のんびり生きる。

のんびり生きる。

きみはいつかはぼくから離れていくんだろう


 かすかに、かすかに寺久保は、戦慄を感じた。やつはたぶん、このおれの寝首をかくときも、いっさい感情を表に見せることはないだろう。いまのように冷やかな表情のままで、裏切りを伝えてくるだろう。
 矢崎が訊いてきた。
「どうしたんです。何か、わたしに?」
「いや」寺久保は自分の内心が表に出なかったことを祈りながら答えた。「きみがいつまで、ぼくの片腕でいてくれるのか、それを考えてしまったのさ」
「いつまでって、どういう意味です?」
「きみだって、いつまでも誰か他人の影でいることに甘んじてはいまい。ずっとそれで満足できるはずがないと思うからさ。きみはいつかはぼくから離れていくんだろう?」
 矢崎は心外そうに言った。
「どうしてそんなふうに思うんです。わたしの人生には、もう寺久保さん以外には何もないんです。ここまできた以上、わたしにはあなたがすべてだってことが、わかってもらえてないんですか」
 矢崎の目が、一瞬うるんで赤くなった。寺久保が驚くと、矢崎はすっと視線をそらし、椅子から立ち上がった。
                      「愚か者の盟約」351頁

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