3-03【船旅】上


初稿:2011.06.09
編集:2023.06.27
※光ノ章の本編です

3-03【船旅】




※追加(光ノ章3-02.5【斥候】)

「老卿所有の帆船ってのはアレのことか?」

「主帆に描かれた奇妙な生き物の絵柄から察するにそのようですね」

 エドゥアルトの問いにシーラが頷く。 ふたりはヴィルヘルムから届いた書簡に記された内容を確かめる為、ジャッジサイドから南方に位置する小さな沿岸集落ドリエルを訪れていた。 書簡には、今後の綿密な計画と、船の手配が内密に進んでいる旨が記されていた。 自薦したエドゥアルトと、お目付け役として守護騎士のシーラが、先行して港の偵察を任されていた。 地元の漁師の小型漁船は、無造作に浜辺に置かれている為、幸か不幸か港に停泊する船は疎らであった。 朝靄のなか、小さな港町では目立つ、中型以上の帆船も数隻ほど停泊していたが、その判別にさほど時間はかからなかった。 廃墟となっている石造りの灯台跡から視認している為、船尾に記された船名までは視認できないが、帆に記された船印に特徴があったからだ。

「それにしても、普段は清貧を装ってはいるが、趣味の茶葉を取り引きする為だけに船持ちとは、老卿も存外に俗物だな」

 エドゥアルトが己の師匠を軽んじて笑っていると、傍らのシーラが咳払いをした。

「気に障ったかい?」

「ヴィルヘルムさまは守護騎士団にとって恩人ですから」

「俺にとっても恩人さ」

 エドァウルトが釈明になっていない言い訳と共にシーラに向き直る。 長身のエドゥアルトとは身長差があるので、自然と見上げるカタチとなっているシーラと視線が交差する。 出会って間もないが、シーラは常に丁寧な言動を心掛けているたおやかな娘だった。 見た目は瓜二つだが、活発な気質のノーラと内面は真逆のようだ。
 ミルフィーナがシーラをお目付け役としてエドゥアルトに追従させたのも、その冷静沈着さを買ってのことだろうから、エドゥアルトの分析も、あながち間違ってはいなかった。

「ふむ、噂などアテにならないモノだと思っていたが、こと娘子軍に関しては噂通りだな」

 エドゥアルトがジロジロと遠慮会釈ない目でシーラを観察して何度も頷く。
 アルジャベータ守護騎士団の入団条件には女性であること、そして家柄と文武共に卓越した資質を求められている。 と、ここまでが建前で、裏では眉目秀麗な娘しか入団できないのではないかと実しやかに囁かれていた。 守護騎士団の面々に直に接した者たちが興味本位で流した風聞だが、かくいうエドゥアルトも同様の感慨を抱いたわけである。

「な、なんですか」

 無遠慮な視線を這わせられたシーラがのけぞるように身を引いた。 娘子軍といった特殊な環境で日常生活を送っているので、異性の視線に慣れていないのだろう。

「いや、こっちの話さ」

 エドゥアルトはシーラの狼狽え振りを一通り楽しんだ後、前言を撤回する。 付き合いが浅くても、シーラの生真面目さは伝わっているので、騎士の誇りを傷つけるような発言をして、機嫌を損ねられても困ると言葉を濁したようだ。

「まぁいいです。 それより、今は船に乗り込むためにアチラをどうにかしないといけません」

 癖になっているのか咳払いをしたシーラが指示する先には、船に通じる桟橋を巡回するふたりの神官兵の姿があった。

「普段ならこんな小さな漁村に教皇庁直属の神官兵が配置されるわけないんだがな」

「大聖堂で派手な大立ち回りをやらかした不届き者がいましたからね」

 シーラが横目で責めるようにエドゥアルトを見る。 元老院の息のかかったの神官兵の大半は、教皇庁が座すルブルス島に配備されている。 教皇選挙が迫ったこの時期に、候補者である聖女が教皇庁を離れるわけがないと判断するのも当然だろう。 それでも警戒は強く、ここドリエルに至る道程でも、地元の自警団以外に神官兵の姿がちらほらと確認できた。

