アメリカの謀略?


:このページは、2002年9月17日のMSN社説をベースに最近のアメリカ対外政策
 を解りやすく書いています。
 アメリカは素晴らしい自然とアメリカンスピリットと多民族で構成された国家の
 自由が魅力の大好きな国ですが、最近の対外姿勢にみられる絶対的な軍事力と諜
 報力を背景にした一国主義による排他的謀略には、古代ローマ帝国の世界支配を
 彷彿とさせるものを感じて恐怖さえ覚えてきます。近代史を習って以後の社会情
 勢のめまぐるしい変化を振り返りながら、自分自身の考えをまとめる為に、あえ
 て公開という形をとって楽天のページに書き込みました。
               (数千文字になったので読むヒマな人は?)。


 ☆☆☆ -------- 公 開 日 記 --------- ☆☆☆

アメリカやヨーロッパでは、アメリカの政治的駆け引きでイラク攻撃の是非をめ
ぐる論議が続いていますが、一般的にどうしても理解し難いことは、なぜ『イラ
クのサダム・フセイン政権を転覆しなければならないのか』ということです。表
向きの理由は『イラクのサダム・フセイン政権は核兵器を開発中で、化学兵器も
すでに持っている。フセインは石油が豊富な中東を支配し、アメリカと同盟国を
危機に陥れようとしている。だから先制攻撃でフセイン政権を倒し、イラクにも
民主政権を作る必要がある』ということですが‥‥。

しかし、つい最近まで米政府高官は違う主張をしていました。2002年4月頃まで
は『イラクは911のテロ攻撃を裏で支援している。だからサダム政権を倒さねば
ならない』と言っていたのです。911のテロ事件の実行犯の主犯格とされるエジ
プト人モハマド・アッタが、 犯行前にイラクの諜報員と東欧の国チェコのプラ
ハで接触した、として共犯説で反撃戦争を主張していたのです。ところが、この
プラハでの密会について調べたチェコ当局が「密会があったという確かな証拠が
ない」という結論を出すに至り世界への説明が出来なくなったので、ホワイトハ
ウスは『イラクが911を支援したから攻撃する』という主張を止めて、その代わ
りに『イラクは密かに核兵器を開発している』という新たな理由を持ち出すこと
で従前通りのイラク攻撃の必要性を主張し続けているのです。

このように、一つの理由が崩壊したら別の理由とすりかえて、結論として同じこ
とを言い続けていることから考えると、イラク攻撃をやりたい本当の理由は、表
向きにアメリカ政府が発表していることとは別のところにあると疑わざるを得な
いとだれもが気づいてくると思います。

☆☆
イラクが核兵器や化学兵器を持っているかもしれないのが問題だというのなら、
湾岸戦争集結直後から1998年までアメリカが先導して続けていたイラクに対する
査察団の派遣を再開すれば良いと思われますが、チェイニー副大統領は8月末に
「フセインはうまく偽装し、武器を隠してしまうから、査察チームを派遣しても
無駄だ。今すぐイラクを攻撃した方がいい」と述べています。
その一方で、軍事情報収集用の人工衛星でイラク上空から高精度の写真を撮った
ところ、核兵器開発施設と思われる建物を見つけた、とブッシュ大統領は最近述
べてもいます。だからフセイン政権を転覆させるだけの大攻撃が必要だというア
メリカの理論なのですが、もし核開発の疑惑があるなら、イラクに外交圧力をか
けて問題の施設を査察するか、もしくはイラク側が核施設の実態を隠すのなら、
その施設を空爆して破壊する今現在も行っている方法で事足りると思えてきます。

英米はすでにイラクを自由勝手に空爆できる状態(戦略的にも技術的にも)にあ
り、実際には米英軍は1998年末から最近に至るまでほとんどマスコミに発表しな
いまま「必要」に応じてイラクを空爆しているのですから。

空爆対象の多くは、アメリカがイラク国内に定めた「飛行禁止区域」の範囲内だ
としています。アメリカは飛行禁止区域でイラク軍の軍事行動を発見したら攻撃
するとイラクに通知しており、飛行禁止区域内での米英軍による制裁的な攻撃は
「国際社会」ではすでに認知されているものとなっています。

イラク側は、米英軍が一方的に攻撃してきたり、飛行禁止区域外で空爆を行った
りしていると抗議していますが、世界的には全く聞き入れられていません。
(飛行禁止区域は、シーア派イスラム教徒が住んでいる北緯33度以南と、
 クルド人が住んでいる36度以北。いずれの人々も、イラクから独立し
 ようとしており、イラク軍から徹底弾圧される可能性が大きい。この
 ため国連の経済制裁などとは別に、アメリカが飛行禁止区域を設定)

米軍は9月5日、イラク空軍施設を攻撃したと久しぶりに空爆の事実を発表しまし
たが、これは飛行禁止区域内のことなので、米軍の発表が事実なら、すでに国際
的に認知された範囲の攻撃だったということになります。なぜわざわざ日常的に
行っている攻撃をいまさら公表したかといえば‥‥誤爆の批判をかわす為?。
(‥‥このときイラク側は普通の民間施設が攻撃されたと反論しています‥‥)。

イラクの核施設が飛行禁止区域の外の、米英軍が勝手に攻撃しないことになって
いる地域にあったとして、それを米英軍機が勝手に空爆して破壊したとしても、
大して問題にはならない国際的な土壌が、すでにできあがっているのが現状です。
だから、イラクが飛行禁止区域外で核開発を行っているとしても、米英軍機がそ
れを空爆することはできるはずです。核疑惑を解決するにはフセイン政権の打倒
が必要だということにはならないことが、このことから解ります。

「冷戦時代にソ連は何百発も核兵器を持っていたのに、アメリカはソ連を倒そう
としなかった。イラクが何発か核兵器を開発したからといって、サダム政権を倒
さねばならない理由が解らない」という世論がここでアメリカ国内からも出て
きたのです。

この世論の中で、アメリカがフセイン政権を転覆したいのは『イラクの石油利権
を独り占めしたいからだ』という見方もあります。確かに、イラクの石油埋蔵量
は世界第2位で、世界中で発見されている全埋蔵量の11%を占めます。
でも、フセイン政権を転覆させてアメリカの傀儡政権ができると、中東に反米感
情が広がり、これまで親米敵だった国の政府が反米的な姿勢を強めてしまいます。
サウジアラビアやエジプトはすでにそうなっています。

サウジアラビアの石油埋蔵量は世界の24%で、イラクの2倍です。イラクを親米
に変えたらサウジが反米になってしまうのでは、石油確保のための戦略とはいえ
ないことが、このことから解ります。

フランスやロシア、中国などがアメリカのイラク攻撃に反対しているのは、これ
らの国がフセイン政権から石油を安く買っているからだということを考えると、
アメリカがフセイン政権を潰したいのは『イラクの石油の利権をフランスやロシ
アなどに渡さず、独り占めするため』という読み方もできます。しかし、それを
実現するには、アメリカはフセイン政権を潰すより、フセインと外交的な裏取引
をする方が簡単といえます。

じつはブッシュ家は歴史的に石油利権とのつながりが深く、サウジアラビア政府
(王室)とも親しい関係にあります。でも最近は、ブッシュ政権内でサウジに対
する攻撃口調のコメントも増え、従来の石油最重視の流れが変わりつつある感じ
も受けとれます。
ロシアのエリツィン大統領に近い石油実業家が、アメリカと急接近との新聞報道
も先日の社説に大きく書かれていることからも、アメリカの対外石油事情が変わ
ってきたのが解ります。

そもそも「もはや石油利権はアメリカにとって以前ほど重要ではない」という論
調もあります。石油価格は2000年に大高騰しましたが、すでに重工業中心の状態
から脱しているアメリカ経済には全く悪影響が出なかったのです。『1970年代の
石油危機や1991年の湾岸戦争時とは違い、アメリカが石油を最重視しなければい
けない経済構造ではない』という見方ができるのです。

それらを踏まえると、石油利権の確保がイラク攻撃の真の中心的な理由だと考え
るには無理があります。「石油」は理由の一つかもしれませんが、他にもっと重
要な理由があるはずと考えられてきます。

☆☆
アメリカがフセイン政権を転覆したい理由が『大量破壊兵器』でも『石油』でも
ないとしたら、本当の理由は何なのでしょうか。

最近それについて気になる報道をしたのが、同盟国の英国ガーディアン紙です。
9月3日付けの記事「サダムを使った将棋倒し作戦」(Playing skittles with Saddam)
から抜粋します。

 ‥‥ブッシュ政権上層部でフセイン政権の転覆を主張している人々は、イラクの
 政権転覆をきっかけとして、サウジアラビアやシリア、イランなど、他のアラブ
 諸国の政権も転覆させる将棋倒しのような状態を、意図的に狙っているという。
 この作戦は、これまでのアメリカの外交政策の基本をくつがえすものだ。‥‥
       「サダムを使った将棋倒し作戦
         (Playing skittles with Saddam)9月3日付けの記事」より

これまでアメリカは冷戦時代を通じてソ連との力の拮抗状態の上に外交関係を築
くとともに、イランとイラクのように、一つの地域内でライバルの関係にある国
どうしを対立させ、アメリカのいうことを聞かない大国の出現を防ぐという「均
衡戦略(バランス・オブ・パワー)」をとってきました。でも、イラクをめぐる
アメリカの均衡戦略は、もはや限界にきてしまいました。そこでブッシュ政権の
中の「新保守主義派」(ネオ・コンサバティブ、略称「ネオコン」)の人々は、
『アメリカはもう均衡戦略を捨て、言うことを聞かない国はぜんぶ潰す』という
「アメリカ一強主義」(ユニラテラリズム)に転換し、その一発目としてイラク
を潰すのが良いと考えているというのです。

圧倒的な軍事力を持つアメリカは、もはやわざわざ西欧諸国やロシア、中国など
の反論につきあって小さくなっている必要はない、軍事力と諜報力を思う存分活
用して、アメリカだけの力で世界をアメリカの思いの通りに「矯正」していける
はずだというのが、今アメリカの中心で政治力を持っているネオコンの人々の考
え方であるのです。世界の問題は『表の軍事力と裏の諜報力で解決する』ので、
高度な手練手管を持った「外交官」はもう必要ない、という主張でもあります。
これは言い方を変えれば、第一次大戦以降、世界が続けてきた「外交」というも
の自体を否定する『古代ローマ的外交』ということになります。

ブッシュ政権のネオコン勢力の思想的な中核は、国防総省の「国防政策委員会」
(Defence Policy Board)の委員長を務めるリチャード・パール(Richard Perle)
、国防副長官であるポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)、国防総省
の政策担当次官であるダグラス・フェイス(Douglas Feith)らで、その上司であ
るラムズフェルド国防長官、そしてチェイニー副大統領に至る系統が「一強主義」
を強力に推進しているのです。

もともとアメリカの共和党では、外交政策の主流は均衡戦略だったのですが、レ
ーガン政権の1980年代には「冷戦後」を見据えた戦略として新保守主義が注目さ
れ、ネオコン勢力が政権内に入ってきました。だがその後の、ブッシュの父親の
政権では、伝統的な均衡戦略の派閥が盛り返して均衡戦略を推進するベーカー元
国務長官らがブッシュ政権の外交を取り仕切ったのです。

父親の政権では隅に追いやられていた新保守主義の人々は、今の息子のブッシュ
政権の選挙戦が始まるときに息を吹き返したのです。

ブッシュは、自政権の外交顧問としてコンドリーサ・ライス女史を国家安全保障
問題担当の大統領補佐官に据えましたが、彼女が集めたのがネオコンの人々だっ
たのです。父親の政権で力を持っていた均衡戦略派は、今の息子の政権ではパウ
エル国務長官らの少数が登用されただけでした。

現ブッシュ政権が新保守主義の考えに基づき、国際世論を無視してイラク攻撃を
行う方向に向けて動き出した今年7-8月、ベーカー元国務長官らブッシュの父
親の側近だった均衡戦略派はこぞって反対し、アメリカの中枢が分裂しているこ
とが表面化しました。

アメリカは中東では、1950-60年代にトルコとイランに軍事支援を行って北から
のソ連の脅威に対抗させました。その後、トルコとイランよりさらに南にあるイ
ラクとシリアでアラブ民族主義の革命が起き、両国が社会主義化するとソ連に対
する防波堤だったはずのトルコとイランは、逆にソ連とイラク・シリアに挟まれ
てしまうことになりました。そのためアメリカはイラク・シリアのさらに南にあ
るイスラエルとヨルダンに対する支援を強化しました。

1978年にはイランでイスラム革命が起こり、イランが親米から反米に転じました。
同時期にイラクではサダム・フセイン政権が誕生し、その前後からイラクはソ連
と仲違いし、アメリカの軍事援助を受け始め、やがてイラン・イラク戦争が起き
ました。
これは長年アメリカが支援してきたイランの軍事力を、イラクとの消耗戦で使い
果たさせるという均衡戦略に基づくものだったのです。
イラン・イラク戦争が終わり、アメリカ自身の軍事援助で軍事大国になりかけた
イラクをたたくために、今度は湾岸戦争が引き起こされました。「ペルシャ湾岸
の全体を支配する大国を出現させない」というのがアメリカの考えだったのです。
湾岸戦争のきっかけとなったイラクのクウェート侵攻は、クウェートを自国の一
部だとするサダム・フセインの主張を、いったんアメリカが黙認するふりをした
から起きたことでした。アメリカは、イラクの侵攻を誘発させた上で猛反撃し、
イラクの軍事力を破壊しました。こうした流れを見ると、第二次大戦後の中東情
勢の多くは、アメリカの自国の利益の為だけの均衡戦略の産物だったといえます。

しかし湾岸戦争によってアメリカは、その後のイラクをどうするかという問題を
抱えることになりました。アメリカがサダム・フセイン大統領を殺すまでやって
しまうと、その後のイラクは混乱し、北方のイランがイラクのかなりの部分を支
配するという事態が起こり(イラクの人口の6割は、イランと同じシーア派イス
ラム教徒)、これではイランの脅威を再び増やしてしまいます。そのため、フセ
イン政権を倒さず、その代わりイラクが再び大国にならぬよう『イラクは敗戦時
に禁じられた大量破壊兵器をまだ持っている』という嫌疑をかけ、経済制裁を行
って封じ込めるという方法をとり、反撃したイラクを世界に承認した世論を背景
にした「正義」として潰すという『まさに日本潰しの為の日米開戦』と同様の謀略
をしかけているのです。

ところがこれに対して、イラクは石油を使って外交戦を展開する挙に出ました。
イラクは1997年ごろから、ロシアやフランス、中国といった、国連安保理の常任
理事国でしかもアメリカの言いなりにならない国々に対して石油を売る代わりに、
これらの国々が対イラク経済制裁に反対するよう仕向けてきました。その上でイ
ラクは1998年初め「国連代表団として大量破壊兵器の査察にくるアメリカ人は、
本来の業務を超えてイラクをスパイしている」と主張し、査察団の入国を拒否し
ました。

外交対立の後、98年末にアメリカなどは査察団の派遣を打ち切り、その代わりに
米英軍がイラク空爆を開始し、その後も公表しないまま空爆を続けているのです。
でもその間にも、イラクとロシア、フランス、中国、アラブ諸国などとの貿易関
係はますます強化されました。2000年夏にはバクダッド国際空港が約10年ぶりに
再開されるに至り、アメリカの経済制裁は有名無実化状態になりました。

ここでアメリカのイラクに対する外交戦略は破綻し、軍事戦略でも国連決議に基
づく空爆ではラチが開かないことが明らかとなっってきました。2001年にブッシ
ュ政権が誕生し、従来型の均衡戦略を破棄し、一強主義に基づくフセイン政権つ
ぶしの計画が出てきたとき、もはや伝統的な均衡戦略を支持する人々の反論は弱
いものになっていました。

ここまでの話で、アメリカがイラクに対して行ってきた「均衡戦略」が破綻した
ために「一強主義」が出てきたことを説明しましたが、まだまだ疑問を解くには
ほど遠いような気がします。たとえば、イラクを封じ込めたり壊滅させたりせず
に放置すると、アメリカにとってどんなマイナスがあるのか、という疑問が残っ
ています。
その答えは、中東のアラブの人々がアメリカに対抗できる強い指導者を求めてお
り、アメリカがそれを封じ込めておかないと(潰しておかないと)、フセイン大
統領はヨルダンやサウジアラビア、シリア、パレスチナなどの人々の支持を集め、
これらの国々が親イラクになってアラブが団結して反米、反イスラエルの度合い
を強め、特にイスラエルが危機にさらされるからではないかと思われます。

しかし、この説明は「イスラエルが危機にさらされることが、アメリカにとって
それほど大変なことなのか」という、次の疑問を生んでしまいます。それに対し
て私が今持っている答えは「アメリカの新保守主義の人々は、イスラエルと非常
に強いつながりを持った人々なので、アメリカの国益だけでなく、イスラエルの
国益をも守れる戦略を採っているから」というもです。新保守主義派とイスラエ
ルとの関係は、前出のガーディアンの記事の中でも論旨の中心を占めているので
すが、しかし、イスラエルの中東戦略を見た上で、アメリカのイラク攻撃につい
て考えると、最近起きていることの筋書きが非常に明確になってくることもまた
事実です。


このように難しく複雑なアメリカの世界謀略の中での『ひとつの過程』がイラク
挑発なのですが、やはり私は『戦争の勝利者=正義。最強の軍事力(諜報力)を
持つもの=世界の覇者=世界を思いのままに動かす権利。自国の政策の為には
他国の民は潰しても可。日本のようにいつでも潰せる国だけが生き延びれる。』
というアメリカの理論がまかり通る今の世界情勢が正しいとは思いたくありません。
外交に劣る国の民は滅亡(衰退)しか道は無いのでしょうか。
『古代ローマ時代の真理=現代の真理』では悲しすぎます。

アメリカンスピリットに代表されるアメリカ人の心は、その程度のものだったのでしょうか。
そして謀略を知りながらなすすべのない(長いものに巻かれる)私たちの心は、敗戦国民ゆえの定めなのでしょうか。

‥‥このことを皆はどのように考えているのでしょうか?

 (2002年9月22~23日、アタマデッカチ)‥‥つづく。


ここまで見てくれて、本当にありがとうです。

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