ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

コラボ:ただ抱擁の時は過ぎ 4

13

それほど心静かな時間を過ごしたのは
本当に久しぶりのことだった。

ソニを鎌倉の父親の家に送り届けた後
緑濃い古都を気の赴くまま歩いてみる。 

神社の池の鯉に歓声をあげる子たちを眺め
幼い子の口についたアイスクリームを拭ってやる母親の
限りなく優しい顔に目を留める。
朱に染め抜かれた大きな暖簾がことのほか美しく思え
しばし立ち止まったりもした。

そういった風景を意識したのはどれくらいぶりだろうか。
いや…そんな時間を持ったことなどないのかもしれないとも思った。

横浜に戻り、港を一望できる丘の公園まで歩いてみれば
そこにも人々の笑顔が溢れている。

遥か海の向こうを見渡す人々の表情は皆似ているように思える。
国を違(たが)えても同じように流れる想いがあるのだろう。

ベンチに腰を下ろし
透き通るように香る潮の空気を肺に入れた。

薔薇でも有名なその公園の花の季節の素晴らしさは容易に想像でき
ジンは母と妹にも見せてやりたいとぼんやり考えた。

・・・・・・

手を繋ぎ零れるような笑顔のカップルが通り過ぎた時
ジンはもうずいぶん忘れていることに気づいた。
あの頭の芯が冷えるような感覚を。

最後にそうなったのが遠い昔のことのように思えた。

”もう苦しまないでください”

それは…
うまくできなかったけれど
ヒョンジュ…
でもね
何か変われそうな気がする。
君を置いていくんじゃないってわかったような気がする。

・・・・・・

ふと目を向ければ
陽に輝く緑たちが伸びやかに空に腕を差し出している。
光を浴び大地の声を呑み深呼吸をしている。
また夢のような花のひと時のために。


夕暮れに横たわるの運河のほとり。
そこに長く添う芝の広場にジンは腰を下ろしている。


少し向こうの小さな遊園地のきらめきと観覧車の光が浮きはじめる頃
約束の時間を少し過ぎソニは戻ってきた。

軽い足どりで人々の間を縫い近づく彼女が微笑んでいるのは
遠くからでもよくわかる。
穏やかな時間を過ごすことができたのだろうか。

・・・・・・

ソニはゆっくりとジンの横に腰を下ろした。



 You can have me anytime,Boz Scagss ( ) No. 10

 Here we are
 Alone in tha shadows
 Of our lonely rooms
 Here we are
 ・・・・・・
 On wings of the night
 Once again you'll take flight
 And I don't hear your voice anymore
 Tonight's dream will end
 But I'll stay long after then
 And you can have me anytime


 酷き朝 凍えた夜の ありてこそ 現在(いま)ある人の いのち煌く



何も言わずに見つめる水面には
昼間の最後の名残が美しく揺れている。
その横顔はいつかを思い出させる。
あの展覧会場の彼女。

真っ直ぐ前を見る目はあの時と変わらない。
しかしその奥に映る穏やかな光がまるで違ったものに見えるのは
美しい夕景のせいだけではないだろう。

・・・・・・

彼女はバッグの中を探り
小さな和紙の包み紙を取り出してジンに手渡した。
丁寧にくるまれたそれが出てくるまで
ソニは子供のように嬉しそうな顔をしている。

紙の中味は装飾のない金のリングだった。

「父が…韓国に迎えに行った時…母に渡そうと思っていた指輪だそうです」

・・・・・・

ソニの目が辺りの光を映しきらきらと光って見える。

「父は…私にありがとうって言ってくれました…
 辛い思いをさせただろうけど…最後まで彼女の側にいてくれてありがとうって…」
「そうか…」

・・・・・・

「私…わかったような気がしました」
「ん?」
「あんな人生の母がなぜずっと強くいられたのか」
「…」
「心からあの人のことを愛したから何も恐くなかったんじゃないかって…そう思えます」
「うん…」

・・・・・・

昨夜、帰り際に父と交わした言葉を思い出す。

 お父さん…ひとつだけ…お聞きしていいですか?
 はい。
 あなたとジェヨンさんを裂いた時間を…溝を…恨みますか?

 そう…それができれば…楽でしょうね…
 …
 でも自分も…その一部分ですから。
 え…?
 人も時間も…何かひとつを切り離して考えるなんて…できませんからね。

玄関の小さな黄色い電燈の下
ジンの胸の隙間にその言葉は急速に吸い込まれていった。

視線を落としたその男の表情に
3人の父親たちの想いが幾重にも揺れる。

「" Viva la Vida " … 」
「ん?」
「何となくわかったような気がします」
「…」
「あなたのお陰です…」
「僕は…何もしてないよ…」
「あなたに会わなければ…きっとここにはいません」

真っ直ぐ見つめるその瞳の色が
心に沁み入る。

・・・・・・

ジンは包み直されていたリングの和紙を暫く見つめ
ソニの顔をちょっと覗き込んだ。

そしてもう一度その包みを開けリングを取り出すと
彼女の手を取り
その指にはめた。

「ここなら無くさない」

驚いた彼女の表情はやがて穏やかな微笑みに変わる。

ジンは静かにその肩を抱き寄せ
ゆっくりと唇を重ねた。

ソニに再び忘れた痛みが走ることはなかった。


その日
ふたりは結ばれた。

・・・・・・

やっとここまで辿り着いた。

もう二度とこんな気持ちにはなれないのではないかと
なってはいけないのだと言い聞かせてもきた。

しかし今は目の前のその瞳を心から愛しいと感じる。
この気持ちにもう逆らいたくはないと思った。

ソニの手首の傷跡にくちづけた時
自分は彼女の人生を請け負うのだと予感した。

それでも深い愛撫の途中
全く予期せずにジンの心にヒョンジュの幻影が降りてきた。

目の前のソニが霞みヒョンジュの微笑が重なる。
ありがとうと言っているかのような優しい眼。
ジンはきつく眼を閉じソニの胸に顔をうずめて動けなくなった。

ああ…僕は…

ソニはジンの言葉を遮り長い間その胸に抱きしめた。

私は
あなただけじゃなく

あなたの想いも
受け止められたらと…
そう思っています…


 Lying beside you, here in the dark
 Feeling your heart beat with mind
 Softly you whisper, you’re so sincere
 How could our live be so blind
 We sailed on together
 We drifted apart
 And here you are by my side


胸に抱かれたジンに
ひとすじ涙が伝う。


彼女は時間をかけゆっくりと彼を導いた。
春にまろぶ陽のように。
地を抱く海のように。

ジンは暗い淵から這い出すようにただ導かれるままに任せた。 

強く絡む指に自分の行くべき場所を感じる。
言葉にできぬ安堵。
ついに深く繋がることができた時
ジンは間違いなく彼女を抱きしめていることを実感した。



 So now I come to you, with open arms
 Nothing to hide, believe what I say
 So here I am with open arms
 Hoping you’ll see what your love means to me
 Open arms

 Open arms, Journey ( ) No. 12


 時満ちて 想いの満ちて 柔らかく なを揺るぎない 君を抱く夜



14

ジンはあの海岸に立っている。

暫く目を閉じて静かに空気を吸い込み
ポケットから封筒を取り出した。


「また笑ってくれたジン へ」

もう一通の手紙。
二度と開けられぬような気がしていたそれは
波の音に促され静かに時を解く。


 ありがとう。僕はしあわせです。


そのたった一行は…ヒョンジュの全てだった。



 馨しき 君の想いは 今たち昇る 光にとけて やがて舞い降る


 Deborah's Theme (デボラのテーマ),E. Moricone by Slava ( ) No. 6



ジンの黒い瞳に涙が溢れた。

そして横に描かれた” 小さな箱”の絵 を指でなぞる。

胸の中に愛する面影が満ち

かけがえのない大切な気持ちをまた抱きしめる。

・・・・・・

これを…
置いていってくれたの?
大事なものを
置いていってくれたの?
君にはいったい
どれくらい沢山のものを
貰ったんだろうか。

ジンは涙を拭うことも忘れ
長い時間そこにそうして立っていた。


-僕の手はもう君には届かない。


でも今君をこんなに近く感じる 
この腕に抱きしめていた時よりもずっと。

僕は大切な命と共に生きていく
その命は僕を受け入れてくれると言ってくれる。
僕のすべてを。
君への思い出も何もかもすべてを。
そして僕はその命のために生きる。


僕は君を忘れない。
君の笑顔も
哀しみ裂かれた記憶さえも。

僕はまた歩き出すよ。

ヒョンジュ…
確かにここにいた
君のために。


海岸の奥に人影が見える。
柔らかい陽を受けて手を振るソニ。

笑顔で近づく彼女の中には新しい命が育まれていた。

ジンはゆっくりと彼女に手を差し出した。



その日の海は遥か彼方まで晴れゆき

空の空気と繋がっていた。

すべての時を包みこみ
海は昨日と同じようにそこにある。

そして
それは静かに語りかける。


おまえは愛し
おまえは生きた。

それだけでいい
ただそれだけでいい。


p4-4ヒョンジュ



 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 I ... I love you
 I wanna say these words to you
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you

 君に出逢うまでは
 前に進むことがすべてだった
 僕が見ようともしなかった
 大切なことを教えてくれたね
 But step by step I've realized
 君の愛に 守られていたことに
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 I ... I love you
 I wanna say these words to you
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you

