ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 218

千の想い 110   ぴかろん

「で、じゅの君の技は?」
「は」
「技」
「え…と…。えと…。ジュンホさん…どうしたらいいでしょう…」

じゅの君はオロオロしてジュンホ君にとり縋った

「かれはこれといったわざはまだできておりません。まだみならいきかんちゅうなんです。でもかわいくてせいじゅんなえがおがてんかいっぴんです」
「ほぉほぉ…じゃ、笑って」
「は…」
「じゅのくん、がんばって」
「は…はひ…」

じゅの君は笑顔を作ろうとして頑張っている
でも顔が強張っていてなかなか微笑めない
口角だけが異様に上がり、ふざけた笑顔になってしまっている

「「ぶふっ」」
「こら、ビョンウ、ジョンドゥさん、笑っちゃダメだよ!」

ドンジュンが注意した

「「だって可愛いんだもん」」
「ふは…で…できません…」

じゅの君は息を吐いて涙ぐんだ

「ど…どうしよう…。このままなんの技も身につかなかったら僕、僕、クビに…。ああどうしよう…もうすぐパパになるのに…」
「なにっ?!ぱぱ?」

ジャンスさんが素早く反応した

「学生で結婚してる?」
「あ…は…はい…」
「ぱぱに?!」
「え…はい…」
「そうか!」

ノーマルか!

とジャンスさんはニコニコして言った
じゅの君はキョトンとしてジャンスさんを見た

「いや、ノーマルであろうとなかろうと、愛する人をしっかり愛する事は人間として素晴らしい事だぞぉっ!気に入った!なに、技などすぐに見つかるとも!焦らずともよいぞ。なんなら俺が『悪役顔』を教えてあげてもいいぞ」
「あ…あくやくがお?」
「可愛いジュノ君が突然『悪役の顔』になる…いい技じゃないか?」
「じゃんすさん、これからうまれてくるあかちゃんにあくえいきょうをおよぼすようなわざはちょっと…」
「…そ…そうか…」
「あの…僕、これから頑張って技を増やします。よろしくお願いいたします」

じゅの君がきっちりと頭を下げた
なかなか好感が持てる子だなぁ…可愛いなぁ…
でも…ぱぱ…。つーことは…ごにょごにょ…(_ _ ;)

「ドンジュンドンジュン」
「なによイナさんコソコソと…」
「じゅの君さぁ…」
「うん」
「ぱぱになるって昨日…言ってた?」
「うん」
「…」
「聞いてなかったの?」
「…」
「あんなにニコニコしてウンウン頷いてたのに?!」
「え…」
「彼の背中ばんばん叩いて『がんばれよ』って言ったくせに」
「…そ…そうなのか?」

テーブルフグは意地悪そうにニヤリと笑った

「ウソだよ。イナさん『ああうんああうん』って虚ろな瞳で受け答えしてた」
「う…」
「…。大丈夫なの?」
「え…」
「…。僕等も頑張ってるんだからさぁ」
「あ…う…ん…」
「がんばろっ」ニコ

テーブルフグがテーブル太陽になった
ほんとに…お前…かっこいいよ、ドンジュン…

「おお!なんと清純で前向きでひたむきなんだ!気に入ったぞジュノ君!頑張りたまえ」
「はいっ」

ジャンスさんは立ち上がってデカいガタイを傾け、じゅの君の肩をバンバン叩いた
心なしかじゅの君が歯を食いしばっているように見えた

「このよにんはまだとくいわざといえるほどのわざがありません。が、もともときようなのでこれからにきたいしていてください」

いつの間にかジュンホ君もベテランホ○トになっている
新人たちが誠実なジュンホ君にくっついて回る気持ちが解る
この店に来た頃は、まだ『くも』のせいでどこに何があるのかなかなか覚えられずにいたのに
祭の頃一人で一生懸命『勉強』してたもんなぁ…ああ…俺…『勉強』嫌いだったしなぁ…
ジュンホ君の努力を見習わなきゃな…

「そういう貴方の得意技は?」
「ぼくはぼくさーでしたからしゃどーぼくしんぐなんかとくいです」
「さっきなぜ舞台に出なかったの?」
「それは『くも』のせいです。ぼくのあたまのなかに『くも』がいるので、どくたーすとっぷなのです」
「おお、くも膜下出血…」

すげ…よく通じたな、ジャンスさん…

「シャドーボクシングはできるの?」
「はい。やってみましょう」

シュシュシュ…シュシュシュシュ

ジュンホ君の華麗なシャドーボクシングが始まった
ジャンスさんの目が、またキラリと光る
案の定、ガバッと立ち上がり、その場で自分もシャドーをやり始めた
ジュンホ君はニヤリと笑ってリズムを速める
ジャンスさんもフフッと口を歪めて繰り出すジャブのスピードを速める

シュッシュシュシュシュ

二人の拳が空を切る音だけがジャンス席に響く

カカカカカシュシュシュ

と、突如もう一つの『シャドー音』が聞こえてきた
シミュレーターの辺りで黒い影がムクリと動き、『カカカカ』という音とともに近づいたかと思うと、シュシュシュシャっとシャドーボクシングをやり始めた
ソヌさんだ

俺達は三人の姿を呆然と眺めていた

「ほんとは目立ちたがりなんだからあの子」
「へっ?」

いつの間にか俺の横にジホさんがいた
しかもカメラを構えている

「ジホさん…何やってんの?」
「撮影」
「なんの?」
「いろいろ」
「…」
「いいなぁジュンホ君のシャドー。さすがだよね、元世界チャンピオン!キレが違う」
「ジホさん…」
「それに比べるとソヌっちのシャドー、ちょっとキレがないでしょ?」
「…あ…うん…」
「彼はね、ウィンドウに自分の姿を映さないと上手くシャドーできない体質なのよ。それを自分で理解してないのね」
「…へ…そう?」
「そう!ホラ、あの表情見てよ。不服そうでしょ?あれをウィンドウの前に持っていくとイキイキしだすのよ。ちょっとイナ、ソヌっちをウィンドウに誘導してくんないかなぁ」
「は?」
「ジュンホ君のはいい絵が撮れたからさぁ。いい表情だしいい汗も流れたけどソヌっちは、ううん、生え際んとこでしっかり分け目つけてくれないとぉ…イナ!生え際きっちり分けてからウィンドウに誘導してよ!」
「は?」

三人はシャドーボクシングを続けていた
やがてソヌさんが、はぁっとため息をついて腕を下ろし、俯いて唇を噛んだ

「あれ、反省してるのよ、『ボクにはウィンドウが必要だった』って…」
「…」

ソヌさんは顔を上げて @_@ とジホさんを睨んだ

「あ… ・▽・」
「@_@」

きっちり5秒ジホさんに視線をやってから、ソヌさんはくるりと皆に背を向けてカツカツカツと厨房に向かった

「… ・▽・ 怖かったぁ…。ねね。ソヌッチさ、今は『カツカツ』帰ったでしょ?」
「はい」
「さっきこっちに向かうときは『カカカカ』だったの気付いた?」
「あ…そう言えば…」
「慌ててたのねぇ。小走りよ。ちょっと内股気味になってたもんケケケ」
「…」
「ばっちり撮っちゃったケケケ」

ジホさんは妖怪じみた笑い方をした
俺はソヌさんの後姿を見つめた
厨房の扉を押して中に入って行くのが見えた

「なんでみんな厨房に行くんですか?…あれ?」

俺はジホさんに質問したのだが、ジホさんの姿がない
辺りを見渡しジホさんを探すと…厨房に消えようとしている…

なんて素早いんだ…
捉えどころないし…
やっぱ妖怪かも…
あの人の住まいこそ『あやかしの部屋』かもしれない…

「いやぁいい汗かけたよジュンホ君!」
「こちらこそ。ぼくのしゃどーについてこれるかたはあまりいませんからおどろきました」
「ふほほ。鍛えてますからなぁふほほ。ソヌ君も途中参加していたようですが、我々のスピードについてこれませんでしたかな?ふほほ」

ジャンスさんは腹をゆすって愉快そうに笑った

「じゃんすさんも『まいにちさんかい』ですか?」
「ほ?」

ジュンホ君が突然聞いた

「ぼくはいま、おーなーからのいらいで、『かいすうしらべ』をはじめているんですが、これがなかなかしゅうけいできなくて…。じゃんすさんはなかよしですか?」
「カミさんと?」
「はい」
「くほほ。なかよしなかよし。でも『毎日三回』ではないですなぁひははは」
「そうですか。ざんねんです」
「残念?」
「ぼくとなかまかとおもいました…」

ジュンホはがっかりした顔で言った
まいにちさんかいって…なにを?!

「オーナーからの依頼って?」
「ぼくはひまだとおもわれているらしくて…。ときどきおーなーからへんな『ちょうさいらい』がくるのです。こんかいは『かいすうしらべ』なんですが、しゅうけいするのにじかんがかかりすぎて、まいにち、につまっちゃうんです。ぼくがきりきりしていると、そにょんさんが…あ…ぼくのあいするつまですが…やさしくはぐしてくれるんです。ぼくたちはなかよしです。それでたいてい『さんかい』です」
「ふほ…うらやましいですなぁ…」
「そういうわけでぼくはちょうさなんかもわりととくいです」
「ほほぉ…メモメモ…俺の会社で調査関係依頼したらやってくれますかなぁ…」
「あの…あまりむずかしいものでなければ…」
「メモッ!了解!その際にはまたご連絡いたしますのでよろしく」
「はい」にこ

ジュンホ君がニコと笑い、新人4人もニコと笑う
そして5人が一斉に頭を下げ、ジャンスさんに手を振って席から遠ざかっていった


千の想い 111   ぴかろん

「BHCには優秀な人材が豊富ですなぁ」
「へへ」

ジャンスさんにそう言われて俺は嬉しくなった

「そうだ!キム・イナ!キム・イナの作ったパン、食べたい!」
「え…」
「テジュンから聞いてるぞ。美味いらしいな」
「…いや…俺のパンは…素人だし子供だし…ごにょ…」
「僕も今日、唇パン食べてないな、イナ」

テジュンが普通に話しかけてくる
俺も普通に答えようとする

「今日のパン、うまくできてない」

声の調子が堅すぎる
テジュンの瞳が少し曇る

「あの…俺のパン、気分によって出来の良し悪しがあってさ…だから今日のは…あんまりよくなくて…さ…」
「持ってきてないの?」
「…」
「僕が来るって解ってるのに?」


なによその理論…

テジュンはからかっているだけなのに、俺は言葉の中に『厭味』を見つけようとしている…

「俺は持ってこなかった。今日のは美味しくないって言われたし」
「誰に?」
「…」
「…。ヨンナム?」

ちらりとテジュンの顔を見た
テジュンは曇った瞳のまま微笑みを作っている

「うん…ヨンナムさんに言われた…」

微笑んでいる口元の裏側で、お前が歯を食いしばっているのが見える

「僕も食べた事ないなぁイナさんのパン」

テーブルフグが明るい声で言った

「ねっ?ギョンビンも食べてないでしょ?」
「あ…僕は…」
「なに?!食べたことあるの?なんで?!イナさんなんでギョンビンにやって僕にくれないのさ!」

双子の声に澱みだした気持ちが流される

「…ギョンビン…食べたの?俺のパン…」
「あ…の…、彼に…前に…イナさん…あの…」
「…。狐に渡したパン、お前、食ったの?!」
「あ…う…ひ…一つだけいただいて、後は兄に…あのっ…お…美味しかったですから…」
「…」
「ずっるーい!なんでおにーさんにあげちゃうのさ!僕にくれればいいのにっ!きいっ」
「すみません。あの時は彼の目の前から一刻も早く『誘惑する美味しそうなパン』を消し去りたくて…」
「…おれがしんゆうのためにもっていったぱんを…ひどい…(;_;)」
「あう…すみません…」
「過去の話はもういいじゃん!それより、僕にもイナさんのパン食べさせてよぉ!食べたいよぉ!今度絶対持って来てね」
「あ…おん…」
「俺も俺も俺も」ニコニコ

ジャンスさんが身を乗り出して言った

「今度この垂れ目の馬鹿野郎にパンをくれてやるときに、俺にもちょーだいねっキム・イナ」
「…う…うん…あんまり美味しくないと思うけど…」
「いーのっ!食べたいのっ!ねっセンター君」
「そーそー!」

