November 28, 2009
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 あと三十分もすれば子供たちが学校から帰ってくる。それまでに出来ることは、なるべく片付けておきたかった。
 夫には落ち着いて話したかったので、帰宅してから話すことにした。仕事が繁忙期に入り、夜も十時を回ってからの帰宅が多かったので、「話したいことがあるので、今日はなるべく早く帰ってきて」とだけメールで送った。
 ついさっきまでは「今から横浜へ行きます」とメールに書いて送りたいくらいだった。でもなるべくなら母が退院するまで、少なくとも退院の目途がつくまでは向こうにいたい。そうなると一週間程度は帰ってこられないだろう。父も母も危篤だと言う訳でもないので、何もかもほったらかしにしてすぐに行くよりは、食事や洗濯、子供たちのことをどうするのか、ある程度整理してから出発した方が、少しでも長く余裕を持って向こうに滞在できるだろうと考えた。
 それまでの頼みの綱になってくれそうな時雄おじさんにも、再び電話をかけてみたが今度も繋がらなかった。
 孝之にも母の容態を知らせてあげたかった。だが、母が家にいる時には自分から電話を取ることなど決してしない彼にとって、何度も電話がかかってくることは、それだけで恐ろしく気が重くなるだろう。夜にはもう一度様子を窺いたかったので、孝之への連絡は夜までしないことにした。
 先程電話をくれた瀬賀浦中央病院の看護師長さんにも連絡をして、母の容態を父に伝えてもらおうと思ったのだが、またしてもダイヤルしようとした指が宙に迷った。
 病院の電話番号を聞いていなかった。電話機もかなり長いこと使っている古いものなので、着信履歴の表示機能なども付いていなかった。
 電話番号はまたインターネットで調べればすぐ分かるだろうけれど、父が入院している病棟名とか、電話をくれた看護師長さんの名前とか、確かに聞いた覚えのあることですら、何一つ頭に残っていなかった。普段だったらそういうことは、必ずメモしておくのに。
 とりあえず電話番号だけでもと思い、再びブラウザを開いた。
 病院のホームページに辿り着くと、そこには青空に定規を当ててカッターナイフで切り取ったような、真っ白で四角い外来棟の写真があった。
 この病院には、私自身も子供の頃から何度もお世話になってきた。
 小学校一年生のときに腎臓病ネフローゼ症候群という、腎臓病の中でも特に厄介だと言われる病気になり、一年近くこの病院に入院していた。退院後も小学校を卒業する頃まで、ずっと通院していた。中学生になってからはネフローゼに関しては通う必要もなくなったが、大きな総合病院だったので何かあるたびにここを訪れていた。OLになりたてだった頃に手に湿疹が広がり、ここの皮膚科にしばらく通院したこともあった。
 それから私自身がこの病院にかかったことはなかったけれど、すぐ近くには短大の時からずっと仲良くしている友人の家があるので、病院の前はちょくちょく通っていた。五年前に父が肺ガンの手術をしたのもこの病院で、その時はまだ幼かった子供たちを友人宅で預かってもらって父のお見舞いに行ったこともあったっけ。
 次々と色々なことが思い浮かぶ中で、ふと中学・高校と一緒だったまどかのお父さんのことを思い出した。院内処方が当たり前だった当時、この病院の薬剤師をしていたまどかのお父さんに、薬局の窓口で何度か顔を合わせたことがある。
「麻美ちゃんも、すっかり大人になったねぇ」
「ふふ、おじさんもお元気そうですね。まどかも元気にやっていますか?」
「あいつは相変わらずだよ。また今度、うちに遊びに来なさい」
 おじさんは白衣に似合う上品な笑顔で、いつも穏やかに心安く話しかけてくれた。
 気性が荒くて、夏場はシャツ一枚、冬は安っぽいジャージの上にどてらを羽織って、「水戸黄門」を見てゲラゲラ大笑いしているか、夕飯のおかずのことで母を怒鳴りつけている私の父とは大違い。こんなお父さんだったらよかったのにと、羨ましく思っていた。
 おじさんは元気だろうか。
 この時は何も知らずに、ただ懐かしく思い出していた。
「そう言えば、まどかともしばらく連絡とってないな。今回は帰省しても父と母の両方の病院に通わなきゃならないし、孝之の世話もあるからゆっくり会う時間もないだろうな」
 そんなことしか考えていなかった。
 ユークリッド幾何学についてネットで調べなくとも、既に私の周りでいくつもの平行線が交わっていることなんて、これっぽっちも感じてはいなかった。
 病院の電話番号を探して画面をスクロールしていくと、サイドメニューの一番下に「お見舞いのメール」という項目があることに気が付いた。
 クリックすると、「入院している患者さまへのお見舞いのメールをお取次ぎ致します」と書かれたページにジャンプした。いくつか注意事項が書かれているその下にメールフォームがあり、ここにメールの内容を入力して送信すると、病院でプリントアウトして宛先の患者に渡してくれるらしい。
 こんなサービスがあるなんて今まで聞いたこともなくて、驚きながらもとても心強い味方を得たような気分になった。
 これなら間に人が入らないから、父に私の言葉をダイレクトに伝えることができる。
 パソコンも携帯電話も持とうともしない父だったから、メールなんて初めてのことだし、父宛の手紙などもこれまでただの一度も書いたことがなかった。
 そしてこのホームページから送ったメールは、父に宛てた最初で最後の手紙になった。(つづく)

※この作品はフィクションです。登場人物や団体等、実在するものとは一切関係はありません。


いつも見に来てくださる方も、今日初めてお越しいただいた方も、
ご訪問、ありがとうございました手書きハート よかったら、応援お願いします!^^
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今週も遅くなりましたが、なんとか更新できました。^^;
ところで本文中の「どてら」って、みなさん分かるかな?
「半纏(はんてん)」や「丹前(たんぜん)」のことなんですけど…
「?」な方は こちら をどうぞ。

さて、ちょっと前に
itchannさん のブログで拝見したのですが、

これ → 

アクセス解析ツールなんですが、
この中の「忍者効果測定」と言うのを使うと、
ランキングのバナーを何時何分何秒に
クリックしていただいたのかが分かります。

楽天以外の方でコメントを残されていない方は、
どのくらいランキングの応援をしてくれているのか
ちょっと気になっていた私は早速TRY♪

楽天のアクセス記録の足跡
に記録された、
ランキングバナーがクリックされた時間を比較することで、
楽天以外の方でコメントを残されていない方でも、
ランキングバナーをクリックしていただいたのかどうかが、
だいたい分かります

ちょっと前からこのブログでも導入中♪

ではありますが…
なかなか足跡の時間とクリックされた時間の比較を
やっている暇がないのが実情で…
いつか、そのうち、多分、きっと、チェックするんじゃないかな?
って、既にヒトゴトみたくなっちゃってます。^^;

あ、 itchannさん も書かれてましがた、
私も皆さんからいただくランキングのクリックについて、
懐疑心とか持っているワケではありません。

ただ単に、他に応援のクリックってあるのかな…と、
一度調べてみたいな~と、単純に思っただけですので、
そのあたり変なふうにとらえないでくださいね。^^


興味をもたれた方は、 itchannさん のブログの
こちらの記事 をご覧ください。


今日もありがとうございました♪ぽあんかれ (*^^)v

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Last updated  November 29, 2009 02:58:50 AM
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