ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 157

Toleration  オリーさん

クラクションが鳴り、待機しているタクシーの運転手が合図した
乗るのか、乗らないのか、聞いている
僕は柱から体を離し、タクシーに乗り込んだ
そしてロジャースさんからもらった紙切れを差し出した
運転手はそれを見ると黙って車を出した
病院の外はすっかり冷え込んでいたのだと、タクシーに乗り込んでから気がついた

思いもよらない言葉が僕の胸を刺し、一瞬にして今までの事がすべて繋がった
行くなと言ったお兄さんの顔
急に静かになったMI6のイケメン
ミンからの数少ない短いメール
そして、何かを耐えるように帰れと言ったミン
すべてが繋がった…

僕はミンの仕事相手だという紳士をもう一度見つめた
「なぜわざわざそんな事を教えていただけるんです?挑発されているのでしょうか
それともほめていただいているのでしょうか」
相手はうっすらと笑顔を浮かべた
「もちろん、あなたに向けた賛辞です。素晴らしい相手で羨ましい」
僕は息を吸い込んだ
「だったらお礼を言うべきなのでしょうが、そういう気分ではないので僕も一言だけ
ミンの素晴らしさはそれだけじゃない。一番気に入っているのはしなやかな強さです
どんなに汚されても決して傷つかない。僕の大事な宝石ですから」
僕はそれだけ吐き出すと出口へ向かった

車寄せの脇にあるタクシー乗り場に向かった
その途中で立ち止まった
これからあの紳士は病室のミンを訪ねる…
頭の中でごうと音をあててつむじ風が吹いた
ついさっき僕を見つめたミンの瞳が、僕をつかんだミンの左手が
頭の中に浮かんでは大きく揺れた
柱の壁にもたれかかった
来てはいけなかった
聞いてはいけなかった
もう遅い

怒り、嫉妬、後悔
激しく暗い感情が次々と湧いてきた
けれど今の僕は
怒りにまかせてあの紳士を殴りつけることも
嫉妬に駆られて病室へ戻ることも
後悔してミンを連れ戻すことも
どれも出来ない…

ただここで胸を震わせるしかできない
それがさらに僕を痛めつけた
すまなかった
今まで以上にミンを追い込んでしまっただろう
ミン…
僕は頭の中で何度もミンの名前を呼んでいた
ミンがどこかへ飛んで行ってしまわないように
そんな時、タクシーのクラクションで我に返ったのだった
振り返ると離れられなくなりそうで、僕はまっすぐタクシーに乗り込んだ

車がとまり運転手が着いたと振り返った
僕はとまどった
「ホテルのはずだが…」
「ホテルじゃないが宿だ、BBさ」
運転手は答えた
僕は車を降りて料金を支払った
手入れの行き届いた庭が印象的な煉瓦造りの家がそこにあった
ブラピがリッツやサヴォイのようにはいかないけれど
和める宿だと言っていたのはそういう意味だったのか
今の状況からすると、ホテルの方が気が楽だった

玄関で呼び鈴を鳴らすと、中から大きな声がしてドアが開いた
中から恰幅のいい老人が現れ、僕を見るなりその動きを止めた
「あの、こちらにお世話になるイ・ミンチョルと言います」
僕は自己紹介をした
老人はふっと我に返って意外な言葉を発した
「ミン君かと思ったよ、いやあ驚いた」
「え…」
そう言うと荷物ごと僕を中に引き入れた
「何だ、聞いてないのか。ミン君もここに泊まってるんだ」
僕はミンのメールを思い出した
宿はとても感じのいい夫妻がやっているBBだと

老人はずんずん中に入って行くと奥の部屋に声をかけた
「おおい、ミン君のお友達が着いたぞ」
たぶんキッチンからだろう、小柄な女性が姿を現した
そして、僕を見るなり老人と同じように動きを止めた
「あら、まあ!ミスター・ミンによく似てらっしゃる」
そして満面に優しい笑顔をたたえると言った
「そしてこちらもハンサムね」
僕はその明るい笑顔につられて少し微笑んだ

食事はいらないという僕に、大きなマグカップに入った紅茶が差し出された
カップを持つと暖かさが手のひらに伝わり、思わず目を閉じた
嵐の中で灯台の灯りを見つけた気分になった
「私の紅茶はミスター・ミンもお気に入りよ」
奥さんはちょっと得意げに言った
ミンが好きだという紅茶を一口飲んで僕もそれに賛成した
「美味しいです。とてもまろやかで優しい味がします」
「こちらも褒めるのがお上手」
奥さんはまた微笑んだ

「ミン君には会ってきたのか」
ご主人が聞いた
「はい、空港から直接行きました」
「もうすっかり元気だったろう?」
「はい、経過は順調だと」
「あと2日もすれば退院できるかもしれん」
「色々お世話になったそうで…お見舞いにも来ていただいたとか」
「いやいや。ついおせっかいしたくなる性分で」
「この人、暇なのよ。庭いじりしかすることないから」
奥さんが横槍を入れると、ご主人はむっとした顔をしたが
それが本気でないことはすぐわかった
ミンはこんな場所でお世話になっていたんだ
目の奥が熱くなった

紅茶を飲み終えた僕をご主人が部屋に連れて行ってくれた
ドアを開けた瞬間、そこはミンの香りがした
女性が使っていたと思われる部屋のそこかしこにミンの香りが…
隅においてあるトランク、
ベッドの上にたたんであるパジャマがわりのTシャツ
ドレッサーの上に出しっぱなしのいつもの香水とヘアスプレイ
机の上に置いてあるノートパソコン
几帳面なミンらしく整然と片付いた部屋の中にも、ミンの気配がまだ息づいていた
僕は懐かしさと哀しさを同時に味わった

「荷物を置いたら、さあ、逆戻りだ」
ご主人が僕の腕を取った
「君もイケルだろう?」
「え?」
「これだよ」
ご主人はグラスを傾けるしぐさをした
「あの、僕は…」
答を聞かないうちにご主人は僕を引っ張っていた

