中田宏横浜市長のお話

○日　時：平成16年4月9日（金）13：30～15：00
○場　所：関西経済連合会　29階会議室
○講　師：横浜市長　中田宏氏
○テーマ：「地方から日本が変わる」　　　　
○内　容：以下のとおり（文責　山路）

・会場にはマスコミがいないということなので、気が楽である。物
理的に横浜市から離れているので、話しやすいという面がある。
しかし、行政の方がみえるということなのでこれは話しづらい。
・今回は、関経連と同友会合同ということであるが、すごい。関西
という名の下にしっかりした基盤を持ち、影響力を持つのはすごい
ことである。横浜は人口では大阪を100万上回っており、日本で一
番大きい都市であるが、横浜の経済界といっても関西ほどの集積
はもっておらず、東京の経済圏に入っており、単独ではパワーを持
っていない。
・2年前、横浜市長に就任したが、その前は横浜選出の国会議員を
9年やっていた。横浜市会（旧5大市である横浜、名古屋、京都、大
阪、神戸では市議会を市会という）では責められることが多いが、
いやな質問も受け流せる。国会議員500人の中にいたので92人の
市会議員の前では、ここでこそ言えることだが、全然、緊張しなかっ
た。その代わり、市政の方向性については徹底的に議論した。
・マスメディアを通して市民に見てもらうことは大事であり、人の足を
引っ張る人に対しては政策論議をしていく。
・今、39歳で今年、40歳になるが、就任時は37歳だった。議員や職員
にとってはその年齢だけで腹立たしいことだと思う。一方、市民は期
待する人もいたが、半分は現職を支持した。
・市役所はそもそも外から人が入ってくることいやがる。私自身は自
律した国会議員であろうとして無所属でいた。幹部職員の年齢は50歳
前後であるから、37歳であることに腹立たしかったと思う。そこで長幼
の礼はわきまえる。議会にも自負はあるのでわきまえるものはわきま
える。市役所職員の平均年齢は約42歳であるので、そこに達するまで
まだある。
・本質的に何が必要かということに議論を移すようにした。
・今日はテクニカルな話よりも本質の話をしたい。構造改革をどう考え
るかであるが、構造的改革とはマイナーチェンジをやらなかった組織が
やらざるを得ないことである。マイナーチェンジをやっていないとチリが
積もっている。
・国と地方の関係も改めるものは改める必要がある。円滑に回らなくな
っている。
・金が全てだとも経済が全てだとも思っていないが、財政が豊かになり、
福祉、医療やインフラ整備が拡大してきたのが戦後の日本である。
・改革を全体で論じても仕方ない。総論ではなく、各論が大事。一つひと
つに各論がある。
・一番重視するのは情報公開であり、「市民の目に常にさらされる」こと
を認識する必要がある。
・マニフェストは数値目標であるがそれを出すなら情報公開が前提であ
る。数字が正確につかめていない中でマニフェストを出すのは冒険であ
る。
・情報公開は政策論議以前の政策議論である。市長交際費、財政状況
市債残高について市民に説明する義務がある。土地開発公社の保有
土地の実勢価格、中期財政見通し、借入金の総額を発表し、横浜市が
どれだけマイナスを持っているかを確定した。
・普通の市民では1兆円と言われてもその感覚がわからない。
・市民の前に常にさらされることを認識することで、その後の議論を冷静
に客観的に進められる。知りたい市民には常にわかるようになっていな
ければならない。
・市民に常に見られる緊張感が大事であり、そのことが観念論に終わら
ないことにつながる。
・行政が情報をしっかり出すことがすべてにおいて大事である。
・職員が5万人（教職員を含む。職員だけでは3万3千人）もいるといろんな
職員がいるが、不祥事も一切隠さない。予算編成も公開している。
・予算編成過程は公開していないが、いかなる編成過程だったかは、事後
に公開している。
・都道府県に編成過程公開の前例はあったが、これは相手が市町村だか
らできたことである。基礎自治体は市民に予算が直接行くのでつらい。
・これまで情報を持っているから強く出られた。有利に立てた。情報の公開
だけでなく、提供ということで進んで出していく。
・わかりやすくつくる必要がある。これまではエクスキューズでつくっていた。
