんま、俺の頭を小突いた
意地っ張りの見栄っ張りめ…
やっぱりネクタイが襟からはみ出てること、だまっとこ
ふん…
天使のがよっぽど素直ら…
もう一度顔を洗って俺は店に出る準備をした
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