陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 42




12月28日、彩子は、研究所を辞めた。

ほとんど仕事をせず、皆、後片付けをしていた。

彩子も短い間だったが、持ち帰る荷物の生理をしていた。

そんな時、翔が彩子をファインダーで追っていた。

彩子は、隣の部屋の理彩と帰りに銀座へ寄った。

「彩ちゃんの送別会ね。」

「いいの?おごってもらちゃって。」

「任しておいて。ボーナスも入ったことだし。」

「レカン、予約しておいたから。」

「えっ。理彩ちゃん、ランチなら分かるけど、ディナーはちょっとご馳走になるわけにはいかないわ。高いじゃない。」

「私も行ってみたかったから。大丈夫。」

銀座中央通りの四丁目の角から少し行った所にある、ミキモトの地下にあるフレンチレストランだった。

味も値段も一流のお店。

階段を下り、中に入ると、まばゆいばかりの明かり。

「さすがだね。」

「そうだけど。」

「いらっしゃいませ。」

「6時に予約している松本ですけれど。」

「こちらへどうぞ。」

二人は、奥の方の席に通された。

「ご注文は、ご予約を頂いた時にお伺いしているものでよろしいですか?」

「はい。それで。」

「ありがとう。理彩ちゃん。」

「これから決まっているの?どうするの?翔さんとは。あっ、聞いちゃいけなかったかな。」

「これから、仕事を探して、やりたかったことを勉強し直そうと思っているの。翔さんのことは・・・・・ご想像におまかせ。」

「そう。」

理彩もそれ以上聞けなかった。

彩子もそれ以上言えなかった。

「理彩ちゃん、前会わせてくれた彼、元気?」

「うん。もしかしたら、来年あたり、結婚するかも。」

「えええ、そうなの?おめでとう。」

「ちゃんと決まっている訳じゃないけど。」

二人は、レカンの味を堪能して、外に出た。

「フォアグラのステーキ美味しかった~。」

銀座の夜は、早く終わる。

彩子は、空を見上げた。

「ふう、寒くない?」

「もう後3日で今年もおしまいね。これからも、会おうね。」


自分で決めたこと


「お帰りなさい。ちょっとこっちに来て。」

「何?おかあさん。」

「どうなっているの?」

「何が?仕事探すわ。それに、勉強を始めるつもりなの。この間も話したでしょう?」

「そうじゃなくて、あの川村さんっていう方。」

「それは・・・。何でもなかったの。ただの同じ職場の人で、仲良くしてくれていた人。もう疲れたから寝るわ。」

部屋へ入ると彩子は、ドアを背にして立ったまま涙を流した。

翔への想いを心の中の箱にしまいリボンを掛けた。

「うぅぅぅぅ。」

口に手を当て、嗚咽した。

『自分で決めたこと。』

何度も心の中で、この言葉を繰り返した。

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