見て欲しくない。「プロに任せておけ」という意識だった。
・数々の改革の基本は市民との情報の共有である。議員、職員との冷静な
議論に有効である。市民と情報を共有し、各論に入っていく。
・情報公開は中長期的に効果があるばかりではなく、短期的にも効果があ
ることがわかった。
・公募市債はこれまで旧自治省が金利を決めていたが、これに東京都が
異議を唱えた。続いて横浜市も離脱して、今、東京と横浜だけ別である。
・「成長と拡大」を見直す。成長と拡大を再定義する必要がある。例えば、
横浜市立大学を市が持つことの意義を考える必要がある。年間運営に
240億かかる。横浜にある私立の関東学院大学は運営費の8割を授業料
でまかなっていることと比較する必要がある。国家の威信をかけて大学を
設置して、基礎研究をしたり、ポリシーをもって私大の運営をするのはいい
が、市が大学を持つことの意義を考えないといけない。
・市大では、独立行政法人に移行し、学部を廃止し、教授は全部、年俸制
にした。
・交通事業については、市営地下鉄は500億円の借金があるが、東急や
JR並みのコストにしても3,500億円しか返せないことがわかったので、1,500
億円一般会計から繰り入れることにした。そうすると職員が自ら１／３の
人員削減と給与カットを申し出てきた。
・病院については、日赤に委託することで、繰り入れ金額を30億円減にし
た。
・待機児童が一番多いのは大阪市で2位が横浜市である。公立保育園の
時間は18時、19時までであるが、こんな時間に引き取りにこれる親は少な
い。退職者が出る都度、民間委託するようにしている。職員からは保育で
腰痛になると市長に訴えられるが、それが職業だから致し方ないと思う。
・殿様商売で18時までの保育時間になっているが、こんな時間に引き取り
にこれる職業と言えば、公務員しかいない。公務員のために保育所になっ
ている。
・物事は全体で論じてもぼやっとしているので一つひとつ各論を情報公開
して論じていく。
・住民基本台帳について、市には住民を守る義務がある。法律は守る義務
があるが、85万人が登録を断っている中で国に対しておかしいことはおか
しいと言う必要がある。
・政令市13市の市長会でこの問題を議題にしたとき、「時間がないのでしょう
がない」という市長が3人みえた。後でその人たちのプロフィールを見たら、
市役所内部出身だった。
・建築基準法50条により、条例をつくることになっているが、国が一律に縛る
のは無理があるので法改正された。これまでは「法律ですから」という説明
しかされてこなかった。国に言うべきことはしっかり言っていく。
・イニシャティブとディシジョンは首長が取り、オプション（選択肢を考える）
とオペレーティブ（運用）は職員がやるという役割分担、すみわけをする。
・方向転換の際のリスクは必ずトップが取る。ずるいが過去は問わない。今
までの市長の批判は一切しない。時代が変わっていく中で一緒にやろうとい
うことである。
・役所という原理の中で首長として責任は果たしていく。
・行政はあまねく平均的なサービスを提供するのは得意であるので、多様化
するニーズに応えるのは無理がある。地域住民の自助努力がないと自分の
地域への満足度が上がらない。
・ゴミを30％減らす「G３０コード」を実施している。あの埋立地がなくなって
切羽詰まった名古屋市でも20％の減量である。
・芝生の緑化は喜んでやるが、手入れは誰がやるのかという問題がある。自分
たちの地域でやるという自助努力をする地域には手厚くなるので、地域の中で
格差が出るがやむをえない。
・「民の力が存分に発揮される都市・横浜」を目指す。企業、NPO、市民が自己
実現を目指して努力、創意工夫するフィールド、環境を整備する。公共＝行政
サービスではない。

＜感想＞
・年齢が若い（37歳で就任に、今年39歳）分、年上の市会議員や幹部職員に
長幼の礼は尽くすが、政策論議では一歩も引かないという姿勢をみせ、職員
と政治家である首長の役割分担をきっちり意識し、リーダーシップを発揮して
日本最大の都市を率いる若きリーダーの今後の活躍から目が離せなくなりそ
うです。

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