ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

BHC サイドストーリー 16

MGBの疑惑1 オリーさん

僕はMGB
そうあのMGJの弟です
兄はあんなですけど、僕は正統派です
はうんどとか猟犬とか呼ばれることもあるみたいです
ちょっとかっこいいでしょ?
え?
元はわんこだろ、ですって?
・・・・
昔のことは忘れてください

ぴっちりきっちりかっちりの元諜報部員ですから
え?
あまりにそれっぽくてバレバレ?
コートの襟立てが目立ちすぎ?
けほっ・・
ドラマの性格上、テプンさんみたいにはなれません
それに北国のロケは寒かったんです

つい態度や顔に出てしまうことは確かですが
そのことについては大げさに騒がれすぎてるとも思います
大体誰が僕のことつり目とか言いだしたんですか?!
僕はすばやく正しく状況判断して、的確に対応しているだけなのに
え?
それがみえみえ?
何言ってるんですか
危機管理は大切です

皆さんは好き勝手なこと言ってますけど
僕の苦労を少しでもわかってくれていますか?
僕の相手が誰だかご存知でしょ
あの銀狐ですよ
天然エロを放し飼いにしている僕の身にもなってください
羽つけたコマシのおやじもウロチョロしてますしね
もちろん、あんなおやじには負けませんけど
とにかく気の休まる時がありません
皆さんだったら、色々な意味で
1分17秒くらいで昇天してると思いますよ

おっと、今日はそんな話じゃありません
気になることがあるんです
何かと言うと、この部屋のことなんです
この部屋っていうのは
その・・僕と彼との愛の巣・・きゃっ、照れるな・・けほっ
このRRHの僕たちの寝室のことなんですけど

僕は普通の人より敏感でしょ?
だからちょっとした異変でも気になるわけなんです
ちょっと大げさかもしれませんが
実は・・
時々変な物音がするんですよ
物音と言うより、なんて言うか話し声っていうか・・

それがちょっと訛ってましてね
そやねん、とか、ええわ、とか
関西訛りでしょうか・・
韓国語に関西訛りがあるんですか、なんて
野暮なつっこみはやめてください
それで、その関西弁の合間に
そうでしゅ、とか、いいんでしゅとか
ちょっと幼稚っぽい合いの手が入るんですよ
ね、変でしょ?

もしかして
どこかに盗聴器でも仕掛けてあるんじゃないかと
元諜報部員の僕は思っているわけです
店で覗かれてるってのは知ってますけど
でもまさかプライベートまで覗かれてるってことは・・・
覗かれてる・・・・
ぽっ・・・
す、すみません、ちょっと今思い出しちゃって

まいったな
もし僕らの寝室が覗かれてるとしたら
ごほっごほっごほっ・・
す、すみません、ちょっとむせてしまって
あの天然エロと僕の絡みが公に・・けほっ
まさか・・ね・・
あんなこと・・こんなこと・・そんなこと・・
げぼげぼげぼげほっ・・

こほんっ!
と、とにかくこれから部屋の中をチェックしてみます
皆さん、カンバセーション盗聴っていう映画ご覧になりました?
ラストシーンのジーン・ハックマンのようになったら怖いですからね
ああならないよう、僕が事前に対応したいと思います
では行きますっ!

どしん・・あ、ソファを倒してチェックしてます
ばたん・・あ、元に戻しました
ずりずり・・あ、ベッドの下をはいずり回ってチェックしてます
がんっ・・あ、ちょっと頭ぶつけました
ぶるんぶるん・・シーツ類を振ってみてます
・・・・・・・・・・
音してませんけど絨毯とかカーテンの裏とか壁とかチェックしてます
・・・・・・・・・・

はふぅ
特に怪しい点はありません
現段階では盗聴はされてないと思われます
ではあの奇妙な音というか声はなんでしょうか

まさか・・
以前この部屋で自殺した人がいるとか・・
このマンション建てる時、誰か事故死したとか・・
・・・・・ふるっ・・
ぼ、僕は怖くありませんよ、別に
霊とか超常現象は信じてませんから
闘いに生きる男はバリバリのりありすとですから
ただ天然エロが怖がるんじゃないかと思って・・ぶひっ

どきっ!

あーびっくりした
ちょっと目が合ってしまいました
誰とって
ミソチョルとぱでぃです
この子たちは最近ソファに座っていることが多いんです
この間彼が二人がけのソファ買ったんです
僕たちが出かける時にこの子たちをそこに座らせてあげるんです

天然エロはミソチョルがお気に入りなんです
ミソチョルは僕よりエロとのつきあいが長いんです
聞いた話によると、エロが弱っている時に心の灯台だったそうです
ちょっとくやしいです
でもぬいぐるみですから

先日エロは親友の五歳児がミソチョルと話ができると聞いて
ちょっとむっとしてました
そんなこと、あるはずがないっ!
と強がっていましたが、内心気になってるみたいなんです
僕も負けず嫌いですが、あのエロもかなりですからね

毎朝出かける時には鼻と鼻をすりすりしています
そのあとほっぺたに軽いちゅうなんかしてます
エロだって軽いちゅうができるんですよ、皆さん
それがまたあっさりしててかえって新鮮っていうか・・けほっ

この間、ミソチョルにちゅうをして出かけようとしたので
僕も軽いちゅうをしてもらおうと思って
ミソチョルのとなりに座って待っていたのですが
エロは、僕の意図がわかったのかわからないのか
小首をかしげたまま僕の顔をじっと見つめながら、
隣のぱでぃを取り上げて僕に押しつけました
僕の担当はぱでぃらしいです
ぱでぃは一応エロのイギリス土産ってことになってますから

