<「はとばす」の経営改革>



地方公営企業連絡協議会主催
「第16回トップセミナー」 講演 ー抄録ー その2
お茶一杯から始まった「はとばす」の経営改革
~私の実践的企業経営論~

元株式会社はとばす代表取締役社長 宮端清次
(「公営企業」2008年12月号より)

<要約>
・私が43年間の仕事の中で得た反省、教訓について一言申し上げます
と、「現状維持は破壊となる」ということであります。
・ダーウィンという人は、今から大体150年ほど前に活躍した人ですが、
「一番強いもの、一番賢いものが生き残っていくのではなくて、環境の
変化に機敏に対応したものこそが生き残る」、こう言ってます。
・要は、我々個人も、組織、企業、自治体、あるいは社会も含めまして、
「昨日と、今日と、明日、同じことをやっていてはだめだ」、これが私が
43年間から得た反省であり、学び取った教訓であります。
・ウォンツ(潜在需要)を掴んだ企業は強いですよ。最近の例では洗濯機
がありますね。
・もうそんなに売れないんです、買い替えの時代ですから、飽和状態です
から。それを買っていただく成功するヒントは、2つだと本に書いてあるん
です。
・1つは、創業者の松下幸之助が言った言葉なんですね。「お客様の求め
るもの、欲しがるものだけをつくってはいけない。お客様に喜んでもらえる
商品をつくれ」、これが1つのヒントなわけです。
・もう一つは、顧客の京都のクリーニング業界の社長が言ったんです。
「松下さん、洗濯機ありますね。洗濯機の機を取りなさい」と言ったんです。
「洗濯の開発をしてください。機は要らない」、これがヒントなんです。
・トップが変わる、これが意識改革の出発点なんです。そして、危機感と
使命感です。危機感も、危機になってから持ったって手遅れなんですよ。
合理化、改善をあわててやりますね。だけど、手遅れなんです。それで、
V字回復させようと思ったら、エネルギーが3倍要ります。だったら、何で
順風満帆で右肩上がりのときはに危機感を持てないのか。ここなんです
よ。順風満帆で右肩上がりのときは、ウハウハで有頂天なんですね。
・後輩には、「自分の心のろうそくに灯をともそう、これが出発点です」と
言うんですよ。ろうそくは、灯をともされると周りを明るく照らして役に立ち
ますね。「心のろうそくに灯をともそう、これが使命感の出発点だ」、こうい
うことで言っているわけです。
・チャンスというのは、黙っていたら前を通り過ぎていきます。意識して掴
まなきゃだめです。これが意識の出発点ですね。「人事を尽くして天命を
待つ」、これは正しいです。だけど、この意識改革においてはそれは間違
いなんです。「人事を尽くして天命を掴み取る」んです。
・チェンジをチャンスにするためにはどうするか。CHANGE(チェンジ)のG
をCにすれば良いんです。そうですね、見てください。CHANGE(チェンジ)
のGをCにすればCHANCE(チャンス)になります。そしたら、サイクル回る
じゃないですか。それも、らせん階段のように毎日毎日上へ上がらなきゃ
ならない。平面で回ったって進歩しませんから、らせん階段で回っていく
んですよ。じゃ、GをCにするためには、GのここにあるTを取ればCになり
ますね。Tとは何ですか。我々個人、組織に巣くっているタブーの頭文字
のTなんです。タブーを取るんですよ。
・みんなヘッドシップとリーダーシップを勘違いしているんです。ヘッドシッ
プというのは辞令一本で出るものです。
・リーダーは、自分が偉いと思ったらもうだめなんです。リーダーは辛い
んです。周りの人から「偉い」と言わせるのがリーダーなんです。
・だから、私はいつも言ってるんですけど、「リーダーろうそく論」なんです。
なぜか。我が身を削って周りを明るく照らして役に立つ。我が身を削れ
ますか。リーダーは後ろ姿しかないんです。だから、ヘッドシップじゃだめ
なんです。
・「社員、従業員は、その属している企業、会社が、その社員、従業員を
扱う以上にはお客様を扱わないんです。企業が社員を扱う以上には社
員はお客様を扱ってくれません」、これが鉄則です。
・社員を単なるコストの対象としか見ない経営者は、やっぱりだめです。
プラス資源、財産、そう見るかどうかです。社員、職員を人財、資源、財
産として見れる人がこれからの経営者です。
・セーフティの中で言いたいのは何か、「なら」「しか」なんです。「なら」
「しか」を今日はお話したい。
・「はとバス」で言えば、「はとバスなら安心して乗れる」、「はとバスしか
使わない」こう言ってもらいたいんです。セーフティというのはそこなん
です。「あなたなら、この仕事は任せられる」、「あなたしか、この仕事を
頼めない」、こう言わせる。個人も組織もそうです。
・経営者は退路を断つしかないんです、逃げ道をつくったら絶対だめな
んです。合理化であろうと、再建計画であろうと、中期計画であろうと、
初年度目標を達成できなかったらだめなんです。これは私の経験なん
です。初年度が一番大切なんです。なぜか。1年でできないものは4年
たったってできないんですよ、間違いないです。
・これは自治体であろうと民間企業であろうと皆同じです。初年度命が
けでやるんです。で、目標を達成するんです。そしたら、勢いが出て前
倒しができるんです。初年度失敗したらもう終わりです。これが民間企
業の鉄則です。
・判断されるのはお客様です。自己満足は最大の敵です。
・僕は、社長になってお客様第一主義を実践するために、まず自分が
お客様になります。休みの日に月3回女房を連れて乗る。だから、幹部
社員も、もちろん一般社員もできたら自分の休みの日に自腹を切って
「はとバス」に乗ってほしい、これしかないんですよ。そしたらお客様第
一主義が分かるようになります。料金を払いますと、私も曲りなりにお
客ですよ。8,000円の値打ちがあるかどうか検証できるんです。これが
出発点です。
・ライバルは同業他社じゃないんです、ライバルはお客様なんですよ。
・(社内でガイドが入れるお茶に関して葉っぱの質が落ちてお客様から
苦情が来たことに関して)「どんなに財政が厳しくとも、お客様サービス
に関する商品、サービスの質を上げなさい」、これを教わったんですよ。
「商品、サービスの質を上げることによって、売り上げが増え、利益が
出てきますよ」、これを社員から教わったんです。
・「なら」「しか」のために何をやったかということだけ簡単に言いますと、
大して成功しなかったんですが・・・。
・1つは社長室の廃止です。ちっぽけな社長室ですけど、そこにいたん
じゃ本当の情報が入ってこないんです。経営が危機になりましたので、
一番必要なのは悪い情報なんです。ところが、どうでもいいような情報
は茶坊主が持ってくるんです。こんなのは要らないんです。本当は悪い
情報が欲しいんです。ところが、社長室にいますと入ってこないんです。
裸の王様です。
・2番目は、社長専用車をやめて共有車にする。当時私は吉祥寺に住
んでいましたから1時間40分かけて通勤しなきゃならん。63歳になって
いましたから、本当は、社長専用車で通いたいんですよ。
・ところが、それ乗って通勤していたら、馬鹿野郎なんですよ。「なら」
「しか」とれないんです。社員と同じように1時間40分かけて、満員電車
に乗ってバス乗り継いで通勤している後ろ姿を見せるしかないんです。
・3つ目は、禁句を3つつくりました。1つは『末端』です。担当役員がこう
言ったんです。「ただいま決定したこの第3次合理化計画を、私は責任
を持って末端まで周知徹底して実行します」
・「末端って誰だ。お客様と接する社員が何で末端なんだ」。お客様と
接する社員は先端で、社長が末端なんですよ。自治体でいえば市長が
末端なんですよ。市民と接する窓口が先端なんです。これは当たり前
です。
・2番目は、『業者』です。昼間のホテルの食事に関する苦情のことで
担当部長に指示したら、その部長がこう言ったんです。「分かりました。
早速業者呼んで厳しく注意して改善します」と。
