丸ゴリ婦人の新婚劇場

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裕が見た夢




いつものように週の始まりがきて、
何事もなく1日を終えて夜を迎えた私のケータイに、裕からメールが届いた。


週末には裕が私の地元へ来るものと思い込んで
ひとりで浮き足立っていた私には、この言葉がひどく虚しいものに響いた。

仕事。 どうしても休むわけには行かない。
わかってる。わかっているよ、私ももう社会人になったんだし。


「そっか・・じゃあ仕方ないね、私も仕事頑張るよ!」

足並みを揃えるように返事をしたものの、
毎週逢瀬を重ねていた私にとって、2週間という期間は
まるでフルマラソンのコースみたいに長く苦しいものだった。

ゴールはあると知っているし、ちゃんと終わりがあるとわかっている。
ゴール地点を想像することもできるし、その場所まであとどれくらいかもわかる。

だけどなかなか進んでいかない。1日がこれでもかと言うほどに長く感じた。



ようやく2週間が経って、裕に会えた日。
例の如く夜から居酒屋へ行って、ビジネスホテルへと流れる。

“2週間、すごく長かったよ。ずっと会いたかったよ”

私はその言葉をいつ言おう、いつ言おうかと考えていた。
そして当然、そのセリフの返答で
“おれもだよ”と返してくれることを期待していた。


私はなんとなくカーテンの隙間から、外を見た。
小雨に、街の明かりが淡く滲んでいた。


「・・2週間、長かったね。」私はその続きまでは言わず、言葉を切った。


裕はイスに掛けてタバコをふかしていた。

「せやな。・・・けど、おれこういうのに早く慣れたい。」


「慣れる・・?」

期待していたこととは全く正反対の展開に私は返す言葉を探した。



「仕事してる間さ、考えたくないねん。ゴリのこととか。
 まだあと何日もある、とか考えるのイヤで。

 だから、会えない期間が長いとか、早く慣れたい。」


慣れたら。会えないことにも慣れてしまったら。

それは会えなくても平気になってしまうことなのかな。
だんだん、会いたいとも思わなくなってしまうのかな。

そんなのいやだよ。


「そっか…私は、少し淋しかったな・・。」

細く笑って、裕の方を見た。裕はとくべつ変わった様子も無く、
タバコを灰皿に押し付けていた。


「せやから。慣れれば、淋しいとか思わなくて済むやん。」

裕は自分の持論に自信を持っているようだった。


淋しさは、慣れじゃなくて麻痺に近いと思う。消えることはなくて
消えるときっていうのは、相手に対しての感情がなくなったとき。

なんどなく、意識の違いを淋しく思いながらも、それを口にすることはなかった。


「・・・そういえばな、ゴリの夢見た。」

そう言った裕の顔が、思っていたより笑っていなくて、少しだけ不安になった。

何日か前にも、裕は私の夢を見たよ、と電話をくれたことがあった。
その時の内容は、

「私が浮気をしている現場を目撃してしまい、立ち尽くした」というものだったらしい。

私は浮気なんてしてるはずないでしょー!と半分怒ってしまったけど、
そんな夢を見てしまうということは、もしかして
裕は私に何かしらの不安を抱いていたことの象徴だったのかもしれない。

そのこと思い出して、夢の内容を知るのが少し怖くなった。

「・・・また、浮気してる夢見たの~?」
私はわざとふざけたように笑いながら聞いてみた。


「いや、浮気してる夢じゃないねんけどな。・・・」

独り言みたいに答えた彼の表情は、相変わらず無表情なものだった。


怖い。続きが途切れるのはどうして。怖い。

裕はまた、何か不謹慎な夢を見たんだ。
そしてそれを、その夢の内容を、重く受け止めてしまってる。

夢なんて、ただの夢だよ!そう笑い飛ばせる空気じゃなかった。
「また、悪夢・・?」

さすがにトーンの落ちた私の声に気が付いて、
「まぁ・・良い夢ではなかったけどな!そのうち話すよ。」と弱く笑った。


その時の裕の、悲しいような笑顔はまだ私の記憶に残っている。
「そのうち話すよ」と笑った顔、あれは裕の優しさに違いなかったんだ。


だけど結局、私がその夢の話を聞くことはなかった。




ベッドにごろんと寝転ぶと「明日は、ゴリの町行くんだよな~」


私は窓の近くに立ったまま「何もない田舎町だよ」と笑った。


「おれな、明日ピアス買いたいねん。ゴリの町で買いたいねん♪」


「ピアスなんて、うちの町じゃジャスコくらいだよ売ってるの・・笑」


「ジャスコ産じゃおもしろくないなぁ~・・どこでも売ってる。。」


右耳だったか左耳だったか、裕はピアスを開けていた。

一緒にいた時は、どっちの耳か覚えていたんだけど。
時間が緩やかに記憶を薄め始めている。

でも、たしか左耳だ。右手を繋いで歩くとき、
見上げた裕の耳たぶに、ピアスを見たことがあった気がする。


ピアスか。。。
自分の耳たぶを触れると、穴の名残がある。
高校生時代、開けたピアス。右に3つ、左に2つ。

奇数が良いんだって!と聞いて、いつの間にか数が増えてった。
ピアス穴にあわせて、ピアスもたくさん買った。

だけど学生を卒業したら、まったく使うことが無くなった。

そういうことを考えると、裕のほうがオシャレっ気があったのかもしれない。


プレゼントした指輪をずっと付けていてくれたことや
ピアスを欲しがってたこと
アゴにだけ生やしたヒゲ、

「かしこそうに見えるから」と言ってかけていた黒縁メガネ。

ほんの数センチだけ切っただけなのに「オレ髪の毛切ったの、気付かない?」
と女の子みたいに聞いてきたこと。(気付かなかった)


全ては忽然と消え去ってしまったけど、今思い出しても愛しい。

明日はどこを案内しようか、どこへ連れて行こうか考えていたけれど、
額にあてた裕の首の温度にいつものように優しく眠気を誘われてしまった。

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