それから僕はぱでぃにお鼻すりすりをしてあげるようになりました
こいつったら、ほんとかわいいんですよ
この見えてるんだか見えてないんだかわからないような
ちっこい目がとっても愛らしくて
あ、もちろんぬいぐるみですから、何も見えるわけありませんよね
見えたら大変です
僕たちの・・けほっ・・あの・・その・・ぽっ・・

さてと、僕はちょっとソファで休むことにしました
ミソチョルとぱでぃを膝の上にのせてあげました
普段はあまりおおっぴらにミソチョルにさわれません
エロが無言で所有権を主張するからです
ミソチョルもぱでぃもかわいいです
見つめてると、ついにこにこしてしまいます

そう言えば、昔ミソチョルと3人で・・なんてこともありました
あれは僕のデビュー戦みたいなものでしたからよく覚えてます
ぐいぃぃん・・けひっ・・
っと失礼しました

最近部屋が広くなったので
ミソチョルがベッドの近くにいることはなくなりました
もしかしてミソチョル、ちょっとさびしい?
また3人で天国に行こうか?
僕はミソチョルに聞いてみました

????

おかしいです
ミソチョルがふるふると首を横に振ったような気がします
目の錯覚でしょう
僕、最近疲れてるのかもしれません

そうそう、ぱでぃを忘れたらかわいそうですよね
じゃあ今度は4人で天国に行こうか?
僕はぱでぃにも聞いてみました

????

おかしいです
ぱでぃが大きく頷いたように見えました
目の錯覚でしょう
やっぱり疲れがたまってるんです

発声練習も厳しいんですけど
このところエロは帰りが遅いし
帰ってきたら台本なんか読んでるし
それで僕はさりげなくコーヒーなんかいれてやって
色々気をつかってるんです

皆さんは僕がそんなことしてるって知らないでしょ
トレーニングやらダイエットやらを強要している厳しい奴とか思ってるでしょ
違うんですよ、ほんとは
だって僕、エロのこと愛してますから
けほっ

あれ?
やっぱりおかしいなあ・・
さっきからずっとミソチョルがふるふるしてて
ぱでぃが首を縦にふってるように見えるんですけど・・
何か言いたいのでしょうか?
そんなことないですよね
だってぬいぐるみですものね

それからしばらくの間、僕はミソチョルとぱでぃと遊びました
そのうち、あの話し声のことも忘れていました
まあ、大したことではないでしょう
僕の空耳かもしれませんしね

ねえ、いつ4人で天国に行こうか?
ん?
今夜がいいの?
そうだなあ、エロが早く帰ってきたらね・・
ぱでぃ?
不良品かなあ、何だか首かしっかりしないなあ・・


健康診断  れいんさん

18号線と7号線の交差点を右折して10キロ程走ると右手に大きな病院があるそうです
僕とドンヒ君とホンピョ君は目的地reg bang general hospital に向かっていました

「ちぇっ、かったりぃな」
助手席のホンピョ君はダッシュボードの上に足を投げ出しています
お行儀が悪いです
ギョンビンさんに物差しを借りるべきでした

「ブツブツ言うな。健康診断は大切だろ」
運転席のドンヒ君がホンピョ君をたしなめました
その通り健康は何より大切です
心の中でドンヒ君の意見に賛同しつつ、僕はそのドライビングテクニックを後部座席からじっくり観察していました
実は僕、仮免許がまだなので残念な事に運転テクを披露する事ができません
早く誰かを実験台に一般道路を走行したいものです

「でさ何で俺らだけ?」
「そのうち皆も行くんだろうけど、今は何やら取り込み中で忙しいらしい」
「でもよ、俺らって比較的若い方だろ?病気に無縁な俺らよりも、オッサン連中から行くべきじゃねぇのか?」
「まぁそう言うな。暇な者から行くようにってチーフ代行に言われたんだから」
「ひでぇな。チーフ代行だって今んとこそう忙しくなさそうだろ?」
「いや、引越しの荷物がまだ片付いてないらしい」
「引越しの片付け、いつから取り掛かってんだよ」
「荷物が多いんだよきっと」
「にしてもよぉ。もちっとテキパキとさぁ」
「おまえが言うなよ。僕の部屋に転がり込んでるおまえがさ」
「う・・」
「ま、でも本当のところはウシクさんの結界がキビシくて健康診断にも行けないんじゃない?」
「はぁ~ん、なるほど・・僕以外の人の前では肌を露出しないでとか?」
「そうそう、視力検査の時もメガネかけちゃダメだとか」
「触診なんかされたらマジやばいな」
「くくく・・ウシクさんに張り手と突っ張りで寄り切られるな」
「気の毒に」
「でもチーフ代行、案外悦んでたりして」
「相撲ファンか?」

会話に滑り込むタイミングが掴めず、後部座席でちょっと寂しい思いをしてた僕は、相撲の話題にチャンスとばかり身を乗り出しました

「ところでさ、おまえこの車どうしたんだ?」
・・参加する前に話題が変わってしまいました
「ん?・・友達に借りた」
「友達って?」
「ん?・・友達っつったら友達だ」
「けっ」
「何だよ」
「女だな」
「いっ?」
「図星か?」
「ゴホゴホ。いいじゃないか、誰でも。車ナシじゃあんな遠くの病院まで行けないだろ?」
「ふんっ」

