ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 214

sin and sorrow 9  れいんさん

ちゃぷんとバスタブに体を沈めた
波うち際にいるみたいに泡の波が寄せては返す
僕は真っ直ぐに足を伸ばし、バスタブの縁にかかとを乗せ、ふぅっと一つ溜息をついた
滑らかできめ細かな泡が僕をふわりと包み込み
柑橘系のオイルの香りも僕をリラックスさせてくれた

つとめて考えないようにしていたけれど
一人になるとあの時の事が頭に浮かんでしまう
あの日から、ずっと心のどこかに燻っている
消えもしなければ、忘れもしない

ウンスさんと会ったあの日の出来事
ウンスさんという人をこの目でみた
自分で望んでそうしたのに
間近で見るウンスさんの圧倒的な美しさに衝撃を覚えた
超えられない、そう思った
そしてウンスさんの彼への想いも僕には衝撃的だった
その想いを僕だけの胸に留めておく事も僕にはひどく苦しかった

ウンスさんは貴方を愛しています
貴方に誰かを重ねていたのではなく、貴方自身を愛している
今もずっと
きっと・・これからもずっと・・

片時もそれが頭から離れない
彼女との約束は守りたいし、守るべきだとも思う
でも、僕が口をつぐんでいるのは、果たしてそれだけが理由なのだろうか

いっそ話した方がラクになるのかも、何度も自分に問いかけては首を振る
今の幸せを壊したくない
もし彼が僕の前から去っていったら・・
考えたくはないけれど、僕が畏れているのはそれなのではないだろうか
ウンスさんと約束したから、なんて口では言っておきながら・・
罪悪感が胸を掠めてますます僕を苦しめる

そんな風に考えるのはもうよそう
だって、ウンスさんは大事なものを持っているじゃないか
僕には一生かかったって持てないものを
絶対に消滅する事のない彼との絆を


案外、僕の不安を彼は笑い飛ばすかもしれない
もう終わった事だと、彼は言い
おまえが必要だと言ってくれる
いつもの平穏な暮らしは
彼と僕との時間は永遠にきっと続く
だから何も考えなくていい

幾度となく繰り返してきた
答えの出ない、堂々めぐりの問答を
この時もまた僕は考えずにはいられなかった


バスルームの扉を開けた
カチャリと音がしたはずなのに
スハは振り返ることもなく、その視点はどこか宙を見ていた

僕に気づいていないのだろうか
バスタブの傍まで歩き、その縁に腰掛け、声をかけた

「何をぼんやりしてる?」
「えっ?あっ・・テジ・・」

よほど驚いたらしい
小さく声をあげたかと思うと、スハは一瞬泡の中に沈んで消えた
僕は慌てて泡の中に両手を差し入れ、スハを掴まえた

「ぷはっ」
泡にまみれたスハが生還した

「驚いたな・・溺れるかと思った」
「・・だって急に声かけるから」
「僕に気づいてなかった?」
「ええ・・まぁ」
「何を考えてた?」
「・・別に」
「心配な事でも?」
「いえ、そういうわけでは・・」
「ホントに?」
「ただ・・ちょっと・・疲れただけです」
「そうか・・なら気持ちいいことしてあげる」

僕はふわふわのスポンジを手に取り、たっぷりと泡を含ませた

「洗ってやる」
「じ、自分でやります」
「どうして?」
「どうしてって・・」
「恥ずかしい?」
「だ、だって・・ほら、テジンさんの服が濡れちゃう」
「今度は服の心配?だったらこうするよ」

僕はその場でTシャツを脱ぎ捨て、ジーンズのままザブンとバスタブに滑り込んだ
バスタブから勢いよく泡や湯が溢れ出した

「あっ!テジンさんのジーンズが・・!」
「いいんだ」


ジタバタしているスハを後ろから抱きしめた
また溺れてしまわないよう
足を絡ませ、きつくない程度にスハを押さえた
僕の胸とスハの背中がぴたりと触れ合う
怯え慄く動物をなだめるように
スハの肩や胸や腕やその他の触れられるところの全てをそっと撫で
落ち着かせ、そして耳元で囁いた

「いいからじっとしてて」
「スハを感じていたいんだ」
「こうしていると気持ちいいだろ?」

観念したのか、スハはおずおずと僕の胸にもたれかかった

泡を含ませたスポンジをスハの体に押し付ける
それからぎゅっとスポンジを絞る
そうしてスハの体のあちこちを丁寧に洗い流す
ゆっくりと
繰り返し、繰り返し・・
『僕』を『スハ』に沁み込ませていくように

スハがぽつりと言った

「テジンさん、今の暮らしが全て幻だったとしたらどうします?」
「幻?今こうしているのが?」
「例えば・・僕達が出会ってなくて、出会う前の暮らしが今もずっと続いていたら、それはそれで幸せだったでしょうか」

スハがどうして急にそんな事を言い出すのか分からなかったが
とにかく僕は僕の思っている事をスハに言った

「生きるという事は選択の連続で、選択しなかった道をあれこれ想像したところで、それはただの想像でしかない。
だから自分が選択した道の先だけを考えればいいんじゃないかな」
「僕と出会わなければ・・選択などしないで済んだのに」
「何か見えない力で引き寄せられたようなスハとの出会いが、偶然だったのか必然だったのか分からないが
それが何であれ、僕はその出会いにとても感謝しているよ」

スハは黙って耳を傾けていた
僕の腕の中のスハは不安に震えているようにも見えた
こんなにも傍にいるのに
この上なく愛しいと思っているのに

スハの不安を解きほぐすつもりが
僕までもが、暗い海に投げ出された小舟のように
ゆらゆらと揺れながら、手を伸ばしても何もなく
ここがどこなのかも分からない
そんな気持ちになってしまうのはなぜなんだろう
どこからか芽生えてくる根拠のない不安を僕は急いで打ち消した
そして腕の中の大切なものが消えてなくならないように
僕はスハを、大切なスハをきつく抱いた