海軍をリタイアしたというご主人は飲みながら色々な武勇伝を披露してくれた
僕はミンの事に思いを飛ばしながら、漠然とその話を聞いていた
それでも彼の話は面白く、楽しく、そして時に胸を打つものだった
こんな人が父親だったら僕はどんな人生を歩んでいただろう
ふとそんな思いが頭に浮かんだ
オープンで包容力があり、人生を誠実に歩いてきた一人の男
もしそんな人が父親だったら…

最後だと言われた杯を飲み干すと僕は礼を言って席を立とうとした
「どうして私がリタイアするまで無事でいられたと思う?」
立ち上がりかけた僕に彼が話しかけた
「どうしてですか?」
「臆病だったからさ」
「臆病?勇敢な軍人さんだったというお話は?」
「あれはみんな他人の話だ。実際は伍長止まりでね」
「はあ…」
「失う物がない奴は勇敢になれる、だが私のように家族がいたりすると臆病になる」
「…」
「おかげで無事退役できた」
「そうでしたか」
「ここにあいつが待ってると思うと、何が何でも還らなくちゃならんと」
「奥さんのため…」
「あいつがここでどしんと待っていてくれたおかげで無事に還れた」
臆病な軍人だったという彼が僕をじっと見つめた
「待っていてくれる人間がいるというのは大事なことだよ」
「それは…」
もしかしたら僕に言っているのですか…
「どうかな、よく眠れそうかな」
そういうと彼は立ち上がってまるで気合を入れるように僕の背中をどんと叩いた

ミンが眠っていたベッドで僕はその夜眠った
泣いているミンばかりが浮かんできた
泣かなくていいよ
僕はずっと待っているから
わかってるだろう
どんなことがあっても僕は待っているから

ミンを傷つけることは誰にもできない
僕の大事な宝石だから…
わかってるだろう…


枯れた花 2 ぴかろん

自分を撃った銃弾は、俺の額を掠っただけだった…
引鉄を引く前に、タイヤが縁石を擦ったんだ…
そして壁にぶつかった

俺は重傷を負い、三ヶ月ぐらい意識がなかった
目が覚めた時、げっそりやつれた親父の顔が目に飛び込んできた

ぼんやりした頭で親父から少しずつ話を聞いた

チュニャンが死んだこと…
そうだよ、俺が彼女を撃ったんだ…
そう言うと親父は、交通事故で死んだんだと言った
違うよ俺が撃ち殺したんだ

親父の静かな声が響く
撃たれた跡はどこにもなかった
事故で死んだんだ…

そう思いたいんだろう…
俺はそれ以上何も言わなかった
親父は話を続けた

アメリカのマフィアのボスだが…お前は自分が殺したと思ってるだろうがそうじゃない
お前は確かにその人を撃ったが、仕留めてなかった…
数ヶ月後に、違う男がボスを仕留めたそうだ…

それとペクチュンだが、生きている
生きて今、海外にいる
行き先は言えないが、十分な金は渡した
だから…安心しろ…

夢を見ているのだと思った
殺した事を認めたくない俺の身勝手な夢だと…
夢ではないと親父は毎日俺に同じ事を話して聞かせた
本当かどうか解らなかった

間近で見る親父なんて久しぶりだった
俺の事を心配してくれていた
ほとんど会話なんかなかった親子なのに…
初めて親父の愛情を感じた
皮肉だろ?
こんなに荒んでから心が触れ合うなんて…

回復した俺は親父が言った事が本当なのか、自分で調べた
ペクチュンの行き先はわからなかったけど、生きているという事は確かだった
そしてアメリカのマフィアのボスも…
俺の撃った弾は全部急所を外れていて、その傷の治療中に別の男に殺されたということだった…

チュニャンのことは…

病院の記録を見せてもらった
カルテなんか読めやしない

「自動車事故が原因で亡くなられました」

医者が言った
俺は生きているのにチュニャンは死んでしまった…
事故のせいで?

でも俺は彼女を撃ったんだ…
俺が車を走らせていたんだ…
だから…

俺は…殺してるんだ…
愛する人をこの手で殺してるんだ…
怖いだろ?


ラブが話すその過去はまるで映画のようだ
ラブの事じゃないみたい
信じられない…

ラブは涙することもなく、興奮することもなく…
ただ淡々とその物語を聞かせてくれた…

「本当なの?」

僕はつい…そう聞いてしまった
虚空を見つめていたラブの瞳が揺れた

「疑うの?」
「違う…そうじゃない…。でも…あんまりお前が落ち着いているから…。お前の事じゃないみたいに思えて…」
「俺もそう思う…自分の事じゃないみたい…」
「い…いつものラブじゃないように思えて…」

僕の知らないラブがいるから…遠くへ行ってしまいそうだから…

「俺、事故で一度死んだんだ…。気がついてからチュニャンの後を追おうと思った…でもできなかった…。親父が毎日俺に言い聞かせた。生きてくれ。頼むから生きてくれ。死んだ人のために、お前のために…わしのためにって」

死んだも同然の俺なのに、生きて欲しいって毎日毎日…。冷たかった親父が涙まで流して…生きてるだけでいいからって言うんだ
俺は病院のベッドで毎日自分の心と向き合ってた

あのボスを撃ったのは、命じられて、それに従わなければ自分が殺されると思ったからだ
だから殺した…殺そうとしたんだ…
死ななくてよかった…
殺してない…
でも…殺そうとしてたんだ…

ペクチュンは俺を刺そうとした
揉み合ってるうちにあいつが自分で自分を刺したんだ
だから俺は悪くない…
生きててよかった…
でも…俺と揉み合ったから死にかけた
殺るか殺られるかの状況だった…
俺は生き残るためにペクチュンを…殺そうとしてたんだ…

そしてチュニャン
死なせたくなかった…
一緒に生きていきたかった…
でも…死なせた
殺したんだ…チュニャンは死んだんだ…

毎日同じ事を思い出し、同じ事を考えた
自分を庇おうとする気持ちと、自分を責める気持ちとがぶつかり合っていて
地獄ってこういう事かなと思った…

人を殺した俺が、平然と生きていっていいのかって親父につっかかった
じゃあ死んだら許されるのかって親父は怒鳴った
苦しくて耐えられないって言うと、親父は黙った
それから言った
お前には生きて欲しい、辛くて苦しくてどうしていいか解らないその気持ちから逃げるなって
死んだ人や傷つけた人に悪いと思うなら、生きて他の人のために働けって…

長い事かかって俺は自分の心に折り合いをつけた
親父の言うように、俺のした事から逃げないで、忘れないで生きていかなきゃいけないと思った
苦しかったし辛かった
それで俺は、事故前の出来事から感情を抜き去ることにした…
一切の感情を干上がらせた
それでも俺のしでかした事は心に残っている
人を殺そうとしたこと、チュニャンを死なせたこと
泣いて詫びるのは誤魔化しだ
やってしまった事を一生抱えて、俺は生きていかなくちゃいけない
だから…この事で泣くのはやめた…

それから、BHCにスカウトされた。俺はただ生きているだけの状態で何がどうなろうとどうでもよかった…
でもこれ以上親父の世話になるのもいやだったし…座ってるだけでも給料貰えるなんて聞いたからさ…ここに来た
親父は反対したけど、俺が『生きていくためだから』と言うとしぶしぶ承知した

親父は、あのマンションに住めって事と、もう十分に苦しんだのだから、今度はお前の人生を生きろって事をしつこく繰り返した
自分の事しか考えてない人だと思ってたのにさ…

BHCで皆と出会って、アンタと出会って、俺はまた人間になれた…
新しく生まれ変わったんだって思えた
泣いたり笑ったり幸せに思ったり嫉妬したり…
不思議でたまらない…
乾いたはずの感情が戻ってきてた

時々不安になる…
そんな風に幸せを感じていいのか…
あの時傷つけた人達への後悔は残ってるけど、あの時の感情は乾いてる…
思い出しても悲しくも怖くもない…
アンタや皆といる時と全然違う…
そんな自分が怖くなる…
あの人達を思い出しても…なにも感じないんだ…

どう?
怖いだろ?
あんたはギョンビンを犯そうと思っただけだ…
俺は実際に殺した…
生きてる二人だって殺したも同然だ…

一番生きていて欲しかった愛する人を…殺したんだよ…
そして今、俺は我儘放題で生きている…平気な顔をして幸せになりたいなんて思ってる…
そんな風に思っていいのかな…
いけないよな…
俺は人を殺したんだ…
あんたの事だって、いつ殺すか解んないよ…
ね…俺の根っこはカラカラなんだ…
きっとホントは何も感じてないんだ…


乾いた瞳で僕を見つめてラブは言った
僕はなんと声をかけていいのか解らなかった
愛を求めているくせに、自ら乾く事を望んでいたような
あの初めて出会ったときのラブを思い出した

僕の苦しみより、はるかに重い経験をしたこの子に強く惹かれたのは
僕達二人とも、新しい自分を生きようとしていた時だったから?

僕が苦しんだあの思い…
気が狂いそうだったあの気持ちより何十倍も大きな傷をラブは受けていたのに…
僕の苦しみなんてラブの比じゃない…

僕はラブの頬に触れ、乾いた瞳を見つめた
戻って…いつものラブに…
僕の知っているラブに戻って…

願いを込めながらキスをした
ラブの乾きを潤せるようになりたい…
反応しない唇を、なぞり、撫で、吸い、噛み
ラブを呼び続けた
どれほど時間が過ぎたのか解らない
ようやくラブが声を出した

「ギョンジン…」

僕はラブを見つめた
瞳に輝きが戻っていた

「ラブ…」
「もう時間だ…店に行かなくちゃ…ね」

ちゅっと音を立てていつものように僕にくちづけるラブ

元に戻っている…
君は…苦しんで…そんな術を身につけていたんだね…


闇夜のドン_4  妄想省家政婦mayoさん

夕方4人でCherokee sportsに乗り込んだ..
Cherokeeは祭の後にテスと旅に出る前にピョートルが手配してくれたものだ

「返さなくていいぜ..」
「いいのか」
「ぁぁ..構わないからそのまま使えよ..」
「くっ..後が怖いな..見返りあるぜ..ってことか?」
「まっ..ちょっとな..」
「何だ..見返りとやらは」
「まっ..それは追々っということで..頼むよ..」
「ぷっ..わかった」

俺は祭の打上げの時ラウンジでピョートルが放った鍵を空で受け取った
ユリキム親子の事業はスンドンと組んで何とかやっている
で..俺と闇夜にちょろちょろと調査を依頼してくる..しかも..[タダで]だ..
こっちも土地やら何やらで世話になってる分しゃぁない..とは闇夜の弁

闇夜は車の運転をしない..じじぃが闇夜を呼ぶときは必ず迎えの車を寄こす

「韓服を着れば単車には乗れんじゃろ?..いくらあやつでもの..ンカッカ」

じじぃは闇夜に毎度韓服を着せる訳を俺に洩らした
闇夜の単車に渋い顔をするじじぃのささやかな抵抗だろう..

テソンは最近前のマンションの保証金がやっと戻ってきた
2部屋分(蝋燭部屋もあったからな..)なのでそこそこの金額だ
テソンはそれで車を買い換えたいらしい
だが闇夜のOKが出ない..で..得意のじわじわで毎日説得している..

オルシン邸は俺等の家から車で20分程
リュルのオフィスはオルシン邸から車で15分程の敷地にある..
俺等の家を頂として..2ヶ所は逆三角の2点に位置していると言っていい

リュルの敷地に入ると撮影隊がまだ居るのだろう..何台かのバンが止まっていた
先に闇夜をリュルのオフィス前で降ろした..
2階のバルコニーに立つリュルが俺に手を軽く挙げるのが見えた
俺は車の中から手を挙げ..車を発進させた
テスとテソンを店まで送る道すがら助手席のテスが口を開いた

「ちぇみ..」
「ん..何だ」
「ちぇみは長くかかるの?」
「ん?オルシンんとこか?」
「ぅん..」
「ぃや..大して時間はかからんと思うが..何故だ..」
「ぁ..ぅん..」

テスが口籠もりちょっと後ろを向いた..
バックミラーに俺に視線を向けるテソンが写る...
出掛ける前にちょっと赤くなってたテソンの唇は落ち着いたようだ..
俺は口端でちょっと笑い..前を見たまま..耳を傾けた

