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「なんとか撒いたみたいだな」
 今、二人は入り組んだ道にあった家の中に隠れていた。
 もちろんその家もボロボロだ。
 その中のちょうど窓の下に壁を背にして二人は床に座っている。
 カレノの方は応急手当をしている。
 まあ傷は浅いのだが、一応念のためである。
「これからどうします?思ってみれば荷物全てアノ場所に置いたままですし」
「そうだな・・・・いっそのことあいつらのすか?」
 ユウキのその言葉を聞いて怪訝な顔をするカレノ。
「無理ですよ。わたし一人であんな方達二人を相手にするなんて」
「何であたしを頭数に入れないんだよ」
「あなたはあの方達のどちらかと対等以上に渡り合えますか?」
「それは・・・無理だけどさ」
 目に見えてわかるように落胆する。
「でしょう。まあ『殺す』と言うのでしたら話は早いですけれど」
「それはダメだ!」
「分かっていますよ。私だって殺したくなんてないのですから」
 別に本気ではないという事がわかるようにカレノは笑って言った。
「あ、ああそうだよな。お前だって人殺しはしたくないよな・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
しばし沈黙が流れる。
先ほどのこともあり、気まずいという事もあったが、それ以前にわざわざこのような状況内で話すこともなかったのだった。
「あのさ・・・」
 それでも何か話していないと落ち着かずユウキが話しかけた。
「なんですか?」
 カレノは先ほどと変わらず笑顔のまま聞き返す。
「そのマントってさ、何でそんなに真っ赤なんだ?」
 カレノが羽織っていたマントを指して言った。
「聞きたいですか?」
「ああ聞きたい」
「では教えてあげましょう。この赤い色は血です。このマントは血を吸ってこんなに真っ赤になったんですよ」
 やはり笑顔のままカレノは言った。
「・・・は、ははは。またそんな冗談言って、全くお前ってやつは―――――」
 そのときカレノの耳に何かの音が聞こえた。
「静かに、足音が」
「ウソッ」
 ユウキは自らの両手で口元を押さえて耳を済ませた。
 微かだがコツン、コツンという小さな足音が聞こえる。
 それはだんだん近づいてきた。
 足音は一人分のようだ。
 その足音は近づいてくる毎に音が大きくなり、ユウキの心臓の鼓動も大きくなっていく。
「誰か、いないのかー?」
 突然コウロウスが言葉を発した。
 それと同時にユウキの心臓が跳ねる。
「・・・ここにもいない、か」
 そう言い残し足音が遠ざかっていく。
 少したつと足音が消え、ユウキが安堵のため息をした。
「びっくりした。まさかちょうどここで足止めてあんな事言ってくるとは思わなかったぜ」
「ええわたしもです。もしかしてばれてしまったのかなーなんて思ってしまいました」
「ほんとだぜ。まったく――――」
 そんなことを言っていると突然二人の姿が何かの影に覆われた。
 最初は雲かと思ったがそれは違った。
 それは人の形をしていたからだ。
 二人は同時に上を向く。
 そこにその本体が足を窓のふちにかけて今にもその手に持った獲物を突き出そうと構えていた。
「見つけたぞ。愚者共め」
 そして突き出した。
 寸でのところで二人は前に飛び、かわす。
 それでもまだコウロウスは迫ってくる。
 その目は完全にユウキを先に獲物としてとらえていた。
「せいっ!」
 なんとか一撃目はギリギリのところで身体を左に反らしてかわした。
 だがすぐに刀身を元の位置に戻し最初と同じ構えの姿勢になる。
「ふん!」
 そしてまたすぐにその切っ先を突き出してきた。
「クソッ」
 次の一撃はかわせないとユウキは頭のどこかで確信して舌打ちした。
 サーベルの切っ先がユウキに迫っている中、カレノが叫んだ。
「切り裂け!!」
 もしかしたらこれであの男を殺してしまうかもしれない、と思ったがユウキを最優先にしてカレノは叫んだのっだった。
 コウロウスのサーベルを持った腕が切り落とされた。
