ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 191

替え歌 涙そうそう (by スハ) れいんさん

古い写真手にとり 
過ぎし笑顔に 涙する
迷い 悩み ため息 
耳に残るは幼き声

晴れ渡る日も 雨の日も
花は咲きみだれ
想い出 遠く褪せても
忘れぬ 忘れられぬ
想い 馳せて
涙そうそう

仰ぐ 遠き 夜空を
失くした日々の 償いと
白く 霞む おぼろ月
どうか届けて この想い

涙隠して 寄り添うは
あなたとの未来
あなた その手で 私を
求めて いざなって 
愛しみ 温もり
涙そうそう

晴れ渡る日も 雨の日も
季節は うつろう
哀しみ 心に抱きて
揺らめく 灯火(ともしび)
あの日 憂いて
涙そうそう
忘れぬ 忘れられぬ
遠き 想ひ出 
涙そうそう

(涙そうそう / 夏川りみ )


La mia casa_31  妄想省mayoさん

テソン達が店に行く前に粗方用意していた今日の宴会メニューは「和+伊」ってとこか..

・海老と帆立のテリーヌ
・ズッパ・ディ・ペッシュ(スープの少ない伊版ブイヤベース)
・毛ガニのリゾピラフ
・薄切り牛湯引き山椒風味
・春菜(蕨..菜の花..土筆..空豆..筍..等々..下ごしらえの後に"だし"と合わせ仕上げに木の芽)
・鮪の利休づけサラダ仕立て(ごま入りのたれに漬け込んだ"鮪のづけ"としゃきしゃき野菜)

酒は辛口のランソン・ノーブル・キュベを初っぱなに..
伊の赤&白ワイン各種..焼酎は韓の[山焼酎]..
ポン酒は[黒龍..ニ左衛門..斗瓶囲い]..まぁ..こいつはおやっさんと俺&闇夜用だな..
仕上げのデザートはマチェドニアのバニラジェラート添えだ..ん..

別棟の点検作業の終わった職人達とおやっさんは俺等のバスタブで汗を流した
いつも派手なニッカポッカで作業をしている職人達は白シャツとジーンズに着替えた
おやっさんはキッチンにいる俺の側に来て..

「ちぇみさんよ..あんたらいつも2人だけで入ってんのか?..あのデカイ風呂に..」
「ぁ~~..まぁ..」
「風呂ん中で何やってんだ?」
「ぁ~~..その..いろいろ..」

おやっさんは俺のケツをヒッタヒッタと叩き..
んだはは..聞くまでもないわな..っと言ってくくっ..っと笑った..

職人達も手伝って..いつも俺等が飯を食う大テーブルの天板を持ち上げ..
脚を外し..低いX脚に天板を乗せた..皆で床に座る形になる..

テソン達3人は閉店後バタバタと目と鼻の距離を息を切らし帰ってきた
テスは大きな紙袋を胸に抱えている..
何が入っているのかと思えば..トファンから衣装を借りてきた衣装だった..

「たはは..おやっさん用か?..テス..」
「ぅんっ#..へへ..(^o^)」

皆が揃ったところで各々好きな酒を注いでもらい..おやっさんの音頭で乾杯..宴の始まりだ..

皆が料理を堪能している合間にも闇夜とテソンは何度か席を立ち..
あれやこれやささっと作り..テーブルに運んだ
腹が落ち着いた処で一発芸ご披露と相成った..

たりらりらりぃ~♪..と口ずさむ職人達が4人で手品を披露したが..

♪んみゃみゃみゃみゃみゃみゃぁ~~(^o^)//

はるみが職人達のまわりをウロウロし..邪魔をするもんで..
職人達の手品のタネはすぐにバレちまう..

ンッケッケ..(>▽<)//..

悪戯なはるみを抱き上げた職人達は「箱」に閉じこめ..
あっという間に..はるみをクマのぬいぐるみに替えた..

「「はるみはしばらくそのままでいいんじゃないか?」」
「「そうだね..」」

……ぱこ#..ぱこ#..ぱこ#..ぱこ#..

俺等4人が口々に話しているとどこから現れたのか..
はるみは俺等の後ろから頭を叩き..ちょいと泣きべそをかいた..
テス..俺..テソン..とで交互に捏ねくり..頬すりすり〃をされ..
(*^^*)..っと機嫌の直ったはるみはおやっさんの膝の上に乗った..

「テソンゃ..料理の他に芸はないのか」とおやっさんがテソンに振った
「僕ですかぁ~~」

ふふと笑った隣の闇夜がリモコンをテレビに向けた..
画面には妖怪あんどれのインタビューの様子が流れた..
皆が首を傾げ..頭のてっぺんに..?????..が立った時..闇夜は音声を消した..
画面の妖怪の口唇に合わせ..テソンの口が声を発する..

「あたゃくしのでじぇいんはにぇ..らふぁぃえりょ..みけるらぁ~んじぃえろ…」

テソンの声音が..物言いが..まんま..妖怪あんどれだぜよ#..
俺等は皆..腹を抱えて笑った..

「テソン..お前..こんな芸..隠してたのか?」
「隠してた訳じゃないけどぉ..」
「ぷっ..ん..」
「偶々厨房でさ..この間闇夜に聞かせたらさ..絶賛されたから..」
「くはは..そうか..」

闇夜とテスは立ち上がってちょいと足を開き..膝を曲げた..
くはは..あれだっ#

「「いなばうあぁぁ~~~...」」

テスと闇夜は.背をぐぐぐっ..と反らし..両腕を伸ばす..
闇夜の撓りは指先は床に付くほどだ..

「ひーん!!!ちぇみぃ!!ちぇみちぇみちぇみちぇみ…」
SOSを出したテスの背を俺が受け止めた
撓り続けた闇夜は最後には床に掌をべたりと付け..
のこのこのこ..と[逆四つん這い]状態で何歩か歩き始める

「ぁん..mayoシの撓りには敵わないょぉ..ちぇみぃ~」
「たはは..闇夜は上海雑伎団に入れるな..テソンよ..」

俺がテスの背をすりすり撫でながらテソンに向かって言った

『くふふ..うふっ...』
ヤらしい含んだ笑いをするテソン..

