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ぴかろんの日常
リレー企画 169
いとこの恋 足バンさん
※168の続き
その冷たい雨の日
僕はひとことだけを言って送り出した
もし何年か経って
あなたの気持ちが落ち着いたら
会いに行ってもいいかと
それまで想っていてもいいかと
彼女はありがとうと言って微笑んだ
長い沈黙のあとイナの消え入りそうな声が聞こえる
「いま…かのじょは…?」
僕は潤んだイナの目をぞんざいに見つめて
それから指を1本天井に向けた
イナの身体がゆらりと動きチップの山がわずかに崩れる
僕は彼女の異国での事故死を淡々と告げた
いとこの恋2 足バンさん
彼女の事故の知らせを受けたのは半年ほど経った頃だった
アテンドしたツアー先での事故だった
意識のない状態で病院に入っていると聞いて
僕はとにかくテジュンのホテルに向かった
彼女が行ってしまってから一度も連絡をとっていなかった
あいつは総支配人室でね
こともあろうに一生懸命仕事をしていたんだよ
僕はあいつをデスクから引きずり出して殴った
何度も殴って殴って
壁に身体を押しつけてあいつの首を絞めてやったんだ
本当にそのまま殺してやろうかと思った
その時僕は何かを叫んでいたけれど
今は思い出せない
おまえのせいだとか…きっとその程度のくだらないことを言ったんだと思う
でもテジュンが言った言葉はよく憶えている
あいつは泣きながら僕を怒鳴りつけた
そこをどいて仕事をさせろ!って…
そうでもしてないと気が変になるって…
突然イナのふたつの目から涙が溢れ出た
その涙に一瞬言葉が詰まったけれど
小さな動揺は唾と一緒に飲み込んだ
イナの右手はいつの間にか自分のシャツの胸の辺りを強く握りしめている
「僕はすぐに飛んで行ってやれと言った」
ひと目でも会ってやれと
社長に土下座して休みをもらえと言った
テジュンは僕も一緒じゃないと行かないと言い張り
僕は渋々承諾してチケットを2枚用意してもらった
そして翌朝、僕は空港に行かなかった
1日中携帯を切って映画のはしごをしてたんだ
何を観たかはまるで憶えてないけどね
36時間後に帰国したあいつから電話がはいった
余計なことは一切言わず
ほんの少しだけ目を開けた彼女に会えたと
とても綺麗な顔だったと
ただそれだけを報告してくれた
僕とテジュンが普通の調子で会えたのは
それから2年近く経ってからだ
僕はテーブルからようやく上体を起こし一歩下がる
白熱灯の灯の輪の中から自分を外して
頭の中の整理をしているであろうイナを見る
そうしながら僕はたった1枚あった写真を燃やしたことも話した
彼女からもらった2、3の贈り物とともに
燃やした場所には今ショッピングセンターが建っていることや
9.11の跡地をただの美しい記念広場にしないという考え方は正解だと
どうでもいいことまでしゃべった
イナの表情に呵責をおぼえたからだろうか
伏せた睫毛から顎に伝わる涙はテジュンへのものなんだろう
シャツを握る手はテジュンを掴んでいるんだろう
あいつがどこにも行ってしまわないように祈っているの?
僕はテーブルのルーレットの丸い部分をゆっくりと回り
肩を落としているイナの左横に立った
そして手を伸ばして彼の左腕手首を押さえ
もう片手でチップを握りしめている指からその1枚を外す
指にはチップの痕が刻印のように残っていた
ゆらゆらと僕を見上げたイナは
なぜか今にもごめんなさいと言い出しそうな目をしていた
「そんな顔しなくていいよ…もうとうに昔の話だ」
ああでもひとつだけわかったことがある
別れ際の言葉には気をつけた方がいい
最後に掛けた言葉に縛られる
僕は「待っていていいか」と言った
そして答えを貰わぬまま行かせてしまった
後悔したことがあるといえばそれかな
僕はまだイナの腕を掴んでいたことを思い出しそっと外した
不思議なくらいどんどん出てくる涙をぬぐいもしないイナを見下ろしながら
僕はテジュンのことを考えていた
たったひとつだけある僕とあいつとの違い
あいつはいつだって強い意志で次に進む
あの身体のどこにそんな力が潜んでいるんだか
どんな状況に出会ってもそこに佇んだままではいない
それがたとえ自分を苦しめることになっても
だからまた新しい向こうが見えるんだろう
そうなんだろうイナ
一瞬ぼうっとしていた僕はイナの視線で我に返った
「だからそんな顔をするなって…」
僕がどんな風に想いを綴じてきたかは想像にまかせる
でも決して君が言ったように寂しくなんかないよ
朝空気を吸い込めば彼女を感じるし
樹に水をやれば彼女が潤うような気がする
鳥にパン屑をやれば彼女に伝えてくれるような気がするし
君が泣いていたあの場所で空を見ていると
彼女に繋がるような気がする
ちょっとイっちゃってると思う?
そうかもしれないけどね
でもそうすることが僕を保つ唯一の方法だったし
そうして暮らしていると全てに優しい気持ちになれる
「おかげで僕の人生は穏やかで美しいものになってるんだ」
そこまで話して僕はようやく微笑んだ
なぜか満足感のようなものをおぼえて
イナが初めてシャツの袖で顔をぬぐうのを見ていた
「ごめん…」
「ん?」
「ごめん…俺…何にもわかってないのに…」
「いいんだよ…僕は」
「やっぱり鎧なんだね…」
「え…」
「言わないもんね…」
「え?」
「本当にそんな人生送ってるひとは…」
「…」
「穏やかな人生…なんて…自分で言ったりしない」
僕はイナが何を言っているのかわからなかった
赤い鼻で潤んだ目で真っすぐこちらを見上げてこの男は何を言おうとしているのか
しばらく理解できずにいた
「嫉妬してるの?…まだ」
は…?
