いろいろ日記

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「ねじまき鳥クロニクル」笠原メイに関して




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「ねじまき鳥クロニクル」・・・・笠原メイについての雑感

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 笠原メイの物語と「僕」=岡田トオルの物語は、実はほとんど同時進行していく同質の物語だと、あたしは思う。

 笠原メイは、ごく普通の女子高生だった。家族に自分の気持ちを暖かく汲み取ってもらったことがなく、常に心に満たされないものを抱えていたとしても、ごく普通に高校生活を送り、ごく普通に大人となり、なんとか世の中でやっていけるだけのエネルギーを持っている女の子だ。ただ、欠乏感を抱えて育ってきた思春期の人間の常として、時々暗い死の衝動が沸き起こってくることがあり、それをちよっともてあましているところがあった。
 彼女は、その衝動に駆られて、男友達とバイクに乗っているときに、運転している彼の目をふさぐ、という冒険を度々冒すのだが、不運にもある日、バイクはそれが元で事故を起こし、男友達は死に、彼女も顔に傷を負ってしまう。それで彼女は突然、ものすごい重荷を自分の人生に背負い込むことになった。そんな取り返しがつかないような痛手を負った彼女に、どんな人生が残されているのか。いったい人間はそのような痛手から生き生きとした人生を自分の手に本当にとりもどすことができるものなのだろうか。
 このような場合考えられる一番ありそうな道は、生き延びるために自分の感受性を限りなく鈍くしていくことだ。なにも感じなくしてしまうことで、自分を護るということ。そうすると、その人は一見ちょっとやそっとのことでは心が傷つかなくなったようにみえる。ただし、そうした場合、心の奥の柔らかい部分を徹底的に傷つけてしまうことになるのだが。(でも、それを「痛い」と感じることがもうできなくなっていると、気がつかないままで済んでしまったりする。そうなると、もう、取り返しがつかない。)また、自分の痛みに鈍感になることは、人の痛みに鈍感になることに直結する。彼女は、井戸に降りる縄梯子を隠すことで「僕」を井戸の底に閉じ込めたまま見殺しにすることを、心の痛みもなく夢想したりするのだ。
 実は「僕」を閉じ込めた彼女自身の心も、そのとき自分の井戸の一番深いところにうずくまって動けないでいる状態にあったわけだ。笠原メイの、もともとかじかみがちだった柔らかな心は、この事故の痛手で、さらに貶められ、閉じ込められて、窒息寸前になってしまっている。そして、そこは自分以外の誰にも助けられない場所なのだ。笠原メイが感じていたはずのものすごい孤独感は、ノモンハンの井戸の底で間宮中尉が感じたものと同じぐらいの切実さであたしの胸に迫ってくる。
 クミコをとりもどす闘いを始めた「僕」に、笠原メイは言う。「私はそういうあなたを見ているとときどきキツくなるの。・・だってあなたにはぜんぜん勝ち目がなさそうに見えるんだもの。」これは、笠原メイ自身の闘いにもあてはまる言葉だ。彼女は一見シニカルでクールだが、でも、内面ではほとんど勝ち目のない、キツい闘いが、もう始まってしまっていたようなのだ。「僕」とほとんど同時進行で。  

 「僕」と笠原メイは、同志として結ばれていると思う。お互い、決して相手を手助けすることはできないが、井戸で闘っているのは自分だけじゃない、という思いで励まされている。人は肝心のところではこの程度しかほかの人を援助できないんじゃないかとあたしは思う。でも、これは、じゅうぶん人を支える力となるはずだ、と、あたしは信じたい気持ちがある。

 笠原メイの闘いの首尾は?
彼女は、いまのところよくやっていると思う。自分や他人を傷つけてもなんとも思わないような「ぐしゃぐしゃした」要素を自分の中から遠ざけ、地道な生活の場をみつけて、一市井人としてまっとうに生きている。「アヒルのヒトたち」に寄せる温かい視線からも、彼女が自分の奥の柔らかな心をたもっていることがわかる。でも、この闘いが笠原メイにとって、現在進行形のキツい闘いであることに変わりはない。柔らかな心を持って生きる限り、彼女は男友達の死に苦しみ続けることだろう。「ぐしゃぐしゃした」要素は、また、彼女を脅かすかもしれない。でも、がんばれ、笠原メイ!あたしは、「僕」同様、祈らずにはいられない。「君が何かにしっかりと守られることを祈っている。」と。



 ここで、あたしはハタと思う。「綿谷ノボル」も、「クミコ」同様、「僕」の心の要素の1部なのではないか、と。「僕」は、自分の柔らかな感受性を護るために自分の中の「綿谷ノボル」を叩き潰したのだ、と。

 勿論、「僕」の物語を、すべて自分探しのメタファーとし読み解いてしまうのは、つまらないことだし、物語の冒涜だと思う。ただ、このようにも読めてしまうふかい奥行きをこの物語自体が持っているのだと思う。これだけ書いても、あたしの心はこの物語から離れていかないようなのだ。まいったな~。

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