「俺が剣を抜くのは見目麗しい少女や淑女を守る時だけさ。 それに、それを言うなら君らの団長さまが一番の問題だと思うがね」

 エドゥアルトは甚だ心外だと、大きく頭を振る。 半ば興味本位で首を突っ込んだ厄介事ではあるのだが、それもこの青年の信条に従ってのことだったのだろう。

「ミルフィーナ団長の件は冤罪です。 そもそも、エドゥアルトさまとは心根から……はぁ、不毛な口争はやめましょう」

「そうだな。 ま、ここは顔が割れていない俺が点数稼ぎをするとしよう」

 そう言うとエドゥアルトが無造作に歩きだす。 慌てたように、その後を追うシーラ。

「ちょっと待ってください。 どうする気ですか?」

「シャルロット姫御一行が到着するまでに、面倒ごとを片付けておこうと思ってね」

 派手な南方風の民族衣装を着こんだエドゥアルトは、まさしく物見遊山な若者といった風体であった。 一方、シーラも今は鎧を脱いで簡素な身なりなので、清楚な町娘といった感じで、傍から見れば年頃の恋人同士に見えないこともない。
 ヴィルヘルム所有の帆船が浮かぶ泊地に近づくと、改めて船の大きさがわかった。 乗組員と船客を80人は乗せることができる中型の帆船である。 海賊からの襲撃に備えて据え置き式の大型弩砲も搭載されていた。

「それにしてもえらくしけた集落だな」

 港に続く街路に差し掛かったところでエドゥアルトが愚痴を零す。 小規模だが、港街特有の物小屋や露店、屋台が立ち並んでいるのだが、活気には程遠い閑散とした様子だった。

「そこのふたり止まれ」

 桟橋に近づくふたりを見咎めた髭面の神官兵が声をかけてくる。

「この船の船員名簿や積み荷に問題はなかったが、乗船したいのなら、許可証か、身分証が必要だ」

「聖都アレシャイムの入域に査証制度があるのは知っていますが、このクシュ島は教会の直轄領ではない筈ですが?」

 礼儀正しくお辞儀をしたシーラが疑問を述べる。 少女の言葉通り、ここはソウルガイス諸島群でも外れに位置しており、聖メナディエル教圏ではない。

「現在、教皇庁を中心としたソウルガイス諸島群全域が厳戒態勢となっている。 近隣全てにおいて、島を出入りする者は等しく審査対象だ」

「なるほどね。 港町にしては随分としけていると思ってはいたが、このピリピリとした空気はアンタらのせいか」

 エドゥアルトが芝居がかった喋り口調で愚痴を零す。 それは小さな港町にしては停泊している商船の数が多い理由にも繋がる。 恐らく、入港の審査待ちで、積み荷を降ろすことも叶わず、海上で足止めされている状態なのだろう。 密輸船の類は、検閲や船内検査から逃れる為に、大港を避けて小さな港から陸路で大都市に物資を運ぶ事例も多い。 間が悪い時期に入港したようだが、エドゥアルトに同情する気はなかった。

「こっちも好き好んでやっているわけではない」

 もう一人、左側の立つ若い神官兵がうんざりとした様子で返してきた。 恐らく、これまで何度も繰り返されてきたやり取りなのだろう。

「お役所仕事のツライところだな。 ま、どちらにしても、許可証なら持っている」

 そう言って懐からとりだした紙片を差し出すエドゥアルト。 そこに髭面の神官兵の手が重なった瞬間、低い呻き声と共に桟橋の上に重たい音が響く。

「お、おい、何をやって……」

 隣の若い神官兵が、唐突に膝から崩折れた同僚の姿に驚き、腰の剣帯に手を伸ばそうとするが、そこまでだった。 エドゥアルトが左手を一振りすると、若い神官兵も髭面の神官兵の後を追うように、桟橋の上に折り重なって倒れてしまった。

「まさか、殺してはいないですよね?」

「俺のこと殺人狂かなんかだと勘違いしてないか? 大聖堂の一件でも俺は誰一人殺してないからな」

 エドゥアルトが人差し指と中指の間に挟んだ紙片を開くと、一寸ほどの長針が挟まっていた。 注視すると若い神官兵の首元にも同様の針が刺さっていた。

「赤砂蜥蜴の寄生毒に斑鎧蜘蛛の神経毒を混合した神経毒が塗られている。 一昼夜は昏倒したままさ」

「どちらも致死性の猛毒です。 本当に大丈夫なのですか?」

 シーラが片膝をついて倒れた神官兵の症状を確認している。 息はしているようで、胸元が微かに上下していた。

「老卿が言うには、互いの毒に中和作用が働いて、一過性に意識消失を起こすだけだそうだ。 個人差はあるが、3日ほど吐き気や嘔吐などの副作用が生じるだけで、命に別状はないと聞いている」

 シーラの心配を余所に、エドァアルトは余裕の顔で上半身に纏っていた紗布を脱ぎ、昏倒した神官兵の上にかける。

「それに万が一、大事があったとして、苦情は俺ではなく老卿に向けて欲しいな」

「無責任ですね」

「俺に責任があるのなら、この場に居たシーラ嬢にも連帯責任があると思うが?」

「わたしはノーラなので、姉のシーラとは関係ありません」

 シーラが素知らぬ顔で双子の妹を供物に捧げる。 流石に本人的にも無理があるようでシーラのこめかみを一筋の汗が伝っている。

「おい、今更それはないだろう」

 エドゥアルトも双子ならではの責任逃れに呆れているが、目は笑っていた。 表情こそ変えないが常に冷静なシーラが垣間見せた、茶目っ気に好感を持ったようだ。

「とりあえず、この二人をその辺の積み荷の影に移して、あとはやんごとなきお方たちが到着するのを、ゆるりと待つとしようか」

「もちろん、エドゥアルトさまがひとりで運んでくださいね」

 シーラが澄ました顔でヴィルヘルムの帆船へと歩を進める。 その視線の先では、騒ぎを聞きつけた船員が甲板から渡し板を降ろそうとしていた。

「力仕事を任されるのは男の甲斐性だが、少しぐらい手伝ってくれてもいいだろうに……」

 その場に残されたエドゥアルトは、足元に倒れ伏したふたりの神官兵を見下ろしながら、恨めしく独り言ちた。
 周囲は強い太陽の光を浴びて、海面から立ち上がる霧も薄れてきたので、急かされるようにエドゥアルトは神官兵を肩に担ぎ上げたのだった。

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※(光ノ章3-03【船旅】上)

 シャルロット一行が乗り込んだ中型の全装帆船は、ガザルフォード近海から東岸に沿って南下する寒流と、この時期特有の季節風に乗って、順調な航海を続けていた。
 ソウルガイス諸島群全域に急場の厳戒態勢は敷かれていたが、元々、関門港内に於いての船舶国籍証書の提示も必要なく、出入港の規制も緩い港だったこともあり、海にでてしまえば、海洋警備の巡視艇に遭遇することもなかった。

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 船長室の奥、紗幕で遮られた続き部屋では、円錐状の黒覆面に十六と刻まれた巨躯の処刑人に抱えられた首人、それに娘子軍の団長ミルフィーナに、団員であるシーラとノーラが円卓を囲むように集っていた。

「オルカザード家の者が、水晶の塔の一件に絡んでおることは存知しておったが、まさか前教皇に直接手を下したのがルドルフの娘とはの……」

 首人が大きなため息を吐く。
 事前にシャルロットが明かした内容と、新たにミルフィーナの証言を得て、前教皇の死の核心に触れた一同は言葉を失っていた。

「オルカザード家といえば二十二家に連なる大屍族ですよね? そんなバケモノが教会の内部に入り込んでいたなんて笑い話にもなりませんよ」

 普段は楽観的なノーラも驚きを禁じ得ないようだった。 隣に座るシーラも表面上は冷静だが、その双眼は厳しさを増していた。

「オルカザード家は太古の秘法でもある千年蠱毒を用いた再生療法に長けた血族じゃ。 人智では未だ克服できない難病や不治の病の治療も請け負っておる故、人族の王侯貴族にも顧客は多いじゃろう。 彼の一族が聖剣戦争時に中立を貫いたのも、それと無関係ではないじゃろうしな」

「やっぱり世の中お金ですよね。 命をお金で買えるような人たちと、わたしのような善良な一般庶民では生きている世界が違うよね」

 ノーラが遠くを見つめながら達観した意見を述べるが、

「あなたも下級とはいえ、貴族の出ですけどね」

 横から双子の姉であるシーラが、速攻でツッコミを入れる。
 双子の生家であるマルジャーリ家は、アダマストル北東部に自治領を持つグラドユニオン家に傅く騎士階級の家柄である。 権門勢家であるグラドユニオン家は、地理上、重要な国境付近の防衛を兼ねた地域を治めており、王家の信頼も厚く、有事には独自の権限が与えられていた。 しかし、同家領地に接するアルル=モア公国とクロスメイデン公国とは不可侵条約が結ばれており、長く平時が続き、マルジャーリの一族は騎士とは名ばかりの農耕や牧畜で生計を立てる始末だった。
 双子が聖アルジャベータ聖騎士団に志願したのも、グラドユニオン家の令嬢でありながら、幼き頃より勤倹尚武なミルフィーナへの憧れもあるが、没落したマルジャーリ家の復権を願ってのことだろう。