落ち着いていた心臓がまたどくんと音を立てる
先ほどの貧血のような感じがまた襲ってきた
何でこの男は僕の凪いだ部分にさざ波をたてるんだ?
綺麗にならされた地面の誰も気づかないようなへこみを見つけるんだ?
見つけたよと教えるんだ?
僕は片手でゆっくりとイナの襟を掴んだ
「ここまで話して何でわからないの?」
「ヨンナムさん…」
「僕は僕の意思で生きてるんだけど」
「何…言ってるの?」
「僕は誰にも縛られずに生きてるんだけど」
「でも…自分のこと…好きじゃないでしょ?」
僕は襟を掴んだ腕に力を入れてイナを乱暴に立たせた
積まれていたチップのほとんどが音を立てて崩れた
解熱 1 オリーさん
「面白くない」
眼鏡をかけた医師が一言つぶやいた
僕は彼に連れられてLBGHという大きな病院にやってきた
以前彼が入院したことのある病院だそうだ
朝遅くまで寝ていたので、食事をしたり準備をしたりして
郊外にあるその病院に着いた時はもう昼をとっくに回っていた
設備が整っていてスタッフも充実している病院だそうだ
そこで僕はドンゴンという先生に診てもらっている
「先生どういう意味ですか」
僕はわけがわからず
とても美形だけれどずっと見ていると飽きるタイプのハンサムなドクターに聞いた
ドクターはちっと僕に視線を向けると答えた
「完璧だ」
「は?」
「処置は完璧だ」
「はあ」
「面白くない」
「はあ」
「僕の出番がない」
「え?」
「せっかくの銃創患者なのに。加えて刃物による裂傷もあったのにもったいない」
「・・・」
「以前に見たイナ君もそうだった。銃創患者は極めて少ないのに、ちっ。
今度から撃たれたらすぐ僕のところへ来なさい。いいね?」
「イギリスで撃たれたものですから」
「外国じゃ仕方ないな・・」
「はあ」
「で君はミンチョル君とどういう関係?」
「どういうって」
「彼、外で待ってるんだろ」
「はあ」
「記憶は戻ったって?」
「はい。しゃっきりしてます」
「彼は記憶喪失でもしゃっきりしてたよ。これまた面白くない」
「は?」
「この間来たテジン君も軽い刺し傷だったし」
「そうなんですか。それはよかったです」
「よくないっ!もっと緊迫感を提供してくれるよう、君たちには期待する。はい、もういいよ」
「先生、抜糸は?」
「んなもん、適当に自分で取りなさい」
「自分で?」
「ちまちま糸を抜くなんて僕の趣味じゃない」
「・・・」
「肩は動かさないように安静にすること。注意はそれくらいだ」
「はあ」
「傷口が開くような事があったらすぐ来なさい。診てあげよう」
「はあ」
「んじゃ」
端正な顔をしたドクターはそう言って治療を終えた
僕は首をかしげながら病室を出た
「どうだった?」
彼が近づいてきて聞いた
「あのドクター大丈夫?」
「何が?」
「ちょっと変だよ」
「どう?」
「撃たれたって聞いたらにニッコニッコしながら包帯取ったんだけど
傷口見たとたん、面白くないって・・」
「え?」
「処置が完璧すぎて面白くないって。後は安静にしてろって」
「それだけ?」
「大丈夫なのかなあ、あのドクター」
「腕はいいそうなんだが」
「今度撃たれたらすぐ来なさいって」
「何だそれ・・」
「傷が開いたらすぐ来なさいって」
「何考えてるんだ・・」
「大丈夫?」
「う・・ん」
僕たちが廊下で話していると、通りがかったドクターが彼に話しかけてきた
以前彼が入院した時にお世話になったグリーン先生だそうだ
事情を話すと、先生が専門外だけど診てあげると言ってER病棟の方へ連れて行かれた
グリーン先生はとても丁寧に診てくれて、きちんと処置がしてあるので大丈夫だと言ってくれた
同じ大丈夫を伝えるのでも態度と言葉でかなり違うものだ
2週間たったら抜糸をしてあげるから来なさいとも言われ、仕上げに消毒してまた包帯を巻いてくれた
動かさないように安静にする事と、気になる事があったらすぐ来るようにと付け加えた
やっぱりドクターはこういう人がいい
優しくて有能なグリーン先生に診てもらって僕はやっと安心した
「院長は残念ながら不在だったな」
帰りの車の中で彼が言った
「院長を知ってるの?」
「カウンセリング専門の女医さんなんだが、めったにあそこにいない」
「忙しい人なんだね」
「師走だわっ、とか言ってやみくもに飛び回っているに違いない。
去年はファンミに行くとかで舞い上がっていたけど。早いものだな、あれから一年か」
「ファンミって、誰のファン?」
「テジュンさんの分身、あ、逆か」
「じゃあイナさんとライバル?」
「そういうポジショニングではないと思う」
「ふうん」
「疲れてない?」
彼はハンドルを握ったまま僕の顔を覗き込んだ
「大丈夫」
「じゃあどこかで食事をして行こうか」
「うん」
帰ってきてからずっと彼と一緒の時間がゆったりと流れていて
熱が出たりもしたけれど、僕は空腹を満たされた子供のような気持ちで過ごしていた
昨日ドンジュンさん達が帰った後に僕らは長い昼寝をした
目が覚めるともう夕暮れ時だった
彼はテジュンさんの持ってきてくれた果物を僕の口に運び、時々自分も食べた
それからベッドの上で仕事の資料を読み、僕はその彼の腕の中で過ごした
夜になると彼はまたお粥を作って僕に食べさせ、自分もそれを食べた
時間になると彼は僕に薬を持ってきて飲ませた
僕の熱はもう下がっていた
夜中に僕が寝返りをうてなくて何度も目を覚ますと
彼がいつも後ろからそっと抱いて支えてくれた
僕は彼が意外にもよく気がつき、優しいので驚いたのだけれど
彼は長いこと奥さんの看病をしていたのだと思いついた
でも不思議と心はざわつかなかった
そのことも含めて今の彼がいるのだとわかったから
そしてそれは過ぎた事なのだと今の僕は十分わかっていたから
気まずい朝 2 れいんさん
ホンピョ・・
なぜ・・ここに・・?
ヨンナムさんちにいたはずだろう?
今の・・見てたのか?
僕の心がざわついた
ただ普通に声をかければいいだけなのに、何も言葉が浮かばない
僕はあいつを、あいつは僕を
まるでストップモーションがかかった様に、ただじっと見詰め合っていた
じりじりとしたあいつの視線に耐えられず、僕は思わず目を伏せた
その時目の端に何か動くものを捉えた
え?
あいつのジャンパーの懐あたりがモコモコと動き出し
中からブルーがひょっこりと可愛い顔を覗かせた
ブルーはホンピョの腹を蹴り、ジャンプしした後着地を決め、僕の脚に擦り寄った
こんな子猫でも、毎日世話をしているのが誰なのか、ちゃんと分かっているらしい
足元にいたブルーをひょいと抱き上げた
きつくない程度に抱き抱え、艶々した黒い毛を撫でてやる
ブルーは心地良さ気に小さな体を僕に預けた
ホンピョは胸を反らせ、斜に構えた得意のポーズで僕の方へと歩いてきた
サンダル履きなのが、あいつらしくてどこか間が抜けている
「よぉ・・ふぅん・・女と朝帰りってわけか・・」
「う・・あ・・」
しどろもどろになるなんて変だよな
こういう時はサラっとさりげなく・・
下手に誤魔化すのも不自然だし・・
だいたい誤魔化す必要なんてないじゃないか
こいつは僕を、保護者兼、相棒くらいにしか思ってないんだから
若くて健康なイイ男が女の子と朝帰りなんて珍しい事でもないだろう?
あたふたと言い訳する方がかえって不自然ってものさ・・
「さっきの女、知り合いか?」
「昨夜、知りあった」
一瞬ホンピョの眉がピクリと動き、眉間に微かに皴が寄った
「ふんっ・・おまえいつものぶっといネクタイは?」
「あ・・忘れてきた」
「ふん、やらしいっ」
「・・」
なかなか視線が定まらず、僕の目は左右に落ち着きなく泳いでいた
また少し気まずい空気に覆われてきた
ホンピョは舌打ちをして、道端の石ころをコツンと蹴飛ばした
僕は所在なさ気に、その石ころの行きつく先を目で追った
石ころはコンクリートの溝蓋をコロコロ転がり、ほんの僅かの穴から見事にストンと落ちた
ナイスイン!
タイムリーなホールインワンに思わず顔を上げた
あいつが今のでちょっと機嫌が良くなってるのはすぐに分かった
単純なやつ
ニヤニヤしてる僕も、負けないくらい単純なやつ
目が合ってふっと口元がほころんだ
先に口を開いたのはホンピョだった
「俺さぁ・・とにかく腹減った」
「朝食食べてないのか?」
なんだかんだと結局は飯の話だ
「ん・・ヨンナムさんが支度してくれてたけど、一人で食うのヤだったし
冷たいまんま食いたくないし」
「ヨンナムさんは?」
「いなかった」
ったくもう、こいつは何でこうなんだ?
僕がいないと何にもできない
作ってあるもの温めて、一人で食べる・・そんな事もできないのか
ホント手のかかる奴
そんなだから・・ほっとけないんだよ・・
とりあえず僕達は目の前の寮に戻り
冷蔵庫の中を隈なく探し、あり合わせの材料でチゲ鍋を作った
作ったのはもちろん僕だ
ヨンナムさんみたいに美味く作れたかどうかは分からない
ま、まあいいさ・・腹が減ってれば何でもうまい
冷蔵庫には食材があまり入っていないから、それくらしかできなかった
あいつが作った物よりは遥かにましだと思うけど
特に感想を言うでもなく、あいつは、はふはふとそれを食べてた
僕はテーブル越しにそんなホンピョを頬杖ついて眺めていた
ホンピョがちらっと上目使いに僕を見た
「・・くま・・」
「え?」
「目の下に・・隈・・」
「あっ・・」
慌てて目の下を指先で隠した
そういや昨夜あんまり寝てなかったな・・
「なんだ?その時計・・」
「あ・・」
「交換したのか?」
「いや、その・・修理を頼まれてさ」
「ふぅん・・」
「な、なんだよ、その目は」
「・・べつに・・」
「・・」
「あのさぁ・・おまえさぁ・・外泊するならするで、そう言えよ。しゃぶくてしゃぶくて目が覚めたじゃんか
俺はしゃぶいのは嫌なんだ。んで、一人で寝るのも嫌いだし起きたとき一人なのも嫌いだ」
「僕だって予定外の事で・・ほんのちょっとだけ飲むつもりが」
「けっ!ちょっと飲むつもりが、女ナンパしたのかよ。俺に抜け駆けして」
「抜け駆けって何だよ。それにナンパしたんじゃなくて、されたんだ」
「ふん・・俺も誘ってくれたらよかったのによ」
「おまえ、ぐーぐー寝てたじゃないか。いつもどれだけ起こしたって起きやしないだろ」
「んな事いって、お前、俺の引き立て役になるのが嫌で、わざと誘わなかったんだろ?そだろ?」
僕のどこがどうおまえの引き立て役なんだか・・
かっこよくて気が利いてる僕の方がモテルに決まってる
「で?・・その・・なんだ・・したのか?」
「ゴホッゴホッ・・それは・・その・・」
「ふん!まぁいい。次会うときは俺も誘えよな。もう一人女連れてくるように言ってさ
あ、可愛い子をって念押しておくんだぞ。女が『可愛い』って連れて来る友達は自分より目立たない無難な子になりがちらしいけどな」
「そんな事いったって・・また会うかわからないよ」
「お?じゃ、おまえ、あの子・・一夜限りで行きずりの・・ってわけか?」
「おい!人聞きの悪い言い方するな。」
「だって、おまえ、前科あるし・・」
「そう言うおまえだって人の事言えないだろ?初めての時は・・」
「ふんっ昔の事、思い出させんな。」
「僕だってそうだ」
「で、どうなんだ?・・マジなのか?」
「え・・そんなの・・会ったばかりでわからないし・・もういいだろ?・・頭痛がしてきた」
くっそぉ・・ホンピョのばかやろう
よりによって一番言いたくない相手に質問攻めだ
人の気もしらないで・・
「・・ケホン。僕はシャワーを浴びてくる」
「やっやっやらしいっ!今からゴシゴシしゃわしゃわ綺麗にしゅるんだな?」
「いいからお前は黙って食べてろっ」
僕はバスルームに逃げ込んだ
シャツを脱ぎ、鏡にうつる僕の身体に何も証拠がないことを確認した
そんなもの見つけられたら、またうるさくてかなわない
ドアの向こうでまだブツブツ言ってるホンピョの声が聞こえてくる
シャワーの音でそれをかき消し、泡の中にゆっくりと身を沈めた
一時的な避難場所を得て僕はやっと一息ついた
それは誰が決めるのか ぴかろん
ふん!
昨日の夜、先生の部屋に戻ってすぐに僕は先生を壁に押し付けてキスしようとした
したら先生は顔を背けた
拗ねてるのかと思ってしつこく先生の唇を追ってみた
するすると逃げる唇
こんなに素早かったっけ?
そのうちくるっと背を向けて先生は壁に口付けしている!
違うでしょ、相手は僕でしょ?!
引っぺがそうとしても離れない…
こんな力がこんなジジイのどこにあんのよって思うぐらい引っ付いてる
「先生、生ダコ?!」
「…」
怒らせて振り向かせようとしたけどその手に乗ってくれない…
擽ってみる
プルプル震えてるけど振り向かない
強引にベルトに手を回す
腰まで壁にくっつけた!
「先生!壁とえっちする気?!」
「…」
その手にも乗ってくれない
もうっ!
半時間ぐらい生ダコになった先生と格闘していた
最初は可笑しくて可愛くて笑ってたんだけど段々腹が立ってきたので
先生のお尻をぶってやった
でも何にも言わない
むかつくぅ…
そんなに…そんなに僕に抱かれるのがイヤ?!
速攻でキメようと思ってたのに…
僕は大きなため息をついてドンドンと足音を立て、洗面所に行ってガラガラゲロゲロとうがいをした
ドアを閉めるときも力任せにドタンバシン閉めて拗ねまくってソファに寝っ転がった
先生は以前として生ダコのまんまだ…ばかっ!
僕はソファにうつ伏せになった
負けなかった…
太いウシクの力に僕は負けなかった…
ああ…明日…いや…あさってだろうか…筋肉痛になるだろうな…
もういいかな?
穏やかだけど短気なウシクには忍耐で勝負するしかない…僕はそろそろと壁から離れてウシクの様子を窺った
突っ伏してふて寝してる…
僕はそぉっと手洗いとうがいを済ませ、コートを脱いでウシクから1mほど離れた場所に立った
コートを着たまま丸くなって寝ている
眠っちゃった?
ううん…油断大敵だ…
僕はテーブルの上にあった定規でウシクを突いてみた
反応がない…眠ってる?
50cmまで近づく
つつく
反応なし…
お尻を定規でペシッとしてみる
反応…なし…
ペシ…ペシペシ…
あ…ちょっと悲しい事を思い出してしまった…
これは止めておこう…
僕はぺしっとしたウシクのお尻を撫で、定規をテーブルに置いた
「捉まえた!」
「げ」
ウシクに背中を取られた…
「…先生…」
ウシクが僕の首筋に囁く…
「…あ…」
「…いや?」
「…」
「いい?」
「やだ!」
「む」
僕はありったけの力を振り絞って言った
「やだもん!なんでさ!順番だろ?!今度は僕じゃん!」
「だって今夜はどっちかって言うと先生のが可愛らしいじゃん!」
「なんだよ、年上に向かって」
「年上でも…可愛いんだもん…」
「…く…」
「いいだろ?」
「やだっ!離せっ!」
僕はもがいた
「ほんとにヤ?」
「や!」
「ああん可愛い…」
「やめろよ!大人をからかうなはぁん…」
卑怯者のデブのウシクは僕の首筋にすうっと唇を這わせ、それから耳を舌先で刺激した
「バカ!でぶ!すけべ!」
「ひど…ひどい!先生…先生僕の事そんな風に思ってたんだ!」
「ちが…」
「違わない!今はっきりそう言った!傷ついた!酷い!」
「…らって…」
「なにらりるれってるの!」
「…だって…ずるいもんウシク…」
「ずるくない!可愛いほうが抱かれるっての当たり前でしょ?」
「誰が決めたのよ!」
「ばかででぶですけべの男が決めたんです!」
「…」
「せんせぇ~」
「甘えるなデブ!」
「!デブデブ言うなっ年寄りっ!」
「酷い!」
「酷いのは先生だっ!あんな可愛らしいとこ見せ付けてお預けだなんて!僕は若いんだから我慢できな…」
先生は突然僕の唇に吸いついた
それは奇襲すぎて僕は面喰い、何も言えなくなってしまった
先生の濃厚なキスを味わった
ああ…先生…やっぱトッショリだけあってキスうまい…
ってことはそれだけ場数を踏んでるっつーこと?
負けてられない
絶対今夜は僕が先生を…
先生と僕はキスしながらお互いの体を押し合った
力では負けない!どうせデブです!ふんっ
へんっ先生、腕がプルプルしてきたっ!ふんっ!
突然先生が唇を離して怒鳴った
「痛いからイヤだ!」
「…」
「ウシク下手だもん!」
「ひ…ひど…」
「痛いもん!」
ものすごく傷ついた…
でも負けてられない
「下手ってどういう事よ!まだ一回しかしてないのに先生が慣れてないから痛いだけだよっ」
「二回だもん!」
「…。あれも回数に入れるの?」
「初めてだったのに…」
「…すっげぇムカつく」
「ウシク言葉遣い悪い!」
「先生こそ子供みたいに…だもん…だもんって何さ!トッショリのくせに!」
「「ふんっ」」
些細な事から始まった喧嘩は、夜中尾を引いた
僕達は一緒の部屋にいるのに初めて別々に寝た
僕はカッカしながらも何とか眠れた
若いし…
夜中、すすり泣きが聞こえた
びっくりして起き上がり、先生に声をかけたが返事がない
そっと先生の寝ているベッドに近づくと、夢を見ながら泣いているようだった…
震えている唇をじっと見ていたら
『ウシク…いかないで…』
と苦しそうに呟いた
胸がきゅうんと痛くなった
頬の涙を唇でそっと掬い取り瞼に軽くキスをして先生の寝顔を見つめた
トッショリなんだもんな…
きつく言いすぎたかなぁ…
「ウシク…ウシク…」
「ここにいるよ…先生…」
寝言を言う先生に答えた
「ウシク…」
「なぁに?」
「でぶ…」
「む」
ちょっとムカッときたけど、寝言でまでそんな事を言う先生がまた可愛く思えた
「でぶぶとんとらないで…ぼくのだから…きもちいいから…いかないで…」
「はいはいはい…」
僕はくすくす笑いながら寝言を言い続ける先生の横に滑り込んだ
「はい、でぶぶとん。蹴飛ばさないでね。お腹冷やすと大変だよぉ」
「はい」
くー…やっぱ可愛いじゃん…もぉ…
僕の温かさを感じたのか先生の寝顔が柔らかくなった
唇をチョンと突いてみた
くふんと笑った
「もっとあったかいでぶぶとん欲しい?」
「はい」
くー…
僕は先生の上に覆いかぶさってやった
途端に眉間に皺がよる
ああ…色っぽい…
このまま…
僕は我慢できなくなって先生の唇を吸った
「む…ぐぐぐ…ぐーぐーむうむう!」ばんばんばん☆
先生は目を覚まして僕の背中をバンバン叩いた
「いったぁぁ…」
「くはっ苦しい…死ぬかと思った…」
「もう…」
「卑怯だぞっ寝込みを襲うなんて!」
「先生がでぶぶとんくださいって言ったんだぞ!」
「…」
「言ったでしょ?夢のなかで」
「…はい…」
む…
「でもでぶぶとんは上にかけたくないの。敷布団にしたいの…」
「…どういう…意味?」
「だからウシクは僕の下に…」
「…」
「あー」
「せんせえ、僕のこと好き?」
「好き」
「抱くのと抱かれるのとどっちが好き?」
「…」
「僕はぁどっちも好きだけどぉ…今日は…やっぱ抱きたい…」
「やだ!あっち行け!」
「泣いてたくせに!寂しいくせに!」
「…」
「じゃあ…何にもしないから…一緒に寝ようよ先生…」
先生は黙って頷いた
僕はもう先生を襲わなかった
そんな風な争いがあって、今日は寝坊してしまった…
イナさんの部屋を見に行こうと思ってるのに…
不機嫌顔で朝ごはんの支度をしていると、先生の声がした
「ウシク~ウシク~」
「なんだよっ!」
「ねね…起きる時は一緒に起きてよ、寂しいじゃない…」
「は?」
「起きた時にウシクの顔が見えないの…寂しい…」
またまた可愛らしい事を…
僕は先生の顔をじっと見つめ、わざと冷たく言ってみた
「起きて、部屋、見に行くから!」
「…えーっ…」
「イヤなの?」
「い…イヤじゃないけどさぁ…」
「先生はどうして僕がいう事にことごとく反対すんのよ!もういい!ふんっ」
「短気…」
「ノロマ!」
「でぶ」
「トッショリ!」
「好き」
「…好き…」
「大好き」
「僕も大好き…」
キスは軽いけど気持ちは濃厚だ…
僕達はキスで仲直りして朝ごはんを食べて、イナさんの部屋を見に行った
その部屋の鍵を開けた途端先生は僕を床に押し倒した
あ!ずるぅい…
僕は攻防するのが面倒だったのと、ジジイが可哀想だったのとで抗うのをやめた
ジジイは丁寧に僕を愛してくれる…
イナさん…ごめん…
部屋に入っていきなりこんなのって…あ…ああ…
ふん…
先生のばか…
頑固ジジイ…
絶対次は…譲らないから…あああ…
なえいるぎ☆じゅの_4 妄想省mayoさん
○月○日
模様替えが終わり僕の倉庫は[部屋]になった..壁を白にして..カーペットも敷いた..窓にはレースのカーテン..
腰高の窓側にはアニメの原画を描くヨンジンの机と大学に復帰して勉学に励む僕の机..横に並べた
大きなタイヤを重ねて丸い板を乗せただけのテーブルは
どちらかが片方に力を加えれば丸い板が跳ね上がってしまう..
「ちょっとぐらぐらする..ジュノ..くっつけた方が良くない?」
「いいんだ..これで..」
「どうしてよ..危ないじゃない..」
「お互いにさ..いつもバランス取るんだ..僕と君みたいにさ?」
僕は上目使いに見るとヨンジンはうんうんと頷いて笑った..
○月○日
ヨンジンが部屋に来て僕に通帳を渡した..
それは僕がばぁちゃんの目の手術の為に貯めていた通帳だった
ばぁちゃんが逝った後..エベレスト登頂費用にとテヒョンに渡し..大学復帰の為に使えと突き返されたけど..
あの頃大学に復学する気力の無かった僕はテヒョンにまた戻し..そのままになっていたものだ
テヒョンは僕に内緒でヨンジンを病院に呼んだ..
「これが役に立つ時が来たよ」
枕の下から通帳を取り出し..ヨンジンに差し出した..
「あいつだとまた突き返されそうだしね..だからヨンジンさんを呼んだんだ..
意地を張らずに受け取れってジュノに言ってくれないか..元々ジュノの物なんだから..」
テヒョンはちょっと躊躇うヨンジンの掌に通帳を乗せた
復帰する事を決めた大学の学費..ヨンジンとの新しい生活の準備..
車のバイトだけでは追いつかず..正直僕はちょっと途方にくれていた..
テヒョンの好意を無駄にしたくないというヨンジン..僕は通帳を受け取ることにした..
何も言わずとも僕の状況を解ってくれて..背を押してくれる..
そんなテヒョンの気持ちがとても..嬉しかった..
俯いて通帳を握りしめている僕の手にヨンジンの手が重なった
○月○日
通帳おかげで余裕が出来た..
家族から離れて僕と生活を始めるヨンジンの為に僕は部屋に電話を付けた
弟のトンジンや最初意地悪だった妹ヘジンも電話を掛けてくる
たわいのない短い会話でも僕にとっては胸がじんと温かくなることなんだ..
ヨンジンのおかげで僕にも可愛い兄弟が出来た..
ヨンジン母は相変わらず冷たいけど..いつかきっと僕を認めてくれると信じたい
僕は本当の家族になりたいから
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
なえいるぎ◆よんじんおもに
X月X日
まったく..ハム入りも満足に出来ない婿なんて..情けないったらないわっ#
ベットも布団もタンスも..冷蔵庫もこっちで買わなくちゃいけないじゃないっ#
車は故障するし..修理するなら買った方がいいって修理屋にいわれるしっ#
イライラするったらないわ..ホントにっ#
**ハム=函は箱..あるいは鞄のこと..
結婚を控えた新郎側が新婦の家へ贈り物を届ける韓国の習慣です
新郎の親友や職場の先輩が「ハムサセョ~~(函買ってくださぁぃ~~)」と言いながら運んできたことを伝え..
新婦側が迎え入れてもてなします..「函」の中にはチマ・チョゴリや服などが入っているようです
X月X日
事務所の社長が営業用も兼ねる自家用車の費用を会社で融資すると言ったくれた
融資は受けたけど..ヨンジンの嫁入り支度もあるから新車は買えなかったわよ#
でも親友のジュリ(ジュンホママ)がヨンジンのウエディングドレスを
友人のチョン夫妻(サンヒョクアボジ&ソンジェママ)が婿の為に(あの貧乏は婿によ?!!)スーツをプレゼントしてくれた..
有り難くて涙が出るわよ..アイグゥ~~~...
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○月○日
昼間部屋に帰り..入り口のドアを開けて驚いた..
ベット..クローゼット..ドレッサー全部白..土間部分には冷蔵庫にガスレンジ..
僕の部屋が"まんしょん"みたいになってる..アジがベットの上で千切れんばかりに尻尾を振って喜んでいた
部屋には大家さんに通されたヨンジン母がドレッサーの椅子に背を向けて座っていた..
一度この僕の部屋に来た時..一瞬言葉を失った後..
胸に溜まった僕への不満を..僕を選んだ娘への情けなさと一緒に吐き出し..踵を返し帰った
そんなヨンジン母が今日は僕に背を向けてちょこんと座り..小さく首を動かして部屋を見ていた..
旦那さんを亡くし再婚もせずに女手ひとつで子供3人を育てた気丈で勝ち気なヨンジン母..
自慢の娘を僕みたいな男に取られるのが悔しくて寂しいのだろう..
僕はその背に声をかけ..僕なりの感謝の言葉を告げ..頭を下げた
ヨンジン母はやっぱりいつもの口調..
「結婚したらヨンジンに毎日電話させなさいよっ#..心配なんだからっ..アラッチ!!」
「はぃ..オモニム..」
ヨンジン母は帰り際に僕の目を真っ直ぐに見据え..目を逸らさない僕より先にアジに視線を落とした
アジの頭をよしよしと撫で..ヨンジン母は帰っていった
優しく声をかけられないのは頑固だからなんだろう..っと思いたい僕だった..
○月○日
僕はハム入りの代わりに結婚式の前日..
大きな花束とケーキを持ってヨンジンの家に行った..それは僕が出来る限り精一杯の「函」だった
ヨンジンの妹たち..友人夫妻..ジュリ伯母さん達も皆が迎入れてくれた
結婚式の為に田舎から来ていたヨンジンのおばあちゃんは
「函が来た♪函が来た♪^0^~~」
っと僕のささやかすぎる「函」を喜んでくれた..
おばあちゃんは僕を隣に座らせ僕の身体をべたべた触った..
やっぱり僕は「おばあちゃん系」に好かれるみたいだ..^^;;
僕はチョン夫妻とジュリ伯母さんにスーツとヨンジンのドレスのお礼をそれぞれ述べた..
終始むすっとしていたヨンジン母は帰り際に僕に袋を渡してよこした..
袋の中は僕の好きなペチュキムチ(白菜キムチ)だった..
バス停まで送ってくれたヨンジンが袋を覗いて言った
「それ..うちの家族..皆で漬けた物よ」
たといぶっきらぼうに渡されたとしても..ヨンジンの為だとしても
僕に渡してくれたことが嬉しかった..
○月○日
ジュリ伯母さんのダンススタジオで結婚式を挙げた
僕の親代わりの田舎の叔父さん夫婦..テヒョンも車椅子で列席してくれた
神父代わりの僕の恩師は花粉症と風邪でくしゃみを繰り返し..
僕はヨンジンに恩師の唾が飛ばないか心配だった..
司会を務めたヒョヌクは相変わらず手際よくて..和気藹々と式は進んだ..
盛大ではないけど僕等を暖かく見守る人に囲まれて僕とヨンジンは幸せを感じる
ヨンジンはもちろん綺麗で..
誓いのkissはヨンジン母の睨みが目の端に入ったから..ヨンジンの額にした..
夜にたっぷりするからいいもん..
新婚旅行はしないつもりだった..
でもレース仲間達が湖畔のホテル一泊をプレゼントしてくれた
挙げ句にこのレース仲間..旅行に付いてきた..勿論寝る前には帰ったけど..
朝目覚めると隣にヨンジンがいる..頬を両手で包んで..吸い付くように唇を重ねた..
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なえいるぎ◆よんじんおもに
X月X日
ヨンジンの結婚式が終わった..
きぃっ<(`^´)>
あの子ったら..最初からにこにこにこにこ..泣きもしないのよ??
あの婿も..最後まででれでれでれでれ..なのよ?
家に帰ってから何だか悔しくて悔しくてジュリの前で大泣きしたわよ;;ToT;;
「寂しいなら寂しいって言えばいいじゃないの..アィゴォ~~アィゴォ~~セサェ..素直じゃないわね...」
ジュリが箱から何枚も引き抜いたティッシュをジュリの手からひったくって鼻かんだわ..
X月X日
朝...仕事に行く前にヨンジンの[倉庫]にカルビとおかずを届けたわ..
婿はいなかったわ..ジョギングですって..いっちょまえに...
まぁこの辺は「山」みたいだし..金の掛からない運動には最適ねっ
出勤前のヨンジンとお茶を飲んだけど..また..喧嘩になっちゃったわ..
似たもの親子ね..ふぅ..
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○月○日
結婚生活で得する事は..
時間とデート費用の節約になる..ちょっとケチくさいこと言っちゃった
僕とヨンジン結婚生活はすれ違いが多い..
だから並べた机に交換日記のノートを置いて互いに文字で会話をしている
僕が夜中の車のバイトから帰り..ヨンジンのメモを読んで..ベットに潜り込む..
ヨンジンは朝起きて僕の書いたメモを読んで仕事に行く..
僕は昼に時間が取れたときはヨンジンの仕事先近くまで出向き..ヨンジンの顔を見にいく..
愛する人の顔はやっぱりこの目でいつも確認していたい..
○月○日
テヒョンの回復は僕を喜ばせる
ベットから車椅子に..車椅子からベットへ..一人で移動できるようになった
今の病院からリハビリセンターに移り..本格的にリハビリを始める
テヒョンの希望は僕の..ヨンジンの希望だ..
頑張れ...それしか言えないけど笑顔を忘れないテヒョンから僕は元気を貰う..
○月○日
レース仲間に飲みに誘われた..
仕事が忙しいヨンジンを差し置いて飲みに行くのは気が進まなかった
でもヨンジンに「行きなさいよ..大事な仲間よ」と言われ飲みに行った
仲間のひとり..ヒョンベがレースを辞め..家業の家具会社へ就職した
4人の仲間の内..2人が脱落し..サンヒは最初から荒れていた..
飲んだ帰り..下宿の門の前まで仲間達が来た時..酔っぱらったサンヒがHUGしてくれ..っといった..
僕は..断った..
僕の頬にサンヒの平手が飛んだ..
その現場を..ヨンジンに見られた..
ヨンジンは部屋に入って殴られた理由を聞いた
友達以上の気持ちは僕にはないのに..誤解されちゃった..
その夜僕等は互いに背中を向けて眠った
翌朝ヨンジンは早朝仕事に出掛けた..
交換日記にヨンジンの言葉は無かった
○月○日
僕はK大学の機械科に籍を置いている..学費を稼ぐたびに休学を繰り返していた
車の好きな僕を可愛がっていたばぁちゃんの望みは..僕が立派な整備士になることだった
レース仲間の間でも僕のナビの正確さ..コーナーリングのハンドル捌きは定評がある
ヨンジンと喧嘩をした次の日..
大学へ出向き..復学の手続きをしたついでに恩師の部屋へ挨拶に行った
休学か..復学か..恩師は毎学期ハラハラしながらも僕を見守っていてくれていた
恩師は僕に自分の助手のバイトを勧めてくれた..有り難い申し出を僕は受けることにした..
大学の帰り..僕は会社の前までヨンジンに会いに行った..
復学の報告と恩師の助手の件を報告した..
つんつんしていたヨンジンは眉を下げて情けない顔の僕を見てくすっと笑った..
意地っ張り..っと僕が言うとヨンジンは鼻に皺を寄せた顔を僕に向けた..