 君の愛に何も・・
 何も応えられずにいたけれど
 君のために歌いたい 君のためのこの歌
 君に届くように 届くように
 So step by step I'll come to you
 今日まで歌えなかった この歌を
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 I ... I love you
 I wanna say these words to you
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you

 君がどこかで聴いている・・
 それを信じて 心をこめて
 君のために歌いたい 君のためのこの歌
 今日まで歌えなかった この歌を
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 I ... I love you
 I wanna say these words to you
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 Love you Love you
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 I ... I love you
 I wanna say these words to you
 I I ... ... ...
 I wanna say these words to you
 I wanna say these words to you (日本語詞Rosy)

 To You,Rain ( )  (双子の曲として)


 伝えたい 僕の想いを 言葉にはできないほどの あなたへの愛





 My wild irish rose,Keith Jarett ( ) No. 5


 その丘は  風のかなたに  潮さいの  遠く近くに
 麗しの  五月はめぐり  ひともとの薔薇  花ひらく
 かんばせは  清けく白く  密やかな  匂いをまとい
 ただ海を  遥かに紺碧い  海を見てある















「Brian Weaver : New line for season's knit sweater CM-Asian version」


メインコピー:「I feel you」
サブコピー:「Jin Blue」
クライアント:Brian Weaver
出演:チェ・スヒョン
監督:シン・ジソク
製作:McCann Erickson Far East



「思い出のソファ編」

p4-1思い出のソファ編


 音楽:「Ave Maria」F. Schubert, Performed by Slava, ( )右のリスト8番め


 貴くも妖しスラヴァのアヴェマリア 君の匂いを濃く纏わせつ


小さな本の頁をゆっくりとめくる指
本を見つめる瞳
キッチンの流しに落ちる1滴の水(スロー)
蒼いセーターを着た男の背中
古い木製デスクの上の古びた封筒
本の文字をそっとなぞる指
黒いソファの肘掛けに腰掛ける男の全身
思い出に浸るように目を閉じる横顔
窓の外を横切る白い鳩、かすかな羽根の音
ふわりと目を開ける男
水の入ったグラス
何気なく唇に触れようとした指が止まる
ゆっくりと彷徨う視線
壁にかけられている古い写真
窓の外の柔らかい光
ほんの僅かに微笑んだかのような瞳
「I feel you」
髪をかきあげる男(スロー)
「Jin Blue」
男のロングショット
画面暗転
「Brian Weaver」




「雨の窓辺編」

p4-2雨の窓辺編


 音楽:「Bossa Baroque」Dave Grusin, Performed by Daive Grusin, ( ), No. 3


 縺れ合う 光と雨のカンバスに 愁い滲ます 蒼の肖像


少し暗めの書斎(腰窓からの僅かな光)
ゆっくり振り返る男の顔
木枠の窓をつたう雨
窓に近寄り枠に手を掛けて外を見る男
窓をつたう雨ー男の表情(窓外からのショット)
室内の床に落ちる窓の影
何かを思い出したようにふと笑みがこぼれ
その表情が次第に寂し気に変わる
目を閉じ下を向く男
雨に濡れる窓硝子
画面左に窓、佇む男の全身
「I feel you」
ゆっくり目を開ける男の横顔
窓に背を向け寄りかかる(上半身)
手前の木製デスクに合ったピントが
その向こうの窓辺に合っていく
画面中央
窓に寄りかかる男の全身シルエット(窓からの逆光)
「Jin Blue」
目を閉じ窓に頭をもたせかける男(胸上)
画面暗転
「Brian Weaver」




「木漏れ日の公園編」

p4-3木漏れ日の公園編


 音楽:「Cavatina」Stanley Myers, Performed by Goran Sollscher, ( ) Disc:1, No. 5


 優しみに哀しみ混じる カヴァティーナ 降る木漏れ日の愛撫のように


新緑の樹々の間をゆっくり歩く男の遠景
蒼いセーターと白いパンツ、ポケットに手
ゆらゆらと落ちる木漏れ日
遠くを走り行く小さな子供たち
それを何気なく目で追う男の表情
突然吹きつける風にふと立ち止まり風から顔をそむける男
ざわつく頭上の樹々
ゆっくり顔を上げ樹々を見つめる
枝の間に光る陽
そのまま目を閉じて空気を吸い込む
空に飛んで行く白い風船
立っている男の後姿
「I feel you」
ふと目を開けて後を振り返り
一瞬誰かを捜すような表情(スロー)
誰もいない木立ち
少し苦笑
「Jin Blue」
俯き加減でゆっくり歩き出す
さわさわと揺れる新緑
画面暗転
「Brian Weaver」




前へ 最初のページへ


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: