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ぴかろんの日常
リレー企画 153
それぞれの想いを抱いて 足バンさん
僕は昼から店に出て書類の処理をこなしていた
前倒しの仕事の理由はといえば
今日あのうるさいのが帰ってくるからだ
3時半には仁川空港に迎えに行きたかった
デスクに向かって書類に目を通していると
つい顔がほころんでしまう
どれほど大騒ぎでパリの話をするかと想像するだけでおかしい
携帯の音で僕のうわついた気分は中断された
「今どこにいる?」
「ミンチョル…事務所だけど」
「すぐに行くから…頼む…そこにいてくれないか」
「わかった」
ミンチョルのただならぬ様子が手にとるように伝わった
僕は手早くサイン類を済ませ書類やファイルを片付けた
店のドアの音がして部屋から出ると
そこにVネックセーターの普段着のままのミンチョルが立っていた
その顔は泣くのを我慢している子供のようだった
「どうしたの…」
僕の顔を見たまま動かないミンチョルにゆっくり近づくが
彼の口は何かを言いかけて止まっている
僕はそっと腕を伸ばしてセーターの上から抱きしめてみた
その身体から全てが伝わってくる
全てを了解し僕はため息と共に目を閉じた
「スヒョン…どうしたらいい…」
「すぐに行けよ」
「でもお兄さんは危険だからって」
「僕が話をつける」
「でも…」
僕はミンチョルの身体をなお力をこめて抱きしめた
震えるほどギョンビンの元に飛んで行きたいおまえが流れ込んでくる
「今ギョンジンは?」
「うちにいるはずだ」
僕は躊躇するミンチョルの腕を掴んでレジデンスに向かった
そして僕とギョンジンは奥の部屋で向かい合って立っている
ミンチョルたちに話を聞かれたくないと言ったのはギョンジンだった
ギョンジンは何かを守るかのように首を縦に振らない
その強い光を持つ目は本当に弟によく似ている
「行かない方がいい…それは彼にも言いました」
「自分がミンチョルの立場ならどうする…遠い国でラブの負傷を知ったらどうする」
「しかし危険が…」
「ならその課長に無理にでも頼め!イギリス諜報部に護衛させろ!」
僕は我慢できずに声を荒げた
「スヒョンさん…」
「ギョンビンは国の仕事のためにそんなことになったんだろう?
ミンチョルはそのギョンビンが命より大事に考えてる人間なんだ、それくらい当然だろう」
「…」
「すぐに手配しろ、今日無理なら明日発てるようにだ、向こうでの安全の保証もだ」
ギョンジンは唇を噛んで僕を見据えた
僕はしばらく黙っていたがその目の中に隠されているものを感じた
「他に…何かあるのか?」
ギョンジンは目を伏せ肩を落とすと話しはじめた
その交渉相手がどういう人間なのか
自分たちの仕事の任務遂行とはどういうことを意味するのか
今ギョンビンが心に腕より深い傷を負っているかもしれないと
「弟が落ち着くまで…会わない方がいいと思ったんです」
「ギョンジン…」
「すみません…僕が気をつけるべきだった…」
僕は唇を震わせるギョンジンを引き寄せ肩を抱いた
その内側から複雑で深い弟への愛情が溢れ出る
「大きな声を出して悪かった」
「いえ」
「でも…それでも僕は行かせたい」
「スヒョンさん…」
「何かあったとして…それを仕舞い込むのが彼のためになる?」
「…」
「全てを受け止めてくれる人間に側にいてほしいんじゃない?本心は」
「…」
「きっと今の彼らはそれができるよ」
ギョンジンの身体を離してその腕を掴んだまま彼の目を見た
「頼む…そうしてやって…僕のためにも」
「スヒョンさん…」
「あんなミンチョルを2日も3日も見てるのは耐えられない」
「…」
「ふたりを信じてやってくれないか」
「わかりました…手配します…」
僕はもう一度ギョンジンを抱きしめて礼を言った
部屋から出てミンチョルの寝室をノックする
ドアを開けた不安そうなミンチョルに微笑んでやる
「大丈夫…行っておいで」と言うと
ミンチョルは目を閉じて大きく息を吸った
僕の片手をその頬に添え親指でそっと撫でる
「ギョンビンに何が起こっていたとしても、しっかり受け止めてあげるんだよ」
「ああ」
「昨日おまえ、自分の身を削るって話してたでしょ?」
「…」
「どんなに削っても自分に必要なものは離しちゃだめだよ」
「わかった…」
僕はそのままひとりレジデンスを出ると
急いで店に戻りオーナーへの報告を含め問題を片付けた
全てが片がつき車に乗り込んだのは
既に4時を回っていた
パソコン上ではパリからの便は定刻に到着予定となっている
もうドンジュンは着いている頃だった
市内で例によって渋滞に巻き込まれる
もうとうの昔にゲートを出ているはずなのに
僕の携帯に連絡はない
掛けようにも向こうは携帯を持っていない
お手上げ状態でひたすら渋滞をくぐり抜けスピードをあげて空港に向かった
やはりパリ便は予定通りとっくに着いていたが
到着ロビーにドンジュンの姿は見当たらない
ギョンビンのこともあってか
僕は自分が迷子になったかのような気分であいつを捜し歩いた
心ざわつくままひと巡りして戻ると
最初に通った到着ロビーの隅に懐かしいシルエットを見つけた
目隠しになっていた大きな荷物を持った外国人が立ち上がって
その一角がいきなり視界に飛び込んできた
安堵のため息をついてそっと近づく
ドンジュンはブリーフケースを抱え込んで椅子にずるりと座り
すっかり眠り込んでいる
僕はその隣の椅子に腰掛けて
しばらくそのままその無邪気な寝顔を眺めた
かくりとした瞬間目を覚ましたやつは
寝ぼけた眼差しで僕に焦点を合わせると目をぱっちり開け
いきなり僕に抱きついてきた
「ぎゃーっ!スヒョンんんんん~!」
僕はその懐かしい笑顔を抱きしめた
「おまえ…電話くらいよこしなさいよ」
「待ってたら眠くなっちゃったんだもん」
「他の荷物は?」
「インフォに預けた」
「ちゃかりしてるやつ」
「で!何でこんなに遅れたのさ」
「うん…いろいろあってさ」
「まいいや!ね、どう?嬉しい?」
「何が」
「僕に会えてさ」
「うん」
「あれ…どしたの…何で素直なの?」
「今日はそういう気分なの」
僕はきょろきょろ見つめるドンジュンをもう一度抱きしめた
「おかえり…会いたかったよ」
テジュンさんのしごと 4 ぴかろん
午前中、思いがけず演説をぶってしまった
その後僕は受講者からの質問攻めとサイン攻めに遭い、昼前に帰ってしまう受講者全員との記念撮影をさせられ、
一人ひとりと握手をして笑顔を振りまき、そしてやっと昼食にありつけた
先輩はニヤニヤ笑いながらスター誕生だと僕をからかう
「ぜひともお前の恋人に会わせていただかんとな!ん?」
「げほっ…」
「なんだ?もったいぶる気か?」
「…。いいですよ…。いつですか?」
「お?!ほんとか?!じゃあなぁ…、三日間の休み明けの出社日につれて来い」
「ちょっと待って先輩。僕まだ先輩んとこに就職するって決めてない…」
「決まったも同然だろうが!」
「いや…」
「とにかくその日、連れて来い!恋人がごちゃごちゃ言うなら俺がねじ伏せてやる!」
「…」
「さっきのモテモテぶり、ビデオに撮っといたからそれも見せてやろう…」
「いっ…そんな事してたんですか?!」
「あったりまえだ!うちにはこんな人気講師がいますっていい宣伝になるからなぁはっはっはっ」
抜け目がない…
BHCにもこういう人がいるよな…
ビデオに撮って…んで映画作って…
「先輩」
「なんだ」
「先輩ならあの『不自然なカップル』についてどう答えますか?」
「俺は不親切だ」
「は?」
「不親切だからお前みたいに丁寧に答えない、ましてや涙など流さない」
「はあ…」
「俺ならもっと簡潔に答えるな」
「なんて?」
「ま…内容としてはお前と一緒だけど」
「…。僕の答えを聞いてから考えたんじゃないですか?」
「なにっ?」
「…。まぁいいや、教えてくださいよ」
「『この世には、不自然な事などなにもない』って言う」
「…ちょっと待って…。僕、似たような決めぜりふを言う陰陽師が出てくるニッポンの小説を知っていますが…」
「真似た」
「せんぱーい…」
「あっちは『不思議な事などなにもない』だろ?こっちは『不自然』だ。どうだ!」
「…」
「簡潔にして真実だろ」
「…はぁ…そうですかねぇ…」
「不自然だと決めているのは自分の心だろう?」
「でも『不自然な動き』とかってあるでしょ?好きな人の前でぎくしゃくしたりとか…」
「それはこっち側の見方だな…。不自然な動きをしている者にとっては、どきどきする気持ちから行動がいつもと違ってしまうけど、どきどきするからそうなるわけで…それは自然な動きじゃないか?」
「…はぁ…」
「だろう!」
「…」
「だから…要は…見方だよ」
「…はぁ…」
「相手の気持ち、相手の側に立ってモノを見てみる、感じてみる…これすなわち」
「サービスの基本…」
「そのとおーり!…うまくまとまったな…」
「先輩…成り行きでしょ…この結果は…」
「あん?何をいうか!ちゃんと昨日から考えてた事だ!」
「…嘘っぽいな…先輩は人を丸め込むのうまいから…」
「はんっ何とでも言え。とにかく俺の答えはそういうこったから!」
「…」
「こう答えれば涙することもなく、もっと別の質問にも答えられたろう」
「…すみません…」
「けどお前の話はよかったぞ。解りやすいし心に響いた…。そういう人を知ってるのか?」
「は?!」
「そういう不自然といわれるカップルを知ってるのか?」
「はははははい…それはもう沢山…」
「ふぅん…」
今の僕の周りには、そういわれるカップルが山ほどいる…そして僕も…
言ってしまおうか…僕がその『不自然なカップル』の片割れだと…
「ますますお前の恋人に会うのが楽しみだ…。さてと、午後からは反省会をして、後片付けしたら帰っていいぞ。四日後に本部に顔を出せ。正式な話をしたい。恋人も連れてくること。仕事があるなら休ませろ」
「無茶苦茶強引だなぁ…」
「そうだ。文句あるか」
「…いえ…」
「よし!ほぼ本決まりだな」
「…せんぱーい…もう…」
押し切られそうだなぁ…
というか…僕自身は後進の指導には興味があったし、今回、とても楽しかった
若い子達が何を考えてるのかもよく解ったし、みんな頑張っていて輝いているし…
ほんとに…ほぼ決まり…なんだけど…
イナが何と言うか
そしてイナを見た先輩がどう出るか…
本気で『不自然な事など何もない』と思っているのかどうか…
そこが少し気になるところだ…
「…先輩はなんで元の仕事に戻らなかったんですか?」
「ん?ああ…それはなぁ…。元の仕事に戻ったらさ、俺の今まで蓄えてきたノウハウは、また俺だけのモノになるだろ?」
「はい」
「伝えるとしても、直属の部下ぐらいにしか伝えられない」
「はい」
「失敗してる奴を見て、ああこうすればいいのにとか、こういう時はこうだよとか、すぐに教えてやれない時もあるだろ?」
「はい」
「んで、そのノウハウはやっぱり俺だけの…もしくは俺の周りだけのモノになる」
「はい」
「それじゃ勿体無くないか?」
「もったいない?」
「失敗する奴自身はそれが経験になるのかもしれんが、失敗を浴びせられたお客様にとっては、もしかしたら最悪の思い出となって心に残るかもしれん」
「はぁ」
「研修会とかで先にノウハウを教えておいてやると最悪の事態は免れるんじゃないかと思った」
「はぁ」
「それと同時に俺の得たノウハウを一挙に広められるだろ?」
「はぁそうですね…」
「するとよりよいサービスができる。お客様は喜ぶ。ホテルや会社は儲かる。俺は感謝されて謝礼もがっぽりな上に次の仕事に繋がる。どうだ!」
「どうだって…」
「職人じゃねぇんだからよ、『技を盗め』だの『口伝』だのってんじゃいつまでたってもサービスの質はあがらない。俺が一つのところで留まっていても、しょうがないんじゃねぇかと思った。俺から何人かに伝え、伝えたものを持ち帰った奴等がまた部下に伝え、広まる。手っ取り早いだろ。だから…これを始めた」
「…ふぅん…」
「ふぅんだけかよ!かっこいいとか御見それいたしましたとかあるだろうが!」
「御見それいたしましてかっこようございます」
「馬鹿野郎この野郎…」
かっこいい…やっぱり先輩はかっこいい…
ガンガンすっとばして説明しながら先輩が照れているのを僕は感じていた
こういう口調の時は特に照れを隠している証拠だ
「ま…そういうこった。それに賛同してくれるのならぜひともわが社にご就職いただいて、今回のような研修会ならびに講演会を受け持っていただきたく思うわけでありますよ、ハン・テジュンシ~」
「考えさせていただきとうございます」
「即答しろよこの野郎」
「…僕の気持ちは…ほぼ固まってますけどね…」
「また恋人かよ!そんなにうるさいのかよ!」
「いや…ややこしいかもしれないけど、うるさくはありません。ただ、ちょっと辛い目に遭わせたから…」
「色男め…全くお前は昔も今も…」
「けほん…変なこと言わないでくださいよ、あいつの前で…」
「…ふふん…」
「せんぱーい」
「ひひひん」
その『ややこしい』イナは…先輩に会わせると言ったらどうするだろう…
ああ…イナ…早く会いたい~!
