ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

BHC サイドストーリー 4

長い髪の少女  れいんさん

そのの少女と出会ったのは、ゆく夏を名残るような暑い日の事だった
俺とドンヒは店の休みにテジンさん達の家を訪れた
以前、遊びにおいでと誘われた事を思い出したから

休日にデートする女も今のところはいねえし、ドンヒと二人で過ごすのもなんか気まずくて
それにテジンさん達の暮らしにもちょっとばっかし興味があった

二人の家は郊外の静かな場所にあり、風向きの加減では微かにレモンの香りの潮風が漂った
手入れの行き届いた庭に、こじんまりとした白い家
二人は寄り添い微笑んで、俺達を出迎えてくれた

俺達を招き入れ、もてなしてくれたテジンさんとスハ先生
目と目で会話をする二人のまわりは優しい空気に包まれていた


そんな時その少女はやって来た
少女はスハ先生の教え子の一人だという
週に何度かスハ先生が勉強を教えているらしい

透きとおる様な白い肌に、艶のある長い黒髪…
はかなげな美しい少女だった
少女はスハ先生に手招きされ、俺達の前に立ち、恥ずかしそうに長い睫を伏せていた

「この子はね、体が弱くて学校に通う事ができないんだ。だから僕が時々勉強を教えている
賢くて優しくて、とてもいい子だ。だけど、大人しすぎて友達と呼べる子があまりいない
僕はそれがいつも気になっていて…塾がない日でも気が向いたら遊びにおいでと言ってあるんだ。
丁度よかった。ホンピョ君、よかったらあの子とお友達になってくれないかな」

スハ先生が俺にこっそり耳打ちした

へぇ…こんなに綺麗なのに…体弱いのか…
友達がいねぇのか…
ぐすっ…可哀想だな…
俺もひとりぼっちだからさ…今はドンヒがいつも傍にいるけどよ…
ひとりぼっちの寂しさってよくわかるんだ
俺みたいなのでよければ、友達くらいなってやるさ
んで、腹の底から思いっきり笑わせてやるよ

俺はそんな気持ちで、長い髪の少女を見つめた

テジンさんは取引先からの急な呼び出しで出かける事になった
すぐに済む用事だから、夕食は皆で一緒に、と言い残して出かけて行った
スハ先生は夕食の下ごしらえをはじめる
ドンヒはそれを手伝う
結局、暇なのは俺だけらしい

俺は、陽が傾きかけたその庭を少女と肩を並べて歩いた
庭に咲く野花をゆったりと眺めながら、少女の歩調に合わせる
そよ風に少女の髪がなびく
その髪の先が、俺の頬をくすぐる

へへへ…何かいい匂いがする…

「このお花…なんという名前のお花かしら…」

少女の声を始めて聞いた
澄んだ声をしていた

「お?…その花は…えっと…黄色い花だ」

その子がくすっと笑って俺を見た
俺に花の名前なんて聞いたってわかるわけないじゃんか…
黄色い花は黄色い花だ

しばらくそんな風に庭の野花を見てまわり、とりとめもない話をしながら、ゆっくりと時が過ぎていった
少女がどんな病気を患っているのか、俺は聞く事ができなかった

少女が話してくれたのは、父親の仕事の都合で転校を繰り返し
病気のせいで今まで学校も休みがちで、だから親しい友達もできなかった
体の事を心配した両親が、療養の意味で、空気が澄んでいるこの辺りに家を建て住みついた…という事だった

兄弟もいなくて、運動も制限され、スハ先生の塾に通う事のみ、両親に許可されたらしい
だから少女はここに来るのが、唯一の何よりの楽しみだと言っていた

「スハ先生、優しいからなぁ…」
「ええ…先生が私のお兄様だったらどんなにいいかしらって、いつも思っているの」

少女の口元に浮かぶ微笑はどこか寂しげだった

ぐすっ…
俺…なんか泣けてくる
こういうの…弱いんだよな
俺は少女に見つからない様に、目の端を急いで拭った

「向こうには何があるのかしら」

俺は少女の白くて細い指先の向こうに視線をうつした

「ああ、あれはテジンさんのアトリエみてえだな」
「スハ先生といつも一緒にいる方ね?…アトリエ見学しちゃダメかしら」
「どうだろう…テジンさんに聞いてみなきゃわかんねえな」
「そう…中がどんな風だか知りたいわ…でも勝手に入っちゃ叱られるわね」

少女が長い睫を伏せて小さく溜息をついた
だから俺…つい余計な事を言っちまった

「まぁ、ちょっと覗くくらいはいいんじゃねえのか。あちこち触んなきゃさ。後で俺がテジンさんに言っとくからよ」

そういうわけで、少女と俺はアトリエに足を踏み入れた
アトリエの大きな扉は鍵がかかっていなくて簡単に開いた
木の匂いやペンキの匂いが部屋に残っている
作りかけの家具、色とりどりのペンキ缶、不思議な形の工具類、でっかい業務用の機械…

少女は初めて見たその光景を、目をキラキラと輝かせて見ていた

ぐすっ…
この子…こういうのを見るのも初めてなんだな…
ずっと籠の鳥みてえな暮らししてたんだな…

「おい、ぐすっ…あんまり、あちこち触んじゃねえぞ。…服が汚れちまうし…その…ケガでもしたら危ねえからよ」

少女はしばらく珍しそうにあちこち見てまわった後、傍にあった椅子に腰かけた

あ…疲れさせちゃったかな…
結構、歩きまわったからな…

俺は丸いスツールを見つけて、少女の隣に腰掛けた
そして、今度は俺の身の上話をした
俺の生い立ちの事、刑務所に入っていた時の事
本当の兄貴の事、そして今の仕事やBHCのメンバーの事…