「「こんのっ!!..むっつりすけべぇー!!!..」」
当然..俺とテスはテソンの後頭部に..ぴったん#ぴったん#をお見舞いした..
闇夜が[逆四つん這い]状態から体勢を戻すと..おやっさんが立ち上がった..

「わしもやるぞ#..いなばうぁ..」
「「「「ぉぉぉぉ...親方#..ゃゃゃ...止めてくださいっ!!!...」」」」

職人4人はガタイのデカイおやっさんを必死に止めた
おやっさんは職人達の手を振り解く..

「ぇぇ~~ぃ..わしはこれじゃ#.."逆いなばうぁ~~~"...」

っとおやっさんは前屈を始めた..んだが…
ぽっこり腹のおやっさんは腹が邪魔で..つんっ!!!...と両手を斜め下に伸ばすことしか出来ん..

「もぉ~~...無理しないの#おやっさんてばぁ..」
「ひん!..」
「腰痛めたらどうすんのよ....孫抱けなくなっちゃうよ?」
「ぉぅぉぅ..」

闇夜にぽんっ#っと腹を叩かれておやっさんはおとなしくなった..
テスはおやっさんの肩にさっ@っと着物をかけた
べったりと荒波が描いてあるトファンから借りてきた衣装だ..

おやっさんは着物に袖を通し..ポン酒をくいっ#っと飲んだ..
唸りと小節の効いた..どどどどど演歌を一発歌った後..

♪何でこんなに可愛いのかょぉ~~孫と言う名の宝物ぉぉ~~
もみじみたいに小さな手でも~~今に掴むよ幸せをぉ~~♪

目に入れても痛くないほど可愛がっている孫達の歌をデレデレ目尻を下げながら歌った
おやっさんが歌い終わり..また床に座り込むと職人のひとりがカラオケのCDをセットした
おやっさんが現場に入るといつも口ずさんでいた曲..

くで ねまめ とぅろおみょぬん ..だ→(1曲目..ハングル10文字の曲をクリック)

(もしくは こちらの下から6行目 )

ちょいとノスタルジックなリズムだがリメイクしたこの曲はアレンジもいい具合に仕上がっている
徐に..皆担当の鳴り物を手にする..

=前奏=
♪スチャチャスチャスチャスチャチャスチャ~~(闇夜→ステンレス鍋の底をナイロンのあく取りブラシで祓い..叩く..)
♪ッカァァ~~....(職人A→LPビブラスラップ )
♪ボコボコボコボコボコボコ~~~~(職人B→ミニボンゴ&おやっさんの腹を叩く闇夜)

「「「「「ハァ~イ!!!」」」」」(全員)

♪ジィチッチ..ジィチッチ..ジィチッチ....(職人C→メタルカパサ..柄を捻って数珠をこすり合わせて音を出す楽器)
♪ドン..ドンドンドンド..ドン...(職人D→ミニベースドラムを叩く)
♪スチャラカスチャスチャスチャ...(そろばんを縦にチャチャチャのテス)
♪シャカ..シャカ..シャカシャカ..シャカシャカ..(マラカス両手のテソン)

♪シャリシャリシャリ#ぅ~~ぅんっ..みゃ#みゃ#(^▽^)//
はるみは[ たまごマラカス ]を両前足で挟み込み頭&腰フリフリ〃フリフリ〃
そして後片足で床に置いたカスタネットを踏んでリズムを取る..

♪たがかみょん てぃどrら てぃよかご ちょだぽみょん はぬrまん ぱらぼご
 ね まむ もろぬんじ あるみょんそくろぬんじ しがnまん ちゃっくちゃっく ふろがね (低音安定テソン)

♪すちょかどぅっ ねぎょちゅ ちながご とrらそそ もるぅん ちょっかりょへどゥ
 ね まうめ かmちょろむ ふろがぬん くでん むじげんが (闇夜)

♪てぃよがrっとぇんでェェ~~ (高音ちょっと苦しいテソン)
 ふぉrふぉr ならがっとぇんでェ~~(掠れて伸びる闇夜)
 くゥ~で ねまぅめ とぅrろおみょぬゥ~ん (でれでれテソン&くすくす闇夜)

♪あいちょろむ てぃおかじあnなど なびたらとながじあnなど (甘えるテスの可愛い声) 
 くろっけ おれおれ くでぎょってなmまそ かngちょろむ くでぎょってふるり (ビブラートの効いた俺)

「「「ハァ~イ!!!..みゃ#」」」 (テソン&闇夜&はるみ&おやっさん&職人達)

♪てぃよがrっとぇんでェェ~~(俺の甘ったるく伸びる高音ビブラート)
 なァ~らがっとぇんでェェ~~ (テスの可愛く伸びるテノール) 
 くゥ~で ねまぅめ とぅrろおみょぬゥ~ん (俺&テス)

=間奏:ギターソロ=
♪~~#%&*+"'♪♪~~♪*+"&'♪♪%&*+"&♪~♪%&*+~~♪

「「「ハァイっ!!!」」」(全員) 

♪~~#%&*+"'♪♪~~♪*+"&'♪♪%&*+"&♪~♪%&*+~~♪
(ギターソロか?..俺だ..すまんな..俺のギターは年季が入ってるんでな..だはは...ん..)

♪すちょかどぅっ ねぎょちゅ ちながご とrらそそ もるぅん ちょっかりょへどゥ(しゃがれ声おやっさん)
 ね まうめ かmちょろむ ふろがぬん くでぬん むじげんが (何気のファルセットが渋いおやっさん)

♪てぃよがrっとぇんでェェ~~ (おやっさん&闇夜)
 ふぉrふぉr ならがっとぇんでェェ~~ (闇夜) 
 くゥ~で ねまめ (哀愁しゃがれ声おやっさん)
 とぅrろおみょぬゥ~ん (柔らかく伸びる掠れ音の闇夜) 

♪あいちょろむ てぃよかじあnなどゥ (絞り出すおやっさんの哀愁しゃがれ声)
 なびたらとながじあnなど (ビブラートぶるぶるの俺) 
 くろっけ おれおれ くでぎょってなまそ かngむrちょろむ くでぎょってふるり (おやっさん&俺)

「「「ハァイ!!...みゃ#」」」 (テステソ闇夜&はるみ&おやっさん&職人達)

♪てぃよがrっとぇんでェェ~~ (おやっさんの哀愁しゃがれ声最高潮#)
 なァ~らがrっとぇんでェェ~~ (俺の甘ったるい高音ビブラート最高潮#) 
 くゥ~で ねまめ とぅrろおみょぬん (おやっさん&俺)

♪てぃよがrっとぇんでェェ~~ なァ~らがrっとぇんでェェ~~ (ハモる俺↑&おやっさん↓)
 くゥ~で ねまぅめ とぅrろおみょぬゥ~ん (全員)

「「「「「アッサァ~~~イェ~~ィ~~..ヒューヒュー..」」」」」」

曲が終わって皆それぞれ手にした鳴物を鳴らした.

調子づいた職人ABCDの4人は揃ってすくっ..と立ち上がり..

♪I should've known better~♪She loves you~♪A hard days night...をメドレーで歌う..

マッシュルーム頭の職人Aは歌の合間にハーモニカを吹き..
ラーメン頭をてっぺんで結わえてる職人Bは頭をフリフリ〃リズムを取る
前髪をラインストーンのピンで留めている職人Cははるみを抱いて肩を小刻みに揺らし..
肩までのストレートロン毛にカチューシャの職人Dは俺の渡したギターを弾く..

4人は時たま膝から下を左右にふいっ#ふいっ#っと祓う様にステップを踏む..
息のあった4人の様に感心した俺は闇夜に聞いた

「上手いもんだな..奴ら..」
「ぅん..ぽじゃんまじゃでいつも歌わせられるからさっ#..」
「おやっさんにか?」
「ぅん..ちゃぁんと歌わないと減給なんだ..」
「あちゃちゃ..」

それにしても.おやっさんが..どどど演歌に..k-pop..Beatlesとはな..参るぜ..
おやっさんは闇夜の隣で腕を組み..「ん..ん..」っと職人達の歌を満足気に聞いていた..


千の想い 22   ぴかろん

俺はラブとヨンナムさんちに向かっている

昨夜遅くまで起きていたから起きたのは…というかギョンジンに叩き起こされたのは、それでも8時半という…わりと普通の朝の時間帯だった…
ギョンジンはRRHに戻ってお洗濯をするからあんたたち起きてちょうだいと、オネエ言葉でまくし立てた
ラブが、寝かせといてくれればいいじゃないの!と反抗すると涙目になって
「ぅあんたたちをひとつのべっどに寝かせたまんまアタシが出て行けると思って?ああ?」
と叫んだ
…ギョンジン…またキャラが変わった?
「いいじゃん別に…」
「よくないっ!絶対いちゃいちゃするに決まってるんだからっ!遊びのスキンシップからいつ何時本気のあははんに変わるか心配で心配で」
「は?」
「『は』じゃないっ!あんたたちふたりともすっごくかんじやすいってこと自覚してねぇだろっ!」
「「…」」
「はぁぁん…昨日真ん中で寝ればよかったあ…したら二人とも僕の掌で天国にイかせてあげられたのにぃん…」
ばこんぼすっ☆
ラブの二連発がギョンジンの後頭部とボディに決まった
とにかく早起きギョンジンに起こされた俺達はヨンナムさんちに向かう事にした
RRHに帰るギョンジンが俺の昨日のスーツやらシャツやらを、真面目な顔で「持って帰ってやる」と言った
ラブがギョンジンの口角に爪を立てた
多分口の端が厭らしい笑みを作っていたのだろう…ラブってギョンジンの事絶対見逃さないよな…ギョンジンはラブの乱行に手出しできないのに…

「テジュンに会うんでしょ?」
「え?うん…」

会えば…

「何よ…嬉しくないの?」
「気が重い」
「…なんで?」
「…あいつ…正統派えろだもん…」
ラブは暫くキョトンとしていたが、俺の言う意味を体で理解したらしく(…なんだそれ…)身を捩って笑った
「笑うなよ…」
「はは…午後から大変だね、店に出る前に念入りにシャワー浴びてきてよぉ」
「…ばか…」

…それもだけど午前中にヨンナムさんの顔見るのも気が重い

「じゃ…これ着てね」
ラブはクローゼットからシャツと擦り切れた風のジーンズを出してきた
「似合わなくないか?ピンクの小花柄って…」
「…んふふ…似合うよ…」
ラブは含みのある柔らかい微笑みを見せた
「そう?」
「ちゅ」
「あんたたちどぉぉぉしてちゅうちゅうするのよぉぉ」
「っせーな。軽くチュッてしただけだろ?!」
「あうえうあうえう」
「アンタ早く帰らないと厳格な弟が洗濯機回しちゃうよぉ」
「はうっ!それはダメッ」
ギョンジンは俺の服を紙袋に詰め込んでそそくさとドアに向かった
「ギョンジン」
「なによっ急いでるのよアタシ」
「…なんでオネェになってるのさ…」
「しらないわっ!きいっ!」
「…あのさ」
「なによっ」
「…俺…」
そこから先の言葉が出てこなかった
オネェになっていたギョンジンはふっと真顔になって俺の頬を触った
「…お前が思うとおりやればいい。でもその都度しっかり考えてな…。自分を殺す事はない」
「けど…」
「だから…他人も殺さない方法、あるだろ?『売り言葉に買い言葉』じゃなくてさ…」
「…いいのかな…俺も我儘言っても…」
「いいさ!『友達』になりたいんだろ?『本当の友達』に。違う?」
「…そうだけど…」
「だったら遠慮せずにお前の考えてる事ぶつければいいだろ?」
「…ぅん…」
ぺちぺちと俺の頬を軽くはたいてギョンジンはにっこり笑った
なぁんかキラキラした笑顔だな
確かにかっこいいと思う
すぅっとラブがギョンジンに近づいてさりげなくも濃いキスをする
片手でラブの背中を抱いてギョンジンがうっとりと接吻けている
…長い…
…みせつけるなよなー
「厳格王、狐のぱじゃま、脱がしてるかなぁ…」
こそっと呟くとギョンジンは名残惜しそうにラブから唇を離し、潤んだ瞳でラブを見つめて愛しげに頬を触り
「こぉしちゃいられないわっラブ、クソジジイが帰ってきたら連絡ちょうだい!僕即座に迎えにいくからっ!じゃっ」
とバタバタ出て行った
変な男…
ラブに出会って文字通り『愛に溢れた』男になった
「お前って幸せだな、ラブ」
「うん」
きっぱり返事をした小憎らしいヤツが、俺を見て言った
「俺達も行こうよ、イナさん」
「…ん…」
でも…朝飯は…やだな…
ラブがいるからいいけど…はぁぁ…
なるだけ遅くなるように俺達は街中をとぼとぼと歩いた


Starting over オリーさん

その人が訪ねてきたのは、彼が出かけてしばらくしてからだった
トンプソンさんからの呼び出しの電話で僕はロビーに降りた
その人はロビーの入り口にひっそりと立っていた

僕は急いでその人に駆け寄り声をかけた
「すみません、彼は出かけてしまっていて」
その人は僕の目を捉えてにっこりと微笑んだ
以前彼を捉えていたその瞳で
「いえ、あなたに用事なの。ちょっとお話できるかしら?」

僕はとまどいながらロビーの奥の窓側の席に彼女を案内した
RRHを訪ねてくる客の待ち合わせ場所になっているロビーは、なぜか今日は空いていて
僕らの他には二組のビジネスマンが熱心に話しこんでいるだけだった
ゆるやかな陽射しが目の前に腰かけた彼女の横顔を愛でていた
彼女をこんなに間近に見るのは初めてだった
僕はそのたおやかな彼女の顔を見入っていた
彼が愛したその人の美しい顔を

「私の顔に何かついてます?」
彼女の声に我に返り、ぶしつけな視線を送っていたことに気づき赤面した
「僕に話があるというのは・・・」
「そうなの。あなたからこれを渡してあげてちょうだい」
彼女は手元のバッグから白い封筒を取り出してテーブルの上に置いた
「これは?」
「サインしたわ」
「え・・」
「離婚届」
僕の目はしばしその白い封筒に釘付けになった

「僕からですか?」
少し間を置いて見返した僕の視線をすくい取って彼女は続けた
「ええ、あなたから。それくらいはやってもらえるでしょう?」
「いいんですか」
「直接渡すのがほんとよね。でもだめ。
あの人、きっとすまなそうな顔するわ。それを見たくないの」
「・・・」
「知ってるでしょ、あの人あんな風に見えて本当は・・優しいから。優しすぎるから」
僕はゆっくりとその白い封筒に手を伸ばした
「ほんとうに僕からでいいんですか?」
封筒を取り上げて彼女を見つめた

「あなたはあの人が初めて自由に選んだ人。だからお願いするの」
「それは・・」
「あの人はね、私の境遇を愛してたの。私の恵まれない境遇を」
「・・・」
「そして私もあの人の境遇を愛した。
何でも持っていると思っていた人が何も持っていなかった・・だから・・」
そう言うと彼女は窓の外に視線を移した
僕はまたその横顔をしばらく眺めた
見えない向こう側の彼女の横顔は涙を流しているような気がした

彼女は長い沈黙の後、僕を振り返って言った
「誤解しないで。同情しあったっていう事じゃないの。私達の時間は確かにあった。
それはあなたにも邪魔できない私達の歴史。それだけはわかって」
僕は封筒を手に取りうなづいた
彼女の澄んだ瞳にわずかに涙が溜まっていた
「私達は本当に愛し合っていたの。何を愛していたのかは問題じゃない。
でも彼は踏み出した・・」
彼女の瞳に溜まった涙が今にもこぼれ落ちそうになった
僕は思わず口を開いた
「彼の・・」
「え・・」
「彼のことは大切に思ってますから。だから・・」
「わかってたわ。初めてあなたを見た時から」
「僕のこと・・許してもらえますか」
「許すとか許さないって事じゃないわ。だってあの人が望んだことですもの」
僕は彼女の顔を見ていられなくて封筒をゆっくりと胸ポケットに収めた
「確かにお預かりします」

その時を見計らっていたように、トンプソンさんがお茶を持ってきた
柔らかな物腰でジノリのカップをテーブルに置きながらさりげなく彼女に話しかけた
「紅茶にしましたが、よろしかったですか?」
「ありがとう。いただきます」
彼女は潤んだ瞳のままトンプソンさんに微笑んだ
トンプソンさんは僕にそっと目配せをしてすぐ奥に消えた

彼女は紅茶を一口すすると言った
「素敵な所へ住んでいるのね」
「あ・・ええ」
「とても広いんですって?」
「でも同居人がいますから」
「同居人?」
「僕の兄とイナさんが住んでます。それにそのパートナーもよく出入りしますし」
「そうなの。家族みたいでいいわね」
「そうですね」
「私が心配することは何もないわね」
「・・・」
「皮肉じゃないの。素直な気持ち」
彼女は慈愛に満ちた微笑を浮かべた

「実は私、絵を描いてるの。もう少し描きたまったら個展を開くつもり。
ぜひ見にきてね、ふたりで」
「個展なんてすごいですね」
「スポンサーがついたの」
「スポンサー?」
「私の新しい恋人」
「え?」
「踏み出したのはあの人だけじゃないわ。私も踏み出したの」
彼女の顔に初めて力強い自信の色が浮かび、瞳に明るい光が灯った
過去を振り返っていた視線が未来へ向かった瞬間

僕は思わず微笑んだ
安堵と同時に素直な祝福の気持ちで
「個展にはぜひ伺います、ふたりで」
「よかった・・そんな事で少し繋がっていられたらいいわね、私たち。
あの人とあなたと私と・・未練じゃなくて」
「新しい関係・・ですね」
「そう、いいかしら?」
「もちろんです」
彼女はそれを聞くと残りの紅茶を飲み干して立ち上がった

「行くわ」
僕も立ち上がった
彼女に何か言葉をかけたかったが、いい言葉が思いつかなかった
「封筒は確かに渡します」
「お願い。あの人仕事も再開したでしょ。がんばってって伝えて」
「わかりました」
「売り上げ伸ばさないと室長クビにしちゃうわよって」
「え・・」
「私の新しい恋人ってね、あの人の会社の社長さんよ」
彼女はいたずらっぽく微笑んだ
ヘブンのソンジュさんの顔が脳裏に浮かんだ
そうだったんですか

踏み出そうとした彼女が足を止めた
「大事な事を忘れてたわ。だからもう仕送りは結構よ」
「それは・・」
「もう十分してもらったわ。今までありがとうって・・
ほんとに自由にしてあげないと私自身も自由になれないから」

それから彼女はちょっと首をかしげて考える風情になった
「まだ何か?」
「最後にあなたにお願いがあるの。いいかしら?」
「僕にできることなら」
「私を抱いてちょうだい」
「え?」
「ほら、ハグっていうやつよ。挨拶の」
そう言いながら彼女は僕の手を取って、いきなり胸に体をあずけてきた

僕は驚いて少し後ずさった
けれど彼女はそんな僕の首に両手を回してしっかりと抱きついた
僕は迷いながらも、背中に腕を回した
そして少しづつ腕に力をこめた
すみません、許してください・・
僕は譲れません・・ごめんなさい・・
心の中で呟いた

しばらくして彼女は首に巻きつけた手をほどき、その手を僕の肩に置いた
「やっぱり思ったとおり」
「え?」
「あなたは柔らかいのね。見た目と違って、とても柔らかい」
「・・・」
「こんな風にいつもあの人を包んであげて」
「僕・・」
「あの人をよろしく・・ね?」
僕は何も言えなくてただ唇を噛んだ

彼女はその細い指で僕の頬をそっとさすってから、踵を返した
彼女の細いシルエットがあっという間にロビーを横切り
そして大きなガラスの扉を抜けていった
彼女は胸を張り、顔を上げて歩いて行った
その凛とした姿が外の人の波に紛れて見えなくなるまで
僕はただ見送っていた

「すっかり暖かくなりましたね」
後ろから突然声をかけられた
トンプソンさんが立っていた
僕はお茶のお礼を言った
トンプソンさんは笑ってカップの片づけを始めた

「本当に・・もう春ですね」
僕はもう一度彼女が消えた外を見つめた
トンプソンさんが僕の隣に立って同じ方向を見つめた
「そう、春です。季節も人も・・」
僕とトンプソンさんはしばらくの間、外の風景に見入っていた


千の想い 23  ぴかろん

ラブのマンションはRRHと同じく漢江の南側…即ち『江南』の高級住宅街にある
RRHは漢江に近いがラブのうちはもう少し南に下る
歩きながら街を眺めていると、「インテリアショップ」が多い事に気付く
もっともまだ開店していない時間だけどね…
「お前んちの椅子とかテーブルとか…この辺りで買うの?」
「んー…取り寄せてもらったりぃ…いろいろ…」
「この辺って金持ち多そうだな…」
「ふ…」
たわいない事を話しながら漢江にかかる橋を渡る
BHCは『江北』の…まあ漢江寄りと言えるかな…
BHCの北東の方向にヨンナムさんの家がある
東大門市場からそう遠くないけど、わりと落ち着いた街だ
ちなみに元俺のマンションはBHCから見ると北西?西北西?
ソウル駅に割と近い場所だ
RRH、元俺のマンション、ヨンナムさんちでほぼ正三角形が作れる
その中心あたりにBHCがあるってわけだ…
BHCの近くを通ってヨンナムさんちを目指す
ラブんちから歩いているから結構な距離になる
いい運動だ…結果的にヨンナムさんちで朝飯食わなきゃなんないかな…

BHCのある辺りに来ると、やはり腹が減ってきた
でもなんだか悔しい
このままヨンナムさんちに行ってヨンナムさんの思う壺に嵌るのって悔しい
そんな事を考えながら道を歩いていた時、ぷぅんといい匂いがした
「…くんくん…なんか美味しそうな匂いがしてきた…」
「うん…パン…かな?」
「はぁん…、お腹がぎゅるぎゅる鳴っちゃうよぉ…早く行こうよイナさん」
「…待って…」
俺は先を急ごうとしているラブを止めて匂いのする方に向かった
表通りはこじんまりした店が並ぶ商店街、BHCのひとつかふたつ隣の路地…こんなとこにパン屋なんかあったっけ…
匂いのもとを確めたくなって俺は路地に入っていった

角地にあるその謎の建物…結構デカいな…を眺めてみた
一階は何かの店らしい…二階は…住居かなぁ…怪しいなぁ…
道に面したウインドウ部分はロールカーテンが下りていて、はっきりと何の店だか解らない
そのロールカーテンが少しだけ巻き上げられ、中を窺えそうな腰高窓をみつけた
一段と香ばしい香りが漂う
そっと覗く俺
…ガタイのいいおっさんが一心にパンらしきものを捏ねくりまわしている
「ふぬっ…ぉうっ…ぁうっ…おおっ…」

まるで『夜のいとなみ』のときのような声を漏らしながらリズミカルにパン種を台に打ち付けている
ラブが小声で俺に聞く
「何してんの」
「ん…。パン作ってるみたい」
「見せてよ」
「やだよ、俺見たいもん」
「じゃ、おんぶ」
「なんで!」
「見たいもんっ俺だってさぁ!」
膨れっ面の可愛い顔に負けて、俺はラブをおんぶし、二人して窓の隙間から中を覗いた
「何か用か野良猫ちゃんたち」
「「げ」」
「トーテムポールか?お前らは」
「「チェミさん…」」
「裏に回れ」
「「裏?」」
「ドアが開いてるから入って来い。俺は今、手が離せん!」

俺達はチェミさんに従い、裏口に回ってドアを開けた
そこはガレージで、バイクが並べてある
チェミさんのかな…
階段があって二階に続いている…
なんか…怖いな…

「こっちだ!ここにドアがある」
というくぐもった声とドアのあるらしき場所をがんがん蹴飛ばす音、そして
「んみゃっ!」
という猫の声がした
はるみちゃん?
「ああはるみ、すまんすまん」
くぐもった声に、はるみちゃんは『猫なで声』で答えていた
「にゃへへへん…にゃほほひん…」

…ラブと俺は顔を見合わせた
はるみちゃんって…ちょっとギョンジンっぽくない?

はるみちゃんはみゃうみゃうと愛想を振りまいてドアをカリカリした
俺達はドアを開けてその部屋に入った
そういえばチェミさんはパン屋をやるんだった…
あのコワモテでパン屋だなんて想像できなかったけど、本当にやってるんだ…
もう開店したのかどうか、俺は聞きたくても聞けなかった…怖くて…

「一人でやってるの?」
怖いものしらずのジジイ殺しのお色気ラブがチェミに上目遣いで尋ねた
「俺にそんな目をしても利かんぞ」
「ぅうん別に誘ってないもぉん…」
「…ふ…可愛らしいがな…俺の好みではないな、残念だ。ん…」
「ちっ…」
ほんとに怖いもの知らずだな、ラブは…
「上にいるぞ」
「へ?」
「4人が」
「4人って…ああ。テソンとかテスとかmayoさんとか?あれ?3人じゃん…チェミさん自分も入れてない?」
「お前の親友がいる」
「親友って…ギンちゃん?!」
「飯食ってる」
「いゃあんギンちゃんっ逢いたいっ逢いたいっ」
ラブがきゃぴきゃぴ喜んでいる
俺は恐る恐る聞いてみた
「…じゃ…ここが隠れ家?」
「ちゃんとした住居だぞ!」
「…んは…はは…なんか…そのメンバーだと秘密基地っぽく思えて…」
「…そう言われればそんな雰囲気かもな…くは…。で?お前たちも食うか?朝飯。俺の焼きたてパンとテソンの作ったスープとサラダ。闇夜の苦味の利いたコーヒーでどうだ?」
「ああんなんて事!俺達今からヨンナムさんちへ朝飯食いに…」
ラブが身をくねらせて言った言葉を遮る

「ラブ、食ってかねぇか?」
「へ?」
「腹減ったろ?」
「…だってヨンナムさ…」
「約束したわけじゃないもん、構わねぇさ」
「…でも…」
「なんだなんだ?誰かと待ち合わせか?」
「ううん、行けたら行くって言っただけだから」
「イナさん…」
「ミンギと久しぶりなんじゃないの?お前」
「…うん…」
「誰かんちに行く途中か?」
「…あ…うん…」
「んじゃ土産、用意してやろうか」
「「ええっ」」
「ケーキも作ってるんだぞ」
「「けええっ」」
「なんだ」
「「チェミさん優しい…」」
「ぷはっ…」
チェミさんは八の字眉毛にくしゃくしゃ顔でして笑った
うわぁ…意外と可愛い…可愛いのが…怖かったりもするけど…

ドドタドドタタタドドっドタ☆バッターン

騒がしい音がして俺達の後ろのドアが開いた
「あああんこけちゃったぁチェミぃぃ…あれ?イナさん…ラブ君…どうしたの?」
入ってきたのは鳥の巣みたいな頭をしたテスだった
「…お前…頭…爆発してるぞ」
「だぁって今起きたんだものぉ…」
「…お前…パン屋手伝うんだろぉ?」
「そ。ボク、看板息子」
「…」
「ねっチェミぃ」
チェミさんはニコニコ笑ってテスの体を二の腕で挟み、鳥の巣頭を顎でグリグリ撫でた
だってパン捏ね最中だったからね…
「テスお前さぁ…パン屋ならパン屋らしく…早起きしろよ」
俺はちょっとイヤミったらしく言ってやった
テスのタレ目はますますタレ下がり、ついでに唇もへの字口になった

「チェミぃぃぃイナさんが苛めるうう」
「ぷははは…」
「昔だってイナさんったら僕のことボッコボコにして…やっつけてよぉ」
「はいはい。今度お前に悪い事したらな。ん」
チェミさんはニコニコ笑ってテスの顔中にキスしていた
テスは顔を綻ばせてチェミさんに甘えていた

テジュンの顔とヨンナムさんの顔が交互に浮んで消えた…

「で?テス、用事はなんだ?」
「ん、そろそろお手伝いする頃かなって思って…」
「まだ大丈夫だ。それよりこいつらにも何か食わせてやってくれ」
「ぅん。わかった。おいでよラブ君イナさん」
テスはにこっと笑って俺達を手招きした
一旦ガレージに出て、テスははるみちゃんを抱き上げ、階段を上る
ラブは鼻歌を歌いながらテスの後に続き、俺は一番後ろに着いた


ちょっと怖いな
『仲良し不気味隊』…祭の時こっそり俺が名づけた…の『あやかしの館』に足を踏み入れちゃった…
興味はあるけどさぁ…怖いモノとか置いてないだろうな…

二階に上がるとテソンとmayoさんがチェミさん作のパンを食べさせあいながら何やらチェックしている
ミンギはそれを見て羨ましそうな顔でバクバクとパンを頬張っている
ラブと俺を見てびっくり顔になり、それからパンを頬張ったまま立ち上がってラブとハグしあっている
俺達はテスに促されて席に着いた

ヨンナムさん…俺…貴方の言いなりにはならないから…
朝飯はここで食べて行くんだから…


千の想い 24  ぴかろん

目の前に置かれたテソン特製のスープを見つめる
決心してスープをすくい、口に運ぶ
温かくて美味しい…
ほわっとしみる
チェミさんのパンに齧り付く
ああこれも温かい
焼きたてのフワフワだ…
「美味しい…」
「だろ?」
テソンがほんわかと笑う
その横でmayoさんが…見たこともないような優しい顔で…(内緒な…)笑う
「チェミのパンは世界一なんだもーん。あっこれ、くりいむぱんだよっ」
テスが幸せ一杯の顔でそう言った
なんだよ…『不気味隊』とか『あやかしの館』とか…考えていた雰囲気と全然違うじゃんか…

テスの差し出したくりいむぱんをラブと半分こして食べた
程よく甘くてふわふわとやわらかい
飲み込むときになぜか涙が零れた
「ああっイナさん泣いてるっ!そんなに美味しかった?もう一つ欲しい?」
「…うまいな…。『幸せ』ってきっとこういう味なんだろうな…」
「あん…名言だぁ…。イナさん、その言葉、くりいむぱんのキャッチコピーにさせてもらうね。はい、もう一個どーぞ」
テスはニコニコと微笑んで俺の前に自分のグーの手を出した

「わっ。本物のテス手パンだっ!」
ラブがくはくは笑いながら言った
テスはほやほやと幸せそうに笑っている
ああこの手がくりいむぱんのモデルかぁ…ほんと…美味しそうだけどさぁ…
「この手はチェミさん専用なんだろ?」
「うふっ…やだなーもー…えへってへへっ…」
ほんのりピンク色になったテスはでれでれと踊るようにリビングを回っている

「テソン」
「ん?」
「…幸せそうだなぁ…いいなぁ…」
「んふふ」
「…よかったな…テソン」
「うん…」
BHCに来た時のテソンは、とても不安定だった
本当によかったな、テソン

「美味しいよ、全部」
「あったり前」
「ここに住むと絶対太るな…」
「大丈夫。食べすぎにならないようにちゃんとカロリー計算できてるんだから」
「…は…さすが…」
「計算はmayoがする。…そうだイナさん」
「ん?」
「あのチョコ食べる?」
「え…」
「僕の選んだチョコ」
「…」
「もう味わかるかな…」
「…」
「…まだ…ダメか?」
「…ん…」
「そか…。でもいつか…」
「ん?」
「欲しくなったらいつでも言ってね」
「…」

テソンのこんな優しい微笑みを俺は見たことがない
『あやかしの館』の魔法なのかな
ううん…そうじゃないな
ここは…
『家庭』だ
ご飯を皆で一緒に食べて、ほわほわと温かい空気に包まれて、話をして生活をする
ここには…『温かい家族』がいる…
俺にはそんな『家庭』が持てるのだろうか…
イヌ先生とウシクのような…
ソクとスヒョクのような…
ラブとギョンジンのような…
ここの4人のような…

俺は誰と温かい空気に包まれたいのだろう
テジュン?ヨンナムさん?

「…テジュン…。ヨンナムさん…」

二人の名前を小さな声で呟いた
どちらがしっくりくるのだろう
わからない
二人の顔を交互に思い浮かべた
どちらがこんな風景に似合うのだろう…
俺が素直に…そうと気づかず素直に微笑むことができるのは
誰の前でなのだろう…

残りのメシをかっ込んでご馳走様を言った
ラブに、ミンギとゆっくり話せ、パン作り見てくるからと言い置いて、俺はさっきの工房に降りて行った
チェミさんはまだ一人で作業を続けている
「ん?もう食い終わったのか?早いな」
「ムショで早飯食いの癖がついちゃってさ…」
「ぷっはっは…俺もだ。闇夜とテソンにゆっくり噛めと叱られるんだがな…」
「…やっぱしそうか…」
「ん?」
「…何回ぐらい入った?」
「さぁてなぁ…」
「豆腐食った?」
「食い飽きたな」
「…。パンはその時に?」
「ん?」
「俺もちっと齧った。ムショの時…。俺も製パンの資格、ちゃんと取っときゃよかったなぁ…」
「ふふ。なんならちょろちょろ手伝いに来るか?『人を幸せにするパン』が作れるぞ」
「…人を…幸せに…」
「俺はそういう想いを込めて作っている。ん…」
「かっくいー」
「くはっ」
チェミさんはまた八の字眉毛のくしゃくしゃ顔で可愛らしく笑った

暫く作業を眺めていた
チェミさんの大きな手を見つめていた
そして俺は思い出した
ずっと聞きたいと思っていた事を…

「あの時…」
「?」
「祭の時さ…ホールで…」
「ん」
「…あんた…闇夜と…」
「げほっ」
「…闇夜と一瞬手ぇ繋いだろ?すれ違いざまに…」
「…」
「俺の目に焼きついてる…」
「…手か…」
「…テスとテソン…あんなに幸せな顔してるのに…アンタも闇夜も…優しい顔してるのに…」
「ふ」
「裏切ってることになんないのか?」
「…知ってるんだ」
「え?」
「テスもテソンも、俺と闇夜の気持ちを」
「…」
「さ。作業終わりだ。こっちに来い」
「え…」
知ってる?気持ちを知ってる?
それなのにあんなに幸せそうに微笑んでる?

チェミさんは冷蔵庫の中からグラスに入ったデザートらしきものを出してきた
「これ…チェミさん作?」
「チェミでいいぞ。 ゼリー だがな…。上からパッションゼリー、ヨーグルトゼリー、オレンジゼリーだ
甘酸っぱいのは嫌いか?」
「…綺麗…」

3つのゼリーは斜めの層になっていて、それぞれがどの層にも接している

「ラブも一緒に行くのか?」
「うん」
「じゃ、四つ入れよう」
「…」
「なんだ?」
「いや…なんで四つ…」
「足りないか?」
「ううん…。…三層が斜めってのがニクいね」
「お前ら三人みたいだろう?」
「は?」

チェミさんはニヤリと笑ってそのデザートを箱に入れた
…三人って…どの三人?
ラブと俺とギョンジン?
テジュンと俺とラブ?
どういう…意味なんだろう…

「闇夜がラッピングするともっといい感じになるんだがなぁ…これでもいいか?」
箱に詰めたゼリーをこそんと紙の手提げに入れてチェミさんは微笑んだ

『三人ってどの三人?』
そう問い質そうとした時、上からテスがドドタドタドタと駆け下りてきた
「ぷっ…まったくあいつは…」
チェミさんは工房のドアの前で両腕を広げてにこやかにテスを待つ
パァンとドアが開いて、チェミさんを見たテスは、ひゃあんというような声を上げチェミさんに飛びつく
チェミさんはテスをぎゅうぎゅう抱きしめている

しあわせそうだ
しあわせ
俺も
少し前には確か
こんな顔でテジュンと過ごしていたはずなのに

二人に礼を言って、二階のラブに声をかけた
ラブはトトトトっと階段を駆け下りながらミンギに何か言っていた
ミンギがラブに投げキッスをし、ラブがそれを唇で受け取る
仲のいい友達だ…
友達…
ともだち…

「お待たせイナさん。さ、しっかり歩いてもう一回朝ご飯食べなくちゃな…」
「…いいよ、もう食べなくて…」
「でもさぁ…」
「食いすぎるとデブるぞ…」
「…」
「ミンギと仲いいな」
「ん。時計の仕事の話してた…。ギョンジンもいろいろ調べてるみたいだけどあの人のセンスはちっとなぁ…。あっそれってチェミさんの言ってたケーキ?」
「ゼリーだって…美味しそうだったよ。ヨンナムさんちで食おうぜ…」
「わーい嬉しいっ!なんか得したなぁ。『早起きは三文の徳』だね」
「早起きか?俺達…」
「俺にしては早起きだよ」
「『早起きが三文の徳』だっつーならさ、ギョンジンはどーなの!あの人なんかいい事あるの?」
「あるじゃん。ミンチョルさんのものを洗濯できる。俺とイナさんにサンドイッチしてもらえる。それと…俺…」
ラブは言いかけて急に顔を赤らめた
「何よ」
「…俺に…スキって言ってもらえる…」
「…」
真っ赤になっているラブをまじまじとみつめてやった
可愛いヤツ…
「そういうとこをなんでギョンジンの前で見せないの?」
「…恥かしいもん…」
「きひーっこの野郎!」
「なんだよっ…」
「かわいいっ」
俺達はキャピキャピじゃれあいながら街を歩いた
思いがけず幸せな美味しい一時を過ごせて楽しかった
そして俺を待っている『同じ顔をした男』の住む家を目指した


Sin and Sorrow 2  れいんさん

浅いまどろみの中、あの人の声がした
僕はゆっくりと目を覚ます
傍にいると思ったのに、彼の姿はそこになかった
漠然とした不安に駆られ身を起こすと
白い上掛けが僕の肌からするりと滑り落ちた

あの人はドアに凭れて電話をしていた
薄手のガウンからしなやかな身体のラインが透けて見える
よかった・・ここにいてくれて・・
深みを帯びた優しい目をして微笑む彼に
僕は安堵の溜息をつく

誰と話しているの・・
彼の姿を確認しても尚、僕につきまとう言い知れぬ不安
でもその時、電話口から洩れ聞こえるかすれた声に、僕の不安は消えた
聞き覚えのある声の主は取引先の社長だった

僕もその人には会った事がある
家具の卸売会社を営んでいるその社長
その人はどこから聞きつけてきたのか、ある日突然、工房を訪れた
頭にはタオルを巻き、ベージュ色の作業上着のポケットはペンやスケールで膨らんでいて
一見、小さな工務店の社長といった風貌の、たたき上げ的雰囲気の気のいい社長

すぐには心を許さない気難しい彼のところに、社長は辛抱強く何度も何度も足を運んだ
いつもアポなしで突然立ち寄り、昔からの知り合いのように「おう」と手を上げ、庭を横切り工房に直行する
工房では、どこからかイスを持ってきてドカっと腰掛け、彼の家具製作を真剣な眼差しで見つめている
何かアドバイスするでもなく、質問するでもなく、ただただ彼の手元をじっと見ている
話す事と言えばスポーツの結果だとか、世間話程度の事
そうして時間をかけ少しずつ少しずつ頑なな彼の心を解きほぐした

聞いた話によるとその社長は、業界では少々異端児的な存在らしい
有名家具メーカーには迎合せず、無名の家具デザイナーを発掘し、世に送り出す事で知られていた

馴れ合いや慣習を嫌い、無名だろうが何だろうがインスピレーションを感じた作品には賞賛を惜しまない、
今は荒削りでも夢を掴もうと努力しているアーティストにはチャンスを与える、そんな人なのだ
当然、業界の一部には、そんな社長を変人扱いし煙たがっている者もいるのだろう

本人はそんな事には全く無関心で「崖っぷちの一匹狼」的な生き方を好んでいるとか
「信念を曲げるくらいなら会社をたたむ」
豪快に笑う社長の、眼鏡の奥の優しい瞳が印象的だった

そんな社長が、繊細な装飾を施す彼の腕に惚れ込んだ
一つ一つ丹念に作り上げる彼には、量産するなど無理な話で、そんな彼を支援するのは多少の覚悟も必要だっただろう
それでも社長は、彼の拘りが詰まった作品を高く評価していたようだった

「人使いが荒い」とか「あのダミ声を聞くと眠気も吹っ飛ぶ」
なんて軽口を叩いても、彼が社長を父親のように信頼し、慕っている事はすぐに分かった

その社長から、次の展示会で、彼の作品を大々的に宣伝したいとの申し入れがあったのは少し前の話だ
それは彼にとって願ってもないチャンス
その日から彼は、店の仕事と両立しながら、僅かな時間を割き、寝る間も惜しみ、日々製作に励んでいた

「チェスト、コンソール、オープンキャビネット、そういったものをメインに・・ええ、はい」
「・・いえ、だから優美な曲線の細部にまで彫刻を施したクラシカルスタイルを・・」
「特にロココ調を意識したわけではなく、フラワー、リーフなどをモチーフに技巧を凝らし、ヨーロピアンテイストもさりげなく・・え?」
「・・そうですね。そのコンセプトは明確に・・はい、わかりました。では、よろしくお願いします」

彼はふうっと溜息をつき、サラサラした髪をかきあげ、電話を置いた
それからチラリと僕に視線を移し、ゆっくりと歩きながらガウンを脱ぎ、僕の隣に潜り込んだ

「朝っぱらから電話で起こされてすっかり身体が冷えきった」
僕は冷たくなった彼の肩を掌で包み、温めた
「温かくて気持ちいいな・・今日はずっとこうしていたい」
「ダメでしょ?展示会が近いんだから早く仕上げに取り掛からないと」
「厳しいな、スハは。・・おはようのキスもまだなのに」

彼の瞳にちらちらと小さな炎が宿る
火傷するとわかっていても、惹かれる事を止められない

そして僕達は見つめ合い、深く深く唇を重ねた
甘い媚薬は僕の身体のすみずみまでも浸していく
僕の思考はそこで麻痺し、本当にこのままずっとこうしていたいと、そう思った










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