ドンジュンとジャンスさんのおかげで、微妙な空気が明るくなった

「センター君とは気が合いそうですなぁ」
「そ?じゃ、今度ドライブする?」
「うおおお!『実践色河豚』ですかなっ?」
「うふん」
「うおおおお!…俺、大丈夫かな…どきどき」
「危ないですよジャンスさん、この子のドライビング・ハイは想像を絶しますからね」
「は…ははうっ…まっ眩しいっ!」

ジャンスさんは声をかけられた方を振り返って、小さい目をますます小さくした

「ようこそBHCへ。ご挨拶が遅れました。チーフのチェ・スヒョンです」

キラキラキラと天使スマイルを振りまいて、真打登場ってわけか…
あれ?『連れのキツネ』はどうしたんだろう…

「スヒョン、一人?」
「なんで?」

テーブルフグの頭を撫でながら、スヒョンはするりとジャンスさんの隣に座る
フグはテーブルに貼りついたまま、天使を見上げて言った

「…ジジイ二人で来たんじゃないの?」
「ああ、ミンチョル?…ふふ。お前ね、めちゃくちゃ似合うね、それ…ふふ」

スヒョンは優雅ににっこり微笑んだ
ほら、『優雅』って言葉はスヒョンに似合う

「おおおなんとステキなスマイルだ!スヒョンさん!バレエの舞台に出ませんかな?!」

そうそう、誘うならスヒョンだよジャンスさん

にっこり
「僕はバレエは踊れませんから…」
にっこりキラキラキラ☆

「おおおおおっ!」

ジャンスさんの瞳がいきなりハートになっている
スヒョンの威力はさすがだなぁ…

「ギョンビン」
「…は…はいチーフ」
「もうすぐ来るつもりらしいんだけど…」
「は…え?」
「何か困ってたから手伝ってあげて…」
「は…。はいっ!」

ギョンビンはスヒョンに言われてボックス席から飛び出して行った

「なに?困ってるって」
「んー、文字通り、困ってたから…」
「…ミンチョルさん?」
「んふふ」
「…。貴方が助けてあげればよかったんじゃないの?!」
「おや、いいの?僕がミンチョルを助けてあげても」
「…ふ…ふんっべっつにぃっ!」
「くふふふ」

スヒョンはドンジュンをからかっている
その様子をジャンスさんはハートの目のまま見つめている

「まるで天使と小天使の戯れですなぁ。お二人の背中に大きな白い羽根が見えるようです!メモっ!」

ジャンスさんの肩越しにテジュンの顔が見える
俺はなんで意地を張ってしまうのだろう
お前が哀しそうにしていると、余計あの妖艶な小僧が近寄ってくるってのに…

ふと目が合った
テジュンは柔らかに微笑んだ
急に自分がイヤになって涙が出そうになった
唾を飲みこんでテジュンを見た

「くちびるぱん…あとで味見して…」

テジュンに向けて声を出さずにそう言った
テジュンは少し驚き、それからゆっくりと鼻に皺を寄せて笑った

その笑顔が好きだよ…

泣きそうになったので、慌てて顔を背けた

「ススススヒョンさんのこの『コマシコマ送り』とは?!」
「…」

小刻みに震える手でパンフレットを指し示すジャンスさん
スヒョンはフッと笑った後、つと目を伏せ、そしてゆっくりジャンスさんを見上げた
それから包み込むような笑顔になり、唇を少しずつ開けながら、同時に顎を上げて行った
目線はジャンスさんから外さずにいるので、段々と『見下す』ような状態になる
そしてゆっくりと顎をやや右下に下ろし、流し目状態になる
左腕を優雅に上げ、手の甲を唇に当て、上目遣いでジャンスさんをみつめながら唇を拭うように腕を引く
半開きになった唇に人差し指の関節が当たり、そこにそっと歯を立てる
瞼を軽く閉じて、ほんの少し、眉根を寄せる
齧られた指を取り巻くように、咽の奥から天使のためいきが漏らされる
腕を下ろすと同時に、唇に当てられた指をゆっくりと外し、瞼が開かれる
色づいた瞳がジャンスさんに注がれる

ジャンスさんの目が最大級になった
俺もテジュンもゴクリと唾を呑み込んだ

あまりにも色っぽすぎる…

そしてまた包み込むような笑顔に戻るスヒョン

「…こんな感じでいかがです?」
「ぐおおおお」ガクッ

ジャンス陥落…
俺だってドキドキするもん
スヒョンの技を間近で見るなんて…そういやぁなかったなぁ…

咽がカラカラになってしまい、目の前のグラスをクイッと空けた
テーブルフグも天使に釘付けになっている
きっとハートの目玉なんだろう…
こんなすごいモンが恋人だなんてな…
俺はフグの横顔を観察した

こいつが雪山でこんなモンをコマしたんだよな?こんな…しゅごいモンを……じゃあこいつは一体どれほどの『しゅご』さなんだろう…

膨れた頬から涼しげな瞳へと視線をやりながら俺は思った


JJSの裏側  足バンさん

スヒョクさんが開店前に「頼むちょっと顔貸して」って言うもんで
ふたりで店のすぐ近くの珈琲ショップに行った
通りに向いたカウンターでアイスココアの氷をつつきながら
硝子の向こうの溶けそうな石畳と街路樹の影を眺める

「何?話って」
「うん…ドンジュン…」
「あれ?スヒョクさんちっと焼けた?海でも行った?」
「あ…いや…ソクさんが最近ボーイスカウトの手伝い始めて…2、3回お伴した」
「ふーん…いいなぁ…いつも一緒で」
「…うん…」
「で?話って何?」
「うん…その…えと…」
「そういえばソクさんの検査ってまだ先?」
「あ?…うんそろそろらしいけど」
「長いの?」
「1週間くらいかな…別に心配はないそうだけど」
「ふぅん…少しの間寂しいね…で?何?話って」
「う…あの…いや…何て言うのか…」
「言いにくいこと?」
「いや…うん…まぁ…」
「ああっ…性のお悩み相談とか?」
「ばっっっ!!」ムギィッ

いきなり僕の首根っこを掴み片手でこの口を塞いだスヒョクさんは
一拍おいてから慌てて息を詰めそうになった僕を解放した

「あ…ご、ごめん…ドンジュン」
「げほっ…ちょっとぉいきなりプロワザ…ゲホっ」
「だ、だってっそういうことは大きな声で言うものじゃないだろっ」
「え?じゃ図星?」

スヒョクさんはサウナに入り過ぎたゆでダコちゃんのように赤い顔で下を向いた
僕が下から覗き込むとますます赤くなった

「どしたの?うまくいってないの?」
「だから…その…あの…こしょこしょ…」
「え?」
「だっだから…こしょこしょ…」
「ああ~なるほど」
「ごめん…誰に聞いていいのか…」
「そういう話ならギョンジンさんあたり詳しそうだけど」
「ひ…必要最小限でいいから…その…」
「そか…あの人だと5段活用とか付加価値とか実践指導とか言い出しそうだもんね」

「で…その…ど、どう?」
「さぁ…どうなんだろ…イタミ…」
「だから!大きな声出すなって言ってるでしょ!」
「ああ…だから…んと…こしょこしょ」
「え?」
「こしょこしょこしょ」
「な…なるほど」
「わかんないけど…それで解決じゃない?…ネットとかで調べたら?」
「ばっばか!そんなこと!」
「くふふん」
「なっナンだよっ」
「いやぁ…スヒョクさん一途だなぁと思ってさ」
「だ、だって…ずっと…その…ソクさん可哀想だから…」

サウナタコのまま俯いてるスヒョクさんが非常にかわいらしく見える
何だか…ちっといいなぁ…こういう感じ
ずっと…僕がずっと忘れてる表情だって気がする

「何だよ…ドンジュン…黙るなよ」
「うふん…だって微笑ましくてさ」
「おまえは…その…映画のこと少し引っかかってるの?」
「少しなんて…どびゃーっとね」
「気にすんなよ、仕事なんだから」
「そぉ言うけどさぁ…いくら気張っても結構アレだよ」
「でも…」
「スヒョクさんだってどうよ…ソクさんが…んとぉ…イナさんとそんな映画に出るって言ったら?」
「ブッッゲホッゲホッ」
「ね?本能で考えるとヤでしょ?」
「ケホッ…ま、まぁね…ちょっと想像できないけど」
「頭じゃ理解してんだけど」
「だからおまえ最近無理に元気なの?」
「バレバレ?」
「あのふたりだからなぁ…」くしゅっ
「あのふたりだもん…」けしゅっ
「ちょっと冷えるねこの店」
「うん…5ミリ向こうは暑いのにね」

僕たちはなぜかふたりして赤いストローをくわえたまま頬づえをつき
厚い硝子の向こうを行き交う人々の陽炎をぼんやり目で追って
…たらばソクさんが通りをひーひー走って店に入って来た

「どうしたんですか」
「スヒョクぅ…今日ジュン君たちの誕生日なんだって!」
「え…で?」
「これからプレゼント買いに行きたいんだけど付き合ってくれ!」
「開店まであんまり時間ないじゃん」
「ドンジュン君も一緒に来てよ!ふたり分だから手分けしよう!」
「「手分けって…」」

ソクのおっさんに強引に引っ張っられて
ってか…おっさんが引っ張るスヒョクさんに引っ張られて
一番近くのショッピングモールまで急がされ…
結局僕とスヒョクさんは女の子用のかわいいグッズ捜しをした
周りの女の子に声かけてアドバイスを受けようとするのを
硬派(かなぁ)なスヒョクさんはめちゃくちゃ嫌がったけど

途中
スヒョクさんはソクさんとジュン君の繋がりをボソリと話してくれた

「んじゃソクさんにとってジュン君は現世の息子ってわけか」
「うん…まぁ…そうかな」
「そか…」

モデルガン売り場であれこれ吟味しまくって
側にいたぼうずたちに何やら銃の特徴なんかを講義し始めたソクさんを
ピンクのクマ柄の包みを持ったスヒョクさんは優しく見つめてる

「何かね…当初スヒョンさんに台本読んでみたらって勧めたのソクさんらしい」
「そうなの?」
「うん…希望の持てる作品が観てみたいなんて言ったらしい」
「そ…」
「最近ちらっと物語の内容を耳にして…ぐっと胸にきたみたいよ」
「そう…」
「あの人も這いずるようにしてやっとここまで来た人だから…
 共感できる作品だったりすると嬉しいんじゃないかな」
「うん…」
「俺も楽しみにしてるんだ」

覗き込むスヒョクさんの目がそのまま優しくて
僕はかなり目の奥を刺激されつつ…いつもの感じで笑った

「大丈夫…スヒョンはきっといい仕事すると思うよ
 あいつコマシ王だけど中途半端なことだけはしないから」
「うん」
「勧めてくれたソクさんがガッカリするようなこと僕がさせないから」

スヒョクさんはなぜかちょっと泣きそうな笑顔で僕の髪をくしゃっと撫でて
「俺おまえのそういうとこが好きだよ」と言った
そんな言葉をスヒョクさんに掛けられるなんて思いもかけず…
祭で寂しさに任せ彷徨っていた影など微塵もない
頼りになるスヒョクさんの笑顔が僕は嬉しかった

玩具売り場の沢山の無遠慮な原色までがじんわり心に沁みた

「ややーお待たせ!もういろいろあって迷っちゃってさ」
「俺らもずいぶん迷いましたよっ!女の子グッズ」
「悪い悪いっ僕女の子のプレゼントなんて未経験だもんで」
「いーもんね!ドンジュン」
「うんっ売り場にカワイイ子がいたしぃ」
「いたいた」
「スヒョクさんもしかして好みだった?」
「あっバレてた?」
「あっあのスヒョク…ドンジュ…」
「そぉかぁあのタイプね」
「おまえもだろっ」
「僕はレジのお姉さまの方がいかったなぁ」
「ああ~確かに綺麗だった!」

てなとこで止めて振り向くとソクのおっさんが目を見開いて固まってた

「さっソクさん遅刻するとチーフ代理に叱られますよ!」
「ヘイ!おっさん行くよ!」

僕たちは「ねっスヒョクさっきの何っ?好みってタイプって何っ?」と
青い顔して追いかけてくるソクさんの前を走って店に向かった
まだ暑い空気の中
風を切って走るのは思ったより気持ちがよかった

千の想い 112  ぴかろん

*****

なによ…なんなのよ…なんでそんなに凄いんだよスヒョン…
いつもよりずっと艶があるじゃん!

…なんで?
…誰のせいでそんなになっちゃったの?!

どきどきする
僕、本当にこんなヤツの恋人でいてもいいの?

いつの間に仕込んだのか解んない『技』に、僕は打ちのめされた
あまりにも妖しくて、あまりにも美しくて

こんなスヒョン、今まで見たことなかった…

逃げ出したいのと叫びたいのと縋りつきたいのとそれから…縛り上げて閉じ込めておきたい…そんな捩れた気持ちと、憧れて魅せられて吸い寄せられていく気持ちとが入り乱れていた

スヒョンの手が僕の頭に触れた

「なんて顔してるの。フグほっぺに睨みうるるんな瞳はキュートすぎない?お前…」

僕を軽く引き寄せてキュっとハグした
僕は慌ててスヒョンの胸を弾き、テーブルにドスンと頭を乗せた
ちっと顎を打った
痛くて涙が一粒零れた

スヒョンの手が伸びてきて僕の『ひとつぶのなみだ』を拭った

「コマしたの、お前でしょ?何ビビってんの?」

ビビってる?!

ムッとしてスヒョンを見ると、いつものように何考えてるのかわかんない微笑み
ムキィィッにくったらしいっ!

胸びれでぺったぱったとテーブルを叩き、ぶーぶー言ってやった
ジャンスさんが「おお。フグダンス!」とか言ってメモを取っていた
フグダンスか…ひとつ技が増えたな…
ちらりとスヒョンを見ると、優しい瞳で僕を見ている
僕は『このすごいモンを釣り上げたんだ』ってことで威張ってもいいのかな?
この『すごいモン』は厄介な事に羽根なんか生えちゃってるからほんと…

心配…

「こういう時は早めに呼んでくださいよ!」
「なんでそんなに吊り目になるの?!仕方ないだろう?僕の技は色々ありすぎて準備に迷うんだ…」
「そうね、貴方は技のデパートだもの!だけど手こずるほどのセットじゃないでしょう?!」
「なんでそんなにイライラしてるの?やっぱり僕が持っていくからいいよ」
「だめ!高級なガラスなんだから!」

言い争う声が聞こえてきた…
ああ…こんな登場の仕方でいいのかな?なんてったって『元チーフ』なんだからもっとこう… 華麗に…優雅に…ごーじゃすに…

「遅くなってしゅまない」
「『す』でしょ?『す!』」
「…げほっ…。遅くなってすまない…イ・ミンチョルです…」
「来たな?きちゅね」
「む。だまれ五歳児!」
「イナさん!こどもの世界に連れ込まないでください!せっかく気持ちを立て直したのにっ!」
「ご…ごめん…」

ミンチョルさんの登場に、スヒョンがクスッと笑った
さっきよりももっと優しい色をした瞳が僕の頭上を過ぎて行く
矢が僕を貫いたように感じて
僕はスヒョンの膝に、アップアップしながら縋りついた
スヒョンはビックリして僕を見つめ、それからいつものように微笑んだ

「お前ね…そろそろソファに座ったら?」
「いいじゃん!フグとしてはこの目線が心地いいんだからさ!テーブルフグは床を這いずり回るものなんだぜ!」

そう言ってスヒョンが足を開いて座ってる、その膝と膝の間のソファの座面にむりやり凭れ掛かった
くすっと笑うスヒョンを振り返って僕は悪戯な笑顔を『作った』

*****

ダーリンと事務室前の廊下のベンチに座ってウダウダしていた
僕の場所からは店内が少しだけ覗ける
ダーリンは、ため息ついたり天井を見上げたりして自分の気持ちをなんとか処理しようとしているみたい
僕はなんと声をかけていいのかわからず、黙って傍に居た

僕が、今夜、頑張ればいいんだ
きっと、それで、解決するんだ

その気持ちは十分にあるのに、どうしたものか体がついていかない
チラリと店に目をやる
小さくイナの姿が見える
また寂しそうな顔をしている…
きっと向かい側の垂れ目の馬も…寂しそうなのだろう

バカ
想いあってるくせに寂しい顔なんかしちゃって、バカ
周りの人間が戸惑うだろ?
好きなら好きで僕のように
僕の…ように…気持ちを…全部…好きな人に向ければ…

向けているのに…どうして…

ガタンゴトン

戸口の横にある小部屋から音が聞こえた
僕達はその戸を見つめた
ここには衣装や小道具が置いてある
誰か中にいたのかな?

ガタゴトトンててっ…えいっえいっ!きいっ!もぉっ!

中からイライラした声が聞こえてきた
ダーリンと僕は顔を見合わせて立ち上がり、小部屋の戸口に立った

「ちょっとごめん!」
「…ギョンビン…」
「失礼、中に入れて」
「誰かいるの?」
「うん…彼が…」
「ミンチョルさん?閉じ込められたの?」
「まさか!ジャンスさんに見せる技の準備してるんだと思う…」
「…ああ…。お前ジャンスさんの席にいるの?」
「うん。兄さん達もう行った?」
「…まだ…」

正式には…

「…今あの席、誰がいるの?」
「んと…ドンジュンさんと僕と…スヒョン…さん…」
「…」
「あ、さっきまでジュンホさんと新人君たちがいたよ。ソグ君も来てた。ジャンスさんの肩の角度測ってた。兄さんもくればよかったのに」
「…」

ダーリンがムッとして僕を睨んだ
僕は『関係ないよぉ』という顔で微笑んだ

「ちょっと手伝うね、彼、こういうの苦手なはずだから」

ニコリとギョンビンが微笑んだ
準備ができたらジャンスさんの席に行くんだろ?
そこにはスヒョンさんがいる…

「…兄さん?」
「は…え?」
「どうしたの?二人ケンカしたの?」
「は…あ…え…」
「なんか、いつものスッコーンな兄さんじゃないじゃん…。昔に戻っちゃったの?あの陰々鬱々としてた頃の兄さんにさ」

そう言ってへへっと笑ったギョンビンの瞳の中に、僕は強さと不安を嗅ぎ取った

「そろそろジャンスさんとこにおいでよ、暑苦しいから襟巻きはやめてよね。あ、だけど『襟巻き』以外の兄さんの技って…披露できるようなもの、あったっけ」
「…なんだと?!」

生意気なギョンビンに拳をあげるとキャハハと笑って小部屋の奥に消えた

キャハハ…か…

突っ張っちゃって…

僕は俯いてフフッと笑った
一拍おいてダーリンの親指が僕の頬を撫でた
顔を上げるとまん丸い目をしたダーリンが、僕を心配そうに見つめていた

「なに?どうしたの?ラブ」
「なんで…泣いてるの?」
「…え…」

知らないうちに涙を流していた

「…あれ…おかしいな…。なんか…なんか…」

感情がコントロールできていないみたい…

「…からだがゆうこときかない…」

そう口に出すと同時にまた涙が溢れてきた
ダーリンは僕を引き寄せ、目頭にくちづけて僕の涙を吸い取った

*****

ガタゴトン
どうしてこれだけしかない物にこんなに手間取ってるんですか!
だってどこにあるのかよくわかんなくて
ここにホラ、書いてあるでしょ?ガラス大・中・小って!で?必要なのは?大と小?
うん…
危ないから離れてて!ああもう、無理矢理引き出そうとしないで!割れます!
いいよ、僕が自分で持っていくから!なんで来るんだよ、ちゃんと技を披露したのか?
しましたよ…吊り目だけね…
他には?『壁際スパイ歩き』とか『シューティングゲーム』とかは?
他のお客様に迷惑ですからやってませんっ!それより早く!皆さん待ってますから!
ちょっと待ってよ…携帯技用の携帯が…
ああもうっ!ほらっ!ここですここの引き出しですっ!
そんなにカリカリしないでよ…あと…『枠』も持っていこうかなぁ…
『枠』?!なんで?!
こう…腕をこうしてポーズを…
要りません!通路から出るトコでやればいいんです!
そう?
そう!
じゃこの極太縞シャツは?
…。海に入る気ですか?
だって似合うってスヒョンが…
…。要りません!貴方だけじゃなくて他の人も技を披露してるんですから披露する技は2つ3つで十分です!早く!
あうう引っ張らないでよ
先に出て!
僕が持っていくから
ここからコレを出せなくてぐずぐずしてたの誰?!

ほら!早く出て!ちっと髪の乱れ、直して!


パタンけほん…


千の想い 113   ぴかろん

*****

ダーリンと僕はくっつき合って戸口を見ていた
中からミンチョルさんが出てきた
なんだかいつもより背が低いような気がしたが気のせいだろう

「あ…おにいさん…」ペコ

ミンチョルさんが僕に頭を下げた

「早くそこをどいてください!」

弟のキリキリした声がミンチョルさんの背中を押した

「あの…失礼します…」ペコ

ミンチョルさんは頭を下げて僕達の前を通り過ぎ、店への通路に向かった

ガラガラガラバタンガラガラガラ

『ガラス大・コロつき』を押し、『ガラス小』を小脇に抱えた弟が神妙な顔をして後についた

「ギョンビン!」
「ん?」
「持つよ!」
「え?」

キョトンとする弟から『ガラス小』をもぎ取った

「…。さんきゅ」

弟は僕を、穴の開くほどじっと見つめたあと、小さく礼を言った
その声が幼い頃のギョンビンを思い出させる
微笑んだ弟を先に行かせ、僕はダーリンを振り返った

「行こうか…」
「…」
「行こうよ、今がチャンスだよ…」
「…何がどうチャンスなんだよ」
「いいから行こう!」

ダーリンの腕を引っ張った
僕達は…僕達はそれぞれの『敵』に向かって行くんだ…今…

*****

バカが俺の腕を引っ張ってテジュンのいるところに連れて行こうとしている
俺は必死で踏みとどまった
振り返ったバカは哀しそうな眼をしている

その眼がイヤなんだ!

「行こう…ね?」
「やだ」
「ラブ…」
「一人で行けばいいじゃん!気になるんだろ?!」
「ああ」
「…」

認めた…
イナさんが気になるって…認めたんだこいつ…

「なにそれ…開き直り?」
「弟が気になる」
「…は?」
「無理してる…あいつ…」
「…」

ギョンビン?

「あの席にスヒョンさんがいるんだぞ。そこにミンチョルさんが行くんだぞ」
「…。それが何よ…」
「…。イヤじゃないのかなって思ってさ…」

…何言ってんの?
それって口実かよ!
本とはイナさんが気になってるのにギョンビンにかこつけて様子見に行こうとしてるんじゃねぇの?!

「あそこにテジュンがいるって解ってるよね?」
「…ああ…」
「…それは…イヤじゃないの?」
「イヤだよ、とっても」
「じゃ、俺もイヤだって解るよね?あそこにイナさんがいるってこと」
「うん」
「…行きたくない。行かなくてもいいじゃん、俺達なんてさ!」
「顔見せしてくれってスヒョンさんに言われたろ?それでなくても遅刻したんだ。勝手なことばかりしてたらクビになっちゃうだろ?」
「なるはずないじゃん、俺達売れっ子なのに!」
「そういう驕りは嫌いだな」
「嫌いで結構!」
「ラブ…。とにかく、行こうよ…ね?」
「…」
「これ、持っていかなくちゃいけないし…」

ギョンジンはギョンビンからもぎ取ったガラスの板を俺に見せた
そこに俺の顔が映っている
なんて嫌な顔なんだろう…俺は何に嫉妬しているんだろう…

「行こう、ラブ」
「…」

俺は目を伏せてギョンジンの腕に導かれた

そこへ行って
俺はどうなるんだろう
そこへ行くと
アンタはどうなるんだろう
そこにいるあの人とテジュンは…どうなるんだろう…
ギョンジンの心が解らない
俺の心が解らない
何をしたいのか解らない

ギョンビンたちから少し遅れてギョンジンと俺はその席の近くに着いた
ミンチョルさんはイナさんの隣、つまりスヒョンさんと向かい合う位置に座った
ギョンビンは唇を軽く噛みしめながらミンチョルさんの後の通路に控えた

*****

「なんでここにしゅわるんだよ」
「だってここしか空いてないじゃないか!」
「奥行けよ!」
「らって今から」
「『だ』」
「…だって今から技をお見せするんだもの…」
「だったら立ってろよ!座んなくていいよ!」
「れも」
「『で!』」
「け…けへん…でも、ちゃんとした自己紹介がまだだし…」
「だったら早くしろよ!」
「お前がぐちゃぐちゃ言うからできないんじゃないかっ!」
「そんな怖い顔で怒鳴りつけるなよ!」

「ジャンスさん、今のミンチョルの顔が、この『狛犬怒鳴り』です」
「ほほう…」

狐と俺が言い争っている間に、スヒョンがパンフを指し示してジャンスさんに何やら説明している
ミンチョルの技は確かに多いからな…でもこれ、『技』だったのか?

