陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 25



「これから忙しくなるから。頑張って。」

美奈に向かって、川原が言った。

「はい。」

地下鉄で霞ヶ関から大手町は、4駅目だった。

時間にして、15分程だろうか。

またしても、美奈は、ただ、ハンカチで口を押さえて、下を向いていた。

川原は、他の若手のサポートスタッフの研究員3人と話をしていた。

会社に戻って、席に戻ると、美奈は、深々と席に座った。

『疲れた。』

「川村君。打ち合わせしよう。」

「はい。」

川原に呼ばれて、美奈は、他の研究員とともに会議室に入って行った。

「今日、向こうに生産から納品までの描く工程のリードタイムと在庫水準と販売実績の必要データを出してもらうように頼んでおいたので、それが出たら、村沢君、解析をしてくれ。ヒアリング項目を挙げるから、山本君と畑野君でヒアリングシートを作成してヒアリングしてくれ。香川君は、村沢君のサポートをしてくれ。その、資料が出揃ったところで、生産と流通工程のフロー、さらには、情報フローを見直し、そして、拠点を見直していこう。先ず、ここまで、3ヶ月でやらなければならない。いいね。」

会議の後、早速、美奈は、席に戻り、解析を進めるための関係資料を読みふけった。

5時頃から、体調の崩れを感じ始めたので6時には退社した。

やはり、会社から少し離れたところからタクシーに乗り帰宅した。

「美奈ちゃん、今日、大丈夫だった?」

「うん。」

「食事まだでしょう?早く、食べなさい。」

「は~い。今日は、何?」

「あじの塩焼きと筑前煮よ。」

「お腹空いた~。着替えてくるね~。」

美奈は、部屋に入ると、ベッドに横になった。

『疲れた。まだ、月曜日だっていうのに。』

「ご飯つけていいの?」

母親の声がする。

「今、行く~。」

食事が終わると美奈は直ぐに自分の部屋に戻った。

明かりもつけず、ベッドに座り、机の向こう側にある窓に差し込んでくる月明かりを見ていた。

翌朝、美奈は、中々、起きることができなかった。

「あっ、行けない、こんな時間。疲れちゃったのかな?」

美奈は、急いで着替えた。

ゴールデンウィークを前に、気温も段々上がってきた。

「もう、薄手のジャケットでいいかな。」

ブルーのシャツにブラックのパンツ。そして、手に、オフホワイトのジャケットを抱えてバックを肩に掛け、書類カバンを持って玄関に向かった。

「あら、もう出掛けるの?ご飯は?」

「寝坊したから、いいわ。何か買って食べるから。」

美奈は、外に出ると早歩きで、駅に向かった。

しかし、改札には入らず、タクシー乗り場へ。

美奈は、会社につくと、いつもの通り、コーヒーを買い、クライアント先から送られてくるデータ分析のための資料を読んでいた。

まだ、本格的な仕事が始まっていないので、早く帰宅できた。

こうして、一週間を何とか、過ごした。

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