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10~12
牧野 おめでとう
やっと、たどり着いたな。
ここまで、よく、来れた。
もう、離すなよ。その手を
俺たちが目を離すとお前、よくフラフラしていたよな。
そのたびに司が大げさに心配して俺たちを巻き込んで
大騒動していた日々。
怒涛の恋愛
大恋愛
俺には関係のないの言葉だ
今までどうでもいいと思っていた
でも、牧野の今日の顔を見たら、
少し、思い直してもいいかと考えなくもなかった。
神様のくれた恋(総二郎バージョン編)
全く、牧野の奴、どうにかなんねぇのか?
控室の牧野は悲惨だった。
なんだ、お前、その顔はみんな、ぶっ飛ぶぞ!
泣き過ぎにもほどがあるぞ。
「しっかりしろよ」と肩をたたく。
ほら、また、「ありがとう」と言いながら、涙を流す。
この際、顔を洗って、さっぱりしてから
もう一度、メイクしたほうがいいかもな。
俺たち、3人はすぐにその場を離れた。
と、いうよりは女たちに追い出されてしまった
「早く、もう、出てって下さい。先輩をいつまでもからかわないで下さい」
と桜子が半分、怒っている。
「ホント、大の男、3人がここにいると、控室が狭くなるよ。
行った!行った!早く、司のとこにでも行って、デレデレ顔、見てきたら!」
滋にドアを開けられ、
「シッ!シッ!」と追い払われた。
「どうすっか?」
「まだ、式の予定時間まで、40分近くあるぞ。く
あきらが時計に目をやる。
教会の中庭の芝生の上に絵になる男が3人
いつものことだが俺たちを初めて見る女たちが控えめに騒いでいる。
「うざいな・・・く
「司のとこでも行って、
『おい、牧野、いねぇぞ。逃げたんじゃないか?』
なんてからかってみるか?
それとも、参列者の中にいい女いないか、チェックでもすっか?」
「今日はどっちもやめて、おとなしくしとけ!」
あきらと類にと諌められる。
結局、早めに教会の列席者用の椅子に落ち着き、そのときを待つ。
列席者に配布された式のしおりをパラパラめくる。
聖書の言葉が目に入った。
神は愛です。
愛のうちにいる者は神のうちにおり、神のその人のうちにおられます。
このことによって、愛が私たちにおいても完全なものとなりました。・…・
愛には恐れがありません。全き愛は恐れをしめだします。
ヨハネの手紙第一 第4章16~18
愛には恐れがないか・・・
そうだな。よく、がんばったもんだ。
俺、お前らに拍手、送るよ。
感激の花嫁は白いドレスに包まれて時折、肩を震わせていた。
牧野が動くたびに生花のバラの髪飾りが頼りなげに揺れる。
式の間、なんとか、堪えていたが涙が再び流れ出したのは
バカなあきらがブーケを取った直後。
「おめでとう」の嵐を受け、感涙。
ふたたび、顔はクシャクシャになった。
そんな牧野の様子を遠巻きに見ながら、
「あきらの奴、信じられねぇ、あんなのありかよ。」と横の類に言うと
「あきらのおふくろさんもすぐ横でブーケ、取ろうとしていたよ。
手を伸ばしているの見たから・・・」と返事が返る。
「なんなんだ!あいつら親子は!遠慮しとけよ。全く、あきれるぜ!
牧野のブーケを欲しがる女たちの目が血走っていたのがわからないのか?
俺、知らねぇぞ、この後、どうなっても・・・」
それは予想がついていたことだった。
ほら、見ろ、言ったろ! あんな、バカなことすっから・・・
「あきら、お前、どうにかしろよ。」
飛びかう物を避けながら、俺はあきらを非難する。
女たちの執念は半端じゃねぇからな。
「どうにかしろったって!!」
『どうにもできない』と、とりあえず、
一生懸命、飛んでくる物をキャッチするあきら。
類が器用に避けているが、それでも、何回かに一回は当たっていた。
「とにかく、ここから脱出だ。うまく、抜け出そうぜ。」
「どこ行くんだ?」
「どこでもいいから、早くしてくれ!」
「とりあえず、タクシー。」
大の親友の結婚式の3次会は結局、男3人、色気ゼロ。
俺がぼやくと
「いいんじゃない、たまには。こういう機会も減ってきているし。」
と類が言う。
「そうだよな。4人で一緒なんてもう、そんな悠長な時は終ったってわけか?
