不破雷導

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Apr 20, 2005
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テーマ: 小説(12)
カテゴリ: 小説
 2001年 8月18日土曜日 雨

 いよいよ明日だ。このように、一日の終わりに、日記をつけるようになってから、ちょうど1年になった。私は、明日、死ぬ。
 何故死ぬのか、どうやって死ぬのか、わからない。でも、明日、死ぬということだけは、知っている。自殺する訳ではない。いや、しないと思う。少なくとも今、自殺する意思は、無い。
 何故、明日、死ぬのだろう? わからない。まだ小さい頃、無責任な占い師が予言したのか、はたまた、夢枕に立った神が告げたのか、それとも、祖父か誰かの遺言なのか、全然覚えていない。
 『2001年8月19日の日曜日に、おまえは死ぬ』。いつの頃からか、その言葉が私の耳にこびりついている。私が知っているのは、それだけだ。
 去年の8月19日、いよいよあと1年となって、この日記をつけ始めた。何か残しておきたいと思って。遺言も書いたが、私が死ぬ前に、死ぬことを知っていた、ということを残しておきたいのだ。
 2001年。学生の頃は、まだまだ先の未来だと思っていた。21世紀。20世紀の私には、20世紀が、生きる世紀だった。
 しかし、私にはさしたる夢も希望も無かった。死ぬ日がわかっていたからではない。なりたい職業も、したい仕事も、私には無かった。特異なほど平凡に、学生時代を過ごし、普通のサラリーマンになった。
 平凡に、ときには楽しく、過ごせればよかった。しかし、彼女はできなかった。寂しくなかった、と言えばウソになるかも知れないが、仲間たちと、飲み、遊ぶ。それで十分だった。結婚なんて、しない。できないと思っていた。

 愛する美佳と、由香、拓哉、梨花たちと、これ以上一緒にいられないのは悲しいが、それは私には最初からわかっていたことだ。十分な愛情と、思い出を、残してやれただろうか。
 明日死ぬことは、私の他には、誰も知らない。両親や美佳さえも。学生時代、親しい友人に、話したことがあるが、誰も信じる訳がなかった。誰も信じなかった。
 もちろん、会社にも、何も言ってない。密かに、私なりに、仕事のけじめはつけた。あとは、中村たちが、何とかしてくれるだろう。
 美佳にも、言わなかったことは、許して欲しい。この日のために、少し多めにかけておいた生命保険と、どうせ払わないのだからと、ちょっと無理してローンを組んで買ったこの家で、子ども達と、平和に暮らして欲しい。預金もある。私が死ぬことにより、家と、お金だけは、十分に残してやれる。一生お金に困ることは無いだろう。
 死ぬのがわかっていたからといって、保険金が下りないなんてことはないだろうか? まさかね。
 美佳も、まだ若いのだから、他の誰かと結婚しても構わない。しっかり者だから、変な男にだまされることもないだろう。でも、わかっていると思うが、由香、拓哉、梨花の幸せも、考えて欲しい。なんだか勝手な願いだとも思うが。
 もっとパニックに陥るんじゃないかと思っていたが、自分でも意外なほど落ち着いている。事実は事実として、受け入れるしかないと思っているのだろうか。
 もう、眠くなってきたので、寝ることにしよう。明日の朝、そのまま目覚めないのかも知れないが。
 おやすみ。美佳、由香、拓哉、梨花、ありがとう。幸せだったよ。


 ---


 2001年 8月20日月曜日 曇




 ---


 この男はその後、一念発起して事業を起こし、見事成功。しかし、絶頂期
を迎えた、2007年8月19日の日曜日、飛行機事故で死んだ。

 皆さんも、『イチ』と『シチ』の聞き間違いにご注意を。


(2001年8月)





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Last updated  Apr 21, 2005 11:06:42 AM
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