替え歌 「命の別名」 ロージーさん
涙も怒りも忘れた仮面-kao-で
今日も明日も生きてゆく
そんな自分を疑うことさえ
許さず生きてゆく
何をも求めることなく生きて
誰も愛さずに消えてゆく
僕がいることで傷つく人も
二度とはいないだろう
鳥よ樹よ水よ ささやかな者たちよ
僕と生きてくれ
哀しみの揺り籠を 密やかにゆらす
仮面-kamen-の下にも心があるなら
命に付く名前が「心」ならば
名もなき君にも 名もなき僕にも
たやすく涙を流せるならば
たやすく痛みもわかるだろう
けれども人には
笑顔のままで泣いてる時もある
鳥よ樹よ水よ 僕よりも
誰も傷つけぬ者たちよ
ひた隠す痛みさえ 暴く風たちよ
君にも僕にも すべての人にも
命に付く名前を「心」と呼ぶ
名もなき君にも 名もなき僕にも
鳥よ樹よ水よ ささやかな者たちよ
僕と生きてくれ
哀しみの揺り籠をゆらしつづける
愚かな僕にも心があるなら
命に付く名前が「心」ならば
名もなき君にも 名もなき僕にも
命に付く名前を「心」と呼ぶ
名もなき君にも 名もなき僕にも
(中島みゆき『
命の別名
』)
頭痛 れいんさん
気がついたらベッドにいた
起き上がろうとしたら軽い頭痛がした
心配顔したホンピョが見えた
「大丈夫か?」
「ん・・ああ」
「随分長い風呂だと思って様子を見に行ったら、おまえがぐったりしててさ、びっくりしたぞ」
「ごめん・・おまえがここまで運んでくれたのか?」
「ああ、ついでに服も着せた」
風呂でのぼせたのはこれで2度目だ
以前にもギョンビンさんちでホンピョと二人で湯あたりしたっけ
長風呂はほどほどにしよう・・
それにしてもみっともないとこ見せちゃったな
裸でベッドまで運ばれた上、服まで着せられたなんて
こいつの前ではいいかっこしていたかったのに
ドンヒの馬鹿が目を覚ました
やけに風呂が長いと思ったんだ
どうせイイ事した余韻にでも浸ってるんだと思ってた
裸のこいつを風呂から引き上げてベッドまで運んだ
結構重かったぜ
濡れた身体をタオルで拭いて服を着せてやった
あいつの身体を拭いてる時、朝見た女の顔が頭をよぎった
いつも一緒にいるドンヒが、俺の知らないうちに、知らない誰かと・・
自分でもよく分からないけど、なんだか少し面白くなかった
これってやきもちなんかじゃないよな
そんなんじゃないよな
ただちょっと寂しい気持ちがしただけだ
いつも傍にいるのが当たり前だと思っていたから
いつも俺の事、気にかけてくれていると思っていたから
いつまでもそんな風じゃいられないのかな・・
それから僕達はしばらく寮でゆっくり過ごし、その後いつもの様に出勤した
横になってたお陰で僕の頭通も治まった
開店前の準備を済ませて、お客様が来るまで控え室でスタンバってた
控え室には他にテジンさんとスハ先生がいた
「テジンさん、これ、ちょっと背中に当ててみてください」
「何?」
「テジンさんにどうかなと思って・・セーター編んでるんです」
「いつの間に?」
「本当はクリスマスまで内緒にしておこうと思ってたんですが
ちょっとサイズが気になって・・後ろ見ごろこんなものでいいかなぁ」
「・・」
「あ・・ちょっと大きいみたい・・」
「いいよ、いいよ。少しくらい大きくたって・・」
「僕、内緒にするつもりだったから、自分と同じサイズで作ってて・・
顔も似てるからサイズも同じでいいかと・・」
「身体のサイズはスハの方が少し大きいかも・・」
「酷い!そりゃテジンさんは僕よりスリムですよ。
お尻なんかも小尻で引き締まってて・・どうせ僕はっ・・」
「そ、そんな事ない。あんまり気にするなよ。少しくらいふっくらしてたって・・
かえっていい事だってある」
「・・どんな事?」
「ん?・・一緒に寝てるとあったかい」
「・・他には?」
「ん・・一緒にお風呂に入ると、水かさが増して節水になる」
「テジンさん酷いっ!」
「あっごめんごめん、冗談だってば。僕は今のまんまのスハが好きなんだからそんなに拗ねるなよ」
「ほんとに?」
「ほんとさ」
「太ってても?」
「うん、太ってても」
「テジンさん・・」
「スハ・・」
「誰が太ってるって?」
「あっウシク!」「ウシクさんっ」
「何か僕の悪口言ってた?」
「いや、別に・・」
「ふぅん、ならいいけど。僕、このところ過敏になってるのかな・・
ところでドンヒ、君に指名が入ってるけど」
「え?僕に?」
「うん、髪が長くて・・僕らと同じくらいの身長の可愛い女の子」
「あ・・」
マリアだ・・
ホンピョがギロリと睨んできた
かなり目つきがキツイ気がする
ああ・・せっかく一段落したかと思ったのに
よりによってなんで今・・
「待たせちゃ悪いからなるべく早くね」
ウシクさんはそう言って控え室から出ようとし、
ふとドア付近に置いてあった姿見に気づいて引き返し、自分の姿を映していた
前から横から、身体の向きを変え、鏡に自分の姿を映し、お腹や二の腕をやたらと触り
随分長いこと見入っていた
何か気になる事でもあるんだろうか
とにかく僕は立ち上がり、スーツのボタンをきっちり留めた
「俺も行く」
ホンピョも立ち上がり急いで髪を撫で付けた
「なんでおまえも?」
「行っちゃ悪いのか?」
「そうじゃないけど」
「俺、今日まだ指名入ってないし、ここであの二人のイチャイチャぶり見てるのもたまんないからさ」
テジンさんが肘から先を直角に曲げて、スハ先生の毛糸をぐるぐる腕に巻きつけている
うん、確かに、ホンピョの気持ちはわかる
僕はそれ以上言うのはやめた
控え室の扉を開けてホンピョと並んで廊下を歩く
そういえば以前、店にミランが来た時も
こいつ、ケンカふっかけるみたいにして追い返したよな
フロアが視界に入った途端、足が鉛みたいに重くなった
フロアの通路がやけに長く感じる
ボックス席のマリアを確認した
僕を見つけて手を振った
つられて僕も右手を上げた
ホンピョが急にその右手を掴まえて、腕を絡ませてきた
マリアの手が止まった
治ったはずの僕の頭痛がまたぶり返してきた
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