清原慶子三鷹市長のインタビュー



 平成17年3月4日(金)に「行政改革度調査第1位」に位置
づけられるなど評価が高く、「白紙からの市民参加方式」で
エクセレントな自治体経営をされている三鷹市に清原慶子
市長をお訪ねし、お話を伺いました。
 以下に清原市長に伺ったお話で特に印象に残ったことを共
有します。なお、この記録の文責は山路にありますので、その
点ご理解のほどよろしくお願いします。

1 清原市長とのお話

山路)はじめまして。三重県の山路です。ご多忙な中、お時
間をいただき、ありがとうございます。清原市長のことは以
前から存知あげておりましたが、今回、時事通信のインタビ
ュー記事を拝見して共感したので、感想と私がつくったメル
マガや拙稿をお送りして、面談をお願いしたところ、インタ
ビューさせていただくことになった次第です。

清原市長)三鷹市は非常に風通しのいいところで、市長あて
の手紙はきちんと本人に届くのですよ。
 山路さんの全国的なご活躍は存知あげており、私も今日
お会いするのを楽しみにしておりました。

山路)恐縮です。時間も限られておりますので、事前にお送
りした質問に沿って、3点ほどお聞かせください。市長という
お立場なので細かなことより、理念、ビジョンといったことを
お聞かせいただければと思います。
 一点目は、市民活動家、学識者から市長として市政の舵取
りをされるようになって一番感じてみえる違い、つまり、立場
の変化により感じる違いといったものはないかということです。
 二点目は、市民、職員との対話、コミュニケーションを重視
される市長の政治スタイルについてです。
 自らメールマガジンを執筆され、また市長が始められたタウ
ンミーティングでは、一方的にしゃべるどころか、自らコーディ
ネーター役として聞き役に徹してみえ、また、職員とのフリート
ークも数多くこなしてみえると聞いています。
 今は、市民との協働を唱えない自治体はないと言っても過
言ではないでしょうが、「みたか市民プラン21会議」の取り組み
など、真に市民との協働の成果が上がっているのは三鷹市が
群を抜いていると思います。市民との協働、職員との対話にか
ける思いをお聞かせください。
 三点目は、今後の市民との協働のあり方へのお考えと議会
との関わりについてです。
 市民に説明責任を果たすことの重要性を説かれていますが、
協働を進める際には、やはり市民の言い分、行政の立場があ
り、いくら参画から協働へと言っても市民が常時、市役所で仕
事をするわけにはいかない以上、自ずと限界もあると思います。
 また、市民との直接民主主義を進めると議会軽視の声もあ
がったりします。今後のあるべき協働についてのご意見をお
聞かせください。

清原市長)一点目ですが、これまで20代の大学院生の頃から、
市民会議の委員などをしてずっと市政に関わってきたので、
違和感はさほど覚えませんでした。気負いといったものはな
かったと思います。
 なぜならば、一緒に市民活動をしてきた仲間を始めとして、
市民の支援やサポートがありますし、安田前市長からも「市
民と行政とのパートナーシップの経験と今後の実践の可能性
のある方を選びたい」と言っていただいていたからです。
 市民の皆さんの信託を受けた私を、何より行政のプロであ
る職員が支えてくれました。
 また、私が市長選に立候補の決意をしたのは、みずから市
民として活動をしてきていた三鷹市の市長選だからです、も
ともと政治家を志していたわけではありませんし、国会議員
や知事、他の自治体の首長といった別の政治家になるつもり
はありませんでした。三鷹市長だからお受けしたのです。
 就任して一番、感じるのは、市長としての決断の責任の重
さです。日々、意思決定をしていかなければなりません。
 一番大事なのは山路さんが所属しているセクションである
防災の業務を代表とする「市民の安全・安心」ですが、その
ほかにもごみの問題をはじめ、日々、市長として責任を伴う重
い政策等の決断をしなければなりません。
 市長に就任して真っ先にあいさつに伺ったのは、三鷹市が
ごみの最終処分をお願いして支えていただいている西多摩地
区の町長さんのところです。私が何を重視しているかという
ことを唱えているだけでは不十分であり、行動に示すことで
初めて信用されると思います。「信頼関係は態度で示す」こ
とが大切です。

山路)「市民からの監視役」といった感じで行政の機構へ乗り
込む方もある中で、意識の高い市民、レベルの高い市政にレ
ベルの高い方がトップに就かれ、さらに経営の質を高められ
ているという印象を受けます。