「同じだよ。 どーせ、わたしたちのような下級貴族じゃ手が出ないような、莫大な治療費を請求されるんでしょう?」

 ノーラは頭の後ろに両手を回すと、心底うんざりしたような表情で意見を述べる。

「いや、対価が金銭の類なら隠す必要もないじゃろう。 寧ろ噂を広めて顧客を増やしたほうが一族の繁栄にも繋がるじゃろうしな」

 首人の声色の変化に一同が息を呑む。 その言葉の裏に碌でもない現実が潜んでいるのは、疑いようがなかったからだ。

「報酬が金貨や宝石の類じゃないのなら、オルカザード家は何を対価に治療を施すの?」

 普段から饒舌なノーラが、率先して質問する。

「十中八九、人間じゃな」

 首人の返答は短いが、疲労の色が滲んでいた。

「なるほど、それなら権力者にしか顧客がいない理由にも合点がいきます。 確かに表立って商売をしない―――いや、できない理由もわかりますね」

「どういうこと?」

 首人の真意を汲み取ったシーラに対して、未だに真相を理解できていないノーラが疑問を投げかける。

「つまり、いなくなっても問題ない人間―――恐らく、奴隷や囚人などを、人身御供としてオルカザード家に捧げている。 故に罪人を管理できたり、固有財産として多くの奴隷を抱える権力者以外は顧客になりえない」

 シーラの見識を得て、その場を重苦しい沈黙が支配する。 相手が人族であるならまだしも、屍族に引き渡された人間の末路など容易に連想できるからだ。 オルカザード家が吸血欲を満たす為、奴隷や囚人の新鮮な生き血を欲していることは明白だ。 加えて、同家の特異性を考えれば、千年蠱毒の人体実験の被検者とされている可能性もある。
 そして、その醜悪な現実に、教皇家の人間が深く関与している可能性が浮上していた。

「我がグラドユニオン家でも近年の教会の道徳改革に倣い奴隷の人身売買を禁じていたのですが……。 結局、表面上は奴隷制の廃止を明言していても、裏では暗黙の了解として奴隷貿易を続けているのが現状です」

 ミルフィーナの言葉通り、安価に労働力を確保できる奴隷制は、前近代的な思考回路を持つ為政者にとって合理的な社会制度だった。 聖剣戦争に勝利して古種族による支配から脱却した人族が、同族に同様の隷属を強いる姿は、醜く愚かしいが、それそのものは弱肉強食といった生物本来の自我の発露だったのだろう。

「ま、まぁ、今ここで奴隷制の有無を唱えても仕方ないですよね。 わたし達にはもっと性急な問題があると思います!」

 暗く沈んだ空気をどうにかしようと、手の平を「パン」と打ち合わせたノーラが話題の転換を計る。 と、そこに思わぬ方向から賛同の声が挙がった。

「確かに、問題大有りだな」

 船長室に続く紗幕が捲り上げられ、不満顔のエドゥアルトが現れる。 その肩越しに座椅子に腰を落とした浅黒い肌をした痩身の男―――この船ノーディン号の船長エルグが無表情のまま、首を横に振っている。 どうやら制止の声を無視してここに入り込んだようだ。

「俺をのけ者にしてうら若い女性陣だけで秘密の会合ってところもいただけないが、首人殿にはそろそろ話して欲しいことがある」

 エドゥアルトは薦められてもいないのにシーラとノーラの間に木椅子を置くと、ふたりの間に図々しくも陣取った。 シーラは表面上は愛想よく、ノーラは明らかに面倒そうに、青年を迎える。

