ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 141

優しい夜  足バンさん

部屋に入って真っすぐ横切り
窓に向いたソファにミンチョルを座らせる
背もたれに頭をのせて「おまえのうちの天井は回るのか」なんて
真面目な顔で言っている酔っぱらいに冷たい水を飲ませた

僕がジャケットを脱ぎソファに放り投げると
ミンチョルも上着を脱ごうとして腕を袖に引っ掛けて唸っている
こんなやつを置いて行くんじゃギョンビンもさぞ心配だろうと苦笑しながら手を貸し
ネクタイも緩めてやった

「ほれしっかりしろ、水もう少し飲むか?」
「飲む」
「しょうがないやつだな」
「イナに言われた…ひとりじゃ何もできないだろって」
「ふふ…あいつに言われたくないな」

再びキッチンに行きグラスにミネラルウォーターを入れながら見ると
白いソファに寄りかかり天井を見上げているミンチョルは
なぜかくふくふと小さく笑っている
そして振り返り子供のようにソファの背に顎をのせた

「スヒョン…今日は楽しかった」
「何だあらたまって」
「…自分じゃどうしていいのかわからなかったから」
「ソクさんたちの功績も大きいよ」
「あてられたけど」
「いいカップルだ」
「はぁ…楽しいもんだな、こんな風に天井を回してみるのも」
「回ってるうちはいいけど歪んできたら要注意だからね」
「変わった家だな」
「たまに中央が開いてニッキーのシルクハットが降って来る」

ミンチョルはおかしそうに笑って転がった
今日の静かすぎたミンチョルが気になっていたのでひとまず安心

しかし
次の瞬間僕は固まることとなった

不意にジャケットから滑り落ちていたらしい僕の携帯が鳴り
僕がソファに辿り着く前にミンチョルがその携帯を手にしたからだ

こんな非常識な時間に掛けてくる相手といったらひとりしかいない

酔っていい気分のミンチョルが何の危機感もなく「はい」と電話に出たその時
僕の顔はきっと絵に描いたようなマヌケヅラだったろう

相手が判明し一瞬にして我に返ったミンチョルが
ソファから滑り落ちそうになりながら、強ばった顔で携帯を差し出した 
僕は焦ってダイブしソファの角に膝をぶつけてコケそうになり 
床に不時着してやっとのことで電話に出た 

「あっドンジュン?元気?」
『…何やってんの?』
「いや、寝てたんだけど…寝ぼけてた…ちょっと酒も入ってて」
『ふぅん…』

凍り付いていたはずのミンチョルは
正座をして膝をさすりながら電話をしている僕を見て声を殺して笑っている
そして何となく怪しんでいる気配のドンジュンはやっぱり

『ね、愛してるって言ってみてよ』

”みてよ”ってところが重要なポイントだ
膝に頬杖をついてじっと見ているミンチョルを意識する僕は、当然キレがない

「あ、あいし」
『もぉいいっ!じゃね!』ブチッ

一方的に切られた携帯を持って呆然としているとミンチョルは堪え切れずに吹き出した
僕はたっぷりその非情な男の顔を睨んだ後
ソファの上にあったミンチョルのジャケットに飛びかかった

「ギョンビンにも掛けてやるっ!携帯よこせっ」
「うぁっあっやめろっ」
「僕たちはずーっとずーっと毎晩一緒だって言ってやるっ」
「やめろっうははっやめろって腋はっ腋はっ」

僕は思いっきりミンチョルをくすぐり倒してやった
憂さ晴らしをするように、僕たちはムキになって子供のように戯れた
珍しいミンチョルの大きな笑い声がどこか心地いい

ソファの上でひと暴れするとまだまだ酒が抜けないふたりは息が切れた
僕はひぃはぁ息をしながらずるりと座り背もたれに頭をあずけた
ミンチョルはくすぐり倒されたまま寝そべり僕の膝の上に頭をのせて笑っている

「こんな…ところで…運動させるな」
「よけい酔いが回った?」
「ミンに知れたら怒るだろうな」
「こっちはもうアウトだな、ドンジュンは疑ってる」
「ロンドンで疑惑が伝わるな」
「ロンドンかぁ…あいつら楽しそうだよなぁ」
「…」
「ん?」
「早く…帰って来ないかな」
「ふふ」
「何だ」
「やっと正直に言った」

見下ろすと膝の上のミンチョルが上目を向けてくふっと笑う
僕はミンチョルの目にかかった髪を中指でそっと整える

「何か不安なことでもあるの?」
「ない…出発前にきちんと話した」
「ちゃんと言えた?」
「ミンが選んだ仕事なら…それを理解できる自信があると言った」
「そうか、もう前みたいに無理することはないね」
「ああ…そんな気がする」
「よくできました、ご褒美にキスしてあげようか」
「ばか」

ミンチョルは微笑んで瞼を重そうにしばつかせている

「寝ていけよ…朝早く帰ればいいでしょ」
「ん…」
「ベッド使っていいよ」
「もう少し…こうしていていいか…」

目を閉じてしまったミンチョルの顔をしばらく眺めながら
懐かしい髪を指先でそっと梳きつづけた

自分が寂しがっていることにさえ気づかずひとりで頑張っちゃうのは
小さな頃からそうせざるを得なかったからだろ?
おまえはそうすることで自分を真っすぐ保ってきたんだろ?

ハメの外し方もわからない不器用なやつ
そんなやつが安心しきってくれている
そんなことに小さな満足をおぼえている僕も少しは成長したのかな

寝息をたてはじめたミンチョルを膝からそっとおろし上掛けをかけてやる
そして僕は灯りを消して
窓の外の月を肴にもう1杯だけひっかけた


早朝
何となく熟睡できぬまま目を覚ました僕は
まだ寝ているミンチョルを起こさないようにシャワーを浴び珈琲をいれた

遅れて目覚めたミンチョルにもシャワーを勧めたが
帰ってから浴びると頑に断り顔だけ洗って髪を整えていた

珈琲を口にしながらミンチョルは自分の携帯を見て声をあげた
昨夜飲んでいる時間にイナから何度も着信がありその上
「お前んちに来たのにお前はいちゅまでたっても帰ってきましぇん」というメールまできていたらしい
ミンチョルは慌てて立ち上がり上着を羽織った

「送って行くよ」
「車を拾うからいい、あまり寝てないだろう?」

ダイニングテーブルに寄りかかり玄関を出て行くミンチョルを見送っていると
ドアノブに手を掛けたあいつの動きが止まった
そして振り返りそのまま歩いてきて
ちょっと躊躇してから静かに僕を抱きしめた

「ありがとう…」

身体を離して顔を覗き込むと優しい落ち着いた目をしていた

「素直に言えたご褒美にキスしてあげようか」

僕は自分の左手の指先にキスをして
その指先をミンチョルの唇にそっと押しつけた
唇はほんのかすかな音をたてて応えた

ミンチョルは微笑んでもう一度ありがとうと言って身体を離し
早朝の空気の中に出て行った

部屋に流れ込んだ冷たい空気は少し秋の香りがした


親友との遭遇  ぴかろん

いくらかふらつく頭で通りに出、車を拾ってマンションに帰った
トンプソンさんはにこやかに僕を迎えてくれた

「キム・イナ様が昨夜からお待ちかねでございますよ。お部屋にお通しいたしました」
「ありがとう。…電話に気づかなくてつい朝まで飲んでいました…」
「たまには息抜きも必要でございますね。サプライズと仰っておられましたが、反対にイナ様にとってのサプライズでしたね」
「…僕にも十分サプライズですよ…では…」

エレベーターに乗り込み、ため息をつく…
全く…あの『親友』は…

イナが来ていなければ僕は今頃どうしていただろう…
スヒョンの部屋でシャワーを浴びて、朝食を共にし…それから…
どうしていただろう…

ふっと笑いが込み上げる
楽しかった夕べを思い出す
ドンジュンから電話があった時のスヒョンの慌て様ったらなかった…
あんなに声を出して笑ったのは久しぶりだ…

スヒョンのくれたキスを思い出して僕は唇にそっと触れた
エレベーターの扉が開き、目に飛び込んできたのはソファに掛かっている毛布だった

こんなところで寝たのか?
部屋で寝ればいいのに…

ソファに向かう前にキッチンに入る
スーパーの袋が無造作に置いてある…
手土産のつもりだろうか…
中をちらりと見てみた

「う…」

スーパーの棚に並んでいる菓子パンがあった…
手に取ってみる
僕の好きな物を選んでいるイナ姿が目に浮んだ
だけど僕はこういう類のじゃなくて、ちゃんとしたベーカリーのくりいむぱんやちょこれーとぱんが好きなんだぞ…

そう思いながら袋を破って食べてみた

たまにはいいかもしれない…懐かしい味がする…

冷蔵庫を開けて、ミルクを取り出す
コップに入れて飲み干す
ミルクを戻そうとした時、お気に入りのカマンベールチーズが一つなくなっているのに気づいた…

食べたんだな…
まぁいい…

僕はソファで眠っている親友の方に歩いて行った
テーブルの上には食べ散らかした跡がある

ん?なぜままごとセットのコップと皿が?
…ワインまで注いである…
なぜ?

毛布に包まっているイナの寝顔は泣き疲れた子供のようだ
こんな風にイナの顔をみつめたことなんかなかったな…
また泣いた?
涙の跡が残ってる…

頭をそっと撫でてやる
無防備で無邪気なイナに触れていると、まるで僕とイナが融けあうような気がした
『自分の気持ちに鈍感らしい』僕と『敏感すぎるイナ』が『足されて2で割られる』ような感覚…

『親友だから…半分こできりゃいいのに…』

…半分こしてるみたいだ、イナ

「…でも寂しさは変わらない…か…」

ふふ…自分で言った言葉を思い出すよ…
素直だな…お前…
お前、泣いてても寂しがってても、こないだみたいに澱んでないよ…
気持ちが真っ直ぐにテジュンさんの方を向いてるね…

僕は…
僕も…

イナの髪に触れながら、僕はスヒョンの指が僕の前髪を梳いていた感触を思い出した
胸に甘い疼きが起こる
口元が緩むのと同時にふいに涙が流れた
イナの寂しさがうつったのかな…

ね…
早く帰って来るといいね…イナ…

心の中で呟くと、熱い塊が込み上げてきた
唾を飲み込むと、塊は降りて行き、僕は平静を取り戻す
ただ、涙がもう一筋流れてきた

『テジュンのしたいようにしろって気持ちよく送り出す事と、俺が感じる寂しさって、別のモンだろ?』

寂しいと感じてはいけないと思っていたんだ…
そんな風に感じると、ミンの気持ちを萎えさせてしまうんじゃないかと…

「別のものなのか?…別に感じていいのか?…別の…ものだよな…」

軽いため息をついて、僕は立ち上がった
シャワーを浴びよう…
スヒョンの優しさとイナの無邪気さと僕自身の様々な感情が僕の周りを漂う

「早く…帰って来てよ…」

声に出して呟くと、また涙が流れた



「んぁっ…あ…今何時だ?!」
『8時れしゅ』
「ん?ああ、おはようミソチョル…苦しくなかったか?」
『あい~らいじょうぶれしゅ…あのぅ…ミンチョルさん、帰ってきたみたいれしゅよ』
「え?ほんと?」
『クンクン…パンのにおいがしましゅ!』
「…あいつ、俺の土産を食ったんだな…」
『イナしゃん…』
「なんだ?」
『またあしょんでくらしゃいね』
「おう!また酒飲もうな」
『あい~。んじゃぼくはちっとぬいぐるみにもどりましゅ…』
「ん…」

ミソチョルを胸の上に乗せて、俺はヤツと会話をした
確かに会話をしていた
なんの違和感もなく…

二日酔いなんだろうか…夢の続きなんだろうか…それとも現実なんだろうか…
今、胸の上にいるミソチョルは、ただのぬいぐるみだ…
さっきまで話していたのに…

俺は起き上がってテーブルの上を見た
食いかけのチーズ、チョコレートにポテトチップス…
ミソチョルが頑なに拒んだ茎わかめ…

そんなものが残っている
ミンチョルが帰ってきたとか言ってたなぁ…
それも夢かな?
ふぁぁぁ…そうだよなぁ…もし帰ってきたなら俺を揺り起こすにちがいない…ふぁぁぁ…
ああ…二日酔い気味だし、シャワー浴びよっと…

朝ならだだっぴろい風呂でもしゃびしくないぜ…

俺は鼻歌を歌いながらジャグジーのあるバスルームに向かった
脱衣室でバスローブを脱ぎ、扉を開けるとジャグジーにミンチョルが入っていた

「…」
「…」
「起きたのか?」
「帰ってた…本とに…」
「?」
「ミソチョルの言った通りだ!」
「…どうしたんだ?頭打ったのか?ミソチョルが何だって?」
「俺は…お前と一緒に風呂に入るのか?」
「…入ってもいいとは言ってないぞ」
「…いつ帰った?」
「ついさっき…」
「何で起こさなかったんだよ!」
「よく寝てたから…」
「どこ行ってたんだよ!」
「…イナ…入るなら入れよ…目障りだ」
「俺が目障りなのか?!」
「お前がじゃない…お前の裸が目障りなの!」

俺はとりあえずジャグジーに浸かった
何だか気恥ずかしい…ミンチョルと二人でジャグジーだなんて…

そういえばこいつ、朝帰りだ…
誰とどこで何をしていたんだっ!

「何で来たの?」

先にミンチョルが聞いてきた

「歩いて」
「じゃなくて…どういう理由で僕のマンションに来たんだ?」
「決まってるだろ?しゃびしいからだよ…なのにお前帰ってこなかった。誰とどこで何してたんだよっ」
「…スヒョクさんとソクさんとスヒョンと四人で、スヒョクのいきつけの店で飲んだ」
「で?」
「で、タクシーで帰ってきた」
「どこへ?」
「…」
「スヒョンのうちだな?んで…お泊りしたんだな?!何かしたのか?」
「してないよ!お前じゃあるまいし…」
「どういう意味さ!したんだな!」
「飲みすぎたから酔いを覚ましてただけだ…」
「…。お前らって…。どうなってんの?」
「え?」
「…終わらせてるんじゃ…ねぇの?」
「…終わらせるって…」
「お前達の気持ち」
「…ああ…」
「気持ちが終わってても…また燃え上がるもんなの?」
「は?燃え上がる?何言ってるんだよお前は…」
「…穏やかな顔してる…」
「…」
「スヒョンに癒してもらった?」
「…」
「…はぁ…やっぱ、スヒョンは凄いな…」
「…」

ミンチョルは何も言わなかった
昨日一日変に力が入ってたみたいだけど、それが抜けたようだ…

「泣いた?」
「え?」
「天使の胸で泣かせてもらった?」
「…いや…スヒョンちで大笑いしてきた…」
「…ふぅん…。だからかなぁ…なんかすっきりしてるように思える」
「スッキリしたよ」
「やけに素直だな」
「そう?」
「うん…」
「…イナ…。すまなかった。まさかお前が来てるとは思わなくて」
「何度も電話したのにさ…」
「店がうるさくて気づかなかった…すまない」
「…いいよ…」
「テジュンさんいつ帰って来るんだ?」
「四日後かな?」
「今日も泊まっていけよ」
「やしゃしいじゃん…どうしたんだよ…まだ酔いが残ってるのか?」
「残ってるかもな…。ああそれと…くりいむぱん、有難う」
「今度はちゃんとパン屋のくりいむぱん、買ってきてやるよ…」
「そうしてくれ…。懐かしい味だったけど…やはりベーカリーのパンが僕は好きだ」
「はいはい」
「お前も落ち着いたみたいだな…」
「ああ…ミソチョルが助けてくれた…」
「は?」
「抱きしめて眠ったからさ…あいつ怒ってたぞ…夢…夢の中で…お前がちっともかまってくれないって…」
「…ミソチョルが夢に出てきたのか?」
「…多分…」

ミンチョルと俺は、ボコボコと弾むお湯の中で話し続けた
のぼせそうになったのでお湯から出た

「イナ…もしも僕が留守でも、今度からはちゃんと部屋で寝ろよ。前に使った部屋で寝ればいい」
「…うん…」

体を拭いているミンチョルに声をかける

「なぁ…スヒョンはやっぱり…大人だな…」
「…ん…。天使だからな…」
「はぁ…俺は何の役にも立てねぇなぁ…ふぅ…。先にリビング行ってるな」
「…イナ…」

廊下に出ようとした俺を呼び止めてミンチョルがちょっと照れながらこう言った

「半分こ…できたよ…」

意味不明…
解るように話してくれ!


ドンヒの受難 れいんさん

突然でびっくりするかもしれないが、僕はケガをした
今日から当分ギプス生活を送る事になる
骨折とまではいかないが、両手首にヒビが入った

どうしてそんな事になったかって・・
もちろんホンピョのせいだ
ブルーが家族になってからは、扉はちゃんと閉める様にと言っておいたのに
あいつがすっかりそれを忘れて戸を開け放していたんだ

案の定、ブルーは外に抜け出した
この辺りは道幅が狭い上に見通しが悪い
通りに出ると車の往来も激しい
子猫のブルーには危険な場所だ
普段は公園みたいな安全なところに連れて行って遊ばせている

想定内の事だけど、ブルーの面倒はほとんど僕が見ている
あいつは面倒な世話は人任せで、つついて遊ぶ時や抱っこして眠る時だけ飼い主ヅラだ
あげくの果てに、あれ程うるさく言っておいたのに・・

僕は慌ててブルーを探しに外に飛び出した
トコトコ歩いているブルーを見つけてほっとしてたら
1台のオートバイが結構なスピードで走って来た

道の真ん中で急に動きを止め振り返るブルー
ばかっ!そんな所で立ち止まるなっ!
早く渡っちまえっ!