今夜はお前を…あははははん…おほほほ…ひひっひ
「テジュン…顔、崩れきってるぞ…みっともない」
「あ…ははっ…そ…そういう先輩だって…なんか顔緩んでません?」
「ああ。可愛い可愛い子供たちに一週間ぶりに会えるからなっひひひっ」
「そうですね…子供ってくひっ…可愛いですもんねっけひっ」
「…。お前まさか…もう子供がいるのか?!」
「ちっ違いますよっ!」
イナがこどもなんですよ…ひひ…
ああ早く帰りたい…今すぐすっとんで帰りたい♪
僕は先輩との話を切り上げ、午後の反省会に臨んだ
これが終わればくふふふん…
イナ、待ってろよ
今夜は寝かせないぞぉぉぉっけひっ
Good Bye れいんさん
退院の手続きを済ませてきた
今日で入院生活も終わり
すっかり体がなまったとぼやく彼の顔が浮かぶ
廊下の先の病室前に誰かがいた
・・エジュさんだ
僕は足を止めその様子を見ていた
彼女はノックをしようとし、ためらいがちにその手をおろす
彼女の後姿がひどく小さく見えた
「エジュさん・・」
彼女の背中がびくっと震え、それからおずおずと振り向いた
「スハ君・・」
「お見舞いに来て下さったんですね。」
「・・ええ・・まあ」
「どうぞ、入って下さい」
「・・」
「どうしました?テジンさんも喜びます」
「うん・・でも・・」
「・・僕と少し外でも歩きましょうか」
彼女を誘って病院周辺を散歩した
秋の陽射しがきらきらと銀杏の木々に降り注ぎ
心地よい風が時折頬を擽る
手入れの行き届いた芝はまだ朝露に濡れていた
木製ベンチで家族や友人との会話を楽しむ患者の姿がところどころに見えた
僕は比較的眺めのいい場所を陣取って彼女に勧めた
数日ぶりに見る彼女は穏やかな目をしていたが少し寂しげだった
「・・テジンの様子はどう?」
「はい、順調に回復しています。今日で退院です」
「そう・・よかった」
「エジュさん」
「え?」
「ちゃんと眠ってますか?」
「スハ君・・」
「テジンさんはもう大丈夫ですから、どうか自分を責めたりしないで」
「・・うん・・」
「彼に会って行きませんか?」
「ううん。やめておくわ。会わない方がいいと思う」
「エジュさん・・」
「私ね、こっちを離れる事にしたの。シカゴに戻ってまた一から出直すわ」
「・・え・・そんな・・」
「ふふ・・面倒な事になる前に高飛びしなきゃね」
「エジュさん・・」
「それは冗談だけど・・初めから数日間の滞在のつもりだったの
戻る決心がついたわ。今日でこっちともおさらばよ」
「・・」
「スハ君には色々迷惑かけたわね。私・・スハ君の事、とっても好きよ
会えてよかった。あなたになら・・テジンの事任せられる」
彼女がそっと手を差し出した
「テジンの事、幸せにしてあげて」
握手を交わしたその手はとても温かだった
そして彼女は僕の手を離しすっと立ち上がった
「もう行かなきゃ」
彼女は振り返りもせず、背を向けたまま僕に手を振った
小さくなる後ろ姿がなぜか切なかった
担当看護士のキャロルさんにお世話になったお礼を言った
「ドクタードンゴンはあいにく手術中で・・
と言っても、普段から患者の見送りをする様な人じゃないんだけど」
「またワケありなケガをした時はいつでもいらっしゃいね。
なんて、そんな事度々あったら洒落にもならないわね」
彼女は冗談まじりにそう言って僕達を見送った
車のトランクに荷物を乗せ、助手席に回りこみドアを開けた
「テジンさん、こっちに座って下さい」
僕が運転をするつもりでそうしたのに、彼は笑いながら僕を助手席に押し込んだ
「スハの運転だとまたキャロル嬢の世話になり兼ねない」
そんな憎らしい事を言う彼に僕も我儘を言ってみた
「とても清々しいこんな日はどこかドライブにでも行きたいな」
「へえ・・意外だな。お前がそんな事言い出すなんて」
「たまにはいいでしょ?真っすぐ帰るだけなんてつまらない。テジンさん、運転は平気ですか?」
「三日ものんびりしてたから体力は有り余っているよ」
「じゃあ、行き先は聞かないで、僕の指示通り走って下さい。ゲームみたいで楽しいでしょう?」
「はいはい、わかった。仰せの通りに。では、お客様、このまま真っすぐでいいですか?」
おどけた風にそう言って彼は車を走らせた
目的地に着くまで彼には行き先を告げなかった
僕が行こうとしている場所
それは仁川国際空港だった
何も言わず去ろうとする彼女を見送るために
余計な事かもしれないが、このままじゃいけないと思った
仁川発シカゴ行き
僕なりにその日の搭乗便を調べた
直行便なら午後すぐの2便のみだと絞り込んだ
本当に彼女に会えるのか確信があったわけじゃない
聞いたところで答えるような彼女ではない
慌しい退院の日を出発日に選んだ意図も解っていた
僕の勘が当たってくれたらいいんだけど
間に合ってくれたらいいんだけど・・
1時間ほど走ったところで、ここで止めてと彼に言った
「ここ・・空港じゃないか。目的地はここ?」
「テジンさん、聞いて下さい。今日エジュさんがシカゴに発ちます
誰にも告げずに一人で去って行くつもりです
あまり時間がありません。彼女を見送ってあげて下さい」
「エジュが?・・だけど僕は・・」
「エジュさん、今日病室の前まで来てたんです。でもテジンさんに会わずに行きました
このまま行かせていいんですか?」
「スハ・・」
「行ってあげて下さい。何も言わなくたって、姿を見せるだけで・・
でないと彼女はずっと心に負い目を背負ったまま・・」
「・・」
「ね、お願いだから」
「わかった」
「僕はここで待ってます」
Speculation オリーさん
昨日僕のベッドの傍らでひとしきり涙を流した教授は
しばらくすると悪かったね、と言って出て行った
僕は何も言うことができず、ただその後姿を見送るだけだった
午後、ロンドン支局の仲間が来た
空港で僕にコンタクトを取った奴だ
僕の様子を見て来いと課長に言われたらしい
「大した事なさそうでよかったな」
「おかげさまで大変だよ」
「明日からでも仕事できそうじゃないか」
「お前も一度アサシンのナイフで切られてみるといい」
「やっぱりあれは切れ味いいのか?」
「ゾーリンゲン真っ青だよ」
「そりゃ、凄い」
「仕事はやはりこのまま続ける?」
「ああ、何で?」
「教授がかなりショックを受けてて・・」
「例の件だな・・まだ特に連絡がないからそのまま続行だと思う」
「でもあの論文は・・」
「ん?」
「いや、何でもない」
どうして銃を渡したりしたんだ
僕は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ
あの銃がなければ教授は撃つこともなかったのに
そして僕は死んでいたかもしれない・・
「お前もこんなだし、教授も大変だったし、少し時間がかかっても仕方ないさ」
何も知らない仲間はそんな言葉を残して帰っていった
夕方、アンドルーさんが差し入れを持って再びお見舞いに来てくれた
教授は昼すぎには病院を後にしたそうだ
彼もまた教授の事が心配な様子だった
その夜、僕は腕の痛みも手伝ってなかなか眠ることができなかった
どうしてこんな事になってしまったんだろう
どうして・・
翌日、そろそろベッドの上に飽きてきた僕の元へ教授が現れた
「外に出てみないか、いい天気だ」
そう言った教授は車椅子を押していた
白いタートルに肘当てのついたグレーのツイードのジャケット
中にチャコールグレーのマフラーをあしらった姿で
昨日より随分すっきりとした顔をしている
「車椅子で?僕歩けますよ」
「まだ安静だろ?」
「大丈夫ですよ」
「いいじゃないか、押してやるよ」
「はあ」
僕はしかたなく車椅子に乗せられて外に出た
教授の言ったとおり快晴で雲ひとつない
高い青空が頭の上に広がっていた
秋の日差しが柔らかく降り注ぐ中
中庭に出て花壇の近くの芝生に落ち着いた
僕は車椅子から降り、教授の隣に腰をおろした
そして黙って暖かな日差しを浴びていた
「あの家を手放すことにしたよ」
突然教授が言った
「そうですか」
あの家に住むことはもうできないのだ、したくても・・
「MI6が今住むところを探してくれている」
「当分大変ですね」
「大した事じゃないさ。僕は学者だ、本とペンさえあればどこででも生きていける」
「先生」
「昨日、君の前で泣いて随分すっきりしたよ」
「僕はまだ何て言ったらいいか、正直わかりません
先生に銃を渡したことがこんな結果になるなんて」
「気にすることはないよ」
「・・・」
「君があの銃を渡してくれた時は君が犠牲になろうとしていた。
逆の立場だから僕がそうした、それだけだ」
教授は講義のように淡々と話した
「昨日あれから父に会いに行った」
「お父さんに?」
「久しぶりの墓参りだった」
「・・・」
「僕が正しいと言ってくれたよ」
「先生・・」
僕はひとつだけ言いたい事があった
「ひとつだけいいですか?」
「何?」
「あの人が先生の目の前に現れて額にキスした時」
「ああ」
「あの数秒間、あの人から殺気が消えました。一瞬でしたけど。たぶんあれが昔の・・」
教授は黙って下を向いた
僕はもっと言いたい気がしたけど、それは言わない方がいいだろう
代わりに教授が口を開いた
「君、気づいているかな」
「何をです?」
「なぜアーメッドは2階に上がってきたんだろうか」
教授はやはり気づいていた
「そうですね・・先生の事が気になってたんでしょう」
「そうかな・・」
「そうです、じゃないと理屈に合いません」
「そうか・・そうだね・・」
そう言って教授は眩しそうに空を見上げた
そうなのだ、あの人が2階にきたことはおかしいのだ
襲撃を受けた時はいかなる場合も撤退だ
即座にその場を放棄して逃げるのが鉄則である
だから2階に突入され、間髪をおかず1階に突入されたあの時
速やかに別の方へ逃げなければいけない
それをあの人はわざわざ廊下を越えて階段を上り2階に来た
頭の切れるテロリストのすることではない
素人だ
なぜ危険を冒してそんな事を?
教授だろう
連れ出そうとしたのか、殺そうとしたのか
それとも道連れにしたかったのか・・わからない
でもとにかく教授に執着したのだ
それ以前に、教授を仲間にしたいのならどこででも襲えたはずだ
わざわざアラブ系の人間が目立つオックスフォードの自宅まで
しかも自ら出向く必要があったろうか
MI6が近くにいることも知っていたはずだ
もしかしたら、あの人は教授に会いに、それだけのために来たのかもしれない
仲間に入れる気などなく、ただ会いに・・
あのキスのために・・
もしかしたら自分の人生を終わりにするために
教授にその役をしてもらいたくて・・
いやそこまでは考えすぎだろう
でも・・
あの口づけは別れの儀式のような気がしてならなかった
キャンバスの一点に光が射す、まるでレンブラントの絵のように美しい口づけ
先生もしかしたら・・
あの人は先生のこと、片時も忘れてなかったんじゃないんですか
闘いに疲れて、先生の所へやってきたんじゃないんですか
そしてあの人は、最後に望む通りになったんじゃないんですか
僕は心の中で教授にそう語りかけていた
僕は目を閉じて深く息を吸い込んだ
目を閉じていても陽の光が瞼の上で踊る
今この瞬間が生きている証だ
太陽も空気も大地もすべて僕に挨拶してくれる
生きるって・・
僕は僕の回りのものすべてに感謝したい気分になった
僕を生かしてくれてありがとう・・
そして・・先生
あなたも生きててよかった・・
アンドルーさんが、昼の差し入れのサンドイッチを持ってきてくれるまで
僕らは芝生の上でずっと寝そべっていた
右往左往 ぴかろん
ミンチョルさんのための飛行機のチケットを課長と交渉して確保した
明日の午後の便
ギョンビンが出発したと同じ時刻だ…
一応店に出たものの気もそぞろなミンチョルさんとラブと僕
レジデンス仲間になったイナだけはぽけっとしている
しているように見える
店に出る前にかつての仲間に会い、チケットを貰い、ミンチョルさんに渡した
ミンチョルさんは僕を見つめてありがとうと静かに言った
本当に行かせていいのだろうか…
二人を信じてやってくれというスヒョンさんの言葉を思い出す
やっぱり取り返そうか、やっぱり行くなと言おうかと何度も思い直したけれど、もしラブがそんな目に遭っていたら…僕は…
すぐにでも飛んで行くに違いない
そしてもし…心に深い傷を負っていたとしたら…
あの祭の後の四日間のように…
ううん…あの時はラブ自身の気持ちから、ああいう事になったのだから…
だからギョンビンのケースとは違う…
でも…
「無事だったんでしょ?ミンチョルさんが行くんでしょ?そんなに悩む事ないじゃない…」
膨れっ面のラブが拗ねた口調で言う
何も知らないくせにと思い、いや、何も知らせてなかったのだと思い直す
そしてラブの肩を抱き寄せる
ラブは僕の肩に頭を乗せて呟く
「今夜は…いいでしょ?」
とてもそんな気にはなれなくて、僕はゴメンと答える
ラブはそっぽを向いて僕から離れる
「ラブ」
「…ごめん…俺、自分の事ばっかり…」
「ラブ…」
「ごめん…寂しくなっただけだから…」
ラブを抱きしめる
お前に全てを話したい
でもどこまで話せばいいのか解らない
営業が始まった頃、僕の電話が鳴った
いつもは控え室に置いておくのだが、今は電話が手放せない
僕は裏へ行ってすぐに電話に出た
ポールからだった
「何かあったのか!」
『相変わらずせっかちだなぁ。弟がお目覚めになりました』
「…。どんな様子だ…」
『落ち着いてるよ。んでな、弟から伝言だ』
「何だ!」
『…えらい勢いだなぁ…んっとな、怪我した事は誰にも言うなって』
「…え…」
『恋人に心配かけたくないんじゃないの?』
「…」
『あれっ?もしかしてもう喋っちゃった?』
「…ああ…」
『口、軽いなぁお前。なんだよ、わざわざ教えに行ったのかよ』
「いや…一緒に住んでるから…」
『は?』
「…誰にも…言うなって…。どうしてだ…」
『お前、耳遠くなったのか?心配かけたくないんだろうが、恋人に!…けどなんでお前と弟の恋人が一緒に…。あっ!そう言えば昔お前、「弟のものは僕のもの」とか言ってなかったっけ?!』
「…。すまん、言い間違えた。恋人は弟と一緒に住んでいて、僕はその近くに住んでいる」
『…。まっさかお前…俺がさっき電話したときの相手って弟の恋人じゃ』
「お前じゃないからそんな事しない。それにあの電話の時はなんにもしてないぞ。弟の一大事にベッドでどうのこうのなんてできるわけがないだろう!」
『?…お前…俺に電話してきた時からなんか変だけど、予知能力でもあるのか?』
「…僕…変か?」
『思いっきり変だ!昔は俺が電話かけるといっつも喘ぎ声がBGMだったもん』
「…」
『ノリも悪いし…どうしたんだよ』
「…。弟の様子をよく観察しておいてくれないか…。それからこっちから一人、弟を迎えに行くから、その人の警護を頼む」
『ふーん…担当の者に言っておくよ』
「詳しいことは後でメールする」
『…解った…忘れなければ伝言する』
「おい!」
『悪いがこっちも忙しくてね。これ以上お前達兄弟の伝言係はごめんだからな。聞きたい事があるなら直接電話しろよ。入院先をいうから』
忙しいと言う割にはくだらない事をくっちゃべってるじゃないか…とは思ったが、口には出さず、弟の入院先を聞き出した
直接電話をする勇気は、まだ湧いてこない
夜になり、チーフの判断で営業が早めに切り上げられた
ミンチョルさんとイナと僕と、そしてラブがまたレジデンスに帰った
僕ら三人の緊迫した様子に、それまでぽやぽやしていたイナまでもが緊張していた
イナは僕がミンチョルさんにチケットを渡すまで、ギョンビンが怪我した事を本当に知らなかったようだ
こんな時になんだが…かわいらしい奴だ…
帰ってからすぐにミンチョルさんは荷物を詰めだした
「お兄さん、これは必要でしょうか」
「ミンチョルさん、こっちの方がよくないですか?」
「お兄さん、ミンの着替え、持ってった方がいいかな…」
「持っていくなら大きめのシャツ…ああ、貴方の方が少しサイズが大きい…で…すから…貴方のシャツでも…」
「お兄さん、ミンに何か伝言はありますか?」
「無事でよかったと…」
「お兄さん…」
「ミンチョルさん…」
僕ら二人はアタフタしていた
ラブはその様子を寂しそうに眺め、イナはミンチョルさんや僕の後を、何か手伝おうとしているのかオロオロしながらついて回った
ラブが窓辺で誰かと電話しているのを横目で見た
電話を切った後、黙ってエレベーターの方に行きかけたので、僕はラブを呼びとめた
「どこ行くの?」
「…」
「ラブ?」
「…」
無言でエレベーターに飛び乗ったラブを追いかけ、僕も一緒に階下まで運ばれる
「どうしたのラブ」
「…」
「…寂しいの?」
「…」
「…ごめんね…お前に寂しい思いさせてるの解ってるんだけど…」
「キスして…」
「…ラブ…」
「気持ちなんか篭ってなくていいからキスしてよ!」
僕の目を見ずに言うラブの肩を捕まえ、顔を覗き込む
「してくれなきゃ…テジュンと寝るから…」
「…何を馬鹿な事…」
…テジュンさん?
