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第13話
『第13話』
作:プラネタ河伯タコ
おい、まじかよ?
土の下から、人の手の骨‥‥どうやら指先の‥‥らしい物が出てきた。
俺は掘る手を止めて、土竜に―当然の―質問をした。
「あのさあ“これ”を掘り出して、いったいどうするわけ?」
土竜が口を開きかけた時、誰かがピュリカ隧道に入って来た。
「こんにちWA」
振り向くと見知った顔があった。(このパターン多いな俺は)
「あれ?プラネタさん。どうしてここに?」
ニコニコ笑みを浮かべたプラネタ河伯が歩いて来た。
「こんにちは~」と土竜と椿が返す。
プラネタ河伯は、俺達4人を一瞬見回してから、椿に向かって言った。
「え~っと‥‥椿‥‥さん、でしたよね?」
「は~い♪ 椿ですけど?」
「さっき砂漠で、あなたの友達らしい人が、椿さんを探してましたよ。」
プラネタ河伯の言葉に、椿は首をかしげた。
「あらあら、いったい誰だろう?」
「すみません。お名前は見てなかったんです。でも、何だか『狩しながら探す』って言ってましたから、ここを出て砂漠の南の方を探せば逢えると思いますよ。」
プラネタ河伯にそう言われて、椿は礼を言って小走りに砂漠へ出て行った。
椿が外へ出て行ったのを見送ってから、プラネタ河伯はマエルのほうに歩み寄った。
「いやぁマエルさん、御無事で何よりです。クロノス城に戻ったと聞いたので、ずいぶん探しましたよ。」
両手を広げ、にこやかに歩み寄るプラネタ河伯に、マエルは静かに尋ねた。
「あなたがプラネタ河伯さんか。3人の中で一番強そうな椿を言葉巧みに『排除』したわけじゃな?」
プラネタ河伯は立ち止まった。
「え?‥‥いったい何のお話ですか?」
「わしが何の為に、何の目算も無く、クロノス城に戻ったと思う?」
ずい、とマエルがプラネタ河伯のほうに近づいた。その迫力に押されるようにプラネタ河伯が1歩後ずさる。
「情報を集める為じゃよ。わしは信頼出来る者達に聞き込みをしていたのだよ。わしの分身とこの若者が冒険者達の相手をしておる隙にな。」
なんだぁ?俺達が皆に囲まれてギャーギャー文句言われてる間に、マエルの本体はちゃっかり、そんな仕事をしてたのかよ。
「その結果だが、当日あの物置の周辺で不審な動きをしていた者が浮かんだ。」
プラネタ河伯の顔が強張っている。こめかみから汗が一筋流れたのは、どうやら暑いせいではないらしい。
まさか‥‥そうなのか?
「それが、お前だ!」
マエルは人差し指をプラネタ河伯の眼前に突きつけた。
「誤解ですよ!」
河伯が悲鳴を上げた。声が見事にひっくり返っている。
「私が、あの日、倉庫の周りをウロウロしてたのはマエルさんの身を案じてのことで‥‥」
「こういう情報も掴んだぞ。」
河伯の釈明を無視してマエルは続けた。
「クロノス城の“北の館”にいる、ある人物こそ今回の黒幕である!‥‥とな。」
マエルの言葉は衝撃的だったらしい。河伯の顔から血の気が見る見る引いていった。
「あの時お前は、連れの男と何やら相談をしていたな? わしは、お前のその声を、しかと聞いておったのだぞ。」
河伯は口を大きくパクパク開いている。完全に動転しているようだ。
「確かに、そう言えば、あの時の二人組の片方はプラネタ河伯さん‥‥いや‥‥さん付けはいらないな。あんたの声にそっくりだったな。」
俺が今更ながら気づいた事を言ったが、二人とも聞いていないようだ。‥‥ちくしょう。
「そして、お前の連れの男がわしを刺したのだ。」
マエルの言葉に、河伯は過剰に反応した。
「で、でたらめを言うなっ! あれは、あの女がっ!‥‥‥‥あ‥‥」
してやったりと、マエルがニヤリと笑った。
「とんだ所でゴバク癖が出たようじゃな。なるほど、わしを倒したのは女であったか。実は全く相手を見てないのじゃよ。」
からからと笑って、マエルはすぐに真顔に戻った。
「支援パラのお前一人で、わしを“どうこう”出来るわけはないから、外には仲間も来ておるのだろう?」
何?、外に仲間がいるのか?俺は坑道の入り口の方を伺った。
‥‥いるぞ!