僕はブルーに向かって猛ダッシュした
間一髪、ブルーをダイビングキャッチし、道端にごろごろと転がった
ブルーが無事だったのは何よりだったのだけど、転がった拍子に打撲して、ほら、この通り

「おめえ、案外運動神経鈍いな」
「そのぐれえで骨にヒビ入るなんてよ、カルシウム不足じゃねえのか」

なんて、あいつは神経逆なでする事をほざく
いったい誰のせいだと思ってるんだ

痛みさえ治まれば、仕事にはさほど支障はないから(いや、多少はあるのかな)
とりあえず店には出勤する事にした
ギプスも1週間くらいではずせそうだ
だけど、曲げたり伸ばしたり、自由に動かす事ができない
指先も使いにくい

一番困るのがトイレと風呂と着替えとごはん・・
要するに身の回りの事が一人じゃできないんだ

まさかヨンナムさんにトイレの介助をしてもらうわけにはいかないし
スヒョクさんも何やら監視活動でピリピリしている
ソクさんにいたっては論外だ
そういうわけで、これまでに裸の付き合いはある(風呂に入ったって意味だけど)
ホンピョに渋々頼む事にした
だって・・ズボンを脱いだり履いたり、ファスナーを下ろして・・ナニをその・・
そういう繊細な作業ができないんだ

あいつがゴロンと寝そべってTVを観たり、ブルーをからかって遊んだりしてる時に
「トイレに行きたいから手伝ってくれ」
なんて言うのは、できれば僕だって言いたくない

「へへん。けっ。俺がいねえと何にもできねえな」
「俺が傍にいる事に感謝しろよな」
「この礼はたんまりしてもらわねえとな」

なんてあいつの鼻がグングン伸びるのを僕はググっと耐えている
元はといえばあいつのせいなのにさ
しかしそれを言って今ヘソを曲げられては困る
急を要する生理現象には僕も勝てない

不幸中の幸いで、今、もよおしてきたのは『小』の方
あいつがトイレのドアを開け、便器の前に立つ僕の真横に座り込む
なんとなく・・微妙な位置だ

「あのさ・・そこに座り込むなよな。目線がちょうど・・だろ?」
「ふんっ!俺だって、んなモン至近距離で見たかねえぞ」

あいつは僕のデニムに手をかけてそろそろとファスナーを下ろす
おい!おまえ!わざとゆっくりファスナー下ろしてるだろっ
僕だってギリギリまで我慢してたんだから、さっさとやってくれよっ!

って思ってたら、あいつが僕のモノを掴んで・・その・・
ああ・・あんまり詳しく説明したくない・・

補足すると、男の場合、その・・
用を足している時は手を添えて狙いを定めないと不都合が生じる
で、何が嫌かって・・用が済むまで二人でじっとその一点を凝視している・・
それが嫌なんだ!
恥ずかしいったらない!

そんな風にじっと見られていると
あいつの指が僕のそれに添えられていると・・
若くて健康な僕は、またまた別の生理現象を起こしてしまう

「へへへっ。おめえ、トイレするたんび、ココが元気になってんぞ。この変態っ」

うるさいっ!
だからジロジロ見るなってば!

生理現象を起こした僕のそれは用が済んでも静まるまでデニムの中にしまってもらえない
無理をするとファスナーが引っかかって・・痛い目に遭う

こんな情けない生活、いったいどれくらい続くんだろう・・
これよりも恥ずかしい事まだやらなきゃいけないんだろうか・・

それにしてもあいつはそんな状況を明らかに面白がっている!
「おめえのシモの世話したらよ、ほれ、手に引っかかっちまったぜ。おーーばっちいばっちい」
なんてあいつはやけに丁寧にゴシゴシと手を洗っている
普段はよく手を洗い忘れるくせに!

これからしばらくあいつの世話になるかと思うと泣けてくる・・
本当はちゃんと病院に入院して
若くて可愛いナイスバディなグラビアアイドル風ナースにお世話してもらえたはずなのに

あいつが
「一人じゃしゃびしいっ!」
「店も今、人が足りないから休まれちゃ困んだ」
「おめえだけカワイコちゃんに世話してもらうなんてイイ思いさせられっかよ」
なんて言い張って自宅療養を余儀なくされたんだ!
くっそーー!ホンピョめ!

僕はくるりと背を向け拳をギュっと握り締めこっそりと涙ぐんだ


cucina_8  妄想省家政婦mayoさん

「テソンさん..チュニスン(チュニル&スングク)が『どうぞ..』って..」
「ん?..何..」

テスがオールインから小さな桐箱を貰ってきた..
桐箱に入っている金色の小さい茶筒の中身は玉露だ..
闇夜はまた追加で日本に頼んだフカヒレの姿煮が昼前に大量に届いた..
それをオールインのオヤジたちにおすそわけをした..玉露はそのお返しだ..

「いいのかな..高いお茶だよ?..」
「い~んじゃない??..」
「そ?」
「ぅん..ほらぁ..オールインは年齢層高いからさっ..喜んでたよ..」
「はは..そっか..」
「みんなで『わしらもつるつるになりますかな...』ってほっぺた触りっこしてたっけ..」
 このお茶は..家で飲んじゃぉょ..」
「またちぇみに和菓子作ってもらうか..」
「ぅん..^_^」

「昼間さぁ..テソンさん達..出掛けなくても良かったのにぃ..」
「だって昨日の夜からさ..ろくにじゃれてなかったみたいだしさ..」
「みんなで僕に意地悪したからでしょ!?」
「^^;;..ゆっくりした?..2人で..ぷふっ..」
「えへっ..ちょっとね...ぷふっ..テソンさん達は何処行ったのさ...」
「ん?..RRHのマーケット..」
「好きだねぇ.」
「あそこは飽きない..僕と闇夜のオアシス...」
「あっそ..^^;;..あとは?..」
「シャツ工房に付き合った..」
「またオーダーした?」

「ぅん..闇夜が今回は凝ったデザインにしたい#って始まったんだ..」
「ぷっ!..ああだこうだって..バトったんでしょ..工房の彼と..」
「そっ#..彼が『勘弁してくれよぉ..んなめんどくさいの出来るかよ..』ってブツブツ..
『ふふん..出ぇ~来ないわけ??』って..闇夜も引かない..見てるとハラハラするよ.」
「ぷっ..それも結構楽しんでるくせに..クッチ#..(でしょ?)」
「まぁね..ぷふっ..」
「えへへ..仕上がり楽しみ..」
「ぅん..」

「ねぇ..工房の彼ってさ..イケメンだよね...背高いし..顔小さいし..」
「元モデルらしいけど..闇夜の好みじゃないと思う.」
「なんで?」
「ほら..闇夜は顔デカ好き..」
「ぷひひ..マジャマジャ!!..」
「どっちかっていうと..ミンジュンの方が闇夜の好みかな..」
「誰..それ..」
「インテリアショップの彼..仲いいんだ..彼も元モデル..」
「へぇ..顔..デカイの?」
「小さくはないね..それに..はるみがなついてるみたいだなぁ...」
「心配?」
「ん?..大丈夫..」
「ならいいけどさっ..」


闇夜は1時間ほど遅れて来て..テスと僕に声をかけた..
テスが闇夜の背中をとんとん叩き..僕は腰をきゅっと掴む..

ヨンジュンは夕方僕等が店に来るちょっと前に家に駆け込んできた..
指の長い手のひらを広げ「ハァ~ィ ^o^」と僕等に挨拶をした後ちぇみと部屋に入った..
ちょっとするとちぇみは部屋から出て来て闇夜を呼んだ..
僕とテスは3人を残して先に店に来たのだった...

「ヨンジュンは?」
「ちぇみがオルシン邸に行くついでにヨンジュンさん送って行った..」
「なぁんだ..帰っちゃったんだ..ヨンジュンさん..」
「寄るところあるみたい..」
「あっちこっちに忙しいんだぁ...」

テスの言葉にくすっと笑った闇夜は長い髪を一本のコジで器用にまとめ..
別の作業台でフルーツを切り始めた..
作業の合間に手の止まった闇夜の横顔が目に入った..

『ここんとこ忙しかったからな..疲れてるのか..』

僕がそんなことを思いながら闇夜を見ていた..
そんなボンヤリ闇夜に店内から来たソヌが近寄るのが見えた..


パチン★パチン★

目の前で指が鳴る..ソヌだ..

「ぁ...」
「これ..ちょっと食べたいんだけどな..」

ソヌは切ってる途中のメロンを指さした..

「ぁ..はひ..」
「君でもぼやっとすることあるんだ..」
「(・・;;)..」

ソヌは口元でちょっと笑った..
メロンは小皿に分けると同時にソヌの手によって..ソヌの口に収まる..
大きめカットのメロンをモグモグしながら..ソヌの小鼻はちょっと広がり..目元が緩む..
3切れ目のメロンを食べ終わり..口端を親指で拭った後..
ソヌは満足そうにまた口元でちょっと笑った..

カーゴパンツの右腿脇のポケットから縦に丸めて突っ込んでいた雑誌をソヌに渡した..

「何..」
「後でゆっくり読んで下さい..」
「..??..」

薄い雑誌をパラパラめくっていたソヌの手は私が上をちょっと折ったページで止まった..

目を見開き..唇四分開き..首を1..2..3..かすかに傾げる....5秒経過

雑誌をぱんっ☆と閉じ..口をあむっ..と閉じ...
タッタッタとスパイ小屋へ上がり..雑誌を置き...タタタと戻り....12秒経過

カツ>カツ>カツ>....厨房の入り口でくるり振り返った..

「...@_@..」...3秒経過

で..踵を返し..カツカツ#カッツン##...と店内へ消えた....一連の動作..計約35秒


ソヌの様子を見ていた僕の側に闇夜が来た.

「ソヌを怒らせた?..カツカツが...」
「..動揺..じゃない?」
「何見せたの..」
「ぉん..例のフード雑誌..」
「ぁぅ..そっか..やっぱビンゴか..」
「ぅん..」

「mayo..」
「ぅん?..」
「刃物を持ったまま..ぽやん@と他の事考えちゃ駄目だ..」
「ぉん..」
「手に落ちたら怪我するだろ..アラッチ#..@@」
「ア..アラッソぉ~ぉ...(*_ _)」

僕に睨まれた闇夜はアヒルの口でまたすぅ~と側を離れ..
オーダーのフルーツ盛り合わせを準備した.


Homework オリーさん

「どこか具合でも悪いの?」
ローストビーフのおかわりを断った僕に奥さんがいぶかしそうな顔をした
「さすがにちょっと疲れちゃったみたいで」
僕は曖昧な返事をした
とても美味しいはずの食事が喉を通らない
かろうじてデザートのブディングを飲み込んで席を立った
「すみません、今日はもう休みます」
アンドルーさんはそんな僕に優しい視線を投げた
「ゆっくり休むといい」
僕は目礼して二階に上がった

「どうして応えてくれないのかな」
どのくらい時間が経ったのかわからなかった
教授の声で我に返った
「同性とは初めてかな、それとも彼女のことを心配してる?」
教授の言葉に僕は目をつぶった
今は絶対に思い出したいくない彼の姿が浮かんだ
空港でずっと後ろを向いていた彼
僕はその場に崩れ落ちそうになるのを必死でこらえた
「別に相手がいてもかまわない、僕は寛大な人間だから」
僕の腕を取り教授は歩き出した
「そろそろ閉まる時間だ」
僕は引かれる腕を振り払う事もできずに教授の後についていった
後ろで巨石がさわさわと囁いたような気がした

薄暗い田舎道をBMWは風のように走っていた
僕も教授も押し黙ったままだった
ほとんど対向車もこない道路はまるで異次元の世界、
この世のものではないような気がした
本当にみんな夢だったらいいのに
窓に肩肘をついてずっと拳を噛んでいた
闇のおりたスロープに自分の心を重ね合わせていた
教授が突然僕の手を握り締めた
自分でも驚くほど体がびくりと反応した
「どうした、黙り込んで」
僕は拳を噛んだまま答えた
「片手運転はやめてください。危険です」
次の瞬間大きくタイヤがきしむ音がした
BMWは田舎道の路肩へ少し乗り上げた格好で停まった

「君の言うとおり、片手運転は危ない」
教授はシートベルトをはずした
「何か話してくれないか」
僕は窓の外を見たまま答えた
「話すことはありません」
教授は腕を伸ばして僕の肩を持つと体を内に向かせた
「そんなに嫌われてるとは思わなかったな」
僕は薄闇の中の教授の顔を見つめた
「先生のことは尊敬してます」
教授は小さく笑った
「先生に逆戻りか。君も僕に何か感じてくれてると思ったけど」
「僕の態度で誤解させることがあったら謝ります」
「君を見た時からすぐピンときたのでね、君もそうだろうと」
「僕はただ先生に協力していただきたくて。仕事ですから」
「僕もドライブの終わりにはいい答を出せると思っていた。君の協力を得てね」
「そんな条件がつくとは思っていませんでした」
「仕事もプライベートも充実させたい。僕の信条だ」
「僕は仕事とプライベートは分けるタイプです」
「君は楽しい」
教授は今度は大きく笑った
「だったら仕事を充実させるためだと考えたらどうかな」
「取引ですか」
「そういう言い方は好きではない。ただ・・」
教授は僕の顎を軽くつかんだ
「応えてくれるね、君もプロなら」

