はっぴぃ★ぶ~け

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『決闘』観劇報告

Studio Life若手公演『決闘』観劇報告

2007年9月8日 東京芸術劇場小ホール1にて

*配役*
ジョエル:荒木健太朗/関戸博一 エリック:松本慎也/三上俊 ルィーズ:吉田隆太/青木隆敏 スケリー:大沼亮吉/仲原裕之 ソープ先生:石飛幸治/藤原啓児 

*ストーリー*
高校のフェンシング部に所属する、ジョエルとエリック。空想屋で、18世紀のフランスに傾倒し、今の時代と大人たち・ルールに憤りを覚えているジョエルと、 1年前の父親の自殺以来、心に秘密と傷を抱えているエリック。二人はフェンシングをしているときだけ、生きていることを実感していた。フェンシングを通して、 友情を深めていく二人。そして、お互いの秘密を明かしあう。
ジョエルの秘密は、自分の空想上の人物・ヴァレリアン=レストンヴェールの物語。彼の愛する18世紀フランスを生きる剣豪・ヴァレリアンの奇想天外な物語の空想は、 高校生になってまでめぐらすには、あまりにもばかげていることを、ジョエルは分かっている。しかしエリックになら、この秘密をシェアしてもいいという気になったのだ。ジョエルの 考え出す空想物語に、エリックも興味を持って接するのだった。
エリックの秘密。それは、1年前の父親の自殺に起因する。葬式に際し、綺麗に化粧を施された父親にショックを受け、その紅を刷かれた唇に釘付けになったエリックは、 母親に促されて最後のキスをする。まだ柔らかな父親の唇の感触に、自分が性的な高揚を覚えていることに気づいたエリックは、自分自身に憤り、そして 周りの全てのものに憤るようになったのだ。
エリックは、顔にアザを持つ美しい少女、ルィーズに想いを寄せていた。しかしルィーズは、エリックとの友情を壊したくないと、デートの誘いを断る。一方、 スポーツマンで自惚れ屋のスケリーもまた、ルィーズを手に入れようとしていた。ジョエルとエリックの前で手ひどくルィーズに拒絶されたスケリーは、 彼女の顔のアザを侮辱する。怒ったのはジョエルとエリックのほうで、ルィーズは放っておいて欲しい、復讐だとか大げさなことはやめて欲しいと二人に頼む。しかし、 彼女の言葉は自分たちを試しているのだ、ルィーズの言葉に自分たちが逆らう勇気があるのか確かめたいのだとジョエルに言われたエリックは、勢いで スケリーに素手での決着を申し入れる。スケリーはフェンシングでかかってこいと剣を手にする。素人相手に剣を向けることなどできずに、スケリーの攻撃をかわすだけの エリックを見かねて、ジョエルが剣を取り、スケリーを怪我寸前まで追い詰める。
事件の結果、ジョエルはフェンシング部からの除名を言い渡される。一方、ルィーズはケンカの原因が自分であることを知り、エリックを詰る。自分のアザが下で ケンカがあったなど、格好の噂話のタネになるのだと。ルィーズは、先日の侮辱を謝りに来たスケリーから、ことを起こしたのはエリックだと聞かされ、 絶交を言い渡す。
ジョエルがけしかけたせいで、ルィーズに嫌われたと怒るエリック。しかし、先にスケリーを倒したいと言い出したのはエリックであり、責任の半分はエリックにもあると言うジョエル。 二人はささいなことからすれ違い、ジョエルが持っていたフェンシング用のグローブでエリックの頬を張った。決闘を申し込むと。
最初のうちは本気にもしていなかったエリック。しかし、ルィーズが以前、ジョエルが話していたことを小耳に挟んで、ヴァレリアンのことを知っているのを、エリックが話したと思い込んだジョエルは、 エリックの秘密をルィーズに暴露する。激昂したエリックは、ジョエルの決闘を受けることを決心する。
朝早く、学校の道具置き場から持ち出し、ジョエルが切っ先を研いだ剣で、二人の決闘が始まる。握手に続く、抱擁。激しく切りあい、エリックの剣がジョエルの 胸元でぴたりと止まる。その剣を自らの身体に突き通すジョエル。朝日の昇るなか、エリックがジョエルをきつく抱きしめる。
いつもの学校の風景。明るい顔で登校するエリック。とうとうルィーズを口説き落としたスケリーが、二人でエリックの前を通り過ぎ、引き返した。
「エリック、ヴァレリアンのヤツ、生き返ったんだってな?」
エリックは鞄から、フェンシングのグローブを取り出すと、スケリーの横っ面を張った。
「決闘だ!」
臆病な自分を捨て、何かに挑む自分を感じて、エリックは満足の笑顔を浮かべた。