少女は俺の話に相槌を打ったり、時折くすりと笑いながら聞いていた
俺は少女が笑ってくれるのが嬉しくて、調子に乗って喋り続けた

その時、ガレージの方からエンジン音が聞こえてきた

「あ…テジンさん帰って来たみてえだ。俺、ちょっと言ってくるわ」

俺は少女にそう言って立ち上がった

その途端、少女の表情がみるみる豹変した
目の色は妖しく光り、口元にうっすらと冷たい微笑みを湛えて
そしてゆっくりと立ち上がり、そこら中にあったものを片っ端から叩き落し始めた
作業台に置いてあった作りかけの物も工具もメチャメチャに…
座っていた椅子さえも投げつけて…

部屋中を一瞬にして荒らした後、今度は自分の着ていたブラウスのボタンを引きちぎった
少女は下着が剥き出しになった姿で、その場にへたり込んだ
目に涙を浮かべて…

「お、おい…何してるんだ…いったいどうしたんだよ…」

俺は信じられない光景に驚いた
とにかく、自分のシャツを慌てて脱ぎ、その子にかけてやろうと足を踏み出した

「そこで何やってるんだ!」

テジンさんの厳しい声がアトリエに響き、俺はその声に振り返った

テジンさんは凍りついた表情で、俺達を凝視していた

あ…テジンさん…

上半身裸の姿で少女の前に立ち竦んでいる俺
無残に引きちぎられた少女は、傷ついた小鳥の様に震えている
部屋は見る影もなく荒れ果てている…

あ…あ…違う…
テジンさん…誤解しないで…
俺…何もやってないよ…

俺が乾ききった唇を開くより早く、少女がテジンさんに駆け寄った
ブラウスの前をかきあわせ、大きな瞳に涙を浮かべて…

「この人が…いきなり…私に…」

俺は頭の中が真っ白になった

冗談だろ?
何言ってんだよ
さっきまで、楽しく話してたじゃないか…
俺…君を笑わせたくて…
君が寂しくないように…
なのに…なのに…なぜ…?

俺じゃない…・・俺じゃないよ…
俺…俺…何も…

テジンさんは肩を震わせ泣きじゃくる少女を、いたわる様にそっと抱きしめた
そしてゆっくりと俺に視線をうつして、低く静かな声で言った

「ホンピョ、どういう事だ?…本当なのか?本当にお前が…?」
「お、俺…」
「叱らないであげて下さい!無防備すぎた私が悪かったんです!
…つい、好奇心で、ここを見学したいって…そして二人きりになって…だから…」

少女はぽろぽろと涙を零して、テジンさんの腕をぎゅっと掴んだ

嘘だろ…
おい、何を言ってる…?
嘘だって言えよ…

テジンさんは少女の背中を優しく撫でながら、困惑した表情で俺を見た

「おまえ!何言ってんだよ!自分が何言ってるのかわかってんのかよっ!
馬鹿野郎っ!この大嘘つき野郎っ!本当の事言いやがれっ!俺が何したって言うんだっ!」

俺は逆上し、大声で喚き散らし、少女に掴みかかった

「やめろ!ホンピョ!やめるんだ!」

テジンさんが俺と少女の間に割って入った
テジンさんの瞳に俺への疑惑が色濃く映っていた

俺はその場に凍りついた
俺は…見事に…嵌められた…
少女の罠にまんまとかかった
俺が逆上し、荒れ狂う事まで、完璧に計算していたんだ
俺は自分の愚かな行動で、テジンさんの疑いを決定づけてしまった
俺は…なんて馬鹿なんだ…!


皆で楽しく過ごすはずだったディナーは、ふいになり、張りつめた空気が俺達を取り巻いていた

もちろん、少女はその場にいるはずはない
スハ先生が別の部屋に連れて行き、落ち着かせているのだろう

誰も何も言わないが、俺に向けられる視線は、明らかに冷たかった
俺は飾り窓によりかかり、ふてくされてプイと横を向いていた

それから結局俺とドンヒは、夕食も取らず、テジンさんに車で送ってもらう事になった

テジンさんは口には出さないが、きっと俺を疑っているに違いない
さっきのあの瞳がすべてを物語っていた

俺は何もかもに腹が立ち、車内でめちゃくちゃに荒れ狂った
汚い言葉を吐き、運転席のシートを蹴り上げた
俺を必死に押さえているドンヒの奴にも、何発かパンチを食らわせた

「おいっ!アンタ、何も言わねえけど…俺がやったと思ってんだろ?
そんな目つきで俺を見るなよっ!
あの子の言う事信じてるのかよっ!あいつ嘘言ってんだぜ!
俺、せっかく優しくしてやったのによ!
どうせアンタも、刑務所あがりの俺がやったと思ってんだろ?
どいつもこいつも結局はそうなんだっ!俺が何言ったって信じちゃくれねえっ!
アンタのそのすかした顔見てるとヘドが出るぜっ!」

俺はテジンさんに罵声を浴びせかけた
悔しくて…悔しくて…

「僕は信じる!」

俺を必死で押さえてたドンヒが叫んだ

え…?
ドンヒ…今…なんて?

「僕はおまえを信じるよ」
「ドンヒ…」
「テジンさん…僕はこいつの言う事を信じます」

テジンさんがルームミラーごしに俺達をちらりと見た

「僕だって…そう思いたい…でもさっきのあの子の怯え方…アトリエの様子…普通じゃなかった…」
「だから!それはあいつが…!」
「黙ってろ!ホンピョ!」
「ドンヒ…」
「なぜ、あの子がそんな嘘をつく必要が…?」
「それは…僕にもわかりませんが…ただ…ホンピョは、そんな事する奴じゃない
こいつはがさつで、礼儀もなってなくて、乱暴な奴だけど…嘘はつかない!
刑務所に入っていた事も知ってるけど…そんな事をする様な奴じゃない
こいつ…寂しがりやで…甘えん坊で…人が好くて…
僕…いつもこいつと一緒にいるから…こいつの事好きだから…
だから…一番よくわかってるつもりです…
お願いですデジンさん。こいつを信じてやって下さい!」

ドンヒは俺を羽交い絞めにしながら、半ベソかいてそう言った

ルームミラーごしに映るテジンさんの瞳が、ふっと優しく微笑んだ

「そうだな。ドンヒの言う通りだ。僕達は仲間だ。僕もおまえを信じる。そんな事する奴じゃない」

その言葉を聞いた途端、すうっと体の力が抜けた
いつの間にか涙が零れてきた
ドンヒが俺をぎゅっと抱きしめた
堪らなくて俺は大声をあげて泣いた
子供みたいに泣きじゃくった


「ホンピョもう泣くな」
「ひっく・おめえこそ何泣いてんだ…」
「馬鹿野郎!泣いてなんかないよ」
「ぐしっ…ドンヒ…ぐしぐしっ…ありがとよ…信じてくれて」
「むず痒くなる様な事言うな…おまえの事は僕が一番知ってるさ…だから…な?もう泣くな」
「ぐしゅっ…ドンヒ…ぐしゅ…うわぁぁん!」

ドンヒは俺の背中をずっと撫で続けてくれた
テジンさんが流してくれたBGMで俺の泣き声はかき消された

(曲: アンチェインドメロディ

ひとしきり泣いた後俺の中にある疑惑が浮かんだ
点と点が結びつき、それはだんだん確信へと変わる

もしかしてあの少女は…

「テジンさん!家に引き返して!早くっ!」
「どうしたんだ?」
「…あの子の目的はスハ先生だ!」

スハ先生の事を話す時の少女の顔…
あの子はきっとスハ先生の事が…
だから一芝居うって気を引いた…
俺を利用して…

「早く!テジンさん!」

なのにテジンさんは顔色一つ変えず、ハンドルを握ったまま真っすぐ前を見つめていた

「…スハなら大丈夫だ」
「そんな!」
「君達が信じあっている様に、僕もスハを信じてる。スハの事だ…きっと、うまく解決する」

フロントガラスを見つめるテジンさんの瞳は深く澄んでいた
それは決して平穏ではなかったはずの二人の、揺るがない愛を物語っていた

ガラス窓に雨がつたい落ちる

通り雨か…
先程の晴れ間が嘘のようだ…


僕は少女を寝室で休ませていた
取り乱していた少女は、少しずつ落ち着きを取り戻していた

「スハ先生…私…怖かった…」
「本当に、すまなかった…。僕がいながらこんな事に…君をこんな目に…」
「スハ先生…」
「ホンピョ君は…本当はとてもいい子なんだ…どうか許してやってほしい…」

まだ小刻みに震える少女は、はだけたブラウスをぎゅっとかきあわせていた

サイドボードに温かい飲み物を置き、クローゼットから僕のシャツを取り出す

「サイズは大きいと思うけど、よかったらこれを着て…」
「…はい」
「少し休んで落ち着いたら、家まで送って行こう。…ご両親にもちゃんと話してお侘びしなきゃいけないから…」
「それは…ダメです!」
「…?」
「先生!両親には内緒にしておいて!でないと…私…もうここには来られない…」
「でも…そういうわけには…」
「お願いです!…ここに来る事だけが、私の唯一の楽しみなんです…それを私から奪わないで!」
「…わかった…君の言う通りにしよう。二度とこんな事が起きないようにする
詫びてすむ事ではないけど…本当にすまなかった」
「先生…」
「さ、僕は下で待っているから、気分が落ち着いたら呼んで」
「…待って、先生!」
「…?」
「まだ…ここにいて下さい。私の傍にいて下さい」

少女は僕のシャツの袖を掴み、心細げにそう言った

僕はどうしたものかと躊躇ったが、少女の手を振り解くわけにもいかず
ドアの取っ手にかけた手をおろした
そして少女の肩に手を置き、ゆっくりとベッドに腰掛けさせた

彼女が腰掛けるのを見届けてから、傍にあった椅子に腰を下ろした
そして膝の上に置いた詩集を開いた
ふいに彼女が顔を上げ、口を開いた

「先生…私…もうすぐ先生に会えなくなるんです」
「え…?なぜ?またどこかに引っ越すのかい?」
「いいえ…私…病気が思わしくなくて…もうすぐ手術を受けるんです
とても難しい手術で、成功するかどうかもわからない…」
「そうだったのか…大丈夫だよ。きっとうまくいく」
「そんな簡単な手術じゃないの…私…もう助からないかもしれない…」
「そんな風に考えちゃダメだよ。必ずうまくいく…君はとてもいい子だから、神様がちゃんと見守っていてくれる」
「先生…私…いい子なんかじゃないわ」
「そんな事はない。君は…」
「…私…先生に会えてよかった。先生だけが私の生きる支えだった…」
「君…」
「私…スハ先生の事が好きです…」

少女は濡れた瞳で僕を真っすぐに見つめた

僕はどう答えたものか迷った
まだあどけない少女の言葉の真意を測りかねていた

「…僕も君の事は好きだよ。君はとても優しい子だ」
「そんなんじゃないの!子ども扱いしないで!私は…先生を愛しているの」
「君…」
「先生にとって私はただの生徒?女としては見てくれないの?」
「僕は…」
「好きな人がいるのね」
「…」
「私…知ってます。一緒に暮らしているあの人…先生はあの人を愛しているんですね?」
「…」
「でも、先生とあの人は似合わない。…男性同士で…そんなのおかしいわ。先生らしくない」

