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保険の異端児・オサメさん
血統書には「日本犬」となっていました。大型の黒茶色で、堂々たる風格のオスでした。
知り合いの文芸評論家が家を建て替えることになりました。そこで「いつも仲がいいよね、もらってくれないか」と頼まれました。
こちらも、家を買ったばかりで、自転車で一回り出来るくらいの庭がありました。犬も飼いたいと思っていました。
評論家の奥さんが東京の恵比寿から犬を連れてきてくれました。放し飼いにしていい気分の毎日でした。相性もいいし、言うこともよく切ってくれました。
ところがです。ところが。
ブロック塀と金網のつなぎ目が悪く、隙間が出来ている所から前の家へ入ってしまいました。猫を追いかけたのです。
前の家とは相性が悪かった、生き物も嫌いな奥さんだった。
こちらの女房が前の家の猫の額のような庭へ入って犬を追いかけ、私は、その家の出口の道路で待ち構えていました。
出てきた! 両手で首輪を掴んだ……途端にガブ ガブと噛まれてしまったのです。それでも、飼い主と分かっていて手加減、口加減はしたのでしょうが。
だらだらと血が流れました。応急処置をして駅前の外科へ向かいました。バスを待っていたら、手首に巻いた包帯を見て、通りかかった人が来るまで送ってくれました。
待つ時は長いものです。9時前で、受付をしてくれません。看護婦は「あー腰が痛い。いいことしたわけでもないのに」なんて呑気な会話。
という訳のうん十年前のお話の傷跡であります。
みんなが「飼い犬に手を噛まれた(間抜けなヤツ)」と笑いましたが、文芸評論家の吉田健一さんだけが、「そういうこともある」と同情してくれました。
あ、知り合いの文芸評論家とは、奥野健男さんです。
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