千の想い 100   ぴかろん

他人には『優しくて親切な』テジュンの解り易い説明で、ようやくドンヒも事の次第が飲み込めたらしい

「なあんだぁそうだったのかぁ。では、安心して技の披露ができますねぇ。僕はコンピューターのプログラマーでもありまして…」
「なに?!では後々色々協力していただけるかもしれない?」
「お仕事の方面ですか?」
「ええええ。聞くところによりますと、こちらのお店では最近『副業』とやらが流行っておられるとか」
「はいはい」
「あなた…ドンヒさんはコンピューターの専門家」
「ええまあ」
「ぜひとも私どもに力を貸していただきたい!研修のための資料作りだのビデオ作りだの、いやぁ素人域を出ない連中しかおりませんのでなぁ」
「…それは…『副業』として?それとも『無料報酬』で?」
「なんという!俺がそんなケチくさい男に見えますかなおお?!もちろん貴方様の副業としてやっていただければと」
「わかりましたっ!なんでもご相談ください!」
「おお、収穫ありだテジュン!」
「よかったっすね…先輩」
「なんだなんだ、お前元気ないなぁ最愛の人が目の前にいるっつーのによぉ。…さ、ドンヒ君、ホンピョ君、飲みましょうぞ」
「はいっ」
「…」
「ん?ホンピョ、どうした?」
「おめぇって…すぐに仕事がみつかるんだな…。しかも堂々とした仕事だ…ふ…」
「なんだよぉ、お前だってその気になりゃぁ見つかるさ。でもムリに働かなくていいぞ。僕が養ってやるぞ」
「はぁ?」

やっぱりドンヒは先走りの勘違い男だなぁと、俺は思った
それから『元気のない』テジュンに視線をやった
テジュンは微笑んでいる
俺を見ないで微笑んでいる

「で、ドンヒ君、君の技だけど、この『ネクタイコーディネイト』というのは?」
「ジャンスさんのガタイには、そのネクタイは細すぎませんか?せめてこれぐらいの幅がないと…」
「あ…うん…ははは。そーゆー…」

おせっかい技かと聞こえないようにジャンスさんは言ったつもりらしい
ホンピョがぶふっと吹き出したが、ドンヒはまるで気付かない

「げほん、では『ラン・アウェイ』とは?」
「『ラン・アウェイ』とは、僕がお客様の手を引いて敵から逃げ回る『運動系アトラクション』とでも言いましょうか…」
「おお…これは…アスタリスクはついていない?」
「はい…店内限定です!外に逃げ出ることを禁止されました。最初は『30分以内に店に戻る』ということになっていたのですがあのその…つい…その…」
「つい?」
「『お前は勢いで一夜をともにしそうだ』と言われまして…。…。あああっ思い出したぞ!」
「は?」
「僕も貴方そっくりの人に付け狙われたことがあります!」
「…。人違いでしょ?」
「はい!人違いですが…ジャンスさんの顔は『敵キャラ顔』ですね?」
「…むむぅ…」
「ああすみません失礼いたしました…」
「むむうう」
「ジャンスさんよぉ、すまねぇな…こいつ融通がきかなくてよぉ」

今のテジュンも融通がきかない

「いやいや…そうか…それで俺は街中でよく、その手の輩に絡まれそうになるのか…、なぁテジュンよ…」
「そうですよ」
「むむうう。…。ちったぁフォローしろよ!垂れ目!」
「自分こそ垂れ目で撫で肩のくせに」
「鼻デカ!」
「…。先輩って『鉄人28号』体型ですよね」
「ん?なんだそれ?」
「知らない方がいいです」
「くむむうう…。テジュンの意地悪っ!」

そうだ…テジュンは…意地悪だ…

「そんなことよりドンヒ君、この『万物整理』というのは何かな?」
「はい!例えば映画のDVDなどが乱雑に並べてあるとします。僕は手早く順番に並べることができるんですよ」
「ほおおお」
「お客様と競い合いするんです。もしも僕が負けたら『ヒッチハイクチケット』を差し上げるんです。僕が車を運転しているところを見つけたとき、そのチケットを提示していただければ、お好きな場所へ連れて行って差し上げるというものです」
「ほぉぉぉメモメモ。並べる順番とは?アルファベット順?」
「もちろんそれもありますが、日本からのお客様向けには『あいうえお順』、韓国国内のお客様向けには『カナダラ順』で勝負します」
「勝負は禁止じゃなかったのか?キム・イナ…。イナ?」
「あえ?…あ…なに?」
「…」
「なに?ジャンスさん…」
「いや、なんでもない。で、ドンヒ君はそういう技ということだな」
「何かリクエストはありませんか?」
「差しあたって無いなぁ…。で、ホンピョ君」
「なんだよ」
「君の技は?」
「だから…ドンヒがほとんど喋っちまったろ?金庫破りとか野良犬の目とかよ…。あとは、やさぐれたり格闘したり髪の毛撫でつけたり…。あ、昔はよぉ…ツバを吐くだのガムをねじくるだのやってたんだけどさ…もうやめた…」
「ほほぉなぜ?」
「んー…ドンヒが…」
「ドンヒ君に叱られる?」
「いや…。俺がそういう事するとな…ドンヒが後始末してまわるんだ。チョコマカ掃除しまくってさ」
「ほほお」
「…か…可哀想で…さ…。やめた…」

ホンピョはチラっとドンヒに視線をやって俯いた
ドンヒは耳まで真っ赤になっていた
どうなってんの?この二人は…

「おほほほ。メモメモ」
「ま、そんなとこだ」
「ひとつ提案してもいいかな?」
「お?何だ?」
「さっき俺を『もう一人のイージャンスー』と間違えてただろ?」
「おお」
「あんな風な仕立てでお客様をお芝居に巻き込むってのはどうだろう」
「お?」
「ちっとドキドキして楽しかったのだ俺」
「お…ほ…」
「君たち二人なら、そういう技もオッケーだったりしないかと思ってなぁ。『おせっかい返し』かな?すまんすまんくふふん、『おせっかい返し』…うまいなぁ俺」

ジャンスさんは一人で悦に入っているが、意地悪なテジュンはわざとらしく大きなため息をついた
そのため息が俺に向けられているような気がした…

「い…いや…、参考になりますっ。僕達『二人の技』って考えた事なかったから…。ホンピョ!やろうよ!」
「…」
「脚本は僕が考えるからさ。そうだな。途中お前と僕のハグをもっとたくさん取り入れたほうがお客様はお喜びになるかもしれないな…。アクシデントキスシーンなんてのもいいかも!うん!有難うございますイージャンスーさん」
「いやいや」
「…ドンヒ…」
「ホンピョ!さあ、二人のために、やろうじゃないか!ん?」
「…俺、やだかんな!」
「え?」

ホンピョは膨れっ面で立ち上がり、ジャンスさんに一礼してスタスタと裏の方へ行ってしまった
ドンヒは、待ってヨォと叫びながらホンピョの後を追った
テジュンは、先輩、また余計なそしてくだらない事言って!とジャンスさんを嗜めていた

カラカラカラカラ

俺の中に湧いてくるいやな想いを散らすように、呼びもしないのに『可動黒板』がやってきた


風船    足バンさん

昼間の暑さの記憶が残る街の中
雑踏の向こうから歩いてくるあいつを僕はすぐに見つける
サングラスをちょっと下にずらして
上目づかいでにっこりと笑うのはスヒョンのいつもの癖だ

ウンスさんのお宅にお邪魔していたというその日
出勤前に待ち合わせしたスヒョンは少し感じが変わったようにも思えた

通りに面した最近よく来るカフェで軽食をとりながら
僕はスヒョンの赤ちゃんとのささやかな時間の話に耳を傾ける
頬づえをついてほんわりとした笑顔で言葉を続けるスヒョン
よほどゆったりした時を過ごしたんだろうか

ここのところお互い忙しくてゆっくりできず
夜、映画に集中してるスヒョンを見るのが嫌で僕はほとんど寮に帰ってる
そしてそんな僕にスヒョンは決して無理に「来い」とは言わない
それが…気楽でもあり寂しくもあり

久しぶりにこうして向き合ってご飯食べるのは
新鮮な感じもするけどその分緊張もする
テーブルの向こうのスヒョンが何気なく「ね?ドンジュン」なんて笑う度に
何かこう…しっとりと胸が痛むんだ

ジンって男に近づく毎に艶やかになっていくようなその表情を
僕はただ静かに見ている
手の届かない場所に引っかかった大事な風船でも見るように
僕はただ静かに…

のっ!

ハズだったんだよ!
通りをやってくる「やつら」に見つかるまでは!

「「「あっチーフとドンジュンさーん!」」」

ソグ、ビョンウ、ジョンドゥの3人は僕らを見つけて
ニコニコ顔でウィンドウの外から手を振り叫んでいる
放っておけばって言ったのにスヒョンがオイデオイデってやるもんだから
やつら大喜びで店に入り僕らのテーブルに座った

「「「出勤前の腹ごしらえですか?」」」
「デートだよ!おまえたちこそ揃って何やってんのよっ」
「少し早めに出勤して接客の練習しなさいってチーフ代理が」
「僕たち店で影薄いって」
「HPにも載る前にしっかり個性を磨けって言われました」
「だから何で3人一緒なのよ」
「だってひとり先に出勤して一瞬でもイヌ先生とふたりきりになったら」
「しごかれる?」
「いえっその…ウシクさんに…なっ?」
「はい…ホウキの柄でド突かれて…ねっ?」
「うん…ソグは一度体当たりされて潰れかけました」
「きゃーはははっ!」
「笑い事じゃないですドンジュンさんっ!新人には試練ですっ」

おかしそうに笑ってたスヒョンが御馳走するから何でも頼みなさいっつうと
やつらは遠慮なく腹の足しになりそうなものを注文した

んで…暫くしてジョンドゥはその話題をぶち上げた
もう初めっから嫌な予感はしてたんだけど

「チーフ!もうすぐクランクインですね!緊張しますでしょ」
「うん、まぁね」
「ウナさんと共演だなんて…凄いなぁ」
「VIP試写会とか僕たちも行けるんでしょうかねドンジュンさん」
「何でおまえがVIPなんだよ」
「けっこうツテで入れるって聞いたんだけど」
「誰によ」
「いろいろ教えてもらいましたジホ監督に」
「あのジジイめ」
「いや、ジホ監督はすっごく親切で何かと勉強になるんですよ、な」
「「うん」」
「監督の話って小説の参考になるんですよ」

それからジョンドゥのやつは機関銃のように喋りまくり
ジホのおっさんから仕入れたという映画製作の裏話
こんな失敗があったそうだとか
果てはベッ○シーンはコウやって撮影するだの
一糸まとわぬシーンではドコをドウするとか、コウするとか…もうっ超X指定状態

勉強熱心なソグはメモをとらんばかりに真剣に聞き入り
お子様ビョンウは「興味ないなぁ」なんてつぶやきながら耳ダンボ

で…スヒョンはっつうと軽く顎に手なんか添えてっ
ゆったり椅子にもたれて微笑んだりしながら聞いてるわけでっ
僕としてはっ!
だんだんムカムカと腹立ってくるわけだっ!
その余裕のかまし方がさっ!

「ジョンドゥおまえ喋り過ぎ!もっと口ベタだったろうがっ」
「僅かの間にBHCで鍛えられちゃって」
「勝手に鍛えられるな」
「いやぁ本当に俳優さんって大変なお仕事だと思いました」
「いーからさっさと食い終わって…」
「チーフ、でもあの…ミンチョルさんはホントに出演するんですよね」

ぎゃあああっ!だからそっちに話題持っていくなって言っ…

「うん、何で?」
「あの…あの人そういうことって何て言うか…」
「苦手そう?」
「「「はいっ」」」
「店じゃ何て言うか…ちょっと近寄りがたいし…」
「ふふ…そう?」
「でも解剖学的に見てああいう人が入り込むときっと凄いんだよ」
「ビョンウ、ワケわかんないこと言うな」
「いや、でもあの人って時々すごいオーラが出るんですよね」

くぉの野郎らぁ…
じっとり3人を睨みつけてふと気付くとスヒョンが向こうから僕の顔をじぃっと見てる

「「うん、それはわかる」」
「いつだか夕方のロッカールームでミンチョルさんを見かけたことがあって…
 電気もつけず窓際でたぶん台本かなんか読んでて…
 あの窓って細い格子が入ってるでしょ、金色の光がほわーと入って来て
 その逆光のシルエットがね、なんて言うかゾクッとするほど色っぽくて…」
「「わかるわかるっ」」

もうめちゃくちゃ居心地が悪くなって立ち上がろうかと思ったけど
スヒョンが射るような目で正面から見てるから悔しくて動けないし

僕は何でもない顔を作るために
向こうの席に座ってるどっかの兄ちゃんのサイケなゾウ柄シャツを見つめて
そのゾウの身体の水玉の数なんかを数えて
充分気を紛らわせてから胸張って口を開いた

「おまえらわかってないんだから余計なこと言うな」
「「「は…?」」」
「あの人がやる役ってのはちっと人間離れしてるわけよ、まぁ事情ある設定だけどさ
 そんでそこらの当たり前の役者じゃ当たり前過ぎてだめだって思ったわけよ、監督が!
 そんで普通じゃないあの人を見つけたんだよ」

