ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 203

千の想い 64  ぴかろん

ヨンナムさんは俺の胸におでこを擦り付けている
右手を口元にあてていて、それって俺の得意なポーズじゃん!と突っ込みを入れたくなった…
こうやって全身で甘えられるなんて、俺には初めての経験だ
結構いい気分だなぁなんてヨンナムさんの髪を鼻先に感じながら考えていた

「…。どうすればテジュンとちゃんと話せるのかな…ひくっ…」

ぼそぼそとヨンナムさんが呟いた

ヨンナムさん、こうやってると楽だろ?
俺もね、テジュンにこうしてもらったんだ…

俺はヨンナムさんの背中を擦りながら答えた

「意地張らないことだね」
「できないひっく…」

即答するヨンナムさんの顔を覗いてみた
唇が真一文字になっている
俺は可笑しくなってクスクス笑った

「…また思い込み…」
「…できないもん…」
「できるよ…」
「…」
「ね?」
「お前がテジュンならいいのにな…」
「へ?」
「楽に話せるのにな…」
「ふん…ここまでくるのに俺がどれだけ苦労したか!」
「…ぅん…」

そうだよね、テジュン
お前があんな風に俺の傍で微笑んでくれるまでに、どれほど心を痛めたんだろう…
お前がいてくれるから、今、俺はこうしていられる…

「ねぇ…俺達ってあのゼリーみたいだよね」
「ゼリー?」
「あの…三層に分かれたゼリー…覚えてない?」
「…ああ…あの甘酸っぱいの?」
「うん。それぞれの層が触れ合ってて支えあってる。三つ一遍に口に入れて食べたら絶妙な味だった」
「…そう…」
「覚えてない?」
「ひとつずつたべた」
「あー勿体無い食べ方ぁ」
「お前だってそうやってたもん!」
「そうだっけ?」
「…もう一回食べたい」
「うん」
「…食べたい…」
「そうだね」
「食べたいよイナ!」
「…」
「すっごく食べたくなった!」
「…。ヨンナムさん…まだ酔ってる?」
「…食べたいもん…」

我儘…
しつこいし…
俺、自分はかなり子供だと思ってたけど
この人はもっと子供かもしれない

「こんな僕、イヤ?」

小首を傾げるヨンナムさん
可愛らしすぎるよ…

「イヤじゃないけどびっくりしちゃうよ…。どうしたの?」
「もうひとつの鎧…脱げてる?」

あ…ああ…
そうか…

「かもしれないね…。これが本当のヨンナムさんなのかな…」
「…わかんない。けどすっごく楽だ…」
「じゃあ…脱げちゃったんだね、きっと」
「うん」

テジュンと同じ顔でそんなに可愛らしくしないでよ…

俺の顔が一瞬困り顔になったのだろう
ヨンナムさんは少し唇を尖らせてまた俺の胸に凭れ掛かった
紛らわしくて困った人で…信じられないぐらい可愛い…
テジュンには無い可愛らしさだなぁ
そう思いながら俺は彼の髪に鼻先を突っ込んだ

「…うーん…テジュンと違うなぁ…ヨンナムさんの香り…」
「え?」
「ガキの匂いがする」
「むううう」
「さっ…もう大丈夫だろ?寝ようよ」
「えっ!」
「…何驚いてるのさ…」
「…さっき『寝ない』って言ったじゃん…」
「…。あのさぁ…。もう…」
「僕自信ないって言ったじゃん」
「この酔っ払い!睡眠を取りましょう!これでいい?」
「ふふふ」
「あ…この野郎、わざとすっとぼけたな?…結構演技派だな」
「あははは」
「とにかく、もう寝ようよ…アニャ…もう眠りましょう」
「はい」

ヨンナムさんはにっこり笑って立ち上がった
そして思った通りふらついた

「危ねぇなぁ、ほんとに世話が焼ける。今度こそ絶対に二人っきりでは飲まないからな!」
「ええ~」
「こんなに酔っ払わなかったらいいけど!」
「えへっ」

可愛らしく笑って、ヨンナムさんは両腕を俺の方に伸ばした
つまり…寝床まで連れて行けと言う事か…

「はぁ…はいはい。連れてってあげるけど、しっかり歩いてよ」
「あい」

抓ってやりたい…
抓って…じゃれあってみたい…

少し頭を振って俺はヨンナムさんの手を取った
ヨンナムさんの部屋に行き、さっきと同じように寝かせてあげた

「じゃあほんとにおやすみ」
「いやだ」
「…なによ…」
「眠るまで手繋いで…」
「…。はいはい」
「『はい』は一回!」
「はいはい!」
「あっ!もうっ!」
「ぐだぐだ言ってないで寝なさい!」
「…。イナって…母親みたい…」
「なにっ?!」
「おやすみ」
「…。おやすみ!」

目を閉じたその顔を見つめる
俺はこの人を好きなのかな…
本当に『恋』してるのかな?

昨日までは苦しかったのに
今日一日で随分変わった
もう一つの鎧が脱げたヨンナムさんは
小さな子供みたいだ…
テジュンは俺をこんな風に見ているのだろうか…
それは『恋』なのだろうか…

ようやく寝息を立て始めたヨンナムさんの手を解いて
俺はテジュンの部屋に戻った
布団に入って目を瞑った
違和感を感じて起き上がった
ヨンナムさんの涙が滲みたTシャツを脱いだ
うーん…このまま寝ててもしもテジュンが帰ってきたらぁ…

襲われる…

「くはは…」

自分の考えに吹き出してしまった
それからまもなく俺も心地よい眠りについた


ふたりのスヒョン  足バンさん

落ち着かない

やっとここのとこ自分の仕事の形が見えてきて
ギスの超合金のカチカチ頭も少しはわかってきたみたいで
昔一緒に仕事した先輩なんかもデザイン協力してくれそうだし
いろんな意味でブラボーってな感じになってきたってのに

悪魔のようなロバートのおっちゃんのレッスンは
そりゃもう拷問以外の何ものでもないけど
でもあれは一度やるって決めたことだから
まぁ突き進むしかないわけだ

ギョンビンのやつはバカ正直ってゆーか
ハイハイって言うこと聞いてりゃいいのに
つい身体が反応しちゃうとかって逆らうからヒドい目に遭うんだよな
誰かさんのこと「不器用」だって言えないじゃんよ、ねぇ
そこがかわいいっちゃかわいいんだけど

そんなことはまぁいい
問題はジジイだよ、うちの!

CMの撮影してから何だか妙に入り込んじゃって
現場に行ってみて監督たちの情熱に参ったらしくて
けっこうマジで台本に没頭したり
ジホのおっさんに何だか相談したり
ひとりでぶつぶつやってたりして
変にシリアスな顔しちゃって
それはそれでカッコよかったりしてまぁ見とれちゃったりもするけど

とにかくそんなやつが側にいると落ち着かない

今も久々に一緒にランチに出て
気持ちのいい硝子張りのカフェでメシ食ってるっていうのに
ぼーっとしちゃって窓の外なんか見ちゃってる
珈琲にドボッと砂糖入れてやったのに気づかないんだこいつは

んで悲しいかな何考えてるんだかわかるだよね

「ジン?」
「え?」

ほらね…ふんっ

「何だよ…何ふくれてるの?」
「イマアナタハダレデスカー?Dr.ジンですかー?スヒョン爺やですかー?」
「ちょっとホンのこと考えてただけだよ」
「ややこしいんですけど」
「おまえだってスケッチ始めると話聞こえなくなるじゃない」
「内容が問題なの」
「何の」
「僕は悩ましいこと考えたりしないもん」
「いつもデザインはエクスタシーだって言ってるじゃない」
「意味違うし」
「こういうカフェのシーンがあるでしょ、そこ思い出してたんだよ」
「ああカワイコちゃんと茶すすってるトコね」
「おまえどうしてそういう表現になるかな」
「んで?」
「道の向こうに彼のお父さんが見えるでしょ…あの時本当はジンはどんな気分だろうって」
「そりゃ…」

そりゃジンはそのまま見なかったことにしたかったでしょ
ジンはヒョンジュとの時間を守りたかったんだから

「何で黙るの?」
「そりゃそのまま見なかったことにしたかったでしょ…」
「うん…そうなんだけど…」
「ジンって自分勝手だからさ」
「うん…」
「相手のこと思ってるつもりでホントのとこは自分のことしか考えてなくて
 結局相手のことは何も見えてなくてそのまま突っ走っちゃって相手が…」
「…」
「…えっと…まぁ…そんな男かな…」

スヒョンが急にマジになってじっと見つめるからちっと慌てた

「悪いやつだね…」
「え…うん…まぁ…そうね」
「結局は相手に甘えてるんだよね?」
「…うん…」
「ドンジュン…」
「…」
「ドンジュン」
「はい…」
「ごめんね」

またこのジジイは…
どうしてこういうタイミングで…言うかな

「何の…ごめんよ」
「ホン読んでるとまるきりその中に入ってる時があるんだ…周りが見えなくなる」
「知ってる」
「ヒョンジュを亡くすシーンが撮影前半に入るんだけど…その辺りはたぶん…
 想像だけどね、かなり僕でなくなるような気がする」
「…」
「勿論そうでなくちゃいけないんだろうけど」
「わかってる」
「監督は難しいシーンの時はホテル滞在の方がいいって言ってる…日常とは切り離すって…
 店も休みもらうし…たぶん会えないようなことが続くと思う」

僕もそんな時のスヒョンになんて会いたくない

「わかってるよ…そのつもりでいるから…仕事じゃん」
「うん…」
「ね…恐い?」
「え?」
「どんな自分になっちゃうか恐い?」
「ドンジュン…」
「正直に言ってみなよ」
「うん…恐いよ…まるで想像つかない」
「そっか…そうだよね」

今度も…帰って来られる?

「帰ってきたら…」
「えっ?」
「僕が日本ロケから帰って来たらどこか旅行でも行こうか」
「あ…うん…ん…そうね…」
「どこ行きたい?」
「マチュピチュ遺跡」
「おまえ…何でいきなりそこまで飛ぶの」
「どこ行きたいって聞くからじゃん」

スヒョンは珈琲を口にして「うわっ甘っ」って顔しかめてる…くひっ

こうして明るい光の中でスヒョンを見てると
何だかずっとこうしてられそうな気がする…

マチュピチュだって健康ランドだって
そんなのどうでもいいってわかれよ鈍感ジジイ

今のこのスヒョンが帰って来るんなら
それだけでいいって


BHCHP  オリーさん

「ソグ君、ヘルメット取って」
「かぶってませんっ!」
「変だなあ、いつもヘルメット被ってる感じがする。あ、作業服脱いで」
「着てませんっ!」
「変だなあ、いつも作業服着てる感じがする」
「そりゃ僕は現場好きだけど、いつも作業服着てるなんてひんひんっ」

「ソグさん、泣かないで。背広着ても幅広ネクタイだからいけないんですよ」
「慰めてるの、煽ってるの、どっちっ!」
「もちろん慰めてるんですよ」
「君にファッションのこと言われたくないっ。僕は御曹司なのにひんひんっ」
「せっかく人が慰めてるのに」
「ひんひんっ」

「そこのアラレちゃん、これはBHCのHPだからアラレちゃんはだめよ」
「アラレちゃんって誰のことです?」
「ヘルメットの隣の君」
「僕はアラレちゃんじゃありませんっ」
「だってそのめがね、アラレちゃん以外の何者でもないだろ」
「ひんひんっ、ひどいっ!僕は医大生のビョンウですっ」
「おっかしいなあ、混乱してきた」

「スハ君、いつシャギー入れたの?だめだよお、勝手にイメチェンしちゃあ」
「でも…テジンさんは似合うって…」
「チーフもTシャツじゃイメージ出ないでしょ」
「僕、スヒョンさんじゃなくてテジンですけど」
「あれっ?何だかこっちもイメージ変わっちゃったなあ。チーフに似てきたねえ」
「原則みんな似てるでしょ」
「いや、似て非なる者、それがBHCだ」

「今の姿を自然に撮った方がいいんじゃないですか」
「イヌ先生、じゃあウシクに羽交い絞めにされてるとこ撮ります?」
「…」
「ひどいっ!僕先生のこと羽交い絞めになんかしてないっ!」
「ほらっ、してるだろ」
「そばに立ってるだけじゃないですかあ」
「線の太さが違うからつい虐げてるように見えちゃうのよ」
「先生、ジホ監督があんなこと言ってるぐしんぐしん」
「ウシク、少し痩せようね」
「先生っ!」

「さっきから聞いてるとみんな監督の思い込みでしょう」
「そんなことないよ、ソヌ君」

「そうだ、ソヌ君も撮っておこう。おい、誰かソヌ君紐で縛ってつるして」
「監督っ!」
「ダメ?もしかしてトラウマ?」
「やかましいっ!人のこと言えますかっ。誰かゴム持ってきてっ!」
「わかった、わかった。じゃパンツとランニングでベッドに寝転んで」
「嫌です。何で僕だけ脱ぐんです」
「ほかに美味しいとこないじゃん」
「シャドーボクシングのポーズは?」
「はいっ、次は誰?」
「こらっ!」

「ジホさん、ソヌさん」
「何やってるんですか?」
「チーフと元チーフ、何やってるじゃないですよ、HP用の個人写真の撮影じゃないですか」
「あんたたちが全然役に立たないから、僕らがやってるわけです」
「それは…」
「どうも…」
「元チーフも撮りましょう。ちょうどいいや、そのブリーフケースを小脇に抱えて。
親指ハンカチしながら、小口でフレンチ食べて、後ろ向きでいきなりワイシャツ脱いで」
「無理です」
「そっか」

「テソン君は皿のふちを神経質に拭いて」
「ええ~!」
「じゃあ包丁2・3本もってジャグリングしてみようか」
「危ないでしょっ」
「んじゃね、ローソク持って不気味に笑ってみて」
どすっ!
「誰っ!?今僕に蹴り入れたのは」
「闇夜です」
「けほっ…」

「何してんだよ」
「幼稚園児は関係ない」
「誰が幼稚園児だよっ」
「何だ、イナ君か」
「今、23歳まで盛り返してんだっ」
「そうなの?じゃ回し蹴りしてみてよ」
「回し蹴り、こうか?」
ひゅんっぱこんっすたんっ
「もっとゆっくりっ!」
「無理だろっ!」

「僕も撮ってよ」
「はい、くるまやさんはふくれてみて」
「理由がないとふくれないのっ」
「チーフと元チーフくっついてっ」
「「こらっ!」」
「さすが双子、いきなりハモッたなあ。じゃギョンビン君は胴着と竹刀ね」
「それも今さらです」
「レアだから結構マニアに人気あるんだよ」
「それよりマシンガンぶっ放しましょうか」
「君、何か追い詰められてないか?」
「けほっ」

「マシンガンだったら僕がやりますっ」
「ジョンドゥ君…」
「はい?」
「君はその前に歯科矯正して少し歯を引っ込めなさい」
「???」

「僕はどうすればいいのお」
「はいっ、君はかるぅくしな作るだけでOKよ、色っぽいから」
「こぉう?」
「それそれっ、あれっ?」
「何?」
「マフラー取りなさい、暑苦しい」
「ああん、ダーリンのそば離れたくないんんんん」
「何だ、あれは?」
「兄さん、みっともないからやめてっ」
「あう、僕はダーリンとツーショットで写りたいのおっ」
ばきぃっぼきぃっ!

「ジュンホ君が来た。早速撮ろう」
「なんですか?」
「HPの個人写真だよ。そうだな、着替えた方がいいかな」
「何でですか?」
「ボクサー姿を撮りたいからさあ」
「ぼくがチャンプだったのはむかしのことです」
「いいの、いいの。チャンプはチャンプなんだからさ」
「ぼくさーぱんつはくとしぜんとパンチがでちゃいますけどいいですか?」
「ソヌ君、ジュンホ君をぜひ撮りたいって言ってたよね」
「言ってないっ!」

「俺も撮るのか?めんどくせえなあ」
「あっそっ。じゃホンピョ君はなしね」
「こらっ、すぐ引くな。一応撮ってみたいとか言えよ」
「撮りたくないけど、全員だから撮らなきゃいけない」
「こらっ!」
「僕はいつでも撮ってください」
「ドンヒ君はいいや」
「何でですかっ」
「ソグ君の使い回すから」
「そ、そんなっ!ネクタイの幅変えますからっ」

「僕のカフェの宣伝も入れていいかなあ」
「却下」
「いいいじゃん」
「だめっ」
「Mapくらい入れてもいいでしょ?ランチメニューの紹介とか」
「だめっ、メニュー紹介はテソンの今月のおススメメニューがあるんだから」
「僕のカフェもメニューをリニューアルして食器も新しくするのになあ」
「くどいっ!!簀巻きにして海に投げるぞっ」
「ひんっ」

「ソヌ君落ち着いて。何イライラしてるの」
「だって監督、まともに写真撮ってないじゃないですかっ」
「仕方ないだろ。げーじつかは創作に時間がかかるんだよ」
「ふううん。げーじつかねえ」
「あ、いやらしい目つき。僕がげーじつかじゃないっつうの」
「エセが最初についたりしてね」
「けほっ」

「今ここにいない奴は遅刻か?」
「ほっときましょう!」
「ソヌ君、そうジリジリしないで」
「僕を怒らせるとどうなるか知ってるでしょ」
「ええっと皆さん、とりあえず撮影は終わりにして、次は自己紹介文を考えてね」
「自らをPRしかつ店のPRにもなるものを考えて。チリひとつ落ちてても許しませんから」
「ソヌ君、今はラウンジに落ちたごみの話じゃないだろ」
「何か文句でも?」
「えっとゴミの話も書いていいですよぉ」

「チーフと元チーフは別に店からのメッセージ、PRなどを別途考えてください」
「店からのメッセージ…」
「スヒョン、愛あるメッセージを頼むよ。僕は店の紹介を担当しよう」
「わかった」
「「ほらっ、必要以上に接近しないのっ」」

「何の騒ぎだよ」
「テプン君、遅いなあ。撮影終わっちゃったよ」
「撮影?何の?」
「HP用の写真撮影するって言っただろっ」
「そうだっけ?すっかり忘れてたってか聞いてねえなあ」
「聞いてない?僕に喧嘩を売ってるのか」
「テプン君、ソヌ君ちょっとイライラしてるから気をつけて」
「でもよお、ナンバーワンホストの写真が載らねえのはおかしいだろ」

「いつまでもナンバーワンだと思うな」
「へ?」
「君がナンバーワンだったのはずぅっと昔の話だ。今は違う」
「じゃ誰がナンバーワンだよぉ」
「甘人が公開されてからは僕だろう」
「そうかなあ、やっぱチーフじゃん」
「元チーフかも」
「きっとチーフ代理の先生だよ」
「案外僕かも。ゴムの縛られ具合がセクシーとかで」
「「「それはない」」」
「でも誰が知ってる?」
「やっぱオーナー?」
「オーナーには今月の売り上げベストランキングを担当してもらおう」
「いいねえ」