教授の唇がまた僕をとらえ、僕は目を閉じた
逃げ場を与えられ、そして追い込まれた
彼はプロで、僕はみっともないくらいアマチュア
観念して塞がれた唇をわずかに開いた
教授はゆっくりと僕の中に入りこんできた
僕は頭を空っぽにして彼を受け入れ、応えた
教授は体を乗り出して僕を抱き寄せ、さらに僕の中へ深く押し入った
僕は教授の肩口のジャケットをきつく掴み震えるのをこらえた
教授は時間をかけて僕を試し、満足するまで僕に試させた
気が遠くなるほどの長い口づけ
教授は唇を離すと僕の頬に手を当てた
「思ったとおりだ。さっきよりだいぶいい。」
そしてハンドルを握りBMを再び走らせた
僕はまた拳を噛んで目に入らない景色を見つめた

大学に戻って自転車置き場の横に車は停まった
車を降りる僕の手を教授は掴んだ
「明日の予定は知ってるね」
「ブライトンで会議でしたね」
「そうだ、一日留守にする。君は明後日帰国の予定だったね」
「夜の便です」
「昼間会おう。電話してくれ」
「わかりました」
「宿題を出そう」
「・・・」
「僕は君に条件を提示した。受けるかどうか答を用意してきなさい」
僕は唇を噛んでうなづいた
教授は僕を見据えたまま僕の手の甲に唇を押し当てた
「今度はキスだけで満足はしないよ。
場合によったら帰国を延ばしてもらうかもしれない」
そう言い残してエンジンをかけ直し軽やかに走り去った

自転車を押して宿とは別の方向へ歩いた
クライスト・チャーチ・メドウが目の前に開けた
昨日教授とランチを食べた芝生
大の字になって寝転ぶと体の中から熱いものが突き上げてきた
こらえきれず大声で叫んだ
僕はこんな事に負けたりしない
必死で自分を励ましこみ上げるものをこらえた

しばらく芝生で寝そべった後自転車を押して帰った
アンドルーさんの家の灯りが見えた時
また熱いものがこみ上げてきて、それをこらえるのに苦労した
呼吸を整えてチャイムを鳴らした
奥さんの暖かい笑顔が僕を出迎え、
テーブルセッティングが整った食卓に通された

部屋に戻り、のろのろと机の上のパソコンを立ち上げメールボックスをのぞいた

最初にドンジュンさんから返事が来ていた
明日の予定を知らせてくれた
ドンジュンさんの太陽のような笑顔が懐かしかった
あの真っ直ぐな視線に僕は明日耐えられるだろうか
『ウォータールー駅で出迎えます』
短い返事を出した

次に彼からのメール
クリックする手が少し震えた
『洗濯物の心配はいらない。それより引き受けた仕事をしっかりやること。
それと、いつか旅行しよう。ロンドンでもパリでも、どこへでも二人で』
こらえていた涙が出た
幾筋も頬を伝わった
泣いてすませられるような事じゃない
わかっていても涙が止まらなかった
これ以上深みにはまらないためにはどうすればいい
宿題の答を出すのは簡単だ
でもそうしたらどうなる

暗い迷路に入り込んだ気分で眠りについた
夢の中で彼が眠っている僕のところにおりてきた
「ミンの決めた事なら僕は理解できるよ」
そう言って彼は背中から僕を包んだ
こんな事でも理解できる?
僕は聞こうとしたけど声が出なかった
そんな僕に彼は肩越しに囁いた
「ミンの唇はどこにいても僕のものだ」
僕は眠りながらまた涙を流した


Paris3  足バンさん

むちゃくちゃムッとする夢をみた

スヒョンが誰かの手をひいて石造りの古城から緑の庭園に走り出る
相手はミンチョルさん ふんっ
スヒョンは黒、ミンチョルさんは白のふわふわのブラウスに揃いの黒いスラックス 
ふたりは美しく刈り込まれた植栽の影に走り込むと
スヒョンがいきなりミンチョルさんを抱き寄せ覆いかぶさるようにキスをする
そうしながらミンチョルさんのブラウスに手を差し込み片方の肩をあらわにした

「うぎゃあああああーっ」はぁはぁはぁ…

叫んで飛び起きた僕はあまりの衝撃映像にしばしの沈黙
その後、枕をバッシバッシ殴ってベッドの上でひと暴れした

くうううっ!
そんな夢ごときに大事なパリの1日を邪魔されてなるものかっ

エイヤと着替えて昨日のモンソー公園までウォーキング
途中のカフェで爽やかな空気とマロニエの木漏れ日を楽しみながら
クロワッサンとエスプレッソ
本場のクロワッサンはとにかくうまい
そんなこんなでいつの間にか僕の機嫌も直ってた

部屋に戻りギョンビンのメールに返信を入れる
「やっほー!元気?ロンドンもちろん行くよ!そのために今日絶対仕事終らせる!
 明日早朝のユーロスターで行くから!時間またメールする!じゃねっチュッ」送信!

ついでにスヒョンにもメールしておく
「王子、帰ったらちゃんとご乱行を白状するようにね」送信!ふんっ

さて
王子いじめから頭を完全に切り替えて仕事モードに突入する
再度資料に目を通し、疑問点を復習、予想しうる答えへの返答をシュミレーション
パリ側の人間の経歴、人柄ももう一度確認する

モドキ君は約束通り10時ぴったりに迎えに来た
僕はラ・ミゼラブルのお礼をもう一度言い今日も夕食に誘った
モドキ君はニッコニコで”お手”と言ったらすぐにワンッと言って手を出しそうな勢いだ

ミーティングは昨日と同じギスの事務所の会議室で行われた

ギスと僕とこちら側の幹部が4人
あちら側はフランスのメーカー幹部2人とイタリアメーカーの幹部2人
それぞれの通訳がついている
ちなみにこちらの通訳はモドキ君

アル・パチーノフランス風みたいな男が大げさに手を広げハグしてきた
僕が出たダカールラリーを観戦していたと言って感激している
しばらくはその話題に花が咲き
おかげで僕の存在は抵抗なく受け入れられたようだった