‥‥確かに、誰かが入り口の外に隠れている気配がする。
「そこに隠れているのは誰だっ!出て来いっ!」
俺はセルキスを抜いて、入り口に向かおうとした。
「待て、万太郎。これを持って行け。」
マエルは俺に1個の指輪を、投げて寄こした。
指輪は黒く鈍い光を放っている。
「何だぁ?『アストロンの指輪』って?‥‥じいさん。」
マエルは俺の質問には答えずに言った。
「万一の時以外は、装備するなよ。」
その時、マエルの意識は目の前にいる河伯から離れていた。
河伯の手が腰の道具入れの中に伸びて、硝子の小瓶を取り出したのを俺は横目で捉えた。
「じいさん!気をつけろっ!」
俺の叫びに、マエルはライトニングショックを見舞ったが、河伯は一瞬早く何かの粉をマエルの顔に振りかけていた。
白い粉煙がパッとあがった。
河伯は凄まじい電撃に弾き飛ばされて、洞窟の壁に激突した。そのまま床に転がり苦悶の呻き声をあげた。
マエルは粉を吸い込んだらしく、激しく咽ている。
「大丈夫か?じいさん!」
俺が動くより早く、土竜がマエルに駆け寄り、咳き込む背中をさすった。
「イテテテ‥‥、お~い、マエルの魔法は封じたよ。君の出番だ、極道剣士君。」
かなりのダメージを負ったらしく河伯は、倒れたまま仲間を呼んだ。
「やれやれ、失敗するかと思ってヒヤヒヤしたぞ。」
“極道剣士”というベタな名前で呼ばれたパラディンが、姿を現した。
サンダー鎧を着た、完全体のレイ持ちだ。
極道剣士という名前の通り、いやそれ以上に凶悪そうな顔で、頬の刀傷がさらに迫力を増している。
どう見ても、ディバの俺の相手にはなりそうもない。
「じいさん、強そうなヤツが来たぞ。」
ここはマエルが頼りだ。土竜は‥‥たぶん頼りにはならん気がする。
「やられた。これはマホトーンの粉だ。」
ようやく咳が収まったマエルは苦しそうに言った。
「マホトーンの粉ぁ?何だよそれは。」
「異界の品だ。さっきの指輪と同じくな。この世界で所持するのは禁じられておる品じゃ。 ぬかった‥‥あと一時(いっとき)は魔法が使えぬ。」
なんだってぇ!マジかよ。じゃあ、じゃあ、残るのは‥‥。
「土竜さん!あいつは悪い奴なんですよ。あ、あなた戦えますか?」
俺が必死に尋ねると、土竜は頭をかきながらノンビリと答えた。
「土竜さん、じゃなくて、モグタンでいいです。」
「そんな事言ってる場合じゃないったらっ!」
「あ、ごめんなさい。僕こんな場所だったから、装備も武器も倉庫に置いてきちゃって~。あははw」
あははw じゃね~だろ!! この状況が分かってないのかよ。やっぱり頼りになら~ん!
「ふん。魔法の使えないマエルと雑魚が2匹か。用意の良いことに、墓穴までちゃんと掘ってるじゃねーか。」
極道剣士は、ニヤニヤ笑いながら近づいて来た。全身から隠しようの無い殺気が立ち昇っている。
「まったく、ご推薦の『世界一の殺し屋』とやらがヘマやったせいで、こんな面倒な事に‥‥。
さてと、まずは‥‥お前からだ。」
極道剣士は俺を見た。お、俺かよ!