ふんっ…ちっとイヤミだけどまぁ本当だし

「普段は強烈なオーラだのポヤンだのでワケわかんないように見えるけどさ
 どうしたって放っておけないような危うさってかそういう感じを持ってるわけで
 それがその役の内面と…なんつーか…その…リンクしたってのか…」
「あの…ドンジュンさん」
「だから!プロはそういうとこ見逃さないわけよ!ねっスヒョン」
「ん?」
「そうなんでしょ?」
「そうね」
「でしょ?ほらぁっプロは凄いワケよ」

だめだっ何言ってんだかわかんなくなってきた…

「っつうワケで大丈夫!おまえらの心配には及ばない!わかった?」
「「「…はい…」」」
「よし!じゃ僕はちっと先に行くから」

やることやったって気分で腰を上げた僕に
スヒョンは「都合よく用事でも思い出したの?」とか言って腕を組んだ

「そう!ギスのやつに何だか頼むんだった」
「嘘をつかない」
「何で嘘なのさっ」

急にその場を支配した緊張感に3人は固まった
ビョンウはストローをくわえたまま横目でスヒョンを見てる

「ミンチョルにずいぶん理解あるんだね」
「そりゃそうよっ一応長い付き合いだもんっ」
「そう、それならよかった」
「…」
「いいよ…用事があるならどうぞ」
「言われなくても行くっつうの」
「あの…」
「おまえたちはゆっくりしてていいから!この機会にチーフにいろんな”テク”教わってみたら?」
「「「…はぁ…」」」

僕は「そんじゃシーユースーン♪」と手を振ってさっさと店を出て
ウィンドウの外から顔をムギューっと伸ばして挨拶してやった
非常に困ったようなソグと恥ずかしそうなビョンウ、面白がってるジョンドゥ
ジジイはどんな顔するかと思ったら
ニッコリ笑って自分の胸の辺りを指差してから僕の同じ所を指差した

心打つ愛の挨拶かと思って胸元を見ると
僕のネクタイにはホットドックのケチャップが
かわいらしく付いてるんだこれがまた
ふんっそんなことくらいでビビる僕じゃありませんっ
僕はスヒョンに余裕の笑みで投げキスをしてから通りをズンズンと歩き出した

ずいぶん歩いて会社帰りの人の波にまぎれ
ようやく歩調を緩めてみる

雑踏の沢山の見知らぬ足音が思いのほか心地よく響いた

やっぱできそうにないな
手の届かない場所に引っかかった風船を
ただ見てるなんて…
どっちかって言うと無理に木に登って
自分も引っかかってギャウワウ騒いでるやつでしょ

風船の糸が切れたら?
そうだなぁ…切れた時に考えよかな

僕は光が灯り出した夕刻の街をぶらぶらと歩いて店に向かった
ネクタイに愛のケチャップをくっ付けて


千の想い 101   ぴかろん

「せんせ…」
「失礼します。ソ・イヌと申します」
「は?お…あ…ソ・イヌさん…。こくばん…ああ!『黒板プレイ!』」ぱちぱちぱち

ジャンスさんは通路に立てられた黒板とイヌ先生とパンフレットを順に見て、それから嬉しそうに拍手した
先生はクルリと黒板の方を向き、右端から左端へ、いつものように一本の線を引いた
左端に線が到達すると、またゆっくりとこちらを振り向く
先生の『大人顔』にジャンスさんはどんな反応を示すだろうか…

振り向いた先生は『大人顔』から『ちっと拍子抜けしました顔』になった
ジャンスさんがまっすぐ手を挙げていたからだ

「せんせい。質問です」
「あ…は…はい…」
「指名してください」
「あ…は…はい。…イ・ジャンス君…」
「はい」ガタンすくっ

先生に指名されたジャンスさんは、その場に立ち上がった
デカイなぁ…

「せんせい、その白線はなんですか?」しゅた

ジャンスさんは着席した

「あ…は…あの…。ち…地球で…して…あの…いや…」

先生はしどろもどろになってしまい、俺達に背を向けて黒板の白線をコシコシ消した
そして振り向きながら懐に手を入れた
『眼鏡』だな?!
振り向きながら眼鏡を広げ、すいっと耳にかけて顔を上げる
慣れた仕種で顔にかかる髪を耳にかけ、ポーズ完了
決まった!
かっくいい!
男の俺が見ても惚れ惚れする…

「はぁん(*^^*)」

おお…ジャンスさんの目がハートに…ハート…わかんないっ!小さいんだもんっ!…とにかくハートになっているらしい!ふんっ!

「その眼鏡はどこの製品ですかな?」
「は…あ…」
「いや、私も眼鏡などかけてみるとちったぁ『肉体派』から脱出できるかと思いまして」
「あ…いや…これはその…そこらへんの…あの…べつにブランド品ではありませんでして…」

先生はまたしどろもどろになり、黒板の方を向いて眼鏡を外した
この間、少し離れたところで『ドドドド』という音がしたのだが、先生が眼鏡を外した途端、その音が止んだ
通路を見ると、ウシクが固まっていた

先生は黒板の方を向いたまま大きく深呼吸をしている
そして意を決したように振り返った
手には教卓を叩く鞭が握られている
あれ?

「せんせ、物差は?鞭握ると悲しくなるって言ってなかったっけ?」
「…」

俺の言葉に先生はまた背を向けてしまった

「せ…せんせ?」
「お…れ…たんだもん…」
「折れた?」



あ!
ひょっとして

「さっきのウシクの『がぶり寄り』でか?!」
「…。…ん…」

…大事な物が折れたって…『長年愛用してた物差』だったのかぁ…ふむむ…

それにしても先生の決め技がことごとく『空振り』だ…
俺もちっと水を差しちまったけど…

ジャンスさんはワクワクした瞳で先生の背中を見つめている
少し離れた通路には固まったままのウシクがいる
眼鏡かけちゃいやだぁぁの勢いが、どこにも昇華されないまま石になったように…大げさかな(^^;;)
俺は先生にそっと声をかけた

「せ…せんせ…せんせ…」
「…」

背中が小刻みに震えている

「せんせ…」
「…できないもん…」
「せ…せん…」

先生はジャンスさんにすっかり調子を狂わせられ、いや、まずその前に、愛用の物差が折れたのがいけないんだ…
とすると…ウシクのせいだよなぁ…

「先生、この『二人三脚』というのは店内でできるのですかな?」

空気を読んでいるのか読んでいないのか解らないジャンスさんが元気よく言った
先生はこっそり涙を拭いて、ムリに笑顔を作って振り返った

「えと…できますよ」
「じゃあ俺とやりましょう!」
「…え…」

言うが早いかジャンスさんは『可動黒板』の端に括りつけてあった『二人三脚用タスキ』を解き、すっくとイヌ先生の横に立った

「あ…え…と…」
「俺に任せてください」

ジャンスさんは腰をかがめて先生の左足と自分の右足を括っている
先生は目を白黒させている
そして急に口元を押さえた

「どしたのせんせ」
「ひくっ…ひっく…」

しゃっくり?

「よっしゃオッケー。キム・イナ、スターターのピストル音をできるだけリアルに再現してくれたまえ!」
「…」
「ひっく…」

ジャンスさんは先生の肩に手をかけ、大丈夫ですよと言った
先生は口元を手で押さえながらジャンスさんを見上げ、そしてそおっとジャンスさんの肩に手を回した

「キム・イナ!合図してくれ!」
「あ…ん…。よーい…バンっ☆」
「ハナ・トゥル、ハナ・トゥル…」

先生とジャンスさんのデコボココンビは固まっているウシク目指して二人三脚爆走中
でもとっても短い距離なのですぐにゴール
先生はウシクに飛び込んだ
ジャンスさんは足のタスキを外して飛び上がってはしゃいでいる

ウシクが何か先生に囁き、先生は俯いて唇をムンとした後、はにかみ笑いを浮かべた
それを見たウシクも嬉しそうに笑った
なんだかわかんないけどとにかくよかったんだろう…
先生とジャンスさんはニコニコと席に戻ってきた
その後ろからタッパーらしきものを手にしたウシクがついてきた

「こんにちは、チョン・ウシクです」
「おお?おおお…ウシクさん…えとえと」

ジャンスさんがパンフのウシク欄を探そうとしていた時、ウシクはタッパーをタンとテーブルに置き、パカッと蓋を開けた
そして箸でキムパプをつまむと、口の傍まで持っていき、『お祈り』を始めた
ジャンスさんの目が釘付けになる

「日々の糧を与えたもう神に感謝します」バクっ
「うおおおお!見えなかった見えなかった見えなかったぁぁっここここれはマジックですかな?今その口元に用意されていたキムパプは一体どこへ消えたのですかなぁぁぁおおおお」

…大げさな…

「先輩、騒ぎすぎですよ…。口の中に決まってるでしょうが!」
「見えたか?見えたのか?テジュン、お前!ちゃんと見たのか?俺には見えなかったぞ!もしも口の中に消えたとしたら超高速技だぞ!おお?」
「…見ましたよ…先輩見てなかったの?」
「見てた!でも見えなかった!」
「ああ…先輩の視野には入らなかったんだ…小さすぎて」
「…」
「でしょ?僕は見えましたけど」
「底意地の悪い!」
「そこいじ…って…」
「ふんっ!…うううウシクさんウシクさん!もう一度お願いできますかな?」
「はい、いいですよ。では」

キムパプを構えてお祈りするウシク

「日々の糧を与えたもう神に感謝します」バクっ
「見えたっ見えたあああ!すげぇっ超高速食いだぁっ俺もやりたいっ俺もぉぉぉ」

子供のように騒ぎまくるジャンスさんに、ウシクは苦笑して箸とタッパーを渡した
口元でのキムパプの構え方を丁寧に指導し、お祈りの言葉を教え、その後の動きも説明している
ウシクは相変わらず親切で面倒見がいい

「日々の糧を与えたもう神に感謝します」バクっぼとっ「うわああああ神から与えられた日々の糧がぁぁぁ」

…うるさいなぁ…

「大丈夫ですよ、フーフーしたら食べられます」
「フーフーばくん…はぁよかった日々の糧を粗末にしなくて…」

ま…落ちたのがテーブルだから大丈夫だろう
ジャンスさんなら床に落ちてても大丈夫だと思う
それどころか…泥まみれのキムパプだって絶対大丈夫だろう

「ここでスナップを利かせないと…。口は、お祈りを終えたらすぐ全開です」
「はいっ!再トラーイ!…日々の糧を与えたもう神に感謝します」バクっがみゅっぽろっ…「ふがぁぁあ…半分じがぁぁ」

…無理だって一口では…
ジャンスさん、口、小さいんだからさぁ…

ジャンスさんは非常に悔しがり、何度もトライした
テジュンにもトライさせていたが、テジュンは『超高速』ではないものの、うまくスナップを効かせて口の中にキムパプを運んだ
その口元を俺は見つめていた
あの唇…俺の好きなあの唇…

「流石だテジュン、伊達にキム・イナの唇食いしてないな…」
「ぶほっ」「げほっ」

テジュンと俺は同時に咳き込んだ
なんて事を言うのだ!まったく…
そんな俺達をウシクは得意の『癒しの笑顔』で包み込んでいる
ウシクの横にチョコンと座っている先生は、何を思ったのか急に懐から眼鏡を取り出してかけた

「う…お…おおお」

またジャンスさんが騒ぎ出した

「先生…かっくいい…」

ジャンスさんの目がハートに…ハート…
とにかく!急に、やっとこ、『眼鏡技』にヤられたらしい…
わっかんねぇ反応!
先生は、ようやく『大人顔』で色っぽく微笑んだ

「いやああああ!眼鏡かけちゃいやああああ!」

先生の隣にいたウシクがジェラシーモードを爆発させて、先生の顔から眼鏡を剥ぎ取った

「あがっ☆」
「…あ…」
「…いたいよぉ…」
「あ…ごめん先生、いつものように軽くやったつもりだったんだけど…ごめん…目の下に傷できちゃった…」
「いだいよおぐすっ」
「…ごめんねせんせい」ぺろ

(@_@;)(@_@;)(@_@;)
ぺろぉぉ?!!

ウシクは俺達三人の目の前で、先生の目の下をペロリンと舐めた

「なっなっ…舐め舐め舐め…」

先生とウシクはラブラブモードに突入し、すうっと立ち上がると手を繋いでカラカラカラと黒板を引きながら俺達の席を離れた
俺達はその、絵画…というよりは『少女漫画』のような二人の後姿をびっくり顔で見送った


千の想い 102   ぴかろん

「Lady’s and Gentleman, we present you the amusement show…」

そんなアナウンスが流れ、店内が暗くなった
舞台でのショーが始まるのだ
なんか…いつもより手際よくねぇか?