・お客様から見ると全部「はとバス」の責任です。どんなホテルでも皆
そうです。そのホテルを「業者とは何事だ。役人じゃあるまいし、見下
したような言い方をするな。この人たちはみんなパートナーですよ」と。
・最後は『生き残り』です。部長会やっても、課長会やっても、「生き残
りをかけて」と言うんですよ、慣用句だから。だけども、生き残りをかけ
てやったって絶対生き残れないんです。生き残ろうと思ったら、一人勝
ち、勝ち残りです。ナンバーワンにならなくても良いんですよ。SMAPの
歌じゃないですが、オンリーワンです。オンリーワンになったら結果的に
勝ち残り、そして生き残っていくんです。
・だから、『末端』と、『業者』と『生き残り』は禁句だということで始まった
んです、はずかしい話ですが。
・CSを知らない人はいませんよ。やってないから赤字になっているんで
すよ。知っているつもりで終わっているんですよ、私も役員も。能書き
は言います。だけど実行してないから赤字になっているわけです。これ
を変えるしかないんです。
・今までは「たかがはとバス」だった。それを「されどはとバス」にして、
お客様から「さすがははとバス」と言っていただくためにはどうすれば
良いか。
・「はとバス」という会社はどんな会社か。一言で言えば、お客様の心
に残るものを売っている感動製造販売業だ、これだけです。これしか
ないんです。心に残るものを売っているんだということです。
・サービスの成功例は何か、サービスの本質は何かと言ったら、一言
です。お金を頂戴した上に、お客様から「ありがとう、またあなたにお会
いしたい」、こう言っていただくのがサービス業なんです。
・自治体で言えば、税金を払っていただいた上に、「市役所さん、ありが
とう、あなた方は私たちの誇りだ」、こう言っていただくのがサービスな
んです。
・お金を頂戴した上に、「ありがとう」と言ってもらう。こちらがありがとう
ございますというのは当たり前です。お客様からお金を頂戴した上に、
「ありがとう、またあなたにお会いしたい。この次も頼みますよ」、こう
言っていただかないと、我々民間企業は、サービス業は成り立たない
です。これが本質です。
・だから、サービスというのは100-1=0なんです。99一生懸命やりま
しても、1つでもお客様から不満、苦情が出たら成果0なんです。お客
様から99人「はとバスは良いよ」と言われても、1人でも「はとバスだめ」
と言われたら、成果0なんです。
・プロとは何かと。給料をもらっているんですから、プロですね。プロと
は何かということを社員から教わったんです。プロとは、お客様の喜び
を自分の喜びにできる人がプロなんです。
・ブランドが高ければ高いほど期待は大きいんですよ。だから、相当高
度のサービスだって当たり前、ちょっとミスすれば、もう「何だこりゃ?」
ですよ。お金返せです。
・みんな自治体も、民間企業も、「お客様満足度調査」をしますね。これ
はこれで良いんですよ。だけど、本当に事業を改善して発展させようと
思ったら、「不満足度調査」をするんです。これ、できますか。血を流し
ますからね、経営者は身を切られますよ。だけど、本当は不満足度調
査が一番の近道です。不満、苦情を少なくしようと思ったら、生かすん
です。これができるかどうかです。
・「たまたま客を、わざわざ客」にしなきゃ我々は生きていけないんです。
・「まいった、そこまでやるか」と言わせるんです、サービスで。そこまで
やるか。ありがとうだけじゃないんですよ。これがCDです。コンパクトデ
ィスクじゃないんですよ、カスタマーズ・ディライト、自治体で言えばシチ
ズンズ・ディライトです。「まいった」と言わせるんです。
・私も「はとバス」のとき今でも思い出しますけど、お客様に向かって運
転士に挨拶しなさいと言ったんです。やらないんですよ。俺達は運転の
プロだから、運転技術に関して社長が言うんだったら聞いてもいい。挨
拶はガイド、添乗員の仕事だと。本当は恥ずかしくてやらないんですよ。
・しょうがないですから、6時半から浜松町に行って、浜松町バスターミ
ナルから他県に出ますね、7時から8時半まで。乗り込んで挨拶して、
9時から11時まで東京駅から「定期観光」が出ますから、何百十台に乗
り込んで挨拶するわけです。
・「社長でございます。本日はありがとうございます。」最後に「乗務員一
同安全運転に努めまして、きょう1日お客様に楽しい旅をしていただき
ますよう一生懸命やります。それでは行ってらっしゃいませ」、汗びっし
ょりかきながら何百十台乗りますね。
・そうすると、お客様の中にはびっくりする人もいますよ。誰が来て挨拶
しているんだと思うわけです。中には「あんた、本当に社長なの」と言う
人もいますよ。だけど、これは意外性でもいいんです。社長が乗り込ん
で150台挨拶し出した。私はお客様に言っているんじゃないんです。本当
は、横にいる運転士にも言っているんです。社長が汗びっしりかきながら
乗り込んできて挨拶し出した。しょうがないやというんで、166名が挨拶し
出した。
・そうすると、お客様から手紙が来るんですよ。「運転士さんから挨拶さ
れるとは思わなかった。何かその日1日安心して楽しき旅できました。
ありがとう」、ここなんですよ。ガイド、添乗員は当たり前です。運転士
が挨拶し出したんです。「新鮮な驚き」これでも良いんです。
・私はいつも後輩に言っているんです、「感動を呼ぶサービスは3つで
すよ」と。特に接客業はそうですね。
・1番、その場でやる。後でやったってだめなんです。その場でやるんで
す。2番目は、一生懸命さ、ひたむきさです。上司から言われてやるん
ではだめなんです。マニュアルを超えられるかどうかです。マニュアルだ
けやっていたらCSで終わりです。それを超えてCDになるためには、喜
び、感動を共有するためには、自分の意思でマニュアルを超えるんで
す。これができるかどうかです。一生懸命さとひたむきさ。3番目は、お
客様の立場になって考える。
・いつも私は言ってますけれども、「なら」「しか」、CD、そして「信者づく
り」なんですよ。これをやれば皆さん方も絶対大丈夫です。新興宗教じ
ゃないですよ、信者づくり。これをやれば企業は繁栄していきます。信
者というのは、横に書くともうかる(儲かる)という字になるんです。これ
をやればいいんです。サービスというのは信者づくりです。「なら」「しか」
なんです。

<感想>
・「ノードストロームの逆さまのピラミッド」の考え方によれば、自治体で
は首長(知事や市町村長)が一番末端で、次が人事、財政などの内部
部局であり、先端は県庁でいえば住民と直接接する県税事務所の納税
担当、福祉事務所のケースワーカー、建設事務所の用地交渉の担当
等のはずです。ところが、現実は「御三家」などと称され、人事、財政、
市町村、秘書など官房系の内部部局の方が昇進などで優遇されていま
す。それに引き換え、前者は仕事がきつくストレスもたまることもあって
人気がなく、陽が当たらないのです。
・私はこれではだめだと思います。自治体が住民感覚から遠い「ミニ
霞ヶ関」にならないように、また職員がコスト意識を持つように、誰もが
これらの陽の当たらないけれども重要な部署をできるだけ若い時に経
験するようにしたらいいと思います。そしてそこで腐らずに実績を挙げ
た職員を評価して異動や昇進の際に配慮するのです。
・自治体に置かれる各種委員会で一般の方にも委員になっていただい
ているものでは往々にしてその自治体のトップが上座に座ります。そし
て重みを持たせるかのように他の委員が全員着席してからおもむろに
登場するのです。これでは住民が主役とはいえません。
・「第6回行政サービス調査」で、初の二冠を達成した三鷹市で見た光景
では清原市長が真っ先に来て末席に座り、後からみえる委員を入り口
でお迎えしていました。受賞するのは当たり前だと脱帽した次第です。


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