東方見雲録

東方見雲録

2023.11.07
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カテゴリ: 環境



今回、横浜国立大の研究チームは、東日本大震災において津波被害を最も受けた宮城県の海外林を対象にして、津波到達前後の航空・衛星写真を用いて、被害程度や樹木の分布状況を評価しました。この震災で東北地域では約2800ヘクタールの海岸林が津波被害にあっており、そのうち約1800ヘクタールが宮城県だったといいます。

研究者らはまず、津波発生前の衛星画像に基づいて、幅 200メートル以上で、石やコンクリートで作られた防波堤がない海岸林サイト(敷地)を特定し、宮城県の海岸に沿って少なくとも20メートル離れた、津波後に木が残っている50カ所と木が残っていない50カ所の計100カ所の海岸林を無作為に選出しました。調査サイトの標高は1~8メートルで、平均は 3.8メートルでした。東日本大震災では津波計によって測定された海上の最大津波高は9.3メートルだったので、標高10メートルを超える場所は研究から除外されました。

さらに、津波前の写真から樹木種を評価しました。海岸林の全樹木種を特定するのは困難ですが、空から見た樹冠の形や葉の色から常緑針葉樹であるクロマツと広葉樹(ブナやコナラ)の区別は可能だったため、クロマツ単植林か、クロマツと広葉樹が混ざった混交林かに分類しました。また、混交林はクロマツと広葉樹種の空間分布の複雑性の違いによって、①クロマツの中に広葉樹の大きな群生がいくつか混ざった林、②クロマツが優勢で広葉樹の小さな群生がいくつか混ざった林、③クロマツと広葉樹が分離して植えられている林、の3 パターンに分類しました。

調査は航空写真に基づいて、津波前後の樹木被覆(そのサイトを樹木がどれだけ埋め尽くしているか)の変化の程度を 0(変化なし)から10(91~100%)に分類しました。ここで「10」は、津波によってほとんどの樹木が倒されて残っていないことを示しています。

分析の結果、津波前の樹木被覆、津波の高さ、敷地の標高は、津波発生後に残っている樹木の有無に影響を与えていませんでした。樹木が残る可能性に最も影響していたのは樹木の種類(植生)で、クロマツ単植林に比べて、広葉樹とクロマツの混交林の方が津波による被害が少なかったことが明らかになりました。

さらに、広葉樹種とクロマツの空間分布が複雑な混交林は、単純な混交林よりも津波による被害が少なかったことが分かりました。つまり、「クロマツ+広葉樹の大きな群生の林」は「クロマツと広葉樹が分離して植えられている林」よりも津波被害が少なく、「クロマツが優勢+広葉樹の小さな群生の林」と比べても有意差が見られました。

調査から得られた知見は、海岸林をクロマツ単植から混交林に移行することにより津波をより食い止めることができ、居住地域での被害が軽減される可能性を示唆しています。研究チームは、「樹木の種類によって根の形態や成長パターンが異なるため、混交林はより複雑な空間構造を持つためではないか」と考察しています。

近年、海岸林は、防災だけでなく海岸地域の生物多様性の保全や二酸化炭素の固定機能などの面にも注目が集まっています。クロマツ林から混交林への移行は、キノコなどの菌類や動物の多様性にも貢献するでしょう。環境への意識が高まった21世紀に植栽された海岸林は、数百年後に白砂青松に代わる新たな景観を生むかもしれませんね。

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Last updated  2023.11.07 09:00:14
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