地面に倒れたままの河伯が笑った。
「皆さん。私が皆さんの事をしっかり供養して差し上げますから、どうぞ成仏なさって下さいな。‥‥あははは‥‥ウ、イテテ‥‥」
冗談じゃねぇ!死んで堪るか。俺はホリアマを掛け、ディバ盾とセルキスを構えた。
完全体レイが目にも止まらぬ速さで振るわれた。
一撃で盾が破壊され、セルキスは根元からポッキリ折れた。俺は無様に尻餅をついていた。
駄目だ、とても太刀打ちできねぇ。
転がって逃れようとする俺のマントを、極道剣士の足が踏みつけて押さえた。
「さあ、こっちを向きな。死ぬ時間だせ。」
俺は、死に物狂いで“あの指輪”をはめた。
同時に剣が振り下ろされた。
(死んだ)
観念して俺は目を閉じた。
カーンッ!
澄んだ音が響いて、両手剣が撥ね返されていた。
「う?な、なんだ?」
異様な手応えに驚いた極道剣士が、たたらを踏んだ。
信じられない事に、俺の体は完全体レイの攻撃を撥ね返していた。俺は改めて指輪を確認した。
凄ぇ!防御が10,000以上になってるぞ。
「しかし‥‥これ‥‥動きが‥‥」
体が固まったように動かない。起き上がるのも至難の業だった。
俺は極道剣士の足を掴んで、なんとか上半身を起こした。
「そうだ!万太郎。そのまま相手を取り押さえろ。」
「簡単に言うなよっ!動くだけでも大変なんだぞ、これ。」
悪態をつきながらも、俺は相手にしがみ付きながら立ち上がった。
「く、くそぉ、離せっ!この!このっ!」
極道剣士は、俺を振り解こうとメチャメチャに剣を振るった。
しかし、防御力10kを軽く越える今の俺には通用しない。ふふん♪
「そのまま耐えてくれ、万太郎。もうじき、わしは回復する。」
マエルの言葉を聞いて、極道剣士は矛先を変えた。
「おのれぇ!貴様から片付けてやる。」マエルに向けてスラッシング・ウェーブを放った。
あぶない!と思った瞬間。
「わきゃ!」
土竜がマエルを抱えて高く跳び、間一髪SLWの衝撃波を避けていた。
「こいつ、ちょこまかと!」
極道剣士が立て続けにSLWを放つが、土竜はわきゃわきゃ言いながら飛び避けた。
坑道のこの場所が広場になってるのが幸いしたようだ。
極道剣士は、俺にしがみつかれた不自由な体勢からSLWをマエル達に向けて放ち、土竜がマエルを抱えて跳び避け続ける。
そういった膠着状態が、どのくらい続いたのか。
ピシッ
指輪から嫌な音がした。見ると指輪に亀裂が入っている。
見る見るうちに、細かいひび割れが広がった。
パリン 指輪が粉々に割れた。
しまった!この指輪って消耗品だったのか?!
極道剣士は、俺の防御力が元に戻った事に気が付くと、肘打ち一発で俺を吹っ飛ばした。
「手間ぁ掛けさせやがって、今度こそ死‥‥」
振り向きざまに、剣を振り上げた極道剣士は、しかし、その剣を振り下ろす事は永遠に出来なかった。
奴の胸の真ん中に、爆発したように大きな穴がポッカリ明いたのだ。
誰かが、背後から攻撃を‥‥誰だ?
「‥‥へ‥‥g‥‥‥‥」
極道剣士は何かつぶやくと、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。それが、凶悪顔のレイ使いパラの最後だった。
「この人、あなたを殺そうとしてたわね。大丈夫?」
命の恩人が俺の前に立った。
俺は、天使を見上げていた。
純白のブードゥー鎧に身を包んだ彼女は、見つめられるとゾクリとするような切れ長の目に、整った鼻、ピンク色の唇、冒険者とは思えないほど白い肌‥‥
とにかく、俺の乏しい語彙では表現出来ないような、すっげーっ美女だった。
彼女は、呆けたような俺に、起き上がるように手を貸してくれた。
「あたしは、シティス。あなた、怪我はない?」
俺は心臓が口から出そうな思いで、彼女の右手を握って立ち上がった。
彼女に礼を言おうとして‥‥
‥‥俺は言葉に詰まっていた。
彼女の左手、シティスのもう片方の手には、大振りの短剣が‥‥。
そう、スティレットが握られていたからだ。
つづく
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