陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 23




外に出ると冬の冷たい風が頬を刺す。

いつの間にか季節が変わろうとしている。

早い。

夏の青い木々の葉が揺れる頃、今の職場に移って、秋の初めに姿も見ずに、翔に恋した。

そして、今、冬を迎えようとしている。

「きもちいいな~。この冷たい風。ちょっと酔ったかな?家まで帰れるかしら・・・」

祐子は、ワインが効いてご機嫌だった。

「祐子はどうなの?今。」

「えっ、私?」

「この間、言っていたじゃない。告白されたって。私のことばかり聞いて、自分のこと言わないんだから。」

「あ~。ちょっとね。どうしようか迷っているの。だって、私たち、24じゃない?この年でつきあい始める人って、どうなのかな。結婚前提ってこと?」

「祐子らしくないこと言うじゃない。いつも、スパって割り切るくせに。そうでもないか。この前の人もグチャグチャ悩んでいたもんね。」

「もう古い話ししないでよ。傷口開くようなこと言うなっていうの。だって、考えない?彩子は、翔さんで決まりって感じだから悩まないのよ。」

「24才って、そんな年なのかな?恋愛、直、結婚なの?」

「自分はどう思おうと、周りはそう思うんじゃないの?」

「そんなの自分が決めることでしょ?」

「でも、相手がどう思っているかってあるじゃない?」

「それはそうだけど。やっぱり自分の気持ちが大切だと思うよ。結婚とか、恋愛とか区別するんじゃなくて。」

「彩子は、一直線だからね。見・か・け・に・よ・ら・ず。」

待っていたバスが来た。


女友達


彩子も祐子も同じ私鉄沿線に住んでいた。

高校時代の友人が一番気兼ねなくつきあえる。

どうあがいても、なんでも知られているからだ。

家のことも、親のことも、兄弟のことも、成績も、恋愛歴も。

祐子も彩子も同じ地学部で星の観測で寝泊まりもしたし、大学に入ってから一緒に旅行をしているので、寝相も分かっている。

ああ言えば、こんなこと考えている。

こういえば、あんなこと考えている。

お見通し。

お互いに。

それに、祐子は、人のことを羨んだり、ねたんだりするタイプではない。

人のことは人のこと、自分のことは自分のことと割り切れるのが、祐子だった。

彩子は、そんな祐子を信頼していた。

だから、翔のことも最初に祐子に相談した。

「じゃあ、明日、何時にどこ?」

「たまには、銀座にでも行きますか。」

「いいわよ。」

「家出るとき電話してね。10時過ぎがいいな。」

「わかった。お休み。」

「お休み。」

祐子が先に、電車を降りた。

彩子は、3つ先の駅。

周りは、週末を楽しんで帰宅する人たちで一杯だった。

駅に降りて、家に電話を入れた。

「タクシーで帰ってきなさい。」

母の声。

『歩いて10分なのに。』

9時をすぎたら、タクシーに乗るように母から言われているのだ。

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