March 8, 2009
XML

◆小説のかなり大雑把なあらすじ・登場人物◆ は、記事の下のコメント欄を。
  最初から、または途中の回からは、 ◆ 一覧 ◆ からどうぞ。
  ※ 申し訳ありませんが、リンク先は携帯では表示されません。


○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○

 血相を変えた琢人が、乱暴に部屋に入って来た。
「どういうことなんだ。今、ナースステーションで聞いたら、紗英に変わりはないって」
 琢人に電話をかけてくれた看護師の積木さんが、今にも吹き出しそうになるのをこらえて話す。
「どういうことなんだって言われても…。私は、急いで来てください、月野さんが海を見に行きたいそうですって言おうとしていたのに、月野さんが、まで言ったら、先生が分かったすぐ行くって電話を切っちゃたんじゃないですか」
「何だよそれ。急いで来てくださいなんて言われたら、緊急だと思うじゃないかっ」
 怒っているというよりは、取り乱した自分を見せてしまったことを恥じている琢人を、吾朗ちゃんがここぞとばかりにからかった。
「お前でもそんな顔するんだな、耳まで赤くしちゃって」
 琢人はますます赤くなった。これ以上、機嫌を損ねちゃうと厄介だから、ここは素直に謝っておく。
「ごめんね、余計な心配かけちゃって」
 バツが悪そうに、琢人は頭の後ろに手をやった。こう言うときの琢人って、ホント可愛い。
「ということで、頼むよ、坂下。今日は休みだろう? 紗英に海を見せてやってくれ。僕が連れて行ってもいいんだけど、何かあったら困るだろう? その点、お前が一緒なら安心だし」
「何でまた、急に海なんて…」
 琢人がそう言いかけたとき、今度はくーちゃんが息を切らして入って来た。
「良かったぁ、間に合った」
「あれ? くるみも行く気になってる? 行くのは紗英と坂下だけなんだけど」
「分かってるわよ、そんなこと」
 くーちゃんは抱えていた大きな紙袋を開け、白のロングコートを取り出した。
「はい、これ、紗英さんに。海、寒いから暖かい格好していかないとね」
「そのコート見覚えが…」
 びっくりしている吾朗ちゃんに、くーちゃんが笑いかけた。
「いつか一緒に買い物に行ったときに眺めていたの、覚えてる? さっき電話したときに吾朗君から、紗英さんが海を見に行くって聞いて大慌てで買ってきたの」
 そういうとくーちゃんは私の方に向き直った。
「これね、紗英さんに似合いそうだって、ずっと前に吾朗君と言ってたの。ね、ちょっと着てみて」
 コートの袖に腕を通す。少し絞られたウエストと長めの丈がきれいなラインを作り出す。
「やっぱり、よく似合う」
 くーちゃんと吾朗ちゃんは顔を見合せて、満足そうに微笑んだ。何だかいい感じ。そんな二人の様子を見るのはとても嬉しかった。
「お姉ちゃんのコート、ドレスみたい。真っ白で結婚式みたいだね」
 その声に振り向くと、部屋の入口から夢芽ちゃんが覗き込んでいた。
「お母さんのお見舞いのついでに、遊びに来てくれたの?」
 夢芽ちゃんはこくりと大きく頷いた。
「夢芽ね、今日リボンでお花作ってお母さんにプレゼントしたの。きれいにできたからお姉ちゃんにもあげようと思って」
 そう言うと夢芽ちゃんは、色とりどりのリボンで作った可愛い花束を差し出した。
「ありがとう」
「あのね、これ、お姉ちゃんの結婚式のブーケにしてもいいよ」
 照れくさそうにそう言った夢芽ちゃんに、私は大きく頷いた。
「くるみちゃん、俺にも白のタキシードとか用意してくれたら良かったのに」
 落ち着きを取り戻した琢人が、いつもの調子で要らないことを喋り出した。
「え、お姉ちゃん、この先生と結婚するの? やめておいた方がいいと思うよ。この先生、とっても軽くていい加減なことばかり言うって、お母さんが隣のベッドのおばちゃんと話してたもの」
 みんな、笑った。琢人だけが苦虫を踏み潰したような顔をした。
「僕の妹を頼むぞ。泣かしたりしたら、承知しないからな」
「全く、今日は何ていう日だ」
 琢人はブツブツ言っていた。

