ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 189

千の想い 17 ぴかろん

「イナさん、あーんして」
「ん?」
「喉の具合、見たいんで」
「あ…あーん」

ビョンウ君がイナの喉を見る
ジョンドゥ君がビョンウ君の横から喉を覗き込む

「…ジョンドゥさん…邪魔です」
「喉は腫れてないようですね」
「あなた医者ですか?!」
「薬屋です」
「邪魔しないでください!」
「新人の医者ほど信用できないものはないって僕の上司が…」
「あなたのでっかい頭で影ができますからどいててください!」
「いやいやそんな…僕の頭よりキミの頭の方が二割ほどでっかいですよぉはははは」
「…二割でかいのはメガネです!」

メガネズがケンカしている
…案外名コンビになるかもしれない…
ジョンドゥ君はカバンから色々な薬を出して並べている
…薬の事をよく知らない薬屋と、信用できないかもしれない新人医師…
僕は急激に心配になって、ダーリンを膝に乗せたまま叫んだ

「病院に連れて行こうか?」

ジョンドゥ君とビョンウ君が白い目で僕を見た

「仲間の実力を信用しないんですか?ビョンウ君はそりゃあ頭がでかくて無意味に派手なメガネをかけた鼻持ちならない若造ですが
れっきとした医者です。素人のあなたより頼りになります」
「そうですよ。いくら薬の知識が足りないとはいえジョンドゥさんは立派な薬屋です。確かに歯が出てたり挙動不審だったり馬面だったりしますが
それでもBHC顔なんですから」
「ちょっと待ってくれビョンウ君。歯が出ているとか馬面とか…僕に対してそういう事を言うと、全ての言葉がキミ自身に跳ね返ってくるんだぞ」
「頭がでかいってのもね。それと黒縁メガネより僕のセルフルのが可愛いです!」
「ちょーっと!イナさんの診察してる最中でしょ?いい加減にしないとぶつよ!」

はぁんダーリン、僕がぶたれたいっ

「そーそー。ぐちゃぐちゃ言ってるとイヌ先生だって物差出してくるよ!」

う…ウシクさん…。イヌ先生の物差って?!ごくり…

「ウシク…何を言い出すんだ!」
「えへ…つい…」

ペロっと舌を出したウシクさんの両頬を、イヌ先生はにこっと微笑んでそっと包む
そしておもむろに両側にびろーんと引っ張った

「ひゃめれよっへんへいっ」
「くぷぷ」

「ん?どうしたの?イナさん…」
「…あたまいたい…」
「ビョンウ君、イナさん頭痛いって」
「頭痛にはこの薬がっ」
「ちょっとジョンドゥさん!でしゃばらないで!…イナさん、どんな風に痛いですか?」
「どんな風って…ガンガンする…」
「…熱はそんなにないから…熱のせいではないと思うんですけど…」
「ぐるぐるまわってる…」
「え?目眩ですか?」
「ちがう…。…。人が…頭のなかでぐるぐるしてる…」
「…」
「ビョンウ君…精神安定剤のがいいかも…」
「ジョンドゥさん、そんなの持ってる?」
「いや…、風邪薬と痛み止めと胃腸薬と、あと消毒薬にガーゼにピンセットに…」
「…とりあえず…痛み止めください」
「はい。1万5千ウォンです。これはよく効きますよぉ」
「金取るんですか?!」
「当たり前でしょ?僕の副収入です!」
「…ツケといてください。イナさん、テソンさんのおかゆを少し食べて、それからこれ飲んでください
それと、お見舞いの終わった方はそろそろお引取りください。イナさんを休ませてあげないと」
「…俺大丈夫だよ…随分寝たから…」
「何言ってるんですか!ずっとうなされてたんですよ!薬飲んでしっかり眠らないと」
「…うなされてた?」
「はい。うなされてテジュンさ…うぐっ」

ええい口の軽い医者め!
僕は膝の上のダーリンをすっ飛ばしてビョンウ君の口を手で塞ぎ、彼の耳元に低い声で囁いた

「言うなっちったろ!」
「あ…ずびばぜん…」

「なによっ!アンタ若い子のが好きなのかよっ!」

ひはんダーリンがブリブリ怒って僕のオシリをべちっと叩いた…ひんほん…こっこれには理由がぁはん…
その説明をしようとダーリンを見ると、ダーリンはイナの髪を優しく撫でながらイナと見詰め合っている
ひん?ひひん?なにこの雰囲気…

「…」
「…ぅふん…たまんないな、イナさん…。食っちまいたくなる…」
「…ふぇ?」
「くふ。ちゅ」
「あ゛」
「ちゅっちゅっちゅっ」
「あ゛あ゛あ゛」

だだだーりんがっおおオスの目つきしてるっ(@_@;)
やめてええええ!もうイナにちゅっちゅしないでぇぇぇっぐしゅぐしゅぐしゅ…

「ビョンウ君、俺がイナさんについてるからさ、君達寮に戻りなよ。イヌ先生達もありがと。後は任せて」
「でも僕医者だし…」
「熱ないんでしょ?頭痛だけでしょ?薬飲ませて様子見ればいいんでしょ?何かあったら電話するから帰りなさい」
「でも」
「ジョンドゥさんと一緒に帰って。君達一緒にいるとうるさいから」
「「…」」

ビョンウ君とジョンドゥ君はお互いを肘で突きあい、睨み合っていた
そして道具を片付けて玄関の方に行った

「…ビョンウ、ジョンドゥ…ありがとな…」

イナはニコっと笑ってベッドの中から手を振った
メガネズはヘラッと笑ってペコリと頭を下げた
見事なユニゾンの動き…
うーん…やっぱいいコンビになりそうだ…

メガネズが出て行ってから僕はダーリンに言ってみた

「あの二人、メガネで張り合ってるみたいだけどコンビ組ませたらイイセン行くかもよ、ラブ」
「ちゅっちゅっちゅ」
「なぁぁぁんでイナにそんなにちゅっちゅすんのよぉぉぉ」
「っるせぇなぁもう!帰れよバカ!」

酷い!酷いっダーリン…ぐしゅ…

「メガネで張り合うなんて百年早いよ!ねぇ先生」
「ん?ウシク…なんで僕に聞くの?」
「…自覚ないなぁもう…メガネと言えば先生じゃん!あんなダサいセルフルとか黒縁とかじゃなくて、やっぱ大人の男はメタリックだよねっ」
「…」
「なによ」
「トリオ・ザ・メガネズ」
「は?」
「三人でパフォーマンスやるの…どうかな?僕があの二人に色々教えてあげるの…」
「は?なに?誰が誰に教えるって?」
「だから僕がビョンウ君とジョンドゥ君に色々教えて…」
「できると思ってるの先生!」
「む」
「大体何を教えるの?!国語?」
「む…」
「それに『トリオ・ザ・メガネズ』ってなによ、だっさい!せめて『Trio the Glasses』にしてよ!」
「む!」
「そこ!痴話喧嘩は家に帰ってやってちょうだい!」
「「む」」

ダーリンは今、ラブしゃま状態なので、誰も逆らえない…
イヌ先生とウシクさんはイナに一声かけて帰っていった
やっと静かになった…

「そうだよね。メガネズの中ではイヌ先生が一番かっくいーよねっラブっ♪」
「アンタも帰れば?」
「は?」
「俺がついてるから。アンタいるとうるさいし邪魔だし」
「なんでよっ!僕がイナを慰めなくて誰が慰められるってのよっ!」

ダーリンはツイと自分を指さし、その指を僕の鼻先に向け、その後指先をドアに向けた
きいっ!なんで僕が帰らなきゃいけないのよっ!きいっ!

「アンタ、邪心が強いから」
「きいいいいっあんたたちをふたりっきりになんてできるわけないじゃないっきいいいっ」
「っるせぇなぁもう…。イナさん、スウェット着て、ちっとだけ起き上がって。おかゆ食べようね。それから薬飲もう」
「無視するなよっ」
「…ギョンジン…」
「なんだなんだなんだイナっ♪」

ふんっ見ろダーリン!イナはお前より僕を頼りにしてるんだっ!

「…居てもいいから声のトーン落としてくれないか?めっちゃくちゃ頭に響く…」
「…け…」

ダーリンが声を出さずに笑っている…
くそ…肩が揺れてる…くそ…

それからダーリンはおかゆをふーふーしながらイナにあーんと食べさせ、口を拭いてやり、お薬をあーんと入れてやり、しょしておみじゅをまたとろろーんと『くちうちゅし』れ飲ましぇてやり…ぐしゅ…

僕が寝込んだらこんな風に看病してくれんのかなぁ…
うぅ~ん、僕の看病にはプラスアルファが必要ら…
『掛け布団になる』『からだからどくをすいだす』『からだにたまったどくをださせる』…
もちろんなまはだで…くふ…ぐふふ…げひひひひ

がごん☆

「てえっ!」
「気持ち悪い声で笑うなよ!」
「…え…声出てた?」
「ね…イナさん…横になりなよ」

また僕を無視するぅぐすん…

「…俺…うなされてたの?」
「さあ…そうらしいね」
「…ビョンウ君もそう言ってたし、僕が手を握ると余計激しくうなされてた…」
「…。なんか…変な事…言った?俺…」
「決まってるだろ…」
「…。テジュンの…名前…呼んでた?」
「…」
「…。…よ…ヨンナム…さんも?」

僕が答えずにいると、イナは僕を潤んだ瞳で見つめて、そしてポロッと涙を零した

「お前どんな夢…見てたの?…相当苦しそうだったけど…」
「…ねつ…の…せいだ…」
「熱、うなされるほど高くないって言ってたよ」
「…」

幾粒かの涙がポロポロとイナの頬を走る
胸がきゅんと締め付けられ、イナの髪に触ろうと手を伸ばしかけた
ダーリンが僕の手を払いのけ、イナの涙を拭っている
もう…

「…なんだよラブ…僕がそれしようと思ってたのに…」
「イナさん…どんな夢?」
「…夢で…よかった…」

イナが訥々と夢の話をする
僕とダーリンはイナの声に耳を傾ける
イナ…
イナ…
そんなに苦しむなよイナ…


Love on the edge 3 オリーさん

もしかしたら4人の中で僕が一番冷静だったかもしれない
イナさんに対しては激しく反論してしまったけれど・・
彼の話は、この間僕が泣きながら聞いた話とだぶっていたから
僕の中で押し込めて押し込めて無理やり昇華させた話だったから
でもドンジュンさんには堪えたろう
彼があんな風に胸のうちを吐き出すなんて
ましてや、スヒョンさんへの彼の想いを・・

それでもあの告白は衝撃だった
彼が揺れていた
暴風になぎ倒されそうな弱々しい細木
今にも折れて倒れそうな気がした
何でそんな風に考えるの
欠けているなんて・・
思わず彼に近づいて抱きしめた
そんなに自分を責めないで
泣かないで
あなたは悪くない、欠けてなんかいないよ

ドンジュンさんが出て行き、3人が残された
時間が止まったようなあの空間
僕はただ彼が折れてしまわないように支えていた

どのくらい時が経ったのだろう
静寂の中で時間の感覚が麻痺していた
帰ろうか
僕は彼の耳元で囁いた
彼は返事をする代わりに腰を上げた
部屋から出る時、彼はあの人を振り返った
あの人は壁にもたれたまま、下を向いていた
いつもの微笑みは消え、壁に張りついた絵のように動かなかった
すまなかった、僕がしゃべりすぎた、スヒョン・・
彼の心の呟きが聞こえるようだった
不思議なことに、嫉妬の感情は湧いてこなかった
僕は扉を開け、彼を外へ促した

お前と張り合うつもりはない
彼がドンジュンさんに言った言葉は、この間彼から聞いた
スヒョンとドンジュンの間に入るつもりはないと
僕は祭りの時にスヒョンさんから同じ事を言われている
その意味がやっとわかったような気がした
彼とあの人の結びつきが

イナさんが挑発して彼が過敏に反応した
あんな風に僕らをかき回したイナさんはどうしているだろう
イナさんもいつもと違った
とんがった鋭利なナイフのよう
自分が向けた刃先で自らを傷つけているようだった
得体の知れない風に吹かれているのだろうか
どこかへ飛んでいってしまうのだろうか

駐車場のレンジローバーの前まで来ると彼は僕を見つめた
「僕が運転しよう」
瞳がそう語り、僕もまた目で応えた
「いいよ、僕が運転する」
僕は運転席に回って、ゆっくりとエンジンをかけた
車の中では彼はじっと外を見つめたままだった
僕はその様子を時折うかがいながら、ひたすら車を走らせた

ようやく僕らはマンションに戻り、寝室へたどり着いた
寝室のドアを閉めたとたん、彼が深いため息をついた
振り返ると彼はドアにもたれてうつむいていた
「今日はすまなかった・・色々と・・」
僕は自由になったばかりの両腕で彼を包んだ

「何か悪いことした?」
「ミン・・」
「謝ることなんて何もないよ」
「・・・」
「今日はよくしゃべったね、驚いた」
「すまな・・」
「だから謝る事なんかないよ。僕はわかった」
「何が・・」
「スヒョンさんとの事。もう嫉妬はしない。しても無駄だってわかった」
「・・・」
「あの人は、幸せになって欲しいんだよね、誰かさんに。
そして僕はその誰かさんの幸せの素。だから僕も含めて見ててもらえばいい」
「ミン・・」
「違うの?」
「いや・・」
「ならそれでいいでしょ」

彼は少年のような澄んだ瞳で僕を見つめた
「ミン」
「何?」
「僕を・・好きか?」
「何度も言わせないでよ。僕だって照れるんだから」
僕は両手で彼の頬をはさむと、そっと唇を重ねた
恋人も必要、友人も必要、仲間も必要・・そしていつも見ていてくれるあの人も・・
一人で平気だなんて振りをしてるけど、あなたにはみんな必要なんだ
こんなに寂しがりやなんだから
こんなに繊細な心を持っているんだから
僕がそばにいる
あの人の視線を感じながら・・
それでいいんだよね

「ねえ、僕が見えてる?」
「え・・」
キスが終わった僕は彼の瞳を覗き込んだ
「僕のこと、ちゃんと見えてる?」
「目の前にいるじゃないか」
「そうじゃない。心でちゃんと見てくれてる?」
「ミン・・」
「僕はここにちゃんといる?」
僕は彼の胸に手をあてた
「僕のそばに・・いてくれるのか」
彼が震える声で呟いた
「わかってるくせに」
僕は目を閉じて彼の胸に顔を埋めた

眩い光を放つエッジの上にのっているようだ
ちょっとでもぐらつけば、どちらかに落ちてしまう
体重のかけ方を間違えば、鋭利な刃で傷を負う
そんな微妙なバランスで
僕ら4人の心はエッジの上で蒼白く静かに燃えている

眠るとき僕は彼と手をつないだ
僕が手を強く握ると彼もそれに応える
僕が手を緩めると彼もそうする
そんなことを繰り返しながら、僕は彼とずっと手をつないでいた

ドンジュンさん、どうしてる?
あの人の所へ行った?
話ができた?
それともひとり?
まだひとりで彷徨ってる?

僕は今、彼と手をつないでる
ドンジュンさんも手をつないで
あの人と・・スヒョンさんと
そうすれば、僕らはうまくいく
エッジの上でも持ちこたえられる
たぶん・・
そう、きっと・・


千の想い 17 ぴかろん

うなされてたらしい
ずっと繰り返し二つの夢を見ていた

『いやだ…別れない。僕を捨てないでくれ…僕を…』
俺に縋りつくテジュンの背中をぼんやりした俺が擦っている
その二人を見つめている俺がいる
懐かしむようなやるせないような表情を浮かべてフフッと薄く笑っている
俺の肩をそっと抱き寄せる男がいる
俺はその男の顔を見つめて微笑む
男は長い指で俺の頬に触れ、俺の唇にその柔らかな唇を重ねる
「行こう、イナ」
「うん…ヨンナム…」
俺達は寄り添いながら傷だらけの二人の男に背を向ける


「俺、あなたが好きだ…あなたを愛してる…」
「イナ。僕とテジュンが同じ女を愛した事、解ってて言ってるの?」
「解ってる。でも、俺…」
「…あの時と同じ思いを僕達にさせるの?」
「…ヨンナムさん…俺…」
「友達だと思ってたのに…」
俺は必死で気持ちを伝えようと口を開けた
けれど声が出てこない
蔑むような瞳で俺を見たヨンナムさんは俺に背を向ける

「もうお前とは居られない…」
いつの間にか傍にいたテジュンが、暗い顔で呟く
「さようなら」
俺の顔も見ずに、テジュンも背を向ける
二人は別々の方向に歩き出し、俺だけがその場所から動けずにいる
俺は二人を呼び戻したくて声をあげようとする
俺の発する音は全て掻き消され、声は届かない
「…ゃだ…いやだ…。いやだぁっ」

ああ…俺がヨンナムさんに俺の気持ちを告げるなんて
ヨンナムさんが俺の肩を抱いて俺と寄り添うなんて

…在り得ない話だ…
嫌な結末だ…
よかった…夢で…
よかった…こんな夢を見て…
現実にしたくない
してはいけない…

俺は傍に居る二人にその夢の筋を話した
はっきりと頭に残っている彼らのセリフは…言えなかった…

ラブが俺の隣に滑り込み、俺の体を抱きしめてくれた
ベッドの傍らに座り込んだギョンジンが俺とラブを一遍に抱きしめて
今度は夢も見ずに眠るんだ…朝になったら元気になれる…
そう言った
二人の優しい気持ちに包まれて俺は目を閉じた

ミンチョル…ギョンビン…ドンジュン…スヒョン…
…ミアネ…
酷い事言った…言わなければよかった
俺みたいにならないでほしかったんだ
…多分もう遅い…
想いは止められないよな…
隠していたかったのかもしれないってのに俺は
穿り返してしまった…
…ミアネ…


翌朝、二人に包まれてぐっすり眠った俺の体は元通りになった
俺を支えてくれる仲間に改めて感謝した

「一度RRHに帰ろう」
「…ん…」

ミンチョル達と顔を合わせるのがいやだった
でも、避けてはいられない…
どうせ店で顔を合わす…
…どんな顔をすればいい?

「ん?イナさん、なんか違うことで悩んでる?」
「…俺…揺らしちゃった…」
「?」
「ミンチョルとスヒョン…ドンジュンとギョンビンも…」
「…」
「余計なこと言って傷つけた…」
「…はぁん…それで帰ってこなかったんだ…。イナさん居候だもんなぁ。家主の機嫌損ねちゃねぇ…」

わざと明るくラブが言った

「じゃ、今晩俺んトコに来る?」
「だぁめぇぇラブんトコ僕だって最近行ってないんだもぉぉん」
「っるせぇなぁバカ!アンタも一緒にくりゃいいじゃん!」
「あははぁんほほーん。そうね。ラブのキングサイズベッドで三人でくふふーん…お寝んねくふーん」
「ねっ?」
「…考えとく…」
「…それとも…ヨンナムさんちに行く?」

どきんとした
ラブの瞳がキラっと光った

『来てよね』
『待ってる』
『行こう、イナ』
『…あの時と同じ想いを僕達にさせるの?』
『イナ…愛してる…』

ぐるぐると声が回る
ヨンナムさんの声なのかテジュンの声なのか
現実の声なのか夢で聞いた声なのか…
解らなくなる

「…ヨンナムさんちは…行く勇気出ないな…」

かろうじて作った笑顔でラブに言う
ラブは真剣な目をして俺を見つめていた
おちゃらけていたギョンジンが俺をぎゅっと抱きしめ背中をぽんぽんと叩く

「勇気出さないと打ち砕けないものもある」
「…砕かないってのも勇気がいるだろ?」
「…。お前はできる人なのにな…」
「何が?」
「命がけで飛び込むこと…」
「…かかってるのが俺の命だけなら…できるけどさ…」

そうじゃないんだもん…

「巻き込まれる人がいるから…」
「お前…ソクさんや僕に飛び込んだ時、テジュンさんを巻き込んでたじゃないか!」

え…
あ…

「…そう…だった…」

いつもテジュンを苦しめた…
もう苦しませたくない…

「やっぱ…飛び込めないや…」
「イナ…」
「…大丈夫だ…もうじっき慣れる」
「…」

気付かれないようにしなくちゃ…テジュンにもヨンナムさんにも…
二人の心を守らなくちゃ…

ドンジュンの痛々しい背中
ギョンビンの無理に固めた声
スヒョンのもがれた羽根
ミンチョルの…割れたガラス…

血を流すのは、もう、俺だけでいい

ラブとギョンジンに連れられて、俺はRRHに戻った
ミンチョルたちはいるのだろうか…
ギョンジンが部屋の外から声をかけていたがいるのかいないのか解らないと言っていた
少しだけほっとして部屋に戻る
シャワーを浴びて着替える
おかゆと薬と皆のお陰で風邪の気はすっかりなくなった


Love on the edge 4  足バンさん

冷たいドンジュンの腕をとり部屋の中に引き入れた

明かりを点けるために振り向こうとした瞬間
僕はいきなりドンジュンに首を抱かれ唇を塞がれた

噛みつくような容赦ないくちづけ
押されて壁で背中を打ち、そのままあいつの荒々しさを受け止める
冷えきった唇が挑むように僕を捕らえ
あいつの中から渦巻く想いが流れ込む
壁に身体を預けた僕はただ黙ってそれに応えた

呼吸が苦しくなりかけた頃
始まりと同じくらい唐突にドンジュンは唇を離した
僕は荒い息をしながらその真っ直ぐ見据える目を見る

玄関の小さな硝子ブロックから入る月明かりにあいつの顔が白く浮かぶ
その表情は笑っているようにも泣いているようにも見えた

長い沈黙を解いたのはドンジュンだった

「映画…」
「え?」
「あの監督の作品観た…4つだけだけど…ちゃんと観た」
「…」
「僕もモノ創る人間の端くれだから…その人のやりたいことわかる気がする」
「ドンジュン…」
「待って…ひとつずつ話すから聞いて」
「…」
「最初に台本読んでやってみろって言ったの僕だったよね、よく考えたら
 だからやっぱりやってほしい…無理して言ってるんじゃない…これはちゃんと整理して考えた結果だよ」
「…」
「そんでミンチョルさ…」

あいつはそこで一度目を閉じ…唾を飲み込んでから目を開けた

「ミンチョルさんが役を受けたわけも今日聞いたから…
 あの人があんな顔で言うんだから…きっと本当に…真剣に取り組みたいんだと思う」
「…」
「もう抵抗する理由はなくなった」
「ドンジュン…」
「その代わり…僕を納得させてね…中途半端なもの創ったら承知しない
 力及ばなかったなんて言い訳は絶対に聞かないからね」
「…」
「いいね?」

強い言葉とは裏腹に潤んだドンジュンの目を見たまま
僕は小さく頷いた 

ドンジュンは首に絡めていた両腕をするりと腰に回し
僕のコートの襟にねじ込むように顔を埋めた

「この間…ひどいこと言ってごめん…それだけは謝りたかった」
「ん…」
「でも…あれってみんな僕の本音だ…時々スヒョンが大き過ぎてわかんなくなるのも
 時々すごく不安になるのも」
「わかってる」
「笑ってる僕もイナさんに噛みついた僕もみんな僕だ」
「ドンジュン…イナのことは…」
「わかってる…もう突っかかったりしないよ」
「…」
「こんな時にひとの心配?」

僕は何も言わずにドンジュンの肩をそっと抱いた
少しの沈黙の後あいつが消え入りそうな声を出す

「正直に言ってくれる?」
「ん?」
「スヒョンはあの人を愛してるの?」

胸にズキリと痛みが走った

「なんてね…言ってみたかっただけ…わかってるから答えなくていいよ」
「ド…」
「苛めてるわけじゃないからね…ホントに今日ちゃんとわかったから
 僕が力こぶ出して張り合ってどうかなるような話じゃないって」
「…」
「めちゃくちゃショックだけど…わかっちゃたものは仕方ない
 そんな愛情もあるんだって…少しずつ自分が理解していけるのを待とうかな」

ドンジュンが顔を起こし
片手でそっと僕の頬に触れながら僕の目を見つめる

「でもひとつだけはっきりしたことがある…
 僕に何かが足りないわけじゃないんだってわかってほっとした」

僕の目の奥が熱くなった

「そんなことくらいでほっとする自分も情けないけど…でもそんなことで保ってる」
「ドンジュン…」
「泣かないでね…僕が我慢してるんだから」

ドンジュンは僕の零れそうになった涙を吸った

その唇が再び僕の唇に触れて
堪らなくなった僕はドンジュンを強く抱きしめ深くくちづけた
熱い想いに支配される
静けさに唇が舌が音を立てる
薄明かりの中で僕たちは息をするのも忘れて唇を重ねた

その夜僕たちは身体を重ねた

幾日かの寂しいしとねを埋め合わせるかのように
時間をかけて深く繋がった

抱きしめたあいつの肌からは
獲物を狙う火のような想いと
慈悲の真綿のような静かな想いが乱れ流れ込む

前者のあいつは僕を追い込み息をつかせず
後者のあいつはもうどこにも行くなと泣く子供のように
あどけない目で僕の心のひだに入り込む
僕は翻弄されながらシーツの波の中に頭を埋め溺れる

スヒョン…きっと僕は嫉妬し続けるよ

わかっててもきっと

無駄だってわかってても
ドンジュン…
それでもいいの?
ああ
ほんとにあなたは残酷だ
わかってる…
こんな残酷な人を愛し続けろっていうの?
ドンジュン…
ひどい目に遭うのわかってて…それでも愛せっていうの?

そうなの?
そう…

わかってても…
僕が逃げたら?
逃がさない
ほんとにひどい人だね
わかってる
スヒョン…
ん…
好きだよ…

傾いた月の明かりがブラインドに切りとられて
ふたりの足に絡みつく

僕は愛しい鼓動に身を任せる
冬の美しい静寂に罪を抱きながら


千の想い 18 ぴかろん

夕方三人で店に向かう
ミンチョル達には、やはりギョンジンが部屋の外から声をかけていた
いるのかいないのか解らない…
俺はここからも逃げている…

ウシクとイヌ先生は今日も一番乗りだったようだ
ウシクは舞台に立ち、イヌ先生は本当に物差を持っていた
チーフ代理をする間、ウシクが先生の持ちネタの『Take Five』をやるらしい
「ふーん」と言ってニヤリとしたラブがイヌ先生の隣に行く
先生の腕に纏わりついて「俺が先生の師匠だからね。指導に参加するよ」と言った
ウシクの瞳が嫉妬で燃え上がる
イヌ先生はラブを腕に巻きつけたまま物差を振り回して「何その挑戦的な目つき!」と怒っていた
ウシクは二人を睨みつけ、ダンスの練習を続ける
俺はギョンジンと一緒に控え室に行った
控え室には誰も居なかった
携帯をロッカーに仕舞おうと手に取った途端、プルプルと掌に着信の振動が伝わった

「はい…」
『イナ。昨日どうしたの?!』

ヨンナムさんだった…

「熱があって休んだ…」
『大丈夫?』
「…うん…」
『ご飯は?食べた?』
「…ん…」
『…まだ本調子じゃない?』
「…ん…」
『…。そか…。よかったら今夜うちに泊まらないか?飯、ちゃんと食わないと治るものも治んないからさ』
「…」
『イナ?』
「…もう少し元気になってからにする…じゃ…」
『イナ!』
「…ん?」
『後で顔見せてよ。昨日も今日も顔見てないから…寂しいよ…』
「…なによそれ…。ヨンナムさん、それって恋人に言うセリフだぜ!」

声を聞きたかった
声を聞きたくなかった
話をしたかった
話をしたくなかった
心臓に×の印を刻みながら
俺はヨンナムさんへの言葉を冷たく凍らせて投げた

『…イナ…』
「毎日俺の顔なんか見る必要ないだろ?!俺、ヨンナムさんの恋人じゃないんだから!」
『…何をいらついてるんだ?』
「…なんでもない…切るよ…」
『…調子悪いんだろ?そうだろ?』
「…別に…。いつもとおんなじ」

無表情な声でそう言って俺は電話を切った
ロッカーに電話を置き、扉を閉める
振り向くとギョンジンが俺を見つめていた

「…なんだよ…」
「わざとらしい」
「…」
「心配させたいの?」
「え?」
「確かに飛び込んではいないけど…カリカリカリカリ削ってるじゃん」
「…なにが…」
「ヨンナムさんに気付いてほしいの?」
「は?!」
「わざと冷たく振舞って気を引きたい?」
「違う!」
「…ふ…。砕かないだって?」
「…」
「いつものイナでいる事ができないなら今すぐ自分の気持ち伝えろよ!ヨンナムさんに思いつめてほしいのか?」
「…」
「まるで八つ当たりしてるみたいだ」
「…。は…。ほんとだな…ほんと…」
「…イナ…」
「…。何が『慣れる』だよなぁ…ふっ…」

ギョンジンは静かに俺に近づいてそっと抱きしめてくれた

「…なぁ…また変なことしたら…教えてくれるか?」
「…イナ…」
「どれがいつもの俺なのか解んなくなっちゃった…」

ギョンジンの肩に頭を乗せた
暫く俺の頭を撫でた後、ギョンジンは俺の顔を自分の方に向けてそっと接吻した
離れていく唇を見つめ、追う
ギョンジンは俺を受け止めて応えた
テジュンの顔とヨンナムさんの顔が浮ぶ

『…あの時と同じ想いを僕達にさせるの?』

ギョンジンの肩をトンと突いて俺はギョンジンから離れた
壁際の椅子に座ってギョンジンを見上げる
傍に来るな…甘えてしまう…

「甘えていいんだぞ、イナ」
「…」
「ラブとお前のためなら何でもするよ」
「…。ギョンビンも甘えさせてやれよ…」
「は?」
「…。なんでもない…」

「おーイナ!もういいのか?」
「あっイナさんだぁ。よかったぁ。昨日僕ら物凄く浮いててさぁ…」
「俺は普通だったよ。お前とテプンさんが異常にハイテンションだったんじゃん」
「またそうやってクールぶる!」

ガヤガヤと賑やかにテプン、チョンマン、シチュンの三人組がやって来た
その後次々とメンバーが到着する
皆に迷惑かけた事を謝る俺
昨日見舞いに来てくれた連中と、お粥をくれたテソンにも改めて礼を言った
ミンチョル達はまだこない…
何と声をかければいいのだろう、あの四人に…

考えあぐねているうちに開店時間になった
スヒョンは事務所にいたらしいが後の三人はギリギリに店内に入ってきた
俺はろくな挨拶も出来ないまま仕事に没頭した
ヨンナムさんは水の配達に来たのだろうか…
俺は一度も裏に行かなかった…


千の想い 19 ぴかろん

閉店になり、俺はスヒョンを捉まえて二日間の事を謝った
スヒョンは微笑みを浮かべて「本当のことだ…気にするな…」と言い、俺の肩をポンと叩いた
そのまま事務所に行きかけて立ち止まり、くるりと俺の方に向き直って躊躇いながら俺を見つめ、腕を広げ、俺の方に近づいてきた
目の前まで来て俺の体を包み込もうとしている。腕は広げられたままそこで揺れていたが、やがて力なく彼の体の両脇に垂れた
スヒョンはため息をついて「おやすみ」と言った
…俺を許せないのだろうと思った…
ドンジュンと…ミンチョルを傷つけた俺を…

唾を飲み込んでドンジュンのところに行く
思った通りギョンビンと一緒にいる
俺の姿を認めると、二人の瞳は警戒の色を帯びた
鋭い視線がちくちくと俺の皮膚を刺す
同じように謝り、二人の言葉を待たずにミンチョルを探す
ミンチョルは店のソファに凭れ掛かってぼんやりしていた

「ミンチョル…」
「…ああ…イナ…」
「すまなかった」
「ん?熱があったなら仕方ないさ…」
「…それだけじゃなくて…おととい…」
「…」
「…言わなくてもいい事を…」
「…。有難う…」
「?」
「お前はやっぱり…僕の親友だよ…」
「…ミンチョル…」
「おやすみ」
「…」

ミンチョルはいつになく優しい目をしていた
優しいというより…弱々しいような気がした
壁があるわけではないのにこの男には踏み込めない
時々そんな風に感じた事はあった
それでも平気で乗り込んで行っていたのに…
できない…もう傷をえぐりたくない…
俺はミンチョルを残して控え室に戻った

壁を作っているのは俺の方なのかもしれない
スヒョンにもドンジュンにもギョンビンにも…

壁がなくったって…人の心には簡単に入り込めない
わかっている事がなぜ出来ないのだろう
四つの壁に突っかかった事を今更ながらに後悔する
気持ちはまだ浮ついている
俺は一体何がしたいんだろう…

ラブとギョンジンが裏口で待っていてくれた

「どうする?イナさん。俺んちに来る?」
「…いや…。ちょっと寄りたいとこがあるから…」

咄嗟にでまかせを言った
どこへ行くあてもない…

「今日はRRHに帰るの?」
「…」
「一人でいちゃだめだよ!用事が済んだら俺んちにおいでよ。ね?」
「…は…。用が済んだら…ね…。んじゃ…」
「イナ!」
「ん?」
「待ってるからな」
「…」

『待ってる』

ギョンジン…ラブ…ヨンナムさん…

テジュン…
会いたい…

…いつも俺に巻き込まれていたテジュン
…いつも俺を許してくれたテジュン
祭の頃…
毎日お前の姿を追っていた
浮ついていても帰る場所はお前のところだと解っていた
すぐそこにお前が居るのに
違うドアを開けてしまいそうだ…

店から出てタクシーを拾い、テジュンの会社の近くまで行った
テジュンが居るはずのそのビルに、灯りのついたフロアが一つだけある
あそこにいるのかな…
俺はテジュンに電話した

『イナ?どうした?』
「てじゅ会社?」
『うん…相変わらず行き詰っててさぁ…』
「お前の会社から夜景って見える?」
『ああ…』
「覗いてごらんよ、綺麗だろ?」
『ん?お前も部屋から夜景鑑賞してんの?』
「…ん…」
『どれどれ…うーん…ここからの眺めはお前の部屋からよりは劣るなぁ…』

窓に近づいた人影を見つけた
テジュンなんだな…

「…何が見える?」
『んー真ん前のビル!』
「ふ…他には?そこからRRH、見える?」
『うーん…多分…あれかなぁ…うんあれだ!お前の部屋が見える』
「嘘つけ」
『お前まだ部屋に帰ってないだろ』
「あん?」
『部屋、真っ暗だ』
「くふ…ばぁか…」
『図星だろ?ん?どうせその辺フラフラしてんじゃ…』

人影が素早く窓から離れた

『待ってろ!』
「え?」
『動くな!』
「…てじゅ…」

まさか…みつけたの?

『はぁはぁ…待ってろ!そこにいろ!』
「…てじゅ…どうしたの?」

突然電波が途切れ、ツーツーという音が聞こえた
テジュン…まさか俺の事…見つけた?

『わざとらしい』『心配させたいの?』『カリカリカリカリ削ってるじゃん』
『気付いてほしいの?』『気を引きたい?』『砕かないだって?』
『いつものイナでいる事ができないなら今すぐ自分の気持ち、伝えろよ!』
何が『慣れる』だよ…

ギョンジンの言葉が突風に巻き上げられた木の葉の様に俺に纏わりつき、俺の心臓は暴れだした
帰らなくちゃ…
わざとらしい…
帰らなくちゃ
気を引きたい?
帰らなくちゃ…
見つけて欲しかったんだろ?
会いたかったんだろ?
テジュンの顔を見て安心したかったんだろ?!
ヨンナムさんに冷たくした事、帳消しにしたかったんだろ?!

「イナ!はぁはぁはぁ」

肩で息をしながらテジュンが近づいてきた
俺を包み込むように抱きしめる

「はぁ~イナぁ~」

テジュンは俺の肩を抱いて強引にビルの中へ誘う

「てじゅ…俺…」
「お茶でも飲んでいく?」
「…ちょっと近くで用があったから…その…通りかかっただけだから…俺…まさかその…見つかるなんて…あんな上から…」
「…すぐにわかった…」

シンとしたビルのエントランスを抜け、薄暗くなった廊下の壁に俺を凭れさせるテジュン
きっと接吻が降りてくる

「会いに来てくれたんだぁ…」
「…ごめん…仕事の邪魔し…」

包まれる俺の唇
消えて行く俺の言葉
テジュンの香り…

「会いたかったよ…イナ…」
「…俺も…会いたかった…」

嘘じゃない
会いたかった

「ああ…くそぅ…、今夜中に纏めなきゃいけないんだ!仕事…」
「…ごめん、俺…」
「30分だけホテルに行かねぇか?」

俺を覗き込むテジュンの瞳の奥に灯る小さな炎
仕事も俺も組み敷きたいのだろう…
熱を帯びた唇で吐息を漏らしながら俺の唇や耳朶や首筋を啄ばむ

「…てじゅ…テジュン…こんなところで…」
「ホテルに行く暇なんかないもんなぁ…」
「テジュン…テジュ…」

強く唇を塞がれ、舌を求められる
なすがままにされていた俺を押し戻してテジュンはため息をついた

「抱きてぇっ!」
「…」
「…くそ…」

もう一度俺をきつく抱きしめるテジュン

「ふう…こんだけで我慢しとこ…」
「テジュン…」
「あ…お前は?我慢できるか?」
「…あ…うん…」
「なんだよぉ我慢できないって言えよぉ」

抱きしめたまま俺をふるふると揺さぶるテジュン

「あーもぉっ!愛してる!」ちゅっ

「あぅ…ん…俺…も…」
「ん?」
「ん?」
「なぁんか元気ないなぁ…」
「お…お前の勢いが異常だから…」
「だって溜まりまくってるんだぜぇ!」
「…露骨…」
「ストレスがだよっ!」ちゅっ
「…」
「あー…やっぱホテル行くか?」
「…ばか…」

いちゃついていたらテジュンの電話が鳴った

「ちいっ…もう…。はい。はいはいはい。はい。はいはい!はい?はい。はーいはい!」
「…ぷ…」
「なんだよ」
「すげぇなテジュン、表情のある『はい』だ…」
「…お?…おお…」
「…仕事に戻れよ…」
「…ん…」
「明日は?」
「…んー…一応半日で終わるはずなんだ。あさってから3日間の泊りがけお試し研修だしさ…」
「お試し研修?」
「…お前も一緒にいく?」
「…無理だよ。急すぎる…」
「…だよなぁ。僕だってそう思うもん!出来上がったプランを試すんだって!まったくあのゴリラめ…人遣いが荒すぎる!」
「…でもやりたい事なんだろ?仕方ないじゃん…」
「うーん、僕が中心になって進めてた企画だからなぁ…」
「なおさら仕方ないね…頑張ってよ」
「…明日…」
「ん?」
「…明日…抱きたいな…時間あるかな…」
「…そんな事ばっかし…」
「抱きたいもん…イナ…」
「…」

俺を抱きすくめて耳元に低く囁く
テジュンの香りが鼻を擽り体の芯が熱くなる
テジュンの携帯が再び震えた

「はい!今階段駆け上がってる最中だからあと10分かかります!」☆
「…嘘つき」
「…くそ…。今夜中になんとしても終わらせるぞ!」

自分に喝を入れるようにテジュンは唸った

「明け方に家に戻れるかなぁ…無理かなぁ…。お前、明日、ヨンナムんちで朝飯食ってろ!な?」
「てじゅ帰ってるの?」
「うーわかんないっ!」
「…いやだ…ひとりじゃ…」
「…イナ…」
「…いやだ…」

ヨンナムさんと二人きりで飯なんか食えない…

「うー!…じゃ、誰か誘え!ラブとか」
「なんでラブなのさ!」
「…ギョンジンでも別に…いいけど…。あ、ソクは?ソク」
「…。俺に、ヨンナムさんちにいてほしいわけ?」

テジュンを睨む俺

「…酔ってなきゃ大丈夫だよ…。あの時の事、あいつ覚えてないしさ…」

そうだね…覚えてない…俺にキスした事なんか…

「…嫌いか?ヨンナム」
「嫌いじゃないよ…」

…好きだよ…

「苦手?」
「…。ぅん…」

頷く俺を見てテジュンは少し嬉しそうに笑う

「あいつはうっとおしいからなぁ…人の世話焼きたくてしょうがないんだ」

そうだね…

「…んじゃさ…んじゃ…明日家に着いたら電話するから、すぐに出られるように用意しといて」
「…お前…少しは寝なきゃ」
「睡眠とれっていう意味か?」
「そうだよ」
「睡眠より『イナ不足』だよ僕は!」
「…ばか…」
「今夜中に…絶対…終わらせ…られるかなぁ…くっそぉぉ」
「くふ…」

笑った俺に吸い付くテジュン
こんなにも俺を求めてくれている
好きだよテジュン好きだよ
お前がいてくれるから俺、生きてるって思える
それは本当なんだテジュン、本当に…

「電話するから…」
「…ぅん…」
「…おやすみ」
「おやすみ」
「愛してるよ」
「…。愛してる…」

ニコッと笑ってエレベーターに吸い込まれていくテジュンを見送った
俺は愛してると誰に言った?
テジュン?それとももう一人の男?
唇を噛みしめて、俺は街中を歩き出した


春泥  足バンさん

浴室から出てジーンズをはきソファに腰掛ける
膝に肘を預けてずいぶん長いこと足元を撫でる柔らかい陽を眺めていた
遠くにドンジュンのシャワーの音を聞きながら

しばらくいじっていた携帯をようやく操作する

「ミンチョル?」
「ああ…おはよう」
「…」
「…」
「どう?大丈夫?」
「ああ大丈夫だ」
「そうか…それならいいけど…」
「…」
「…」
「その…」
「ん?」
「その…ドンジュンはどうした?」
「大丈夫だよ」
「話せたのか?」
「ああ」
「そうか…よかった…気になっていた」
「ミンチョル…」
「ん?」
「悪かった…あそこまで言わせて」
「いや…僕こそ…」
「…」
「…」
「それで…おまえが言ってたことだけど」
「え?」
「自分に欠けてるのもを見つけられるかもってあれ…」
「ああ…」
「おまえ…ひどいプレッシャーを感じてるんじゃないのか?」
「え?」
「ヒョンジュの生い立ちと自分を重ねて…それで迷いもあったんじゃないの?」
「…」
「自分の存在を認めたくないって言ってたのは…」
「考え過ぎだスヒョン」
「ミンチョル…」
「昨日言った通りだ…演ってみたい…それだけだ」
「…」
「それでいいだろう?」
「ああ」

いきなりバスタオルを巻いたドンジュンが隣にどかりと座った
妖しい目
僕はそのまま片腕を伸ばし抱き寄せる
ドンジュンは湿った身体をぴったりとつけ首筋に唇を這わせてきた

「ミンチョル」
「ん…」
「無理はするなよ…そうでなくても大変な作業なんだから」
「わかってる…心配するな」
「苦しかったらちゃんと言うんだよ」
「わかってる」
「…」
「スヒョン…」
「ん?」
「いや…よろしく頼む」
「ああ」
「…」
「ミンチョル?」
「ん?」
「ありがとう…」
「ああ…それじゃ…」

シャワー室を出てタオルを巻きドアからちらりと部屋を伺う
ソファに座るスヒョンのシルエットが柔らかい朝の陽に浮かぶ
携帯をとって…
電話の向こうはあの人だ
スヒョンの優し気な声が静かな部屋に響く

僕はゆっくり近づきバスタオルのままスヒョンの隣にがつんと座る
昨日までの僕ならやらなかったことかもしれない

ちょっと驚いた様子のスヒョンは
それでも携帯を手にしたまま片手を伸ばし僕を抱き寄せた
僕は電話を切るまでぴったり密着して首にキスしてやった

「さっそく僕の目を盗んで悪さしてたでしょ」
「業務連絡」
「よく言うよ」
「昨日のこと気になってたから」
「ジーパンいっちょで切ない顔して電話すんな」
「あ、こら返せっ…ふくれてないでおまえも服着なさい」
「ねぇ…ギョンビンのこと何か言ってた?」
「いや…でも大丈夫じゃないかな」
「ま、いいや自分で聞く」
「おまえ…」
「ん?」
「音楽…どうするの?」
「教えてやんない」

僕はスヒョンを睨み首に巻き付いてそのまま夕べみたいに強引にキスした
唇を離すとスヒョンは妙に優しい目で僕を見る

「何よ…」
「よかった…おまえがちゃんとふくれてくれて」
「ばーか…変なことで喜ぶな」
「だってそういうのが一番おまえらしい」
「ちょっと甘い顔したからって調子に乗っちゃダメだからね」
「全然甘くないじゃない」
「僕たちはチョー微妙な関係だって忘れないように」
「はい」
「今まで以上に厳しくいくからね」
「そうなの?」
「当たり前じゃない…こんなアブナイやつ」
「それも魅力ってことない?」
「開き直るなっばか!」

憎たらしい笑顔を押し倒してキス攻めにしてやった

僕は僕のやり方でこの危うい天使を包む
嫉妬して甘えて憎んで愛す

雪の覆いが崩れ土がむき出して落胆した
見えなくてもいいと
その方が美しいと思おうとしていた
でも土がさらされようやく思い出す
そのぬかるみに僕らがいるって
そこに小さな芽が潜んでいるんだって
どんな芽だかわからないけれど
育つかどうかもわからないけれど







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