「何だ..テソン..」
「迎えに行ってくれないかな..」
「闇夜か?..」
「ぅん..あの辺は夜真っ暗だし..夜寒くなるし..」
「ぉん..それは構わないが..ぃぃのか?」
「ぅん..」
「俺は車ん中で何するかわからんぞ?..」

「「ぁ..ぁのねっ#..」」

ぐぅー★…ペチン☆…パコッ@…
俺はテス…テソン…はるみ…それぞれに叩かれた

「冗談だっちゅーにぃ../_\」

「「ちぇみが言うと冗談に聞こえないっ#ぁぃぅー」」

「はるみ..ちゃんと見てるんだよ?ちぇみが変なコトしたら僕に報告すること..いい?」
「みゃん^o^…」
「よしよし..chu#」
「みゃぁ(>▽<)」

へ..変なことってよぉ..ちっ..俺は胸ん中で舌を鳴らした..
中性的な闇夜はある意味リュルの周りには見あたらない毛色の変わった奴だ
リュルは相手がいようがグイグイ押し切る強引さがある..
俺はリュルの方がよっぽど危険だと思うんだがなぁ..

テスとテソンをBHCで降ろしオルシン邸へ向かった
オルシン邸の敷地には何ヶ所かにいつも眼光鋭い男達が立っている..
俺が行くと一礼しまた周囲に目を凝らす..玄関で書生の申が出迎えた..

廊下を歩く隣の申が俺を見上げるのが目の端に入った..

「何だ?..申..俺に惚れたか?」
「ぁ..ぁふぁふ..」
「可愛がってやるぞ?..ん?..」
「冗談キツイですね..言いつけますよ..」
「^^;;..では何だ.何か言いたそうな目だぞ..」
「ぁ..イエ..似てるな..と思っただけです」
「俺が?誰とだ」
「ウン…」

申の口から声が漏れたのと同時に俺は訝しげに眉間を寄せ..眦を眇め申に振り返った
申は俺の目にちょっと怯み..「ぁっ..」っと自分の掌で自分の口を叩く..
『お喋りな口..お喋りな口..』と自分で唱え自分に言い聞かせた..

「すいません…mayoさん..です..」
「ふっ..」

俺は言い換えた申の頭を小突いた..
じじぃの部屋の障子を開けて申は一旦下がり
俺がオルシンに挨拶を済ませると申が茶を持って入ってきた
オルシンははるみの背を撫でながら閉じた扇子で座卓のすぐ前に俺を呼んだ..

「何か動きでも..」
「ぅぬ..元と金の持ち株がよそに流れている..そろそろとな..集めている奴がいる」
「おっと..やはり..そのことでしたか」
「気が付いたか..おぬしも..」
「この間の調査の時に..」
「そうか..」
「オルシンにはおおよそ見当はついてるのでは?」
「ぅぬ..お前にもわかるじゃろ..そやつが誰か..」
「はい..」
「間に何人も介しておるみたいじゃし..」
「確証が掴めないってことですか..」
「ぅぬ..隙がないんじゃ..」
「最近は..[箍が緩んでる]..と彼女に聞いてましたが..やはり違いましたか..」
「の..ようじゃな..」
「オルシンはどうしたいので..」
「元(ウォン)が崩れるのは構わんのじゃ..目障りでかなわん..」
「はは..^^;;..」
「ちゃちゃと古巣の上海なりにでも引っ込んで欲しいわい」
「たはは..」
「金(キム)はのぉ..グループとしての経営はきちんとしておるんじゃ..じゃがのぉ..如何せん.」
「トップが悪いってことですか..」
「そうじゃな..一人で掻き回しておるんじゃ」
「^^;;..」
「あやつから聞いたか..いろいろ..」
「はい..根が深そうで..」
「そうか..またドンパチやらんで欲しいわい..」
「そう願いたいですね..早急に調べますので..」
「頼むぞぇ..」
「はい..」

「ところで..パン屋はいつ開店じゃ」
「ここ何日か後に」
「そうか..その前に4人で来いな」
「はひ..」
「お前がデロデロと可愛いがってる..これ(小指立てる)..わしも会ってみたいしの」
「はっ..はひ..^^;;」

座卓の前のオルシンと隣に座る申がくくっっと肩を震わせて笑った..
オルシン邸を出て車に乗り込み..短い電話の後..リュル邸に向かった..


僕を呼ぶ声  ぴかろん

店に出て、いつものように振舞うラブ
ドンジュン君がパリから戻り、元気な顔を見せてくれた
彼の元気を分けてもらおうと、僕はその髪をくしゃっと触った
明るい空気が振りまかれた
ひとかけらの煌きを受け取ったような気がした

ふっと手が空くと、僕はすぐにラブの事を考えた
ラブの苦しみに思いを馳せ、かける言葉を考える

僕だって人を殺めているんだよ…
任務だったとはいえ…人を…

違う…違う違う…
そうじゃない…
ほんの少しだけど、解るんだラブ…
お前の心が…解るんだラブ…

僕の中で漠然とした感情が…
ほのかな明るさを持った感情が見え隠れしている…
ドンジュン君のくれた煌きが、その場所を教えてくれている

ラブに伝えたい
どう伝えればいい?
どう捉えればいい…何を伝えたい…
掴みきれなくてもどかしい…

ぼんやりしていると子供のような顔をしたイナが近づいてきた

「ちゃんと話した?」
「…ん…」
「辛かったろ?」
「…イナ…」
「ん?」
「僕の辛さなんて…ラブに比べたらなんでもない事だ…」
「…」
「お前は知ってるの?ラブの過去…」
「…ああ…少しだけ…」
「僕はバカだよ…甘っちょろい僕の苦しみを大げさにラブに話してさ…」
「…」
「恥かしいよ…」

イナは首を傾げて僕を見つめ、それから肩をポンと叩いて向こうへ行った

店が終わって、今夜は自分の家に帰るというラブを送ろうとした
ラブは寄るところがあるから今日はいいよと微笑んで帰っていった
とても心配だったけど、僕はイナと二人でレジデンスに戻った
イナはイナで、僕は僕で、それぞれ考え事をしていた
エレベーターに乗ったとき、イナは急に口を開いた

「昼、店で言ってた事だけどさ…ラブのことと自分のことと比べてたあれ…」
「…ああ…ちっぽけな僕の悩みのこと?」
「…お前…すっごく苦しんでたじゃないか…」
「…ん…でも、僕なんかよりもっと苦しんでいる人がいるだろ?ラブがまさにそうだったんだ…」
「…苦しかった事に変わりはないだろ?」
「…」
「何を苦しいと感じるかは人それぞれだけど、苦しい事に上も下もないと思う」
「…イナ…」
「恥じる事なんてないんじゃないの?たとえラブの苦しみが想像を絶する事だったとしても、お前はあの時苦しくて辛かったんだ…。そんでそれを踏み越えたんだもん…比べるのはおかしい…」
「…」

イナを見つめた
霧の中にあったほのかな光を掴めそうな気がした
イナだってきっと苦しい事があったに違いないんだ…

「なんだよ」
「お前って子供のくせにいい事いうな」
「子供じゃねぇよっ!」
「…なんでお前は…余計なものに惑わされないのかな…?」
「へ?」
「…いや…なんでもない…すごいなと思ったの…」

僕はラブの事をもう一度考えた

生きていくために…ラブはきっとその感情を乾燥させてしまったのだろう…
自分の中に封じ込めて、涙が入り込まないようにしている
いつでも取り出せて、いつでも語れる…
忘れないように…淡々と語る…

ラブ
それが戒めになっていると気づいてる?
平気な顔をしているその心がキシキシと音を立ててるの、聞こえてる?

涙のしずくを、その空間に放り込んだら、乾燥した心がたちまちしっとりと膨らむのを僕は容易に想像できるよ…
お前はお前が言ってるような怖ろしい人間じゃない…
根っこの部分が乾いてる?
お前が自分で水を吸わないようにしてるからだよ…

エレベーターが最上階についた
イナを降ろして僕はそのまま扉を閉めた

「ギョンジン!」

イナが慌てて開ボタンを押した

「何してんだよ!」
「…ラブのとこに行ってくる…」
「…」
「なぁ…僕さ…」
「ん?」
「ギョンビンを犯そうとしたけど、やめたんだったよな…」
「うん…」
「僕が…やめたんだったよな?」
「…そうだよ…。お前が自分でやめたんだ…」
「…。ありがと…イナ…」
「?」
「行ってくるね…」
「…ん…」

ラブに会いたかった
ラブが僕にしてくれたように、僕はラブを受け止められるだろうか…
ラブの全てを僕は、支えられるだろうか…


strangeりゅる_1 妄想省家政婦mayoさん

「まよ#」
「ぁっ…ミンソン」

リュルの建物に入り..ドアの開いている部屋をちらと覗くと中から呼ばれた
友人のスタイリストのミンソンだ..
私よりも頭ひとつ大きいミンソンはひょろひょろとして目がやたら大きい..
彼女はスタイリストをやりながらたまにモデルに駆り出される
ミンソンは素顔は色気が無くキュートな感じだがメイクをして衣装を着ると一段と際だつ...
薄いオーガンジーが幾重にも重なったドレスを着たミンソンが側に来た

「どうしたん?」
「リュル社長にちょっとね..」
「ひゅぅ~~..”ご多忙ダイヤモンド社っ長ぉ~~"こっちに呼んだかぁ..」
「ぷっ..」

部屋にはアールヌーボー様式のマホガニーの家具が配置されていた..
深紅のベルベット張地のカウチとコンソールはカブリオレ(猫脚)
ミラー付きキャビネットは唐草のモチーフが彫り出されている
コンソールの上には ミューラー作のランプ..

「ね..あのランプは社長の持ち物?」
「ぅん..コンソールとカウチもね..キャビネットだけは違うけどね..」
「ふ~~ん..」

カメラマンに呼ばれたミンソンは私の側を離れ..カウチに横たわった

コンソールの上のミューラーのランプはアイアン台座からT字の曲線が伸び..
左右に伸びた曲線の下に被せガラスのシェードがぶら下がっている..
シェードはアネモネの文様を浮かび上がらせ..淡ブルーと淡グリーン..淡イエローの色合いが絶妙だ

しばしランプから目を離せないでいると..左斜め背後にすぅ~~っと気配を感じた..
目線を床に落とし..背中越しから微かに鼻腔に入る香りに集中した..

ありがちな合成香料では出せない上質の香り..
稀少になっている天然香料の高い含有量を意味する..
他社の香りフレグランスとは一線を画す天然香料から創り出される透明感

[CREED]社か..

ブランドからすると背後の人物はリュルだろう..
フレッシュなレモン..フレンチバーベナノートが最初に香り..モダンなバイオレットノートがミドルで来る..
最後にサンダルウッドとアンバーグリスノートが香った..
頭の中の香水データが瞬時に組み立てられた..

[Green Irish Tweed]…間違いない…

クリード社は徹底した原料への拘りとハンドメイドの製造方法で傑作品の域に達する香りを
厳選した顧客に提供してきた..一般向けに販売されるようになったのは6代目になってからだ
中でも[グリーン・アイリッシュ・ツィード]はユニセックスに使え..深く温かみのある甘さが上品に香る..

懐深く温かい..??
はて..リュルはそんな人物か?

どんな香りを纏っているのかである程度人物を把握できる..
香り自体が好きなのか..ブランドで選んでるのか..
リュルの場合はまだ調査の必要アリ..だな
んな事を考え..振り返って挨拶をしようとした時..背後から抑揚のある低音が聞こえてきた


「アールヌーボーを一言でいうと↑?」

ぃ..いきなりかよっ#ったぐ..
振り返るのを止め..前を向いたまま答えた..

「新しい芸術..」
「くくっ..ホントに一言だ..特徴は↑?」
「花..植物..虫等などをモチーフにした自然主義と職人芸的な技法でしょうか..」
「ん~~では何故..アールヌーボーが長続きしなかったかな↑?」
「極端な二面性を持ち合わせていたからでは..」
「二面性↑?」
「曲線は誰でも自由に描けますがそれを正確になぞる事はあの時代は不自由でした
 大量生産が出来ず趣味の域に留まらざるを得なかったからでしょう..」
「[自由]と[不自由]の二面性ってことかな↑?」
「はい..」

「では..アールヌーボーの魅力は↑?」
「緩やかで流れるような曲線のフォルムが女性の裸体をも連想させ官能的..
 あのミューラーのランプは女性特有の臓器の形です..
 アールヌーボーの曲線は微妙であって際どい..下手に使い過ぎると悪趣味な空間になる..
 でもその扱いにくさが人間のようであって..そこが魅力的に感じられますが..」
「んククククク…」

振り返るとリュルは腕を組んで軽く笑っていた..

「君は..テックヒョンの言った通りだね↑?」
「はぁ...」
「変わった観点から見..またそれが的を得ている処もある..」
「それは..お誉めの言葉なのでしょうか..」

肩をすくめまたクククと笑い答えの代わりにしたリュルは
胸の前で組んでいた腕を解き右手を差し出した..

「シン・リュルだ..」

左手を胸下に当て..右手を差しだして握手をした..
ちぇみより多少肉付きのある大きな手だった..

「冷たい手だね↑君は..」
「すいません..」
「小さい手なのに爪が大きい..実に指輪の似合わない手だね↑?」
「ぁ..はぁ..^^..」

気にしてることをズケズケと..くそっ..
でもって「↑?」がいちいち気に障る..ったく..

胸ん内を顔に出さずに愛想笑いで誤魔化した..
軽い挨拶の後..撮影の部屋を出るリュルの後に続いた
部屋を出るとき振り返るとミンソンが親指を立て..ウィンクをしていた
口唇を読むと『チャレッソ!!..ファイティン..』だった


僕を呼ぶ声 2 ぴかろん

ジャガーを走らせてラブのマンションに行った
突然訪れた僕を、ラブは少し戸惑った顔で迎えてくれた

ラブの入れてくれたお茶を飲みながらラブを見つめた
ラブの瞳がまた虚空に注がれる
ラブの唇から乾いた声が漏れた

「捨てていいよ…俺の事…。怖いだろ?突然あんたの命を狙うかもしれないよ…」
「ラブ…」
「…それを言いに来たんじゃないの?」
「僕は弟を犯そうとした怖ろしい奴で、それをイナが救ってくれたって言ったよね…。こないだイナにその事を話してたんだ…。そしたらイナはこう言った…
『それをやろうとしたのも、やらなかったのもお前だろ?お前はやらなかったんだよ』って…
僕にはね、『やめる事を選ぶ力』があるんだラブ…
もしお前が僕を殺そうとしたら、僕がそれをやめさせてやる…僕がずっと側にいて、誰も傷つけさせない。それが僕にはできる!」
「…ギョンジン…」
「怖くなんかない…お前が愛しい…」
「…」
「お前が僕の全てを受け入れてくれたように、僕もお前の全てを受け入れたい」
「…」
「僕にはそれができる」
「…。えっらい…自信…」
「そうだよ…僕は…自信過剰男だもん…」
「…ギョンジン…」
「自信過剰男は…お嫌いですか?」
「…」

ラブの瞳が揺れて、頬に涙が伝った
僕はラブを引き寄せて膝の上に座らせた

「根っこ…カラカラなんだよ。いつアンタの事、枯らせてしまうか解んないんだよ」
「枯れない」
「…」
「お前の根っこに水も愛情もたっぷりぶっかける」
「…そんな事したら…俺…苦しくなっちゃう…」
「そしたら僕に半分ちょうだい…」
「…」
「お前、僕にそうしてくれてる…僕も、お前にそうしたい」
「…ギョンジン…」
「僕にはできる。僕は枯れない。お前が側にいる限り、僕はいつでも自信過剰男だ」
「…ふ…ふふ…」
「お前を…抱いてもいい?」
「…ギョンビンの事、心配なくせに…。心配でそんな事できないくせに…」
「…ギョンビンにはミンチョルさんがいる…。もしアイツの心が壊れてても、きっとミンチョルさんがくっつけてくれる…そう思えるようになった…」
「…」
「抱いても…いいか?」
「こんな俺を?」
「こんなもどんなも、僕にとってお前は『ラブ』なんだもん…」
「…」

ラブは静かに泣いていた
僕はそっと彼にキスをした
そのまま彼を抱き上げて微笑んで見つめると、彼は自分のベッドルームをちらっと見た
僕はそちらへ向かって彼を運んだ

ラブをベッドに横たえてくちづけを落とす
いつもの行為
でもいつもと違う
僕の中のありったけの愛を込めた最高の行為…
ラブの着衣を脱がせ、ゆっくりとその体を解す
僕の肌を合わせ、側にいると伝える
僕の愛撫にラブの体が反応し始める
お前の心の深いところまで届くように
お前を愛しいと思う気持ちが染み渡るように
くちづける
啄ばむ
なぞる

ラブが声を漏らす
僕の唇の全てに応えて声をあげる
僕はラブの脳に向かって告げる
愛しているという事を
ラブが泣く
ラブの心が泣き出す
ねぇ…繋がってと懇願する
僕は静かに彼と繋がる
虚空を見つめたままの彼が取り乱して泣いている
僕は彼の髪を撫でる

ねぇ…ねぇ…感じてもいいの?
俺、幸せになりたいって思ってもいいの?

ああ…いいんだよ、感じて…。幸せになろう…僕と一緒に…

あ…新しい俺のままでいいんだよね?
あんたの前にいるいつもの俺でいていいんだよね

ラブ

ああ…もっと深く繋がってお願い…お願いだから…ああ…


僕の背中に食い込むラブの指先
愛しい顔が迷って歪んでいる
僕は動きを止めて彼から離れた

「いやっ!…離れないでっ…離れないで…いやだ…ちょうだい…お願いだから…」

泣き叫ぶラブを見つめた

「ラブ…僕は新しいお前だけが欲しいんじゃない。お前は生まれ変わったって言うけど、そう思わなきゃ生きてこれなかったのは解るけど、でも違うだろ?」
「…え?」
「僕には…僕には解るんだ…」
「…なに…」
「お前の根っこは乾いてない」
「…」
「生きてる。水を吸ってる」
「やめてよ…」
「僕と何日か過ごした後、お前は必ず一人になりたがったよね」
「…」
「何をしてた?」
「…」
「自分を責めてたんだろ?」
「え?…」
「なぁ…僕といると幸せだろ?心も体も幸せだと思うだろ?違う?」
「…」
「そう感じることに罪悪感を持ってるんだろ?お前…」
「…やめて…」