 そしてその腕から血が吹き・・・・・・出さなかった。
「なっ」
 二人は愕然とした。
「ふん、またその不思議な力か。しかし・・・」
 コウロウスは平然と言ってくる。
 そして驚くべきことがもう一度起こったのだ。
 サーベルと共に地に落ちた腕がスーッと消え光の粒になり、コウロウスの腕に戻ってきたのだ。
 生えてきたわけではない、まるで最初からそこにあったかのように出現したのである。
「このコウロウスには効かぬわっ!!」
 言葉と共にコウロウスの拳がユウキを吹き飛ばし、カレノの後ろから虚ろな瞳の男が拳銃を構えた。
 カレノは、後ろの男が発砲するより速くその男を睨み、叫んだ。
「吹き飛べ!!」
 それとほぼ同時に虚ろな瞳の男も発砲したが、その弾丸もろとも吹っ飛んでいき、後ろの家に叩きつけた。
 コウロウスと同じほどのタフさはなく、そのまま気絶したようだった。
 すぐにカレノはコウロウスに向き直った。
 ちょうどコウロウスはサーベルを拾い終わり、カレノに迫ってきていた。
 その横をちらりと見るとユウキは気絶しているようだった。
 コウロウスは勇気を後回しにしたのだろう。
 気絶していて動くことのない敵より、まだ普通に動く敵のほうが脅威になるのは明らかだ。
「爆発!!」
 確実にコウロウスの腹筋部分を吹き飛ばし、肉片が飛んでいった。
 が、それをもう一度確認する前に肉片が光の粒になり、コウロウスの身体の元の位置へ戻っていた。
 着ていた服ごと。
「効かぬと言っただろうに!!」
 手にした刃がカレノに迫る。
 カレノはかわそうとするがその刃は先ほどとまったく同じ位置に、先ほどより深く切り裂いた。
 傷の位置の高さは心臓の位置の高さと同じだった。
 先ほどからコウロウスは確実に心臓を狙っているようだ。
 カレノは痛みを堪え、コウロウスとの間合いを取った。
「三度避けたか、だが次ははずさんぞ」
 コウロウスはサーベルに付いた血を払い落とすと再び構える。
 カレノの腕からは血がたらたらとゆっくり流れていた。
 が、カレノは笑っていた。
「どうした?死ぬと分かって気が狂ったか?」
 不審に思い、コウロウスが聞いた。
「違いますよ。あなたを負かす方法が分かったのですよ」
「倒し方?何を言っている。このコウロウスを負かす方法などあるわけがなかろう」
 さも可笑しいとばかりに笑うコウロウス。
「いいえありますよ。あなたがどういう存在なのか分かれば簡単なことです」
 それでもカレノは笑っていた。
 背筋が凍りつくような笑みだった。
「何の、ことだ?」
 そう言ったコウロウスの顔には微かだが焦りの表情が見えた。
「それは、亡くなったあなたの魂の思念体が何者かの力、いえ、魔力によって実体化した存在」
「でいやぁぁぁぁ!!」
 カレノが言い終わる前にコウロウスが突っ込んできた。
 だがカレノは表情も崩さずに言葉を続ける。
 コウロウスの行動はカレノの予測を確実なものへと変えた。
「誰がやったのかは分かりませんが、それさえ分かれば簡単です」
 なおも接近してくるコウロウス。声を上げながら。
 まるでその声はカレノには叫び声に聞こえた。
(彼の者と共にある魔力を彼の者の魂から)
 そう、頭の中で言葉を発して、
「解き放て」
 冷静な、静かな口調だった。
 一瞬コウロウスの身体が輝き、輝きが収まったと思えば動きが止まっていた。
その身体は足の先から光の粒になって消えていっていた。
「そんな!身体が!!あのお方がくださった身体がぁぁぁぁぁぁ!!!」
 そして叫び声は消えて、コウロウスの身体も消え去った。
 コウロウスが持っていたサーベルを残して。
「なんだよ、これ」
 いつの間にか起き上がっていたユウキが呟いた。
 カレノはコウロウスが言っていた『あのお方』というのが気になったがユウキにことの経緯を説明することを優先したのだった。
 説明する前にちらりと地面に落ちたサーベルを見る。
 サーベルは先ほどと違い錆びついていた。

次回

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