 着いたのは病院から車で三十分程行ったところにある、高台の駐車場だった。駐車場をぐるりと取り囲むガードレールの向こうには、冬の海が広がっている。
 空と海を遮るものは何一つなく、降り注ぐ太陽の光が荒れた波の上を飛び跳ねるように光っていた。
「外に出るか?」
「うん」
 車を降りた途端、強い海風が吹き付けた。よろけそうになった私の肩を支え、飛ばされそうだな、と琢人が大きな声で言った。
 駐車場の片隅に小屋のようなものがあった。夏場だけ有料になるこの駐車場の料金窓口のようだった。人影もない今は、周りにブルーシートが巻き付けられていて、その端がバタバタと風に煽られてやけにうるさい。
 私は琢人の腕にしがみ付くようにして海を見つめた。
「いつまであなたの傍にいられるのかな。もうそんなに長くはないような気がするの」
 琢人が何も言わないので、顔を覗いた。海を見つめる瞳にうっすらと涙が滲む。
「ごめん、変なこと言って…。ごめんね」
 琢人は優しい笑みを浮かべ、小さく首を横に振った。
 何も言えない時間が流れる。
「琢人…」
 呼ばれて顔を向けた琢人の頬を、てのひらで包みこむ。冷たい頬が、指先の熱を奪う。
 そっと微笑んで、静かに唇を重ねた。
 眩いほどに反射する光の波の中で、潮騒が遠ざかっていき、全身がゆらゆらと波間に沈んでいくような錯覚が起きる。海の底へ、底へ。深く、ずっと深く。けれどもそこは光の届かない闇ではなく、光の束が揺れる透明な世界。
 私を抱き締めた腕に込められた力の強さに、目眩を覚えそうになるくらい、幸せな今。
 きっとこれから先何十年も何百年も、私たちの想いはこの波に抱かれて、永遠の営みの中でいつまでも輝き続けていく。海も空も風も、この瞬間の私たちのことをきっと覚えていてくれる。
 何だかそんな気がするの。また吾朗ちゃんに壮大な他力本願だって笑われそうだけど。
 だから琢人、あなたの中の私への想いがいつか消えてしまっても、私は大丈夫。
 私がいなくなったら私への想いはこの海に任せて、一日も早く忘れて新しい恋に出会ってね。その代り今は、最期の一分一秒まであなたのことを好きでいさせて。(つづく)

○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○.。.:・°○


読んでくださり、ありがとうございました!
ぽちっとランキングへの応援を。励みになってます
お気持ちに感謝♪ ファイブ ブログランキング 「コンテンツバンク」で記事をチェック!



今回の物語の補足
前回、夢芽ちゃんが登場した場面  第49話
吾朗が白のロングコートを眺めていた場面  第38話

予定では次回が最終話です。

さて、前回書いた息子の(小3)の反抗期
色々コメントをお寄せくださり、ありがとうございました。
温かいお言葉の数々、嬉しい限りです

息子はもともと感情が激しく、怒ると物に当たり散らし、
これまでに2回、家のガラス戸を割りました。

きっと15の夜には、盗んだバイクで走りだすんだろうな…。
それで学校の窓ガラスを鉄パイプで割ったりするんだろうな…。
そんな感じ。(-ω-;;)

それでも普段はとても優しい子。
怒り散らすこともしょちゅうではないのですが、
先々週は常にイライラが酷かったんです。
そう、先々週は。先週からぴたっと治まってます。

最初は私が最近忙しくて、夕飯の支度をしておいて、
兄弟で食べててね~と言って、出掛けることも何度かあったし、
(今住んでいる所はPTAも地域のことも集まるのは夜。
以前住んでた所では考えられませんが、地域により様々ですね)

旦那も年度末で帰りが結構遅いので、
寂しいの? とも思いましたが…

違いました

少し前から鼻がつまると言うので、
軽い風邪だと思っていたら、やたらと目をこすりだし…

ひょっとして… 花粉症?!
3/2、病院で間違いありませんね~とお墨付きで、
花粉症デビュー。(>_<)

いただいた薬を飲ませ、目薬をさしたところ、
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!!  とスッキリ。

花粉症のせいで癇癪を起していた息子。
相変わらず言うことをきかないことも多いですが、
普段程度に落ち着きました。やれやれ…。^^;

でもこれから毎年、この時期は辛いよね…。
花粉症の方も多いと思いますが、どうぞお大事に。


今日もありがとうございました ブログ管理人・ぽあんかれ


Copyright (c) 2007 - 2008 “poincare ~ポアンカレ~” All rights reserved.

小さな命・消さないで・・・猫に愛の手。

※迷惑コメント対策で「 http: 」を 禁止ワード に設定しました。
URLをご記入の際には「http:」を省いてお書きください。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  March 9, 2009 06:42:20 PM
コメント(51) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

ぽあんかれ

ぽあんかれ

Favorite Blog

ゲーム千夜一夜 第… New! ぱに〜にさん

操舵への道 ひかるせぶんさん
SWEETS byちゅっぷ chuppprinさん
ちょこっと掛川 ☆fuwari-usagi☆さん
りとるはぴねす 美冬2717さん

Free Space


   mail  poincare@fragments.m001.jp

   ※お返事は遅くなるかもしれません。
     ご了承ください。m(__)m 


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: