さくら咲く

さくら咲く

28週 特別な子



同室の妊婦さん達の症状は様々でしたが、

早産になりかけていて入院している人が多かったみたいです。

皆、もう直ぐ子供が産まれるということもあって、明るい雰囲気でした。

私は初めは自分がそこには馴染めない気がしていました。

お腹の子が生きられるか保証されていない不安を、

幸せそうな妊婦さんに話すことは出来ないと思いました。

ある日同室の妊婦さん達の会話で

「産むときって痛いのかな~」

と不安がる話し声が聞こえてきました。

私はそれを聞き、思わず声を上げて泣いてしまいました。

そんなことが悩みなの?

そんな幸せな悩みを言えることが羨ましかった。

私も子供が元気だったら間違いなくその妊婦さんと同じように言っていたでしょう。

ただ羨ましかっただけなのです。

でも、ずっとカーテンで仕切られた狭い世界に一人でいて、

自分の感情を上手くコントロールできなくなっていました。

その後も、そんな幸せな悩みを耳にするたびに落ち込みました。


**********

私は入院中、本当に良く泣いていたので、

点滴チェックをしに来た看護師さん達に、

泣いているところを何度か見られていました。

ある日看護師さんが検温に来て、帰る間際に優しく声をかけてくれました。

「頑張って下さいね。みんな、応援してますから」

とても嬉しい言葉でした。

「みんな」と言って貰えたのが嬉しかったのです。

他に妊婦さん達は沢山いるのに、看護師さん達が、

私の子供が無事に産まれて来るよう思っていてくれてるのだ、と思いました。

「この子は幸せかもしれない」

その時、はじめてそう思いました。

今までは、ただ「運が悪い子」だと思っていたけれど、

そうじゃないかも知れない。

看護師さん達だけじゃない、考えてみたら、

家族や友達、職場の人たちがこの子の病気を理解し、応援してくれている。

「特別な子」

という言葉が頭に浮かびました。

この子は、人一倍、無事な出産を願われながら産まれてくる

「特別な子」であるような気がしました。

「この子は幸せな子かも知れない」

その日を境に、素直にこの子を妊娠出来たことを

有難く思っていくようになりました。

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: