陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 41



森口に言われたとおり、美奈は無理に朝のラッシュアワーの電車に乗るのを止めた。

『先生に言われたように、急がずに、徐々に電車に乗れるようになればいいわ。仕事が第一だものね。電車に乗ることで発作を起こしていたんじゃしょうがないわ。』

先週、室長の川原からやり直しを指示された、レポートを早く仕上げなければならない。

『今度、室長にダメ出しされたら、この仕事から外されちゃうかもしれない。ミスは、許されないわ。』

「おい、どうしたんだよう。朝から、そんな怖い顔して。」

「ビックリしたぁ、田中君ったら。急に何よ。」

「こっちがビックリするじゃないか。そんなに驚かれちゃあ。今日は、朝から気合い入っているじゃないか。」

「いつもです。田中君と違って私は、真面目だからね~。」

「何だよ。心配してやっているのに。順調に行っているのか?」

「知っているくせに。ダメ出し出されたの。だから、焦っているんじゃない。朝から、田中君の相手している時間はないのぉ。」

「頑張れよ。」

「ありがとう。」

「じゃあな。」

「香川君、この資料のコピーお願いします。」

「村沢君、金曜日にクライアント先に途中報告に行くから、水曜日までにレポート出してくれたまい。」

「はい。わかりました。」

美奈の残業時間が次第に長くなっていった。

「美奈、涼子。やっぱりまだ残業していた。」

「あ、涼子。そっちもまだやっているの?」

「大丈夫?無理はダメだよ。」

「分かっているけれど、水曜日までにレポートを室長に出さなくちゃいけないの。この間、ダメ出しされちゃったから、もうミスはできないの。そこまでは何とか頑張らなくちゃ。」

「ほどほどにしてよ。」

「分かっているって。心配してくれてありがとう。」

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