辛かった思い出に触れながら、乾いていると思い込んでいるその心を軋ませて、祈りを捧げていたんだろ?…無意識に…
ラブの目からまた涙が溢れる

「もう乾かしてあるんだ…濡らさないで…」
「お前は死んでない…ずぅっと生きてる…。繋がってる…。お前の人生だ…」
「何言ってるの?」
「繋げなきゃいけない…もう繋げられるはずだ…」
「…」
「生まれ変わってなんかいない…ずっと…過去から繋がってる…それがお前なんだ」
「やめてよ…」
「僕はずっとミン・ギョンビンだった。僕は僕を殺してた…。辛いという事も解らないまま自分を葬り去ってた。だから解る。過去の自分を今の自分とくっつけ合わせてごらん…」
「いやだ!いやだやめてよ!できない!やっとそぎ落としたのに…。忘れてないよ、自分のした事。生きてると欲がでてくる…。幸せになりたいって思っちゃう…気持ちよくなりたくなっちゃう…楽しいと思っちゃう…泣いてしまう…でも…あんな苦しくて辛いのはもういやだ…いやなんだもん…」
「逃げてるじゃないか!逃げないで生きていくんじゃなかったのか?」
「だから忘れないようにして…」
「解決してない!向き合ってないよお前」
「いやだ!もういや…何度考えたか知ってるの?どう考えても答えが出ない。生きた屍になってればいいっての?そんな事してても何にもならない…。俺は…前向いて生きるためにあの時の気持ちを骨にしたのに…必死で乾かしたのに…どうして湿らせるの?!」
「僕の知ってるお前だけじゃ、お前じゃないからだっ!」

怒鳴りつけた
自分を分裂させたまま生きることの苦しみを
僕は僅かだけど知っている
そんな嘘の人生
いくら人のために働いたって
そんな嘘の人生…


替え歌 「僕を呼ぶ声」 ロージーさん

いつもどんな時も 独りじゃない        
深い胸の奥で 繋がってる  
果てしない時を超えて 輝く星が
出会えた奇跡 教えてくれる

僕の腕の中の このぬくもりは
きっとかけがえの無いものだから

oh-- yeah yeah-- ah weh- hey--

今のこの僕に 何ができるの?
痛みに触れさせて 怖がらないで
夢を失うよりも 哀しいことは
自分を信じてあげられないこと
もっと強くなるよ お前と僕のため
悔いのない明日を 生きるために

心の静寂-sizima-に 耳を澄ませば
僕を呼ぶ声がする どこへでもゆくよ
お前のその涙 僕のものだから

本当の自分を uh-- 抱きしめて
命のぬくもり感じて

uh-- 僕たちは誰も ひとりじゃない
ありのままでずっと 愛されてる
たとえどんな過去に 繋がれていても
生きて在るこの時を抱きしめたい

(平原綾香『 Jupiter 』)


僕を呼ぶ声 3 ぴかろん

取り戻してくれたのはイナ…
つなぎ合わせてくれたのは…ラブ
ううん…二人とも、そうする事に力を貸してくれただけだ…

「僕は…イナとラブに力を借りて僕をつなぎ合わせた…僕がそうした。僕がそうなりたかったから…僕になりたかったから…。辛かった事も苦しかった事も僕の中に流れ込んできたけど、もっと大きな喜びが僕を満たした。これが僕なんだって感じた。臆病で、ずるくて、弟のモノを横取りして、弟が大好きで、父さんと母さんの愛情が欲しくて、優等生の振りして、苦しくて悲しくて、僕なんかいらないんだって感じてた僕を、心の隅に追いやってた僕を、僕は迎えにいった…。大嫌いだった僕を迎え入れた。嬉しかった…ラクになった…僕は僕として生きていくんだって、今まで見えてなかったものが見えた。感じ取れなかったことを感じられた。お前が助けてくれたからできたことだ…」
「…俺は楽になんかなれないっ!チュニャンを殺したんだ!チュニャンの人生を奪ったんだ!」
「お前だけが悪いんじゃない!事故だったんだ!」
「違う!俺が撃った…」
「殺したくて死なせたわけじゃないだろう!」
「…」
「死ぬよりほかに幸せになる方法が解らなかったんだろ?」
「…」
「チュニャンさんは…幸せな気持ちで死んだんだ…僕はそう思う…。お前だけが生き残って苦しんで…。それでもう十分だ…」
「そんな事…アンタがどうして解るんだよっ…」
「幸せになりたいだろう?ラブ」
「…望んじゃいけない…許されない…」
「だれが許さないの?」
「かみさま…」
「ラブ…」

僕はラブの足を持ち上げて彼と繋がった

「あああっ…あ…ギョンジン…」
「苦しくて悲しくてごめんなさいって言ってりゃ許されるの?」
「あ…ああ…」
「人のために働くんだって…お前…思ったんでしょ?」
「…やめて…」
「過去を捨てるな」
「捨てて…ない…あ…」
「隠すな」
「隠し…てな…」
「切り離すな!」
「…」
「僕がいる…お前の苦しみを僕も一緒に受け止める…
お前が僕にそうしてくれるから、僕もお前の苦しみを受け止める…」
「…ギョンジ…」
「お前を愛してる…愛してる…」
「…あ…あぅ…」

一緒に苦しんでくれる人が現れるのを待ってたくせに…
それが僕だったらどんなにいいかと思ってるくせに…
だからお前、僕に話してくれたくせに…

水を吸っていいよ…
重ければ支えてあげる
もし潰されても膨らませてあげる…ラブ…

「…いや…いやだ…チュニャン…チュニャン…あ…チュニャン…あああ…」

体を撓らせ、果てたラブにくちづけをする

「チュニャンを愛してた…人を殺した…人の言いなりだった…殺したくなんかなかった…父さんに…甘えたかった…可愛がられたかった…。一度死んで生まれ変わったから、俺は父さんに心配されて、殺しの後始末全部終わってて、貴方に出会えて幸せになれたんだと思ってたのに…。違うの?…違う…よね…
違う…ずっと繋がってる…俺はいつも…手にかけたヤツラに詫びながら生きてきた…そうだよね…目を伏せて歩むべきなのに、いつの間にか俺、頭をあげていっぱしに幸せなんか求めてた…。いいの?いいと思う?」
「…いい…。生きている人は、幸せにならなくちゃいけない」
「チュニャンを殺したこと…忘れていいの?」
「ラブ…忘れて…幸せになれる?」
「じゃあどうすればいいの!」
「殺したんじゃない…一緒に死のうとしたんだ、お前たちは…。チュニャンさんだけが死んでしまったけど…結果はこんな風だけど…。一緒に祈ろう…チュニャンさんに祈ろう…。頑張って生きてるって…。自分の人生を生きてるって…」
「…許してくれるかな…」
「…誰も許さなくても…僕が許すから…」
「…」
「僕がずっと…お前を愛するから…」
「ギョンジン…」
「ずっと側にいるから…ラブ…」

ラブは涙を堪えて言った

「…俺、おかしくなっちゃうかもしれないよ…」
「大丈夫だよ…僕がいる…」
「…ほんと?」
「…うん…」
「手繰り寄せてもいいの?」
「…うん…」
「苦しくないかな…」
「僕がついてる…」
「…ギョンジン…」
「…ん?…」
「水を与えて…」
「…ラブ…」

…もう一度…抱いて…

乾いた花の骨がしっとりと膨らんできているのが解った
僕に焦点を合わせたその瞳の光りが、少しだけ鮮やかになった
君は君になる…
君がしてくれたように
僕が力を貸す
君をもう一度抱く…
これは君のお父さんの腕
これは君のお母さんの腕
そして君が愛したチュニャンさんの腕…

僕は彼の中に入り、彼の唇を吸い上げた
彼の腕と脚は僕の背面に絡みつく

僕達は一つの塊
僕にしかできない事
君を支える事
君にしかできない事
僕を支える事
僕達は一つの塊
その事を覚えておいて…
何があっても
何が起こっても…
愛してるから


strangeりゅる_2  妄想省家政婦mayoさん

リュルの仕事部屋は南側の窓が全面ガラス張り..
窓際にあるデスクは分厚い大きなガラス板でデスクライトとフロアスタンド3体はイタリア製
革張りのソファの前にあるテーブルもガラスで部屋全体はモダンにスッキリまとめている..
リュルはオーディオのスイッチを入れデスクの椅子に座った..

「テックヒョンから話は聞いてる..企画は幾つある↑?」
「..3つです..」
「じゃ…早速見せてもらおう」
「はい…」

リュルに3つのファイルを渡した
右手に持ったペンでコンコン#とガラスデスクを叩き..無言のまま椅子の在処をペンで指す..
椅子をずるずる持ってきてデスクを挟みリュルの向かいに座った
リュルは資料を手にし..向かいの私を一瞥した後..
デスクに肘を添え椅子を回転させた..身体がデスクと平行になる

しばし..資料を読む リュルの姿 に見入った..
青と紫色が混合した微妙な色合いのシャツは上質の絹だろう
左腕が資料のページを捲る仕草と共に張りのある絹はシャリシャリと微かに衣擦音を出す..

茶系に染めた少し長めのヘアスタイルはリュルの滑らかで語尾が上がる声音に合っている
声色は全体にちぇみの方が低く..喉奥から響き出る低音はちぇみには敵わない

鼻筋も唇も意外に長い睫もちぇみと同じ..やっぱ..違いは顔の容量..
眉根を寄せ..リュルの視線は資料を追っている..

 ★..奴は業績の落ちた企業..狙いを定めた企業にはずんずんと強引に参入する
 ☆..もしかしてさ..リュルさん..インサイダーやってた?
 ★..鋭いな..お前
 ☆..やっぱ..そうなの?
 ★..ん..過去に株のインサイダー取引で儲けていたらしい
 ☆..噂は本当だったんだ
 ★..ん..[ブラックリスト名誉会長]の異名はそこから来てる
 ☆..ひゅ~..そっか..今は?
 ★..今はそれからは手を引いたみたいだがな..
 ☆..ふ~~ん..

資料に鋭い眼差しを向けるリュルの横顔を見ながら
ちぇみとの★☆メールの会話を思い出していた

部屋に流れる♪が聞き覚えのある♪に変わった..
リュルの右手にある赤ペンが♪に乗って揺れている..
資料を目で追う横顔のリュルがまた意地悪な問題を出す..

「この曲名は↑?」
Jazz Suite No.2 15.Second Waltz, The ..」
「正確には↑?..」
「ジャズ組曲第二番-ワルツ第二番..」
「composerは↑?」
「Dmitri Shostakovich (ディミトリ・ショスタコヴィッチ)」
「使用されている映画は↑?」
「The Luzhin Defence...Eyes Wide Shut...バンジージャンプをする..」

おもむろにリュルがこちらに顔を向けた..

「僕はバンジーは見ていない..」
「オモオモ..それはいけません..シン社長↑?」
「@_@..」
「バンジーは名作ですょ..シン社長↑?」
「@_@....リュルでいい..」
「ぁ..はい..」

語尾を上げたら..打たれたように眼をみはり..睨まれた
ちぇみより顔がデカイ分..ちょっとした迫力..リュルは正面より横顔がいい..

1番目の資料をチェックしたリュルが2番目の資料を手にする時
顔だけをこちらに向ける..決して相手を諫める目ではないが..
叱られた子供のように反射的に背筋が伸びてしまう

リュルはまた横を向き資料を読みながら声をかけてくる

「向こうのキャビネットの一番上に..」
「は..はぃ..」
「“ブック”が何冊か入っている..目を通しておくといい..参考になるよ↑?」
「ぁ..はい..」

“ブック”とはモデル達のプロフィールや写真を収めたファイルのことだ..
パリやミラノのコレクションでランウェイ(モデルがショーでウォーキングをする処)を歩くモデル達は
コレクションの時期になると自分の”ブック”を抱え各メゾンを渡り歩き自分を売り込む
キャビネットの引き出しを開け..ブックを取り出しリュルの前にまた座りブックを広げた
新人..中堅..パリコレにも出るほどの一流モデル..と何冊ものブックは充実している
ぱらぱらとブックを捲っていた時..

『ぁ..ぅっそ..』

※158に続く






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