のんびり生きる。

のんびり生きる。

つっぱねることはできなかった


・・・
 つねひごろ、ほとんど感情を表さない矢崎のことだ。この日のことでいかに深く傷ついたかがわかる。
 彼にはあのとき議員会館で、あるいは銀座のデパートで、それは自分の仕事ではない、とつっぱねることはできなかった。断ることはできなかった。その頼みが、じっさいは指示であり命令であって、しかも理不尽なものであったにしても、彼はそれを黙って受け容れるしかなかった。
 矢崎はその程度には常識人であり、社会性のある男だった。彼は自分の誇りや矜持を殺して先生の指示に従い、先生の女房が下着売場をうろつくことにつきあった。ただ、ひと仕事すんだあとに、深い屈辱が彼をとらえた・・・。
 彼は同士なのだ、と寺久保は自分自身にあらためて言い聞かせた。使用人扱いしてはならなかった。
                       「愚か者の盟約」85頁

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