会議は共同開発するにあたっての問題点の絞り出しの予定だったが
途中から話は2009年までに実施しなければならない欧州独自の厳しい燃費ルールに飛んだ
既に日本のト○タとフランスの一社が共同開発に成功している好燃費車に
どこまで対抗できるかが論点となった

「140g/km以下というのは厳しい数字ですね」
「我が社で既に開発しているエンジンに改良を加える予定です」
「しかし我が社としては小型化だけに囚われたくない」
「ギスさん、マーケットは欧州ですよ、それでは生き残れない」

話を聞いているうちに僕は両者の微妙なズレを感じた
共同開発といいながらすでに仏、伊のプロジェクトは進んでて
遅れての参加とはいえ我が国からの提言がほとんど活かされていないし
ギスの実質を伴わない焦りが見え隠れしてマイナスだった

僕はほとんど発言せず全員の意見をインプットし
表情を読み、頭の中で整理をつづけた

ミーティングはそのままの顔ぶれでビジネスランチに持ち込まれた
オフィスの近くの歴史あるレストランはアールヌーヴォーの美しい曲線で構成され
黒と濃茶と金の店内はまさにパリの香り立つしつらえだ

僕はランチにしてはあまりに豪華な食事に感嘆しながら
ここではギスの観察に徹した

店を出て少し休憩した後また会議室での話し合いとなった
フランス人はゆっくり昼休みをとるって聞いたけどこの人達はそうじゃなさそう
次々と課題をあげ書類をめくり強気の発言を繰り返す
こういうパワーは世界中のトップクラスの人間に共通する

夕刻に近くなり課題山積に疲れた頭で全員口数が少なくなった頃
こちら側の幹部が僕に振った
もうどうにかしてくれと言わんばかりの表情で。

「ドンジュン君ずっと発言していないが何か意見はありませんか?」

一斉に向けられた視線の中、僕は何も言わずに立ち上がり
部屋の隅に置いてあるホワイトボードに近づいてペンをとった

「Le Reve」「Sogno」

フランス語とイタリア語で「夢」と書き、続けてハングルでも同じ言葉を書いた

「あなたたちがおっしゃってることは全て前向きで全て納得できる
 でもコレが抜けている。コレの意思統一がないから核心に近づけぬまま空転するんです」
「でも現段階では少しでも市場のニーズに…」
「ニーズは古今決まっています、乗りやすく故障せず自分と自分の生活に合った車
 そしてイタリア車に代表される美しさ、これがあればいいんです」
「それはそうだが…」
「このままじゃ両者の食い違いが大きすぎます、もう一度プロジェクトの主旨をはっきりさせないと
 ぬかるみに基礎のない家を建てるようなものです」

その後も僕は自分なりの分析をしゃべりまくり
水を打ったように黙り込む部屋の中ようやく僕は席に戻った
ギスは僕を無言で睨みつけ、モドキ君はハラハラして泣きそうな顔をしてる
口を開いたのはアル・パチーノフランス風だった

「我々はちょっと焦り過ぎているようだ、ギスさんもう一度整理してみましょう」
「しかし時間が…」

「もう少し煮詰めて今度は我々が韓国に出向く」
「はい」
「それまでに今日の課題のそちらの解決策をお願いします」
「はい…」
「その時の会議にはドンジュン君を必ず呼んで下さいよ」

他の人間が出て行った会議室で僕とギスはテーブルを挟んで座っていた

「君はこのプロジェクトをぶっ壊すつもりか」
「まさか。真剣に取り組んだ結果だ」
「他社もどんどん進めてるんだ、時間がないんだ」
「今の生産体制じゃ必ず無理がくる、10年掛けても基礎を固めるべきだ」
「うう…」
「それでも押し通すなら僕は協力できない」
「まったく…」

僕は目線を緩めてニッコリ笑ってやった

「ねぇ、ギス、焦ることはない。大手メーカーと同じことしてちゃダメだ
 大手じゃ絶対できない繊細な対応ができる企業を目指すべきだ」
「しかし…」
「もしかして…ハリョンもそう言ってるんじゃないの?」
「…あいつから聞いたのか?」
「聞いてないよ、ハリョンならそう考えると思ってさ」
「…はぁ…頭が痛いよ…」
「僕ももう一度整理してみる、顔突っ込むかどうか決定は少し延ばすから」
「明日はいないのか?」
「そ、夜には戻って明後日の朝なら時間ある」

立ち上がった僕を見てギスは力なく微笑んだ

「君はいつも楽しそうだな…」
「ふふん、ギスも怖い顔やめてリュクサンブールの木陰でクレープでも食べてきたらいい」

苦笑するギスにウィンクをしてやっと会議室から解放された
廊下ではモドキ君がうろうろして待っている

「あ、ドンジュンさん…大丈夫でしたか?」
「何が?」
「社長にこっぴどくヤラレたんじゃないかと思って」
「ね、ギスってさ」
「は、はい」
「ヘアスタイルでも変えさせたらもっと吹っ切れるんじゃない?」
「はっ?」
「会議中ずっと想像してたんだけど、ロングストレートとかイケルよきっと」

モドキ君はしばし想像してブッと吹き出し慌てて両手で口を押さえた
僕は苦しそうに真っ赤になって唸ってる彼を連れて外に出た

今夜はセーヌに浮かぶサン・ルイ島のレストランを予約しておいた
川の向こうに夜のノートルダムが浮かび上がる古いレストラン
モドキ君へのお礼をこめてちょっと張り切ったというわけ
彼は恐縮してたけど、黒いストレートヘアの女性を見る度に笑いを堪えるもんで
こっちがヒヤヒヤした楽しいディナーだった

モドキ君は歩道に頭こすりつけそうにお辞儀をして帰っていった

さすがに疲れた身体をシャワーで癒しエヴィアンで潤してから
ベッドに転がってギョンビンにメール
あいつの仕事の方はうまくいってるんだろうか

「明朝7:43パリ発、9:26ウォータールー着、トレインNo.9009 
 会ったらまずハグしてチューしよう!」送信!

