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深い河
遠藤周作「深い河」
彼は醜く、威厳もない。みじめで、みすぼらしい
人は彼を蔑み、見すてた
忌み嫌われるもののように、彼は手で顔を覆って人々に侮られる
まことに彼は我々の病を負い
我々の悲しみを担った
「深い河」は遠藤周作の代表作で映画にもなった小説。話はというと、5人の登場人物がさまざまな人生背景を背負いそれぞれの思いを持ち、インドツアーへ旅立つというもの。癌で妻を失った磯辺、本当に人を愛することができない美津子、神父になろうとするがヨーロッパ的なキリスト教義に違和感を抱き続ける大津などの登場人物たちがすべてをただ飲み込み流し続けるインドのガンジス河にそれぞれにとって大切な何かを見いだす。
すごく深く、重い作品だと感じた。まだ若い(?)私にはこの作品の真髄までを理解することはおそらくまだ無理なのだろうけれど、個人的に感じたことを書きたいと思う。
*大津の考え方に私が思うこと
作品の中で大津はキリスト教徒であり神父を目指しながらヨーロッパの二元論的な考え方に大きく違和感を抱いている。フランスに留学し、神学校に通う大津は美津子にこう話す。
「神は存在というより、働きです」
「ぼくはここの考え方に疲れました…ぼくはここの人たちのように善と悪とを、あまりにはっきり区別できません。善の中にも悪がひそみ、悪の中にも良いことが潜在していると思います…でもぼくの考えは教会では異端なんです」
この考え方は実際にフランスへカトリック教徒として留学していた遠藤が感じていたことなのではないかと思う。こういう考え方=(小説の中に出てくる)「東洋人としての感覚」は仏教的な考え方に近いのだと思う。私はキリスト教も仏教も全く知らないので、宗教について語る資格なんて何もない。だが、同じカトリック国のポーランド、しかも現ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の出身校の大学付属語学学校に通っていた私は、宗教に触れる機会が日常的に多かったため、宗教について思うところは多くある。そこで、やはり信仰深すぎる人々に対し違和感を持ち続けていたためこの部分にはかなり共感を覚えたのだ。私の違和感は大津のものとは多少異なるかもしれないけれど。私の周りでは信仰深い人に限って保守的であったり、排他的、反ユダヤ的であったり、カトリックを他の信仰よりも優れているとみなしている人が少なからずいた。もちろん、こういう人がすべてではない。けれど、一番私の身近にいたルームメイトがこうであったので、それでもっていくら「神の素晴らしさ」について語られても私には胡散臭いとしか思えないのだった。更に超右翼的な宗教ラジオ、政治と結びついた宗教的ナショナリズム、教会の名を借りた政治的プロパガンダのちらし…はっきり言って、私には宗教=狂気にしか見えなかった。もちろん、何度も言うけれどこれが宗教のひとつの側面であり、すべてではない。私は宗教に決して否定的なわけではなく(良い面もたくさんあるから)、こういう風に排他的になる側面に対してのみ訝しんでいるにすぎない。
私はどちらかというと、「神」なんて別世界、宗教なんて怪しいと考える美津子の立場に近かった。私も「神」なんて聞くと何か寒気がする。でも、そんな私にも何かを信じる気持ちはある。それが宗教になるのかはわからないけれど、大自然の力や、何か人の手では動かしがたい、この世界を動かしている何か、に対する信仰。それが大津の言う「神は存在というより、働きです」という「働き」にまさにぴったりくる。「ユダヤ人はイエスを殺した」とか「プロテスタントよりもカトリックが素晴らしい」とか「イエスがどんなに素晴らしい人か」を説かれるよりも、そう、まさにこれなんだ、と。不思議なことに自分の価値観を突き詰めていくと、どんどん仏教に近づいていく気がする。
*生まれ変わり
登場人物の一人、磯辺は半信半疑で妻の生まれ変わりを捜しにインドツアーへ参加する。ガイア・シンフォニー二番に出演していたダライ・ラマの話を観た後だったので「生まれ変わり」という言葉には非常にリアリティを感じた。チベット仏教では代々生まれ変わりを見つけている。その「生まれ変わり」という感覚は私にはついていけないのだけれど、自分が死んだらすべて消滅するのではなく、誰かに「転生」し、「生まれ変わり」、自分が永遠に生き続けるという考えは、おそらく事実かどうかは関係ないのだろう、と最近になって考え始めた。事実はどうだってかまわない、でもそう信じることで人々が救われ、物事がうまくいくならそれでいいのだろう、と。
*ガストン
更に印象的なのは、『悲しみの歌』にも登場するガストン。まさに、彼は天使のような存在。やりきれない話が多い中、彼の存在はひとつの光をさすようなもの。
*ガンジス河
思い出したのは「すべては流れ去る」という言葉。誰が言ったのかは忘れてしまったし、この言葉の詳しい定義は知らない。でもガンジス河はきっと、「すべては流れ去る」ということをまさに体現しているのだ、と推察する。河は身分の高いもの、卑しいもの、自然、すべてを無差別に流し去る。それを見て、きっと登場人物たちは何かを悟ったのだろう。彼らが悟った「何か」。それは、私にはまだよくわからないものだけれど。
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