そうそう、それは僕も疑問に思ってました
最寄の病院ではなく、なぜわざわざその病院なんだろうと
しかも横文字で長い名前の病院
その事についても発言しようとしたところ・・

「・・おっ!ドンヒ!あそこの超美脚ギャル!マイクロミニでヒッチハイクしてんぞ」
「えっ?どこどこ?」
「けっ。嘘だよ、バーカ」
「何だよホンピョ!」
「おまえも懲りない奴だな。昔ヒッチハイクでひでぇ目にあったの、もう忘れちゃったのかよ」
「ゲホゲホっあれはだなっ」
「ふんっ学習能力ねえ奴」

マイクロミニ?
ヒッチハイク?
・・会話についていけません・・
学習能力・・ああ、それなら僕も有意義な意見交換が・・

「おおっ見てみろホンピョ!あそこのスタンドにキム・ヒ○ン激似の子がっ」
「何っ?ど、ど、どこのスタンド?」
「ばーか」
「あ?なんだこの野郎。騙しやがったな」
「さっきのお返しだ。」
「ちきしょーめ」

キム・ヒ○ンって誰?
って、そんな事より、僕の存在忘れられてる?
僕ってそんなに影が薄い?
・・もういいです
会話の隙間に入ろうなんて考えずに、景色でも眺めてる事にします

それにしても、この二人、仲がいいんだか悪いんだか
仲良くケンカしてるどこかのねずみと猫みたいです

そんなわけで、ってどんなわけだかわかりませんが、僕たちは目的地のleg bang general hospital に到着しました
受付を済ませた僕たちは、それぞれ別室で必要な検査を受ける事になりました

まず僕の名前が呼ばれました
僕は通路の突き当たりの部屋に案内され、そこのドアをノックしました

トントントン

「はい」
部屋に入ると、白衣の医師がデスクに足を乗せ、レントゲン写真をかざしていました

「かけて」
医師は僕をチラリと一瞥しそう言いました

もし、その医師について第一印象の良し悪しを聞かれたなら,即座に悪いと答えるでしょう
顔のパーツが大きい上に態度も大きい
いえ、顔立ちは整っているんです
いわゆる『ハンサム顔』だろうと思います
でも、何かが足りない・・
内面から溢れてくる何かが・・

「僕はドクタードンゴン。君BHCの人?」
「はい」
「ふぅん。BHCね・・」

医師の目がキラリと光りました

「あそこのメンバーにはそそられる。実に興味深い症例が多数」
「はぁ・・」
「キム・ソヌ君っているだろ?」
「はい」
「彼は腹部を鋭利な刃物で数回刺された上に、派手な銃撃戦も経験済みとか?」
「さぁ・・よくはわかりませんが」
「生きているのが不思議だ」
「は?」
「それから命綱ナシのバンジージャンプを決行しながら無事だった男もいるそうだな」
「はぁ・・」
「実に不死身だ」
「・・」
「他にも屋上から飛び降りてピンピンしてる男、銃で自殺を図ったかと思わせておいて乙女ちっくに変身した男、
1年間意識不明の重態だったにも拘らず、リハビリなしですぐに歩行可能だった男・・他にも多数不可思議な症例が報告されている」
「あ、あの・・」
「実に胸が躍る」
「は、はぁ・・」

「ここの院長はBHCの担当医にグリーン先生を据えているが、今回僕も担当医の許可申請を出した。まだ返事は貰っていないが」
「・・」
「こう言っては何だが、この僕がグリーン先生に劣るところがあるとは思えない」
「・・」
「ビジュアル的にも僕の方がイケてるし年も若くて髪もフサフサ」
「・・」
「声が負けているのは認めるが」
「・・」
「グリーン先生よりむしろロス先生の方が強敵だ。顔の派手さは互角だからな。でもロス先生は小児科が専門だし」
「・・」
「いや何、グリーン先生とも専門は別だから競う事でもないんだが」

デスクの傍で直立不動で立っていたナース嬢が小さくチッと舌打するのが聞こえてきました
きっと僕と同じ事を考えていたのでしょうね


「ところで、CT検査の結果だが・・君の頭部には血腫が見られる」
「はい、ずっとまえからあたまのなかにクモがすんでいます。でもおとなしくてきのいいクモです」
「クモ?・・まずいな。すでに脳障害の兆候が・・。よし。単刀直入に言おう。早急にオペだ」
「えっ?」
「ホラ、この部分の血腫を除去するんだよ。頭蓋骨を切開して」
「えええっ?」
「何、一眠りしている間に終わる。僕は仕事が速い。医師免許を持っているブラックジャックとでも思ってくれたまえ」
「で、でも」
「思い切ってスパっといこう、スパっと」
「そ、そんなきゅうにいわれても・・」

今まで微動だにしなかったナース嬢が、たまりかねたようにその時初めて口を開きました

「ドクタードンゴン?」
「え?」
「確かにこちらのクランケには脳血腫が認められますが、日常生活に支障をきたす程度には思えません」
「だが・・」
「必ずしも今すぐオペが必要とは限りません」
「しかし、脳障害の可能性も」
「どうでしょう。私がこちらの患者さんに問診を致します。
それで記憶力、言語能力などに特に問題がなければ
現状維持のまま定期的に観察続行という事でよろしいのではないかと」
「む・・そんなまどろっこしい問診などより僕の鮮やかな手さばきで・・」
「ドクタードンゴン!」
「あぅ?」
「むやみに切らないようにとこの前院長からきつく言われたばかりでしょう?」
「う・・」
「BHCの担当許可遠のきますよ」
「ううう・・」
「では、ひとまず私がお預かりしてよろしいですね?」
「うむむ・・キャロル君にそこまで言われては反論できまい。好きにしたまえ」
「ありがとうございます」

不服そうな表情のドクタードンゴンは仕方ないなといった様子で肩をすくめてみせました
だからそれがキザだっての

未練たっぷりなドクタードンゴンの視線からやっとのことで解放された僕は、キャロル嬢に別室へと連れて行かれました

「ごめんなさいね。あのドクター、悪い人じゃないんだけど。
腕のいい外科医なのは確かなのよ。でも、なんて言うか・・ちょっと変わってるの。
三度のメシよりオペって感じで」

ブルネットの髪を一つに束ねたキャロル嬢はハキハキした口調で動作もキビキビしています
きっとデキル女性なのでしょう
でもどことなく幸薄そうな感じもしました

「さぁ、楽にして」
キャロル嬢と僕は長方形のテーブル越に向かい合う形で座りました
そしてキャロル嬢の問診が始まりました

「まず、そうね。家族構成から伺おうかしら」
「ソニョンさんとジュンとウォンとおとうさんとおかあさんです。サンミンせんせいもいっしょにくらしています」
「・・言語能力問題ナシ・・と」

キャロル嬢は手元の問診表らしきものにサラサラとペンを走らせました

「特技は?」
「にんげんかんさつです」
「観察、分析能力問題ナシ・・」
「趣味は?」
「スキンシップです」
「対人関係支障なし・・と」
「ちなみに・・コホ・・夫婦生活は良好?」
「はい。いちにち3かいです」
「ゴホゴホ。・・持久力アリ・・と」

「で、ご自分の長所は?」
「せいかくなたいないどけいをもってることがじまんです」
「・・特殊能力もアリ・・と」
「好きな言葉は?」
「あいじょう・ゆうじょう・かぞく、です」
「・・情緒面問題ナシ・・」
「苦手な事ってある?」
「えっと・・マサオさんはにがてでした」
「マサオさん?」
「ボクシングでたいせんしたことがあります。みょうなにほんごをしゃべってました」
「・・記憶力問題ナシ・・と」
「あなたの星座は?」
「せいざ?あ・・なんだったかな・・お、おおくまざ・・」
「・・茶目っ気あり・・と」
「愛読書は?」
「こ、こうじえん」
「忍耐力あり・・と」

キャロル嬢との一問一答が続きました
その問診の趣旨はよくわかりませんでしたが、オペに比べたら何てことありません

「どこにも異常は認められません。オペの必要はありません」
キャロル嬢のお墨付きをもらい、僕はほっと胸を撫で下ろしました

待合ロビーに行くと、ドンヒ君とホンピョ君が待っていました
随分待ちくたびれた様子でした
彼らは健康そのものだったらしく、血圧・内診・尿検査くらいで健康診断は終わったそうです
若いっていいな

でも何かの手違いで、この二人がドクタードンゴンのところに回されたらどうなっていたでしょう
手くせが悪いからとか、ネクタイのセンスが悪いから、とか・・そんな理由をこじつけてオペを薦められたかもしれません

ドクタードンゴン・・
キャロル嬢・・
BHCのメンバーにこの二人の情報はしっかりと伝えておかなければ・・そう思いながら僕は病院を後にしました


研究   ぴかろん

僕は最近、ある楽しみを覚えた
ウシクも眠る丑三つ時…げほ…洒落なども嗜む様になったげほん…
その丑三つ時に、僕はハタと目覚める
そして僕の隣で…このダブルベッドの四分の三以上を占有して眠っているウシクの可愛い顔を
少し冷たい眼差しで見下ろして
僕はベッドの下に手を這わせ、そこに置いてあるモノを取り出す

「…ウシク…少し我慢してね…」

手にした『物差』をぺち…ぺち…とウシクに当てる

「…ん…むむぅ…」

ふいに蠢く大きなウシクに僕はビクリと体を震わせる
ただの寝返りだと解っていても、その方向如何によっては、僕はもう、ベッドの上で眠れなくなったりする
持っている『物差』をベッドに垂直に立て、ウシクの体が僕の領土を侵すのを防ぐ
撓る『物差』
迫る『巨体』
折れないでくれ!頼む!

「んぐぐぅぅ…む…ちっ…」

ただの寝言だと解っていても、僕は再びビクリと震える
最後の『ちっ』が出ればこちらのものだ…
『巨体』はあちらの方へほんの少し移動する
僕の領土は確保できる…

そして僕はもう一度、『物差』をぺち…ぺち…とウシクに当てる
僕はもう、この『作業』をしないと熟睡できなくなっている…ふ…ふふ…

ぺち…ぺち…ぺち…


「違う!クルっとターンはい!伸ばす!ダメ!ダメですもう一度!」
「はぁはぁ…もういいじゃん!センセの動きは超えたよ!休憩させてよ!」
「口ごたえするともう一回通してやってもらいます!」
「むぐぅぅ…ちっ…」

僕はこの所毎日、結構早い時間にセンセと店に来て、センセの代役を務める事になった例の『take5』の振り付けを練習している
その練習はとってもハードで、僕は毎日汗まみれになっている
汗まみれのまま練習していると、センセは急に優しく

「風邪引くといけないから着替えておいで」

と言う
僕はニコッと微笑んで着替えてくる
すると

「さぁもう一度」

と冷たく言い放つ

「まだ練習するんだったらなんで着替えさせるのさ!」
「まさかシャワーを浴びたんじゃないだろうね?」
「今から掃除するつもりだったからまだだよ!」
「よかった…シャワー代が一回勿体無いからね」
「! Tシャツ着替えたら洗濯物が増えるんだよっ!洗濯代は勿体無くないの?!」
「Tシャツ一枚増えたからって洗濯の回数は変わらないでしょ?…あ…でも…ウシクのTシャツは『大きい』からなぁ…」
「!」

僕はドンジュンのようにほっぺを膨らませる
先生はピッと物差を上げて

「はい、練習開始」

と言う
じじい!
僕はもう振り付けを完璧に覚えた!…と思う…
どこがどういけないのかわかんない!
指先だってかなり伸びてきてるはずだし、ターンやポーズのタイミングだってピシリと合ってるはずだ
そう文句を言うとセンセは

「溜めが足りない」

なんて解ったような口をきく!
『溜め』のなんたるかを説明できるのかよ!

「溜めとは…一般的に言う『集め留める』に端を発したダンス用語で、より魅力的に見せるためにその動きを留めるように…」

あーもうっ!にわか振付師めっ!

「僕こんなスローで簡単な動きのヤツよりさぁ、元気ハツラツーなダンスのがいい!ラブとイナさんがやってるロケンロールとかさぁ」
「…ラブく…いやラブ…」
「…」

ラブの名前を口にするとセンセはすこぉしだけ口角を上げる
他の人には解らなくても僕には解るの!ぶぅぅっ

「…あ…。でもこのナンバーはこの店の『ウリ』になってるから」
「これはトッショリのセンセ向けにラブのバカが無理矢理振り付けしたんでしょ?」
「ラブ君をバカだなんて言っちゃいけない!」

そうだよこれは、普段『踊るなんて思えない』
「センセがやるからお客さんにウケるんだよっ僕がやったって」

「いや」
ぱーんとしてて気がよくていつもニコニコ掃除大好き好青年で可愛くて優しくてその笑顔を見た人は和まずにいられないという
「ウシクだからウケると僕は踏んだ」

なに言ってるんだよ!ショービズの事なんかてんで解んないくせにさぁ!ちっとラブの色仕掛けレッスンで踊れ…踊…『音に合わせて動ける』ようになったからってそんな偉そうに
「専門家みたいな口聞くね!」
「だって僕、チーフ代理だもん」
「チーフ代理はダンスの専門家じゃないでしょ?!」
「だって僕、このダンスの担当だもん」
「だったらチーフ代理やりながらセンセが舞台に出ればいいじゃん!その方が絶対お客さん喜ぶよ!」
「…お客さん喜ばせると怒るくせに…」
「…もう別にいいもん…」
「なんでっ!」
「そんなのっ!」
一緒に暮らしてるからじゃないかっ鈍感!
「そんなに僕のレッスンを受けるのがイヤなの?」
「…そういうわけじゃないけどさぁ、こんなに厳しくしなくてもいいでしょ?」
「いや。必要だよ」
「なんでっ!絶対僕の方がセンセより上手に動けてるよ!」
「でも『線が太い』から…」
「!」
「優雅に、そしてシャープに動かないとこれは」
「もういい!センセがやんなよ!」
「あっウシク!」
「知らない!」
「だめぇ!お願い!ウシクにやってほしいんだ」
「…」
「ね?」
「…」
「ねねね」
…ギョンジンさんかよ…
あーあ。ちっと目が潤んでるわ…
仕方ないなぁ…
「解ったよ…やるよ…」
「やった!じゃ、頭から」
「…ふぃ~」

こんな具合に僕のダンス特訓は続く
汗がドクドク流れて死にそうだ
でも僕は『若い』から体力の回復も早いのさっ(^o^)


おかしい…
毎日こんなに特訓しているのに…
今日の丑三つ時の『物差』の時間に僕は気付いた
この時間を持ち始めてから何日目だろう…
僕はそっと『記録ノート』を取り出した
えっと…十日ほどだな…十日…

結果は…
五日目を境に順調だった下降ラインが急上昇して一日目の1,5倍に達しようとしている(@_@;)

僕はそおっとウシクのパジャマをめくり、腹部を露わにした
そしてそおっと『物差』をぺち…と当てた

高さ…幅…摘んだときの厚さ…堅さ…
どれを取ってもやはり五日目を境に目標からどんどん遠ざかっている…

僕はそっとウシクの顔に触れ、ぺち…と『物差』を当てる
頬の張り具合が…ぺち…ぱぁぁん…
一層よくなっている!

おかしい…
僕の計画ではすっきりとした頬のラインになるはずだったのに…
練習を終えるとウシクは店の掃除を丁寧に行い、それからシャワーを浴びて衣服を整える
その間僕は、チーフから預かっている店内日誌を読み返したり、チーフとしてすべきことの予習などをし、チーフが来たら仕事の引継ぎ等をしている
怪しいのはその間か!くう!


ダンス特訓が始まった頃は、体が痛くて仕方なかった
疲れすぎてご飯も喉を通らないほどだった…
でも若いから五日もすれば慣れた
レッスンの後、掃除をしてシャワー浴びてからテソンさんにお願いしてある『夕飯弁当』をがっつり食べるでしょ?
そして店でお客さんと一緒に『お祈りしてから高速パク』をするでしょ?
んで、テソンさんに『弁当箱返し』のついでに『お菓子』を貰うでしょ?
しあわせ~
帰ってからゆっくりお風呂に入って、センセと一緒に寝酒を飲んで、くふふの日もあればけひひの日もあり、何ごとも無い日もあるへへへっ
んでぐーっすり眠ってまた次の日同じ事の繰り返し…
僕はどんどん健康になっていく気がするなぁえへへ

朝目を覚ますとセンセが僕の背中か腕にぺったり貼り付いて寝ている
可愛いのでチューチューしちゃうと必ず僕を睨む
目が赤い
心配になって『夜中何かしてるの?』と訊ねてみた
センセはしどろもどろになって『ちょっと研究を始めて…』と言った
何の研究かしつこく聞いてみたら『真夜中のウシの皮下脂肪の燃焼について』だと答えた
センセは国語専門じゃなかったの?
まぁいいや…可愛いからくふふん…


センセは僕の胸板を人差し指で押す
そして「近頃寝苦しくない?」と僕に聞いた
僕は快適だというと、センセは「僕は寝苦しいんだ…」と言った
「更年期?」と言ってやると僕を睨み付けて背中を向けた
そして「イテっ!」と叫んだ

「どしたの?」
「…首の…筋が…」
「は?」
「クキッて…」
「筋、違えたの?まぁったくぅ…センセ、運動不足なんじゃない?今日から僕と一緒にダンスの練習しよう!ねっ!」
「…」

センセは思いっきりイヤな顔をして、どこから出したのか解らない『物差』を僕に突きつけたのだった…


星に願いを   れいんさん

僕の城にはルールがある
なんてそんな大げさな事でもないが
僕の部屋には、こうでなければ落ち着かない、僕なりの拘りみたいなものがある

整然としている様で、雑然としている様な僕の部屋
書棚にはパソコン関係の本がぎっしり
パソコン関係以外にも、雑誌・情報誌の類も多数
抱かれたい男ランキングが掲載されてる雑誌や
「Host check」「月極Host」
これらにはかかさず目を通している
書籍に関しては、向かって左から背の高い順に並べる主義だ

DVD類もきちんと保管している
古き時代の名作映画のパッケージの中にこっそりとエッチなDVDを隠している事は誰にも内緒だ
そのDVDも「あいうえお順」に並んでないと気になって仕方がない

ところが、だ
気がつくと、いつの間にかその順番が変わっている
「カサブランカ」が「誰が為に鐘が鳴る」の隣に並んでいた
「シェルブールの雨傘」も「波止場」の隣だった

ホンピョの仕業に違いない
雑誌を読んでいるのか、DVDを観ているのか
それとも単に悪戯しているのかは分からないが
面白がっている事だけは確かだ

こんなはずじゃなかった
以前は部屋に連れ込んだ女性達にもそれらの物を触らせたりはしなかった
僕は煙草を吸う女性についても
食事の際にいちいち髪を掻き揚げる女性についても全然気にならない
だが、勝手に書棚の並び順を変える女性には寛大になれなかった

なのに、だ
あいつは平気な顔をして
平気というより、当然の顔をして
いとも簡単に僕のルールを片っ端から破っていく

しかも、だ
その行いについて、全く容認している僕がいる
「勝手に触るな」「自分の部屋に帰れ」
そう言ってしまえばすむ事なのに

ああ・・どうしてなんだ・・
ひょっとして僕はマゾではないのかと、時々不安になってしまう

以前に比べると、確かにあいつも随分変わった
ガムは包んで捨てる様になった
外から帰ってきたら、手洗いうがいも、ついでに足まで洗う様になった
僕の根気強さの賜物だろう



僕は今、PCに向かっている
特に何をしているわけでもないが、ただなんとなく・・
時々、画面の端に映るあいつを確認してはキーボードを叩く

ソファに寝そべっていたあいつが、むっくり起き上がった
どうやらTVドラマが終わったらしい
僕の傍にやってきた

「終わったのか、ドラマ」
「ん?ああ」
「あんなの面白いのか?」
「別に面白いってわけじゃ」
「おまえ、あのドラマの原作本、書店でどっさり積まれてるの見て毒づいてなかったか?」
「ああ、まぁな」

「だったらなんで録画してまで見るんだ?」
「そりゃ、アレだよ。キク爺が次はどんなセリフを吐くかと思ってな、ある意味我慢大会みたいなもんだ」
「ふぅん・・そんなもんか?」

「ところでおまえ何やってんの?」

あいつがPCを覗きこむ
あっ・・やばい
頬と頬がくっつきそうだ
無邪気な挑発と言えなくもないが
どうせこいつはそんな事これっぽっちも考えていないだろう

「なぁ、何してんだよ」
「ネット販売について調べている」
「何で?」
「うん。BHCだけのオリジナル限定商品なんてのをネット通販できないかな、なんてな」
「どんな商品だよ」
「んーーまぁ、例えばだ、ギョンビンズ物差しとか、イヌ先生ズ物差しとか」
「物差ししかないのかよ」

「いや、他にもだ、テソンズ蝋燭とか、テプンズ微妙な丈ジャージとかな」
「そんなの売れるのかよ。だいたいおまえが勝手に販売なんてできないだろ?」
「もちろん商品化にあたってはオーナーやチーフ達に相談するさ。それに例えば、の話であって単なるアイディアだ」