あ…
今日帰って来る日…
「イナさんがマンションにいないし電話してもでないってテジュン俺にかけてきた…」
「…だったらなんでイナに伝えないの」
「俺が迎えに行くんだもん」
「…ラブ」
「迎えに行ってそのまま二人でどっか行くんだもん!」
「ラブ」
「俺なんかここに居ても居なくても一緒だもん!」
「…テジュンさんに言った?イナはここにいるって事」
「…」
「ラブ?」
「言ってない」
「どうして!」
「…」
「ラブ…」
「…もう一階に着いた…じゃあね」
右往左往 2 ぴかろん
開いた扉から出て行こうとするラブを慌てて引っ張り込みもう一度40階のボタンを押す
扉が閉まったと同時にラブを抱きしめてキスする
抵抗していたラブは、僕の腕の中で徐々に落ち着きを取り戻し、その手を背中に回す
僕は扉が開くまでずっとラブにくちづけていた
リビングのソファに座ってラブの頬を撫でてやるとラブはしゃくり上げて泣き出した
「テジュンさんに電話、かけ直そう…ね?」
「いやだ…」
「ラブ…」
「イナさんもアンタも…俺たちのこと忘れてるもんっ」
「…ラブ…」
「…」
泣き続けるラブを胸に引き寄せた
「ごめんね…ラブ…寂しかったね…。ごめんね…」
「…」
「忘れてなんかいない…でも甘えてた…。お前が優しいから…」
「優しくなんかないもん…」
「優しいよ…我慢強くて…。ラブ…お前が居てくれるから僕はこうして立ってられるんだ…」
そうだ…ラブが居なければ、僕はこんなに落ち着いていられない…
「…ごめんギョンジン…。我儘言っちゃいけないって解ってるのに…俺…」
「ううん…僕こそ…ごめんね…ラブ」
「…。テジュンにかけ直す…」
小さな声で呟いてラブはテジュンさんに電話をした
電話を終えたラブにもう一度キスをすると、ラブは泣き笑いの顔で立ち上がった
そしてミンチョルさんの周りでミソチョル君を抱きしめながらオロオロしているイナのところへ行き、テジュンさんがこっちに向かっていると伝えていた
「…。わしゅれてた…」
イナは真っ青になってミソチョル君をラブに手渡し、エレベーターに飛び乗った
僕の方に戻ってきたミソチョル君づれのラブを抱きしめて頭を撫でてやった
『ぐるじいれしゅ…』
というミソチョル君の声を無視して、ラブと僕はまたキスをした
これ以上は…今夜はやっぱりできない…
ラブにそう言うと
『これいじょうってなんれしゅか?』
とミソチョル君が聞いてきた
ラブはミソチョル君の口を塞いで…いいの…キスで満足…と言って少しだけ笑った
わしゅれてたっ
どうしようっ
大事な大事な大好きなてじゅのこと…
わしゅれるなんて…
どうしようっ…
俺は慌てふためいてエレベーターに飛び乗った
箱の中で自分にショックを受けていた
なんて馬鹿なんだろう…
なんてひどいんだろう俺…
てじゅは疲れて帰ってきたのに…
てじゅに会いたかったのに俺…
馬鹿馬鹿っ…俺の馬鹿…
自分を責めていたら涙が溢れてきた
俺は涙目のままトンプソンさんに来客用の駐車場のありかを聞いた
トンプソンさんは少し驚いていたけど丁寧にその場所を教えてくれた
それからロータリーの前でてじゅの車を待っていた
ごめんてじゅ…ごめん…
体が冷え切った頃、テジュンの車がものすごい勢いでやってきた
中途半端な場所に車を止めて俺の方に走ってくるテジュン
ああ…会いたくてしかたなかったのに…
「イナっ!」
息を切らして俺を抱きしめるテジュン
俺は申し訳なくて何も言えず泣いてしまった
「はぁはぁはぁ…なっなんで泣いてるの?なんでここにいるのっはぁはぁはぁ」
「…俺…ここに住む事になった…」
「な…」
「…言うの忘れてた…。ついでに…てじゅが今日帰って来るって事もわしゅれてた…」
がーーーーん…
なんらって?
僕はこんなに会いたくて会いたくてたまんなくて…必死で早く帰ってきたのに…
ここに住む?
聞いてないっ!
そりゃそうだっ言い忘れてたと言ったもんっでもっ
そんな勝手にそんな事まで決めて…
そして
わしゅれてた?
ひ…ひどい…
僕は脱力してその場にへたりこんだ
「ごめんてじゅ…その…ギョンビンが撃たれて怪我して明日ミンチョルがロンドンに行く事になってバタバタしてて俺…」
「…」
「てじゅ…」
「…」
「とにかく車を駐車場に…」
「…。あ…ああ…」
「ごめんねてじゅ…ごめん…」
僕は亡霊のように立ち上がり、運転席に座った
助手席にイナが乗り込み、駐車場まで案内してくれた
車を停めて大きなため息をつくと、イナが僕に抱きついてきた
「…会いたかった…しゃびしかった…」
「…なのに…忘れてたんだ…ひどい…」
「ごめんなしゃい…」
「許さない…」
「てじゅ…ごめん…」
「謝ったぐらいでは許さない!」
「…」
シートにイナを押し付けて唇を塞ぐ
硬く閉じた口をこじ開けて深くくちづける
イナの唇が震えている
僕の頬にイナの涙が流れる
イナの腕が僕の首に巻きつき体がようやく柔らかくなる
唇を啄ばんで少し離れる
イナの瞳を覗き込む
「忘れたって?ホントに酷いヤツ…」
「てじゅ…」
「僕は会いたくてたまんなかったのに」
「ごめん…ごめんてじゅごめ…」
「傷ついた…」
「ごめんなしゃいてじゅ」
「イナ…会いたかった…」
「てじゅ…」
「お前は?」
「あいだがっだじゃびじがっだ…」
「ふ…」
「でじゅううう」
狭い車の中でがっつり抱き合う…
「じゃ、部屋へ行こう」
「…れも…バタバタしてるじょ…」
「だから…部屋へ直行しよう!」
「…しょれは…できないと思う…」
「なんで!」
「…まぁいいや…見れば解るよ…」
「…」
ギョンビン君が撃たれたってなんだろう…
ミンチョルさんがロンドン?
わけわかんないな…
僕達は車を降りてエントランスへ向かうエレベーターに乗った
勿論その中でイナの唇を塞いだ
ああん久しぶりのイナの唇はくふふん…
イナがトントンっと素早く背中を叩いて合図したので僕は名残を惜しんで唇を離した
トンプソンさんに以後度々出入りするかと思いますのでよろしくと挨拶をして、そそくさと直行エレベーターに乗り換える
扉が閉まると同時にイナの唇をふさーぐ!
ふふん
イナは今のところ従順だ…ふふふん…
薄目を開けてイナの顔を覗き見てみる
あれ…
僕は唇を離してイナをみつめる
「何考えてる?久しぶりのキスだっていうのに…なんでそんな冷静なの?」
「らって…」
「もっとムード出してよぉ」
「らって…」
もう一度イナの唇に吸い付こうとしたとき、この高速エレベーターは40階に着いてしまった…
あの時一度来たきりだし、ゆっくり見てなかったけど、改めてその豪華さに息を呑む
ソファにギョンジンの馬鹿とラブがいる
「お帰りなさいテジュンさん」
「おう…お前またラブを泣かしてるのか?」
「ええ…」
ええ?
「…俺が勝手に泣いただけじゃん…ギョンジンのせいじゃないよ…」
何この甘えモードラブ!
そして何このおっとこまえモードギョンジンはっ!
「なっ…変だろ?」
「…」
「お兄さんっどうしよう…紫のシャツなんか持っていっていいものでしょうか」
「ダメですミンチョルさん!弟は怪我してるんですよ!そんなもの着てもし弟が必要以上に興奮したらどうする気ですか」
「解りました、ではこの黒のシルクのパジャマを」
「絶対だめです!いいですか、紫、シルクなんて厳禁です!貴方は…そうだ…Tシャツを着たほうがいい!適度にフェロモンが押さえられる」
「…そうでしょうか…」
「ミンチョルさんっ何泊するつもりですかっ。こんなに大荷物でどうするんですかっ」
「ああお兄さん、何をどれだけ入れればいいか僕わけが解らなくなってしまって…」
「…(かわいい)…」
「アンタなんで赤くなってるんだよっ!」
「なっ…バタバタしてて落ち着かないだろ?」
「…」
「んでこれがミソチョル」
『けひん…FAXをひとばんじゅうしゅるんでしゅね…おとうふぱかっでしゅるるんでしゅらいむのてじゅんしゃんれしゅねっ…いやらしいっ』
「なっ…」
僕は…ミソチョル君に面食らったうえ、様子のおかしい皆に影響されて、いつの間にかミンチョルさんの荷造りのアドバイスをしていたのだった…
ああん早くイナと二人っきりになりたいのにぃぃぃ…
僕の先輩_12 妄想省家政婦mayoさん
朝遅くに起きた僕は先に起きてた先輩にまた..ラテを飲まされた..
まぁまぁ綺麗な葉模様だった..ここんとこのぐちゃぐちゃに慣れてたからマシに見えた..
「ミンギが一生懸命飲んでくれるから今朝は頑張った..ょ..」
「そぅスか」
「...」
「..先輩?」
「何ょ..」
「ぁ..何スか?..」
「...誉めてょ..ミンギ..」
「ぁ...ぁ..今朝は調子良かったみたいっスね..」
「それだけ?」
「ぁ~~...はぃ..」
「そっ..つまんないの..」
「今朝は一杯で終わりっスか?」
「もっと飲みたい?..ミンギ...」
「ぁ..ぃぃっス..」
「そっ#..」
「^^;;..」
..先輩..ちょっと調子戻ってきた..
僕と先輩は洗濯やら何やら済ませて昼前にブランチに出掛けた
江南区の隣..瑞草区(ソジョグ)盤浦洞(バンポドン)にはフランス通りと呼ばれる一本の通りがある
94年に在韓のフランス学校が出来てからフランス人が増えて通りに名がついた
煉瓦壁の3~4階の低い高級マンションから出て来るのはもち..フランス人ばっかだ
目に入る風景がことごとくフランス..とはヌナの弁
でもほぉんのちょっとね..ふふん..と笑うオマケ付き
確かに仏や英等のアンティークの店やオープンカフェが軒を並べ..勿論それらの看板は仏語
今ソウルはワインブームだ..ワインバーも前より見かけるようになったし..この通りにはワインの学校まである
僕は先輩のおかげで美味しいワインが飲めるからほとんど出入りしないけど..
[PARIS CROISSANT(パリクロワッサン) ]というフランス人の職人さんのパン屋もある
先輩はたまにここのパンを買っている..
僕と先輩はオープンカフェに入り..通りに面したテラスに座った..
「ミンギくぅ~~ん..^o^〃」
僕を見つけて手を振っていたのはテスさんだった..
テスさんと一緒のちぇみさんは左手に[PARIS CROISSANT]の紙袋を抱えていた..
長いバケットが紙袋からちょっと顔を出している
ちぇみさんは僕に右の手のひらだけを軽く上げ..挨拶をした..
テスさんがニコニコと僕らの席に近づいた..
「ぁ..ソヌさんも一緒だ..こんにちわ..^o^..ソヌさんっ#」
「...こんにちわ..テス君..」
テスさんの笑顔につられて先輩もふっ..と綻んで答えた
「テスさん..パン屋がパン買うんスかぁ?」
「ミンギく~~ん..他店状況..調査調査#..」
「ぁ..そぅスか」
「テス君..パン屋いつ開店なの?」
「んっと..もうすぐだよ..ソヌさん..工事終わったし..」
「ね..ケーキ作るの?」
「ぅん..ケーキはね..毎日一種類だけ作るんだよ」
「じゃ...毎日行こうかな?..」
「ぅん#..来て来て#^o^」
トットコトットコとテスさんが側に戻ってくるとちぇみさんはテスさんの頭をくしゃ#っとした.
僕と先輩は歩いていくちぇみテスさんの後ろ姿を見ていた..
テスさんがちょっと上を向いて話しかけ..ぷははと笑うちぇみさん..
歩きながらちぇみさんの脇をこしょこしょして頭の後ろをぴったん☆すりすり〃されてるテスさん..
「相変わらず..仲いいっスね」
「ふっ..そぅね..」
僕と先輩に食後のコーヒーが運ばれた..
僕は昨夜やっぱり行方不明のあの雑誌が気になっていた
先輩は僕が捜しそうもないところに隠した..僕が捜しそうもないところ..
..!!!...
僕はベットから出て..
暗闇の中..ベットのマットレスをフレームから右から順に少しづつ持ち上げていった..
手のひらを差し入れて..手探りで捜した..丁度角の部分..ちょっと奥まった処に手のひらが当たった
!!!...きっひっひ...あったじゃんょ..(>▽<)..先輩~~甘ぇ~~
僕はソファに横たわる先輩にそぉ~~っと近づき
唇3分開き&すぅー..ぴぃーの寝息を確認してからトイレに入って雑誌をぺらぺら捲った
上を折った跡のあるページがあった..文章は解らない..でも僕は丹念にページを見た..
写真の下に小さく...英語表記の韓国名が確認できた..
??..先輩の反応は..これ??
ってことは..元カノは..フォトグラファー??
僕は雑誌を元に戻し..また枕を抱えてベットに横になった..
先輩が発した「...冗談..」..と..前に聞いた「冗談...」
これは..元カノ【肯定】..だ..っと思うんだ..
「先輩..」
「何..ミンギ..」
「昨日ヌナに聞いてた..ホンイック..って..ホンイックテーハッキョのことっスか?」
「そぅだょ..」
「先輩..弘益大学校(ホンイックテーハッキョ)なんスか?」
「違うょ..」
「じゃ..ヌナ?」
「彼女は興味のある講義だけ受けてたらしいょ..モグリでね..」
「^^;;..そっスか..」
弘益大学校は芸術・美術系では韓国トップクラスの大学だ。
卒業生は画家..陶芸家をはじめとする芸術家..デザイナー..設計士..フォトグラファー等々..
デザインや広告..映画等の映像関係や建築..音楽業界で個性を発揮して活躍している。
大学のある周辺は[弘大(ホンデ)]と呼ばれ..学生だけでなくデザイナーやアーティストたちが集まって来る
名物のペイントアートが住宅の塀や飲食店の壁など街の至る所に溢れていて
異国情緒溢れ個性豊かでおしゃれなカフェやライブハウスが立ち並ぶ..
この界隈は年齢..性別..国籍の差別することのない[自由]があるし..
いい意味で他人にちょっと無関心で束縛がない..オープンマインド的な弘大界隈は僕もよく仲間と通う
この間は女の子が軽トラックの荷台に自分のデザインした洋服をぶら下げて営業していた..
「ぁの..さ..先輩..」
「何..」
「..先輩の..元..カノ..ホンイックテーハッキョ出..なんちって..」
「@@」
「で..さ?..もしかして..映像..写真..なんちって..」
「@@..」
「ぁ~~その目は【肯定】つ~~ことスょね..先輩..」
「のーこめんと..」
もぉ..ガード固ってぇなぁ..
「先輩もホンデ界隈行くんスか?」
「...極..たまに..」
「お気に入りの店とか..あるんスか?」
「[バン]..」
「ぁ,,中古レコードっすね..んっと..[バー・ダ]とか行くんスか?」
「しばらく行ってない..」
「昔はよく行ったんスか..」
「@@」
「そぅスか..昔は通ったつ~~ことスね..」
「@@」
バー・ダはマスターが写真好きで店には客の写真やら何やら店の壁いっぱい飾ってある..
「ミンギ..」
「何スか..」
「..粘るね..今日は」
「うぃっス..」
「興味?」
「...ただの興味じゃないっス..いろんな事情わかんないスけど..」
「けど?..」
「いろいろ心配してるんス..僕なりに..」
「そ..ありがとう..ミンギ..」
「"ありがとう"はいいスから..そのぉ..」
「何ょ..」
「ぁ..ぃゃ..逢えるなら逢った方がいいかなぁ..元カノに..なんちって..へへ..」
先輩は軽く握った拳を唇に当て..もう片手の甲は拳を握った腕の肘に当てていた
僕は仏語が飛び交う通りに目をやる先輩を少しの間眺めていた..
それから僕は先輩に大学まで送ってもらった..
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