パソを閉じて部屋の灯りを消した
寝そべったまま窓の外を見ると
格子の間から溢れる光の海は今日も詩のように美しい

半日ぶりにスヒョンの声を思い出し枕を抱えて目を閉じる

王子、今夜は僕を連れて走ってよね


カーニバル  ぴかろん

モンローのまんま、店に行った
イナの目が腫れていて、マイダーリンが同情して

「うちにおいで」

などと言ったので、僕は焦った…
イナは大丈夫だと言い、マイダーリンと僕のサンバナイトは無事決行される運びとなった…
よかった…
一矢を報いねば!

はっ!そうだ!こんな時は…

心配そうにイナを見ているマイダーリンに内緒で僕は『オールイン』に行った
裏口からチュニルさんを呼び、お茶を一杯くださいと頼んでみた
チュニルさんは不思議そうな顔をしていたけれど、ちゃんとお茶を入れてくださった
熱いお茶を姿勢を正して飲む

「んー…男たるもの…決める時は決めねば…ですなぁ…はっはっはっ」
「…はは…はっはっ…。一体何を決めるのです?」

むうっ鋭い質問を…
僕は答えに窮し、キュウなどと言ってみた
すると扉の奥からイナの元・親友だと名乗る男が握手を求めてきた

「イナとより貴方との方が気が合いそうです。よろしく、チョンウォンです」

僕は…あまり握手したくなかったけど、愛想笑いをして手を握っておいた

「僕と同じ匂いがします。ギョンビンさん」

僕を弟と間違えている
チュニルさんが苦笑している
チョンウォンさんは顎のあたりを撫でてうーん、などと言って店に消えた
僕は無意識にてのひらをジーンズで拭ってしまった

「ぶっはっはっはっ…」

チュニルさんが突然笑い出した
目を丸くしていると、チュニルさんが笑いながら手を出して僕の茶碗を取り、こう言った

「とにかく…ぶふっ…なんだか解りませんがしっかり決めてくださいふふっ」
「はい!男たるものヤっちゃいます!」
「はっはっはっ…」

チュニルさんは苦笑していた
そして僕は店に出た
お客様に結構ウケる…

イナの妖怪顔と同じような扱いだが…
すなわち『珍獣扱い』なのだが…

この格好で渋く囁けと言われ、リクエストにお答えするとぶはーっと吹き出される
この格好だからもっとダレた感じになってと言われ、ダレた感じが解らない僕は、マイダーリンの真似をしてみた
するとまたぶはぶはと吹き出される
どうして?
ラブが崩れたカンジのときってこうじゃん…こう…大股開きで片膝ソファの上に立てて顎突き出して手は後ろについてさ、口も半開きで唇なんかちょろっと舐めたり…じゅるるっ…

「ぎゃーっはっはっ何やってんのアンタ」

ラブ様登場だ…
目に涙まで溜めて笑っている

「…何ってお前の真似してる」
「…」

さっきまでバカ笑いしてたのに、ストンと真顔になった

「…どこがどう俺の真似よ!ええ?!どこがどう!」

ラブが怖ろしい勢いで僕の胸倉を掴んだ
その途端お客様方が小声で

「ラブ様のお怒りに触れたのよ」

と仰った

「…似てない?」
「俺はこんなに大股開かない!こんなに腰突き出さない!こんなに舌出してないしこんなにエロエロ光線ださない!ばかっ!」べちいいん☆
「ってぇっ…殴るなよ…ヤバいんだから…」
「何が!」
「てっぺんハゲたらどうしてくれる!責任とってくれるのか?」
「ふんっ!ハゲるならつるッパゲになってよね!」

そう怒鳴りつけてから急に…

「あ…いいかも…。ねぇアンタ、髪の毛剃っちゃわない?」

なんて言う!

「何言ってんだよっ!やだよ!」
「なぁんで?スキンヘッドでさぁ…後頭部に入れ墨いれて…唇とぉ耳にぃピアスするの…。あ…ヘソにも!」
「はあ?」
「うっわぁぁぁ似合わなそぉぉぉきーひひひ」
「…」

僕は足を閉じ、きちんと座った

「アンタほんとに…スクゥエアだよなあ…ファッションに関しては…」
「…」

それから急に首に巻きついて耳にキスしながら囁く

「あ~んなこと、するくせに…」

どきっどきどきっ…
あ~んなこと…

ふひひんへへんほん…
げほっ!いかん!男たるもの…相手のペースに嵌ってはいかん!
昨日のようなことはごめんだ!

そんなこんなでどうにか仕事を終えて、僕達はまたラブの家に向かった
昨日のような事のないように、今日は僕がリードするんだ

車に滑り込むと同時に、またスウィートハートが首に巻きついてくる…
熱いキスを仕掛けてくる
あんなだったとはいえ、昨日とりあえずゲホゲホ…だったから…今日は落ち着いたモンだよはっはっはっ…

「何がはっはっはっなのさ!」

あ…いかん…心の中で笑ったつもりが声に出してしまっていた…
慌ててキスに応えようとするとスウィートハートはするりと離れていく

「なんだよ…もう終り?」
「雰囲気台無しじゃん!」

ちいっ…またしてもしくじった…
ふっとあのチョンウォンさんの顔が浮んだ…
くそっ握手なんかしなきゃよかった…

「帰ろうよ…」

爪を噛みながらそう言うラブの横顔を見た
チュッとホッペにキスしてやった

くふふん…ちっと照れたな?くふふん…

昨日のような焦りは、ない!
だから今日はにこやかに運転して帰った
ラブ様のご機嫌も徐々に回復し、マンションの駐車場に着いた時には…僕よりもラブ様のほうがギラギラしている…ような気がした
車から降りようとするラブを止め、僕が先に降りて助手席のドアを開ける
手を差し伸べるとその上にすっと手を乗せてラブが降りてきた

そして僕の鼻先に唇を突き出す
僕は少しだけ唇を尖らせた
でも…お預け…

ふっと微笑み合い、手をつないだままエレベーターに向かう
今日はあのマダムはいない…よかったねとアイコンタクト

箱の中に入り、ラブの腕を引く
抱きしめるとラブのほうから唇を押し付けてきた

キスしながら5階のボタンを押す…
軽く啄ばみながら、くっついたり離れたり…
気分はパレードに向かって上昇中だ…

※142に続く…






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