学校のとき、あれだけ、一緒にいたのが嘘のようだな・・・。ま、あきもせず、
ほぼ、毎日、つるんでいたのが今、考えると気持ち悪いくらいだな。」とあきら。
「なんだ、俺たち、もう、思い出話に浸るのか?しけた話はやめにしようぜ!」
俺は話題を変えようとした。
が、類の奴がそのまま、あきらの後に続き、思い出、語りだしやがった。
「ある日、その4人のなかに入ってきたんだよね、牧野がさ!」
「でも、牧野は絶対それは認めないぜ。
入ってきたんじゃない、引きずり込まれたんだって主張するな!」とあきら。
引きずり込まれた・・・
この言葉に俺はつい、「当たってる!」
と思わず、つぶやいてしまった。
俺は司が牧野の首に縄をつけて、引きずっているところを想像してしまい、
すっかり、壷にはまってしまい、笑いを抑えるのに必死だった。
それを不審そうに見る類とあきら。
「ご注文のシャンパンです。」とウエイターが
グラスと共に俺たちのテーブルに運んできた。
そして、乾杯。
音頭を取った類から出た言葉が
「神様がくれた恋」だった。
神様のくれた恋11
牧野が司のプロポーズを断ったって、大騒動があって、
みんなで構えて「どうしたんだ!」と心配してやったのに
「大山鳴動して鼠一匹」
とはまさにこのことだった。
よくよく、事情を聞いてみてば、全然、たいしたことじゃなかった。
類が悠長に鼻歌なんぞ、うたっていたのがうなずける。
バカな牧野が素直に「YES」と返事をしとけばいいのに
何を思ったか、
YESの代わりに
「困ります。」と言ってしまったらしい。
「困ります。」は無いだろう!
はっきり言って、それがほんとうの牧野の気持ちなんだろうが、
今さら、散々、2人のことで周囲はみんな、大なり小なり心配してきたわけだし、
じゃあ、聞くが牧野、お前、司がだめなら、誰なんだ?
俺は絶対、司以外の誰も認めないからな
なにがなんでも、結婚してもらいたい。
いや、そうしてくれないとそう、俺たちが困るんだ。
もう、司のお守はできねぇよ。
さっきまで、鼻歌を歌っていた類がもう、
我慢できないって具合で笑っている。
その答えを聞いた司がまた、アホだから、怒って、
手に持ってた指輪を投げつけてそのまま部屋を出て行ったって・・・
はぁ、どうするんだ!
お前ら、本当に、学習の出来てない奴等だ。
牧野も司も俺から言わせると、全く成長していない。
牧野には司しかいないし、
司には牧野しかいないし、
周りの者はみんな、それを知ってんだから・・・
いい加減にしとけよ!
「なにがなんでも、司が出張から帰ってくるまでになんとか、
解決済みにしようぜ。」俺は久々にお節介に燃えることにした。
「いいから、自分で何とかするから」と言って、断る牧野に
「解決して欲しくて、類に相談したんだろう?違うのか?」
「それは、そうだけど…」
「だろう!だったら、ちゃんと考えてやるから…」
「なんか、西門さんが出てくると、ことが大げさになりそうで怖いのよ。」
「類なら、いいのかよ?」
「その言葉、よく、司から出るフレーズだ!」
あきらがうれしそうに手を叩いて喜んでいる。
「とにかく、他人の面倒に関わらない主義の俺がなんとかしてやると
言ってんだから、牧野、言うこと聞けよ、わかったな!」
「どうすんの?牧野、ここはおとなしく、総二郎の言うこと聞いて見る?」と類。
それまで、黙って聞いていた、滋が割って入ってきた。
「さっきから、聞いていたんだけど、『俺がなんとかしてやる』
ってなにか名案あるわけ?いきあたり、ばったりで言ってない?」
鋭い指摘だ。
俺はなにも考えてなかった…
「黙ったところを見ると滋さんの言った通りなんですね。西門さんには
悪いんですが、このことは私たちがなんとかしてあげたいんです。」
今度は桜子が言ってきた。
「牧野、お前、いい友達、たくさん持って幸せだな!
みんな、おまえたちのこと心配してあげてんだ。
協力してもらえるところは、みんなに助けてもらえよ。」
あきらがもっともらしいことを言った。
「司、いつ、帰ってくる予定?」と滋。
「たぶん、あと、2日後。本当は昨日、帰ってくる予定だったの。
あれから、連絡ないままだから、変更になったのは秘書の方が
気を利かせて教えてくれたの。どうしよう?相当、怒ってた…。」
「だから、それは当たり前だ。
司のあの頭で考えつく最高のシュチエーションで
完璧だと踏んでプロポーズしたんだ。
それが、見事に打ち砕かれたんだ!俺だって、お前に怒ってる!」
バカな牧野にとどめの一発を食らわせてやった。
「西門さん、牧野先輩、相当、落ち込んでいるみたいだから、
あまり、責めないでやってくれます。そりゃ、わたしだって、先輩のこと
本当にバカでアホで間抜けでどうしようもない人だって思ってますけど。」
「どっちが、ひどいこと言ってんだよ。
お前の方が3倍ひどいこと言ってたぞ!」
「はい、もう、終わり!いまから、作戦会議を始めます。
題して、『プロポーズの返事はYESのまちがいでした。』作戦よ。
どう、気に入った?」 滋、すっかり、ご満悦の様子。
「作戦はいいけど、題は付けなくていいと思う。」とあきら。
「牧野の意見も聞かないと。それでいいの?
いいなら、協力するよ。
2人の恋は『神様のくれた恋』なんだから
なんとかしてあげないとね。」と類。
また、ここに変なことをいう奴が一人いる!