「他にどんなこと載せるんですか」
「ホスト紹介だろ、メニューだろ、愛あるメッセージだろ、あと何?」
「基本的な項目としてアクセス、料金体系、Q&Aなどですね」
「リンクはミューズとスヒョンさんの映画のHPね」
「カフェもHP作ろうかなぁ」
「テソンのパン屋開店したらリンク貼ってもらう?」
「そうですね」
「僕のカフェは?」
「ウィーバーのCMにもね」
「ラジャー」
「カフェは?」
「後はミューズの中に双子の作るから、そこにも直に」
「了解」
「無視すんなよぉ!」

「あとはホスト相関図」
「ホスト相関図?」
「一応誰と誰がくっついてるかわかってた方がいいでしょ」
「それは…」
「どうかな…」
「チーフと元チーフ、何か困ることでも?」
「あんまりプライベートなことは載せない方が」
「BHCにプライバシーはないんですよ」
「…」

「祭りの時の映像とか見れたら面白いんじゃない」
「いいねえ、ラブ君」
「でも他のクラブの面子も映っちゃうね」
「だいじょぶ、ぐっじょぶ、映っても大したのいないから」
「あ、そーね」

「僕の椅子のコレクションなんかも入れてくれる?」
「オッケーオッケー」
「何でラブの椅子のコレクションはOKで僕のカフェだめなんだよぉ」
「だってお前顔長いもん」
「それって理由になるの!?」

「監督…」
「ああ、びっくりしたぁ。いきなり後ろから声かけるなよ」
「僕のチケットどこです?」
「チョンマン君、あきらめ悪いねえ」
「何ですってっ!どういう意味ですかっ、まさか僕のチケット…」
「嘘だよおん、ちゃんとあるから」
「もうっ言い加減にしてくださいっ」
「この編集手伝ったら出してあげる」
「んなこと言って。こんあのいつになるかわからないじゃないですかぁ、ひんひんっ」
「今日はみんな馬鳴きだねぇ」
「今白い馬が流行ってるんですよ」
「白い馬かあ。店に連れてきて撮るかい?」
「…」

「そんなことより、監督ちゃっちゃと作ってしまいましょう」
「ソヌ君、そんなにあせっちゃいいものできないよ」
「映画じゃないんですから、HPなんですからね」
「あいあい」
「最近仕事ないもんだからやたら凝っちゃって」
「何だって?」
「いえ、別に。とにかく僕は完璧迅速がモットーですから」
「やっぱ君げーじつかには向いてないわ」
「向いてなくて結構っ!」

「ちわ~、遅くなりましたぁ」
「ミンギ、遅いじゃないか」
「今日は授業があるって言ったじゃないですか」
「困るよ、お前がいないと監督やりたい放題だもの」
「そんなこと言われたって…最後抜けてきたんすよ」
「とにかくこれからはいつも立ちあってよ」
「はあ…」

「ねえねえ、HP開いたらいきなり白い馬のアップってどう?」
「白い馬、きひひ…いいかも」
「テプンさんとシチュンさん馬と同じ長さだったりして、顔」
「「うひひ…ありえる」」

かくしてBHCのHP作成は着々と進行中である…かな


千の想い 65  ぴかろん

casaを出て真っ直ぐイナのところへ帰ろうと思った

真っ暗になっているBHCと『オールイン』の前を通りかかりもう一度空を見上げた
街中では星が見えにくいな…casaの外階段からは結構見えたような気がしたのに
やっぱりあの場所はあやかしいのかもしれない…

真っ直ぐに帰るのは止めた
せっかく感じた風をもっと感じたかった

今頃お前、ヨンナムと何をしているんだろう…
僕の愚痴でも言い合ってる?それとも…それとも…

『だったら…ヨンナムさんも一緒に包んであげることできない?』

いやな想像をテソン君の言葉が『逃がす』
僕はイナに『何をしてもいい』と言ったのだ…
その言葉は勢いをつけて僕に返ってくる
逃がされた想いはまだ僕の周りで渦巻いている

ヨンナムも一緒に包み込む…

「…君達みたいに出来ないよ..僕…」

風を感じたくて漢江へ向かおうとし、漢江の川岸で数日前にしでかした事を思い出した

ラブに電話してみようかと思った
こんな夜中に?
全く、自分の都合しか考えてないな、僕は…
ズボンのポケットにある携帯を取り出しかけてまた戻した
漢江はやめよう

「なんか…やめてばかりだなぁ…」

独り言を呟いてどこへ行こうかと歩き出した
途中にあった自動販売機で焼酎の小瓶を二本買った
どこかで飲みたかった


『木が…ちっと…気になる…』

そんなに遠くない記憶だ
イナがまだ自身の気持ちに気付いていない頃だ…
僕の中の不安が毎日毎日塵のように積もっていったあの頃
僕はイナとデートしたんだ…あの公園で…

どうして今頃そんな事を鮮明に思い出すんだろう

頭上の葉っぱを見上げる怯えた目をしたイナの顔

『木がヨンナムさんに見える…昨日は…ヨンナムさんに見えたんだ…今は見えない…』

夜中の公園はどんなだろう
僕は唐突に思いつき、あの公園に行こうと思った
真っ直ぐイナの所へ帰りたい気持ちと
『ヨンナムごと包み込む』事へ挑んでみたい気持ちとがせめぎあう
あそこへ行って何になる?
何が解る?
あの場所は夜中でも聖地なのだろうか
夜中の林は怖ろしくはないだろうか

『気持ちは言わない…楽になってるから』
イナは言った
穏やかな微笑みを浮かべていた

『お前がいてくれるから…お前が聞いてくれるから…俺…とても楽だ』

イナ…イナ…
喉の奥がつっかえる
お前はヨンナムを抱え込む
僕はそのお前を抱え込む
できるのだろうか
僕は『ヨンナムを抱えたお前』の話をお前のように、テソン君やテス君のように『穏やかに微笑みながら』聴くことができるのだろうか…

