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ぴかろんの日常
リレー企画 257
ごさいじ・たびのきろく 6 ぴかろん
30分の上半身マッサージコースを終え、身が軽くなったような気がしました
チョンエはまたハーブティーを淹れてくれました
ここだけの話ですが、僕はあまりハーブティーが好きではありません(_ _ ;)
でもヨンナムさんは、爽やかな味だね…とかなんとか言って、チョンエと微笑みあっていばずっ(@_@;)危険ですっ!
僕は慌ててハーブティーを飲み干し、礼を言い、テスからのプレゼントをチョンエに渡しました
箱と小さなパウンドケーキです
チョンエはパウンドケーキを見て、テス君いい奥さんねぇと呟き、それから箱を開けました
「わっ可愛い
モビール
! テス君ったら私がダイビングのインストラクターやってるって言ったからこれを選んでくれたのね…」
「そんなこともやってるの?」
「それとケーブルテレビのレポーターも」
「すごいねぇ君」
「でも本職はコレのつもり」
「ふぅん。かっこいいな。その上美人でスタイルも抜群だ…」
「アジョッシィ、いくら褒めてもハーブティーしか出さないわよ」
「いいよ。僕、好きだから」
「そ?じゃ、少し分けてあげようか?」
「ほんと?嬉しいな♪」
チョンエとヨンナムさんはすっかり仲良しですっいけませんっ(@_@;)
僕は大急ぎで僕からの土産をチョンエに渡しました。綺麗な色のTシャツです。チョンエは明るい色が似合うので、ピンク基調のハデハデTシャツにしました
チョンエは、ありがと、部屋で着るわと言いました。なんで部屋なんだっ!<(`^´)>
「テス君によろしく言っておいて。私の事は本当に気にしなくていいから、デカ顔の人と幸せになってねって(^o^)。私も負けないぐらいデカい顔の人捕まえるわって」
「…しっかり伝える」
…チョンエは『デカい顔の人』が好みなのでしょうか…よかった…ヨンナムさんは『顔はデカくない』ですから…
「アガッシ…、鼻のデカい男は嫌いか?」
「それってアジョッシの事?」
「…」
「…」
「(@_@;)!」
「そうね…考えとくわ」
「(@_@;)だめっ!だめえええっ」
思わず叫んでしまいました
ヨンナムさんとチョンエは、同時に僕を見てニヤリと笑いました
「アジョッシィ…イナが反対するから、私、鼻のデカい男と付き合えないわぁ」
「アガッシ…それは残念だ」
「「ふはははは(>▽<)ひーひーひー(>▽<)」」
ふ…ふざけているのでしょうか…とても不安です(@_@;)
二人はひーひー笑った後、固まっている僕の頭を撫でました
チョンエは笑いながら、マッサージ終わったわよ、これからどうするの?と言いました
僕は引きつりながら、この辺の景勝地を見て、ホテルに向かうと答えました
それなら…と立ち上がったチョンエは、この近くに天地淵瀑布があるから案内すると言って、僕達を自分の車まで連れて行きました
僕は、レンタカーをどこそこの駐車場に止めてあるんらけど、と言うと、見物した後そこまで送ってあげると言われました
いや、でも、仕事中だろ?いいよ、悪いから…と僕は遠慮しましたが、
「いいじゃないかイナ、チョンエさんとは幼なじみなんだろ?久しぶりに会ったのにこれでバイバイじゃ寂しすぎるよ。ねぇアガッシ?」
「そうよイナ。アジョッシ、いい事言うわ。いい男だし。イナなんかにくっついてたら、婚期逃すわよ」
「(@_@;)」
ぼっ…僕はヨンナムさんの幸せのために済州島にやってきたのにっ!なんにもしらないくせにっ!チョンエのぶぁがっ(;_;)
「…あんた何むくれてんの?」
「…むぐれでないもんっ」
「…」
チョンエはまた僕の目を見つめました
「…あんた…危険~」
「なにがっ(;_;)」
チョンエはひそひそとこう言いました
「微妙な距離があると、気持ちって続くのよね~」
「…何のこと?」
「つまり…恋人がアンタに『愛してる~愛してる~』って言い続けるよりも、このアジョッシみたいにつかず離れずいい感じ~って方が、ずっと長く『ほんわかと気持ちいい』ってこと」
「…(@_@;)」
それは…ずぼしかもしれません…
「なんだよぉ二人でこそこそするなよぉ」
「アジョッシごめんごめん」
「何話してたんだよぉ」
「アジョッシも罪作りな男だわぁ」
「ん?なんで?アガッシ僕に惚れた?」
「惚れた惚れた。アジョッシも私に惚れたでしょ?」
「うん。惚れた(^o^)」
「だめだめだめぇぇぇっ(;_;)」
「「あははははは」」
僕はからかわれているのでしょうか?
とにかく二人が『惚れあっている』と言うのがとても気に入りませんし大変気がかりですっ(@_@;)
それから僕達はチョンエの車に乗って、すぐ近くにある
天地淵瀑布(チョンジヨンポクポ)
に行きました
天地淵瀑布(チョンジヨンポクポ)は、天帝淵瀑布(チョンチェヨンポクポ)、正房瀑布(チョンバンポクポ)とともに済州島3大瀑布(=滝)の一つです。丁度チョンエに会った後にここに寄ろうと思っていたので、よかったです。チョンエはダイバーのお客さんをオプションでここに案内することもあるそうで、ガイドにもなれるんじゃないかと思いました
チョンエガイドによると、この滝には伝説が残っており、仙女たちが密かに舞い降りてきて滝壺で水浴びを楽しんだ…とのことです
「チョンエさん、あの滝壺で水浴びしろよ。仙女だと思われるよ」
「アジョッシ。目つきがスケベだわ!」
「あは。でも…滝っていいな…気持ちいい」
チョンエガイドは続けてこう言いました
正房瀑布を男性的な風景とするならこちらは女性的で、周囲の鮮やかな緑や清らかな川とともに清々しい印象がある…「天地淵」とは、天と地が出会う池という意味である…
ヨンナムさんはへぇ~ふぅぅんと感心して、チョンエさん、社長になりなよ、手広い商売できるよと言いました。チョンエはにっこり笑って、じゃ、その時はアジョッシを雇ってあげようかと言いましたっ(@_@;)
「だめだめだめっ!絶対だめっ」
「あら、なんでイナが反対するの?…あんたやっぱりこのアジョッシと本格的に何かあるんでしょ!この浮気者っ!」
「ちがうちがうちがうっ(@_@;)」
「ふぅん、どうでもいいけどねフフフ。ここさぁ、3大瀑布の中で唯一夜の11時まで開いてるのよ。夜だとライトアップされてキレイなの。…ホテルはこの近く?近くなら夜もう一度来ればいいわ」
「んと、チュンムンホテルに泊まるんだけど…」
「まあっ!あんな派手なところに?そういえばアンタ、あそこのカジノで働いてたんだっけ。けどチスアッパにお家買ってあげた頃にはチュンムンじゃなくてハルラホテルに居たんじゃなかったっけ?アンタ、チスアッパにハルラホテルの方が落ち着きがあっていいとか言ったんでしょ?違った?」
チョンエは機関銃のように僕に喋りました
ヒョンジャ小母さんの顔が目に浮びました
「…そうらけど…、今回はてじゅが…その…チュンムンで研修するからチュンムンに泊まるんだ…」
「『てじゅ』ってアジョッシの従兄弟であんたの本命の人ね?ふぅん…。あれ…そういえば、チュンムンには確か、スヨンさんがいるんじゃなかったっけぇ」
「…しゅ…しゅよんはチュンムンホテルだけじゃなくて、中文リゾート全体のアドバイザー的な存在だっててじゅが…」
僕は機関銃チョンエの口攻撃にしどろもどろになりました
するとチョンエはまた僕をじぃぃぃっと見て、それからヨンナムさんの方を向きました
「アジョッシ、私、信じられないわ。昔イナはすっごぉぉく格好よくて硬派だったのよぉ。それが、こんなショボショボしちゃってさぁ…」
「うん、テジュンがイナをこんな男にしたんだ」
「…。ブルガリブラックで骨抜きにするのね!」
「そーそー。いやらしいんだアイツ」
「…。アジョッシも…素質あると思うわ」
「いやぁテジュンには絶対適わないよぉ」
「…。そうなの?イナ」
「しょんなことないよ。ヨンナムさんは十分素質ある…げへっ…いや…ごほっ」
「「…」」
「…」
だからっ!僕はっ!ヨンナムさんをスヨンに会わせようと思ってこの島に来たのであって!
ああうう…もうっ!
僕が頭を掻き毟ってキイキイ言っていると、チョンエがまた電光石火のチューをしました(@_@;)
「あ゛」
「あんた可愛らしすぎるわよ。ダメよ、彼氏の前でだけにしとかないと、アジョッシが気の毒よ」
ヨンナムさんは苦笑いして滝に目をやりました
気の毒?僕は『毒』なのでしょうか…
「あんたもちゃんと幸せでいてね」
チョンエはにっこりと優しく僕に微笑みました
やっぱりチョンエは『いい女』です
それからチョンエは、あとの2大瀑布には必ず行けと僕に命令しました。そして他にどこか行ったのかと聞きました。僕が答えようとしたのに、ヨンナムさんが先に松岳山に行ったと言いました
「ちょっと待って、ってことは、中文通り越して西帰浦に来たの?また戻るの?あっちにも天帝淵瀑布があるのに見てないの?」
と騒ぎました。らって天帝淵瀑布はチュンムンホテルから近いから、明日の朝でも行けるもん、とにかく今日、チョンエに会わないと、テスからのパウンドケーキが腐るかもしれないと思ったんだもん…と僕が唇を尖らせると、チョンエとヨンナムさんの目がキラリと光り、二人同時に僕の唇をぎゅっと摘みました
とても痛くて涙が滲みました。すると、二人同時に「か~わい~い」と言いましたっ(@_@;)
なぜこの二人はこんなに気が合っているのでしょうかっ(@_@;)本当に大丈夫でしょうかっ!
でもヨンナムさんが結構楽しそうなので、まあいいかと思いました…
チョンエは僕達を、レンタカーの止めてある駐車場まで送ってくれました
「じゃあね、また来てね」
「うん。チョンエも元気でな」
「テス君によろしくね」
「うん」
「アジョッシ、また会おうね」
「アガッシ、僕の名前、覚えておいてよね」
「ヨンナムさんでしょ?解ってるわよ」
「頑張って夢叶えてね、チョンエさん」
「うん。じゃ…」
チョンエはあっさりとバイバイして去っていきました
僕はチョンエの車を見送って運転席に乗り込みました
「お前、ほんとにいい人達に囲まれて育ったな」
ヨンナムさんは微笑みながら言いました
「そろそろ『本命』のところに行こうよ、あいつきっとヤキモキしてるよ、イナ」
…そだな、着替えもしなきゃなんないし…、食事の前にシャワーもしなきゃいけないよな…
僕は黙って車を動かしました
チョンエが言ったように、僕達は松岳山から西帰浦まで、中文リゾートをスルーしてやって来たので、ちっと戻らなくてはなりません
ヨンナムさんは、僕に、不経済なことをするやつだとブツブツ言いました
ふんっ!僕の気も知らないでチョンエと仲良くしてっ!ふんっ
「あー…僕、チョンエさんに弟子入りしようかなぁ、マッサージ、できるようになるといいなぁ」
「なんでチョンエに弟子入りっ(@_@;)」
「ん?妬けるか?」
「ぢがう!(;_;)」
「んふふ…ふははは」
ヨンナムさんは笑いながら、僕の髪をくしゃっと撫でました
ふっとベルガモットの香りがしました
そうして僕達は、テジュンが仕事しているチュンムンホテルに着いたのでした
僕の居る場所 足バンさん
その日は昼まで寝てやるって思ってたのに
携帯の音に目を開ければ、陽はまだ高くない
例の徹夜の余韻かボーッとして
散らかった自宅のどこに音源が落ちてるのか、一瞬わからなかった
正直言えば、昨夜スヒョンにキツいこと言ったのが気になって寝つけなくて
真夜中まで撮り溜めのF1を観ちゃったからなんだけど
ーパク・ウソクからメールが届いてるわよ
ハリョンのパキパキとした声に一気に覚醒
セキュリティの都合で転送不可だから、僕はすごい勢いで身支度をして家を飛び出した
「はい、これ彼個人の残りの資料」
「サンキュ、目新しいことある?」
「パク・ウソク、パリ第8大学はいいとして、専攻がね哲学だって、何だか意外でしょ」
「へ…ぇ…」
それは意外…
何となく…ぼんやりとあの写真を思い出した
一枚だけ見つけた経済雑誌の記事
事業提携のパーティのようだけど
パクの爺さんと長男とどっかのおじさんたちが映っている写真の、そのずっと後方に
手にグラスを持ち肩越しにこちらを見るあの男が立ってた
その鋭い視線の先は…手前の爺さんたちだろうか
ヤツにも、他人に言えない想いなんてのもあるのかな、なんて考えちゃうのは
履歴なんていう硬質なもので知ってしまったヤツの生い立ちのせいだろうけど
あの冷めた目の根拠に興味がないと言えば、嘘になるかな
メールには、昨日手渡したデータについてのいくつかの疑問が
それはそれは淡々と簡潔な箇条書きにされていて
勿論、憎たらしい嫌味も、高飛車な物言いもないわけで
僕は、その当たり前なビジネスメールにちっと拍子抜けした
でも…的を射た指摘にいちいちガックリしながらも
ホントにこういうことが得意な奴はいるもんだと感心もする
特許関係については周到なつもりだったけど、社員の知財までは考えてなかった
これからはそういうことに鈍感じゃ世界についていけない
夢が過ぎるって…ずいぶんな言葉だとは思ったけど
客観的な視点が必要だってよぅくわかって
認めざるを得ない…ヤツの「才」を
「じゃ私、出掛けてきます」
「うん…って、ねぇハリョン、ちっと顔色悪くない?」
「王様が山ほど仕事を置いて行ったもので」
「ギス明日帰るんでしょ?」
「釜山にも寄るから少し延びるって」
「相変わらず接待接待ってぇ…ドンジュンと浮気するぞって脅したら?」
「悪くないわねぇ…あ、浮気って言えば、夕べあなたの大事な人から電話があったわよ」
「え…何?…誰?」
「スヒョンさんに決まってるでしょ」
浮気→スヒョンって展開の彼女の中の「スヒョン像」には触れずにおくとして
僕が心当たりなかったのも無理はないと思う
スヒョンが僕の知人の誰かに、しかも私用で連絡をとるなんて
ソウルに赤い雪ダルマが降る確率よりもずっと低いんじゃない?
「なっ何の用だって?」
「あなたが疲れてるみたいだけど、仕事で何かあったのかって…適当に話しちゃったけどネ」
「それだけ?」
「それだけって…喧嘩でもしたの?お店で話さないの?」
「うん…まぁ…向こうもメチャ忙しいからさ…」
「気をつけなくちゃね、古今東西、すれ違いの生活は離婚の原因の上位よ」
「ソレそっくりお返しします」
少しは気にしてくれてたんだって嬉しさよりも
ハリョンが何気に口にした冗談めかした言葉の方に、僕は反応した
考えてみれば、僕たちはそれほど長い時間を共にしてるわけじゃない
一緒に住んでるわけでもないし…
何度もそうしようって言われたけど
何となく断り続けてきたのは僕
縛られるものがない代わりに縛るものも何もない
自由ってものがこんなに不安なものだってわかったのは
…最近のことだ
『そちらにドンジュンさん、いらっしゃいますか?』
内線のランプがつき、交換手の高い声が電話を伝える
ギスが出張だと知り、ドンジュンはいるかと言ってきた相手はパチフラだった
落ち着いた低音の英語が懐かしい
「Bonjour!今日はどちらからですか?」
『シンガポールだ、明日はニューデリーだけどね』
「アジア担当にでもなったの?」
『それは秘密、それよりどうかな?順調?」
「Oui~!次にお会いする時には笑って握手できるはずです」
『ん~楽しみだね、で?まだうちに来る気にならないか?』
「しつこ過ぎます」
『次回また誘惑させてもらおう、お土産のタブリエでもエサにして』
「あ、黒いやつだからね、Noir!」
『わかってるよ、ところでパク・コンチェルンのムッシュ・パクから連絡があって」
「え…あ…」
『君のこといろいろ聞いてきたんだけど、何かあったのか?』
「いえ何も…んと…大株主として、うちの動向に慎重なんだと思います」
『ならいいんだが、滅多に連絡よこさないあの男から直通だったから』
「そ…ですか…」
『まぁくれぐれも彼には油断しない方がいい』
「や、やっぱ極悪人?」
『ふふん…自分のことも信用しない男だからな』
「は…?」
『おっと…悪いが時間だ、これから役人と会食でね、またいずれ』
油断なんてしようもないけど…
あいつ、ロジェ氏がどーのって、いかにもなこと言いやがって
今回の件でわざわざパチフラに連絡してたわけ?
いくらラブ君の件がきっかけだったとはいえ
いきなりこんなに一生懸命(っていう言葉はあの男には絶対似合わないけど)
キリョンに切り込んで来るってのはやっぱ不自然なんだろうか
ま、まさかキリョンの乗っ取り?
しこたま持ち上げて基礎だけ作らせて、いざとなったら全部かっさらって
ごっそりパクの物になってて、ギスなんかアラレもない丸裸で
全てを知ってる僕(何を?)なんか跡形もなく抹殺さ…
「どうしたの?ロジェさん何の用だって?」
目の前のキョトンとしたハリョンの顔を見てたら異常に心配になってきた
そしてあのラブ君のこともめちゃくちゃ気になり出した
「あう…いや、ねっさっきのデータ修正、直ぐ取りかかりたいんだけど!」
僕は、メールを元に躍起になって細かい数字を打ち込み
とにもかくにも今度こそ文句を言わせない「ブツ」の完成を急いだ
「だからドンジュン、すごい目だってば」
「だからテソンさん、この味、最高だってば♪」
「毎日開店前に駆け込んで、腹減ったって叫ぶのやめてくれない?」
「だって忙しくて昼メシ食えないんだもん」
厨房のテーブルの隅で「魅惑のまかない五目炒め」を頬張る僕を
テソンさんは呆れたように眺めてる
「ドンジュン…仕事順調なの?」
「うんっ」
「無理に忙しくしてるわけじゃない?」
「へっ?むいなんへ…げほっぎゃほっ」
「ほれ…水」
「げほっ…ふひ…ムリなんてしてませんっ!僕は何かのために仕事に逃げるなんて
そーゆーことはしない男ですから!」
「誰もさぁ…逃げてるなんて言ってないじゃないの」
「う…」
「ねぇドンジュン?…チーフだって…」
箸をくわえたまま上目づかいで見ると
…いや、僕のその視線はきっと説教を待つ子供のそれに見えただろうけど…
テソンさんはふぃっと笑って大袈裟に肩をすくめ
まぁいいか、と言いながら立ち上がった
「さてと、明日のメニューは何がいい?どうせ来るんでしょ?」
「あ?…えとっ…ビ、ビーフンとかっ!」
「はいはい、じゃあその分も働いてね、今日はメンバー少なめだから頑張っといで」ペンッ
そう、その日の店はちょっとばかりいつもと違った
スハ先生はまだお休みだし、急なボストン行きのギョンジン兄貴がいないのは
けっこうポッカリした寂しさだったりする
それを一番補ってたのは、明日チェジュドに行くっていう元気なイナさんだったかも
そして映画組は…今日はお休みだ
「わおっ!マダムたち、こんな高いの入れてくれたの?」
「ドンジュン君お仕事頑張ってるみたいだからね~かんぱーい」
「うひん~ありがと!ほれ、ジュノ君もお礼」
「あ…は、はい、ありがとうございまつっ!」
「「きゃあ~♪ジュノ君、カンだ~♪」」
喉を通るシュワシュワの液体は
初めてスヒョンちに泊まった時に飲んだシャンパン
「ドンジュン君、いつになくいい飲みっぷりねぇ」
耳ダンボで聞いてたはずの、恒例の「チョンマンの現場報告」を
あまりよく憶えてないのはどうしてだかわからない
海のシーンは僕の中でけっこう印象的で
初めて台本を盗み読んだ時も、すごく沁みた
だから…その切なさとあのふたりが重なると
どんなに平たく考えようとしても胸がざわざわと波立つ
うまく行ってますように、っていう本気な願いと同時に
ふたりの息が合わなくて困った~なんて話をどこかで期待してる自分に気づいて
ひとりドキドキしてるのを誰にも知られたくなくて…
ギョンビンの顔さえまともに見られなかった
だからその夜
ずいぶん迷った末に、スヒョンちに行くことにしたのは
次の日が撮影の休みだってことなんかじゃなくて
あいつの顔を見て「ちゃんとうまくいった」ことを確認して
自分の意識下の罪は、子供っぽい「無駄」だったと笑いたかったからなのかもしんない
帰ってきたら思いきり「お帰りなさい」って笑うつもりだったけど
革のソファで時計の針の小さな音を聞いてると
段々そんな勇気も萎えてきて
11時を回ってスヒョンが帰って来た時には、まるで何でもないように
ホントに…コンビニに行って来た友人に掛けるような…
そんな「おかえり」しか言えなかった
スヒョンは「来てたの?」と笑ってコートとジャケットを脱ぎ
ソファの背に顎を乗せた僕のデコにチュッとやった
ほんの少しのお酒の匂いと…ほんの少し海の匂いがした
「お酒飲んだの?」
「ああ監督たちと…少しだけね…紹興酒」
「も少し何か飲む?よく寝られるでしょ」
「ああ、シャワー浴びてからもらおうかな」
バスルームからずいぶん長いこと出てこないから、心配になって覗くと
スヒョンは湯を張った浴槽の淵に頭を乗せて目を閉じてる
RRHには及ばないけど、大人の男が足を伸ばせるくらいの浴槽はほとんど僕専用で
シャワー派のスヒョンが使うことはまずないから
余程疲れてるんだって思った
声をかければ、湯気に濡れた睫毛がゆっくりと開く
「バーカだなぁ…溺れちゃうよ?」
いつもなら2倍か3倍になって返ってくる戯言もなく
にっこり笑ったかと思うと、また目を閉じる
僕は浴槽の外にしゃがんで袖をめくり
湯を染み込ませたスポンジで肩の辺りをそっと拭いながら口を開いた
「ね…今日ね…久々にパチフラと電話で話したんだ…相変わらず忙しそうでさ
今日シンガポールで、明日インドだって…ホント元気なおっさん
それからテソンさんの五目炒め食べたことある?…うまかったぁ
でも、あんまり続けるとマヨさんに怒られちゃうかなぁ」
スヒョンは時折目を開けたり、また閉じたりしながら
たまに少し口を開きかけて止まり
いつもの柔らかい微笑みのまま、黙って僕の話を聞いている
ホントは、昨日のハリョンへの電話とか、今日のこととか
聞くべきことは山ほどあったんだけど
何かを質問して…何かを聞き返されるのが少し…ってか、かなり嫌で
でもそのままそこにスヒョンを残して出ることもしたくなくて
とり留めもないことをツラツラと喋り続けた
結局
風呂から上がったスヒョンは、コップ1杯の冷たい水を飲んだだけで
そのままベッドに倒れ込んで寝てしまった
薄暗い部屋のソファの上、パジャマ姿の僕はひとりビールを飲みながら
数メートル先で寝息を立ててるあいつを長いこと見ていた
ベッドサイドの飴色の電燈に照らされた髪はまだ少し濡れてて
伏せて半分布地に埋もれた顔は艶やかで…
上掛けから出た肩肌は、滑らかな曲線の陰影に浮かぶ
僕は抱え込んでた両足をぐっと締めて
まだそこそこ冷たいビールを喉に流し込んで
身体の芯に湧き上がってこようとする本能に抵抗した
スヒョンに触れたくて触れたくて
でも絶対に絶対に触れたくない僕
ブラインドを閉めてない正面の硝子戸には
やはり飴色の陰影の、惨めなほどの幼稚が映ってる
唇は
何度舐めて濡らしても
直ぐに乾いて
Distance 4 オリーさん
冬の海は穏やかに凪いでいた
その色は水平線で空の灰色とまじり群青が暗いトーンに染まっている
この空の下、この海辺のどこかで彼は撮影している
あの人と…
兄さんと先生を見送った後、空港の駐車場で
僕はその場所に行くかどうかしばらく迷っていた
高速道路で南へと下り、2時間くらいで着くことは知っていた
夏には海水浴客で賑わう海辺の国立公園は有名だったから
でも海のロケならば、あの場面なのだろう
それが見たいのか?
何度も僕は自分に聞いた
自問自答に疲れ、最後には物理的な要素だけを考えた
今出れば、昼過ぎには着けるだろう
そして夕方前に引き上げれば店には間に合う
店には間に合う…
そう呟いてエンジンをかけた僕の心は決まった
昼食のため一度休みを取っただけで海を目指した
寝癖を笑った彼の笑顔を思い出しながら
アクセルを踏んだ
海には昼少し過ぎに着いた
冬の海岸に人気はなく、打ち寄せる波だけが小さく白く泡立っている
海岸線を下っていけば、どこかで撮影現場に行き当たるだろう
見つからなかったら、そのまま帰ればいいことだ
僕はそう言い聞かせて車を走らせた
けれどその場所は、すぐに見つかった
閑散とした海岸に、撮影の一隊は目立った
数台の大型バンと何幕か張られたタープ
そのそばで焚かれているオレンジ色の火
あたりを行きかう人々やそれらしい機材
少し離れた海岸線にはレールのようなものが引かれ
その上にカメラが乗せられている
海岸を歩く二人を追うのだろうか
僕はその場所を眺めながらゆっくりと通り越し
しばらく行った所で車を道端に停めた
それから海岸にそった雑木林にまぎれた
林はやや高台になっていて
撮影現場を少し見下ろす感じになる
僕は現場側の一本の木の根っこに腰をおろした
現場では人々が機材を動かしたり戻したりと
忙しそうに行きかっている
想像以上にその大がかりな様子と人の多さに
僕は少なからず驚いていた
と同時にどこかでほっとしていた
この中でジンとヒョンジュがその役柄を越えて
何かを求め合うというのは不可能だろうと感じたから
しばらくすると、焚火の向こう側からふたつの影が出てきた
波打ち際のあのレールの近くに歩いていく
たぶんジンとヒョンジュが散歩する場面なのだろう
僕は二人の姿を膝を抱えて見つめていた
監督とその助手だろうか
2・3人のスタッフと話した後、二人の影は波打ち際に立つ
それから静かに二人は歩き始めた
レールの上のカメラがカメラマンごと少しづつ移動していく
ジンの後ろをゆっくりとついて歩くヒョンジュ
追い抜いてその前を歩くヒョンジュ
手を伸ばしてヒョンジュをそばに引き寄せるジン
寄り添って歩く二人
また離れては…しばらくして寄り添い…
彼は今どんな顔をしているのだろう
そしてあの人は…
そう思った時、背後で空気が動くのを感じた
振り返ると見知った顔が僕に笑いかけた
「いやあ、やっぱり鋭いなあ。驚かそうと思ってたのに」
ジホ監督だった
「監督こそよくわかりましたね」
「鋭いでしょ、僕も」
監督は軽くウインクした
「なんちゃってね、実はさっきチョンマン達が先に帰ったんだけど
その時に、道の向こうのローバーが目に入ってさあ。どっかで見たなあって」
「ああ」
「んで気になって車のとこ行って、そんであたりを見回したわけよ
そしたら青年2号がこっそり撮影見てたってわけ」
監督は僕の横に腰をおろした
「こっそりって…」
「どうしたの、あっちに顔出せばいいのに」
監督はずけずけと物を言ってくれる
「いえ…何か邪魔するような気がして…」
「そうかい?そんなことないと思うけど」
「撮影は順調ですか?」
「うん、運よくお天気まで味方してくれてね、すこぶる順調」
「そうですか。よかった…」
「いきなり思い立って来たの?」
「ええ…まあ。兄さん達を送って仁川空港まで出たので
何となくそのまま車飛ばしてきちゃいました」
「そっか、あっちのジンはボストンだっけ?」
「ええ」
「そうだった、チョンマンもそれで早めに帰したんだった」
「監督は?」
「僕は一応撮影終わるまでつきあって、それから出るわ。店には少し遅れるかな」
「僕はもう少ししたら行きます」
「まだいいじゃない。来たばっかりでしょ?
そうだ、あっちに行こうよ。コーヒーご馳走するから」
「いいですよ。ほんとにすぐ帰りますから」
「いいからおいでって。もっと近くで目立たない場所知ってるから」
監督は立ち上がって僕においでおいでをした
何度もほらほらと言う監督に根負けして僕は立ち上がった
「スタッフ用の大型バンがあるからさ、そこで見ればいいよ」
「いいんですか?」
「ヒョンジュの恋人でぇすって言えば、みんな大歓迎してくれるから」
「監督っ」
「冗談だってばぁ」
監督はばんばんと僕の肩を叩いて歩きだした
二人は何度目かの波打ち際を歩いていた
監督は焚火のある場所から一番遠くのバンの前に僕を連れて行った
「えっと、そこ椅子にかけて。あっと、そこのカワイ子ちゃんっ!」
監督に呼ばれた若い女性が何でしょう、と立ち止まった
「君さあ、ジン派だっけ?ヒョンジュ派だっけ?」
「何ですかあ、監督。いきなり」
「この間どっちがいいかって騒いでたじゃないの」
「二人ともいいと思いますけど…私はどっちかと言うとヒョンジュかな…」
女性がはにかんだ笑顔で答えた
監督はにんまりと笑って僕を振り返った
「ね?彼氏人気者だよ」
「…」
「んでもって、君、ヒョンジュの同居人に熱々のコーヒーひとつお願い」
女性はきょとんとして僕を見た
僕は顔が赤くなるのを感じた
監督は構わずどんどん続けた
「ほら、同居人とか言うと紛らわしくて通じないだろ?
あのね、この革ジャンのイケメンにコーヒー持ってきてくれない?
彼、ヒョンジュのモノホンの恋人なんだ」
彼女は僕を好奇心一杯の目で見つめている
僕は耳まで赤くなった
「監督…」
「いいじゃない、ほんとのことなんだから。コーヒー僕にもお願いねぇ」
その女性はたっぷりと僕を見て、それからバンの後ろへと消えた
「監督、勘弁してください。困りますから」
「いいじゃないのぉ。おっと、ちょっとこれ見てよ」
監督は僕の言葉など聞こえないようなふりして
テーブルの横のモニターをこちらに向けた
「このモニターでさ、ばっちり見れるから」
「え?」
「あっちに一台、監督用にあるんだけどね、こっちでも
スタッフが進行状況チェックするために置いてあるのよ
いちいち駆けずり回らなくていいようにね」
いきなり彼のアップがモニター画面に映し出されていた
ジンを振り返る彼の、いやヒョンジュの顔が
「コーヒーどうぞ」
先ほどの女性が脇から紙コップに入ったコーヒーを差し出した
僕はモニターから一瞬目を離し、お礼を言ってそれを受け取った
「おお、さっそくありがとね。どう?ヒョンジュの彼氏イケてるでしょ?
これくらいでないと、ヒョンジュは落とせないのよぉ」
「いやだ、監督ったら。私はただのファンですよぉ」
監督と女性のやり取りを聞きながらも
僕の目はモニターを追っていた
「ねえねえ、これは君だけの秘密にしといてよ
他の子たちに知れると困るのよねえ。彼ちょっとシャイだからさあ」
「わかりましたよ、監督」
「頼むねえ、カワイ子ちゃん」
僕はちょっと彼女を振り返り、小さく頭を下げた
「監督もいいかげん、私の名前覚えてくださいね」
「おお、名前教えてもらってたっけ?
僕はカワイ子ちゃんだとみんな区別つかなくなっちゃって」
「もう、知らないっ!」
彼女は笑いながら監督を睨みつけて行ってしまった
「コーヒー一杯ありつくのに、これだけ手間かかるのよねえ」
監督は楽しそうに笑った
僕も笑ったつもりだけど、うまく笑えていただろうか
モニターはジンやヒョンジュ
二人が寄りそう姿などを次々に映し出している
「どう?彼氏、なかなかうまくやってるでしょ?」
「ええ…」
「素のようで素でない。その見極めがねえ、この人の場合難しいよねえ」
「…」
「演じてるかもしれないって思わせる節もあるしねえ」
「…」
「ね、どう思う?」
監督が僕を振り返った
「演じてると思いますよ。僕の知らない顔してます」
「君の知らない顔?」
「今まで見たことない顔してます…とても無垢な…それでいて哀しい」
「そっかあ、やっぱヒョンジュは適役だったねえ」
監督は嬉しそうに微笑んだ
演技であるのかどうなのかは僕にもわからない
でもそれだけは本当だ
僕の見たことのない顔をしている…
「順撮りの効果もあったかもねえ」
「順撮り?」
「役者が感情移入しやすいように、ホンの順番通りに撮影するのよ
今回は二人が素人だもんでね、それでやってるの」
「そうなんですか」
モニターでは浜辺のシーンが繰り返し映し出されているけれど
その撮影はすでに終わっていた
「今度は二人の砂浜のシーン。ヒョンジュが煙草吸うとこ」
監督の解説で、僕はその場面を思い出した
確か、ヒョンジュがジンの煙草をねだるのだ
その瞳だけで…
そしてその後
二人の最後のくちづけ
僕は冷めたコーヒーを一口飲んだ
それからも僕はモニターを見続けていた
どこかに彼を探して
僕の知っている彼がどこかにいないかと
ずっと探した
無駄な努力だったけれど…
しばらくして、砂浜でのシーンが始まった
煙草に火を点けるジン
それをねだるヒョンジュ
笑いながらヒョンジュを見守るジン
モニターは容赦なく二人の絡みを映し出す
これは映画の世界
台本がある世界
現実と違う世界
僕は色々な理由を探していた
そして格闘の末、無理やり納得した
僕が知らない彼がいるという事は
やはりこれは演技なのだと
彼はヒョンジュを上手く演じているのだと
そうでなければ、あんな口づけはできない
モニターの中で彼の腕がジンの背中に食い込んでいった…
「いやあ、いいねえ…二人とも」
監督が傍らで思わずため息をついた
「ね?二人ともやるじゃん?」
「そうですね」
「おーっと、青年2号よ、これは映画だ。わかってるな?」
「わかってます」
「ならよろしい。コーヒーおかわりもらう?」
「いえ、大丈夫です」
「そっか」
砂浜のシーンが終わると監督が僕を振り返った
「彼氏、呼んでこようか?」
「え…」
「後はジンのシーンだけだから、あの人一応今日終わりだよ」
「いいです。僕もそろそろ行かなくちゃ」
「まだ大丈夫だよお。ジンのシーンも見ていきなよぉ」
「それより監督、今日僕が来たって内緒にしてくださいね」
「そうなの?」
「そうしてください」
「わかったっ、口にチャックしとく」
「お願いします」
僕は立ち上がった
「ゆるいチャックだけどねぇ」
「監督っ」
「冗談だよぉ、おっと、ジンのシーン、始まるよ。今日、テンポいいなあ…」
砂浜に目を向けるとスヒョンさんが一人で座っていた
僕は立ったまま、モニターの中の端正な横顔を見つめた
先ほどまでのジンではなく
ヒョンジュを失って悲しみにくれるジンの横顔
煙草を取り出し、火をつけようとしたその瞬間
指先から煙草がこぼれた
そしてジンの顔が歪み、黒髪が大きく揺れた
「あれ…ホンと違うな…ああ…でも…」
監督の独り言のような呟きが僕の耳に届き
僕はその場を動けなくなった
片手で顔を覆い、声を殺して泣いているジンの姿…
僕は手を置いていたディレクターチェアの背もたれを握りしめた
これはどっちのあなたですか?
チェ・スヒョン、それともジン?
その答を僕は知っている
ジンの姿を借りて、あの人は想いを噴き出している
彼への想いを…
溜め込んでいた想いを…
片手で覆われたその横顔を
僕はただぼんやりと見ていた
対向車のトラックの大きなクラクションで我に返り
すれすれのところで急ハンドルを切った
トラックの運転手がすれ違いざまに何か怒鳴っていた
撮影現場からアクセルを踏み続け
無理な追い越しを続けた果てのことだった
僕は急に力が抜け路肩に車を停めた
店に遅れるからと
監督への挨拶もそこそこに僕は撮影現場を後にした
頭の中では、ジンの黒髪がずっと揺れている
『お前と張り合うつもりはない』
そう言ったあの人が、降りてきた
そして僕と同じ場所へ立っている
生身の男として
祭りの時からの、いやたぶんそのずっと前から
あの人は…
柔らかい笑顔の下でその想いをずっとねじ伏せてきたのだろう
けれど今、長い間かかって熟成されたその想いが
映画というグラスに注がれはじめている
ジンという器を通して…
ハンドルに突っ伏した鼻先に滴が溜まり
それが次々と滑り落ち
ジーパンの膝小僧の上にいくつもの染みを作っていった
あの人の揺れる黒髪が哀しくて
その想いの深さが恐くて
僕はしばらくハンドルから顔を上げられなかった
先生…今どのあたりを飛んでいますか…
(替え歌) 「COLORS」 ロージーさん
ミラーが映し出す幻に追われながら
いつの間にか速度上げてるのさ
振り切るつもりのアクセル踏み込めば
半端な覚悟には標識も全部灰色だ
揺らめく炎は歪んだ未来描く
あなたは本当に気づいていませんか
青い空の見えない息苦しさ逃れて
無理に追い越す時間は白い風
アスファルトに落ちる瞬間紅い血を噴く
惨めな僕の憐れ身代わりのように
記憶に絡みつく残像は拒んでも
つき纏う見知らぬ色に染まる横顔
僕らは一時(ひととき)迷いながら寄り添って
あれからの季節憶えていますか
オレンジの朝陽の中隣にいられるだけで
幸せだった何も知らない頃は
黒い雲の下で翳ってゆくこの世界
何時か真っ赤に引き裂く僕が見える
もう明日から夢の無い絵しか描けない二人なら
塗り潰してよ想い出も何もかも
白い涙心に蒼い染みを拡げて
今から僕はあなたの知らない色
(宇多田ヒカル『
COLORS
』)
ごさいじ・たびのきろく そしてちぇじゅ・てじゅ part1 ぴかろん
チュンムンホテルのフロントでチェックインしました
ハン・テジュン様のお連れ様ですね?先ほど承りましたスーツは、お部屋に届けさせていただきますと言われ、僕達二人は部屋に案内されました
ベルボーイが僕をチラチラと見ているので、なにかついてますかと聞くと、失礼ですが…キム・イナ様でいらっしゃいますよね?と言われました
そーですけどなにか?:あの伝説のキム・イナさんですよね?:伝説?:ガードマンから僅か一ヶ月でピットボスになり、突然消えたと思ったら舞い戻ってきてスンドン会長を助け、大勝負に勝ちそうだったのに引退してソプチコジの家で愛する人と暮らし、幸せを掴んだと思ったらその家とともに愛も風に飛ばされてしまったという伝説のキム・イナさんですよね?
「くっくっくっ」
ベルボーイの長い伝説説明にヨンナムさんは体を折り曲げて笑いをかみ殺しています
僕は、その伝説、『突然消えた』までにしといてよ、その方がかっくいーじゃん…と答えました
ベルボーイは、承知いたしました、大変失礼を申し上げましたとペコリとお辞儀をしました
そして僕達を部屋に案内し、こちらが承りましたスーツでございます、どうぞごゆっくりお過ごしくださいペコリと出て行きました
用意してもらったお部屋は
ラグジュアリー
というお部屋です
とても広くて素敵です
僕はヨンナムさんにレンタルしたスーツを渡し、シャワーを浴びて着替えるように言いました
ヨンナムさんは、なんでだよとブツブツ言いながらも、かっくいージャケツを脱いで、バスルームに行きました
その間僕は、ヨンナムさんのかっくいージャケツをハンガーにかけ、お部屋の中を確認しました
オーシャンビューです!きいっ!(>▽<)しょしてとっても豪華な雰囲気です、きいっ!(>▽<)
クィーンサイズのベッドと、エキストラベッドが二つあります
…
どういう『ベッド割り』にしましょうか…
えっと…てじゅは仕事でここに来ているのだからやはりてじゅが一人でクィーンサイズのベッドに寝るべきでしょう
そしてヨンナムさんと僕はこのエキストラベッドに一人ずつ寝るべきだと思います
そうしましょう…
エキストラベッドの方が、窓辺に近いですし、気持ちが良いと思います
僕はヨンナムさんのかっくいージャケツを、エキストラベッド付近の壁に吊るしてじっと眺めました
やはりかっくいー…
ちょっと着てみようかな…
バスルームのドアがかっちり閉まっているのを確かめ、僕はそっとヨンナムさんのかっくいージャケツに袖を通し、自分の姿を鏡に写してみました
…
なんか…二の腕あたりがパンパンしてます…
胸と背中もキツめです…
息を吸うとジャケットを破いてしまいそうな気がして、僕はそれを脱ぎました
…脱ぎにくい…うう…ううう…
はぁ…やっと脱げました
僕にはどうやらピツピツです
ヨンナムさんは思ったより細いのでしょうか?見た目には僕の方が細いような気がするのですが…
僕がこんなだったらキツネなんか…
いや、キツネは今減量してるから大丈夫かもしれないけろ…
ウシクは…
(_ _ ;)
僕の頭の中に
「ハルーク!」
と叫んで、ヨンナムさんのかっくいージャケツをビリリィィと破きながら突進してくるウシクの姿が見えました(_ _ ;)
やめましょう…僕達の体型とテジュナム体型とでは根本的に何かが違うようです(_ _ ;)
それから僕は自分の荷物を紐といて自分のスーツを出しました
スヨンに会うのは久しぶりです
たしかミンチョルに誘われて、テスやチョンエやチス叔父貴夫妻…それからチョンウォンもいたっけ…達と、BHCのイベントの後、初めてホテリアホテルに行った時以来じゃないでしょうか?
あの時スヨンは、何故かソンジェ君たちとともに来ていました
そう言えばあの頃は、ラブがミンジちゃんと付き合っていたんだ…
懐かしいな…
そして僕はチニさんと再会し、いいムードになったんだった…へへ…
それに…
それにあの時、僕は初めてテジュンと会ったのでした
まさかこんな風になるなんて、あの時は考えもしなかったのにな…
あの頃、スヨンを思い出すだけでズキズキ痛んでいた胸は、もうすっかり丈夫になりました
スヨンとテジュンが一緒に仕事をしているというのも、とても不思議だなぁと思いました
そしてふふ…
そのスヨンとふふ…
僕の大好きな…いや…僕の大親友の…いや…うんと…僕の複雑な友達の…いやえっとなんて言うのか…
とにかく僕の大切なヨンナムさんとがふふ…
今日初めて『運命の出会い』をしゅるのでしゅひひん(^o^)
うまく行くことを願っています
やがてヨンナムさんが腰にバスタオルを巻いたまま、バスルームから出てきました
僕は目のやりばに困ってしまいましたが、時間がないのでそそくさとバスルームに逃げ込みました
シャワーを浴びて部屋に戻ると、びしっと決まったスーツ姿のヨンナムさんが窓辺の椅子に座っていました
僕はちっとポワンとなりました
「お前…。抱きしめてほしいんだろう!」
「ふぇ?」
「なんでそんな格好してるんだよ!」
え?
ヨンナムさんが僕を睨み付けました
そんな格好って…僕は気をつけたつもりです!
腰にバスタオルだとちっと気まずいと思い、ちゃんとパンツ穿いてワイシャツ羽織ってバスルームから出てきたのですよ!
どーして『そんな格好』と言われるのでしょうか?!
「前をはだけるな!なんでズボンを穿かない?!髪の毛ちゃんと乾かせ!滴が垂れてる!襲ってください状態じゃないか!」
「…え…なんで…」
「無自覚な奴め!」
ヨンナムさんはプリプリ怒ってベランダに出てしまいました
どぉぉして僕が怒られなきゃいけないんでしょう?!納得のいかないまま、僕はスーツのズボンを穿き、タオルでごしごしと髪の水気を取り、ベランダに出ました
「おまえっ!だからここのボタンをきっちり留めろきっちり!」
ヨンナムさんは五つぐらい外れていた僕のシャツのボタンを異常な速さで留めました
きっちり上までボタンを留めると本当は苦しいのですが、今日、僕は『お仲人さん』ですから、きちんとしなくてはなりません
「髪、湿ってるし、もう!」
僕の髪をくしゃくしゃっとしてから最後にデコピンをくれました
「てっ!痛いなぁ!」
「…このスーツ、ぴったりだ」
「あ…や…うん…テジュンと同じサイズだと思って…」
「ふ…。サンキュ、イナ」
「あ…うん…かっくいー…」
しどろもどろになりながら、僕は部屋に入ってネクタイを締め、上着を着ました
その時僕の携帯が鳴りました
テジュンからでした
用意できたら
レストラン・ペニンシュラ
に降りて来いという事でした
僕達は連れ立って部屋を出ました
いよいよ僕の最大の目的遂行の時がやってきましたワクワクワク(^o^)
*****
もうすぐイナに会える♪
ウキウキしていると、僕の正面に座っているスヨンさんがクスっと笑った
「あ…えへ…。けほ…。す・スヨンさん、イナと会うの、久しぶりですよね?」
「ええ。楽しみです。幸せそうなイナさんの顔、見たかったから…」
ふと優しい顔になったスヨンさんに、イナへの深い愛を感じた
「あ、いらしたわ」
スヨンさんが立ち上がった
「スヨン」
くふん♪イナの声だ♪久しぶりだなぁ、早くメシ食って早く部屋に行きたい
どんな部屋なのかな?
僕は秘かに『新婚さん用』といわれている『
シャーロッテ
』を狙っていた
くふふ…この部屋は、浴室の壁…っつーか窓っつーか…がマジックミラーになっていて、お風呂から部屋、そして窓の外の風景なんかが見られるんだって♪
きひ…きひひひっそこだといいなっ♪るんるんるん♪
「イナさん、お久しぶり。お元気そうね」
「スヨンも元気そうだ」
イナとスヨンさんの感動の再会シーン。二人は握手を交わして微笑みあっている
昔夫婦だった二人。今は僕の仕事仲間と恋人…。不思議な縁だな…
「スヨン。こちらはキム・ヨンナムさんと言って、テジュンの従兄弟なんだ」
「まぁ。そっくりでいらっしゃるのね」
「はじめまして。キム・ヨンナムです。テジュンがお世話になっています」
「こちらこそはじめまして。テジュンさん、従兄弟さんとそっくりなのね。驚いたわ」
「ええそうなんです。ヨンナムと僕って昔っから双子のようだと言われ…」
ん?
ヨン…ナム?
*****
テジュンはスヨンに、『ヨンナムと僕って昔っから双子のようだと言われ…』と言ったっきり、固まりました
どうしたんでしょう?仕事がきついのでしょうか?
テジュンはいいとして、ヨンナムさんはにこやかにスヨンと挨拶し、スヨンの左隣に座りました
僕は右隣に座り、二人を交互に見つめました
お似合いです!僕の勘は確かだと思います!
あとはお互いが気に入ってくれれば…
「じゃ、食事を始めましょうか?…テジュンさん…。テジュンさん?どうなさったの?」
「へ?え?あ…いや…。ちっと幻を見てしまってははは」
「大丈夫かテジュン。お前働きすぎじゃないのか?」
テジュンを気遣ってヨンナムさんが言いました
テジュンはそのヨンナムさんをチラリと見て、また固まりました
※リレー258に続く
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