がしっ

ミンチョルがスヒョンの腕を掴む
スヒョンの足元のドンジュンがミンチョルの腕を見上げて驚いている

「スヒョン。ちっと待ってくれ。僕はまだジャンスさんに正式にご挨拶していない」
「ああジャンスさん、これが『掴み各種』のうちの一つです」
「スヒョン…待ってくれないか」

ミンチョルは額に手を当てて困ったような顔をした

「これは、これですかな?」
「どれどれ?ああそうです。『苦悩ポーズ各種』の『得意バージョン』です」
「スヒョン…」

じいいいっ

ミンチョルはスヒョンをじっと見つめた

「ミンチョル。僕よりもお客様のジャンスさんを見つめて」
「あの…スヒョン…」
「ジャンスさん、今のが『熱視線・虜』です」
「スヒョンさんは『虜』になりませんかな?」
「フフ、僕はある程度慣れてますから…それにここには人がたくさんいるしね。でも…」
「でも?」
「二人きりだと『虜』になりますフフ」
「すひょんっ!」

フグがぶんむくれた

「なぁるほどぉ…危険な技ですな?」
「あの…ジャンスさん…」

スヒョンに訴えても埒が明かないと考えたのか、ミンチョルは直接ジャンスさんに話しかけた

「見つめないでっ!ミンチョルさんっ」
「は…」
「見つめないでください!俺は貴方の虜になるわけにはいかないんだっ!」

ジャンスさんは自分の目を掌で覆い隠した
んなことしなくても大丈夫だろう!ちっこい目なんだから!

「ああ今『ぽやん顔』になってますよジャンスさん!見逃さないで!珍しいんですから『ぽやん顔』は」
「なに?!おお…おおおおお…」

ミンチョルはきょとんとした顔でジャンスさんとスヒョンを交互に見た
それから「はぁ~っ」とため息をつき、俯いて掌で口元を隠した

「あれも『苦悩ポーズ各種』の中の一つです」

ミンチョルは少しスヒョンを睨んで後ろを振り返った
俺も一緒になって後ろを振り返ってみた
そこにはギョンビンが突っ立っていた
ミンチョルはクイクイと人差し指でギョンビンを呼ぶ
ギョンビンはミンチョルに顔を寄せて小さな声で聞く

「は…なに?なんですか?」
「あいしゃつがれきない…」
「挨拶ができない…でしょ?」
「らってすひょんがいじわるしゅる」
「…イナさんが聞いてます!しっかり喋って!」
「らって…技仕掛けてないのになんか解説してる…」
「いいんです!貴方の技はほぼ無意識のうちに披露されてる場合が多いんですから」
「…しょうなの?」
「そうです!いいですか?その『らりるれ』は披露しないように!解ってますね?!」
「あ…うん…」
「イナさん!ニヤニヤしないでください!」
「あう…ごめん…」
「さ、ミンチョルさん、気持ちを立て直してしっかり挨拶して」
「あい」
「『はい!』」
「あいあ…はい…」

くひひ…可愛らしいじゃねぇか狐の野郎


撮影   オリーさん

僕とドンジュンさんは、ソヌさんから電話を受けて開店前の店に呼ばれた
歌のHPの映像を撮るそうだ
僕は呼ばれた時間に店の前でドンジュンさんと落ち合った
ドンジュンさんは開口一番僕に聞いた

「僕たちのHPって何よ?」
「さあ・・」
「あのお方から何か聞いてないの?」
「別に・・」
「お前ら、家で会話してないの?」
「してますっ!」
「目を吊り上げるなって」
「吊り上げてませんっ」
「ま、とにかく行こうか」
「ですね」

ドンジュンさんと僕はわけがわからぬまま店の中に入った
店に入るとすでにソヌさんとミンギ君がいた
ソヌさんはスーツのボタンをかけて僕らに近づいてきた
ちょっと緊張・・

「BHCのHPもだいぶ固まってきたから君たちのも進めないとね」
「僕たちだけのHPですか?」
「これはミューズの方に入る予定なんだけどね。BHCのHPにリンク先がないとさびしいでしょ」
「「はあ」」
「でもって君たちのもリンク先がないとさびしいでしょ」
「「はあ」」
「お互い持ちつ持たれつね」

「でも僕ら、まだ歌も決まってないんですけど」
「それはいいんだ。最初はチラ出しで行くから」
「「チラ出し?」」
「そう、君たちの映像をチラリチラリとフラッシュつきで出すわけよ」
「「はあ」」
「んでもって僕たち、今度歌出しますぅってデモンストレーションするわけよ」
「「はあ」」
「んでもって初回は二人の顔みせだから、ちっとカッコつけて」
「「はあ」」
「何、そのとまどいの目は?」
「はあ」
「いいんだ。HPは作ることになってるんだから」
「はあ・・」

ドンジュンさんはすばやくソヌさんの後ろに立っているミンギ君にねじりよった
そして彼を小脇に抱え込んでこそこそと聞いた
「どうなってんのよ、大丈夫?」
「大丈夫っすよ、これ裏でマヨさん仕切ってますから」
「そうなの?」
「チラ出しとか全部マヨさんの案ですから。
ミンチョルさんとも打ち合わせ済んでるみたいっす」
「ギョンビン、やっぱ打ち合わせ済みだってさ」
「僕聞いてませんけど」
「言うの忘れたんじゃないっすか」
「・・・」
「あ、また目が釣りあがった」
「・・・」
「ま、とにかくそういうわけっすから」
「わかったよ、かっこよくピシーっと決めればいいんだね」
「そうピシーっとっやりましょう」
「「らじゃ!」」

「ほら、こそこそ話してるんだ、始めるぞ」
「今日はジホ監督は?」
「けほんっ、全権は僕に委任されてる」
「呼んでないんですか?」
「あの人来るとややこしくなるからいいのっ。ミンギ、僕だけじゃ不満?」
「いえ・・」
「じゃ早速始めよう」
「衣装は?」
「上着だけ脱いで、んでワイシャツ出して襟立てて、ネクタイ緩めにして」
「「こう??」」
「んでもってそのスプレーでちっとヘアスタイル固めて、ちょっとオールバックっぽく」
「「こう??」」
「そうね。前髪はチラリ垂らして」
「「こう??」」
「そうね」

「んー!!!ちゃうちゃうっ!!!もっとネクタイだらしなくゆるめてっ!!!最近の女子高生みたいにぃ!!!」

「監督・・」

「何で僕に声かけないのよ。仲間はずれにしないでよぉ」
「仲間はずれじゃないですよ。あなた、この仕事頼まれてないでしょ」
「BHCのHPやってくれってマヨさんに言われてるもん」
「これはドンジュンとギョンビンのHPですから」
「何言ってるのよ、映像絡めばやっぱ僕でしょ」
「んなことありません。それにあんただって昨日僕に隠れて撮ったりしたでしょ」
「あ、やだなあ。やっぱりソヌ君て根に持つタイプなんだ」
「・・・」
「とにかく双子ちゃんのHPでしょ。僕がいなくっちゃ」
「いや、あんたはいい」
「ソヌ君が頼まれたのは映像処理とかの技術方面でしょ。僕は映像撮る方。チームワークよっ」
「あなたとチームを組む気はないです」
「照れ屋さんなんだからぁ」
「ぶほっ」

「先輩も監督もいい加減にしてください。撮らないと店始まっちゃいますよ」
「ああ、そうねそうね。じゃあ二人とも舞台に上ってみて」
「勝手に指示出さないでっ」
「いいじゃん」
「命令系統は一つに。でないと混乱を招く」
「うっさいんだから。軍隊じゃあるまいし」
「二人とも早く舞台に上がってっ!」
「あっ、無視してる」
「うるさいっ!」

「ソヌさん、めっちゃ機嫌悪そう」
「ですね。監督はのらりくらり・・」
「「ひょんだから」」
「笑ってないでさっさと動けっ!」
「「はいっ!」」

「色っぽくカメラ見つめてっ。睨むんじゃないのっ」
「目の吊り上げは5度までだって言ってるだろっ!」
「頬をたるませるなっ、膨らませるなっ!」
「これは君たちのプロモなんだよ、真面目にやってよ」
「先輩、ふたりともふざけてるようには見えませんよ」
「ミンギっ、何でじゃああんなにぎこちないわけ?あいつら」
「それは、その素人だから」
「ちっ、それじゃ困るだろ」

「はいっ、もう一回、色っぽくカメラ目線っ。違うっ!色っぽくっ!」
「先輩、あんまり怒鳴らないで」
「だって・・」
「二人ともちょっとふててますよ」
「生意気な・・水っぽくして、あの二人」
「え?」
「水かけてよ、そう、バケツでばしゃーってさ」
「せ、先輩・・」
「ぬれる?いいじゃないの。僕なんかもっとすごい目に遭ったことあるよ」
「ちっ、できないの。んじゃスプレーでいいから」

「ええとねえ、ギョンビン君はさあ、スナイパーのイメージでさ」
「そうそう、目を吊り上げて狙いを定める」
「それそれ、んでもって獲物は・・・・・きちゅねっ!」
「くふん、そうそう・・じっとカメラ目線でね」
「ほら、ちっと色っぽくなっただろ」
「・・・」

「次にドンジュン君はさあ、車のフォルム思い出して」
「そうねえ、じゃぐあとかぽるしぇとか優雅なスポーツタイプね」
「そうそう、その車に乗ってるのが・・そう、天使っ!」
「ほら、いい感じじゃん」
「・・・」

「んでもってさあ、ギョンビン君片膝立てて座ってごらん、あっとお目目は獲物を追ったままね」
「んでもってさあ、ドンジュン君はギョンビン君の後ろに回って」
「はいはい、ドンがギョンを後ろからヘッドロックしてごらん、片手で」
「そうそう、もう片方の手をさあ、ギョンの胸の内側に入れて」
「はい、ついでに乳首なんかさわってもいいよ」
「ダメ?あ、そう」

「ドン、目線は落とさないの」
「次は、ヘッドロックのことは気にしないでギョンはドンを振り返って」
「ちっとだけ笑って。ほらお友達だから」
「はいOK!次はドンが肘ついて寝転んでみて」

「ギョンが今度は後ろで今度は両膝ついて」
「はい、引き続き獲物ねらってていいよ」
「んでもって、後ろからドンの髪の毛に手を突っ込んで」
「はい、ちっと引っ張り上げる感じでね、おっと優しくね」
「んでもってふたりで顔見合わせて」
「はい、ちゅうしてもいいよ」
「ダメ?あ、そう」

「ほら、いい感じじゃん。こんなんでどう?」
「・・・」
「何よ、何とか言いなさいよ」
「いいんじゃないの、けほっ」
「でしょでしょっ、ねっ、ミンギもそう思う?」
「あ、はい・・」

「じゃあねミンギ、ちょっと風入れて!」
「風?」
「扇風機で舞台の下から煽ってよ」
「はいっ」
「ちょっと勝手に指示出さないで」
「だって動き欲しいでしょ」
「ミンギ、扇風機っ」
「あ、はいっ!」
「だから言ってるじゃないよぉ」
「命令系統は一つに!」
「へそ曲がり君なんだからぁ」
「命令系統は一つっ!ミンギ、風っ」
「そしたらぁステージの上、適当に歩いてみて」
「こらっ!」
「別にいいじゃん」
「よくないっ」

「もうっ!二人ともいい加減にしてくださいっ!風出せばいいんでしょっ!」
「「あ、はい。ミンギさんお願いします・・」」

ぶおおおおおお!!

監督とソヌさんのたぶん息の合った仕事ぶり・・で僕らの撮影は進んでいった
でも一番仕事ができるのは、たぶんミンギ君だろう

監督のリクエストにこたえて舞台の上で歩いたりポーズをとったりしたが
どのくらい時間が経ったのだろうか
そう思ったとき、店の入り口に人影が見えた









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