いやな想像に押し流されそうになる度に空を見上げた
星はそこにあって瞬いている

あの林は怖ろしいだろうか…
暗闇で蠢く木々は僕を飲み込むだろうか…

『やな風が渦巻いたら..エイヤッって..あちこちの窓から外へ逃がしてやるの』

ああ…そうか…上を見上げればいいんだ…
林の上に空があって
そこには星がある
どんなに怖ろしい所にいても
逃れ出る道がある

僕はあそこに行ってみようと思った
casaで貰った様々な言葉を思い出しながら僕は歩いた


1時間ほど歩いたろうか
ようやくあの公園に辿り着いた
離れた街中の車の音が耳鳴りのように聞こえている
深く暗い緑色の、得体の知れない広がりが横たわっている
ところどころに設けられた照明灯が、狭い範囲を照らし出し
決して『得体の知れない』場所ではないと手招きをしている
とはいえ、夜の公園に入る者なんてそうそういないだろう
僕は僕にとって広い広いこの空間に、たった一人で入って行った
怖かった
けれど僕は歩いて行った
あの林まで行きたかった
林の真ん中に立って星を見るんだ
そう思って歩いて行った

暫く行くと波打っていた心臓は穏やかになった
昼は素晴らしい並木道も、夜は闇の世界への入り口にしか見えなかった
それでも僕は進んでいった
必ず夜が明けるように僕の心も晴れるはずだ
進まなければ出口は見つからない

この並木道を、僕はイナの手をひいて歩いた

『ここ…やだ…怖い…切り離されそうな気がする』
『僕とお前がか?!大丈夫だ。ほら、しっかりおてて握ってるだろ?なんならキスしながら歩くか?』

昼間なのに怯えていたな…
今は僕が怯えてる
イナ…手を繋いでいてね…


ようやく林についた
林の中の広場に入ろうとした
だが中に入ることはできなかった
僕は今来た道を引き返した

イナとデートをした時、二人で木の幹に凭れて風を感じた
その木を選んで腰を降ろした
ポケットに突っ込んでいた焼酎の瓶を二本取り出して飲もうとした
そして気付いた

「栓抜きがないや…。ったく…抜けてるな…僕は…」

くふっと笑って瓶を持て余していると、隣の木の幹の根本がもこもこと盛り上がった
心臓が飛び出るほど驚いたが、やがてそれが人だと解った

「にいちゃん…酒か?」
「あ…は…はい…」

どうやら酔っ払いのおっさんが酔い覚ましにここで寝転がっていたらしいのだ
風邪引くぞ、ジジイのくせに…

「お?…へっへぇぇ…栓抜きもないのにビンの焼酎なんか買うんじゃねぇよへっへっへ」
「あ…はい…」
「どれ。貸してみ」
「あ…え?」

おっさんはのそのそと僕の横にやって来て僕の買った焼酎の瓶を取り上げ、カプッと齧り付いて器用に栓を抜いた

「ほれ」
「あ…ふ…」
「なんだ。瓶の口が気になるか…」

そういうとおっさんはあまりキレイでないような服の袖口で瓶の口を拭いてくれた

「ほれ」
「あ…あの…よければ一本どうぞ…僕、もう一本持ってますから…」
「あははー。オレはほら、持ってるからよ。ほい」

おっさんは僕に瓶を押し付けて、自分の懐から飲みかけの焼酎を出した

「あんた、こういうとこで飲むつもりなら、こういうクルクルっと回して開けるタイプの酒を買わないとなぁ」
「ああ…スクリューキャップ…」
「んだよ」

そうだよな…考えが及ばなかった…
僕は瓶に口をつけ、一口飲んだ

「ほい。つまみ」
「え゛?」
「特別に新しいの、にいちゃんにやるよ」
「へ?」
「毒なんざ入ってないからよ」
「あのでも…」
「…。にいちゃんなぁ…。オレの娘が惚れたにいちゃんに似てるんだなぁ…」
「…は…」
「妻子持ちでよ…。ああ別に娘がそいつに騙されたってわけじゃねぇんだ。娘が勝手に好きになってな…。ただの片思いだったんだぁ」
「…片…思い…」
「片思いってなぁよ、キレイなんだよな…。純粋なんだよ、うん…」
「純粋…ですか…」
「ただ『好きだ』ってだけだからな。一番幸せなんじゃねぇのかな…うん…」
「…はぁ…」
「でもよぉ…。そこに『成長』はないだろ?人間ってのはよぉ、恋だの愛だの騙しただの騙されただの信じるだの信じねぇだの…いろいろこう…ベシンベシンやって、そんで成長するもんだろ?」
「…そう…ですねぇ…」
「娘にはそれが…あるようなないようなだ。片思いっつーのはよ、『受け入れてもらえない』って苦しみはあるけど、『ずーっと好きでいても構わない』もんでもあるだろ?」
「はい…」
「『自分の思いだけ』なんだよな…。言わば『夢の世界』なんだよ…」
「はい…」
「でもな…わかるんだ。その『片思い』っつーのが『嬉しくて楽しい』っつーのもよ。ほらぁよくあるじゃねぇか、芸能人に恋焦がれるっつー気持ち?あれと同じじゃねぇかってオラァ思うんだぁ」
「はい…」
「…でもな。わかるけどな、娘にはちゃんと恋愛っつーもんをしてもらいたいんだな、オレはよ」
「…はい…」
「言えねぇけどな」
「言えないですか?」
「そんなもんさ、自分で決めて自分で突き進んでいかなきゃな。もしオレが『相手に言っちまえ』っつてさ、うまくいかなかったらどうだよ。オレのせいにしちまうだろうが、あいつよぉ」
「はぁ…」
「そう思われることは何でもねぇんだけどよ。オレのせいにしちまって、自分の足りないとことか悪いとことか反省しなかったらよお、にいちゃん、どうなるよ!」
「ど…どうなるって…」
「また同じ事、繰り返すだけでしょうがっ!にいちゃん!」
「あ…そうか…」
「ねっ?ひひん。食べて。うまいよ、その干しいか」
「あ…はい…いただきます」

僕はその、酔っ払いの哲学者のようなおっさんと飲んだ
干しいかがうまかった


千の想い 66  ぴかろん

おっさんは酒をぐびっと飲んで僕をまじまじと見た

「あんた…出○亀かと思ってたけど違ったな…」
「はぁ?!」
「一人であんな暗い並木道歩いてってよ、あの先にあんのは林だろ?ちっと広場みたいなのがある…」
「…はい…」
「なんであんなとこに?」
「…夜中にあそこから空を見上げたら…どんな風に星が見えるかなって…」
「ほおおおそうだったのか!オラァてっきり『覗き』だと思ってたよぉはっはっはっ」
「…」
「ん?」
「…一瞬だけ覗きましたよ…。まさかあんなとこであんな…」
「いたのか?!」
「はい…三組ぐらいいたように思います…」
「だろう!」
「…ぶふっ…」
「「あーっはっはっはっ」」

おっさんと僕は大声で笑った

「言っとくけどにいちゃん、オラァ出○亀じゃねぇかんな」
「ははは。じゃぁなんなんですか」
「ただの酒飲みだ。気持ちよく酔えねぇとここに来るんだ。最初来た時はなぁ、びっくりしたぞ。オレしかいないと思ってたら、あっちこっちに酔っ払いは潜んでるわ、次々とカップルは来るわ、カップル狙いの黒ずくめの出○亀はいるわ…夜の公園は来るモンじゃねぇぞぉあっはっはっ」
「ははっほんとに…ビックリしました…」
「なあっ」
「親父さん、見ようと思わない?」
「…オラぁよぉ…、年頃の娘がいるからよぉ…、そんな気にはなれねぇんだよな…」
「はぁ…」
「…娘の前ではよ、情けないけど素直になれねぇ…」
「…」
「オラァ娘に『片思い』してるかもしんねぇなぁ…」
「…親父さん…」
「いつかマジに言えるといいんだけどな…」
「…。酒飲みながら言ってみたら?」
「…うん…一度そうしたんだ…けどよ、娘の顔見るとこう…なんていうか…こう…」
「尋常でなくなる?」
「ああ…そうなんだ…こうな、ムカムカっときてな…」
「解ります」
「なんだにいちゃん、若いと思ってたのに子供いるのか?」
「いえ…僕の場合は…兄弟…っていうか…」
「おお!そうだそうだ。そういう気持ちだ!気になるんだけどイライラしてなぁ…うんうん。あんた、話わかるなぁははははっ」
「…はははは…」


僕達には変な共通点があるようだった
ちびちびと酒を飲み、干しいかを食いちぎり、ぼそぼそと喋ったり、大声で笑ったりした
並木道からしっとりと歩いてくるカップルが僕達の笑い声に小さな悲鳴をあげたり、ガサゴキンと躓いてこけたりするのが解った
なんだか不思議と楽しかった
明け方が近くなった頃だったろうか、親父さんはふと空を見上げ、言った

「そろそろ空いたんじゃねぇか?」
「え?」
「星、見るんならまだ間に合う。もうじき星が見えなくなるぞ」
「…」
「行ってみな」
「いや…もういいです」
「なんだよ、そのためにここに来たんだろう」
「…でも…」
「行ってこいって」
「…はぁ…じゃあちょっと…」

僕は親父さんに促されて並木道に入った
まだ深く暗い緑色ではあったが、怖いとは感じなかった
『得体の知れない広がり』に見えた場所は、ただの公園で
その中には様々な人がいて
愛や恋や欲に身を晒しながら生きていた
僕等が普段生きている場所と、ここは地続きで何も変わらないのだと思った

やっと林に着いた
林の広場には誰もいなかった
いや、いないと思う
もしかしたらまだ『出○亀』の一人や二人、繁みの中に潜んでいるのかもしれない
がっかりだろうな、野郎が一人ノコノコやって来て、儀式のように広場の真ん中に立ち、腕を広げて空を見上げるだけなんだから…

星は、美しく瞬いていた
濃紺の空の中に、もうすぐ訪れる光に掻き消されてしまう星が輝いていた
ああ、そうではなくただ光に紛れてしまうだけだ…
夜になればもう一度その姿を現し、命のある限りその場所で輝き続ける

星もまた生きているのだと思った

イナがそこにいるだけで心が膨れ上がる
いつも以上の感情が溢れ返る
済州島から帰って来てBHCのドアから出てきたイナを見た瞬間
僕の心は体いっぱいに広がった
そんな気がした

悔しさも哀しさも妬みもいつも以上に感じ
同時に喜びも嬉しさもいつもの倍以上に押し寄せた
後ろ向きな気持ちがいつの間にか説き伏せられて
最後に残っていたのは『愛おしい』という気持ちだった

『俯いたままじゃなく..それぞれが顔を上げて生きて行ける様に風を興すんです..それぞれの役割で..』

あの瞬間僕の中で風が興ったのかな…
君達が支えあって興す風を、僕は一人で興せたのかな…

ううん…違うや…
イナがそこにいたから…風が起きたんだね…

『イナさんはヨンナムさんテジュンさん..2人の間にいろんな風..興してる..
 でも..テジュンさんがそんなイナさんを全部引き受けるんでしょ?.』

そうしたい…できるのかな…

『お前の人生だろ?主役はお前じゃん…。思う通りにやれよ。俺も俺の人生、自分の思う通りにやってる』

うん、イナ…
僕はお前と歩いていきたくてここに来た
お前は自分勝手な僕を寂しがりながらも認めてくれている
だから僕も…お前を…
僕自身が寂しくて堪らなくても…認めたいんだ…イナ…


やがて空が明るくなり、僕はあの親父さんのいる場所に戻った
そこにはもう何もなかった
親父さんは風のように消え、ついでに僕のいかも酒瓶も消えていた

「マナーのいい酔っ払いだなぁ…くふふ…」

あの親父さんの『片思い』がいつかちゃんと『通じる』ように願って、僕はヨンナムの家へ帰ることにした


朝になって僕は目覚めた
イナはきっとテジュンの部屋にいるんだろうな…
今日の配達は午後からだから、もっとゆっくり眠っててもいいのだけれど

僕はやっぱり早起きした
早起きしてご飯を作った

「今日は逃げないだろ?」

米粒にそう呟いてみた
汁物と卵焼きとご飯だけだけど
いいよね…
あいつだって結構飲んでたはずだし
軽めのご飯で十分だよね…

そう言えば僕、かなり飲んだと思ったけど随分爽やかに目が覚めたなぁ…
目の辺りに違和感がある
多分腫れてる
泣いたからだ

なんで泣いたんだっけ…

イナの優しい微笑みが瞼に浮かび、僕は危うく鍋を落とすところだった


朝食の支度があらかた終わった
居間のテーブルを整えて時計をみた
まだ7時前だ
ちょっと早すぎるかなぁ…
けどつまんないし…
起こしに行ってみよう
僕は階段をゆっくり昇った

テジュンの部屋のドアをそっと開けてみた
テジュンの布団に半裸のイナがうつ伏せになって眠っている
上半身がほとんど露わになっていて
僕の目に彼の美しい背中が飛び込んできた