「ふぅん・・おまえって野心家なんだな」
「そりゃそうさ。ホ○トとしても成功したいが、副業としてのビジネスも視野に入れている」
「金持ちになりたいのか?」
「そう。ビル・ゲ○ツみたいに、なんてのは夢のまた夢だけどな、いつかプールつきの豪邸に住みたい」
「おまえ、好きだなプール」



ホンピョがプイと背を向けた
カラカラカラとサッシを開ける音がした
見ると、バルコニーの手すりに頬杖をついて夜景を眺めている
その後姿は黄昏ていて、ほっとけない光線出まくりだ

無邪気に誘っていると言えなくもないが
ただ単に、何かにむくれているだけだろう

僕はあいつの後を追ってバルコニーに出た
夜風がひんやりと肌をさし、それがなんだか心地よい

「どうしたんだよ」
「別に」
「なんだよ。何むくれてるんだ?」
「・・おまえも皆も将来の事ちゃんと考えてて、何かを始めようとしているのに・・俺には何もない」
「なんだよ、そんな事か」
「・・」

いつか僕がプールつきの豪邸を手に入れたら・・
部屋を一つおまえにやるから、一緒に住まないか?
・・・
待てよ、誰かが使ったセリフだったかな

「おまえだって今から何だってできるだろ?どんな可能性だってある」
「俺・・金庫破りの才能しかない・・あれだって若いうちはいいけど、年取ると手足がきかなくなるじゃないか」
「・・もっとまっとうに生きろ」
「んな事言ったって、俺こんなだからよ」

こらこら、今度は弱音攻撃か?
そんな寂しげな横顔見せてさ・・

いつか・・僕が成功したらおまえをビジネスパートナーにしてやるよ
僕のパートナーはおまえだけだ・・なんてな

満天の星空にナイスな夜景
おいおい、最高のシチュエーションだ
ここでぐいっと肩を抱き寄せて
振り向いたあいつと自然に目と目が合って・・

って、オイ!
何、睨みつけてるんだ?
しかもめっちゃガン見
もしかしてケンカ売ってるのか?


いや待て、そう焦るな
焦るとロクな事はない

そうだ、星だよ、星
せっかくの満天の星空だ

あの一番明るい星がおまえで、その横で寄り添う様に輝いているのが僕・・

って、オイ!
わざわざ今、煙草に火つけるなよ!
目がしむくて、どの星だったか分からなくなったじゃないか

ああ、せめてロマンティックに流れ星でも・・
流れ星に3回願い事を唱えると、願いが叶うって言うじゃないか

と思ったら、グッドタイミングで流れ星!
今夜は僕のためにある夜だな
僕は目を閉じて急いで願い事を唱えた

ホンピョが・・ホンピョが・・ホンピョが・・

早口になったけど仕方がない
そっと目を開けてみた
あれ?
まだ流れ星があそこにある・・
なんだ・・
あれ人工衛星じゃないか・・

馬鹿馬鹿しくてがっくりした



「吸うか?」
ホンピョが吸いかけの煙草を差し出した
なんだよ、人の気も知らないでさ
あいつがよこした煙草を僕は思い切り吸い込んだ


講習会   オリーさん

ある日のBHC
いつもの出勤時間よりも早くメンバーがチーフの呼び出しで集められた
そこには消防隊員が2名、ゴム人形を前に待機していた

「私はモウソウル消防局北署の隊長Aだ。今日は救急救命法の講習会にやってきた」
「同じく北署の消防隊員Bです。お忙しいとこすみませぇん、ホストクラブ強化月間なんです」
「我々は市民の安全を守る消防隊員である。現場に呼ばれればすぐ出動しなければならない。
合間をぬっての講習会、手際よく進めていきたいのでそのつもりで」
「呼び出しがあったら時は講習会途中で失礼しま~す」

「ねえ、あの隊長ってちぇみさんに似てない?」
「ほんとだcasaのちぇみさんにそっくり」
「あのパン作ってる?」
「そうそう・・」

「私の経歴にパン屋はないっ!」

「でもって消防隊員の人は俳優の誰かにそっくり」
「ほら、ユ・ジテだよ」
「そうだ、ユ・ジテだ」

「僕よく言われるんですよぉ。講習会行くとサインくれなんて・・てへっ」

「それではさっそくこの人形で講習を進める。まず隊員Bが見本を見せるからよく見ておくように。
それではまず倒れている人発見。指差しで現場の安全確認をする」
「高速道路とかあ工事現場とかあ危険な場所での救命はやめてくださいね」
「次に大量出血のあるなしの確認」
「あの、今エイズとかありますでしょ。救命する方が危ないってこともありますので気をつけてください」

「エイズの人は助けなくていいのか?」
「そうは言ってない」
「じゃあどうする」
「速やかに我々を呼んでくれ」
「ならこの講習を受ける意味はない」
「世の中全員エイズじゃないだろうっ」
「そうか、わかった」
「次に、意識の確認。額に手を当て肩をたたいて呼びかける」
「呼びかけは耳元で、三回ほど大丈夫ですか?どうしました?とだんだん声を大きくしてやってください」
「で意識が無いときには周囲の人に119番通報を頼む」

「誰か119番通報をお願いします。そこの腰に手を当ててる方お願いします」
「僕?」
「このように指で指して誰かを指名すること。誰かでは確実ではないから」
「わかった・・もしもし・・僕だ」
「こらっ、ほんとにかけなくていいんだっ、講習会なんだから」
「わかった・・ぱんっ!」

「そして呼吸をしていないとわかったら人工呼吸をする」
「指を顎を当てて引き上げ気道を確保し、親指と人差し指で鼻をつまみ口をあてて空気を送り込みます」
「人工呼吸を2回して体の循環を調べ反応がないときは心臓マッサージに入る。
人差し指と中指の2本を肋骨の縁に沿って胸の真ん中まで滑らせ、真ん中の頂点のところで指を留め
片方の手の付け根を置く。もう片方の手をその手に重ねて肘を真直ぐ伸ばし体重をかけて胸を圧迫する」
「あの、かえるの歌のリズムがちょうどいいんです。学校でそう習いました。
かえるの歌が♪聞こえてくるよ♪げっげっげっ♪・・」
「歌わなくていいっ」
「はい・・ええと圧迫を15回します。そして人工呼吸2回、それをセットで4回してください」

「よし、では早速実習に入る。そこの腰に手を当ててる人やってみなさい」
「僕?」
「そう、さっきから色々質問してくれたからね」
「僕はいい」
「全員やるんだっ」
「人形が魅力的でない」
「ばかものっ!そういう問題ではない。とにかくやれ」

「わかった、えっとまずは・・」
「現場の安全確認っ」
「安全確認だめ、終了」
「こらっ勝手に終了するな」
「工事現場で非常に危険だ。場所が救命に向いてない」
「今は講習会だ、勝手に工事現場にするなっ」
「わかった。安全確認よし。ええっと次は大量出血の確認だったか?」
「そうだ」
「大量出血あり、エイズなので放置」
「こらっ!勝手に決めるなっ、講習会だと言ってるだろう」
「わかった。大量出血なし」

「次は意識の確認。額に手を当て・・こらっ!自分の額じゃないっ!」
「得意技なんだ」
「きさまの得意技は聞いてない、介護者の額だっ!」
「わかった」
「そして肩をたたいて耳元で話しかける・・こらっそんな小さい声じゃ聞こえんだろうっ」
「耳元で囁くのが癖なんだ」
「お前の癖は聞いてないっ、意識の確認をするんだ、もっと声を出してっ」
「わかった・・・大丈夫?救急車を呼ぼうか?それともベンツにする?僕の好意は断れないよ」
「何だ、その緊張感のない呼びかけはっ!」
「僕の名台詞知らないのか?」
「知るかっ、次、循環を確認して人工呼吸」

「キスだね」
「違うっ!人工呼吸だっ!顎に指をあてて・・こら顎を掴むなっ」
「癖なんだ」
「おかしな癖ばかりある奴だ。人差し指と中指で押し上げて気道を確保するんだ」
「わかった・・やりづらいな・・」
「ごちゃごちゃ言うなっ、そうしたら口を覆って」
「こう?」
「それは・・けほっ、なかなかいい。そして息を吹き込・・なんでやめるっ」
「この人形の口は奥行きがなくて舌が入らない」
「人工呼吸に舌を入れる奴がいるかっ!」
「入れなくていいのか」
「ただ息を吹き込んでやればいいんだっ」
「わかった・・」
「ちゃんと吹き込むとこの赤ランプがつく。そうその調子だ」
「ゼロゼロ・・苦しい」

「よし、次は心臓マッサージ。はい胸に手を当てて」
「この人形は裸だけど、実際に肋骨の場所を見つけるのに服を脱がせるのか」
「ケースバイケースだ」
「ボタンはずすのは片手でやってもいいのか」
「一刻を争うのに何言ってるっ」
「得意なんだ」
「・・・」
「そう感心しなくていい」

「呆れてるんだっ!早くマッサージをやれ!」
「わかった」
「15回だ。適正に押すとこの黄色ランプがつく。肘を伸ばして体重をかける」
「かえるの♪歌が♪」
「そうリズミカルに」
「聞こえてくるよ♪」
「いい調子だ」
「げっげっげっげっ♪げろげろ・・・」
「なぜやめる」
「何回やったか忘れた」
「・・・」
「歌うと数が数えられない」
「じゃあ歌うな」
「歌わないとリズムが取れない」
「・・・とにかく4回これを繰り返す、やれっ」

ふうーーっふーーっ
かえるの歌が♪・・・

ふうーーっふーーっ
かえるの歌が♪・・・

ふうーーっふーーっ
かえるの歌が♪・・・

「ゼロゼロゼロ・・疲れた」
「これで循環を確認、反応がなければ救急車が来るまで続ける」
「救急車が到着するまでの時間は?」
「通報を受けてから5分くらいだ」
「5分・・無理だ・・ゼロゼロ・・」
「人命にかかわる問題だっ」
「キスなら何分でもできるんだが」
「・・・」
「人工呼吸が疲れたらキスに代えてもいいのか」
「いいわけないっ!ぶぁかっ!」

「隊長っ!緊急呼び出しですっ!」
「何っ、よし出動だっ、行くぞっ」
「はいっ。皆さんちょっと呼ばれちゃったのでつづきはまた今度」
「いや、ここへはもう来ないっ!」
「まだ一人しか実習やってませんよ」
「もうたくさんだ、さあとっとと行くぞっ!」
「だめですよお。みなさんAEDの講習もありますんで、また今度」
「いいから急げっ!」
「はいっ、隊長人形忘れてますっ!隊長っ!隊長っ!」

その日のBHCでは、消防隊員が置いていった人形を遣って客に独自の人工呼吸を教えていたらしい・・








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