「…よく聞いて。…僕は彼をとても愛しているんだ。誰にどう思われても構わない
彼は僕にとって何よりかけがえのない存在だ
これまでの人生の中で、今が一番僕らしく生きている」
「…そんなの認めない…そんな話聞きたくない
先生…私、急いで大人になるから…私を見て…」

少女はおもむろに立ち上がり、着ていた物を脱ぎ捨てた
そして一糸纏わぬ姿を僕に曝け出した

「君、何を…!やめなさい!早く服を着るんだ」

僕は少女の裸体から目を逸らした

「先生…お願い…私を…抱いて」
「馬鹿な事を言うんじゃない!」
「手術をしたら、私はどうなってしまうかもわからない
恋も知らず、好きな人に抱かれる事もなく、この世を去りたくないんです。だから…」
「君…」

僕は落ちた服を手に取り、少女の肩にふわりとかけた
そして少女をそっと抱きしめた

「先生、お願いです。私、ずっと決めていたの。先生に私をあげるって
…だから、あんな騒ぎを起こしたの。どうしても先生と二人きりになりたくて…
先生に私の気持ちを伝えたくて…
そんな機会などなかったから…あの人がいつも先生の傍にいたから…」

「じゃあ…さっきの事は…」
「ごめんなさい。ホンピョさんには酷い事をしたわ。私に優しくしてくれたのに…
謝って済む事ではないけど、私にはこれが最後のチャンスだった…」
「…」
「他に方法がなかった。好きな人に抱いてもらえる事なんて…もう…」
「…君の気持ちはわかった…」
「私を軽蔑したでしょう?私の心は汚れているでしょう?」
「…自分の事をそんな風に言っちゃいけない」
「何と思われてもいい。先生が私を愛してなくてもいい。私に生きたという確かな証拠を下さい」
「君…」
「もし、手術が成功したとしても、私の身体には醜い傷跡が残ります
傷一つない綺麗な身体の私を先生にあげたいの」

腕の中の少女の必死な想いが僕の中に流れ込む
僕は少女をぎゅっと抱きしめた
少女の手が僕の背中に回された

「僕の事を想ってくれて…ありがとう」
「…」
「君の気持ちはとても嬉しい。それは本当だ。…でも、君を抱く事はできない」
「どうして?私はそんなに魅力がない?」
「違う。君はとても美しくて魅力的だ。僕にはとても眩しく見えるよ
君を抱きたい気持ちと、今、必死で戦っているところだ」
「先生…」
「でもね、綺麗な身体のうちに、なんて考えちゃいけない
君は手術の前も後も何も変わりはない。綺麗なままだ
それにね、そんな大事な事は、愛し愛される相手とじゃないといけないよ
僕にその資格はない」
「私は好きな人に抱かれたならそれでいいの」
「君が探している人は僕じゃないよ」
「…」
「僕の心の中にはいつも彼がいる。彼が悲しいと僕も悲しい
彼が感じている事を僕も感じる。そんな僕に抱かれて君は幸せかい?
一時の感情に流されて、ただ身体だけ求め合っても虚しくなるだけだ
本当に愛し合っている人と結ばれた時の悦びを僕は知っている
だから…君にもそんな愛を見つけてほしい
互いに心も身体も求め合い結ばれる…そんな愛を見つけるまで、君は生きなくちゃいけないよ」
「先生…」
「ね?僕と約束してほしい。最後まで生きる事をあきらめずに頑張ると
いつか、君を愛してくれる素敵な人と巡り会って、本当の愛を知るまで、自分を大切にすると」
「先生っ」

少女は僕の胸に顔を埋め、激しく泣きじゃくった
少女の涙が僕の胸を濡らしていく
少し大人びた少女が、あどけない少女の顔に戻った気がした
僕は少女の額に、祈りを込めて、そっと口づけをした

少女を送り、帰路につく
何気なく夜空を見上げる
激しい通り雨は止み、雲の切れ間に星がまたたく


あれでよかったのだろうか…
ああするしかなかった…
何度も自問自答を繰り返す

果たして、少女の心は救われたのだろうか
でも、今の僕にできるのは、少女のために祈る事…
ただ、それだけだ


家に戻ると、ガレージに彼の車が止まっていた
それはいつもの風景なのに、彼がいてくれる事が
こんなにも嬉しい
扉を開けるとそこに彼がいる事が、沈んでしまいそうな僕の心に光を与えてくれる

「おかえり」
彼が僕を見てにっこりと微笑んだ

「だだいま」
使い慣れたはずの言葉なのに、照れ臭いのはなぜだろう

彼は少女の事を何も聞かない
僕も何から話していいのかわからない

「ホンピョ君の様子はどうでした?」
「うん、もう大丈夫。最初はかなり荒れてたけどね」
「あの…さっきの件は…あの子の誤解でした。ホンピョ君は何も悪くないんです」
「わかってるよ」
「それで…」
「…いいよ。もう何も言わなくても」

彼はコーヒーミルを操作しながら、僕の言葉を優しく遮った

ああ…
彼は何もかも解っているんだ
少女の気持ちも、僕が出した答えも…
何も聞かず、何も云わず、僕を無条件に受け入れてくれる
僕は流線型を描いている彼の背中を見つめた

この人が好きだ…心から…
僕は彼の背中を後ろから抱きしめた

「ん?どうした…?」
「いえ、何も…ただ、こうしていたくて…」
「そんなに僕が恋しかった?」

悪戯っぽく云うときの彼の口元
片方だけ唇の端が上がる
彼のそんな癖の一つ一つも、僕にはとても心地よい

彼がコーヒーカップを差し出す
小さく頷いて僕は受け取る

一口だけ口に含んで喉元に流し込むと、ふいに彼に唇を奪われる
コーヒーの香りが鼻を擽り、胸の奥がじんとする

「テジンさん…僕がどれ程あなたの事を好きか、知っていますか?
あなたが僕を想っているのより、僕の方があなたをずっと愛している」
「それはどうかな?あの星とこの星と、どちらが光り輝いているか、比べているのと同じだよ」

彼がまたゆっくりと僕の唇を塞ぐ
僕達はそのままもつれ合いながら、リビングの床に膝をついた
そして倒れる様に重なり合う

彼が僕の頬を愛しげに撫でる
深い色をした彼の瞳に僕が映っている
僕の瞳にも、きっと彼が映っているのだろう
こんな風に僕たちは、お互いの中にお互いが存在している

僕がそっと瞳を閉じると、彼は僕に深く口づけた
彼の指が円を描くように、僕の身体をなぞる
甘い痺れに吐息が洩れる

「我慢しないで…僕に声を聞かせて…」

彼の指と唇の動きに翻弄され、僕は深い海へと導かれていく
そして僕はゆっくりと彼を迎え入れた

「ああ…」

撓る僕の身体
彼の顔が切なく歪む

彼のリズムに合わせ、僕の唇から漏れ出す溜息
彼の髪が小刻みに揺れて踊る
早まる動きと息づかい

手と手を重ね、唇と唇を重ねる
無意識に名前を呼び、彼が小さく呻いた


僕の胸に突っ伏して、肩で息をしている彼
朦朧としながら、甘く痺れた手でその背中を撫でる
幾度その行為を繰り返しても、彼への気持ちは色褪せない

愛し、愛される悦び
永遠の愛などないと他人は云う
でも、この瞬間に幸せだと感じる僕がいる

あの少女にもそんな日が訪れる事を祈りたい
僕は眠りの淵に誘われながら、少女の幸せに思いを馳せた


長い髪の少女 番外編 れいんさん

とんでもない一日が幕を閉じ、いつもの見慣れた部屋に戻る
他には誰もいない二人きりの静かな夜

今日の興奮が覚めやらぬままどさりとベッドに倒れこむ
窓から洩れる月明かりが、あいつの身体のシルエットを浮かび上がらせている
時を刻む時計の音だけが暗がりの部屋に響く

背中ごしにあいつの息遣いを感じる
僕もあいつも今夜はきっと眠れない
暗闇の中、僕は小さく呟いてみる

「ホンピョ…起きてるのか?」
「…ああ…」
「眠れないのか?」
「ん…」

あいつが僕の方に向き直る
鼻先が触れそうになるくらい間近にあるあいつの顔
僕の胸がトクンと鳴った

「その…今日はいろいろあったからな…疲れただろ?」
「ん…ちょっとな…なぁ、ドンヒ」
「うん?」
「その…今日はありがとよ」
「何が?」
「その…俺の事信じてくれてさ…」
「ああ…」
「ケホン…嬉しかった…」
「うん…」
「…」

ホンピョが面と向かって礼を言うなんて…
少し戸惑った僕はあいつから視線を逸らした
そして、思い切ってさっきから考えていた事を口にだしてみた

「なぁ、ホンピョ…今夜さ…いいか?」
「え…」
「僕も眠れそうにないし…おまえを癒してやりたい」
「アレやるのか…?」
「ああ、この前、いつかしてやるって約束しただろ」
「だって、あれは…」
「今夜はむしょうにそうしたい気分なんだ」
「でも、おまえやった事ないって…」
「僕だってちゃんとできるさ。経験者にも聞いてみたし」
「でも…俺、怖いよ」
「大丈夫。僕に任せて…」
「ちょっと…待てよ…」
「僕を信じて…」
「…」
「さあ、楽にして…」
「ドンヒ…」

「えっと…こんな感じでいいのかな…」
「…痛っ」
「あっごめん」
「やっぱり無理だ…できねぇ」
「大丈夫だから…もっと身体の力を抜いて…」
「うっやだっ…」
「少しずつ気持ちよくなってくるから…」
「あ…あうっ」
「…どう?…いい?」
「…そこじゃない…もっと…そう…優しくな…」
「わかってるよ…」
「…はうっ!やっぱり…ダメだ…痛い…」
「少しは我慢しろよ。僕も頑張っているんだから」
「でもっ痛くてっ…あああっ!」
「…だんだん慣れてきただろ?…リラックスして…目を閉じて…」
「あ…ああ…はあはあはあ…」

「よくなってきたか?…じゃ、そろそろ…」
「あっダメだ。今やめないでくれよっ…もう少し…」
「しょうがないなぁ…これで最後だ。ちょっと強くやるぞ」
「あっあっ…あああっ…」

「ふぅ~どうだ?よかったか?足ツボマッサージ」
「ふぅぅ~…ああ、ありがとよ…お陰でよく眠れそうだ」
「おやすみ…ホンピョ」

間を置かずホンピョが静かに寝息をたて始めた
僕はそんなあいつの頬におやすみのKissをした
そして僕の腕の中のあいつの温もりを感じながら
次第に僕も眠りの淵に落ちていった


かむさはむにだっ  ぴかろん

四人のお色気旅行から帰ってきた僕は、BHCでの仕事を終えて弟達と一緒にマンションに戻った

弟達はロッカーに入れてあった土産物を持ってなんだかんだと言いながらエレベーターに乗った

僕は僕からの愛をこめたお土産を、まだ渡していない
くふん…
ちゃんと家に帰ってから正式にお礼を述べて渡したかったから…

エントランスからエレベーターに向かうとき、ラブからことづかったトンプソンさんへのお土産を渡した

僕とラブからのストラップ…
トンプソンさんのイメージに合わせてタキシードを着たエイリアンのストラップにした

くふん…遊び心のある品だと思うが…気に入ってくれただろうか…

「ありがとうございます。私のような者にまで…」

そう言ってそっと袋の中を見たトンプソンさんは、一瞬目を丸くし、それからにっこり微笑んだ

「この三つ目のエイリアンは…私の孫が大好きなキャラクターでございます…」
「やっぱりそうでしたか」
「え?これを選んだのは偶然ではないのですか?」
「僕の…あー…相棒が…その、トンプソンさんの胸ポケットに刺さっているボールペンに、この三つ目のエイリアンの小さなイラストがあるのに気づいてましてね。それで、きっとこれがお気に入りだよって…」
「…ラブ様ですね?」
「…はい…ラブ様です」

トンプソンさんと僕は、顔を見合わせてにっこり笑った

「お心遣い有難く存じます。どうぞよろしくお伝えくださいませ」
「はい。きっとすぐに会えますよ。きっと…くふん…三日後には…くふふん…ここをくふふふふん…耐え切れない様子で走り抜けていくと…くふっくふっ」
「…な…なにか…楽しい催しでも?」
「…あっはっ…いえっ…ええっええおおほほほ」
「…」

トンプソンさんは僕をじっと見つめて困ったような顔をした

エレベーターホールで僕を待っていた弟が、飛んできた

「失礼しました、兄はちょっと浮かれてまして…。はやくっ!」

弟の目は、三度上がっていた…

エレベーターに乗っかるとすぐに弟の小言が始まった

「恥ずかしいったらありゃしない!もう少しビシっとしてよ!何意味不明な会話してんだよ!」
「だってさぁ…ラブってやっぱり、細かい事に気づいてさぁ…優しいしさぁそれにくふふっ」
「『くふふ』禁止!」
「僕は今日からハウスしなきゃいけないんだっ三日間くふん」
「『くふん』も禁止!」
「だから…きっと三日後には僕を求めてケヒヒヒンっきひっ」
「『意味不明の笑い方』禁止!」
「…ミン…いいじゃないか、あまり厳しくするとその反動でお兄さんはずうっと意味不明の笑い声を上げ続けるかもしれないよ」
「…あなたは平気なの?こんなニヤついた馬鹿なヤツ…しかも僕と同じ顔!」
「…ミンが崩れたらこんなになるのかなって思えて、僕は楽しいけど」
「僕は崩れませんっ!」

弟の目は、もう一度程上がった

部屋に着いて荷物を置き、僕は二人がくつろいでいるリビングに向かった
お土産を持って…

「ギョンビン」
「なぁに?!」
「…あの…怒ってるの?」
「…べっつにっ」
「…あの、ミンチョルさんも…ちょっと座ってください…」
「は?どうしましたか?」
「あの…二人に…僕から感謝をこめたお土産を…」
「みやげなら貰ったよ、まだあけてないけどさ」
「あれは…ラブと二人で買ったものだから…。そうじゃなくて、いろいろとご心配かけたし、お世話にもなってるし…御礼したくてね。
僕が悩みに悩みぬいて選んだものなんだ…どうぞ受け取ってください…」
「…なにさ…にいさん…」
「そうですよ、そんな…お気持ちだけでお兄さん…」

「ギョンビンとミンチョルさんの幸せを願って買いました。お二人にはこれしかないと思って…」
「…そ…そうですか…」
「どうぞ…よかったら開けてみてください。きっと気に入ると思います」
「兄さん自信満々だね…」
「ふふん。ラブにも確認とったからさ」
「ラブ君にも?…じゃ、安心だ…」
「安心?」
「…いや…。で、何?バスタオルとか?」
「そんなものっ!もう少しいいものだよ!」
「…着る…もの?!」
「へへふふひん」



兄さんがお土産を買ってきた
着るものだって?!
いやな予感がする…

兄さんは、カッチリしたトラッドファッションについては、無難でそれなりにオシャレな選び方をする
でも…ねずみーしーの土産だろ?着るもの?

まさか、突拍子もないTシャツだったりして…

僕は大きくなる心臓の鼓動を感じながら、その包みを開けた



お兄さんがくれたお土産は…ポロシャツだった!
でも、上品な色合いの、薄紫のものだ
ボーダーではない!よかった…

「あなたに似合いそう…」

ミンがにっこり微笑んでそう言った
ミンのは薄いピンク色だ…
似合う…くふん…

「ペアで色違いなんですね?ありがとう…。ねぇミン、ちょっと着てみようか」
「え?恥ずかしいな…」

ミンは顔を赤らめて俯いた

「着て見せてよ、嬉しいな気に入っていただけて…」
「いい色合いです。僕は本当はポロシャツにはあまりいい思い出がないんですが、これはいい。僕のとても好きな色だし、生地もしっかりしている…。ボーダーでなくてよかった…。ミンと散歩するときに活用させて頂きますよ、ありがとう、お兄さん」
「いやぁ喜んで頂いて嬉しいです」
「じゃ…着てみよう…」

僕は復活したお兄さんの門出を祝うつもりで、そのポロシャツを着てみようと思った
ワイシャツを脱いでスルンとポロシャツを着た
とても着心地がいい…
ほんとに僕の大好きな色だ…

「サイズもぴったりだ…気に入った」
「よかった、ミンチョルさんはLサイズにしたんです」
「…そう…ですか…」

少しだけムッとしたけど、あまりに肌触りがいいのと、色がキレイなのでとても嬉しかった
ミンを振り返ると…引きつった顔をしていた…

「ん?ミンは着ないのかい?」
「…にい…さん…」
「なあに?くふん」
「本気でこれを僕達に?」
「そうだよ。色違いのペアでさ、モノは最高だよっ」
「…ラブ君がオーケーしたって?」
「うん、本気でこれしかないと思ったの?心の底からこれがいいと思ったの?って聞かれたからウンって言ったら『俺はもう何も言わない』って…へへ…よかった。喜んでもらえて」
「にいさん…」
「どうしたの?ミン、早く君も着なさいよ」
「…僕は…いやです…」
「どうして?お兄さんに失礼だよ」
「…こっちに来て」
「なんだよミン」
「鏡見てごらんよ…」
「え?」

僕は鏡に映ったなかなか決まっている自分を眺めた
ふふん、ちょっと髪が伸びてきたかな?
それにしてもいい色だ…僕のメッシュの髪にぴったし…

後ろ姿を鏡に映したとき、何か可愛らしいものがいた…

ミソチョルかな?…
ん?
…ちがう…

え?

しっかりと後姿を映し、それを確認した
僕は急にめまいを感じ、意識を失った…

背中に…
背中に…ああ…



「なんでダンボのイラスト?しかもバックプリント!」
「可愛いでしょ?この目がミンチョルさんっぽくてかわいくてさ、これしかないっしょ!」
「…彼は失神したよ…」
「そんなに気に入ってくれたんだぁよかったぁ。是非二人で散歩のときに着てよねっ」
「…にいさ…」


気がついてから僕はそのポロシャツを脱いだ
脱いでダンボを見ていたらとっても心が和んだ
和んだけどこれを着るのはイヤだっ
イヤだけどあんな事を言ってしまった
言ってしまったからといって絶対に着なくてはいけないことはない

はあああ…
ポロシャツはキライだっ!
しかしお兄さん…あなたの美意識は…

はああああん…

それから暫くの間、僕はお兄さんと目を合わさずに過ごした


幸福なあの人  ぴかろん

ミンチョルさんが気絶したと聞いた
そんなにも僕の選んだポロシャツを気に入ってくれたのかと感激してしまった…
だが、気がついたミンチョルさんは、僕と視線を合わせてくれない…
それどころかまともに挨拶さえしてくれない
僕の姿を見るとビクっとして立ち止まり、すっと目線を落とす
とても思いつめた顔になる…
どうしてだろう…

ギョンビンを見ると物凄く怖い顔で僕を睨んでいる…
あれ?

もしかして…僕…無意識に

盗っちゃった?

ケヒン…

ちょこちょこと映画なんかの撮影も入ってて、ミンチョルさんの肩を抱く機会もあるし、そのうちキスシーンだってあるかもしれないし…ケヒン

意識してる?僕を?

クフン…

今だって僕の背中をじっと見つめてる
その視線を感じる…
そおっと視線を絡ませるとミンチョルさんは慌てて目を泳がせながら、唇を半開きにしている…

ああん…ちょっとセクスィ~…

ふふんひひんほほん…弟さえいなければ、その心を慰めてあげるのに…

ああでもダメ!ダメだよミンチョルさん…
僕にはもう…マイ・ラグジュアリー・プレシャス・スゥイート・ハートのラブ様がいるんだもの…
ダメダメ…
僕に惚れちゃいけないよ…

それに…
やっぱり可愛い弟を泣かせたくないもの…

でも…
今『ハウス』してなきゃいけないからさ、ちょっとその危険な紫色の視線を、くふん、背中で感じさせてもらったりなんかしたりなんかしちゃったりなんか…

ばきぃっ☆

「てっ」
「兄さん!これ!返すよ!」
「なんで?」
「こんなの!いらないっ!」
「…ミンチョルさんは気に入ってくれたのに?…あ~わかったぁ、お前さぁ…ミンチョルさんがあーんなに嬉しそうにあのポロを着ていたから…くふん…ヤキモチ妬いてるんだなぁ?ウフン…」
「ばっか…何言って…」
「いやぁ僕も捨てたモンじゃないんだなぁクフフン…
以前の僕だったら迷わず彼を天国へと導いてただろうけど…クフン
よかったな、ギョンビン。僕にはもうスペシャル・スウィートハートがいるから彼に手出しなんかしないよ…ウヒヒン」
「何言って…。もういいよ!こんなにおめでたい人だったとは、兄さんは幸せ者だねっふんっ!」
「えっへぇおっほほぉん」

その時電話がかかってきた
くふん
スウィートハートからだった

「なぁに?」
『どうだった?』
「なにが?」
『お土産…』
「んもうすっごく喜んでくれてさ…あんまり喜ばれすぎて、ちょっと弟達の仲を裂きそうなぐらい…ケヒン」
『…。ギョンビンにかわって』
「ああん、あんなチンギス・ハンと喋ってどうするのさ…え?…あ…はい…は…はい…すみません…わかりました…」

僕はラブに罵られ、ギョンビンに電話を渡した


ラブ君からの電話を受けた

『ギョンビン?ごめんね…。あんまり嬉しそうにあれ選んでたから…止められなくて…』
「ん。それはいいんだけどさ。かくかくしかじかで勘違いしてんだよね…どうしよう…」
『ああ…。じゃ、思いっきり勘違いさせといて。あとでしばくから…』
「…ラブ君?」
『ダメ?』
「…ううん…こっぴどくやっちゃってね!」
『わかった…ごめんね。ミンチョルさんにもそう伝えてください』
「…あ、ラブ君」
『なに?』
「ありがとう…兄さんを…あんなに幸せにしてくれて…」
『やだな…。きっかけくれたのはギョンビンだよ。ありがとうね』
「こんどゆっくり遊びに来てね」
『うん、じゃね』

ラブ君からの電話を切ると、兄さんは不満そうな顔をしていた

「なにか僕に言ってなかった?愛してるとか会いたいとか抱かれたいとか天国へ連れてってとか」
「言うわけないでしょ!大人しくハウスしてろって!」
「あんっラブったらっいじわるぅぅ…くぅん…」

兄さんは…幸せすぎて雪崩状態である…



いい朝だ…ハウス二日目だ…くぅっ
昨日まる一日、ミンチョルさんは僕と目も合わさず、会話もせずにいた…
辛いな…
そんなに僕の事を意識してくれているなんて…くふん

ごめんね、ミンチョルさんの気持ちに応えるわけにはいかない…
僕はもう、弟のモノは盗らないもん…

そんなことを思っていたら部屋のドアをノックする音がした

「どうぞ」
「あの…お兄さん」

うっ…ミンチョルさんっ
僕の部屋にまで…いけないっいけないよ…

「これ…申し訳ないが僕は受け取れない…」
「え…。あんなに気に入っていたのに?」
「あ…う…。ミンが返せって…」
「弟のヤキモチだね?貴方の気持ちはありがたいけど僕にはラブがいる。それにそのシャツには弟と貴方が幸せになってほしいっていう僕の願いが篭っている…。だから貴方に持っていてほしい…。弟にもね…。
つまらない嫉妬はやめて、二人で仲良く生きていってほしいんだ。僕とラブのように…くふん…ああ…」

お兄さんの言っていることが半分以上理解できない
きっとラブにいかれすぎておかしくなっているのだろう…

「あの、お兄さん、でも…これを着るわけにはいかない…ミンが…ミンが…」
「わかった…ギョンビンが着るのを拒否するのなら、持っているだけでいいよ。二人でこのかわいいだんぼちゃんを見て和んでほしい…。僕は貴方達の幸せを願って」
「それは何度も聞きました…。では…着なくてもいい?」
「…ほんとは着てほしいな…」
「でもミンが…」
「解ってる、弟は怖い…そうだね、持っていてくれればそれでいい…お守りとして…」
「…はい…。では…大切に保管します…」
「くふん…ごめんね…ミンチョルさん」
「…え?あ…はい…」

わけが解らないがとにかく着なくてよくなった…
額にでも入れておこうか…せっかくのお兄さんの気持ちだしな…

それにしても…
ミステリアスだな…ミンのお兄さんって…
そういえば…キス…くふん…じょうずらった…くふん…


幸せな人の独り言  ぴかろん

バカに電話をした
相変わらずバカだ…
ちょっと喋った後、気の毒な土産を受け取っただろう彼の弟と話した
礼を言われて少し恥ずかしくなった…

幸せにしてもらってるのは俺のほうなのにな…

電話を切って時計にキスした
それから…四人の微妙なニュアンスのストラップにもキスした…

イナさんとこっそりお揃いで買ったせさみしょっぷの「えるものコップ」にもキス…

そして…小さなフレグランスの瓶にもキスをした…

ふふ…これは…ふふふ…
こっそりテジュンがくれたものだ…

「僕とお揃いの香り…」

ばれちゃうじゃん!つけられないじゃん!
っていうか…誤解されるじゃん、二人でなんかしてたの?って…


でも嬉しいな…
嬉しい…

今日店に出たらきっとまたバカが襟巻きになってくるんだろうな…
ハウスの最中だからきっとくふんくふんうるさそう…

三日間なんて短すぎるよね、もっと延長しようかなぁ…


今日は昼からギンちゃんと会う
いろいろと心配かけたし、ちゃんとその後の報告もしたい

でもきっとバカが付き纏うんだろうなぁ…じゃまだなぁ…


そして今夜はイナさんが泊まりに来る事になっている…

イナさんは可愛らしい…
一人で寝るのが寂しいんだって…
じゃあテジュンと暮らせばいいのに…

あ、この事はまだあのバカには言ってない
内緒にしておこう…
知ったらきっとよからぬ想像で頭が爆発してしまうだろう…
ただでさえ総崩れになっているのに、これ以上崩れてしまったら…ギョンビンに申し訳ないような気がする…

ギョンビンともゆっくり話したいんだけど、彼はなんだか忙しそうだ
まあいいや、ハウス期間が終了したら、きっと俺もギョンジンのトコに遊びに行くだろうし、その時にでもゆっくりと…なんならバカをほったらかして一晩中でも…ギョンビンと語り明かしたいなぁ…


よかった俺…BHCに来て…

そういや一度も言ってないけど、あの人にちゃんとお礼いわなくちゃな…

ホッペにチューしながら言っちゃおうかな、ちょっと怖い人が隣で睨みそうだけど…

スカウトしてくれてサンキュってね…えへへ…


替え歌 「ラブのラブソング」 by ラブ ロージーさん

あんまりベタベタしないで
ほんとは とっても「シアワセ」
デレデレするのはやめてよ
それでも誰よりいちばん
好きさ(好きさ)好きさ 好きさ(好きさ)好きさ
好きさ(好きさ)好きさ 好きさ(好きさ)好きさ

星たちが輝く夜ふけ
夢見てる あなたの全て
そんなこと あなたにはナイショなの
ほんとうは あなたに夢中

ああ 男の人って
甘やかしたら 自惚れやさん
ああ 油断なんかできない
初めが 肝心なの

そんなにデレデレしてても 
あなたはとっても 素敵さ
よそ見なんかは許さない
そうさ 俺だけのものなの


ああ 男の人って
安心なんかさせちゃだめなの
ああ 俺だけを愛してね
いつでも ひとりだけを

あんまりベタベタしないで
ほんとは とっても「シアワセ」
よそ見なんかは許さない
そうさ 俺だけのものなの     
あなたはとっても素敵さ
あなたの全てが
好きさ(好きさ)好きさ 好きさ(好きさ)好きさ
いちばん 好きさ!

(うる星やつら 『ラムのラブソング』 ) 












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