*感想*
現代の若者らしい、色々な渦巻くものが描かれている作品だなと思います。交わされる会話も猥雑で、『ロミオとジュリエット』のマキューシオなんて 比じゃない品のなさです。正直、初見のときは『こういう作品、やるんだ、ライフって』と思ったものです。ライフの学生モノってほら、 『トーマの心臓』の綺麗な印象がこびりついちゃってるから。でも、きっと高校生くらいのころって、すっごく仲いいと思っててもいえないことがあったり、 ちょっとした行き違いがあっただけで、すごく裏切られた気分になって傷ついたりすると思う。それは、男の子も女の子も同じだけど、傷つくポイントが違うし 傷つき方も違うと思う。自分は一応女性であるので、高校時代の男の子の気持ちとか分かりようもないんですが、今、大人になって、実は女の子より 男の子の方がすごく深いところで繊細なんじゃないかと思ったりもします。今回の作品は、その、どっちに行っていいのか分からなくて、混沌として 迷走している若い感性のぶつかり合いみたいな感じかなと思います。
今回2チーム観て、大雑把に言うなら、荒木&松本のFチームは濃厚且つ勢いに乗って突き進む感じで、関戸&三上のSチームはどこか理性的に、ソフトな感じで仕上がっているかな。
まずジョエル。荒木ジョエルは、ほんとに紙一重。ちょっとしたことで爆発する憤りや情熱を、ギリギリのところで押さえ込んでいる印象。ただ、勢い余って 危なっかしいというか、舞い上がっちゃうと自分も見えなくなってしまうところがあって、そのバランスが難しいんじゃないかな。
関戸ジョエルは もっと理性的。自分の中で渦舞くものを、ある程度はコントロールできてもつい爆発する、みたいな部分があります。そして、なんと言うか、・・・ 関戸さんのお人柄と言うか、お人の好さがどこかに見え隠れしていて、それが微妙にジョエルの印象を不明確にしている感がありました。
次にエリック。松本エリックは、勢いあまり過ぎの荒木ジョエルの相方としては丁度いいかな。激昂してても、行き過ぎたり枠からはみ出すぎたりすることは ないです。段々とジョエルから心が離れて、彼の空想を冷めた目で見る乾いた笑いとか、この人、こんな表現もするんだなと思いました。でも、 ルィーズの前に出るときの、いきなりいい人ぶる感じが、普段のエリックとちょっと差がありすぎて、ちょっと裏表ありすぎな感はありますね。
三上エリックは、感情が高まっているときより冷めているときの演技がいい感じです。自然な演技をしているというか。激昂したりシャウトしたりすると、 どこかにかっ飛んで行きそうな不安定さはありますが、ジョエルと女の子の話とかしている場面は自然でよかったです。関戸ジョエルがわりと 落ち着いているので、その分勢い余ってるのは三上エリック方かも。
それから、痛みと傷を抱える女の子の代弁者とも言うべき、ルィーズ。私、わりと彼女に共感するところがあるらしくて(らしくてって)、なんか苦しくなるんですよ。 自分のアザの事で、言われそうな悪口を全部自分で考えておき(これは多分、実際に言われたときに傷つかないように)、それを思いながらどれだけベッドで泣いたか、 なんてエリックに詰め寄るのが凄く切ない。難しい役だと思います。吉田ルィーズはチャーミングで、お姉さんぽい印象でした。アザに対するコンプレックスが、 気にしてないと言っている言葉からすでに滲んできます。父親にさえキスされたことのないアザの部分に、エリックがキスをする場面の表情と、 その後エリックに抱きつく仕草が素敵で、大好きな場面です。
青木ルィーズは、一見あっけらかんとアザのことを話題にしているようでいて、 実は深いところで傷が残っている印象。なんでもない風に、アザのことを言えるようになるまでの努力が垣間見えるようでした。余談ですが 青木さんの女性役、キュートで好きです。
そして、さらっと出てきておきながら、実はことを大変な方向に持っていくことになるスケリー。学校に、大体いるだろうって言う、やなヤツ(苦笑)。スポーツマンでいかにもケンカが強そうで、 日頃女の子にもてる方だから天狗さんで、でも一番おとしたいルィーズには鼻であしらわれてて、・・・なんかいそうでしょ、こういう子。大沼スケリーは、ほんとまんま。そして、前回のロミジュリで 私を釘付けにした(笑)、ちょっとおバカなピーターを彷彿とさせる仕草をします。コドモか、お前は、みたいな(笑)。ただやなヤツじゃなく作っているのが好印象なんですよね。ラストシーンで、 これ見よがしにルィーズの肩を抱いて口笛とか吹いて通り過ぎるんですが、♪よ~く考えよ~お金は大事だよ~♪って言う、あれをね、口笛で吹くわけ(笑)なんでそれなのよ、わざわざ(笑)。 重い作品の中で、ほこっと笑わせてくれるスケリーです。
仲原スケリーは、どっちかと言うと乱暴モノっぽい感じ。でもルィーズには適わなくて、 こっぴどく頭を本で叩かれても(笑)、一生懸命ルィーズを追いかける一途さも持ち合わせてます。スポーツマンの役だからでしょうか、今ヘアスタイルを スポーツ刈りしているのですが、その様子からして「いるいる、こういう人」って感じで(笑)、ビジュアルから入る役作りもありでしょう。
今回この作品をひっぱり、まとめ、引き締めている大人、ソープ先生。お二人が、全く違うビジュアルでいらしたのが面白かったです。 石飛ソープ先生は、髪を襟足でまとめてジャージ姿。まだそれほど歳いってない、自ら身体を動かしてフェンシングを指導している女性教師、と言うところ。 ジョエルとスケリーのケンカを諌める場面でイライラと怒鳴り、実は自分のことが可愛くて仕方ないはずだと言い放つジョエルにぷつっと切れる音がしていそうな ところは、まだ若さのある教師の印象を深めていました。
藤原ソープ先生は、パーマの髪にブラウス・スカート・カーディガン。もう現役で自分が 動くことはしていない、壮年の教師です。ジョエルを諌めるにしろ、今まで教師として培ったものを総動員して語りかけ、 結局は諦めて彼を部から除名する様は、どこかキャリアのある教師のしたたかさみたいなものを感じました。
まだ若い役者陣からすると、結構高めのハードルだと思います。でも、これをもっとキャリアのある役者がやってしまったら、高校生特有の青さとか情熱とかが 見えにくいんじゃないかなとも思います。この作品が、若手の役者さんたちの大きな成長の糧になればいいなと思いながら、拝見した作品でした。



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