『シラノ・ド・ベルジュラック』観劇報告
2007年9月1日 青山円形劇場にて
*配役*
シラノ:市川右近 ロクサアヌ他:安寿ミラ ド・ギッシュ、リィズ他:加納幸和 ル・ブレ他:坂部文昭 リニエール他:たかお鷹
クリスチャン他:桂憲一 ラグノオ、モンフルウリイ他:市川猿弥
*ストーリー*
フランス近衛隊のシラノは剣豪でロマンチスト、そして愛の言葉を語らせたら右に出るものはない詩人でもあるが、その大きな鼻が
彼のコンプレックスの元だった。そんな彼の愛する人は、従妹のロクサアヌ、世の人々の憧れの花。自分の姿を省みて、思いを告げられずにいる。
そんなある日、シラノはロクサアヌから呼び出される。先日劇場で見かけた美しい若者に恋をしていて、彼がシラノのいる近衛隊に配属になるので
仲を取り持ってほしいというのだ。その幸せな男の名はクリスチャン。誰が見ても美男で優美。シラノは悔しいながらもロクサアヌの願いを
聞き届けることにする。
一方クリスチャンの方でも、何度か見かけた絶世の美女ロクサアヌに恋焦がれていた。シラノからロクサアヌの気持ちを知らされると、
大喜びしつつも慌て始める。見かけこそ優美だが、恋を囁く言葉を知らないのだ。シラノは、自分が手紙の代筆を買って出る。
恋を語るロマンティックな美文が功を奏し、ロクサアヌとクリスチャンは結婚するに至る。しかし幸せも束の間、シラノとクリスチャンのいる近衛隊は
イスパニアとの戦いの最前線へと出向くことになった。涙ながらに、クリスチャンが手紙を沢山くれるよう頼んでくれと言うロクサアヌに、シラノは深く頷くのだった。
戦場で兵糧攻めに合っている近衛隊の面々。シラノはこっそりと、イスパニア兵の包囲をかいくぐって度々ロクサアヌの元に手紙を届けていた。・・・クリスチャン本人も知らない、
クリスチャンからの手紙・・・シラノが代筆した手紙だ。その情の深い手紙に心を打たれたロクサアヌは、戦火をかいくぐってクリスチャンの下へ駆けつけてくる。そして、優美な姿ではなく、
たとえクリスチャンが醜くとも、あの情の深さを愛することが出来ると告げるロクサアヌ。ロクサアヌが愛しているのは、自分の心ではない。絶望したクリスチャンは、
戦場で華々しく散っていく。シラノが書いた別れの手紙を握り締めたまま・・・。その手紙を、クリスチャンが書いたものと信じて疑わないロクサアヌは、
形見として胸に抱き、修道院で彼の死を悼んで暮らす様になる。
14年が過ぎ、一時の名声はどこへやら、シラノは日々の暮らしにも困窮するような零落振りだった。それでも毎週土曜日には、ロクサアヌのいる修道院へ出かけ、その週にあったことを
語って聞かせるのを日課にしていた。
その土曜日。真っ直ぐで正直だからこそ、宮中や社会で無駄に敵を作るシラノは、彼を恨むものの策略で瀕死の大怪我を負わされてしまう。起き上がることすら
困難な状態の身体を引きずるようにして、シラノはロクサアヌの元へと向かった。そうとは知らないロクサアヌは、刺繍をしながらいつものように、シラノの話を面白そうに聞いている。
ふと、クリスチャンの形見の手紙を見せて欲しいと、シラノが頼んだ。ロクサアヌが手紙を渡すと、シラノはその手紙・・・元はといえば自分が書いた手紙を、
朗々とした口調で読み上げ始めた。その口調、その響きに、今まで手紙を、愛の言葉を送ってきていたのは、実はクリスチャンではなくシラノであったことに、
ロクサアヌはようやく気づき、彼こそを愛していると気づく。
そこへ、親友ル・ブレや仲間のラグノオが駆けつけてきて、ロクサアヌに事情を説明する。果たしてシラノの帽子の下は血の滲む包帯が巻かれ、ロクサアヌとル・ブレ、そして
ラグノオに看取られて、秋深まる修道院でシラノは息を引き取った。ロクサアヌの嘆きだけが、風に舞う枯葉の中にこだましていた。
*感想*
まず、セットがこの上なくシンプル。って言うか、セットなんてあったっけ?くらいの勢いです。劇場内には歌舞伎等でみる、赤と緑と黒の幕(名前が分かりません・汗)
が張り巡らされていて、円形の中心に、二重になった丸いお立ち台状のものがあるだけです。客席通路を使って出演者が出入りします。台詞もどちらかと言うと歌舞伎寄りで、
そこへロクサアヌが「~あそばせな」って言う、いかにもお姫様な言葉遣いが混じるのが面白かったです。
芝居巧者が集まって、しかも近距離の芝居だとこんなにも引き込まれるものかと思いました。特にシラノ・市川右近さんは圧巻。その存在感もそうですが、
ストーリーラストで、怪我をしながらそれを隠してロクサアヌに逢いに来る件は、その零落振りが滲み出るようで、そして、実は手紙の主がシラノだと気づかれた後も、
「違います、違います、私じゃありません」とかたくななまでに否定するその哀切さに、胸が痛みました。
安寿ミラさんのロクサアヌも、わがままだけどチャーミングで、こりゃあ男性ならメロメロでしょうって言うロクサアヌっぷり。冒頭では劇場の物売りをやっていたりして、
席が前の方だと売り物をもらえたりしてました(笑)。他の出演者の皆様も、ひっこんだと思ったら違う格好で出てきて、目がキョロキョロ(笑)。しかし、
修道院の場面で修道女の格好をした市川猿弥さんの様子があまりにも可笑しくて、その場に一緒に出ている修道女さん(誰だったかな、坂部さんとたかおさん・・・?嘘かも)が
つい噴出してました(笑)猿弥さんが「何が可笑しいんですか」と怒ってましたけど。
今回は一応芝居が正面から拝見できたので、初見的に良かったと思うのですが、別の角度から見たらまた面白いんじゃないかな~と思いました。
さすがにもう観にいけませんが、このメンバーで再演されたら、多分観に行くと思います。