「なんじゃ、やぶからぼうに?」

 暫し思考の檻に閉じこもっていた首人が視線を上げる。

「いい加減に目的地を教えてくれてもよいと思うが?」

「私奴もそこの不埒者と同意見です。 一事が万事にならない為に、心構えは必要です」

 不承不承であるが、ミルフィーナがエドゥアルトの意見に賛同する。 エドゥアルトとはシャルロットをめぐり、犬猿どころか剣呑の仲でもあるので稀有な現象だ。

「揃いも揃って無粋なことを申すな。 着いてからのお楽しみじゃ」

 しかし首人は取り付く島もなく異論を認めない。 ひた隠しにする理由があるのか、単純に楽しんでいるだけなのか、その表情からは窺い知れない。
 反論しようと再度、ミルフィーナが追いすがろうとするが、それより先んじてエドゥアルトが軽い口を開いた。

「だが、ミルフィーナ卿の言うとおり、万全の体勢で挑まねば、思わぬ所で足をすくわれることもある。 お国が違えばご婦人方の趣味趣向にも多様な変化が生じる。 何より問題なのは民族や種族によって美しさの基準が違うところだな。 以前某国で絶世の美女と謳われる貴族の姫君の噂を聞き及び、お近づきの印に愛を語り合おうと、忍び込んだ眠り姫の寝室で、俺の三倍はありそうな肥満体を目にした時は愕然としたものだ。 所変われば品変わるとも言うが、美人の基準もこれほどまでに相違を伴うものかとね。 あの時は目的を見失うは、見張りの兵士に見つかるわで散々な目に……」

「海の藻屑になりたくないのなら、その口を閉じなさい」

 ミルフィーナは、無駄口をたたくエドゥアルトを不機嫌に一喝する。 その表情は、騎士の気高き忠心を邪な煩悩と一緒くたにされて心外だと如実に物語っていた。

「この男の戯言は無視して結構ですが、神剣アンネシュティフの在処は、絶海の孤島だと聞いております。 これはシャルロットさまの身の保全にも関わる大事故、その島に関しての詳細をお教え頂きたい」

 殊更、「シャルロットの為」だと強調するのは、エドゥアルトとは違い、興味本位で訊ねているわけではないと主張したいのだろう。

「うんうん、実は俺もそれを言いたかった」

 ミルフィーナの心中を知ってか知らずか、エドゥアルトが本能の赴くままに追従する。

「一緒にするな!」

 流石に堪りかねたのかミルフィーナが激昂する。

「なんだ、さっきは賛同してくれたじゃないか」

「誰がそのような世迷言に同ずるものか。 そもそも其方はシャルロットさまにご執心だったのではないのか? 他の女に現を抜かす暇などない筈だ」

「ふむ、ミルフィーナ卿が俺とシャルロット姫の仲をご公認してくださるとは有難―――っと、危ない危ない」

 白光が走る寸前、咄嗟に飛び退いたエドゥアルトだったが、前髪を数本剣風に吹き散らされる。 遅れてふたりが座っていた椅子が派手な音を立てて床に転がる。

「そこに直れ、我が剣の錆びにしてくれる!」

 抜刀したミルフィーナが両肩をわなわなと震わせて、エドゥアルトの胸元に長剣の切っ先を突きつけた。 相も変わらずシャルロットのことになると見境を失くすが、当人にその自覚はない。

「眉目麗しい士族の令嬢に言い寄られるのは望むところだが、刃物沙汰は勘弁願いたいな」

「剣を抜け。 無抵抗の者を斬り伏せるわけにはいかぬからな」

 ミルフィーナが、眉を逆立ててエドゥアルトに詰め寄る。 不埒認定された青年は、両手を上げた姿勢で、じりじりと後退りした。
 見兼ねたシーラが間に入ろうとするが、ミルフィーナの剣幕に圧されて速攻で諦める。 ノーラのほうは、ふっくらとした唇から舌先を覗かせて、我関せずといった態度である。

「さっき問答無用で斬りかかってきたではないか」

「くっ……あ、あれは手加減していたから数には入らない」

 痛い所を突かれたミルフィーナが言い淀む。

「そういう問題なのか?」

「う、うるさい。 その二枚舌を三枚におろし―――って……待て、決闘に応じないつもりか!?」

「生憎、美人に向ける剣は持ち合わせていないものでね」

 逃げ出したエドゥアルトを追いかけて、ミルフィーナも船室を後にする。

「まったく騒々しい奴らじゃな」

 首人の感慨深い一言に、双子の守護騎士がしみじみと頷いていた。





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