牧野に類、お前ら、おかしい!
「『神様のくれた恋』?ってなによ。類君、おもしろいこと言うんだね。」
滋が類に意味を聞いていた。
俺にとって、2人の恋が神様からもらったものでもどうでもいいわけで
そんなことは興味はなかったが、女2人は類の説明を真剣に聞いていた。
見ると、あきらまで、納得したみたいにうなづいて聞いている。
訳のわからない集団だ。
恋の新興宗教におかされた連中どもめ・・・
「で、牧野、どうするんだ?」
俺はみんなを夢の世界から現実に戻すため、質問した。
「もう、なんでも、言うこと聞くから、お願い。」
すがるように、俺の方を向いて懇願する牧野。
そんな、牧野を見るのは初めてかもしれない。
『これは相当、へこんでいるな。でも、お前が悪いんだ。自業自得だ
司の気持ち、考えれば、お前、落ち込んでばかりはいられないだろう。』
牧野には色んなこと言ってやりたかった。
でも、それを今、言ってなんになる?
少し、不本意だったが、大河原の考えそうな
変な名前の作戦に乗ってやることにした。
神様のくれた恋12
「大河原、お前、バカか?」
俺はその作戦の内容を聞いた時、思わず、そう、口に出そうになった。
が、そこにいるみんなの反応はおおむね、良好。
賛成、多数により、あっさり、決定。
って、ほかにいくらでも、これだけメンツが揃っているんだから、
いいアイデア、思いつきそうなものを、
なんで、そう来る?
みんな、どうしたんだ?
おかしくないか?
当の本人、牧野まで、
「それ、いいかも!お願いします。」だ。
俺ははっきり言って、そんな馬鹿げた作戦に乗りたくなかったが、
トットと役割まで滋と桜子に決められてしまっていた。
「もう、時間がないのよ。鬼のいぬ間の何とかって奴よ。
司が帰ってくるまでの48時間の間になんとかしないと!」
滋の言う、この言葉が決定打になって、
俺も滋のお遊びの駒の一つとなって、動かざるを得なくなった。
「全く、付き合いきれねぇ…」
何気に盛り上がっている連中についていけない俺がいた。
帰り、類の運転手付きの車の中で
「なんだ、この表は?訳がわからん…」
俺は滋から渡された紙を見て、上下にひっくり返したりしながら、言った。
「タイムスケジュールらしいよ。大河原が書いてた。」と類が答えた。
「完全に俺たちが働いていることを前提にしていない、この表は!」
あきらが吼える。
「あいつは花嫁修業中だから、暇を持て余してんだな。乗りかかった舟だ。
俺、ちょうど、ここ2,3日は稽古以外、入ってないから
お前達が動けない分、俺が動いてもいいぜ。」と提案する。
「でも、俺のやることって、ここに書いているのを見たら、これだけ?」
花沢さん →『つくしを指定した場所に連れだす。』とあった。
「なんだ、類、お前、それだけか?俺なんか、見ろよ!雑用係だ。
ありとあらゆること書いてやがる。差のつけ過ぎだ!」
また、あきらが吼えてる。
「あきら、お前は忙しいだけでまだいいぜ。俺の見てみろよ!
今、気が付いた。ここに書いてある。
『西門さん →司のご機嫌を取り、何とか騙して、連れ出すこと。』
一番、大変なことだぜ!どうやって、あいつの機嫌を取るんだ?」
俺は想像するのも嫌だった…
「それ、一番きついね。でも、適材適所ってやつだ!
あきら、こまごまとした事、得意だし、
総二郎、人、騙すの得意だろう?」
と、類が抜かしやがる。
「なんだ、その、人聞きの悪い言い方!俺は人を騙したりしてないぞ!
類こそ、なんだ?牧野を連れ出すのは本人が了承済みなら、
こんな簡単なことあるか?
お前が連れてこなくても牧野一人でも勝手に来るだろう?
なんで、お前が必要なんだ!」
「なんでも、おじけづいて、逃亡を図るのを防ぐためらしいぜ。」と、あきら。
「そう、牧野、行動パターン読めないからね。しっかり、掴まえておかないと
なにするか、わかんないし…それに、セリフの練習もあるからね。」
「セリフの練習?なんだそれ?俺、今、初めて聞いたぞ。芝居するのか?」
「芝居じゃないよ。現実をそういう風にしてしまうんだよ。」
はぁ?なに言ってんだ?こいつら…
「言っていることが理解不能だ。最初から、もう一度説明してくれ。
よく、聞いていなかった俺が悪いんだが…」
俺は確かに、滋のあまりにも馬鹿げた作戦に気乗りできないこともあり、
その後の打ち合わせと称する作戦会議にほとんど身を入れて聞いておらず、
実際にそこまで計画の段階で進んでいるとは思っていなかった。
だんだん、、不安になってきた…
蚊帳の外にいる司は当然、何も知らずに2日後には帰国する予定だ。
その時までに全て段取りよく、整えて置く必要があった。
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