のんびり生きる。

のんびり生きる。

もう何も聞いていない。



でも僕ももう何も聞いていない。

母は今また旅路につこうとしているし、彼女を説得したり、止めたりすることなんて誰にもできないのだ、と僕は考える。

僕に何ができるだろう? まさか縛りあげることもできないし、結局はそうなるかもしれないとしても、今ここで施設に放り込むわけにもいかない。
僕は母のことが気がかりだし、考えると胸が痛む。僕に残されている肉親といえば母一人なのだ。ここが気に入らなくて母が去っていくことについては残念だと思う。でも僕は金輪際カリフォルニアには戻らない。

となると、話の成り行きははっきりしてくる。
それは今母がここを出ていってしまったら、おそらくもう二度と会えないだろうということである。

僕は母の方に目をやる。彼女は話をやめている。ジルは顔を上げている。二人とも僕を見ている。「どうしたんだい、お前?」と母が言う。
「どこか具合悪いの?」とジルが言う。

僕は椅子の上に前屈みになって両手で顔を覆う。そしてしばらくその格好のままじっとしている。そんな風にしていると気分が悪いし、馬鹿みたいだ。でもどうしようもないのだ。


                    「引越し」179-180頁 

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