ドラムロールの後、幕が開く
音楽に合わせて舞台上の人物達に順にスポットライトが浴びせられる

ジャン♪
ジャン♪
ジャン♪

ピーッピーピピーピーポー…バンバラバンバラバンバラバンバラ…

ん?
この『悪魔のようなリズム』
そして音の合間に漏れてくる『けたたましい笑い』
どこかで聞いた覚えがある!
ぜったいにテプン・シチュン・チョンマンではない!
では誰か!

バンバラバンバラバンバラバンバラバンッ

「はぁい!お久しぶりぃ」
「久しぶりじゃのぉ」
「お久しぶりでございますっ」
「We are the most famous entertainer,”Trio The De-Lalus”よぉん」

なんだって?!なんでデラルスがっ!

「今日はぁアタクシが大変お世話になっております『イ・ジャンス監督』がこちらにご来店とお聞きしまして、自家用ジェットで公演先から飛んでまいりましたのよぉん。監督ぅ…監督ぅ?どちらですのぉ?ヤン・ミミでミラですのよぉ監督ぅ~。あらっアンタなんで幕降ろすのよっアンタっきいっ」

すいいっ
ドカバタドカドカ!

舞台のピンスポが落とされ、幕が引かれ、ドタンバタンという音が聞こえ、失礼致しました、手違いがございましたというテソンの低音アナウンスが流れた
三分後、また幕が上がり、こんどは テプン・シチュン・チョンマンの三人が舞台上にいた

テプンは長髪のカツラを被って箒ギターを操り、シチュンは同じく箒ベースでリズムを刻みながら右足を異常なほど斜め前に伸ばしている
伸ばした足先に『ライター』らしきものがある。演奏の真似をしながらこれを引き寄せるってわけだ
チョンマンはスタンドマイク前ですっかりプレスリー気分
シチュンが無事ライターを引き寄せ、それと同時にチョンマンがシチュンの箒を取り上げ、プレスリーの曲に合わせて右へ左へと箒ギタープレイを披露
それに合わせてテプンも箒ギターをかき鳴らすフリ

短い曲がザンっと終わり、二人の間に入ったシチュンが、アメリカ人がやるような仕種でくいっと両腕をあげ、「あらまぁどぉなっちゃってんの?」なオーバーアクションをした
テンポのいい曲がかかり、舞台の三人は頭を縦に振り始める

ダンダンダンダン♪ダンダンダンダン♪

やがてテプンが円を描くように頭を振り振り動き始め、後の二人もそれに続く
テプンは腕を振り上げてさらに二周する
ようやく正面を向いて立ち止まり、右に、左に、頭と腕をフリフリしながらテプン踊りの披露である
店内のお客様もホ○トたちもみんな一緒にテプン踊りをやっている

「おおおお俺も俺もっ」

ジャンスさんもテプン踊りをやりだした
店内で踊っていないのは俺とテジュンだけだった

ダンダンダンダン ダンっ♪

音が止み、左右で踊っていたチョンマンとシチュンがピタリと動きを止めた
真ん中のテプンが仕込んでいたちょびヒゲをつけ、野球帽をキャッチャー被りにして客席に向け、ニイッと微笑む
フウフウと風船を膨らませ、それを客席に見せ、針で突いてパンっと割る
割ったあとに白い薔薇の花が一輪

「うおおおおすすすすごい!いつの間にあんなマジックネタを仕込んだのだっ!」

ジャンスさんはスタンディング・オベーションをしている
テプンはスタッと舞台を降り、まっすぐにジャンスさんに向かってきた
そしてジャンスさんの目の前で跪き、今出した白い薔薇を捧げ

「ようこそBHCへ」

と挨拶した
ジャンスさんはおおおおと唸り、小刻みに手を震わせながらその白い薔薇を受け取った
テプンはくるりと背を向けて、舞台に飛び上がった

ダン♪ダンダンダンダン

再びリズムが刻まれ、三人が頭を振りはじめる
やがて腕振りがつき、三人が舞台狭しとテプン踊りを踊りまくった

ダン!

音が切れ、場内が真っ暗になり、十秒後にテソンの低音アナウンスが響いた

「有難うございました。第一回目のショーは終了いたしました。有難うございました」

「うぉぉおすごいなっここはベガスのようじゃないかっ!」
「ふは…ジャンスさん何でも喜んでくれるから嬉しいな」
「だって凄いんだもん!この薔薇、大切にしょおっと」

そう言うと、ジャンスさんは白い薔薇を自分のハンカチに包んだ
そしてパンフを広げて何やらチェックし始めた

「んと…今の三人さんは誰と誰と誰?」
「テプン、シチュン、チョンマン」
「ふむ!…テプンさんのテプン踊り、手品チェック…シチュンさんのオーバーアクション、ライター奪回チェック、チョンマンさんの物真似チェックと…」
「…。ジャンスさん…熱心だなぁ…」
「そうか?せっかくだからできるだけ多くの技を見たいんだ!ふぬっ!…ところで…今のショーが始まる前に出てきたあの濃い人たちは?」
「…」
「ん?」
「…。ま…エンターティナーだ…」
「有名なのか?!」
「…」
「キム・イナ!」
「…。関わらないほうがいいと思うよ」
「…裏組織と繋がっている?」
「うーん…、昔はな…。今は…単に…暑苦しい…」
「ほぉ…。わかった」