この背中をテジュンは…

ふるふるっと頭を振ってイナに近づいてみた
起きそうにない
最初に飛び込んできたその背中を
僕は間近で見つめた

ほんとにつるつるだ…
きれいだな…
きれいな筋肉がついてるし…

見つめているうちに触ってみたくなった
でも触ったら絶対起きるよな…
起きたら僕、なんて言い訳すればいいんだろう…

「あ…そうか…朝飯できたって言えばいいんだ」

僕は自分に言い聞かせ、そぉっと背中に触れてみた

何も感じないみたいだ…

「もっと…テジュンみたいにしつこく触んないとダメなのかな…」

もう一度イナの背中に手を伸ばしかけて止めた
僕はテジュンじゃないんだもん!
それで僕は勢いをつけてイナの背中めがけて仰向けに寝っ転がった

「あふっ…だれ…。テジュン?」

むうう…やっぱりテジュンだと思うわけ?!
僕は悔しくて後ろ頭でイナの背中を思いっきりグリグリしてやった

「あひぃぃ…ちょっと…。なによテジュン」
「テジュンじゃないもん!」
「え?…よ…ヨンナムさん?」
「他に誰がいるんだよ!」
「なによ…何してるんだよ…」
「朝ごはんできた」
「ふぇ?…もう?」
「早くできすぎたからつまんなくなった」
「…」
「テジュンだと思ったの?」
「…いやぁ…テジュンなら…もっと…その…」
「イナの背中、キレイだね」
「あひっ」

イナの背中を撫でてみた
イナはうつ伏せのまま、のたうちまわった
おもしろーい

「くひひ…つるつるだ」
「やめっ!くすぐったいっ」
「けひひ」


ヨンナムさんは調子にのって俺の脇腹を擽り始めた
多分最初は俺の背中を枕代わりにしてたはずだ
今は時々唇らしきものが当たる
それが…たまらない…

「なんなんだよっ!もうっ」
「いいじゃんか…」
「よくねぇよ!」
「いいじゃん…」

ヨンナムさんは俺の背中にぺっとりと頬を乗せて静かになった

「…。ヨンナムさんって…こういう事、した事ないだろ」
「…ん…」
「…。したかったの?」
「…ん…」

ったくぅ…『…ん…』も『こどもっぽい』のも俺の専売特許なのにっ!

「ヨンナムさん…親父さんとかお袋さんに甘えなかった?」
「小さい頃は甘えたけど…あんまり…」
「なんで?」
「うーん。厳しく育てられたからかな…優しかったけど…」
「ふぅん」
「テジュンは…ベタベタ甘えてたな…あいつの親にも僕の親にも…」
「へぇ」
「だから今でも甘え上手なんだろうな」

貴方のが…

「甘え上手だよ…」
「どんな風に甘えるの?」
「え?」
「テジュン」
「え。え。えっと…今の…今の貴方みたいに…」

しどろもどろになって答えた

「ちっ!そうか!また一緒の事しちまったか!」
「なにが『ちっ』だよ」

俺は背中に貼り付いているヨンナムさんを振り返ってみた
ヨンナムさんはさっと顔を隠す

「ん?どしたの?」
「目が腫れてるからみないでよ」
「ええっ見たい!どんな顔になんのよ。見たいじゃん」

体を捻ろうとしたらヨンナムさんは腕で俺の首を押さえ、それから体ごと背中に圧し掛かってきた

「お…重いってばっ!ちょっと…」
「いひひ。おもしろいな…こしょこしょこしょ…」
「きゃひっやめれっ…くしゅぐっらい…ひゃひひひひゃひひひ…」
「何やってるの…」

擽られてきゃあきゃあ騒いでいた時、ドアの方から低い声がした
驚いて顔を上げると、表情を無くしたテジュンが突っ立っていた


千の想い 67 ぴかろん

「あ…テ…テジュン、これは…」

慌てて取り繕う俺を遮ってテジュンは硬い声で言った

「…。っていうか…お前…誰?」
「へ?」

テジュンの視線はヨンナムさんの方に向いている
『誰』などと言われたヨンナムさんは、俺の背中から立ち上がりドアに向かった
そのままテジュンを突き飛ばすように押しのけて部屋を出ようとしていたのだが、テジュンに腕を取られて振り返った

「…よ…んなむ?」
「なんだよっ!」
「…よ…よんなむ?!」
「そうだよっ!」
「…」

目を丸くしたテジュンは一瞬後にぶーっはははっと思いっきり吹き出した
ヨンナムさんはぶんむくれた様で、ドスドスと足音を立てて階段を降りて行った

「はは…くははは…お前…見た?あの目…くはははよよ…ヨンナムがあんな…ぐはははぐははは」
「え?そんなに目、腫れてたの?見えなかったんだもん…見たかったなぁ…。そだ!朝飯食いに行けば見れるんだっ!いこっと」

俺は布団から立ち上がり傍にあったTシャツを拾って着ようとした
テジュンが俺の腕を掴んだ

「で?何してたの?」
「あえっ…いや…ふざけてただけで…」
「何持ってるの?」
「ああ…お前のTシャツ…昨日勝手に借りちゃった…ごめん…」
「着なくていいよ」
「え…でもあ…ん…」

テジュンはいきなり俺の唇を塞いだ

「…ふ…」
「なにじゃれてたのさ…」

テジュンが唇の上で喋る

「…ずる…い…」
「なんで?なんで狡い?」
「あふ…ふく…きてる…」
「くふ…脱ごうか?」
「あや…い…いあ…」

テジュンの長い指が俺の背中に回る
そっと手を添えられただけなのに俺の体に電撃が走る
俺はテジュンの首にしがみつき、テジュンの唇を深く求める
香りが…俺を狂わせている?…
テジュンは俺のキスに丁寧に応える
同じ唇なのにどうしてこうも違うのか
ううん…同じじゃない…これは…テジュンだから…

「ふ…てじゅ…」

テジュンは俺を抱え込み、布団に押し倒した

「あひ…てじゅ…ちょ…ちょっとま…んんっん」

そのままキスを深くする
俺はテジュンの頭を強く抱きしめる

このまま…

テジュンが唇を離して潤んだ瞳で見つめている

「呑み込みたい…」

思わず口をついて出てしまった言葉に、テジュンの潤んだ瞳がゆるゆると震えた

「…なに?」
「あ…や…なんでもな…きゃはははきゃはは」
「言えよ!言いかけて止めるの卑怯だぞ!このっこのっ」

テジュンは嬉しそうに俺の脇腹を擽り始めた
その擽りはヨンナムさんの比ではなく、情けも容赦もなかった

「あひっはひひっやっやめっひっひひひん…やんあ…やっあっああっあっ」

どどどどど

「淫らな行為禁止っちってるらろっ!」
「はひん…あひ…」
「なぁに?目がボンボンのヨンナムちゃん…僕たちべっつに淫らな事なんかしてないよっ♪」

俺の『変な』声を聞きつけて、ヨンナムさんがテジュンの部屋に駆け込んできた

「…なにやってたの?」
「擽ってただけ。お前と同じ」
「…ふぅん…紛らわしいの!ご飯できたよ。お前の分も用意したから食べにきて!」
「お、素早いなぁ…さんきゅ」
「…あ…おお…」

珍しくヨンナムさんに礼を言うテジュンをじっと見てみた
ヨンナムさんも腫れた目でテジュンを見つめている(らしい。俺からは見えない…)

「なんだよ」
「いや…礼言われると思わなかったから…」
「なんだよぉ…いつも感謝してるよぉヨンナムぅ」

テジュンは俺から離れてヨンナムさんをハグした
ヨンナムさんは焦りまくってジタバタしている
その、当然といえば当然の光景を、俺は布団に横たわったまま見ていた

「着替えたら行く」
「あ…あおお…」

ヨンナムさんはミンチョルが時々するようなぎくしゃく歩きで廊下に出て行った
テジュンはゆっくりと俺を振り返り瞳をぎらりと光らせた
このままでは襲われる!
…襲われたい…
いや、違うっ!
そうじゃなくて俺が

「呑み込みたい」
「…は?!」
「らからしゃっき俺は『呑み込みたい』っちったの」
「僕を?それとも僕の(ピー)を?」
「ななな…ちがっ…」

いやらしいことを言った後、またテジュンが俺に圧し掛かってきた

「で?あいつと何したの?ん?」
「なんにも…」
「嘘付け。あいつがあんなにジャレるなんて珍しいことだ!何したの?」
「…何してもいいって言ったじゃん…」
「ん…ちゅ」

俺を責めながらテジュンが俺にキスをする

「言ったけど気になるもん…」
「んと…」
「なぁに?」
「きしゅ…」
「きしゅしたの?!」
「あ…うん…」
「それから?」
「しょれらけ…」
「ほんと?」
「ん…あと」
「あるじゃん!」
「…んと…せなかトントンした…」
「それから?」
「…んと…んと…手、繋いであげた…」
「ふぅん…なんか可愛らしいじゃん…」
「らってこどもらったもん、よんなむさん…」
「くふん…子供が子供っちってる…」
「ほんとらもん…」
「で?お前は僕の前では子供?」
「…べちゅに…ふつうら…」
「これが普通?」
「…ん…」
「ぎひひひ…ぎひひひかわいいっかわいいかわいいんちゅんちゅんちゅ」
「あ゛っあ゛っあ゛っ…あふん…」
「で?呑み込みたいってのは?」
「てじゅが…俺の中にいればいいのにって思った…」
「…」
「から…」
「いるじゃん…ここに…」

テジュンの指が俺の心臓あたりを指す
…触れてもいないのに熱く感じる

「…ん…そだった…」

テジュンは俺の唇を指できゅっと摘んで優しく笑った

「さ、飯食いに行こう」
「え?」
「『え?』って何よ。なんか期待してたの?ん?」
「…えと…」
「ん?その気になっちゃったの?」
「…んと…」
「お前案外スケベだな」
「…てじゅに言われたくない…」
「行くぞ。ヨンナムがまた来る」
「…あい…」

テジュンは俺にシャツとズボンを渡した
俺はそれを着てテジュンの前に立った

「はい。きれいきれい。さ、行こう」

うーん…あっさりしている…なんでだろう…

テジュンはさっさと歩いていく
その背中に飛びついてやりたい
耳朶に噛み付いてやりたい

「あれ…俺まだ酔ってるのかな…」

それとも昨日ヨンナムさんを甘えさせすぎて俺自身がテジュンにいっぱい甘えたくなったのかな

「あー酔ってる酔ってる」

テジュンは振り返りもせず軽く返事をした

「待ってよてじゅ…じゃ…ご飯食べたら…どっか行こう」
「いいよ」

やった!くふ…そしたらぁ、思いっきりてじゅに甘えてぇ…

「パン作りにいくんだろ?チェミさんとこに」
「…え…」
「ん?なにその当てが外れたような顔は」
「あ…いや…」

俺、おかしいかもしれない…
どうしてこんなにテジュンを求めているのだろう…
首を振りながら階段を降りかけたらテジュンが振り向いて

「お楽しみは後でね」

と言ってウインクした
途端に体中が熱くなった

やっぱり俺、おかしいよな…


呼びに行ってから数分後に二人が居間に来た
僕はご飯を二人の前にトントンと置いた
いや、イナの前にはトン♪と置き、テジュンの前にはどん!と置いたのだった…
イナは僕の顔を見て「ほんとだ…すっごい目だ…」と呟いた
僕は汁物の鍋を取りにまた台所に戻った


ヨンナムが台所にすたすた行ってしまうと、イナは自分の前に置かれたご飯やスッカラクやチョッカラクを、僕の方にちょいちょいと寄せた

「何?」
「え…いや…間空きすぎてないかなと思って…」

恥ずかしそうに俯くイナ
それから僕に寄りかかりたそうに体を傾けだした

「お前…どうしたのさ」
「えっ?」
「何急に懐いてんの」
「…え?な…なにが?」
「凭れたいの?」
「…え…う…」
「ほら」

イナの頭をぐいっと引っ張ってやった
コテッと僕の肩にイナの首ったまが乗っかる
どういう理由で僕に甘えたくなったのか、わかるようなわからないような…
そして僕はと言えば、そんなイナが可愛いような可愛くないような
そうされる事が嬉しいような嬉しくないような…

腹の底で感情がトグロを巻いている

やがて鍋を持ったヨンナムが居間に現れた
寄り添っている僕達を見て、一瞬立ち止まり、それからテーブルの真ん中に鍋をどすんと置いた
イナは弾かれるようにキチンと座りなおした

腹の中で渦巻いている感情が噴出しそうになった


※リレー企画204に続く






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