清原市長)市長になって助役、収入役を職員から任命すると
言ったら、マスコミには「それではニュースにならない」と言わ
れました。
 しかし、市民活動の出身である市長が外部からではなく、
自信を持って職員から助役、収入役を選べることは、私は
ニュースだと思っており、市民市長として「職員に取り込ま
れることなく市民としての先鋭性を維持できる」と確信を持て
たからです。
 また、市民や職員との対話は「私の元気の源」になっている
ということに尽きます。対話により、自治体経営や問題解決に
向けた「新しい政策の創造」が生まれるという「創発性」が発揮
されているのです。
 最初は幹部から、私がタウンミーティングや職員との「トーク
セッション研修」を、コーディネーター役を果たしつつ頻繁に行
っているので、「市長、疲れませんか」と聞かれましたが、市民
のお話を聞いて、それを市政に反映してきたことがたくさんあ
るし、市民と最前線で接している職員と対話して現場の実態を
知ることができますので、こんな有意義なことで疲れるわけが
ありません。
 最近は、むしろ清原の力の源泉になっていることが周りにも
わかってきたようです。
 これまで1,100名ほどの職員のうち、半数近くの職員と業務を
通して会うとともに、一回につき10数名を対象とし、部課長から
始めた「トークセッション研修」も、その後、全ての課長補佐、
係長と行い、今は主任職を対象に進めており、300人程の職員
と直接話しをしてきました。今まで市長の顔も知らなかったり、
直接、話したことがない職員もいた中で、こちらから職場に出向
いていって職員の中へ入ったり、「トークセッション研修」を行っ
ていくと、私が施政方針として言っていることが決してポーズで
はなく真意だということを理解してくれます。
 たとえば、「庁内顧客」である職員に接するセクションである管
財課の職員から、「市の職員なのに、自分の業務では、直接、
顧客である市民に接することができない」という発言を聞いたと
きは、「市民サービスをする職員をサポートしているのだから、
結局は間接的に市民サービスにつながっている」と伝えると、
自分の業務の意義と重要性を理解してくれました。

山路)お聞きしていて市民対話、職員との対話は双方にメリット
があると感じました。市長は、市民の生の声を吸収することが
でき、市民は直接、市長に意見が言える。
 また、「トークセッション研修」では、市長は職員の考えている
ことを幹部や特定の部署の職員を通してではなく、直接聞くこと
ができ、「尖った氷を尖ったまま」の状態で意見を聞けます。
 さらに職員はメディアやペーパーを通してではなくトップの肉声
でビジョンを聞くことができる。これはモチベーションが上がりま
すね。
 やはり、市民との対話、パブリック・コメント、職員からの政策
提案などで一番大事なのは、反復パブリック・コメントであり、
きちんとしたフィード・バックですね。

清原市長)「協働を重視するということで、むしろ自治の仕事を
市民に投げかけ過ぎていないか」という意見もありますが、市民
から選ばれて民意を反映している議会に政策を提案しようとす
るなら、首長は議員以上に市民の声を直接聞かなければなり
ません。
 そうしなければ議会を通らないはずです。議会も執行部もどち
らも懸命に市民の声を聞いて、より良い政策を議論することが
大事なのだと思います。
 例えば「パートナーシップ協定」などによって市民に委ねるとこ
ろがあっても、結果についての最終責任は市長にあります。市
民だけに責任を負わせることにはなりません。
 三鷹市の議会は、意識の高い市民に選ばれていることもあり、
大変進んでおり、いわゆる行政経験や議会経験のない「素人市
長」である私が安定した施政運営を行っていられるのも議会の
おかげです。市議会との真剣な議論と協調があってこその三鷹
市だということを強調しておきます。
 それともちろん職員の助け、これがあってこそ三鷹市の経営が
できるのです。
 また、三鷹を見る場合、単に市役所を見るのではなく、三鷹とい
う地域を見ていただきたいと思います。市民の皆さんの自主的な
地域活動や協働の実践が、多様に展開されているのです。
 市長という存在を「権力」として捉えるのではなく、あくまで「道具」
であり、地域主権と自治の改革の「手段」として市民にも職員にも
大いに活用して欲しいと思っています。

山路)今日は本当にありがとうございました。今日のお話をお聞き
して、市長になるのが目的ではない清原市長の市政にかける熱い
思いや地域への愛着、市民、議会、職員への敬意と信頼といった
ことがよくわかりました。
 市民の声を聞くとともに、市の将来のことを考えて市の経営者で
ある市長が最終判断しなければならないという、職員のトップだけ
ではない、地域の経営者としての責任を感じました。
 こういうことをお願いすると冗談で「選挙にでも出るのか」と言わ
れることがありますが、ぜひ、記念に写真を一緒に撮ってください。

清原市長)三鷹市も山路さんに訪問していただけるまでの市にな
ったということです。選挙に出ると他人に自分の名前を書いてもら
うのはどれほど意義あること、大変なことであるかがわかりますよ。

2 私の感想
 大学教授というプロフィールからしてもっとお堅い方かと勝手に
想像していたのですが、本当に気さくな方でした。それでいてご自
身のお考えは理路整然と説明される。
 本当にできる方は、こういう方なのでしょう。理論だけではなく、
実践されてみえる自信も感じました。
 ご多忙な中、途中、約束の時間が来て秘書担当からメモが入り、
こちらが恐縮していても、約束の30分の予定時間を倍近く延長し
ていただき最後まで誠実にお答えいただきました。何の利害関係
もない他の自治体の職員である私にこれだけ丁寧に対応していた
だけるのだから、市民や職員に対しては言うに及ばずです。
 三鷹市は、今後も清原市長と市民、議会、職員が協働して
「理論ー実践ー理論」という政策科学がうまく機能し、意識の高い
住民と優秀な職員の相乗効果で高いレベルの自治が展開されて
いくと確信しました。
 私も意識、志の高い方に会っていただけるだけの価値ある人間
になるよう努めていきます。

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