ジャンスさんは頷きながらも手帳にしっかりと『でらるす・要チェック』とメモしていた

「「「お邪魔します」」」
「ビールお持ちしましたっ!」

元気のいい声が響く
見るとチョンマンがビールジョッキを六つ持ってきている

「うおっ…いい、今のお三方…」
「…なにそれ…。ビール頼んでないよ、チョンマン」
「技です!」

ああ…

「ほぉぉぉ!これが『ビール搬送』ですかな!」
「はい」

チョンマンはニコニコしてテーブルにジョッキをどかどかと置いた

「シチュンです」
「チョンマンです」
「そしてテプンでございます」
「「「俺たちノーマルトリオでぇっす」」」
「しかしなぁチョンマンよ」
「なんですかぁシチュンさん」
「お前このごろジーホー監督と仲ええんちゃうんかぁ?」
「う…べべべっつに仲ええことおまへんがな!」
「そぅかぁ?なんやこないだお前を逃がさんように壁に追い詰めてこう、こう、で顔の横に腕突き立てて、今にもチューしそうな勢いやったでぇ、あのオッサン」
「う…」
「大丈夫やったかぁ?」
「…うぐ…」
「どないしたんや?」
「シチュンよ」
「おおこれはテプン兄貴…。あの…ドーナツ食べながら喋るの、やめてもらえません?」
「細かいこと気にすんなや、それよりなぁ…チョンマンなぁ…奪われてん…」
「…奪われた?…え…え…ええええっ?まさか…まさかまさかまさかっ」
「そう…そのまさかをあのオッサンに奪われてん…」
「なんやて?!したらあの時あのまんまチョンマンはあのオッサンにぃぃぃ」
「「ひぃぃぃ」」
「そら悪いことゆうてしもたなぁ…すまんかったチョンマン、気にせんときぃな、そんなん、減るもんやなし…」
「…減るより悪いわシチュンさん…」
「…お…落ち込むなや一回や二回…」
「もう五、六回はやられてます…」
「ヤ…ヤ…。ちょぉ待て…ちょぉお前はここで待っててくれ…。テプン兄貴、ちょっとこっちへ…」
「なんやシチュン」
「チョンマン…あのジーホーのおっさんに五、六回ヤられてるて…ほんまでっか?!」
「ああ…ホンマや。五、六回奪われたらしいわ…かなんオッサンやで…」
「…。そんな…。可哀想にチョンマン…。なんで抵抗せんかったんや」
「抵抗なんかしてみぃ…ズタズタにされんねんで」
「なんやて?!ジーホーのオッサン『DO-EMU』やのに『DO-ESU』でもあるんかいなっ!」
「あほやなぁ、あのオッサンの本質は『DO-ESU』やで。お前も気ぃつけや…」
「ほぉかぁ…可哀想になぁ…。…チョンマン…チョンマン…、五、六回ヤられたからってなんやねん!ズタズタにされそうになったら俺等仲間を呼んだらええねや!負けるなよ!な!」
「う…ううう…負けてなんかおらへん!でも返してくれへんねん!」
「そ…そら…返せ言われたかて、そんな…ヤられたもんは返せへん、元には戻らんで、チョンマン…。そこんとこは割り切ってやな…ええ経験やったと…」
「なんもええ経験やあらへん!ドキドキハラハライライラグスグス、あのオッサンの思わせぶりな態度に、僕はただただ翻弄されて…」
「そか…辛かってんな…すまん、俺、余計なことゆうてしもたわ…。もう忘れたれ。そんなこと覚えててもしゃぁないわ…な。忘れてしまえ」
「あほ!忘れてしもたらオッサンの思う壺やないけ!しつこく切り込んでかなアカンねん!」
「…なんでや!オッサンに近づくなや!お前の傷口が広がるだけやないか!もうやめとけチョンマン!」
「やめたら行けやんようになるねん!」
「なに?!イケやんようになる?!…テプン兄貴…ちょっとこっちへ」
「なんやねんシチュン」
「あいつ、たった五、六回でもうあのオッサンに夢中でっか?」
「オッサンに夢中っていうか…あいつには必要なんやろ…解ったってくれや」
「…なんであんなオッサンのモンが…。くぅぅ…チョンマン!お前は間違っとる!もう止めようや!な?オッサンに近づくな!行くな!そしてイクな!」
「は?シチュンさん、ほっといてくれ!俺は俺の感じたまま生きていきたいんや!それにはあのオッサンとの対決がどうしても必要なんや」
「お前…対決やなんて…そんな…そんな風にあんなそんなこんな事を感じるのは辛いこっちゃで!」
「「…」」
「ん?なに?二人とも不思議そうな顔して」
「「お前、なんか勘違いしてない?」」
「え?だってチョンマン、オッサンに『奪われた』んやろ?」
「「うん」」
「…五、六回ヤられたん…やろ?」
「うん、今も最中や」
「は?」
「奪われたままや…返してくれへんねん…」
「へ?」
「早う奪回せんと、いつまでたっても『留学』できへんねんっ!」
「…ちょ…待って…奪われたって…もしかして航空チケット?」
「他になんかある?」
「…あ…俺はてっきり…あのその…お前の…あのその…」
「「なに?」」
「…あ…ごほん…」
「「なんやの?!」」

「うっふん、奪わないわよぉチョンマンのオケツなんてぇ」

突然ジホさんがオシリをフリフリしながら登場した

「監督!チケット返してくださいっ」
「いやだぴょおおん」
「「「「どーもっありがとうございましたぁっ」」」」

4人はぴょこりとジャンスさんに頭を下げてすったかすったか退場した
4人の行く先は『厨房』だった…
何なんだろう…こんなパフォーマンス、今までなかったはずだぞ…


La mia casa_49  妄想省mayoさん

店に出勤した面々を見送った俺は右腕にアジを抱え..左肩にはお嬢が乗っていた..
首をちょい回し..お嬢とほっぺすりすり〃..

「さて..今日はでびゅーの動向を見守るか..お嬢..」
「みゃ#…〃(>▽<)〃..」

…くぉん..??

俺を不思議そぉ~~に首を傾げ..見上げたアジの頭をくちゃくちゃ..っと撫でた..

ダイニングテーブル上の闇夜のPCを開き..回線を繋ぐ..
17インチの画面を分割しBHC店内の様子を映し出した..
はるみは椅子に座った俺の腿に乗り..テーブルに前足を揃え..ディスプレイを覗く..

====裏口~廊下
casaから出掛けた連中がぞろぞろ裏口から入ると..
廊下の先には控え室へ入る間際の厳格がいた..

闇夜はBHCの裏口から入って直ぐのドアから厨房へ入り..
テソンはじゅのを連れ..廊下を進み..事務所のドアを開け..じゅのの背を促し..2人は事務室へ入る
くるまやは事務所の隣の控え室へ入った..

「@@??」
ちょうど裏口から入ってきたソヌがその様子に視線を走らせ..
ソヌの後ろからミンギもくぃ~んと首を伸ばし..それらを視界に収めた時..
ふふんふ~ん♪..っと鼻歌交じりで裏口から入ったジホがソヌとミンギの肩を右..左..ぽんと叩く..

「ソヌ君..どうしたのさ..」
「@@#..」
「^^;;...怖いなぁ..もう..相変わらずぅ..」
「監督..新人さんでびゅーみたいっスね..」
「ほぉ..」
「それも..若BH..みたいっス..」
「おっほぉ~..それはそれは..どんな..せいしょーねん..だろうなぁ..」
「若BHはこの間の3人で打ち止めじゃなかったわけ?..ミンギ..」
「先輩..^^;;..ぁ..ヌナの話ではさ..」
「何ょ..」
「もうひとり..若BH..控えおろー..らしいっスよ..」
「そっ..」

ソヌはそっけなく答え..厨房へ入った
ミンギとジホはやれやれ..の顔で続いて厨房へ入った..

====厨房
ソヌは闇夜に片手を上げて挨拶の代わりとし..
カツカツカツ#..と階段を昇り..厨房2Fの秘密部屋で着替えを始めた..
ミンギは闇夜の傍へ寄る..

「ヌナぁ..今日のおやつ..なんスか?」
「ん?..きょうはねぇ..ちぇみぷりん..」
「うっひょ..やった#..」
ミンギよりも先に喜んだのはジホだった..

「当然..僕の分はあるんでしょ?ちぇみぷりん..」
ソヌがネクタイを結びながら2Fから階下の闇夜に言った..
見上げた闇夜が首を縦に振るとソヌは満足気に口端を上げ..くるり..背を向けた..

「ったくなぁ..先輩..スイーツには直ぅ~~ぐ反応するっスよね..ヌナぁ..」
「ふふ..そうね..」

「何か言った?..ミンギ..」
2Fから再び聞こえた低声にミンギは「あわわわ..」と己の口を叩いた..

====控え室
厳格がくるまやの傍へ寄り..話を始めた

「ね..テソンさんの隣にいた..スーツ着てた人って..」
「ぅん..新人さんだよ..」
「"あやかし"から皆で一緒に来たんだ..」
「ぅん..それにさ..僕の仕事の絡みもあったからさ..店に来る前に寄ったんだ..」
「仕事って..車の方の?..」
「ぅん..これから彼に少しづつ手伝って貰うことになると思う..」
「へぇ..そう..それも"あやかし"の依頼?..」
「きっかけはね..」
「もしかして..脅された..とか.."あやかし"のヒト達に..」
「^^;;..僕も刺激になりそうだしさ..一緒にいい仕事出来れば..っと思って」
「そっか..」
「ぅん..それにさぁ..新人さんね..じゅの君っていうんだけど..家族抱えてるしさ..生活かかってる..」
「家族って??.」
「(こそこそ)あのさ..既婚者...で..babyがいるんだ..ここに..(くるまや..自分の腹を指し..こそこそ)..」
「わ..そうなの..」
「ぅん..」

「「!!!...@@..何っ#..@@..」」
控え室にいたテプンとシチュンがくるまやのこそこそ..にピクリと反応した..

くるまやと厳格..控え室を飛び出した"のーまる"2人の姿を見送った

「じゅの君に先を越された..って思っちゃったかなぁ..」
「そうかも..」
「「はぁ..」」

「ね.."あやかし"が関わってるとなると..あの新人さんには..下手に手出し出来ないってトコ..あり?..」
「そうだねぇ..悪い道には誘えない感じぃ~~..」
「「怖いもんねぇ.."あやかし"..^^;;...^^;;.」」

くるまやと厳格は顔を見合わせてクスリ..笑った..
控え室ではそんな2人に声を掛けたBH顔がいた..

====事務所ドア前..
テプン&シチュン…口7分開き顔..掌..ドアにべったりへばり付き~~の..片膝曲げ~~の..
ドアをよじ登ってどうする#..状態..両者..中の会話を聞き逃すまいと必死..

====裏口
カチャリとドアを開け..スハテジ..出勤..
テジンはスハの腰に手を回し..横抱きに抱いている..
ぐっ#..とスハを引き寄せ..スハはもぞもぞと身を捩るが..観念の様子..
横抱密着状態で廊下を進んでくる..なんとも器用に歩く2人である..

「んなに『離れたくなぃぃ~~ん』なら懐に抱いて歩きゃぁいいのにな..そう思わんか?..はるみ..」
「みゃはは(>▽<)//..みゅりみゅり..<<<□>>>」

はるみは俺に振り返り.片前足を振った後..
次に己の胴体から両前足をくっ..くっ..くっ..と広げた..

「くはは..どってりスハでは懐に抱えるのは無理というものか..」
「(まじゃまじゃ)〃@@〃」
「スハはウシクといい勝負だな..」
「ンッケッケ..(>▽<)〃」

====店内
ウシクが先にでびゅーした新人3人にあれこれと指示し..開店前のチェックをしていた

「ウシクはてきぱき動くし..意外にフットワークも軽い..細くなってもいいハズ..なんだがなぁ..」
「みゃーひー..ッケッケッケ..〃(^◎^)〃」

はるみはぱっくん..と開けた口に左右の前足を交互に忙しなく持っていく..

「たはっ..消費も多いが..摂取も多い..つーことだな..」
「〃@@〃」
はるみはしっかりと頷いた..
そう言ゃ..テソンがウシクの弁当を作っている...とか何とか..闇夜が言ってたな..
毎日..casaから持っていくおやつもBakuBaku食べてるよ..へへ..(^o^)..テスもんなことを言っていた..
最近富みに消費が増えた..つーことか??.
先生..大丈夫か..腰を鍛えんといかんぞなもし..たはっ..^^;;...

ぱこん☆..
勘違いのヤらしい含み笑いの俺の頭にはるみがを落とした..

…くぉん??..
アジは俺とはるみを見..可愛らしい顔でまた首を傾げた..

====事務所
今日の事務所は新旧..及び代理チーフ..揃い踏みである..
それぞれのポーズでテソンとじゅのの視線を送っている..

****
あんな奴..こんな奴..こっちとこっちがむにゃむにゃで..
そんなこんなでほにゃららで..ほんでむほほほ..みゃはははぁ~~ん..
そっちとこっちはゆらりんこ..あっちとこっちはおもおもおももも..
てなわけである..ふむふむ..

casaの連中はじゅのに前もってBHC全面子はこうだ..っと伝えていた..
じゅのはまた..そいつを纏めたらしく..

「こんな感じでよろしいでしょうか..」
っと..出勤前にドンジュンがcasaに来る前..
じゅのは俺等4人にA6版の地味な大学のーとを取り出して見せた..
のーとの表紙には赤のハートが2つ..2つのハートの間には小さなハートが書かれていた..

「ヨンジンが書いたんです..」

じゅのは俯き加減で幸せ笑みを浮かべた..

詳細を纏めたそれは..何とも律儀な..まぁ..こいつらしい仕事..ではあった..
ジュンホといい"仲間"になれるのではあるまいか..

俺等4人はじゅののーとを交互に覗き..互いにほくそ笑んだ..
****
テソンに促され..多少緊張気味のじゅのは3人のBH顔ちーふの前に進んだ..








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